2024/11/02 のログ
ご案内:「訓練施設」に緋月さんが現れました。
緋月 >  
「ふぅ――――――。」

訓練施設の一角。
道場めいた訓練所の中で、人型のターゲットを前に息を整える書生服姿の少女。
相変わらずの暗い赤の外套(マント)姿だが、訓練とあれば普段は手にしている筈の
愛用の刀は、刀袋に収まったまま、腰に差してある。

その手には木刀もなければ、竹刀もない。
凡そ、刀といえるものを持っていない。
つまりは、無手。

そのまま、ゆらりと独特な構えを取り、

「……ふ――っ!」

ぱぁん、と破裂するような打撃音と共に、ターゲットに打ち込まれたのは、掌打。
更に、狙いを変えて二撃、三撃。
そのたびに、破裂音のような小気味良い打撃音が響き渡る。
 

緋月 >  
「……よし。」

更に数回。まるで思い出すような形で掌撃を打ち込み、一段落すると息を整える。
再び構えを取り直すと、今度は袴の裾が軽く揺れ、

「はぁっ!!」

掌打よりも重みのある、炸裂するような打撃音。
人であれば、こめかみの辺りに向かうような鋭い蹴り上げ。
それを右、左、右…数回程、調子を戻すように繰り返して、

「――せいやぁっ!!」

炸裂音が、二度。僅かな時間差を置いて連続する。
思い切り放った蹴りの反動を用いて自身を回転させ、逆側から二発目を叩き込む、連撃。
今度はそれを更に二度、三度と繰り返していく。
長らく動かしていなかった体の動かし方を思い出すような、特訓の仕方。
 

緋月 >  
「――――ふぅ。」

技が身体に馴染んだ事を確認してから、一息ついて小休止へ。
両手を軽く握り、開き、また握り直し。
今度は脚を、軽くとんとんとつま先を叩いて調子を確かめるような動き。

「……意外と、覚えてるものですね。」

ぐ、と力を入れ直す。

剣術ばかりが自身の引き出しではない。
通常の無手流派とは異なる体系だが、徒手の技も使える。
最も、今までは身体を解す為に軽く使う程度で、此処まで本格的に使う事はなかった。
そもそも、刀さえあれば充分に戦えるのだ。
いちいち無手を使う必要性はない。

――と考えていた、過去の自分を軽く殴ってやりたい所だ。

(……世の中、何が起こるか分かりませんからね。
「何か」が起きて慌てる事になる前に、引き出しは増やして置かないと。
精々護身程度でしょうけど、刀が使えない状況も考えなくては。)

まあ、詰まる所。
「予想外の事態」への備えのようなものである。
その道の達人には劣るだろうが、それでも「陰技」として無手の技は学んだ中に存在する。
それをしっかり復習して、いざという時に困らないよう、身体に馴染ませて置こう、という考えだった。
 

緋月 >  
「……よし。」

短めの休憩を終えると、再びターゲットに向かい合う。
再び構えを取り直し、今度は少しの「溜め」を入れる。

瞬間、ゆらりと両手に陽炎のようなゆらぎが起こり、

「…はぁっ!!」

放たれた掌打は、先程以上の破裂音を立てる。
先の掌打は単純な打撃、今回は「気」を上乗せして放った一撃。
当然、重さは異なってくる。
同じ勢いで打って、通常以上の威力。使わない理由がない。

強いて難点を挙げれば、気を練り、高める為に時間が要る事。

「…短い時間で載せられるかが、課題ですね。」

暫くは、この基本形で練気への慣れと速度の向上を訓練してみるのがいいだろうか。
そうと決まれば、後は試行錯誤を伴っての反復練習あるのみだ。

――そうして、訓練所に重く、炸裂するような打撃音が、定期的に響いていく。
 

ご案内:「訓練施設」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
木偶に掌打を只々打ち込み、
()まず弛まず積み重ねる。
あけすけと、不意に"視線は"勤勉なる背を撫でる。
沙汰も無く、忽然と在りけり。
何くれど、と言う訳も無し。
揺らぐ陽炎、何時しかいた一人の男が、
(うろ)の双眸に映しけり。

緋月 >  
「――――っ。」

最後の一打ち。それを打つ瞬間。
不意に、背後からそれを感じる。

(見られている…!?)

