2024/08/21 のログ
Dr.イーリス > エルピスさん、“彼”を話題に出されて、イーリスは少し照れたように頬を赤らめた。

「……その、しがない一科学者風情が、神様に過ぎた事を言ってしまいましたね。リビド先生のお考えも理解はしています。ご自分のいた世界が発展の末に滅びたかもしれないとなれば、警鐘は鳴らしたくなりますよね」

リビド先生の主張は、とても理解できる。
発展を願うだけではなく、それによるリスクは考慮しないといけないものだろう。

完璧を求めた先、何があるのだろう……その興味は尽きない。
一方で、リビド先生は完璧を求めた先にあるものを見て、それでイーリスに忠告しようとしてくれている。
イーリスはそうも考えていた。

「ありがとうございます。私、あなたのお言葉、この先胸に刻んでおきます」

進化を望み、もしその過程でイーリスが万が一足を踏み外す事になりそうなら、リビド先生の警告を思い出して少し立ち止まって考える機会を設けてもいいかもしれない。
歩みだす事はやめなくても、考える時間はあってもいい。

「シズメさんをあなたが選んだ……それはどういう……」

質問しようとしたけど、それは遮られて本題に入った。

「神秘というより、機械的に人々の願いを集めてそれを叶えるという事でしょうか」

例えば、ネットに書きこまれた数多のビッグデータから人々の願いをAIにより割り出し、それに沿って超技術により生み出された人造神がその願いを叶えるシステム。
イーリスも、そういったシステムを構想した事自体はあった。

「そうですね……。理不尽に、そして無慈悲に奪われ、苦しめられた者達は英雄を求めてしまいます……。《紅き屍骸》、反逆者達の暴動……悪が英雄により滅ぼされて平和に暮らせる世の中を民衆は求めてしまうものですね」

イーリスにとって、エルピスさんは希望で、英雄のような存在と言ってもいい。幾度も命を救われたし、助けられた、救われた。
そう思っている事を知ったら、“彼”はどう思うかな……。

「故エルピスさんが《英雄継承プロジェクト》の“成果物”を持ち逃げしたとなれば、プロジェクトどころではなくなるでしょうね。やらかしたこと、と故エルピスさんを悪い風に言うのは私の立場とすれば申し訳ございませんが少々心外ではありますが……。実際に研究を主導した側にとってやらかした、というのは理解します」

故エルピスさんによりプロジェクトが崩壊した事自体は事実になるだろう。
しかし、《英雄開発プロジェクト》はともかく《英雄継承プロジェクト》というのはあまりに非人道的な内容だ。継承プロジェクトがなければシズメさんが生まれなかったという事になるのだが……それはそれとして継承プロジェクトそのものを好意的には見れない。

「なるほど、相互不干渉のはずなのに“彼”はどちらのプロジェクトにも関わってしまっています……。あなたの存在が、継承プロジェクトの魔の手から“彼”を助けてくださっているのですね。ありがとうございます」

イーリスは笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下げる。

英雄の開発、設計理念の感想については先程イーリスが述べた通りになる。
世の無情、無慈悲、理不尽により奪われ、苦しめられたら、英雄を求めてしまいたくなる。英雄が民衆の願いであるとも思う。
英雄を生み出そうとするその理念そのものに対して、イーリスは間違いだとは思わない。

リビド・イド >   
「いや、それでいい。それが良い。
 神と向き合い、時には超えて歴史を切り拓くのも人間だ。」

 イーリスの意思は肯定される。
 少なくともこのものは、そのようなものを好むらしい。

「とは言え、正直神と見られるのもむずかゆい。
 対等な一存在として捉えてくれる方が気が楽だ。
 科学の産物としても、Dr.イーリスの意思を曲げたくはない。」

 "この先は自分の手で掴め" 。
 回りくどくも、そう告げる。

「行動理念の話なら、もっと単純だ。『性格』だよ。」
「人為的なものといえ、それは僕のパーソナリティだ。」

 特別なプロセスはない。人間と変わらぬ行動理念。
 この常世に紛れ、能力のもと出来ることをしている。

「……。」

 相槌を入れる事なく、イーリスの言葉を静かに聞く。
 彼女の意見が出揃ってから、冷静な口ぶりで答えを返す。

「"やらかし"が気に入らなかったのなら悪い。
 そこには無自覚にルールの穴を突いてくれたな、と言うニュアンスしかない。」

 やや困り気味に笑う。
 イーリスの純粋さに翻弄されることを楽しんでいる様にすら見える。

「その結果、『感情魔力混合炉が二つに増えた』ことも含めて例外中の例外だ。
 その炉の設計も、『誰でも英雄になれる』ならそれで良い。炉も武装も、そのような理念で作られている。」

「結局のところ人の造る兵器と変わらん。
 それが僕の技術と、僕の好みで設計されている。それだけだ。
 少々地味過ぎたのか、周囲の研究者のウケは悪かったがね。」
  

Dr.イーリス > リビド先生からの肯定、激励とも言える言葉にイーリスは目を細めて微笑んだ。

「ありがとうございます。私、頑張りますね」

そもそも、完璧どころか神様に到達する事さえ人類に成し得るか分からない。
それでも、手を伸ばせるところまで伸ばしたいと思う。

「謙虚な神様なのですね。分かりました、あなたがそう仰るのであればひとまず神様というのは置いておきます」

微笑みながら頷いてみせた。

「性格、つまりリビド先生の人の好さなのですね。少し、難しく考えすぎてしまったのかもしれません」

願いを叶える神様としての在り方という方面でイーリスは考えていただけに、リビド先生のその答えは単純ながら意外に思い、こうしてリビド先生のお話を聞いて考えてみればとても人の好さがうかがえるので凄く納得のいくものだった。

