2024/08/16 のログ
■ポーラ・スー >
「あら」
文字通り、身軽に避けられてしまえば、感心したような声がでる。
そして迷わず切り札の一つを切った少女に、満足そうな笑み。
『神山舟』の収納は間に合わず、女の『劣化した聖域』では押しつぶされる。
判断と行動は思考より早い。
『神山舟』を上空へ打ち上げつつ、女はまた一つ、異様な力を行使する。
少女の動きに合わせて、女は不規則な斬撃の嵐の中で、ゆったりと舞った。
「――Abyssus abyssum invocat.」
再びの詠唱は、直後、女の周囲に渦巻くように舞う、紅い羽根を無数に喚び出した。
そして、そこから全てを灰に変える地獄の炎が吹き上がり、外へと広がっていく。
無数の月を呑み込み燃やし、消し飛ばす。
空間制圧に対し、広範囲の攻性防御で対応してみせた。
「速さと数の圧倒的な制圧。
すばらしいわ、それが初手なら満点だったわね」
素直な賞賛。
嫌味でも皮肉でもなく、人間相手に躊躇を振り切った戦術を褒める。
しかし、女の異質であり異様な手札を打ち破るにはあと少し足りない。
吹き荒れる炎が消えゆく中、その中央で女はす、と、指を頭上へ向けた。
「さあ、次が最後。
――わたしの想い、ちゃんと受け取ってね」
そう言った瞬間、訓練所を青白く輝く光が覆う。
まるで水晶のようなドームが訓練所を包みこむ。
「――Numquam tui a lacrimis.」
直後、女の足元から雷光のごとき閃光が迸る。
一条の閃光は、水晶の壁に当たるたび、その数を増やしながら乱反射していく。
それは、言うなれば無差別飽和殲滅攻撃。
光の速さで乱反射する閃光は、針のように細いが、避けるか防ぐかをしくじれば、瞬時に蜂の巣にされるだろう。
■緋月 >
「はぁ、はぁ――正直、遊ばれてるみたいで、やりづらいですよ…!」
界断チによる防御領域の破砕は何とか成功した。
だが、斬月で張った包囲は炎によって消し飛ばされてしまう。
流石にこれで決着となる程、上手くはいかなかったか。
荒い息と共に、悪態が口からこぼれて出てしまう。
(――流石に、これ以上蓮華座を開く訳にはいかない。
蓮華座の解放は諸刃の剣…底のまるで見えないあーちゃん先生に、全開放で挑んで
刺し切れなかったら、私の敗けが確実になる…!)
無論、宿命の発動など以ての外だ。
以前の「誓い」もあるが、アレを使えば確実に病院送り。
相打ち狙いなら兎も角、それが達成できなければ敗けるしか道が無くなる。
「さ、最後……?」
どういう意味、と問い質すより先に、異常が目に映る。
まるで水晶で出来た、屋根のようなフィールド。
そして、
「な――っ!?」
先生の足元から放たれた閃光。
それが、水晶の領域に当たる度に、数を増やしていく。
1つが2つに、2つが4つに、4つが8つに、16、32、64――まだ増える!?
「うぅっ――――斬月・醒!」
直線とは言え、光は「流れ」。
その軌道を流斬で以て斬る事は、容易い。
だが、刀一本で倍々勘定で増えていく閃光を捌き切れる訳がない。
故に、斬月・醒を使って手数を増やすが――
(だ、駄目…全く、追い付かない…!)
飽和殲滅攻撃に、斬月・醒の弱点が露呈する。
それは、あくまでも「最初の斬撃を追いかけて来る」形で、多数の不可視の斬撃が発動する事。
必然的に、即時の発動とはならず、発生が遅れる。
「ぅ、ぅぅっ――――!」
可能な限りの速度で刀を振るい、斬月を放ち続けるが、どうしても発生する「穴」を通って、何本かの閃光が
身体を掠め、身体に傷を作っていく。
このままでは、完全に、ジリ貧。削り斃されるのを、先延ばしにする事しか出来ない。
(最初の判断が、失敗だった…!
