2025/02/01 のログ
ご案内:「医療施設群 医療研究施設 〇ロ号処置室」にエデン-H-プランクさんが現れました。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設 〇ロ号処置室」に緋月さんが現れました。
■エデン-H-プランク >
「――初めてメビウスと出会ったのは、大変容が起こる、そうねえ。
10年――うーん、もうちょっと前だったかしら?
まあ細かい事はいいわね」
形の整った顎先に指を当てて、懐かしむように古い記憶を思い出す。
その頃は、妖精よりもずっと小さく、幼い少女だった親友の姿。
「私のコンサートに遊びに来ていたのよ。
それで、私がアンコールの連続を抜け出して、ホールの屋上に行ったら、屋上の縁に座ってる女の子がいたの」
その少女に声を掛けたのが、全ての始まりだった。
「その子に声を掛けてね、『コンサート、面白くなかったかしら?』って訊いたら、なんて答えたと思う?」
くすくすと笑いながら、投影された、見た目だけのティーカップを口に運ぶ。
「あ、緋月は音楽って好きかしら?
あなたのパートナーさんも音楽家でしょう。
あなたから見て、彼女の音楽はどんな風に聞こえてるのかしら」
妖精はそう、二つ続けて問いかけてみた。
■緋月 >
「大変容……確か、此処での数十年以上前の、出来事でしたか。」
異邦人である少女。
それでも、学習についてはしっかりとしていた。勿論、授業で大変容についても学んでいる。
それは…文字通り世界を大きく変容させる出来事だった、と。
「……さっぱり想像がつきません。
音楽にまともに触れたのは、「こちら」に来てからの事ですし。」
「あのひと」の音楽について訊ねられれば、また少し悩むように軽く首を傾げる。
音楽というものについての言語化は、まだまだ大変なようだ。
「……本当に、音楽について触れている時間が長くないので、私の主観が多分に入りますけど。
あのひとの音楽は――敢えて言うなら、「魂の叫び」でしょうか。
妥協のない、声にならない叫びを、音と言葉に訳したもの。
こう言っては何ですが…私が「何かを斬る」事に向ける執念と、方向性は兎も角、何処か似ている所はあるかな、と。」
■エデン-H-プランク >
「『魂の叫び』――素敵ね。
とても情熱的な音なのかしら。
はーあ、私も彼女と音楽を共有できるくらい、仲良くなれる時間があったらよかったのに」
少女の返答を聞いて、大げさなくらい残念そうにテーブルへと突っ伏した。
そしてそのまま、少女を横目で見上げつつ微笑む。
「ふふ、それがね、酷いのよ?
『退屈でつまらなくて死にそうだったわ』、だもの!
でも、その時は私も同じ気持ちだったの。
とっても退屈で、面白くない時間だったわ」
今はもう存在しなくなったコンサートホール。
その屋上で、奏者と観客は同じ気持ちを共有したのだ。
「だからこう言ったの、『あら、私たちってとっても気が合いそうね!』って。
その日は、貴賓の招待客ばかりで、決まったリクエストをお上品にこなさなくちゃいけなかったの。
だからとっても面白くなかった――私にとっての音楽は、そんな決められたものじゃないんだもの。
それを、メビウスには見抜かれていたのね」
奏者である妖精の演奏に、気持ちが籠っていなかった事を。
「それじゃあまたクイズね。
あなたのパートナーにとっての音楽が、『魂の叫び』なのだとしたら、私にとっての音楽は、一体なにを表現するものだったでしょう?
ヒントは――そうねえ、私は、楽しい事、面白い事が大好きなの」
わかるかしら? と、楽しそうに。
■緋月 >
「あのひとは…何と言うか、難しい人ですからね。
合わない人とは徹底して合わないと思う…というよりは、関わり自体を避ける、の方が近いですかね。」
難しい相手だと思っているのは書生服姿の少女もある意味同じ。
実際、それもあって一度は凄い言い合いになった事もある。
お互い困ったものだとかつてを思い返しながら、妖精さんの質問に再び首を傾げる事に。
「また難しい質問を投げかけて来ますね…。
楽しい事、面白い事が大好きで、音楽に表現するモノ……。」
うむむ、と首を傾げる事しばし。
「……声に出せない声。心の底の欲望、ですか?」
これでも相当悩んで出した答えなのであった。
その証拠に眉の間に皺の跡が少し残っている。
■エデン-H-プランク >
「難しい、のかしら。
それが分かるくらい、お話しする時間がなかったのが寂しいわ」
星核がこうしてここにあり、星骸も集まり。
妖精が現世に現れていられる時間も、残り少ない。
期待を持たせてしまうから口にしないものの、少女の『先生』は、もうじき目を覚ますはずなのだ。
「――あら!
