2025/04/30 のログ
ご案内:「医療施設群 医療研究施設 〇ロ号処置室」に❖❖❖さんが現れました。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設 〇ロ号処置室」に緋月さんが現れました。
❖❖❖ >  
 医療研究施設の一角では、ある人物の肉体と精神の再生実験が行われていた。
 しかし、それも一つ決着が付き、あとは患者となる女の意識がいつ戻るかを待つばかりと言った所。

 そんな折、一人の少女の元に、『必要な施術は終わりましたから、いつでもお見舞いに来ていいですよ』との連絡が入る。

 少女が訪れる扉は隔壁のように大きく重たいが、少女の情報が認証されると、重さを感じさせないように速やかに扉は開かれるだろう。

 そんな、開かれた先の研究室は先日までとは随分と様相が違い、大きな白いベッドを中心として、沢山の点滴や、各種大小の計器、それらが小さな音を立てて稼働している。
 それらのケーブルやチューブは非常に長く、床に余っているくらいの長さだが。
 本来それに繋がれていないといけない人物の姿はなく――。

 いや、ケーブルの先を追えば、大きな計器の影から、ふわふわとしたウサギの耳のようなものが、ひょっこりと飛び出しているのがすぐに見つかるのだが。
 

緋月 >  
以前に此処を訪れてから、凡そ1ヶ月。
ひと月前に此処を訪れ、任された作業は体力と気力を大変に消耗するものであった。
何しろ、人一人の骨格をほぼ丸々作ろうというのである。
当然ながら一日そこらで終わる筈もなく、数日は作業の為に滞在した記憶があった。

そうして、自分達に出来る事が終われば、後は帰って日々の生活を送りつつ、報せを待つばかり。
自身が行った作業に問題点があるとは、思っていない。
与えられた練習期間を使える限り使い、磨いた腕と得た知識で、出来る限り最高の仕上がりにしたつもりだ。
だが、その作業の結果については…やはり、全ての作業が完了せねば、分からない。

僅かな心配を心の片隅に残しつつ、普段の日々を送っていた少女に送られてきたのは、見舞い許可の連絡。

心の準備を済ませ、勝手知ったる医療研究施設に向かい――認証を通して開かれた扉を潜る。

「お邪魔します――――。」

と、部屋に入っては見たものの、直ぐにおかしな事に気が付く。

「……?」

白く、大きなベッドの上に寝ていないといけない筈の人物の姿がない。
少し緊張が走るが……よく見れば線や管がある方向に向かっている。
その後を目で追えば……。

「……えぇ…。」

思わず困惑の声。
流石に少女もウサギの耳は知っている。
問題は何故、そのようなものが隠れるような大きな機械の影からはみ出しているのか。

「………見えてますよ。」

取り合えず、計器の影に隠れている誰かに向かってそう声をかける事にした。

❖❖❖ >  
 やってきた少女の足音や、声がするたびに、ふわふわした耳はぴくぴくと反応していますね?
 そして、見えてると言われると、びくーん! と耳がピーンと立ちました。

 そのまま、そろそろ~、っと耳も計器の後ろに隠れて行っちゃいます。
 そして、数秒、数十秒、数分でしょうか。
 しばらくきまず~い沈黙が流れてから。

「――だ、だぁれ?」

 計器の向こう側から、少し幼げで高い声が聞こえてきます。
 声の雰囲気としては、怯えてる――と言うほどではないものの、不安そうな響きが伝わってくるようです。
 

緋月 >  
「………。」

聞こえて来た声は、高めの…子供、にも聞こえる声。
不安そうな雰囲気が強い。
ふと、過去に此処で白衣の青年から聴いた話を思い出す。

《『彼女』に宿る人格は四つ。目覚めるのは、そのうちの何れか一つになる。》

事実、あの時に現れたのは「先生」ではなく「妖精さん」であった。
一度聞いた話、一度経験した事なので、割と落ち着いていられる。

(さて、どう切り出しましょうか……。)