あそこで躊躇わずに斬月・醒を使ってさえ、いれば――――)
腕に痛み。少し深めに抉られた。刀を振る速度が落ちる。
このままでは――――
(せめて――――――
せめて、もっと一気に、広範囲を、一太刀で斬れたら――――!!)
■緋月 >
『っ、ああぁぁぁぁぁ――――――ッ!!』
■緋月 >
――――それは、身体を閃光に貫かれる痛みに非ず。
蓮華座開花の反動による経絡損傷の痛みにも非ず。
ただ、「より広い箇所を斬りたい」という一念が頭脳と精神を満たした事で、更なる階梯を登った、新たなる月。
瞬間。
蒼い剣気を纏った一太刀を、少女が振るうと同時に。
水晶の領域全体に、「月」が舞う。
只人には見えず、見えぬモノを見る事が出来る目でなくては目撃できない、青白き月。
その正体は「斬撃」。
水晶の領域全てを満たして尚余りある、多数の斬撃が、刀を振り抜いた少女を中心に幾多にも奔る。
最早数え切れぬ数と化していた閃光を。
その閃光を生み出していた水晶の領域を。
食い破り、斬り裂かんとする、斬撃の嵐。
――それでいて、その中に巻き込まれた筈の和服の女性には、傷一つ残さぬ、奇怪なる月。
■ポーラ・スー >
「ほらほら、頑張って。
あら――もうそれでは足りないわ」
女は必死で閃光を切り払う少女を、水晶のドームの中心で、励ますように応援する。
それは余裕の表れではなく、ただ、己の必殺に正面から抗ってくれる事が嬉しいが故。
それでも、少女の手札ではこの『妖精の舞踏』を打ち破れない。
「ふふ、わたしのお月様は諦めないわ。
きっと打ち破ってくれるのよね」
過剰すぎる、どこまでも大きな好意による期待。
同時に、冷静な判断力が算盤を打つ。
(どうかしら。
あなたの限界はここまで?
それとも――まだ、その先へ行けるの?)
少女の持つ、自滅的手札を切れば女の技の全てを凌駕できる。
けれど、少女はそれをしない――出来ない。
だとしたら。
少女が女の『最後の攻撃』を踊り切るには――。
(――ここまでかしらね)
閃光を切り払う速度が、精度が落ちていく。
すでに乱反射する光は世界を埋め尽くそうとしている。
無我夢中で踊る少女は、ついに力尽き――なかった。
それはまさに無我夢中。
たった一つの意思の元に振るわれた一刀は、あまりにも美しく。
(もう――これだから)
口元が緩んで仕方ない。
雑念の一切を振り切った一撃は、一であり、無数。
閃光の全てを引きちぎり、水晶の全てを削り、砕く。
無数の流体に戻った『神山舟』は、さらに次の手をくりだそうとし――
「――終わりよ」
主の感情の一切が抜け落ちた声に、何の現象も起こさず、雨のように床へと落ちて行った。
「――合格よ、わたしのお月様」
女が心から嬉しそうに言葉にする。
同時に少女をヒビ割れた聖域が包んだ。
そして、光に焼かれた傷をゆっくりと癒していく。
「とても素敵だったわ。
それだけの想いがあるなら、きっと大丈夫ね」
そう微笑んで、女は少女へと近づいていく。
そして――少女が知りたがっていた情報を、あまりにもあっさりと。
それこそ、まるで世間話でもするかのような調子で。
「総合怪異監査部は、既に存在しない。
とある怪異との戦闘で、事実上の全滅をしたわ」
そう、あまりにも穏やかに平常に。
「蒼春千癒姫は――すでに死んでいるわ」
■緋月 >
