2025/01/28 のログ
エデン-H-プランク >  
「そうよね、それは驚くわよね」

 うんうん、と妖精も同意する。

「突然、自分がもーっと可愛い女の子になってたら、誰だって驚いちゃうわ!」

 その理解は、随分と少女とズレていたが。
 この妖精の場合、それが本気か、わざとなのか測りづらいのが難点だろう。

「――緋月は謙虚ね」

 くすくす、と愛おしそうに妖精は笑う。
 もしそれだけの業を身につけたとして。
 少女は一体、何を、どこまで、斬るのだろうか。
 末恐ろしいとはまさに、少女の道先の事を言えるのかもしれない。

「そうねえ、完全に暴走していたものね。
 最悪、大爆発が起きて島ごと沈んじゃったりとか――は、ないわね。
 この島に限っては」

 ふふ、と不敵に笑う。
 そうなのだ、ここは「常世島」である。
 並大抵の事では、揺らぐことはないのだ。

「あら?
 もしかして緋月は、あの場所に行ったのかしら」

 意外ではない。
 少女には十分にその素質があり、また、同行していた魔術師にも十分すぎるだけの資格があった。
 あの、原初の星の海へと踏み入れるだけの資格が。
 

>  
「その『人』というのは、志鳥(しちょう)の事だね。
 意外だな、彼女の意識は、もう目覚める事はないと思っていたけれど」

 そう言いながら、長身の医師が湯飲みにお茶を入れて持ってくる。
 少女の前に湯飲みを置くと、自分は二人から少し離れて、研究室の椅子に腰かけた。

「志鳥は、エデンや僕の昔馴染みなんだ。
 心身の制御に熟達していて、多くの人が彼女――いや、彼、かな。
 志鳥から教えを乞おうと訪れたものだよ」

 自分は少し濃いコーヒーを飲みながら、やはり懐かしそうに語った。
 

緋月 >  
「――あの人と話した時、最後にお二人に宛てて、どうか元気で、と伝言を預かっていましたが。
やはり、お知り合いだったのですか。」

妖精さんと白衣の青年の名を出した事で、何らかの形で面識らしいものはあったのだろうと
見当はついてはいたが…当たり、のようである。

「…私が星骸に呑まれて、意識を囚われていた、あの世界。
あそこから「覚める」目途がついた時に、引き込まれた…と言えば良いのか。

何処までも続く星の空と、何処までも続くような水平線。
起源の海・夢幻の星海、と、あの人は語っていました。

顔は…分かりませんでした。ずっと、後ろ姿しか見せなかったので。
其処で、「手合わせをしたい」と言われて。
一時的に、あの黒水の龍の身体を使う形で、私が相手になったのです。

その前に、赤い羽根のようなものも貰いましたけど……。」

其処まで言うと、ちょっと呆れた顔。

「――うちの文化人が、「ハンデなんているか」って、握り潰してしまったんです。
全く…あの時使わないでも、此処に持ってくれば悪だくみの材料にはなったかも知れないのに…。」

使う気はさらさらなかったのは確かだが、流石に握り潰したのは勿体ないと未練っぽい少女。

と、空気を改め、質問に。

「……あの人は、自分を「序列の十二」と語っていました。
13人の『星を追う夜鷹』…と。

――一体、あの人…いえ、『星を追う夜鷹』とは何なのですか?
それも…「これ」に関わりのある存在なのですか?」

そっと、星核が収められた箱を軽く持ち上げ、問いかける。

エデン-H-プランク >  
「まあ志鳥ったら、そういうのは、自分の口で伝えるものよ?」

 そう言いながら、白い指先が青い結晶に触れる――ように見えるだけ。
 実際は触れ合う事はなく、通り抜けるばかり。

 少女の話を聞いて、妖精はおかしそうに笑いだす。

「ああ――もう。
 そうね、確かにあの魔術師さんならそう言いそうだわ。
 それに、志鳥らしい話」

 まったくもう、と呆れたように言ってみせるが。
 その声に滲む親しみは隠せてはいない。
 そんな調子のまま、少女の問いに妖精は自信満々に、それこそどこか誇らしげに答える。

「星を追う13人――それは、私たちが確かにこの世界にいた証。
 『星を追う夜鷹』は、叶わない夢のために集まった、たった13人の反逆者たちの事。
 拳と刃を天へと振りかざした、理不尽に、不条理に抗う意志」

 そう答えた時の、妖精の瞳には。
 間違いなく力強い輝きが灯っていた。

「星核と関係があるか、と言われたら、そうね」

 けれど、その後に続く言葉には。

「星骸と星核。
 それらは、私たちが創り出してしまったものよ」

 紛れもない後悔と、深い悲しみが滲んでいた。
 

緋月 >  
「うちの文化人も、同じ事を言ってました。
伝えられるかどうかが分からないので、代役ですみません。」

お人好しが出て来てしまう少女であった。
結局こうして、メッセンジャーをしっかり務めている。

妖精さんの語る言葉には、無言で耳を傾ける。
まるで、大事な過去を語るような、力強い輝きを放つ瞳と、言葉。
そして、続く言葉に感じられる、深い後悔と悲しみの響き。

「……これと、あの黒水を、作り出してしまった、ですか…?」

手の中の箱に収まる、二つの星核。
そして、この場にはないが、あの巨龍を形作っていた黒い水。
――よく考えれば、その存在の作られ方は聞いた事があっても、その「大元(ルーツ)」までは知らない。

「……話したくない、と言うなら、無理には訊ねませんが。」

少し卑怯な聞き方だ、と自分でも思う。
それでも、話したい事があるならば、聞く準備はあると。
星を追う13人の反逆者達、そして星核と星骸の始まりについて。

無論、話したくない――あるいは、話すべき時ではないなら、深くは訊ねないが。

エデン-H-プランク >  
「もうっ、緋月ってばほんとにいい子なんだから」

 抱き着く様に、立体映像が動いて、少女を抱きしめるように動く。
 そして、少女の頭を撫でて、嬉しそうに笑っていた。
 触れ合う事は出来なくとも、その真似事ならできる、と。

「いいのよ、緋月には知る権利があるもの。
 ただ、今からすれば随分と昔の事。
 13人の夜鷹が集まったのは、大変容の頃――大戦の最中まで遡らないといけないわね」

 少女を抱いたまま、その肩に頭を乗せるようにして、妖精はすでに半世紀以上も昔の話を始める。

「このお話は、世界で一番の美少女と、素直じゃなくて可愛らしい科学者が、大戦の中を旅する所から始まるの。
 美少女の名前は、エデン。
 そして科学者の名前は――メビウス。
 私たちは戦友で、ええ、きっと、親友だったの」

 そうして、大きな大戦の影に隠れた。
 小さな反抗の話が語られるのだった。
 

ご案内:「医療施設群 医療研究施設」からエデン-H-プランクさんが去りました。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」から緋月さんが去りました。