2024/06/24 のログ
ポーラ・スー >  
「あらあら、とっても丁寧なご挨拶だわ。
 こちらこそ、改めまして、よろしくね?」

 同じように姿勢を正し、膝の上で両手を重ねて静かに礼をする。
 とても礼儀正しい少女だと、ついつい釣られてしまった。

「あらそうなのね、早く怪我が治ると良いのだけど」

 剣士が剣を持てないのは、とても大きな損失だ。
 見た目には元気そうになのが、なおさら気力や体力を持て余していそうに見えた。

「危険な状態は抜けたみたいだけれど――心配よね、『剣士ちゃん』」

 そう、まるで少女が見舞いたかった相手を知っているような口ぶりで。

「ふふっ、驚かせちゃったらごめんなさい?
 わたしも、その子のお見舞いに来たの。
 あなたが『剣士ちゃん』の同居人さんよね、緋彩ちゃん――『ひいちゃん』って呼んでもいーい?」

 と、どことなく無邪気で人懐っこい笑みを浮かべながら。
 

桜 緋彩 >  
「ええ全く。
 この状態では剣を振るどころか日常生活にも不便ですので」

包帯グルグル巻きの腕では、稽古どころか入浴すらままならない。
実は見た目よりも割と良くなかったりするのだが、何しろ身体も心も頑丈なので大したことが無いように見えているのだろう。

「――ふむ。
 私がお見舞いをしようと思った人物は確かに剣士ですが」

顎に手を当てる。
確かに剣士だ。
テンタクロウと戦って、未だ意識が戻っていない、異世界の剣士。
それはまぁ、ニュースにもなっているから知っている人が居てもおかしくはないだろう。

「ですが、彼女が私の同居人、と知っているのはそんなに多くはありません。
 風紀委員ならば知っているでしょうが、あなたは違う」

どうしてそれを知っているのか、と。
じ、と赤黒い瞳を彼女に向けて。

ポーラ・スー >  
「それは大変だわ。
 気持ちが逸っても、怪我が治るわけじゃないものねえ」

 袖口で口元を抑えながら、気遣うように両腕の様子を見る。
 少女のしっかりとしている様子からも、そこまで重傷に見えないが、日常生活にも不便と聞けば目を丸くした。

「――まあ」

 赤い色に見つめ返されると、少しだけ困ったような顔をした。

「わたしね、生活委員会でも働いてるの。
 だから、新しく寮に出入りしている子が居れば、それなりに素性を確認しなくちゃいけないのよ。
 事件が起きたら風紀委員さんのお仕事だけれど、そうならない様に整備や管理をするのは、わたしたちのお仕事だもの」

 そう話して、委員会の仕事で知ったのだと説明する。

「だから、あなたが風紀委員さんとして、『剣士ちゃん』を保護しているのを知っているの。
 それに『剣士ちゃん』とも色々お話ししたのよ。
 わたしの恥ずかしい秘密も見られちゃったし――ああ、思い出しただけでも恥ずかしくて泣いちゃいそう」

 そう言いながら、顔を赤らめて両手で頬をおさえた。
 

桜 緋彩 >  
「なるほど。
 そういうことならば、そうなのでしょう」

生活委員ならばそうだろう。
そもそも同居人は生徒登録の申請をしているところだし、それは生活委員の仕事でもある。
自分が彼女を保護しているのを知っていてもおかしくはないだろう。
確かに、筋は通っている。

「――では何故急に彼女の名前を出して来たのですか?」

それが本当だとしても、初対面でいきなり自分と彼女の関係を知っている、と言うことを匂わせてくる理由にはならない。
目を細め、僅かに腕の位置を変える。
武芸の心得が無いとわからないような、しかしそれがあるなら戦闘態勢半歩手前と気付けるだろう。
意識的に、敢えて圧を隠さずに。

ポーラ・スー >  
「――あら」

 鋭い圧を感じながら、口元を抑えて小さく声を漏らす。
 それでも怖じる様子はなく、柔らかく微笑む。

「あなたたちと、お友達になりたの。
 『剣士ちゃん』もとってもいい子だし、『ひいちゃん』も、こうしてお話しして、とても実直な子だってわかったわ。
 最初は生活委員として、教師として、『剣士ちゃん』の手助けをしてあげたいのが一番だったけど――」

 そう言ってから、両手を合わせて、花開くように笑う。

「折角こんなにいい子たちなんだもの。
 ちゃんと仲良くなりたいって、思っちゃったのよ。
 驚かせちゃったのは、ごめんなさい。
 でも、あなたとお近づきになる話題が思いつかなかったの」