と、あまり自信の無い事に首を捻り、少しの時間を思考に割いて。
結局、出た結論は素直に話しかける事、であった。

「ええと…その、お見舞いに来ました。緋月です。
――「あなた」とは、「はじめまして」、ですか? それとも、「久しぶり」ですか?」

警戒させないように、普段と変わらぬ調子でそう声をかける。

❖❖❖ >  
 少女の自己紹介が聞こえると、再び、ぴょこん、とウサギの耳が飛び出します。
 そして、興味深そうに、ぴくぴくと、少女の方へと耳が向いていました。

「ひ、づき――?
 えっと、その、『るなちゃん』?」

 おどおど、とした様子の声は、不安よりも好奇心の色が強くなったでしょうか。
 少なくとも、少女の名前はしっかり記憶にあるようですね。
 

緋月 >  
「ああ――――。」

随分と、久しぶりに聴いた気がするそのあだ名。
懐かしさを感じつつ、そちらも話して置けば良かったか、とちょっと反省。

「はい、「あーちゃん先生」にはそう呼ばれていました。
先にお話すれば良かったです。すみません。」

深刻にならない、ちょっと失敗しちゃった程度のテンションでそう声をかける。
ともあれ、人格は分からずとも「記憶」については共有されていそうだ、と思う和服姿の少女だった。

❖❖❖ >  
 ウサギの耳がぴくん、と跳ねて、また計器の後ろに隠れてしまいます。
 けれど、こんどは、大きな計器の横からそろそろ、と耳が出てきて――。

「ほ、ほんとに、るなちゃん?
 き、機械、音痴、だったり、しゅ、宗派、破門され、たり、すぐ痴話げんか、しちゃう、るなちゃん?」

 と、余計な情報ばっかり口にしながら、恐る恐ると言った様子で計器の影から顔を出すのは。
 青みの強い艶のある黒髪。
 童女のように丸く大きな瞳。
 そして、オマケになぜか頭から生えているウサギの耳。
 その瞳はしっとりと潤んでいて、星を映すかのようにきらきらとしていました。
 

緋月 >  
「し、宗派破門……!」

思わずピアノの不協和音が響き渡りそうな表情と雰囲気を晒してしまう和服の少女だった。
まあ実際、黒き御神の教えに背く真似をしてしまった事は弁明のしようがない。
それでも、何処か子供のような雰囲気の少女に恐らくは悪気なく言われてしまうと衝撃が強かった。

「そ、それについては…申し開きのしようもありませんけど……。」

ちょっと声が震えている。

「で、でも機械音痴は少しは治りましたよ!?
覚えて置くと役に立つから、オモイカネのカメラを使えるようにはなりましたし!
痴話喧嘩は…あれはしっかり言葉にしないあのひとが悪いです! …たぶん!」

ショックの抜けてない表情で、あわあわと両手を動かしながら他二つについては必死で弁明。
子供の視点から見ても明らかに慌てているのが分かる。
「痴話喧嘩の原因」の人物が見れば、それこそ大笑いしそうな光景だろう。

そうして慌てながらも確信が得られたことがひとつ。

(まだ「誰か」は分かりませんけど…「先生」の記憶はしっかりと存在する、というか確かめられるみたいですね。)

他にも分からない事は色々とあるけれども。
主に、頭からひょっこり生えているウサギの耳とか。

❖❖❖ >  
「わぁ――!」

 ぱぁ、と。
 童女のようにも見える女の顔が、嬉しそうに明るくなります。
 そして、いくつものケーブルやチューブを引きずりながら、少女の前に姿を現すと。
 患者着の中にそれらの管が重たそうな程に繋がっているのがわかりますが。

 それ以上に、飾りではない様子で、しっかりと頭の上に生えているウサギの耳が気になるかもしれません。
 というか気にならざるをえない――あと、少女の記憶より少々、胸部装甲が豊かになっているようでした。

「ほんとにるなちゃんなのねっ?
 るなちゃん――えへへ、会いたかったのっ!」

 楽しみを待ちわびていた子供のように。
 それら多数の管を、重さを感じさせないようにひずりながら。
 少女の胸に飛び込んでいこうと、たどたどしい脚運びで駆け寄っていくことでしょう。
 

緋月 >  
「と、わわっ…!」

たくさんの線や管を引っ張りながら、子供のような雰囲気の女性が駆け寄って来る。
外れたら何があるか分からないので、ちょっと立ち方を工夫して下半身を安定させ、上手い事キャッチ。

(……こうして見ると、思ったより小さいなぁ…。)

あの作業の際、相方から事前に預かった資料には「先生」の身長はじめ詳しい身体データもあった。
骨格を作る際、其処には最大限注意を払い大きく逸脱しないように作ったので、これは単純に身長の問題だろう。

「びっくりしました…管とか、抜けてないですか?」

抜けたり外れたりしてる線や管はない筈なのだが念の為確認。
会いたかった、と言われれば、少し穏やかな雰囲気に戻って軽く頷く少女。

「――そう言われると、私も嬉しいです。

と、話題が曲がってしまうようで悪いですが…「はじめまして」、で間違っていない…ですか?
それとも、「お久しぶりです」の方が正しかったですか?」

挨拶は大事である。しかも、どの人格なのかがまるで分からない。
不安にさせないよう、穏やかな調子でどっちの挨拶の方が正しいのか、改めて訪ねる少女だった。

緋月 >  
余談であるが、

(………ホントにあの人、「身体」の方を作るのに関わってないんですよね?)