「――――っ、はぁ、はぁ…は、ぁ……っ…!」
刀を振り切り、只一太刀で、空間を満たす無数の斬撃。
それは、「真なる醒」を迎えた、新たなる「斬月」。
名付けるならば、「斬月・真」。
(……今のは、いったい…。
必死になって、刀を振って――「斬月」で、視界が、満たされて……っ、痛っ…。)
経絡系が、悲鳴を上げ始めた。すっかり忘れていた。
蓮華座を、閉じなくては。
(……第一蓮華座、閉門。)
ひゅう、と、風が吹くような音が書生服姿の少女の口から洩れ、赤い光が閉じるように収束し、消える。
次の瞬間、蓮華座開花によるブーストが解け、疲労感が一気に襲い掛かって来る。
「っ、はぁーーっ…、ふぅ…。」
ぺたん、と、外聞もなくその場に尻を付いてしまう。
傷の痛みもあるが、それ以上に消耗がきつい。
(……本当に、無我夢中だった。
同じ事をもう一度やれ、と言われても……ちょっと、無理そうですね…。)
恐らく、負けられないという気負いと追いつめられた事による限界の一時的な突破に蓮華座開花の影響、
窮地に追いやられて皮肉にも極限まで念と集中が極まった事で、今の「空間を満たす斬月」は目覚めたのだろう。
言わば火事場の馬鹿力染みたもの、己の意志で繰り出すには、修練がまだ足りない。
「――ぁ、ありがとう、ございます……。」
不意に体を抉られた苦痛が和らいだと思ったら、皹だらけの空間が自分を包んでいる。
それが、先生が作り出したものだと分かり、少々疲れが残る謝礼の言葉が出て来る。
「大丈夫……それは、いったい――――」
こちらに歩み寄り、微笑みを浮かべながら、世間話のように口を開く和服の女性。
あまりにも自然過ぎて、一瞬、
言われたことが、頭に入って来なかった。
総合怪異監査部は、既に存在しない。
とある怪異との戦闘で、事実上の全滅。
蒼春千癒姫は、すでに死んでいる?
■緋月 >
「――――は? え……?」
■ポーラ・スー >
「ふふ、驚いた?
でもね、お月様」
そして聖域を解いて、少女の頬に両手を添える。
「――これが事実。
蒼春千癒姫は、書類上、生死不明の行方不明。
けれどその後の捜索に於いても目撃証言は得られず」
そう、ゆっくりと。
全てを呑み込むような深淵の青が、呆然とする赤を見つめる。
「それにもかかわらず、あなたの元へ蒼春千癒姫を名乗る少女が訪れた。
――なんの前触れもなく」
理解の追いついていない少女の、強張った表情が愛おしい。
このまま壊してしまいたいほどに。
「ねえ、お月様――」
月は欠けてしまうだろうか。
翳り、光を失うだろうか。
「あなたが会った蒼春千癒姫は、本物かしら、偽物かしら。
人間かしら、それとも――」
いずれにしても。
「生きているように装った――屍人かしら」
少女は、夢から覚めなければならない。
■緋月 >
「せいし、ふめ、い?」
何を言われているのか、理解が追い付かない。
「目撃、証言――みつからなかった、て――。」
深く、青い瞳が、見つめ返してくる。
深淵が、見つめ返す。
「――だ、って、まえに、あそびに、いったり…した、のに。」
――うそだ、と思いたかった。
だけど、この人は、何の意味もなく嘘をつく人では……ない。
「………蒼雪さん…あお、ゆきさん、――――」
あんなに元気そうだった、あの人が。
にせもの? しんでいる?
――――死人?
