2024/07/28 のログ
ご案内:「常世学園占星術部怪奇譚『泥田坊』」に水仙 倫太郎さんが現れました。
ご案内:「常世学園占星術部怪奇譚『泥田坊』」に竜胆 襲さんが現れました。
水仙 倫太郎 >  
常世学園某日 夜。
今日はやたらと星星が見える明るい夜空。
欠けた月と星のカーテンが荘厳だ。
そんな雰囲気と相まって、夜の青垣山は嫌に不気味だ。
月明かりも届かない、鬱蒼とした獣道。
熱帯夜のどろりとした嫌な湿気と熱が肌を撫でてくる。
一応冷却用の魔法道具(マジックアイテム)を衣服裏に貼り付けているが
それでも妙に蒸しっぽいのはこの雰囲気のせいなのだろうか。

「やたらあちー……襲、大丈夫か?」

ため息交じりに隣の少女に声を掛ける少年。
常世学園占星術部の本来の目的である怪異退治の時間だ。
此の未開拓地の山奥に、怪異の気配と事実を裏取り、現在二人で移動中。
行く手を遮るような雑木林を軽く腕で薙ぎ払いながら、隣を心配しているようだ。

竜胆 襲 >  
少年の後を歩くのは、占星術部の部長である少女。
霊糸で編んだ制服の上には黒い該当を羽織った、いつもの夜間活動用の服装。
傍目には暑そうにも見えるが、あらゆる魔術にも精通した彼女のこと、暑さなどどこ吹く風、と言った様子。

「私はなんとも。倫太郎くんこそ、大丈夫ですか」

青垣山…この島の中でも怪異が数多く巣食うエリア。
普段は生徒への被害を考え学園周辺の怪異を人知れず討伐しているが、今は夏季休暇中。
こうやって時には足を伸ばし、危険を事前に排除したりもする。

「暑さよりも、山道のほうが大変です…ふぅ……」

整備もされていない獣道。
普通に歩くだけれも、それなりに危険が伴い大変である。

「魔術もあるので大丈夫とは思いますけど…遭難したら冗談では済まないですね。来た道、わかってますか?倫太郎くん」

水仙 倫太郎 >  
パタパタとジャケットを揺らしてはためかせる風が心地よい。
ふぅ、と一息つけば平気、なんて軽く答えた。

「寧ろなんかお前の隣涼しい気もしてきたし、余裕。
 ……まぁでも、だからこそ怪異ってのが湧くのかもな。」

人目につかず、人の手もつかない。
怪異にすこぶる詳しい訳では無いが、根を張るには丁度いい場所だ。
特に此の常世学園において未開拓地かつかつての神社だってある。
そういう場所が集まりやすいに越したことはない。
軽く枝をかき分けながら、愛しい彼女をエスコートだ。

「キツいんなら運んでくぜ。体力はまだまだ余裕だし……えっ?」

体力、体担当水仙倫太郎です。
但し頭脳の方は高いとは言えない。
帰り道のことを聞かれると素っ頓狂な声を上げてちょっと目をそらした。

「ま、まぁ山道だしな!下ってけばそのうち……お……。」

そんな話をしている内に、段々と道が開けてきた。
木々の隙間から僅かに見えるボロボロの木造建築は廃村の一部。
未開拓地、かつて常世島にあった何かの名残だろう。
ただ、ここから見てるだけでもでろりとした、いい知れない嫌な空気を感じる

「……あそこだぜ、襲。」

自然と、倫太郎の顔も引き締まった。

竜胆 襲 >  
「…湧くだけならいいですが、育って人里に降りてくれば害になる可能性も捨てきれません。
 見つけたら、その片端から必滅に処するのが一番ですね」

行き過ぎにも聞こえる台詞。
しかしさらりと少女はそれを口にし、少年…倫太郎の隣を少し遅れでついて行く。
草木だらけの獣道、かき分け道を作る役を彼に任せているのは、少し忍びないけれど。
自分のために率先してそうしてくれていることが理解るから、それを止めるのも無粋だ。

「運ぶ…までは大丈夫、ですけど。
 ……はぁ。そう思って魔術式のマーカーを記しておきました…」

優しく活動的な彼だが、雑ろいうかなんというか。時に勢いだけで行動する節があるようにも感じる…。
それに助けられることも多いから、どちらが良いとは言えないのだけれど。