記憶よりも明らかに恵まれた胸囲になっている事に、心の底で知人にあらぬ疑いをかけていた少女だった。

❖❖❖ >  
「ふふっ、大丈夫っ。
 やっぱりるなちゃんは優しいのね、ずっと夢で見ていたのと同じ――ううん、夢で見たより、ずっと温かい」

 童女の如き女は、それこそ子供が甘えるかのように少女へと、シアワセそうに身体を摺り寄せるでしょう。
 それだけ、少女と出会う事を楽しみにしていたのだと、伝わってしまうそうなくらいです。

「あ――え、っと。
 はじめまし、て、なのかしら?
 あのね、あんまりそんな気がしないの。
 きっと、夢の中であなたの事を沢山見ていたから?」

 少女の顔を見上げながら、少女の知る『先生』よりも随分と、無垢で純粋で――どこか幼げな表情は、不思議そうに星々がちりばめられたような、深く青い輝く(・・)瞳で見つめます。
 そしてまた、不安で揺れるように目が泳いでしまいます。

「あの、ごめんなさい。
 きっと、わたしは、あなたの『先生』じゃないの。
 でも――星護有瑠華(ほしのもりあるか)、『あーちゃん』なのは、間違いないのっ!
 ――そ、の、信じて、くれる?」

 と、自分が間違いなく『先生』の一部である事――あるいは、人格が統合された事を伝えようとするものの。
 その様子はどこか、おどおどしており、自信なさげで、少女の知る『先生』とは随分と離れた性格のように感じるでしょう。
 

緋月 >  
「――ああ。」

おどおどとしながら自身の事を語る女性の言葉に、和服姿の少女の感じたものは
落胆でも悲しみでもなく、ましてや失望すら一片もなかった。
ただ、ほんの欠片ばかりの寂しさと――それ以上の安堵。

「その名前は…「先生」から聞いて以来です。
「先生」が、その名前の方とどういう繋がりだったのかも…随分前に、聞いています。

――と、多分これも知っているんですよね?」

昨年の10月も始まってすぐの頃、だったと記憶している。
あそこまで自分の事を知っているのだ、この事も知っているだろう。

「寂しくないといったら…それは、少しだけ嘘になってしまいます。
でも、「先生」と過ごした記憶は、「あなた」も覚えてくれているんです。
残ったモノは、たしかに「此処」にあります。」

そう言いながら、小さく笑顔を浮かべて、まるで夜の星空のような瞳を、血のような瞳が見つめ返す。

「――「おかえりなさい」、「はじめまして」。
もう知っているでしょうけど…緋月と言います。
よろしくお願いします、「あーちゃん」。」

記憶があれども、初見なのは間違いない。
挨拶は、大事なものなのである。

❖❖❖ >  
 少女の安堵したような雰囲気に、とても意外そうな表情を素直に浮かべます。
 けれど、すぐに、嬉しそうに、そして。

「うん、うんっ!
 全部知ってる、ちゃんと覚えてるの。
 『わたし』が、良い事も悪い事も色々したことも、ちゃんと――」

 そう言ってから、有瑠華は少女の手をそっと、少女よりも小さく、童女のような手で包むように握った。

「――ただいま、はじめましてっ。
 最初の『あるか』で、きっと最後の『あるか』です。
 えへへ、よろしくおねがいします、『るなちゃん』っ!」

 やはりその様子はどことなく幼く、けれどそれ以上に純粋で素直で――神を真っすぐに信じていた敬虔な信徒であった頃の、少し人見知りで、怖がりで、でも好奇心いっぱいな。
 そんな、以前とは少し違った子供っぽさは、計算とは無縁の天然モノのようだった。
 

