2024/08/15 のログ
蒼き春雪の治癒姫 > 「…然様でしたか。
その、なんでしょう。……経験に学ぶ……という事ですね。
炎の恐ろしさは、火傷してみなければわからないです、
刀を持つのが文化なら、それもまた文化なのでしょう。
おいたわしい……」

さりとて。蒼い雪は貴女様を労しく思えど、
その恐ろしき文化に否定的な言葉を投げなかった。
刀を持つのが当然の世界において、強く印象を持つ為には……ソレが最も合理的だと思えたのだ。

「……なれば、赤子から時を共にした刀は、文字通り貴女様の一部と心得ます。」

「えぇ、あ……ちょ……っと……!!」
(おっも……ッ?!)

差し出された白身の刀は。



想像を3つほど上回って、



重かった。

蒼い瞳が見開かれて……

蒼き春雪の治癒姫 >  


 「ぁ、…ま…ッ!だめ……ッ」

  ふら、り……ッ


 

緋月 > 「――!!」

これはまずい。刀と持ってる人、両方が危ない。
気を付けてと言ったが…いや、気を付けていても無理なものは無理だったか。
兎に角、直ぐに助けないと大変だ。

(…神速法!)

ほぼノータイムで念法術を発動させると、重さにふらつく蒼い少女の背後に回り込み、後ろから素早く
手を伸ばして腕と身体を支えにかかる!
片腕で、刀を取り落とさないように支え、もう片腕で倒れ込まないように体の姿勢を戻そうと――
まあありていに言って、後ろから抱き留める形になってしまう。

「だ、大丈夫ですか!?
すみません、もっと慎重に渡すべきでした…!」

――蒼い少女の身体と手に伸ばした腕は、見た目からは想像がし難い程に、鍛えられ、力強い。

蒼き春雪の治癒姫 > 「ぁ……どッ…どうも…あり、がとう……ッございま……す……?」
(うわあああああああひづきさまあああああああああ?!)

抱き留められて、支えられている。
憧れた貴女様に。

なんと、なんという…

なんという幸福であろう…

刀を支えて頂き、体を支えて頂き、
貴女様の半身たる刀を手に、貴女様ご自身に触れている…ッ

「らいりょーぶれす…」

呂律は回っていないが、

……嬉しそう。
そうだ、とこれを機に、
この近い距離を活かして、
凄く小さな、二者の間にのみしか聞こえない声で囁く。

「その…なんです。」
「……少し、できることを、お見せしようと思って。」
「私……異能で贋作品、作る事が出来るんです。本当は……治癒より、贋作が得意なんですよ。」
「……これは、貴女様と、私の故郷の者しか知らない、秘密です。」

私の事も、少し知ってもらえたら嬉しいなっていうのは、我儘だろうか。
ああ、我儘だろう。
それも極めて。

貴女様にとっては、

(……なんと、なんと迷惑な事を……でも……)

「今この状態なら……凄く良い形で、出来る気がして。」

緋月 > 「ほ、ホントに大丈夫ですか?
舌、噛みそうになってますけど……。」

一方こちら、まるで気にした様子がない。
危ない所を助けるのは役目…を越えて当然、と思っていそうな。
と、小さく囁かれる声に、思わず耳を傾ける。

「――つまり、「何かを複製する」ような能力が本領、だと?
それは…何と言うか、凄いですね…。
真似やら出来栄えやらはどうあれ、何かを作る能力、というのは。」

ちょっと声の大きさは絞るが、素直に驚いたような感想。
予想がつかない、とも言うか。

「え、今…ですか?
私は構いませんけど…蒼雪さん、大丈夫です?」

ちょっと呂律が回らない状態だったのが心配。
ともあれ、やるというのなら止めはしない書生服姿の少女であった。

蒼き春雪の治癒姫 > 「大丈夫ですッ!」

今度ははっきり言いきった。
さっきのはあれだ。
幸せすぎただけだ。
……気づかれてないようだ。そういうところちょっと鈍いのも素敵ッ

「……今はまだ、どこまで話したものか分かりませんけれど。」
「……贋作が本領、……複製が本領、それはきっと間違いではありません。」

「けれど」

「どこまでいっても、……贋作は贋作です。」

それは、どんなものだってそう。
後から真似て作ったものに、どれ程の価値があるのだろう。
どんなものの贋作でもできるものは、自己として存在し得るだろうか。

「ふぅ……」
「よろしいでしょうか…」
「始めます、ね?」

血色の紙束が雪柄の着物の奥底から産まれるようにふわりと浮かび上がった。
そのうちの一枚をぱっとつかみ取る。
緩く刀身を撫で上げ、ソレの持つ情報を理解しようとする。