 笑顔から一転、心底申し訳なさそうに、目を細めて薄っすら潤んだ蒼い瞳で少女の赤を見つめた。
 

桜 緋彩 >  
「であれば、最初からそう仰るべきですよ」

流石に圧は引っ込めるものの、視線は緩めない。
こちらは風紀委員、しかも現場で違反学生をしばきまわしている身なのだ。
どこで逆恨みを抱かれているか分かったものではない。

「ヤクザが人を脅す時のやり口を知っていますか?
 脅す相手の交友関係や家族構成などを調べて、例えば小学校に入る前の子供がいれば、入学に合わせてランドセルを送り付けるそうですよ」

それは暗に「お前のことは調べあげている」と言うメッセージになる。
更に言えば「いつでもお前の周囲の人間に危害を加えられる」と言うメッセージでもあり。

「――私からすれば。
 先ほどの先生の言葉は、それと同じです」

引っ込めた圧の代わりに、表情に彼女を非難するような色を滲ませて。

ポーラ・スー >  
「まあ――そんな怖い手口があるのね?
 流石は風紀委員さんだわ、それじゃあ、怖い顔されちゃっても仕方ないわね」

 そう言いながら、目を伏せて、落ち込んだ様子を見せる。
 それから口元を袖口で覆いながら、そっと、横目で覗き見るように少女を伺い。

「それじゃあ、もう、仲良くは出来ないのかしら。
 わたし、『剣士ちゃん』もあなたも、とっても気に入っちゃったのよ?
 でも、知らなかったからって、そんなに怖い事をしちゃってたのなら、仕方ないわよね」

 それから目元を拭うような仕草をして、すん、と鼻を鳴らす。
 まさか自分がそんな事をしていたなんて、と、すっかりショックを受けているようだ。
 

桜 緋彩 >  
「流石にそこまでとは思ってはおりませんが」

ふう、と息を吐いて顔を少し緩める。
一体どちらが先生なんだか、とちょっと思った。

「――まぁ、こちらも職業上警戒せざるを得なかっただけなので。
 謝っても貰いましたし、気になさらずとも大丈夫ですよ」

少し困った様な笑顔で応える。

ポーラ・スー >  
「――まぁ!」

 少女の答えを聞いて、ぱあ、と花が咲いたような笑顔が途端に戻る。
 本当に嬉しいのだろう、両の袖口がひらひらと揺れている。
 きっと病院でなければ飛び上がっていたかもしれない。

「まあまあまあ!
 許してくれるの?
 とぉっても優しいのね、『ひいちゃん』」

 無邪気な、童女のような喜び方をして、ついつい大きな声を上げてしまう。

「それに、笑顔がとっても素敵だわ、愛しい『ひいちゃん』。
 ふふっ、女の子のちょーっと困った顔って、とっても可愛いく見えるのよ?
 今のあなたは、まるで花開く直前の蕾のような愛らしさだわぁっ」

 そんな興奮した、歓喜の声が静かなロビーに大きく響いてしまうだろう。
 まさに、一体どちらが教員なのかわからないありさまだ。
 ただ、このような子供っぽさが、初等教育には必要なのかもしれない、と、言えなくもない、のかもしれない――?
 

桜 緋彩 >  
「せ、先生、その、病院ですので」

大きい声がロビーに響く。
当然周りの患者さんとか看護師さんからの視線が集まる。
そちらにすみません、と頭を下げて、先生の方へ視線を戻して。

「あの、静か、静かに……」

この人、脅したりとか悪気があったりとかするわけじゃない。
単純にこう、子供っぽいだけだ。
どうどう、と落ち着くように促す。

ポーラ・スー >  
「――あらっ」

 少女に落ち着くよう言われて、恥ずかしそうに頬を染めた。
 周囲にそっと頭を下げてから、少女の方に向き直った。
 なお、周りの医療スタッフの反応は『ああ、またポーラ先生か』というような様子だった。
 どうやら、嬉しい事があると毎度こんな調子なのだろう。

「ごめんなさい、ちょっとはしゃぎすぎちゃったわ。
 でも、『ひいちゃん』がいけないのよ?
 わたし、いまとーっても嬉しいんだから」

 薄く頬を染めたままの笑顔で、少女に向けて童女のような教師は両手を差し出す。

「握手――は大変そうだから、手を合わせましょう?
 子供たちとよくやるのよ、仲良しのしるし、だったり、大事な約束をしたり。
 手の平合わせはね、とっても素敵なおまじないなの!」