うそだ、と、騒ぎたかった。
取り乱して、泣いて、ぐちゃぐちゃに、なってしまいたかった。
だって、あんなに元気だったあのひとが、にせもので、死んでいるなんて――――――――
――
――――
―――――――――
ちりん、と、頭の中で、鈴の音が、鳴る。
■緋月 >
『お前が道に迷う事があれば、再びここを訪れるがよい。
その時は、吾が力を貸すと約束しよう。』
■緋月 >
「――――!!」
ふわ、と、イグサの香りがする風が、吹いたような気がした。
その幻のような感覚に、崩れかけた正気が揺り戻される。
赤い瞳に、僅かに、力が戻る。
「…………。」
――――まだ、迷いがある。
あそこに向かう覚悟が、まだ持てない。
「………すみません。
少し、時間を、ください。」
小さく俯き、そう口走る。
その声は、和服の女性に向けられたようにも、此処にいない誰かに向けられたようにも、聞こえた。
■ポーラ・スー >
「あら――」
確かに少女は、一時、その心を崩しかけた。
幻想的な月が現実という名の狼に呑み込まれようとした。
けれど、少女は辛うじて、確かに踏みとどまっていた。
「ええ、時間はあるわ。
この件はどこにも報告していないもの。
けれど、わかるでしょう、愛しいお月様」
そう言いながら、そっと少女の頭を撫で、胸元へ抱き寄せる。
「知った以上――決着は、あなたが着けないといけないわ」
静かに少女を撫でながら、言い聞かせる。
普段の少女なら、女の胸から命の音が聞こえない事に気づくだろう。
けれど、今の少女にそんな余裕はあるだろうか。
「言っている意味は、わかるわよね?」
それは、必要ならば少女自身の手で『蒼春千癒姫』を斬れという意味であり。
それが出来ないのであれば。
然るべき措置が、いずれ少女の知らぬところで執られるという意味であった。
■緋月 >
「――――はい。」
声に覇気はない。
だが、自失に陥っている程に力を失っているものではなかった。
「………っ。」
頭が、和服の女性に抱き寄せられる。
何故か、聞こえるべき命の音が感じられない。
――だが、今はそれを問い質すべき時ではない。
「――――。」
無言で、小さく頭を動かす。
肯定の意を示す、小さな動作。
……頭では分かっていても、心は苦しかった。
思わず、ぐっと目を閉じてしまう。
ほんの一粒。
一粒だけ、涙がこぼれて、落ちた。
ご案内:「訓練施設」からポーラ・スーさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から緋月さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
「───……」
訓練施設、畳が敷かれているエリアで瞑想中の完璧超人姉。
普段とは印象も変わる道着袴姿でそれなりに周辺からの視線を集めたりもしているが、
そんな些細なことに精神を揺らがせる程未熟ではない…。
呼吸での身体の動きすらも殆どなく、無論呼吸音もほぼ聞こえない。
静───、と。
まるでその場所だけ無音の空間に切り取られたかの様な雰囲気である。
自宅の道場での鍛錬も良いけれど、たまにはこういった施設を利用するのも気分が違って良い。
ご案内:「訓練施設」にシアさんが現れました。
■シア > 「……?」
訓練をしたい、というわけでもないがなんとはなしに覗きに来た。
以前はあまり人がいなかったが、今日は賑わっているようである。
ただ、妙なことに何も訓練もせずただ何かを見ているだけの人溜まりがある。
音の感じからして、別に組手などをしているわけでもなさそうである。
「……なんだろ」
気になって見に行ってみると、ただただじっと座っている女の子が一人。
体の動きも、呼吸も、ほとんどない。
ほぼ完全に近い、無。
「……へえ?」
じっと、その様子を眺める。
おそらく、かなりの腕前なのだろうな、と想像しながら。
ふと、ポケットの中を探り……中から小さな葉っぱを取り出す。
それを、ふっと彼女に向かって飛ばした
■伊都波 凛霞 >
視線を一新に受けつつも、瞑想を続けている凛霞はただただ、静かに佇む。
そこに現れた好奇心旺盛な少女の―――悪戯なのか、それとも何かを試したかったのかはわからない。けれど。
「───」
空気の流れを変える程でもない、文字通り木の葉は宙を舞い、瞑想を続ける少女の元へ…。
少女を注視している衆目の中には、それに気づいた者もいただろうか。
ぴっ。
しかし葉っぱは、少女の元へと辿り着く前に、どこかへ消えた。
瞑想する少女は微動だにしていない…ように見えただろう。
ただ…、薄く片目を開けて。
「…もう、誰?」
苦笑しながら、そう声を発していた。
掲げて見せた指先…人差し指と中指の間には、消えた筈の葉っぱが挟まれていて。
ちょっとした、どよめきと感嘆の声が衆目から漏れる。
■シア > 「……おお」
小さな声を上げる。
高速……いや、神速の手さばきで葉っぱが掴まれる。
「……」
誰、と穏やかな誰何。
もちろん、やったのは自分。それ以外が名乗り出ることはないだろう。
そして、きっと瞑想する少女に方に興味を向けていた者たちは、自分のしたことに気づいてもいないだろう。
黙っていれば、気づかれない……?