情報を
咀嚼して
消化して
吸収して
同化して
―――全て、違う異能だ。

それを元に
構成する

緩やかに、水が固まり形を成すように、
刀身が産まれ―――

緋月 > 「――――。」

何と言うか。
どうも、腕の中の蒼い少女は、自身の本領の異能を、好んでいないように見える。
少なくとも、書生服姿の少女はそう感じた。
どこまでいっても、贋作は贋作。
それは――確かに事実かも知れない。

だが――同時に、こうも思うのは、傲慢だろうか。

「……贋作が、本物に劣るなどと、誰が決めたのでしょうか。
例え複製だろうと、贋作だろうと…それを創った者の「心」は、本物には真似の効かぬ、唯一無二だというのに。」

思わず、そう口から言葉がこぼれてしまう。

「…すみません、偉そうな事を。いつでもどうぞ。」

そう声を掛け、後は集中を乱さぬように見守るのみ。

――と、そこから目に映るのは、己の理解を超えた光景。

まるで、形無きものが形を得るかのような光景。
集中を邪魔せぬように声こそ出さないが、思わず嘆息してしまいたくなるような有り様。

(……すごい。)

それしか、言葉が思いつかない。

蒼き春雪の治癒姫 > 「……そういってもらえただけで嬉しいですよ。」
「創った……創った……創った、"心"……か。」

幾度か反芻する。

「人の後を追って真似しようとしたものが、"創った"だなどと語れるでしょうか―――いえ。」
「……貴女様がそうおっしゃるなら」
「今創るものだけは、そう思います。」

蒼い瞳を閉じる。
なるほど。創る、か。贋作(マネ)する、ではなく。
そうあれたら。
本物ではない唯一無二であると言えたら。
自分が自分であると言えたら。

どれ程、良かったんだろう。

「………。」
(もし死ぬ前に、そうあったなら……)

喜悦と未練。
いずれも最高潮だ。

今日創るコレは、きっと最高の贋作品だろう。

仄かに薄青白い刀身を織り成す。
サイズは全く同じ、
金色の鍔の形だってそう、
刀身に映る金属の煌めき、波模様さえ、狂いなく贋せる。

さりとてそれの素材は、重さは、全くの別物。

私でも持てるように
貴女様のようにとの心を添えたが故か、
片手で雪のようにそれを持ち上げてみせた。

もう片方は、貴女様に支えて頂いたままに―――

蒼き春雪の治癒姫 >  

 「――贋作の心、魅せられましたでしょうか。」


 

緋月 > 「お、ぉぉ……!」

「それ」が完成した様には、思わず驚嘆の声を漏らさずにはいられなかった。

外見は、まるで――いや、寸分狂いなく、己が半身たる刀と同じ。
長さは言うに及ばず、刃文の形も、鍔の細工も、何処を取っても、劣る所などあるのか…まるで分からない。

敢えて違うのは、恐らくは重さだろうか。
重さに耐えられず危ない事になりかけていた蒼い少女が片手で持てるという事は、相応に軽いのだろう。

だが、それを以て劣っているとするのは愚かなり。
軽い刀は重さこそ及ばぬが、その分「速く」なる。
一太刀の重さと軽さ。いずれにも特徴はある。重いから良いのではない。軽いから悪いのではない。
何れも、刀の持つ特徴。

「――――何と言うか。」

言葉を選ぶのが、大変だ。どう表現していいのか、分からない。

「見事な、出来栄えです。
此処まで姿形がそっくりでは、私でも、間違えそうで。
……やはり、これを贋作と呼ぶのは、私には憚られます。

もし、何かひとつ、言葉を選べと言うのなら――

そうですね、強いて選ぶとするなら、」

緋月 > 「――まるで、月白に姉妹が、出来たようです。」
蒼き春雪の治癒姫 > 「姉妹、姉妹ですか―――ふふふっ
光栄の極みです。」

持ち主の、それも半身と言う貴女様にそういって頂けたなら。
それはもう……心が示せたのだろう。
それだけで、創った甲斐がある。
憧れの半身の贋作の方をその手に握り。
真作を支えながら…