緋月 >  
「はい、よろしくお願いします。」

微笑みながら、改めてそう言葉を交わす。
「最初」と「最後」という言葉には少しばかり引っかかるものを感じたが…今は、他愛もない話をしていたい気持ち。
なので、敢えて流して話題を探す少女だった。
難しい、あるいは真剣な話題はまた時を改めてでもいい。

「――――ええと、それで、なんですが。」

浮かべた笑顔が、ちょっとだけ困った色を帯びる。
その視線は…女性の頭の上に。

「…その頭のそれ、耳…ですよね?
一体、どうしたんですか…?」

外見的に目立つので、どうにも気になってしまう。
自分達が何かミスでもやって、こんなことになったのか、心配になる少女であった。

❖❖❖ >  
「ふぇ?」

 困ったような、戸惑ったような顔で見られると、有瑠華は徐々に顔を赤く染めていく。
 どうやら、自分でもどことなく恥ずかしく思っているらしい。

「あ、あのね、目が覚めたらね、あったの」

 ぎこちなく言う言葉は、ほんとうに有瑠華からしてみればその通りでしかないのだった。
 なにせ、そんなちょっとした悪戯をした、『ピンクの妖精』も、『黒い少女』も今日はいないのです。

「えと、その――か、かわいく、ない?」

 ぺたん、と半ばで折れた耳は不安を表してるのか、本物のウサギよりもよく動くようで。
 見上げる表情は、恥ずかしそうで、顔が真っ赤でした。
 

緋月 >  
「あ、いえ、かわいくないという訳ではないですよ!?」

またもあたふた。
本人も気にしているようなのは、その反応で嫌と言う程分かってしまった。

「かわいいかどうかと訊かれたら…うん、かわいいと思います!
何か、問題があって生えて来た…わけではない、んですよね…。」

うーんうーんと悩みだす。
自分達の仕事は、骨格を作る所まで。
「身体」を作る事は別の人が任されたらしいので、詳しくは分からない。

(……もしかして、エデンあたりがいたずらでもしたんでしょうか。)

「妖精さん」の事を思い返す。
もし彼女がアドバイザーを担当して、身体を作る担当者がその言葉を素直に聞いてしまうタイプだったなら…。

(………やりそうなのが、簡単に思いついてしまいます。)

少しだけ不安を感じた。

「えーっと…まあ、あって困るものでもないとは思いますけど…音も良く聞こえるでしょうし。
それでも恥ずかしいとしたら…何でしょう、消したり出したり出来れば一番いいのかも知れませんけど。」

何気なく、そんな事を提案してみる。

❖❖❖ >  
「――はふ、よ、よかっ、た?」

 可愛いと言われたら、顔を(人の方の)耳まで真っ赤にしながら、横髪を両手で弄る。
 ちょっと俯いたりしつつ、ちらちらと少女を見上げては、恥ずかしそうにしていますね。

「うん、音はよく聞こえるし、便利、だとは思う、けど。
 ――けしたり?」

 きょとん、と少女を見上げて、出来るのだろうか、と首を傾げてみる。
 とはいえ、何事もやってみなければわからないわけで。

「ぅ、う~ん――」

 両手で耳を抑えながら、消えろーと一生懸命に念じてみると。
 ぽん、と。
 手品のように、ウサギの耳は消えるのでした。

「き、消えた?」

 ぱちくり、と。
 自分でも驚いたように瞬きしながら、ペタペタと頭を触っていますね。
 

緋月 >  
「おぉ…本当に消えた…!」

提案した本人もちょっとびっくり。ご都合のよい耳でよかった。
消す事が出来たという事は、恐らく出す事も同じ要領で可能だろうとアタリをつける。

「後で確認の必要はありますけど、多分同じ要領で出したりもできるかも知れません。
普段は消して、必要かなと思った時に出すとか。」

少し考えて、また提案。
スムーズに消したり出したり出来るようになれば、付けられた本人の気持ちはどうあれ便利は便利だ。

「しかし、困りましたね…もしかしたら私たちが知らない内に、他にも出し入れできる何かがあるかも知れません。
……えっと、身体のこと、私たちがどう関わったか、お話とか聞いていますか?」

あの白衣の青年ならば、しっかり説明してるかも知れないと思うも、念の為に確認。
少女達が手掛けたのは「凡そ半分(骨格まで)」とはいえ、中々にとんでもない方法だったのだ。
聞いているかいないかは事前に確かめておくべきかと判断した少女。