「……」
様子見で、少し黙ってる
■伊都波 凛霞 >
小さく嘆息。
と、同時に葉っぱを手にしたまま、数瞬目を閉じる。
キーン、と耳鳴りのような音が頭の中へと響き…。
瞼の裏の闇に映し出される、少女がふっ…とこちらに葉っぱを飛ばした光景。
瞳を開き、辺りを見渡せば少女…シアへと目線が合って。
「あんまり、鍛錬中の人に悪戯はしないようにね」
私はいいけど、そう付け加えると笑って、少女へと葉っぱをひらりと飛ばして見せる。
綺麗に空気の流れに乗ったそれは、シアの元へと舞い戻ってゆく。
■シア > 「……ぉ?」
確証を持った目線、確証を持った声色と言葉。
疑念もなく自分を犯人と特定した
気配とも思えない。見ていたとも見えない。
とても、奇妙な事態だ。
「……ごめん」
舞い戻った木の葉を自然な手つきで回収する。
そこには神速も高速もなかった。
「だったの、鍛錬?」
小さく首を傾げた。
■伊都波 凛霞 >
座った姿勢で少しだけ緩んだ帯を直しつつ、立ち上がる。
言葉とは裏腹に特に怒った様子も、邪険にするような雰囲気も見せない道着袴姿の少女は、シアへと自然な動作で歩み寄る。
無音の空間にも思えた緊張感は解け、眺め見ていたギャラリーも少しずつ、各々の訓練に戻っていくようだった。
「あはは、私は少し瞑想してただけだから大丈夫。
鍛錬…といえば鍛錬になるのかな?精神鍛錬」
くすりと笑って、少し変わった喋り方?をする子だな、なんて思いながら。
「どうしてキミってわかったか、不思議?」
なんだかちょっとだけ得意げに思える笑みだ。
■シア > 少女が立った。それを合図にしたかのように、周りの観客たちもそれぞれに散っていく。
まるで少女が指揮を取ったかのような……もちろん、そんな事実はない。
ただ、そういったような……奇妙な空気感を纏っていた。
「そうやるんだ、精神鍛錬って。
……瞑想?」
自分はあまりそういうことをしたことがない。
瞑想……聞いたことがあるような、ないような。
「……ん。不思議」
得意げな笑みを見て、改めて首を傾げた。
「閉じてた、目を。見てなかった、誰も。
当たった、でも。なかった、適当でも。」
自分の感じた奇妙さを口にする。
「……探偵?」
■伊都波 凛霞 >
「そ、説明するのはちょっと難しいけど、そんな感じ♪」
先ほどまでの凛然と佇んでいた雰囲気とはがらりと変わって、快活でまるで跳ねるような明るい口調の少女。
「探偵…とはちょっと違うけど」
「一応風紀委員で刑事課のお仕事はしてるかな?
さっきのはね、物に宿った残留思念を読んだんだよ。私の異能」
時間軸的に近いものであればあるほど読みやすい。
葉っぱに残った直前の記憶は、少女の手によって自分へと放り流された光景。
遠ざかるシアの姿がばっちりと、脳裏に再生されたのだ。
特に自分の異能を隠しているわけでもない少女はつらつらと、そんなことを口にして。
「ふふ、便利でしょ?」
■シア > 「……難しそう」
緊張し凍りついたような雰囲気は溶け去り、暖かい陽光のような空気感に変わる。
そんな少女の言葉に、小さく首を傾げて返した。
「聞いたことある、風紀委員。警察みたいなもの、この島の。
……みた、初めて。人のよう、普通の。」
じっと見つめる。まるで珍しいものを見たかのようである。
風紀委員がそれはもう特殊な存在だと思っていたのだろうか、と思えるくらいに。
「……異能。読む、残留思念を?