「ふぅ……」

…一息、ついた。
どうやら、…随分"血"を使ったようだ。

「少しだけ、座らせてください。すみません…。
お返しいたします…。月白…というのですね。」

急いだような手つきで、貴女様にその刀をお返しすると、
ゆっくりとその場に座り込んで
また一息、吐いた。

「でしたら…雪白、なんていかがでしょうか。」

姉妹のお名前。
互いの名を冠して、お揃いです、って。

そして―――
少し後。

「少しだけ、試しに…私も"斬る"という事を、してみようと思います。」

……下手っぴな。凡そ"斬閃"とも言えない、
子供の落書きのような刀の軌跡が、一つ。
訓練施設に描かれたのだとか。

緋月 > 「だ、大丈夫ですか?
無理せず、ゆっくり休んで下さい。」

誰の言った言葉だったか。
何かを壊すより何かを作る方が、ずっと大変な事だと。
模倣・複製といえど、「作っている」事に違いはない。
であるならば……使う際に相応の消耗を強いられるのかも知れない。

(これは…そう易々と、使う事の出来ない異能(ちから)であっても、不思議ではないですね。)

心配と不安はなるべく顔に出さないようにしつつ、己の刀を受け取る。
うん、慣れ親しんだ重さ。

「はい、私が生まれた際に、一緒に銘を与えられました。
鞘と柄巻は、名前に因んだものだと。」

月の出でる時、空が白んで見える。その時に完成を見た為、月白と名付けられた。
そう、聞いている。

…もし、彼女の創った刀を一時借りて、それを振ってみたとしても、いつも通りに振るえるかは自信が全くない。
そういう事を考えれば、かの刀は蒼い少女の為の刀と言えるのだろう。

「――ええ、いい名前だと思います!」

だから、蒼い少女の提案した銘は、この上なく相応しいと。


そして、蒼い少女の拙い一太刀を目にした時。
書生服姿の少女は、思わず笑顔で拍手を送っていた。
まるで、刀を手にしたばかりの己が初めて振るった一太刀を、時を超えて目にしたような気がして。

ご案内:「訓練施設」から蒼き春雪の治癒姫さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から緋月さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」にポーラ・スーさんが現れました。
ポーラ・スー >  
 訓練所の一つは、この日、珍しい教員の名前で貸し切りにされていた。
 その教員は指導補助や見回りに来ることはあっても、自身が使う事はなかったのである。
 そのため、大変、物珍しそうに施設管理の生活委員(どうりょう)に見られたりもした。

 ――簡単な依頼、とも言えないお願いだった。

 女は訓練所の真ん中で、扇を両手に、ゆっくりと体を滑らせる。
 沁みついた舞踊の動きはなめらかで、淀みなく、流れるような動作だ。
 女の精神性とはまるで関係なく、歪さの映らない舞。

 調査結果を伝えるのも、伝えないのも簡単だ。
 そして、どちらの結果も想像は容易い。
 だからこそ決めかねていた。

 いっそのこと、なにもなかったこと(・・・・・・・・・)にしてしまおうかとも考えたのだ。
 しかし、それでもこの場を用意したのは、恐らく女の趣味でしかない。
 そう――月の満ち欠けを、最も近くで見たいがために。
 

ご案内:「訓練施設」に緋月さんが現れました。
緋月 > かつ、と、ブーツの音が響く。
貸し切りとなっている筈の訓練所に、迷うことなく踏み入った、小柄な人影。
暗い赤色の外套(マント)を靡かせながら、訓練所に姿を見せたのは、書生服姿の少女。
その手には、相変わらず刀袋が握られている。

「――おひさしぶりです、あーちゃん先生。」

聊か気の抜ける呼び名だが、当人の希望故致し方なし。
とは言え、少しばかりの緊張がある。

元を辿れば、自身の頼み事が発端である…筈だ。
当時、知り合いになったとある女子生徒の事。
悪意のある相手ではないとはいえ、あまりの距離感の近さに、少しばかり疑問を感じた事があった。