歩み続け、ようやっと開けたエリアに出れば、広がる光景はとある廃村のような小さな集落。

「…気配は感じます。正体は"視て"みないと、掴めませんが」

外套の下、忍ばせた漆黒の金属をきゅ…と握りしめる。

水仙 倫太郎 >  
「まぁ、本当に悪い怪異ならそーするべきだが……、……。」

昼と夜の彼女は雰囲気ががらりと変わる。
初めてではないし、彼女の背景を考えればそうなってしまうのも必然だ。
ただ、何処となく冷ややかな物言いだけは好きになれない。
神妙な面持ちになってしまったが、今は何か言うのも野暮と言うものだ。

「さっすが襲!ま、そのマーカーが無駄に成らねーようにしないとな。
 とりあえず行こうぜ。何にせよ、行ってみないとわからねぇ。」

虎穴に入らずんば虎子を得ず。
大口開けていようとも行かねば正体すらわからない。
まずは率先して少年が獣道を抜け、開けた廃村へと踏み込んだ。
辺りに転々とある木造建築。かつては家として機能していたのだが
最早天井もなく、壁も何もかもはがれ放題。
旧時代の名残なのか、食器や何かの用具の風化したものが見える。
かつて、そこには人が生活した痕跡が見えるが、もう生活感の欠片もない。
土地も荒れ果て、雑草だって生え放題だ。廃村、自然の一部に還っていった。

「この島にこういう場所もあるんだな……。
 廃墟マニア?っていうのか?そういう奴らなら喜びそうな場所だが……。」

夜の雰囲気。否、そこに"いる"何かの気配のせいなのだろう。
全体的に重苦しく、息を吸うだけでも重く喉に伸し掛かる。
全身に吹き出す冷や汗は、きっと暑さのせいだけじゃない。
ふぅ、と一息つきながら平常心を保つ。

「……さて、この空気の大元は何処だ……?」

訝しげに少年は辺りを見渡す。
生憎、そういった機能も探知力も無い。
ただ、襲の瞳には淀み、空気の流れともいうべきだろう。
そんな怪異が"いそう"な気配が、廃村の奥まで流れているのが景色に映っているのがわかるだろう。

竜胆 襲 >  
「良い怪異は、人間の前に姿を見せない怪異だけです。倫太郎くん」

言葉を濁す彼にはピシャリと一言。
善悪の基準なんて曖昧なものよりもずっとはっきりとした、禍祓いの少女の答え

率先して道を抜ける彼を追い、自らもまた廃村へと踏み入る。

「危険を顧みず撮影に入る配信者なんかもいそうですね…。そういう痕跡はなさそうですけど」

漂う重苦しい雰囲気は、普通の廃村とは思えない。
ここを住処にする何かがいることは明らかで……。

「………」

辺りを見渡す。
日が沈み登った月を移した様な黄金色の瞳が、"淀み"を探す…。

「……奥にいる気配はします。」

無策で踏み込むのは危険かも、と付け加えようとして、口を閉ざす。
策がなくともそこに怪異がいるならば殺さねばならない。
夜の彼女は強い使命感を持ち、行動する。それが、危険よりも進むことを優先させた。

水仙 倫太郎 >  
「それはちょっと言いすぎな気もするけどなぁ……。」

何とも言えない表情で頬を掻いた。
なんだかんだと少年の根っこはこの時代においても寛容気味。
種族、性別。そういった垣根を超えて受け入れる。
勿論悪い事を許すつもりはないが、人道に乗っ取るものならきっと怪異でも許してしまうのだろう。
最も、そんなに怪異と遭遇したわけじゃないし、倒した奴は皆恐ろしい存在だった。
彼女の言うように、人前に出てこない怪異が良い怪異なのかもしれない。

「或いは、全部痕跡ごと消えちまったか……考えたくはねぇけどな。」

彼女の理論で言えばそれに当てはまる。
余り考えたくはないが、怪異絡みでなくても事件が起きるような場所だ。
学園の名を呈した島国。何が起きても不思議ではない。

「よし、なら俺が先を行くぜ。」

先陣を切るのが己の役目。
パシッ!と拳と掌を合わせて気合を入れた。
やる気充分。文字通り、肉体が固く、強くなるのがわかる。
彼女を背に村の奥へと進むと、乾いた大地が徐々に泥濘んで行く。
土から泥へ。滑らないように向かう先には、"影"がいた。

「……いたぜ。」

泥田坊 >  
其処に佇むは泥土ばかり。
まるで泥細工のように創られた大きな人形。
有に二人の身長は越しているそれは、人の形をした怪異也。
一つ目の泥人形。蕩けた泥の手足で顔を覆い、うめき声。
否、慟哭ともいうべきであろう。怪異は泣いていた。
妖気とも言うべき文字通り泥土のような空気は漂っている原因ではある。
然れど、襲少女の()には根源は此れではなく、別の流れも見えるが果たして……。