良さそうだね、犯人とか探るのに」
それなら警察のような仕事をするのに向いているのだろう。
さきほどの腕前とも合わせて、納得の行く話である。
「便利、うん。色々あるんだね、異能も。
ないと思ってた、闘うようなのしか。」
少し考えるようにする。
「……なくても強そうだけど、闘う異能とか」
■伊都波 凛霞 >
難しそう、と言葉を返す少女にこくん、と頷いて。
効率非効率はあれど、ある程度がむしゃらでも成立する肉体鍛錬とはやっぱり少し違う。
武道や武術…という分野だからこその鍛錬でもあるのかもしれない。
「け、結構普通の人もいたりするよ?」
少し変わった喋り方の少女、でも言葉は瞭然としていて読み解くのは簡単で。
はじめて風紀委員を見た、普通の人みたいだ…という意味合いの言葉に苦笑する。
うーん、まぁたまに機動兵器を身に纏ったりしているのもいるけど!
「そうそう。犯人の追跡とかに大役立ち♪
異能は色々あるね…それでやっぱり悩んだりする人もいたりするよ」
誰かと比較して役に立たない力。
人が持つには危険過ぎ力。
制御できず、重荷にしかならない力。
価値観はそれぞれだけど…今のこの世界において異能の力は己のアイデンティティーの一つに成り得る要素。
「闘う異能がなくても強そう? 私が? うーん、そんな風に見える?」
謙遜をするつもりもないけど、あまり言われないのでちょっと意外。
あ…でもさっきの葉っぱの件もあるか…と思いはするものの。
■シア > 「でも。精神鍛錬するの、なんのために?」
また首を傾げる、
精神鍛錬の必要性が、微妙に理解できない。
だからこそ、なおさら難しそうにも見える。
「いるの、普通の人。そうなんだ。」
どこか意外そうだったかも知れない。
万魔殿かなにかでも想像していたとしか思えない。
それは果たして警察組織と言えるのだろうか……言えるかも知れない
「悩む? どうして、便利なのに?」
また、首を傾げる。
便利な力に悩む、ということが理解できない。
「見える。異能だけど、見抜いたのは。
でも。貴方の技量だよね、葉っぱを取ったのは。
それに。目の運びも、さっきの」
自分の放った葉っぱを取るときの技。自分を探り出すときの目の運び。
どちらも並一通りのものではなかった。それだけで人間性能が見て取れる。
「……見えないけれど、隠してるようにも」
誤魔化したいから、そういう質問になったのだろうか、と少し考えてみた。
しかし、それなら先程の動きは矛盾している気もする。
■伊都波 凛霞 >
「んー…そうだね」
精神鍛錬の必要性。
たまに道場で子供達に説いたりもするけど…。
「武道の側面として礼儀や礼節、健全な精神と肉体の育成…みたいなのもあるけど。
実戦面的な意味でいうなら、想定外の状況に慌てず落ち着いて対応できる…冷静に保てる…とかかな?」
やはり説明するのは難しい。
心が乱されれば本領を発揮できない…。ということはなんとなく伝わるかも。
悩むことがわからない、という少女。
自分の口元に指をあて、それはね…と。
「力なんかいらない人もいる。
自分が欲しかった力とは違う力をもった人も。
努力で手に入るものじゃないから、かもしれないね」
いらない力を持ってしまったり。
欲しい力を持てなかったり…。
でもそれは、何にしても力を持った者の意識…でしかないのだけれど。
──眼の運び、そして技量に言及されれば苦笑を返す。
「ほら、立場的にも実力は隠したほうが便利だったりするから、ね」
異能については得意げにしてみせていたりはしたけど、ある種それも隠れ蓑。
真の爪は隠したまま…元々余りひけらかすような性格でもないのだろうけれど。
「にしても、よく見てるね。いっぱい見てる人はいたけど…そう見えてたのはキミくらいかも?」
■シア > 「ん……」
こくこくと相槌を打ちながら話を聞く。
礼儀、礼節、は学べば良いもの。健全な精神と肉体……は、精神鍛錬で学べるものなのかは、よくわからない。
ただ、なるほど
「大事だね、冷静さ。わかるかな、それは。
できるんだね、ああいうのでも。」
冷静さは必要だ。それを欠いてしまっては生き残れない。
それを、瞑想という手段で磨ける、というのだけは少々意外だが……
瞑想の様子を思い出して、頷く。
「いらない、力が。手に入れるものじゃないから、努力で……」
反芻して考える。否応なしに与えられたものに悩む。
ある意味、贅沢な悩みでもある。
しばし考えたが
「あるんだね、そういうことも。
受け入れるしかないと思うけど、あるなら。