そこで――直接口には出さなかったが――彼女と同じ組織(委員会)に属している筈の先生に、調べ物を頼んだのだ。
自分の手が届かない所でも、先生であれば調べが付くだろうと思って。
そして、後は彼女の事について、説明を受けるのを待てばいい。
そのはずだった。

だが――――

「…随分急なお話なので、驚きました。
しかも、こんな所に呼び出されるなんて。」

そう。返って来た言葉は、この日、この時間の訓練施設への呼び出し。
少々妙だな、と感じてはいる。
あの人の性格であれば、直接会いに来て話になるだろう、と思っていたので。

――何か、外では話し辛い事でもあったのだろうか。
あるいは……表沙汰に出来ない事でも?

ポーラ・スー >  
 静かに舞う女に掛けられた声の主へ、視線を流し、うっすらと微笑む。
 そのまま、広げた扇をゆっくりと泳がせると、最期にピタリ閉じて、静かな舞踊は演じ終わる。

「――はあい」

 そしてゆっくりと立ち上がった女から出たのは、いつものように気が抜けるほど、朗らかな声。
 ふたたび広げた彼岸花の扇で口元を隠しつつ。
 目元はやはり、嬉しそうに笑っていた。

「そんな急なお誘いでも、来てくれるんだもの。
 やっぱりわたしのお月様は素敵だわ」

 とても楽し気な声は無邪気でもあり。
 この訓練所には、どうにも似合わない声でもある。

「今日はね、完全にオフの日なの。
 もちろんちょっとだけ、いぢわるな人たちはいるけれど。
 ここなら、誰の邪魔も入らないわ」

 そう言いつつ、女の扇は――突然、前触れもなく青白く輝く水のように形を無くし。
 女の腰元で、一振りの刀の形になった。
 その刀の鞘はボロボロで、とても長い年月を過ごしたように見える。

「お月様に頼まれていた事だけども。
 一通りの事はわかったわ。
 それと、その情報からいくつかの推測――いえ、一つの確信も得られたの」

 そう微笑んだまま話しつつ、姿勢は緩やかに自然体へ。
 その左手と右手は、腰の刀へと添えられる。
 

緋月 >  
「確かに、貸し切りになっていましたからね。他の方がそう易々と入ってはこないでしょう。」

自分の事は予め伝えられていたのか、顔パスで通して貰ったが。
最初はちょっと躊躇ったが、注意も貰わなかったので有難い限りではある。

そして、まるで何かの魔術のように形を水のように崩し、一振りの刀へと変じた扇に、軽く息を飲む。
無論、妖術のような変化への驚愕もあったが……

「…そう、ですか。
それは、お手間をおかけしたようで、何と言いますか、恐縮です。」

そう答えながらも、半ば身に染み付いた反射的な動きで、刀袋の紐を解く。
素早く袋を払えば、姿を見せるのは柄巻も鞘も白く、金色の鍔が眩しい一振りの刀。

「――――それで、その話から、どう道を間違えれば、このような事に?
……その刀、確か初見で…私に斬りかかって来た時のもの、でしたか?」

ちり、と首筋に緊張感。
嫌な予感がする。それも二つ。
まず一つは、目の前にいる先生がこれから口に出してくる事。
もう一つは…彼女が得たという「確信」について。

差し当たり――脅威度が高いのは、前者。
 

ポーラ・スー >  
「ふふっ、気にしないで?
 拍子抜けするくらい、とぉっても簡単だったもの。
 かわいい女の子に、不可能なんてないわ」

 女の子という歳か、という無粋なツッコミが飛んできそうな台詞だが。
 それでも、女の性格を知る少女なら、それが僅かの誇張でもなく言葉通りであったのだろうと想像できるだろう。
 とはいえ、公安委員でなければ資料の閲覧も出来ず、てこずったかもしれないが。

 反射的に刀を取り出す少女を見て、ますます笑みを明るくする。
 少女の半身とも言える美しい刀は、女にとっては目の保養だ。
 そして迷いなくソレを取り出してくれた事が、なにより嬉しい。

