2025/08/07 のログ
出雲寺 洟弦 > 「お店レベルは言い過ぎだよ、これを一日、
何十、何百人の相手に同じレベルで出せって言われたら無理無理……」

ひら、と、手を振って軽い苦笑い。
食事中の動揺とか、空気とか。そう言うのを忘れる――訳にいけないけど、
違和感がないくらいにはちゃんと笑っている、つもり。

お皿を片づけ、リラックスして、……それで、髪の毛が解かれるのを、

「      」


――あ、また見てしまった。ダメだ、駄目だ今は。
……蒸れてるんだろう、なとは、思うけど、だめ。

つい、と視線を逸らす。その道中で――豊満な、二つの、汗ばんでそうな――首を振って。

……頬をつまんでる仕草から、皿を片づけていくまでは早かった。
――ばたばたと片して、全部すぐに洗い始める背中。

洗い物は、作りながらでも片づけていたからすぐに終わる。


だから、冷凍庫に作っておいたもの。
――"デザート"を、片づけ終わってから持ってきて。

「……あんまり、こういう食生活するのはホントは駄目なんだけど」

……きんっきんに冷やされて持ってこられる、
薄紫色の、四角いもの。うすーく切りそろえられて、
かつ、冷凍していたものがいい具合に溶けているもの。

「……俺謹製の、手作り羊羹。食べてみないか?」

ことり、と、木製の小皿の上に。
なんと削った竹の、羊羹用の楊枝まで。
テーブルの上に置かれた食後のおたのしみ。
素麵の茹でる量を少なめにしておいた理由は、これ。


――今度は、隣に座った。

伊都波 凛霞 >  
味がだよ~、と。
こんな凝った素麺、店屋物として出したらきっとすごいお値段。
彼の言う通り安定供給できなさそう。

……ちょこちょこと視線を感じては逃げる、が繰り返される。

こう、一応しっかり武道をやっていて、実家の道場で師範代。
そういう視線とかの気配を感じるのがまぁ、敏感なので。
気になりはするけど、あんまり言及するのも?なんて思っていると…。

トン、と目の前に置かれたのは…冷えた羊羹?

「え…これ洟弦が作ったの…? すご…」

色々本格的でびっくりする。
すごーい、と視線を注いでいると、隣に彼が座る。

…柑橘系の甘いフレグランスと、まだ若い少女の汗の匂いがするし。
なんなら座高の差でよりたっぷり見えるんじゃないですか。谷間が。

出雲寺 洟弦 >
「まぁ、これは試作品だけどな……?
あくまでレシピ通りというか、
まだ自分のオリジナリティのある奴じゃないんだけど……」

とはいえ、本格的に何かを作ることに於いて、彼の腕前はさっきの素麵で証明済。
麦茶でも合うけど――なんと煎茶を氷出しして持ってきてる。
小さな硝子のお猪口?に茶を注ぎ、召し上がれと。