❖❖❖ >  
「う、うん。
 でも今は恥ずかしいからいい、かな――ぴゃっ!?」

 頭を抑えていた手の下から、またウサギの耳がぴょこん、と飛び出します。
 それに驚いて声が出ちゃいますが、少女に見られていると、恥ずかしそうに両手で耳を抑えながら、薄っすら涙目で恥ずかしそうに上目遣いです。

「で、出たり消えたり、は、するみたい。
 でも、その、あまり見ない、で、ほしい、かも」

 どんどん声が小さくなっていってしまいます。
 可愛いと言ってもらえたのは嬉しいのですが、まだまだ恥ずかしいが勝ってしまってるようですね。
 どうやら、ある程度、感情に連動しているのかもしれません。

「あ、それだと、えっと、尻尾も、あるの」

 そう言いながら片手で、もじもじとしながら、お尻の方を抑えたりしつつ。

「うん、ちゃんとしってる、わ。
 神山舟(かやふね)で骨を作ってくれた、のよね。
 あの、ね。
 おかげですごく体が軽くて、丈夫になった気がするの」

 むん、と体の前で両手をぐっと握ります。
 軽くて丈夫なのは、骨格の影響だけではないでしょうけれど。
 目が覚めてすぐに、これだけ動き回れるのは、骨格が不具合なく精密に作られていたからでしょう。

「ぁ、でも、その」

 そしてまた、恥ずかしそうに顔を逸らして、頬を染めながら。
 自分の胸元に両手を置いて。

「――その、記憶よりも、なんだか、大きい、ような」

 と、有瑠華。
 その感覚は、少女から見て真っ先に『紅い人』を疑ってしまったかのように。
 明らかに数サイズ、確実に、盛られているのでした。
 

緋月 >  
「ああ……。」

何となく申し訳なさそうな表情で、また出て来てしまったウサギ耳を押さえる女性を見る少女。
これは練習が必要かも、と反射的に思ってしまうのは武術の道を往く者ゆえの自然な流れ、だと思いたい所。

「尻尾もですか…色々、あるんですね…。」

そう言いつつ、身体の作り方を知っているならば少し安心とひと呼吸。

「はい、私と…もう一人とで、骨格を作りました。
どんな不具合が出るか分からないので、出来る限り事前に練習して、元の身体と変わらないようになるよう
作ったんですが…しっかり動いてくれているようなら、何よりです。」

使った「材料」の効能も大きいだろうが、自分達の苦労も報われたようで何より。
目覚めて間もない筈なのにこうして歩き回れるなら、「主治医」を務めた人にも良い土産話が出来そうだ。

「……少し気にはなっていたんです。
やっぱり、大きいですよね……。」

ちょっと気まずそうに、明らかに盛られていると分かる胸部に少しだけ視線を向ける。

「骨格の「外側」については、私は全く触れてないんです。
一緒に担当した人も骨格だけ、の担当の筈で。
予想にしかならないですけど…「身体」の担当をした人の独断か、そうでないなら
誰かが変な入れ知恵をしたか…ですよね。耳や尻尾もですけど。」

うーん、と考えてから、一つ息を吐き。

「出来上がってしまった以上は、もうどうしようもないですよね。出来るだけ早く慣れるしか…。

そういえば、身体の方、動かしていて疲れたりとかはないですか?
寝たきりの時間が随分長かったですから。」

身体が思うように動かせても、体力が追い付いているかは心配である。

❖❖❖ >  
「――うぅ、やっぱり、大きい、よね」

 そう、自分の胸を抑えるように背中が丸まってしまう。
 特に大きいから困るという事は――ないわけではないけれど。
 女性的な部分が協調されてしまうのは、どうにも恥ずかしくなってしまうのでした。

