2024/09/28 のログ
ご案内:「違法パブ『地獄の門』」に女郎花さんが現れました。
ご案内:「違法パブ『地獄の門』」に杉本久遠さんが現れました。
■女郎花 >
違法パブ『地獄の門』。
店内へと入れば、一瞬で店の持つ退廃的な空気が客人を迎え入れるであろう。
薄暗い照明が、古びた木製のカウンターと、
タバコの煙が漂う空気をぼんやりと照らす中。
店奥のカウンターで、和装の猫又――女郎花は今日も、
客人を待っていた。
耳を擽り胸を焦がすノワール・ジャズに合わせるように
優雅に、或いは妖艶に尻尾を揺らしながら、
マスターの横で年季の入ったカウンターを拭いている。
まだ、客人は少ない時間帯だ。
それにしても今日は、少々客が少ない日だった。
「――寒煙迷離。紫煙の燻るは、古跡の寒煙が如し。
今宵は、静かなことじゃノォ……」
女郎花は目を細めて、煙草の煙の向こうに居る、
そう多くない客人達を見やった。
■杉本久遠 >
杉本久遠は、今、周囲に思われているほど、お人好しでも、品行方正でもない。
というのも、十代前半の頃は、落第街に足を延ばして喧嘩をして補導されるくらいには、幼稚ではあったのだ。
ただ、今はスポーツに出逢って、誠実であろうという努力の結果、性根から腐っていたわけでもないため、誠実で不器用な青年に育ったというわけだ。
「――この辺りに来るのも久しぶりだな」
昔、世話になった店の扉を潜りながら、苦い思い出と一緒に苦笑した。
――タバコの匂いとジャズの音。
どことなく、古臭さを感じる店内の様子は、昔をほとんど変わらない。
年季の入ったカウンターを見れば、随分と世話になった和装の人。
「――久しぶりです、姐さん」
そう言って手を挙げながら、真っすぐにカウンター席へと向かう。
久遠の姿や雰囲気から、なにをとっても、この店の雰囲気には明らかに浮いていたが。
まるで常連客のように遠慮なく、席へと座った。
■女郎花 >
「……おや? その声、その顔。杉本の坊か。
珍しいノォ。
少し見ぬ間に、随分と大きくなったものじゃナァ?」
店内に入ってくるなりカウンター席へと近づいてきたその男を見て、
女郎花は尻尾を大きく揺らして出迎える。
猫のそれを思わせるしなやかな動作でカウンターに白い手を置けば、
姿勢を低くし、青年の顔を覗き込むようにして首を傾げる。
「して、久方ぶりに顔を見せたのは、どのような風の吹き回しじゃ?
何か困り事でもあったかノォ?
それとも全てを忘れて酒に溺れたくなったか?
いずれにせよ、今宵は吾人が相手を務めよう」
そうして悪戯っぽく笑った後、姿勢を戻し。
カウンターに両の手を置いて、そちらを見やる。
「さて、注文は如何にする?」
■杉本久遠 >
「いやあ、ほんと御無沙汰っす。
なんかやっと成長期が来たみたいで、ここ何年かで一気に伸びたんですよ」
昔のどこか欲求不満を感じさせていた表情と違い、すっかり好青年のような爽やかな笑顔を見せる。
『姐さん』のしなやかな動きになつかしさを感じながら、のぞき込まれると、少し困った顔をする。
「まあその、ちょっと聞きたい事があったというか。
姐さん、昔から色んな事情知ってるじゃないっすか」
少し悩んでから、たまにはいいか、と。
「姐さんのおすすめのお酒あります?
それなりに口当たりの良いすっきりするヤツ」
話しに来た内容もあって、少し口の滑りを軽くしておきたかった。
■女郎花 >
「ほんの少し前まで、やんちゃな坊主であったが。
なかなかの男前になったナ。
光陰に関守無し。時は過ぎ去るものじゃナァ。
どれ、もっと近くで顔を見せてはくれぬか?」
袖を几帳に、口元を隠していた女郎花。
その袖を口から離した時には、
悪戯っぽい笑みはいつしか穏やかな笑みへ変わっていた。
まるで我が子を見るような、慈愛に満ちた笑みである。
「ふむ。聞きたいことか。
態々こちらまで足を運んだのじゃ。
表ではそう見つからぬ何かを探しておるのじゃろうが、さて。
坊の頼みじゃ。
吾人の知ることであれば、話してやらんでもない」
ふい、と袖を振り、それを自らの顎へ。
妖は目を細めて、眼前の青年を見やった。
「ならば、これはどうかノォ?」
女郎花がすっと近寄ってその細指を絡めた、ビールタップ。
そこには、不死鳥のロゴが刻まれていた。
かつて落第街に存在していた数多の違反部活。
それらにインスピレーションを受けた酒が、この店には並べられている。
女郎花が勧めた酒も、無論その一つである。
■杉本久遠 >
「あんまり見られると恥ずかしいんですけど」
照れ笑いをしつつ、頭を掻いた。
恥ずかしいと言いつつも逃げたりはしないが、それでも整った顔に見つめられると照れもする。
「まあ、そんな感じで――はは、姐さんならそう言ってくれると思ってました。
――あ、もし情報料とか必要なら先に言ってくださいよ?