「ひっそり数々作ってたのを、今日買い物がてらタイミングもあうだろうなと思ってさ、仕込んでたん、だけ、ど……」

……香るフレグランス、見える谷間。
もう色んな物が――青少年イヅルの心を揺さぶる。

揺さぶる、揺さぶられるッッ……。


「……ッぇと、まぁ、その、た、試す、つもりで……っ」

――やっぱり今からでも対面に移るべきだろうか。
でもこれで立ち上がったら絶対訝しまれる、し。
……もじつく彼が、隣でせわしない。
――目線が、ちら、ちら。

伊都波 凛霞 >  
「いやいや十分完成品で通用する見た目しえるけど…」

竹の楊枝を指先で摘んで、薄く着られた一枚をちくり。
ぷるんとしたそれを、あーんっと口の中へ迎え入れると広がるのは上品な甘み…。

「~~~♡ おいしー♪
 冷っこくて、こういう時期に最高のスイーツかも!」

そんなベタ褒めである。
好物の甘みに綻んだ笑みを彼へと向けて。
オーバーアクションなんかするものだから何がとは言わないがたゆんと跳ねる。

ちょっとはしゃいじゃったけど、彼の部屋ではしたないかなと、一旦落ち着ける。
…と気づいてしまうのが彼の視線。何度も感じて、逸れてを栗火すそれに。

「……イヤじゃないとは言ったけど、何度も見られると恥ずかしいよ?」

隣で距離も近いし。
無意識に自分の胸を隠すように両手でぎゅっと抱きしめるようにする。
なんというか視覚的には、何がとは言わないが、より圧縮されるだけなのだけど。

出雲寺 洟弦 > ほっ、と、一安心。
――が、その安心が深刻な震度で吹っ飛んだ。
食べる仕草から、喜んでオーバーリアクションでたゆんっぶるんっとまで。

何度落ち着かせたかもわからない顔面も、また真っ赤に。
何度繰り返すんだろうこの流れを、自分は、一体。

「く、口にあった、なら、良かった……うん……今回は小豆から、色々……餡子作って、そっから色々……ぇと」

――視線を徐々に反らして、逃していってるのに。

「ッぶぁ」

――動揺、ほら、また。

「……ち、ちがっっ……あの……っ!!」

圧縮、みっちり。こんな至近距離だとその仕草がむしろ――。



「……っ、っぅ、ぉぅ……ッッ」

――両手で自分の顔を押さえて、ぷひぅ、と、変な抜け音だって聞こえる。

「俺、今日ほんっと、どうしちゃったんだ……美味しいもん作って、色々感想聞きたい、くらいの、つもりでいてたのに……ッ……!!!」

伊都波 凛霞 >  
「えっと、その……」

こういう時にかける適切な言葉が見つからない。
彼との子供の頃の約束があったから、ずっと恋人は作らなかったし。
それなりに距離感なく学園の男子とも接してきてはいたけれど、そこだけは譲らなかった。
告白されても、明確な答えを出せないままに断ったり、申し訳ない気持ちになったりしたことも。

「多分、別にヘンなことじゃ、ないんじゃないかな…その…」

「す、好きな女の子が自分の部屋に来て、隣に、いたら………」

彼の友達の男子あたりからすれば‥こういうんじゃないだろうか。
男の部屋に上がった時点で、相手もそれを期待してるに決まってる…みたいなことを。

互いに異性と絡まなさすぎた青春を送っていたのだからさもありなん。
その環境が急転してしまったようなもので…平常心を欠いて当然である。

…なんて口にした凛霞も、彼のそんな様子に、下ろした髪の結っていたクセを手櫛で整えたりと、どっか落ち着かなさそうに。

出雲寺 洟弦 > ばく ばく ばく ばく

心臓が酷く五月蠅く高鳴る。
緊張、羞恥、意識、図星。とにかく、色々な要因で、
赤面は引かないし、今自分がどれだけ動揺してるかも――その理由まで含めて――丸わかりだ。

「……っ、そう、……そう、いや、そう、なの……かなぁ」

上擦った弱音みたいな声と、
……隠してた手の下からの、目。

「……っ、好きな女の子……」

――嗚呼、まぁ、そう。
いや、それはずっとそうだ。

正直、本音、この茹だった意識の中でも、それだけは、


「……凛霞のこと、は、そりゃ、好きだ。
……なんかもう、なんか、一緒にいられる今が毎日、
夢だろ、ってくらい……夢じゃなくって、いや、本当だから、
……だから、あの、顔見るのも、笑わせてやれるのも、
喜ばせてやれるのも……いや、今それあんま関係――な、くは、ない、け、ど」

――やっぱり茹だってる?おかしい?
ぼろぼろ、言葉が口から零れていく。
自分の頭は疑問符だらけ。溶けて崩れていく氷みたいに。

「一杯、これから、凛霞としたいこと、やりたいこと、行きたい場所見たいものが……。
あれ、いや、つまり、今一緒に、部屋にいるのも、それで……料理も、羊羹も……あれで」

――――? ??   ???     ????――
…………今 俺は   つまり     この状況……

「……凛霞の、こと……大好きな、ことを……」

――落ち着かなく、しているのは、相手も、で。
意識は、つまり、お互い、し始めてるような。

……いや、でも、今はやっぱり、冷静じゃ。

「……、ドキドキ、してて、ずっと、意識、してて……いろ、いろ」

……どき どき  どく  どく

「……っ……」

ふい、と、向けた顔、目。
……困惑。どうすればいいのか、わかんないけど。
でも、どうかしたい、何かしたい。

知らないのに、何か、が。それを求めてる。

伊都波 凛霞 >  
目があった。
顔が赤い。きっと、自分も。

「…今日。暑かったからね。
 私も、洟弦もきっとなんかヘンなんだよ」

眉をさげて、笑う。
笑うけど……。
どうすればいいのかは、浮かんでこない。
でも、お互いにそうなら…別に、何か起こっても…それは。

「………」

気まずく、少し視線を逃がす。
どうしよう。こういう時、こういう空気、どうするんだっけ、と。
いつもはよくまわる筈の頭が、空回りしてる。

「い…」

「洟弦は何がしたい? 今…」

だから、相手に委ねてしまった。

出雲寺 洟弦 > 「……そ、れは」

そう、かもしれない。
――とっくに頭の中が茹で上がってて、だから。
どんなに空気で冷えても、冷たいもので冷やしても。
この熱は、ずっと喉元で、とどまっているのかもしれない。