ふぅん、緋月には私がそんなふうに見えてるのね。
ふふっ、ちょっと意外だったわ」
そう言って身体を起こすと、面白そうに笑って、自分の唇に指先を当てる。
流し目を少女に向ける妖精は、悪戯を思いついた子供のようでもあった。
「そうねえ、そうかも。
私ってとーっても欲深い女なのかもしれないわ。
緋月の事を、こーんなに悩ませちゃうんだもの、ね?」
そう言ってシワの寄った少女の眉間に、投影の指先が触れるように掠めた。
■緋月 >
「肝心な所を言葉にしない人ですから。
私は言葉の裏を読んだりするのが得意じゃないのに……。」
ふぅ、と眉間に皺が寄っている事を、妖精さんの仕草で自覚して息一つ。
そうして、軽く眉間に指を当てたらほぐしほぐし。
「…何だか煙に巻かれてる気がします。
早く正解……じゃありませんでした。お話、脇道に逸れてません?」
流石にそのあたりは読めるようになってきた少女である。
軽く話が脇道に逸れてはいないか、釘刺し。
「せっつく訳じゃありませんけど、肝心のお話の筋が脇道に逸れたまま、迷子になったら困りますから。」
単に心配なのは、話題が逸れ切って迷子にならないか。
本筋に戻る余裕があるなら、問題なく耳を傾ける余裕位は持っている少女なのであった。
■エデン-H-プランク >
「まあ、緋月ったら、いつの間にそんな大人になっちゃったの!
でもそうね、ちょっと昔話が楽しくなっちゃったわ」
そう言って、ちろり、と小さく舌を出して子供のように笑った。
「私にとっての音楽は、『自由の幸福』を表現する物なの。
どこまでも自由に、思うままに、私の幸せを余すところなく表すもの。
だから、その時のメビウスには、私の演奏がつまらなく聞こえたのでしょうね」
そう片手を胸に、片手を正面に伸びやかに広げて、演奏している時の楽しさを思い出す。
そうして、自由奔放な自分らしさをありったけ詰め込んだのが、妖精の音楽だった。
「それが、私とメビウスの出会い。
最初と二人目の夜鷹が出会った夜。
満天の星空の下で、私が親友と出会った夜なの」
そう言って改めて少女へと向き直って、その白い指を、少女の視線を誘導するように、真っすぐ上に。
研究室の天井を、更にその向こうを指で示した。
「『わたしは星空が嫌いよ』、その日、彼女は私にそう言ったわ。
私は、『あんなに綺麗なのに、どうして?』って訊いたの。
ねえ、緋月は満天の星空を見て、見上げて、どんな気持ちになる?」
それはこれまでの問いとは異なり、どこか試すような、それでいて期待するような問いかけだった。
■緋月 >
「自由である事、その幸福の表現、ですか…。」
少し噛み締めるように、「解答」を復唱する書生服姿の少女。
自由とは何なのか。そう訊かれると困ってはしまうが…昔より、今の方が自由だと思うのは、間違っていないと思う。
郷にいた時よりは――ずっと、自由であったと。
「それが籠らぬ演奏をを聴いただけで「つまらない」と思うというのは……
何と言えばいいのか、そう…感性が人並み外れて鋭い、という印象ですね。」
一聴しただけでそれを「死にそうな程退屈でつまらない」と切り捨てられるというのは、
ある種の才能に近いものさえ感じられる鋭さだろう。
そして、またまたの質問。
とはいえ、少女も余裕はあるので素直に答える。
「――少し前だったら、今日も星がよく見える、位にしか感じなかった…と思います。
今は……涯てがない、何処まで続くのかが分からない、だからこそ――
手を伸ばし続ける甲斐のある光景に、思えるように。」
天を彩る星の海。それが、何処まで続くか分からない。どれだけの底…あるいは高みがあるのかも分からない。
だが、だからこそ。極みなどないと、思い知らせてくれるように思える。
今はもう…涯ての見えない高みを、恐れる事はなくなった。
■エデン-H-プランク >
「ふふ、そうよ、彼女はとっても鋭かったの。
あまりに鋭くて、なんでも見透かしてしまう様な瞳を向けるのよ。