「いえ、その……私こそ、ごめんなさい……。故エルピスさんは立派に生きて、最期も立派にやり遂げたと……そう思っているので……」

だから、故エルピスさんの行いを“やらかし”と言われてしまって……むっ、としてしまった……。
リビド先生は悪気があるわけではない……。イーリスが冷静にならないといけない、そう言い聞かせて。

「炉が二つになる事は、予想困難ではあったでしょうね……。私、エルピスさんから《感情魔力混合炉》を借りて、随分と助けられたものです。エルピスさんと私で、《感情魔力混合炉》を二つあったからこそ成し得た事もありましたね」

《感情魔力混合炉》が二つのイレギュラー。
それがあったからこそ、エルピスさんとイーリスは、継ぐ力で互いの想いを受け渡しする事ができた。

「私、《英雄開発プロジェクト》によりあなたが生み出したものは素晴らしいものだと思っています。正直申しますと、兵器と変わらないというのは私も同意見ですよ。しかし、英雄が兵器を扱って人々の平和のために悪を滅してもいいではございませんか。兵器で巨悪を退けて世界を平和にできるなら、それでいいではございませんか」

凛とした視線で、そう、リビド先生に訴える。
イーリスも兵器開発を行っている。兵器で強くなれる人がいる。弱かった人達も、自分の大切なものを守る事ができる。
悪用されれば悲劇を生みかねない、悪用は許せないけど、技術そのものはとても輝いていて、素晴らしいものだ。

リビド・イド >   
「正味、神が好きではない。同族嫌悪だよ。
 特に分別なく暴れるタイプとは、ウマが合わん。」

 大きな溜息。
 何かを思い出して、嫌そうな顔。

「人が好いんじゃない。
 手段を問わず、自分の意思を貫ける人間が好きなだけだ。
 超自我の奴が狂ってるから、善性に寄っているのは否定しないが。」

 人が好い、と言われると面倒くさそうな顔を見せた。
 純粋に善きものとして見られるのは、想定の外らしい。

「……まあ、立派だったかもな。」

 故エルピスの最期には、頬杖と溜息。
 感情を悟られない様に、気を張って覆い隠した。

「それだけキミと彼が気を張ったって事だ。
 燃料が無ければ炉は動かん。ああ、回収するつもりはないからな。」
 
 特に干渉や回収の意図はないらしい。
 手をはたつかせて、要らないとジェスチャー。
 
「ん?ああ。手番があっちに回っただけで、僕としては大した感慨はない。
 気遣いだけは有難く貰っておこう。僕を味方と思うのも程々にしておけ。」

 少々の思い入れが無いと言えば嘘になるが、
 現状に対して特に感慨はない。
 協力や助力もたまたまそうなった。としか考えてない。

「言っておくが、あまり僕を頼るなよ。僕だってサボれる時はサボりたいからな。
 このままキミたちが天寿を全うしてくれれば、天秤は傾かずに100年は楽が出来る。」
  
 この教師もまた、それなりにサボり魔らしい。
 

Dr.イーリス > 「神様がお嫌いですか……。神々(・・)も、複雑なご事情があるのですね……」

破壊神である蒼先生も似たような事を仰っていた。
蒼先生は、なんと神をゴミ呼ばわりしてたと思う。
神様がお嫌いな神様は多いのかな、とイーリスは思った。

「そう、なのですか。ご自分を貫く信念の持ち主はとても素敵な方だと思いますが、それはそれとして、話していてあなたの人の好さは感じましたよ」

面倒くさそうな表情をするリビド先生に、こてんと小首を傾げてしまう。

立派だった、とイーリスは微笑みつつ頷いた。

「気を張ったというのもありますし……その……私達のお互いを想い合う気持ちが、力をくださいました。ありがとうございます、リビド先生」

愛して、愛してくれて……。そうして、大きな力になった。イーリスはちょっと頬を染める。
《感情魔力混合炉》はエルピスさんに返してしまうけど、イーリスはエルピスさんのお役に立ちたい。
そう思って《感情魔力混合炉》を参考に開発したのが《パンドラ・コアMk-Ⅱ》だ。
回収するつもりはないとリビド先生の口から聞けた事は嬉しくもあり、ぺこりと頭を下げて笑顔でお礼を述べた。

「リビド先生のお話を聞けてよかったです。ありがとうございました。その……またお話を聞かせていただく……のは難しそうですね。申し訳ございません。そろそろ、リビド先生が予約してくださった研究所の見学の時間でございますね」

お話したい事はまだあるけど、研究所を見学するお時間が迫っていた。
そうしてイーリスは、リビド先生に産業・農業区の研究所をご案内していただく事になるだろうか。

研究所を見学しているイーリスはとても楽し気で、瞳を輝かせていた。

リビド・イド >    
「その事情が知りたければ、お勉強の時間だな。
 具体的には歴史と宗教と哲学と文化。祭祀局の凄さが良く分かる筈だ。」

 冗句めかして、おどけて流す。
 それ自体は、わりと昔からそうなのだと。

「僕にお礼を言っても……ああもう、調子が狂うな。」

 お礼を固辞するタイプの人間らしい。
 礼を述べ、頬を赤らめるイーリスを認めれば髪を掻いて感情を散らす。

「ひとまず、生徒としてなら話を聞くが……
 ……とりあえず、今日の所は産業区・農業区帰属の研究室の見学だな。」

 気を取り直し、教師の顔を見せる。
 そのまま会議室を後にし、イーリスの心ゆくまで研究施設の見学に付き合った事だろう。
 

ご案内:「研究施設群・第三会議室」からリビド・イドさんが去りました。
ご案内:「研究施設群・第三会議室」からDr.イーリスさんが去りました。