「……っ……あ、あ、えと……」

何か、こう、切り替えろ。
空気を、話題を、とにかく何でもいい、
なんでも、なにか、なに、か――――。


「――……ぇ、は」


――そんな、こと、言われても。
何……何をしたい?……何。

目線は、吸い寄せられてる。
じ、と、凛霞のことを、見てしまってる。

……変だ、見つめるとむしろ、落ち着いて、くる気がする。
解かれた髪、いつも結んでいる分、今の広がった髪は、とても新鮮だ。
……胴着の時、何度かだけ、解いてたのを見たことがある気がする。
そう言えば、そうしているときの方が、何故か見つめてて恥ずかしかったこともある気がする。
今は――こうしている方が、なんだか自然で落ち着いてきてさえしまう。
薄着過ぎる恰好も、蒸れていて、ちょっと焼けた肌色も含めて――いろいろ、目に……。

ただ、一番はその――――。

「ぁ、っ」

――じっと、見つめてしまう、その、顔。……唇に。

反芻、している。脳の中。

"何が、したい?"

「……」

反響、している。

"何が、したい?"

「…………っ……」

――言葉の、代わりに。
片手が……おず、と、指を。
床の上の、そちらの手と、それとなく、触れ合う距離まで。

向けたままの顔を、少し、近づける気がする。
近くまで、緊張した面持ちのまま。

伊都波 凛霞 >  
「―――あっ…」

指と指が触れ合って。
ぱっ、と…思わず、手を引っ込めてしまう。
何がしたい、なんて聞いておいて。

……死ぬほど、意識してる。

「………」

少し俯いた頬に朱が差して…少しだけ、落ち着くように深く息を吐いてから、向き合うために顔をあげる。

そして……自分から、彼の手をとった。
昔繋いだ時は全然変わらなかった手の大きさが、今は随分違う。
背も伸びて、手も大きくなって、指だってごつごつしてる。
……相手からしてもきとt同じ。昔の自分とは、きっと違って映っている。
男の子と女の子、じゃなくてもう、男と女、になっているから。

彼の手をとって、指を絡めて…。

「…ごめん、フェアじゃなかったよね?。
 そ、そうだ!えっと!こうしよう、今したいこと、同時に言うの!」

それならきっと、少しは言うの、恥ずかしくなくなるから。

「ね?いいでしょ?」

そうして、半ば強引に───。
むしろ、そうしないとお互い言いづらいよね。そう、思って。

「せーのっ…」

そうして、息を合わせるようにして……。

出雲寺 洟弦 >
「ぁ」

――手が、引っ込む。こっちも思わず引き……かけて、
……それで自分も引いたら、"それ"が、終わってしまう気がして。

……だから、凛霞がこちらに向き合って、
まして、自分の手を、取ってきて、柔らかくて、あの頃より大きくて、
けど、芯の変わらない、器用で不器用な、細い手が、
自分の手と結び合わさり、重なることで。
かあっ、と、熱のこもった顔に、少しだけ、緊張とは別の。


――こんなに、しっかりと手を握るの、いつ以来、だっけ。

「……っ、ぇ、え?……え、あ、ちょっと、待ッ」

――いうが否やで、もう、せーの、が、始まっていて。
止める間もない。ただ、勢いと、そのまんま。

「せ、せぇの……っ」


――――同時のとき。

「ちゅぅ、したいッ……!!」



――――――ちゅぅ、って言った?