「はぅ、着物、似合わなくなってないといいけど」

 専らの心配事でした。
 和装、大好きですからね。

「入れ知恵――しそうな人、一人、知ってるわ」

 むぅ、と赤い顔のまま、頬を膨らましてむくれた顔。
 とはいえ、とっても困る、と言うような事をされなかっただけ、『彼女』らしい悪戯ではあるけれど。

「そ、そうよね、慣れるしか、あっ――うん、大丈夫っ」

 そう言って、両手を広げて、ぱたぱたと。
 ケーブル類がぶらんぶらんと振り回されてしまいますが。

「あのねっ、少し歩いたり動いたりしたけど、全然疲れないの!
 わたし、元々、運動とかすっごい苦手で、かけっこも遅くて。
 でもね、今ならいっぱい動き回れそう!」

 そう、胸の前で両手を組んで、屈託のない明るい笑みを少女に向けるのです。
 

緋月 >  
「奇遇ですね、私も入れ知恵しそうな人に一人心当たりが。」

恐らく同じ相手の事を考えているのだろうと思いつつ、着物については少し理解と同情。

「サラシとかを巻く…のも、簡単ではないですからね。
身体の線が出にくい着物や、似合う着物があればいいんですが。」

余談だが今日はサラシではない少女。
元々控えめなサイズである事もあるが、それでも着ているものの様子か、バランスが崩れている事はない。

元気そうに両腕を振り回す様子には、思わず小さく笑い声。

「元気なのはいい事ですね。ちょっと、管とかが外れそうで心配ですけど。
その様子では、退院もそれほど遠くない…でしょうか?
さすがに検査なんかもあるから、今日明日に、とはいかないとは思いますけど。」

そう話しかけつつ、今後の予定について思考を巡らす少女。
予想以上に健康体である事は良いが、それでも「不測」を避ける為、以前に話し合った通り
目の前の女性と、孤児院の子供達の様子見…と言う名の護衛役を務めるべきか、と考えている。

❖❖❖ >  
「――ふふっ、あの人はそういう人だもの。
 ね、エデンお姉様」

 自分の胸に片手を当てて――そこにかつてあった、大切な女性に思いをはせて。
 くすくす、と可笑しそうに微笑むのです。

「サラシ、ちょっと苦しそう。
 でもそうよね、それもそうだし――今までのお着物も、仕立て直さないと」

 お気に入りの着物は沢山あるのです。
 それが着れなくなってしまうのは、とっても寂しいのでした。
 少しだけ、少女の均整の取れたスタイルを、じっと恨めしそうに視線を向けたり。

「――えっと」

 退院、と言われると、どこか申し訳なさそうな顔になってしまいます。

「あ、あのね。
 今のわたしは、まだ表に出ちゃダメみたいなの。
 その、クライン――お姉様を、止めなくちゃいけない、のよね?」

 そう、どこか切なそうに、胸の前で組んだ両手を、強く。

「わたしが『わたし』として目覚めたのには、ちゃんと理由がある、でしょ?
 お姉様やお兄様たちが、ちゃんと安心して眠れるように――わたし自身も、してあげたいって思うの」

 そう言って、胸が痛むような表情をしながらも、両手を組んで瞳を閉じ、祈るように。
 

緋月 >  
「――――――。」

申し訳なさそうな表情の女性から出て来た名前に、和服姿の少女の表情が真剣なものになる。
可能なら伏せようとは思っていたが…「彼女」は「先生」の記憶も持っているのだ。
「それ」を知っている事に対して、疑問はなかった。

「……そう、ですね。
あーちゃんは「先生」の記憶があるんですからね…。」

確かめ直すように口にして、改めて視線を向ける。

「既に話したかもですけど……私と『K』…クライン教授に、直接の因縁らしい因縁は、無いようなものです。
最初は、「先生」が倒れてしまったから。
今は……以前に、エデンが話してくれた『アルカディア計画』と『夜鷹』、そして計画が失敗した、という事。

どっちにしろ――「過去」の為に「今」を生きる人を蔑ろにする真似は、私は…「納得できない」。
それが、私が此処まで関わって来た理由です。」

如何に「過去」が忘れ難く、其処にあった人の「計画」を再度成そうと思ったとして、
「今を生きる誰か」を軽視してのその行動は、到底納得できず、受け入れる事など出来ない。
最初は「先生」を道具のように扱われた事。今は「計画」の達成でどれだけの「誰か(みんな)」がその巻き添えになるか。

其処に対する反骨心…悪く言うなら聞きわけの無さで以て、抵抗しているのが、この少女だ。
大義や正義など知った事か、己の心だけに従う、とばかりに。

「……あーちゃんにまで、それを強要はしません。
あーちゃん自身はどうしたいのか。それを考えてみてほしい…と言う位です。

暫くはあーちゃんのお見舞いと…これは私の知り合いからの提案ですが、孤児院の子供達が
巻き込まれないよう、護衛も兼ねて様子見に向かったり、でしょうか。
そうして過ごそうかな、と思ってます。」