 そう言って少女に自分の両手のひらを向ける。
 蒼い瞳は、少女が手の平合わせをしてくれると、信じて疑っていないような期待に満ち溢れている。
 

桜 緋彩 >  
いやそんな「なんだあの人か」みたいな反応してないでちゃんと注意してくださいよ。
そんな意志を込めた視線を、医療スタッフへ飛ばしておく。
ギュッと強めの目つきで。

「――いや私は悪くないでしょう」

ちょっとだけげんなりした顔。
病院で子供みたいに騒いで、しかもそれはこっちが悪いと言ってくる
子供か。
大人だった。
マジかよ。

「はあ、まぁ握手でも構わないのですが……」

火傷をしているのは二の腕から先の外側が主だ。
動かせば多少突っ張るが、逆に言えばその程度である。
とは言え気を使ってくれるならそれに越したことはないので、彼女の掌にこちらの掌を合わせよう。

ポーラ・スー >  
 抗議の視線にも、病院スタッフたちは微笑みながら去っていくだけだった。
 この世に救いは無いのかもしれない――

「わるいのよ、だって、わたしをドキドキさせるんだもの!」

 ぷう、とむくれて、唇を尖らせる。
 まるっきり子供のそれだ。
 それでも、少女が手の平を合わせてくれれば、再びご機嫌な笑顔に変わる。
 くるくると、直ぐに表情が変わるのだった。

「ふふっ、『ひいちゃん』はホントに素敵な女の子なのね。
 『剣士ちゃん』もとっても愛らしい子だったけれど、あなたも負けず劣らず、とーっても愛らしい女の子だわ!」

 今度は小声だったが、嬉しさを抑えきれていないのはまるわかりだ。
 そして、合わせた手の平をそっと放すと。

「あのね、『剣士ちゃん』の状況だけども、もう危ない状況からは落ち着いたみたいよ。
 きっと、近日中に目が覚めると思うわ。
 担当医さんにあなたにすぐ連絡が届くようにお願いする?
 あ、職権乱用とかじゃないわよ、わたし、別に偉くないもの。
 ほんとうに、ちょーっとだけお願いするだけ!」

 『だから捕まえないでね、風紀委員さん』なんて、おどけながら。
 先ほど問答していた中で得た情報と、自分に出来る事を提案する。
 

桜 緋彩 >  
「それは、どうも、ありがとうございます」

素敵、と言われて素直に頭を下げる。
とは言えこの先生の様に手放しでほめてくる人はあまりいないので、ちょっと戸惑うのだけれど。

「いえ、それには及びません。
 目が覚めてもまだしばらくは入院は続くでしょうし、私も通院しますので。
 退院の日はともかく、目を覚ましただけで先生方にご迷惑をおかけするわけにも」

片手を掲げて大丈夫、と。
確かに一緒に住んではいるが、ある意味でそこまで心配はしていない。
彼女は結構頑丈だし、命に別状はないと言うことは聞いている。
自分が通院している間にタイミングが合えば顔を見せるぐらいで良いだろう、と。
そうこうしていたらポケットの中でスマホが震えた。

「失礼――あぁ、すみません。
 行くところが出来たので、失礼いたします。
 ――先生もあまりお医者様や看護師さんにご迷惑をおかけしないよう……」

見れば、研ぎに出していた刀が仕上がったとのこと。
テンタクロウとの一戦で随分と刃零れしてしまっていたから。
立ち上がり、深々と一礼。
そして先ほどの彼女の様子を思い出し、少し顔を近付けてそんな忠告を。
そうしてもう一度改めて一礼し、その場を後にするだろう――

ご案内:「常世総合病院/ロビー」から桜 緋彩さんが去りました。
ポーラ・スー >  
「あら、とっても素敵。
 大丈夫だって信じているみたいだわ!
 ふふっ、でもいつだって、先生には頼っていいんだからね?
 学生たちの手助けをする、そのための『先生』なんだから」

 手を合わせて少女たちの絆に感動していると、少女が端末を取り出したのを見て、自分の口元を両手で抑えた。
 どうやら自分が騒がしくしてしまう事はよくわかっているらしい。

「――あらあら、慌ただしいのね。
 はぁーい、ちゃんと静かにして、我儘言わないで帰りまーす」

 少女に注意されれば、それすらも嬉しそうに返事をして。
 立ち去る颯爽とした少女の姿を、本当に愛おしそうな視線で見送った。

「はあ――もうほんとに。
 『剣士ちゃん』も『ひいちゃん』も、とってもいい子なんだから。
 ますます大好きになっちゃうわ」

 そんなふうに、今日の出会いを心から喜んで。
 自身もまた、弾むように軽い足取りで病院を後にしたのだった。
 

ご案内:「常世総合病院/ロビー」からポーラ・スーさんが去りました。