……キスって、いや、言え、せめて。
ちゅぅ、ってなんだ。接吻って言い方しないだけマシ?
いやでも、"ちゅぅ"、って……お前。

言った途端、さぁっ、と、恥が熱を、引っ込めていく……。

伊都波 凛霞 >  
同時、息を合わせるのは、お互い武道の嗜みがあるから、きっと得意。

彼と一緒に、タイミングを合わせて。
せーのっ、と声を出して、うん、一緒に言うなら全然、恥ずかしくないはず。
でもやっぱり、恥ずかしいから、気恥ずかしそうに、視線をちょっと外しながら。

「えっちしてほしいなぁ……あっ」

えっ



あっ




あ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

瞬間、火を噴くかと思うほどに顔が熱くなって……。
彼のほうも、なんか、言い方間違ったみたいで…赤くなってるけど…。

「やっ、えっと、あのっ…そ、そう、私も、そうだから──」

いまだかつて、こんなに凛霞が慌てふためいたことがあっただろうか。いやない。

出雲寺 洟弦 > 「          」


――――うん?

……うん???


うん??????????????????????????????

「…………」


なんて?

――――いや、自分は聞いていた。聞いてた。
だから、だから、その。

――――言われたのが現実かどうか、今度こそ。
しっかり、確かめたくて。

「……」

パァンッッッッッ!!!!(自傷ビンタ)

――思いっきり自分で、自分の頬をビンタした。

……ぐらっと視界が揺れる。

「いっぅ……」

――夢じゃ、ない。



だから、つまり。



「…………ッッ!!!!!」

慌てふためく凛霞以上に、時間差で。
イヅルも尋常じゃなく動揺を。

「ぇ、ええええぇっ!!!?ぇ、あ、は?!え、えっち、し……ッッ!?」

伊都波 凛霞 >  
「!?」

目の前で急に自分の顔を叩いた彼に驚く。
いや、慌てすぎと恥ずかしすぎでちょっと自分も今涙目でよく見えなかったけど…。

尋常じゃない動揺を見せる彼。
仕方ない、仕方ないと思う。だって。

「ち、違うの。いや違わないんだけど…そうじゃなくってぇ!」

しどろもどろ。うまく言葉が出てこない。
お互いにあわあわしてる、何この男女。中学生?

「だって洟弦があんなに言い淀んでるからぁ…」

まさかキスのことであんなにやきもきしてるなんて思わないもの。
もっと凄いことを考えてるに違いないって思うもの。

「……ずっと、おっぱいも見てたし」

まさかそれでしたいことがちゅう…キスだなんて、思わないって。

出雲寺 洟弦 > 「ッい、いや、あの、ごめ、ちがッ待ってほんと違うんだってマジであの俺ッッ!!!」

しどろもどろ、しどろもどろ。二人揃ってまぁまぁ動揺も激しいどころじゃない。
顔が真っ赤だ、特に自分で叩いた左半分がだいぶ腫れだ。
でも今お陰でちょっと冷静……冷静?ではない。