以前に話していた事を打ち明ける。
本来なら病み上がりで調子がよくないと予想された女性の介護も入っていたが、
良い意味で予想を裏切る程の体調の良さからそちらの方はなしにしても良いだろう、と判断をつけた。

❖❖❖ >  
「――納得」

 有瑠華は自分の胸に手を当てて、愛しい人たちの顔を思い浮かべる。
 そして思う事は――

「――うん。
 わたしも、納得できない。
 エデンお姉様も、メビウスお姉様も、そんな事の為に星に挑んだわけじゃないもの」

 今となっては、恐らく生き残った有瑠華たちの世代しか記憶していない、彼女たちの本当の想い。
 それはただ、人々が笑顔で平和に生きられる世界が欲しかった、それだけの事なのだから。

「わたしは――」

 それを思い浮かべながら、有瑠華の答えは、少女をしっかりと見上げて。

「うん、ちゃんと考えてみるわね。
 お姉様たちの事に、るなちゃんたちこれからの世代の子たちのこと。
 それに――めーちゃんの事も、助けないと、ね」

 有瑠華にとって、クラインもまた、愛するお姉様の一人。
 家族よりも、家族のように触れ合い、共に生きていた一人なのです。
 けれど、だからこそ、そんな彼女が間違えようとしているなら、それを止めたいと思うのでした。

「あっ、孤児院はその。
 うぅ、今のわたしが行っても驚かれちゃうかも。
 でもうん、あの子たちはわたしが居なくてもしっかりしてるし」

 と、言いつつも、少女が様子を見に行ってくれるとなれば、嬉しそうに笑みを咲かせる。

「よかった、るなちゃんが様子を見に行ってくれるなら安心ね。
 元気な子ばっかりで大変かもしれないけど――ふふっ、るなちゃんなら体力の心配はないものね」

 立派な剣士さんは、多少やんちゃな子供たちを相手にしても、参ったりはしないでしょう。
 ただ、慣れないことに精神的に疲れる事はあるかもしれませんが。

「あと、その、お見舞い、だけどね」

 ウサギの耳がぺたん、と潰れて、胸元で両手の指をもじもじとさせながら、恥ずかしそうに少女を横目で見上げます。

「たくさん、きて、くれる?」

 そう、おずおずと訊ねました。
 

緋月 >  
「…うん、いい意気です。その言葉と、感じたものを大切にしてください。
偉そうな事を言いますけど…きっと、それは「今を生きる人」の特権ですから。」

胸に当てていた女性の手に向けて自身の手を伸ばし、軽く重ねる。
――思えば、色々な困難や強敵を前にして、最後に従ったのは自身のエゴ…意志と決断だったような気がする。
それはきっと、今を生きる以上は無くしてはならないもの、だと思う。

「はい、しっかり考えて下さい。
時間は…どれだけあるのかは、正直私にも分からないですけど、考える時間は大事です。

…焔城先生にも、本当にお世話になりました。
孤児院の方を見てあげて、少しでも恩返しが出来るといいのですけど。」

決して接点は多くない人だった。
だけど、あの人が「任せろ」と請け負ってくれなかったら、此処までは来られなかっただろう。
孤児院の子供達の様子見はその報恩と言う意味もあった。

「お見舞い…沢山、ですか?」

訊ねられた…あるいはお願いという言葉には、一度軽く首を傾げ。
少しの思案の後、笑いながら軽く、しかしはっきり頷く。

「はい、いいですよ。
時間が許すだけ、なるべくこっちに来るようにします。
退院がまだまだ無理だと、この部屋に閉じこもったままでは退屈でしょうから。」

何か退屈を紛らわせられる品でも、次のお見舞いに持ってこようか。
そんな事を考えたりしている少女であった。

❖❖❖ >  
「今を生きる特権、かぁ。
 ふふっ、るなちゃんってかっこいい」

 くすくす、と重ねられた手をやんわりと握り返す。
 あたたかい。
 人と触れ合う感触、それがとても久しぶりのような気がして。
 どうにも、離れがたくなってしまうのです。