竜胆 襲 >  
「倫太郎くんは、優しいですから」

言い過ぎであるという言葉にはそんな返答。
優しいが故に、そう思うのだと…。
言い換えれば器が広い、とも評価されているのかもしれない。

「どちらにしても私達がすべきことは一つ。
 怪異を見つけ、殺すだけです」

やること自体は実にシンプル。
過去にその怪異が犯した罪や、積み重ねた犠牲は関係ない。
これから犯す罪や、これから犠牲が積み重なる可能性ごと刈り取るのが己の使命である。
外套の下で手に握る漆黒の勾玉に力が籠もる。既に怪異は、近い。

──先に目視したのは、彼。倫太郎だった。

「………」

嘆き、呻き声をあげる泥人形。
なぜ泣いているのか。否、そんなことよりも。
異なる流れがその中に見える…襲の燐光眼はそれをはっきりと確認する。

「…無防備ですね。さっさと始末しても良さそうですが…少し怪しい、でしょうか」

音もなく、襲の手に鈍色の刃鎌が握られる。
少女が手にするには余りにも物騒な形状のそれは、少女が怪異にとっての死神であるとも言える武器──。

「とりあえず斬って考えてもいいかと思うのですがどうしましょう」

怪しい点もあるためすぐに襲いかかることはしなかった少女。
………すごく、我慢しているようにも見える。

泥田坊 >  
ぼとり、ぼとり。
まるで腐り落ちるように泥が絶え間なく落ちていく。
地を肥やすように泥は広がっていき、乾いた大地を潤した。
ひとえ、耕しているようにも見える。地慣らしである。

『返せ……返せ……』

男とも女ともつかない奇妙な声。
二人にも言語と理解出来る故に声である。
然れど、耳を撫でる音は人が聞くには不愉快。
敵意なく、唯嘆きに浸る泥土の中。
じんわり、じんわりと泥土は広がるばかり也。

水仙 倫太郎 >  
「……殺す、ってもなぁ。これいきなり斬るのちょっと罪悪感。
 つーか、コイツ泣いてるだけっぽいぜ?俺達に敵意も無いみてーだし……。」

確かに怪異であることには違いない。
人とは相容れない、不気味さはその声で理解する。
ただ、確かにハッキリと敵意はない。
いくらそういう存在と言っても、問答無用で襲いかかるのは気が引ける。

「一旦、話位は聞いてもいいんじゃねぇか?
 話が通じるかはわかんねぇけど……。」

それこそ何か理由があるなら、それを解決したほうが手っ取り早い。
そのうえで襲うなら退治するしか無いが、そうじゃないならそれがいい。
今、彼女が理性を持って我慢している今しかないだろう。
ステイ、ステイ、と彼女の肩に手を添えて落ち着くように促している。

実際、もし放っておいたらこの泥は何処までも広がるだろう。
人の手がほぼ付いていない未開の地だ。
地面が泥濘み続ければ地すべりと行った災害も起きかねない。
確かに、放っておくことは出来ない存在ではある。

「おーい。泥っぽいの。おーい……、……ダメだ、聞こえてねェ。」

そんな傍らで気づいたら声をかけに行くコミュ強。
何時の間にか怪異の前で手を振ったり、剰えその泥の肩を叩いたりしてみる。
しかし、反応はなく嘆くばかりだ。無理っぽい、と襲にお手上げポーズ。
怪異の流れ、気配。この怪異とは別の悍ましい流れは入り乱れている。
ただ、よく集中を凝らせば廃村の奥。雑木林に別の流れが続いてるのが重ねの目には見えるだろう。

竜胆 襲 >  
「………」

小さく溜息。
優しい彼がそうなるのは見えていた。

「…でしたら、倫太郎くんにお任せしますけれど…。
 おかしな行動をとったらすぐに刈り取りますから」

泣いてるだけ、に見えるだけ。
敵意がないように見えるだけ。
害がないように見えるだけ。
疑いは無限にあるが、自分が気を張っていればそうなっても大事には至らないだろう…。
そんな考えの下、一端刃を収める。

「…って、ああもう…普通に話しかけに行く人がいますか…?」

慌てて、声をかけにいった少年の後を追う。
その途中、雑木林へと続く淀みの流れを、視る。
一目で気づけたのは、夜という環境で襲の燐光眼が最大限に力を発揮している恩恵だった。

「………」

声をかけにいった少年を追う足さえ止めて、黄金色の視線は流れの先…雑木林の奥へと向けられる……。