だから、大人でも蛇に睨まれたみたいに、たじたじになっちゃうの」
そんな幼い、畏れ知らずの天才を、誰もが恐れていた。
そんな子供が、初めて心を開いたのが、この自由奔放で博愛主義の妖精だったのだ。
「果てがないからこそ、手を伸ばし続ける――うん、とても素敵よ、緋月」
その答えに、嬉しそうな笑みを返す。
そして。
「『空に浮かぶすべての星が、恐ろしい敵に見えるのよ』。
『あの星一つと比べても、私たち人間は、みんなちっぽけで塵のような存在だわ』。
『たとえあの星の一つでも落ちてきたら、人間を滅ぼせてしまうに違いないわ』」
少し幼げな声で、かつ、明らかな敵意を込めて、妖精は当時聞いた答えを口にする。
「その日から、私はメビウスを連れて、世界中を旅したわ。
それがきっと、『夜鷹』の始まり。
『星を追う夜鷹』は、本物の星々と闘うために生れたの。
そう、大変容の前までは、そうだったわ」
全てを変えたのは、大変容。
手が届くかも分からない星々どころではなく――現実の脅威として、恐るべき存在が世界を揺るがした。
「私とメビウスは、変貌を迎える世界の中で、旅を続けたわ。
そして、空の星々よりも恐ろしい存在をいくつも目にしたの。
そしていつからか、メビウスは、そんな存在を『星』と呼び始めた。
メビウスの敵は、その頃から、空の上でなく、手の届く現実的な脅威に変わって行ったの」
方舟に置いて『星』と呼ばれる超常存在たち。
その呼称、そして『星』との闘いは、第三次大戦へと歴史の影で繋がっていったのだ。
■緋月 >
「それは――――」
妖精さんから語られた言葉に、思わず言葉を失う。
空に浮かぶ星々全てが、敵に見える。
そう見える者には――星の海は、得体の知れぬ坩堝に思えてしまうだろう。
「……天の光は、総て敵…。」
敢えて形容するなら、その言葉が最も適切。
敵意を感じる妖精さんの言葉から、本当に彼女たちが「それ」を敵として見ている事を
感じ取ってしまう。感じ取らざるを、得なかった。
「……大変容は、そんな所にまで影響を及ぼしていたんですか。」
学習する事のなかった、恐らくは教師も知らぬ歴史の話。
手の届かぬ未知の『星』は、現実に目の前に現れる『星』へと変容した。
そうして、それに立ち向かう為に、「夜鷹」もまた変容した…と言えるのかも知れない。
「……解答を急ぐようですみませんが、星核や星骸の起こりは…其処から、という事ですか…?」
思わず、手にした箱の中の星核に目を落としてしまう。
無論、総てがそうとは言わない。
事実として、あの星の海で出会った「誰か」は――己を『星を追う夜鷹』だと語っていた。
だが、少なくとも…始まりは、其処であったのでは、という程度の予想は、少女にもつけられるものだ。
■エデン-H-プランク >
「うーん、そうね、『星を追う夜鷹』の始まりは、そこからだったと言っていいのかも。
ただ、私たちが『方舟』に乗るのは、もう少し後の話。
――大戦の中、私とメビウスはたくさんの人や組織に出逢ったわ。
その中には、メビウスの考えに同調する人も多くいた。
その中でメビウスの目的を遂げるのに適していたのが『方舟』で、それから『星』と闘うための研究が始まったの」
それは必然だったのかもしれない。
人類を恐るべき存在から守るために組織された『方舟』と、超常の存在、その全てを敵だと睨んだメビウスの邂逅。
しかしそれは、一つの偶然からメビウスの目指したものと変わっていく。
「ねえ緋月。
そうして、もし本当に『星』を倒せてしまって――その亡骸を研究するうちに、『星』を確実に砕ける方法を見つけてしまったら。
人は、それを使わずにいられるのかしら」
星の亡骸――最初の『星骸』。
そこから、ある性質が発見されてしまった。
特定の方法で『星骸』を加工する事で、『星』の存在を破綻させ、崩壊させてしまえる事。
それこそが『黒杭』と呼ばれる事になる、人類の敵意が形となった兵器の誕生だった。