「ああ、まるで以心伝心とでも云うのかしら。
 言葉にしなくても伝わるって、本当に嬉しいわ。
 でも――」

 とても幸福そうな笑顔を浮かべながらも、静かに広がるのは。
 湖面の波紋のように広がる、あまりにあたたかな(・・・・・)殺気。
 あまりにも情の深さを感じさせるが故に、女と対峙したことが無ければソレが殺気であると理解出来るまでに間を必要とする事だろう。

「もう、ほんとにお月様は素敵ね!
 わたしだけじゃなくて、この子の事もちゃんと覚えててくれるなんて。
 安心して――別になにを間違えたわけでもないのよ」

 そういうとやはり微笑む。

「ただ――少しだけ気が変わったの。
 この件だけど、わたしがぜーんぶ片付けちゃおうかなって」

 その言葉は陽気で温かみがあったが――冗談ではない鋭さを孕んでいた。

「だからもし、わたしのお月様が、知りたい事があるなら。
 ――実力行使で、わたしに語らせてみて?
 もちろん、ただの模擬戦。
 お互いの命に危険がない事は保証するわ。
 怪我だってしないし、させないわ」

 そう、女は少女に宣う。
 

緋月 >  
「…………っっ!」

ぞわり、と、首の後ろから、総毛立つような感覚。
最初に彼女と遭遇した時が「戦闘」であった事に、この時ばかりは感謝せずにはいられなかった。

刀を手にした彼女から、ゆっくりと広がって来るのは、間違いなく殺気。
その気は…信じられないが、心が安らぐものだ。知らない者には、穏やかさすら感じられる筈。だから恐ろしい。

「……何か、私に知られては不都合な事か、理解し難い事が。
あったという事ですね――先生。」

心を落ち着ける為に、一度息を吐いてから、半ばの確信を持って、そう口にする。

……あの蒼い少女程ではないが、目の前の女性も、割と距離感がおかしい人だ。
正直、底が知れない所はあるが、悪い人ではないとは思っている。でなければ、あそこまで自分に良くしてくれる
理由が分からなさすぎる。

その先生が、「自分だけで全部片づける」と言い切って、尚且つ知りたければ力づくで語らせろと言うなら。
これまた考えられる予想は大雑把に二つ。
一つは「自分が知っては都合の悪い情報が存在していた」。
一つは「そもそも知るべきではない、知る事が後戻りできなくなる、致命的な何かを含む情報だった」。

だが、いずれにしろ。

「……与り知らぬ所で、勝手に片付けられるのは、本意ではありません。

少々申し訳ないという気持ちはありますが――――」

すらり、と刀が白塗りの鞘から解き放たれる。
三日月の如き白刃が、光を反射し、輝く。

緋月 >  
「お言葉に甘えて、力づくでも聞かせて貰います。」 

ポーラ・スー >  
「まあまあ!
 お月様ってば、本当に情熱てきね!」

 少女の答えに、無邪気な声で歓喜する。
 本当に真っすぐな少女だと、女は嬉しくてたまらない。

「それじゃあ、そうねえ。
 ――ひとつ、わたしに勝てたら情報と推測を教えてあげる。
 ――ふたつ、わたしが勝ったらあなたは此の件を諦める。
 全部、夏が魅せた幻と思ってね」

 シンプルな、けれど理不尽な条件を提示し、ゆっくりと瞳を閉じる。

「勝敗は、そうねえ。
 致命傷に繋がる一撃を与えるか、相手を完全に制圧する事。
 もしくは、相手が降参したら終わりにしましょう。
 異能と魔術の使用も無制限。
 あなたの全力と踊らせて頂戴?」

 そう言いながら、ゆるく、その手は異貌の刀の柄を握る。
 その姿勢は力みなく立っているだけであり、構えのような物は一切ない。

「剣士としては負けちゃったけど――」

 すぅ、と瞳が開くと、その深淵めいた青は。

「――■■■■■と、愛刀『神山舟(かやふね)
 あなたの挑戦を全力で受けるわ」

 少女に意味だけは伝わるだろう、異界の言葉で名乗り。
 弾むような声で、心から嬉しそうに宣言した。
 

緋月 >  
「――――承知、しました。」

小さく、きり、と歯が擦れる音。
力を込め過ぎて、皹が入ったりはしていない。少し安心だ。
だが――これで、「敗ける」事は許されなくなった。
敗ければ、総てが己の知らぬ形で片付けられてしまう。
それだけは、承服できない。何としてでも、勝たなくては。