瞬間、混ざった雑念が気を揺らがせ、放った掌打の立てた音は…破裂する音ではあったものの、
その勢いは、それまでの気を込めた打撃のそれよりも「軽い」。

「……。」

ふ、と小さく息を吐く。
突然感じた視線、それに気が付かなかった鈍さ、「視られた事」に
気を乱してしまった集中力の不足。
どれを取っても、己の未熟故の結果。
気配を感じられなかった事は兎も角として、視線を向けられただけで乱れる集中は
純然たる己の未熟以外の何物でもない。

(……これは課題ですね。)

反省しながら、一度息を整え、視線の主を探し、目を向ける。
 

紫陽花 剱菊 >  
(たくま)しゅうと空が爆ぜる。
張り詰める気配は少女の気に在れど、
自らが気配を気取られては、僅かに"乱れる"。
何くれどと、口を挟むつもりも無し。
ごく自然と、男の姿は景色に溶け込んでいた。
自然体。気を取らねば、見逃すほどごく自然と、佇んでいる。
少女の真後ろ。何時ぞいたか分からぬほど、背を見守っていたのだ。

「……どうも」

(うろ)と赤が交差し、男、剱菊(こんぎく)は一礼。
口元に二本指。異邦の国、故郷の習わし。

「何時ぞやと見かけた後ろ姿とお見受けした。
 つい、其方(そなた)の打ち込みを眺めていたが……邪魔をしてしまったか?」

いわんや、乱れと気配は折しも同じ。
思わず知らずと顔を見せた刻の問題。
御目文字(おめもじ)合わず、声音に滲みしは申し訳無さ。

緋月 >  
「……あ、確か氷柱割りの催しの。」

顔を見ればすぐに思い当たる。
数ヶ月前の、氷柱に入った景品を、氷柱を割って取り出すという催しもの。
その時に見た顔に相違ない。

(…というか、忘れられる訳がないですよね…。)

氷菓子(アイスキャンディー)の棒七本で、硬い氷の柱を霜にまで斬り裂いてのけた腕と技。
忘れようとしても、忘れられるモノではない。
あの時は自身の未熟を痛感したものだ。

「いえ、邪魔という訳では…。
確かに気配も感じなかったのは驚きましたが、それで「気」が乱れたのは、単純に私の未熟ですから。」

視線ひとつで乱れる集中力と気では頼りにならない。
もう少し、その辺は「図太く」ある位にはなれなくては、とは思うのであった。

「……学園の、関係者の方だったのですか。
初見では分からなかったもので。」

見立てでは凡そ20代半ばか、それより多く見積もっても30の坂は越えていないように思える。
若手の教員、と思っても無理はない見た目だ。

勿論、生徒であるなどという考えは書生服姿の少女にはまったく浮かんではいないのだった。
 

紫陽花 剱菊 >  
「如何にも。其方も皆も、良き手前だった」

涼を取る催しにて、遠近(おちこち)とすれ違い。
互いに皆が力を、技を披露する催し成れば、
斯様、皆手並みは確かなもの。剱菊は静かに頷く。

「……斯様、(うずたか)く積み上げし鍛錬(モノ)を、
 其方が何処に向けているかは存じ上げぬが……然るに
 戰場(いくさば)成れば警戒不足。肝も随分と繊細と感じる」

此処が戦地成れば、気づくには余りに遅く、
訓練足れば視線如きで気を乱すとは余りに繊細。
貶めるのでは無い。一介の戦人(いくさびと)としての感想也。
然れど此処は乱世に非ず。似合わぬ言葉に自ら否、と首を振る。
艶やかな黒糸が、はらはらと揺らめいた。

「すまぬ。斯様な言葉では無かったな……」

求めし言葉とは違うはず。
彼女が一介の学生で在れば。

「良く言われる。……異邦の地より罷り越した。
 名を紫陽花剱菊(あじばなこんぎく)。公安委員会所属の一生徒……」

隠密機関の一員と自ら明かす。
斯様、組織の特性故自らの出自を明かさぬ者もいる。
然れど、剱菊は明かす事に意味を持っていた。
あけすけと名を名乗り、今一度立てた二本指と共に、一礼。

緋月 >  
「……いえ、仰る通りです。
普段使っていない、使う機会のなかった技を、身体に思い出させる為の修練とはいえ、
視線一つで集中が乱れてしまうのは…偏に、私の未熟でしょう。
流派の本筋ではない、刀の使えぬ時の為の「陰技」とはいえ…いざという時に乱れては使い物にならない。」

ぐ、と右の手を握り締める。
今回は戦いの場ではなかった。ならば、見られていようが気にせず乱れず、一打を打ち切るべきだった。
戦闘前提の特訓であれば、もっと周囲に気を張り、気配に敏感になり、何者かの
気配を感じた時点で素早く対応に移れるようにするべきだ。
とりあえず、この二つは課題である。

「ご丁寧に、どうも。
緋月と申します。夏休みの明けから、こちらに正式な生徒として通わせて貰っています。」

名乗りと礼を受ければ、返すが道理。
こちらも礼儀正しく一礼。

(……学生、学生…!?
いや、私も17で1年生ですけど……。)

明らかに成人は通り越しているであろう、黒き武士に、内心は驚愕しつつも
必死に声に出す事を我慢している書生服姿の少女であった。
 

紫陽花 剱菊 >  
ふ、と僅かに綻ぶ剱菊の口元。

「心眼もいらぬな。其方(そなた)の言いたい事はわかるぞ。
 ……私のような異邦人も居れば、斯様"地球"とやらには、
 時を同じくして良しとせぬ境遇の者々(ものもの)もいる」