後から払えないくらいの請求書出されても、どうにもなんないですから」
そう言いながら、女郎花の用意した酒を見れば。
久遠は何とも言い難い表情を浮かべざるを得なかった。
「――姐さん、オレが聞きたい事、わかってます?
丁度、この不死鳥の事について聞きたかったんですけど」
なんでもお見通し、そう言われても納得してしまうだけの空気を『姐さん』は纏っている。
やってきた理由ももしかして全部、見抜かれているんじゃないかと思いながら。
「表で報道されてるだけの内容じゃ、どんな組織だったとか、どんな事件だったとか、誰が解決したとか。
そんな踏み込んだ話なんて、ほとんど聞けないもんですから」
そう言いながら、その不死鳥のロゴを指先で撫でた。
何とも言えない、複雑な気持ちだ。
■女郎花 >
「ふふっ。
幼い頃は、吾人がちょいと顔を近づけてやれば、
真っ赤になっておったというニ」
クク、と笑いながら、顔を離す女郎花。
「何のことはない。
この店に入って、真っ先にカウンターにやってきた御身が、
吾人と話している最中に幾度か、これに視線を送っておったからノォ。
ちょいと遊び心に鎌をかけてみたが、図星であったか」
得意の妖術の類を使わずとも、視線の行く先を見れば自ずと分かることであった。
女郎花は静かに、ノニック・グラスを取り出した。
そうして慣れた動作でビールタップから酒を注げば、それを杉本の前に滑らせる。
淡い琥珀色が放つ甘い香り。マンゴーフレーバーの、ペールエールだ。
「違反部活――『フェニーチェ』。
無論知らぬ組織ではない。
じゃが、何ゆえ御身が『フェニーチェ』を追っておるのじゃ。
吾人としては、ちぃと、そこが気になるところであるナァ。
それを御身がきちんと明かすのであれば、ま……誼じゃ。
知っておることは酒一杯で話してやろう」
カウンターの向こうに居る女郎花は、細い人差し指でカウンターの縁をなぞると、
そのまま滑らせて、ひょい、と。杉本の鼻の前にその指を近づけて見せる。
■杉本久遠 >
「やめてくださいよ、流石に当時の事は恥ずかしすぎますって」
たはは、と笑いながら困った顔をしつつ。
説明を聞けばなるほどと、大きく頷いた。
「なるほど、視線ですか。
さすが姐さんですね、しっかり客の事を見てるなあ。
まあはい、大当たりというか、なんというか」
そう言いながら女郎花の様子をぼんやりと眺め。
グラスを差し出されると、女郎花に答える前に、一口含んで味わった。
マンゴーの甘い香りに、少しの苦みと、すっきりする後味。
まさに注文通りの、完璧なチョイスだった。
「あー、それは、ですね」
鼻先に突き付けられた指に、眉をハの字にどこか情けなく表情を緩め。
少し考えてから答える。
「――ぶっちゃけ、オレ自身は『フェニーチェ』が何であっても構わないんすよ。
ただ、恋人――って言うのもまだおこがましい、んすかね。
好きな人に深いかかわりがありそうだ、って事がわかったもんで。
まあ彼女にどう応えるのかは――とっくに決まってはいるんですけど」
とある演劇を見た久遠。
そして、ある女性の魂の叫びの片りんに触れ。
それに対する応えは、とうに久遠の中で出来ては居たのだが。
「ちゃんと知った上で答えるのと、なにも知らないまま答えるのとじゃ、全然違うだろうと思って。
だからそう、ですね。
せめてその『フェニーチェ』がどんな部活で、どんな結末を辿って、どんな『騎士』に討たれたのか。
それくらいは知っておきたい、そういう話なんです」
そう、これは複雑な話でなく。
ごく単純な恋の話だ。
不器用で誠実すぎる男が、不器用な方法で愛する女性に近づこうとする、そんな話だった。
■女郎花 >
「ほほぉ~? 久遠の坊に想い人とはノォ!
まぁ、その齢であれば、雌の一人や二人……抱いておかねばナ?」
にまぁ、と。猫の妖の口の端が吊り上げられる。
その口を隠すように、再びすぐに袖が置かれるのであるが。
「ふむ、フェニーチェと関わりの深い彼女へ応える為、か。
その彼女とやらは、どのような問いを、或いは言葉を御身に投げてきたのじゃ。
そもそも何故、フェニーチェと関わりがあると分かった?
もう少し、経緯の説明が必要じゃナァ」
怪訝そうな顔で、女郎花は言葉を投げ返す。
■女郎花 >
「状況が分かれば、力になれるやもしれぬからナ……」
女郎花としては、情報を出し惜しむつもりはない。
ただ、久々にこの店に現われた眼前の青年が、
どのような状況に置かれ、どのような意図で情報を得ようとしているのか。
そのことは、はっきりと把握しておく必要があると考えていた。
それは地獄の門の店員としての女郎花が意識しているところでもあるし、
彼を子のように見る目から来るものでもあった。