「……。」

ちゃき、と、己が半身が音を立てる。
構えは中段と共に最も親しんだ八相の構え。

「宵月壱刀流、緋月――」

その名は偽りのもの。
機界魔人との戦いとは、状況が違う。
本来の流派名は、まだ己が名乗る事は許されていない。

――――いざ、参る。

瞬間。
ざん、と、「一歩」の音と共に、無形の位に近い立ち方で向き合っていた和服の女に、書生服姿の少女が迫る。

(先生の手の内が見切れない以上、長期戦は不利――最大限の速度で、決着をつける!)

それでも、まだ「数歩」が足りない。
故に、

(……「斬月」!)

ひゅ、と、鋭く軽い音と共に振り抜かれた袈裟懸けの一太刀。
そこから斬撃を「飛ばし」、その距離を詰める!

(あーちゃん先生ならもし当たっても、致命傷は避けられると思いますが…大怪我になっちゃったら謝ります!)

そう、心の中で呟くが、その実、その一刀は一切の手心無し。
本気の「殺意」が載った、飛翔する月――。

ポーラ・スー >  
「――そうこなくっちゃ!」

 嬉しそうに、友人と戯れるような声をあげる。
 少女の名乗りは勇ましく、それでいて愛おしい。

「まずは――縮地法からの『斬月』
 本気だけど、全力じゃない。
 そこは『新しい斬月』が正解よ」

 不可視の斬撃は、女には辛うじて『視える』
 その形は美しい月のよう。
 速さと鋭さは十分。
 けれど、一手で女を仕留めるには、純粋に『破壊力』が足りない。

「――ego sanctuarium deus est.(わたしこそが理想郷)

 必殺の月は、女の前に展開されるヒビ割れた聖域に阻まれる。
 そして同時に、異国の言葉で紡がれる詠唱。
 居合のように素早く滑らかに引き抜かれた『神山舟』には――刀身が無かった(・・・・・・・)

「足元には注意してね」

 明るく放たれた言葉。
 少女が縮地法で踏み込んだ先には、それまでなかったはずの大きな水溜まり(・・・・)
 ソレは、少女の踏み込みを待っていたとばかりに、青白い無数のトゲを生やす。
 その全てが人間を串刺しに出来る長さと鋭さを持っていた。
 

緋月 >  
「く――っ!」

…悔しいが、先生の指摘は正しい。
確実に勝負を決めにいくつもりであるなら、「斬月・醒」を使うのが正解だった。
だが、アレはあまりにも斬れ過ぎる。
どうしても、対人戦闘で直接攻撃に振るうには躊躇いが出てしまう。
結果、斬月は罅割れた聖域に止められ、消えてしまう。
そして、抜かれたのは、刀身のない刀

(刀身が、ない…しまっ――――っ!)

反射的に軽功法を使わなければ、恐らく足をぶち抜かれていた筈。

「……容赦がないですね…!」

荒く息を吐きながら、棘の一本の先端にブーツのつま先で乗りながら、そう一言。
軽功で自身の体重を限りなく軽くすれば――そう、例え人を串刺しに出来る棘でも、「舞い落ちる羽毛一枚」は
貫く事は非常に難しい。

「ならば――!」

しゃん、と口から小さく鈴のような音。
同時に、書生服姿の少女を中心に赤い色の蓮が咲くような光。

『第一蓮華座、開花――。』

同時にふわり、と棘から飛び降り――再び地に降りた次の瞬間、回転のぞき絵(ゾートロープ)のような動きの、しかし圧倒的と言える
数の多さの残像で以て、書生服姿の少女は棘だらけの水たまりと聖域を囲むように走り始める!

「……界断チ(界ヲ断ツ)!」

放つは、ほぼ全方位からの界断チの連打――に加えて、「揺らぎ」と「停滞」を乗せた斬月!
界を断つ一撃に、斬り裂く範囲が不規則に揺らぎながらその場に停滞し続け、間合いを滅茶苦茶に
荒らす、性の悪い併せ技!