「――ほんとっ?」

 ぱぁ、と童女のような有瑠華の表情が明るく花咲きます。
 手を握ったまま、少女の胸に飛び込んでしまいます。

「えへ、るなちゃんだいすきっ」

 ウサギの耳がぴょこぴょこと揺れながら、少女に体を摺り寄せて。

「あの、あのね?
 ここ、一人だとちょっと寂しいの。
 だからね、その」

 顔を赤くしながら、少女の胸元で顔を見上げながら、いじらしく。

「わ、わたしが、眠れるまで、隣に居て、くれる?」

 そんな、欲張りな添い寝のお願いなんてしちゃうのでした。
 

緋月 >  
「あははは…そういう事にしておけば、カッコがつくかなと思って。
私はそうやって突っ走ってきましたからね。色々と叱られる事もありましたけど。」

例えば、機界魔人との戦い。
例えば、友と呼んだ人との戦い。
そして今、こうして「過去の因縁」に、部外者の分際で己のエゴ一つで斬り込みにかかっている。
我ながら、格好でもつけなくては締まらない程にエゴ剥き出しの出来事が多い。

「ああ、それは分かります。
此処はそうそう簡単には来れないですし…私も入院した時は退屈で仕方なかったですし。」

そんな事を思い返しつつ、ちょっと欲張りさんなお願いにはまた笑顔。

「はい、良いですよ。――っと、その前に。」

ごそごそと和服の中を探り、生徒手帳――オモイカネ8を取り出す。
ちょいちょいと弄って、カメラモードに。

「私がお見舞いに来れない時間に寂しくないよう、写真を撮って残して置きましょうか。
お願いすれば、写真立ての用意位はして貰えると思いますし。」

寝る前に、とちょいちょいと手招きし、自撮りの構えから隣に来るようにと。
二人そろっての撮影である。

❖❖❖ >  
「うんっ、カッコいいと思う。
 叱られちゃうのも、それだけ、るなちゃんの事がみんな好きだからだと思うな」

 笑いながら、ぎゅ、と少女の手を握っちゃいます。
 そんなかっこよくて素敵な女の子を、今は独り占め出来ちゃうのですから。

「――ほんとっ?
 えへへっ、やたっ」

 おねだりが許されると、子供のように喜んじゃいます。
 そんな、妙に子供っぽいところは、『先生』を思い出させるようなそぶりかもしれません。

「あっ、お写真?
 うんっ、撮りましょっ!
 ――えいっ」

 手招きされるまま、全身で少女にしっかりと腕を回して。
 カメラに視線を向けるのも忘れるくらい、甘えるように少女に抱き着いちゃうのでした。
 

緋月 >  
「わっ、とと…! じゃ、撮りますよ~!」

抱き着かれればちょっと体勢を崩しつつ、何とか持ち直して自撮りモードで上手い事構図を取り、撮影ボタンをタップ。
パシャリ、とシャッター音のような電子音を立て、綺麗に二人が収まった画像が撮影される。

「よし、と。それじゃ、後でこれを写真立てに入れられるようにお願いしておきますね。」

そうして撮影が終われば、お望みどおりにお姫様の添い寝に付き合う事に。
しっかりと眠れた事を確かめれば、小さく頭を撫でて静かにお別れ。

「……なるべく近い内に、必ず来ますね。」

そう、小さく言い残して、後をお願いしながら病室を後にする。

1日程の時間を置いて、目を覚ました女性の病室には二人が映った画像を写真にした写真立てが飾られるだろう。
 

緋月 >  
「――ふぅ。まずは一山越えた…って所、でしょうか。」

医療施設からの帰り道。
「あーちゃん」の意識が戻った事に、先ずは一安心の少女。

「……お世話になりました。」

静かに、そう呟く。
今はまるで少女のようになった「あーちゃん」の、以前の人格…「あーちゃん先生」に向けた、感謝の言葉。
誰にも届かぬそれを口にする事で、思考をはっきりと切り替える。
これから、あの「あーちゃん」とは以前とは違った関係を築く事になるのだろうな、と。

「……あ、そうだ。」

自分と一緒に、彼女の「骨格」の創造と組み上げに尽力してくれた血の色の髪のひとに向けて、メッセージの用意。
今日起こった事を簡単に纏めて、報告という形で送信――。

「…………。」

――しようとした手を止めて、少しの間思考。
ちょっとだけ手順を増やし、先程撮影したばかりの画像データを添付して置く。
もう一枚、抱き着く女性の胸元がよく見えるようにした上で、

《本当に「身体」の方には関わっていないんですよね?》

最後にそう、詰問するような一文を添えて。
ないだろうとは思っていたが、念の為の確認という奴である。

ご案内:「医療施設群 医療研究施設 〇ロ号処置室」から❖❖❖さんが去りました。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設 〇ロ号処置室」から緋月さんが去りました。