シビアというかドライというか。もしくはそれ以外の言い方が当てはまるだろうか。
そんな感想を述べた。
「そうなんだ、やっぱり。隠したいんだね、少しは」
想像したとおりではある。それなら、もう少し行動を考えたほうが良いのでは、とは思う。
「そう? 葉っぱ投げたし、ボクが。
ずっと見てた、だから。」
それが理由じゃないのかな、と少女は応える。
■伊都波 凛霞 >
「まぁ、具体的に数字とかで表せるものじゃないから、なんとなくの部分も多いけどね」
実際瞑想をしたからといって明鏡止水の境地に到れるかと言えばそうでもない。
難しいものである。精神鍛錬。
「争いを嫌う人が人を傷つけることにしか使えない力を手に入れたら…みたいな。
そしてそれを自分で制御することもできなかったら、きっと悩むと思うな」
極端な例だけどね、と付け加えて。
受け入れようとして、受けいらられない。
そんな人だって、そんな中にはいるのかもしれない。
「反射神経とか動体視力とか。
多分そういうのが良くないと見えなかったと思うんだけどな~。
そうそう…少しは隠しておかないと、誰が見てるかわかんないからね」
あれくらいは見せても問題ない範疇…ということなのかもしれない。
「いい眼、してると思うよ。
…あ、私、伊都波凛霞、二年生の風紀委員、よろしくね。貴女は?」
色々話す中でお互いの名前も知らないことにふと気づいて、自己紹介。
ついでにせっかく知り合ったのだしと、よろしくねの握手を求めて手を伸ばしてみる。
縁を大事にしたい少女、名前を知っているとまた会える気がするから。
■シア > 「ああ……見えるものじゃない、確かに」
冷静指数、なるものがあればいいのかもしれない。だが当然、そんなものがあるわけもない。
そうなると、効果があったかどうか、などというものはどこぞの宣伝番組並に"個人の感想"でしかなくなる。
やはり、難しいものだ。
「ん……そう、か」
想像もつかないが、自分の意に反するもの、制御し得ないもの。
そういうものならば、困る、のかもしれない。
「ん……」
反射神経、動体視力。
その単語に聞き覚えはないが、なんとなく会話の内容から人間性能の話だと察する。
そういえば、そうなのかもしれない。
「ボク? シアだよ、ボクは。
一年生、ただの学生の」
どこかの部活や、どこかの委員会に所属しているわけではない。
ただ、一般学生である。
「え、と……ん」
握手のために出された手に、軍手の手を差し出した。
■伊都波 凛霞 >
なんとなく、そういうものがある…といったくらいのことはわかってもらえたのかもしれない。
だとしたら、それで十分。
未見のものというのは存在をそこに感じるだけで未知ではなくなる。
未知でさえなくなれば、自然とあとは生きているだけで情報が補完されてゆくもの。
好奇心旺盛そうな彼女ならきっと、そこから色々な知見を得てゆくのだろう。
「シアちゃんだね。一年生…多分、年下…なのかな?」
この島だと外見情報があまり役に立たない。
年齢がどうこうというわけでもないけれど、ちゃんづけがどうかな、とも思った故。
軍手を嵌めた手を差し出されれば、全くそれを気にすることもなく満面の笑顔で手をって、きゅっと握手。
「♪」
たかだかこんなことが実に満足そうである。
「一応私のほうが先輩、みたいだし」
「何か困ったこととかがあったら何でも聞いたり相談してね♪」
■シア > 「ん……」
上から下まで相手を見る。
女性としては高めの身長、整った顔立ち、大きな胸。穏やかな物腰。
総合して考えて、年上として判断して間違いはなさそうである。
「多分、年下」
こくりと頷く。別にそこにこだわる理由もないのだけれど、相手は気にしそうである。
「そう。助かるかも、ボクは来たばかりだし。
それに。初めてあったし、風紀委員。」
実際には自己紹介されていないだけど、風紀委員の人もいたかも知れないが。
自分がしっかりと認識したのは初めて……で、いいはずだ。
「え、と……よろしく?」
小さく首を傾げながら挨拶をした。
■伊都波 凛霞 >
多分、年下。
そう答えてもらうと実に柔和に微笑む。
特に年下だから~というわけでもないけれど、お姉ちゃんをやっている身としてはなんとなく
年下の子にはお節介を焼きたくなってしまうところもあり…。
じゃあ、ちゃんづけでも大丈夫かな?と少しうれしい。
来たばっかり、と聞けばへぇ…と少し驚いて。
「そうなんだ、じゃあわからないことだらけかな…?