「人を選ばず、とも成れば私が生徒でも不思議ではあるまい。
 何、私も同じくして、其方(そなた)と同じことを思ったものだ」

斯様学園の門に草分けは無く、お膝元は兎角(とかく)十人十色。
若人在りては老人も学園の輩也。十色の綯い交ぜ。
ほんの数年程度の在籍だが、思う事は同じ。

「…………」

斯様、島には数多に渡る武芸者がいる。
催しより見た技の数々、少女が一介の武芸者と存じている。
在りていに言えば、違和感。斯様地球は、乱世では無い。
(うろ)はじ、と赤を見据える。

「……其方(そなた)(いくさ)に身を置く予定があるのか……?」

個人の鍛錬、己の生末として綺羅を飾るの成らばまだしも、
似合わぬ言葉に頷く少女には、有り体に言えば違和感を覚える。
斯様、此度の地は乱世に非ずば、何と目指すのか、と。

緋月 >  
「う…そんなに分かり易かったでしょうか、私…。

いえ、まあ…斯く言う私も、異邦の者です。
今でこそそれなりに世間一般の常識といったものは心得ていますが…もし、里から出て間もなくに
この地に流れ着いていなければ、特に疑問も抱かなかっただろうと思います。」

最初はちょっと気まずそうな、ウサギのマスコットじみたバッテン口を浮かべそうな
雰囲気で答えながら、そう回顧しつつ、言葉を紡ぐ。

やはり、里の外の事を知った「一年間」は、大きい。
それがなければ、世の中の常識というものを知る事もなく此処に放り出されれば…

(……少し、考えたくはないですね…。)

…どんな騒動を起こしていたのか、正直考えたくはない。
下手をすれば、それこそ落第街でしか過ごせない身分になっていてもおかしくなかった、とも思う。

そして、ストレートに黒き武士からの質問を受ければ、少しばつの悪そうな雰囲気。
ちょっと、余計なことを口にし過ぎたかな、と思ってしまう。

「……色々と、事情がありまして。
私的に、ある方の護衛役(ボディガード)を依頼されているのです。
――守秘義務、ということで、詳しい事情は明かせませんが、決して
後ろ暗い事ではないと、ご理解頂ければ。」

真実は伏せ、だが嘘は吐かず。
……公安委員会という存在については、以前の同居人であった風紀委員である女生徒から
概要ではあるが聞いている。

下手に話して介入されたら、色々と大変だ。
この御仁については悪い人ではない、とは思うが、それでも無暗に事を明かすべきではない。

「…そういう訳で、もしも無手で戦わざるを得ない場合を考えて、こうして訓練を、という訳です。
勿論、これを使う機会が来ないなら、それで良いのですけれど。」

ぐ、と拳を握り、軽く息を整えれば、拳には揺らめくような、炎のような「流れ」。
拳を解けば、それはたちまちに霧散して消え去る。
 

紫陽花 剱菊 >  
「顔に書かれていた。……否、冗談だ」

戯れである。
成る程、先輩風とはこういう事か。
学生身分剱菊。妙な文化(?)を身を以て体験し、
ほんのり感じる高揚感。斯様、戦以外阿呆であった。

「其方も同じか。同郷……否、まさかな。
 斯くも私も似たようなものだ。故郷を追い出され、流浪の身。
 幽世(かくりよ)の知も無く、此の地の者の情けに救われた」

必定成れど、流れた地で朽ちるのを待つ身。
然れど此の地の生徒の暖かさが刃に人の温もりを、
心を与え、此の地しかと両足を付けた。
恩義一つで、自らの身を陰に落とすことも厭わず。
奇しくも、斯様手を差し伸べる者がいなければ、
或いは外道に堕ちるのやもしれぬ。

「結構。必要と在らば調べるのみ。
 ……ともあれ、骨の折れる仕事と見受ける」

単純明快。
影の目は如何なる場所にも潜んでいる。
然れど、無闇矢鱈程ではない。
此度罷り越したりは、紫陽花剱菊個人也。

「……成る程。其方の剣技の一片は拝見させて頂いた身。
 "気"を使った打撃……か?……卒爾(そつじ)乍、剣以外は不得手、と?」

揺らぐ陽炎、(うろ)が追う。
剣だけでは足りぬと言うか。
力を持ち得し自覚が在りしこそ、身に覚えがある。
果てなき坩堝。一寸先は闇。自然と、表情も強張った。

「……、……時に、其のぼでーがーど……?とは個人か?群か?」

些か発音が怪しいのは御愛嬌。
思う所は在れど、剱菊も一介の武芸者。
弛まぬ武の積み重ねを止めぬが故に、
充分であろうなどという戯言、口に出すのも罷りならぬ。