まあ、この島は学園のシステムがしっかりしているから、生活に不都合はないと思うけど…」
なんとなくそれで好奇心旺盛と感じたのかもしれないなぁ、なんて。
「うん!よろしくねシアちゃん!」
握った軍手越しの手を小さくシェイクハンド。
手を離すと、はっとしたように小走り、近くにあったスクールバッグから学生手帳を取り出して戻って来る。
「連絡先、交換しちゃお♪」
持ってる?と一応確かめて…。正規学生なら、多分貸与されている…はず!
■シア > 「……?」
凛霞の思惑は、当然にして眼の前の少女に伝わることはない。
ただ、先程までよりも笑みが柔らかく気持ちがより籠もったことだけはわかった。
そして、伝わったことと伝わっていないことの間で、少しだけ首を傾げた。
「うん。教えてくれなかったし、じいさまも。
生きるのは平気、どこでも。でも確かだね、便利なのは。」
知らないことは多い。その分で戸惑うことや首を傾げることも多い。
ただ、生きる分には今のところも困ってはいない。
便利さばかりを享受しているわけでもないが。
「?」
握手をしてから、急に走り出した凛霞の様子に首を傾げる。
急用でも思い出したのか、と思って様子を見ていたら同じかそれ以上の勢いで戻ってきた。
「連絡、先……?」
初めて聞く言葉だ、というような様子を見せる。
ただ、凛霞の持ってきた学生手帳は理解ができる。
なんだかわからないが、それを使うことなのだろう、と察する。
「……え、と……これ?」
ごそごそとジャージの内を探って、学生手帳を取り出してみせる。
■伊都波 凛霞 >
なんとなく。
わからないことで、知りたいことはちゃんと聞いてくれる子だな。なんて。そう感じる。
じいさまから教わっていない、と首を傾げる少女。
だから多分、わからないことのほうが多いのだろう。
無理にあれこれと懇切丁寧に説明するよりも、彼女が、シアが知りたくて問いかけることに答えてあげるほうがいいかな。
そんなことを思いつつ…。
「そ、連絡先。
うーん、なんていうのかな…学生手帳を使ってやりとり出来るの。便利だよ?」
ジャージの中から取り出された学生手帳。
えっとねー、と、シアの横へと並び立ちながら。
こうでこうで、こう…。なるべくわかりやすいように連絡先の交換なんかのやり方を教えてみよう。
必然距離も近くなって、ふわっと香る、そこまで主張の強くない、柑橘系の香水の香り。
「…よし、これでオッケーかな…?
もし何かあったら、いつでも連絡してきて♪」
ぱた、と手帳を閉じて、人懐っこい笑みでそう告げる。
困ったこと、わからないこと。
今すぐにはなにもないかもしれないけど、いざという時には頼ってもらって大丈夫!
そんな、ちょっとした先輩風。
■シア > 「やりとり……学生手帳で……
文……?」
またもや、わからない、と首を傾げることになる。
便利な電子機能を備えた手帳について、説明はあっただろうがイマイチ理解をしていなかった模様。
やりとりができる、もどこまで理解していたのか。
「……ん」
横に並んだ凛霞から説明を受ける。
どうにも、今どきの知識に欠ける部分があるようだった。
様々に首を傾げながらにはなるが、ただ飲み込み自体は早い。
「こう、か。覚えた、うん。
連絡……わかった」
こくり、と頷いた。
その頃にはだいぶ使い慣れた様子になっていた。
「……果物?」
そして、ぽつり、と香水の匂いに言及する。
なにか持ってる?とでもいいたげな様子であった。