手を繋いだ、ままだし、だからその上で、落ち着かせるとかじゃないけど。

「ッお、れも、ぁのッだからッッ――」

――ぎゅぅ、と、手を握ったまま、俯いて、ぎゅっと閉じた目。

「ッごめ、ん、恥ずかしくって咄嗟に、出た……っ」

――ぽそ、り。……掠れて萎む、風船みたいな声。



「……胸、見てた」

ぽそ、ぽそ。
……真っっっっ……赤な、顔で。
反らして、逃げてる顔は。


「……ぇ、っち、……俺だ、って、したい、のに、
……恥ずかしくて、訳わかんなくって、……」

急にカウントダウンでもなし、せーの、だ。
――せめて数秒あれば、もっと本音が――出る訳なかったろうけど。
でも、言わせてしまった、恥ずかしいこと。


「……したい、すげー、したい……ッ」

――ゲロ吐きそうなくらい、恥ずかしい。

「……凛霞、と……そういう、好きな子、と……しか、しない、できない、……俺……っ」


「……ッは、っず……いからって、ごまかし、て、ごめん……っ」

伊都波 凛霞 >  
「………」

言葉も切れ切れ、狼狽もいいところ…。
全然格好良くもないし、ロマンチックでもないけど。
精一杯、彼が答えを口にする。
自分も、…って。

きゅ、と。
彼の指と絡めた指に少し力を籠める。

すごい、バカ正直。
洟弦って本当に嘘がつけない人なんだって。

「…恥ずかしかったよ、ほんとに……」

むす、とちょっとだけ口を尖らせて見せる。
いや…完全に勇み足というか、自爆なんだけど…。
顔、まっすぐに向けられなかったけど、視線だけを彼に向けて…問いかける。

「……ホントに?」

自分も一緒だと。
ちゅぅ、なんて口走ってしまったのは、誤魔化したからだって、言い訳。
本当に一緒?と…疑うんじゃなくて、これは…確認。

「……他の女の子、好きになったりしない?」

…思ったより、自分は臆病だったのかもしれない。
彼と別れた、だの。元彼がどうの、だの…。
耳に聞こえてくる恋愛模様って。そういうものばっかりだから。

出雲寺 洟弦 > 「……ごめん」

――今、多分、見せたい、張りたい自分じゃ、
全く在れてない。それを素直に受け止めなきゃいけない事が、
割と、本当につらくもある。

ただ、それを噛み締めないと、それはそれで、"フェアじゃない"から。

……絡めた指、重なり合う視線も。
――嗚呼、でも。


「……」

言葉より、態度か。
――少なくとも、嘘つけない自分が、吐露した謝罪は、
……恥という、なんとも情けない理由での誤魔化し。

というか、

「好きな女の子に、目線で、その、あちこち見たりしてた揚げ句、
……えっち、まで、したい、とか、言い出したら……」

逃げ、かけた目を、一度閉じて。

「……それは俺が、めちゃくちゃ、変態じゃんか」

――――――。


まぁ、変態というか。
……今更、むっつりなのは避けようがないけど。
だから。


「……他の女子相手に、は、そもそも、なんか……そういうこと、考えたことない」

ぽつ。

「……友達が、なんかそういう話してるのを見ると、いつも」

「……馬鹿だなぁ、みたいな。そう言うことばっか考えてんのかなぁ、とか、ちょっと引いてた」

「でも、もう、馬鹿って……言えねえや」


――性的に惹かれるっていう感覚を今、味わってる。
その証拠は――彼が、少し、身体を強張らせながら、少し、腰を窄めるような、ぎくしゃくした、姿勢。

伊都波 凛霞 >  
自分の情けなさ、そしてその思いを吐露する彼の…手を引いた。
それは本当に不意を打つようにして。

「───」

凛霞のほうから、彼の唇へと、自分の唇を重ねた。
柔らかいものが触れ合う感触。だけじゃない。
唇を一瞬重ねるだけの行為なら…以前だってあった。
でも──今日のは、違った。

絡めた指はするりと解け…両手は彼の広い背中へ。
自分の身体ごと、押し付けるみたいに…肉薄して。
それこそ、お互いの胸が押し付け合うように触れ合って───互いの心音が強く、早いことを報せるくらいに。

「………」

唇はそっと離される。

「…いいよ、誤魔化さなくて。
 もう、私も子供じゃないし…洟弦のこと受け止められる……筈」

初めてだから、自信があるわけじゃないけれど。

互いの吐息が顔にかかるような、ほど近い距離──。

別に私もキスしたくなかったわけじゃないし。
そんな意思表明……。

出雲寺 洟弦 > 不意を打つ、打たれる。
ぐいと引かれたので、驚いて強張った。

その瞬間には。

「    」

……見惚れてた、唇が、もう自分の唇と、重なっていて。
目をまん丸くして、一瞬で頭の中の色々な思考が、たったそれだけで吹き飛んでいた。

何か、何を、どう、どのように、いつ――自分の思考が、解体される。
その間には、自分の背中に彼女が手を回して、
あんなにしっとりと、柔らかくて豊満で、良い香りで、
色々な――自分の、大好きな女の子の全部が、自分と。

……心臓の鼓動は、地鳴りくらい、激しく叩き鳴らされるのを、
もう全部、凛霞に筒抜けになってるだろう。

「ぅ、は」

離れたとき、なんて情けない声が出て。
……吹き飛びかけ、あともう少しで、きっと、自分は――。

「り、んか」

――――いや、もう、とっくだろ。

……今度は、こちらの番で。

「   ッ」

こちらからは、この口付けが、決意表明だ。
憧れ、触れ合いたかったものが触れ合う。
深く、深く重ねる口付けと共に、背中を優しく引き、けど、
……片手は、また指を絡め合わせて繋ぎたかったから、そうした。


深く、小刻みに、重ねるような――。

「     」


――我慢、してたものが。

……蓋を開けられて、とうとう。


「っ、は……ッ……」

――離れたときには、抱き締めたままで。
……目は、もう、とっくに、最後の確認をしていた。

このまましても、本当に、いいか、と。
……止まれないという、謝る、色もあって、
彼はもう、今のまま、不可逆では、あるんだけど。

伊都波 凛霞 >  
抱き竦めた細い肩はほんの少しだけ震えていたかもしれない。

でも、彼のほうから唇を求めて、重ねて…。
深く深く、深く……子どもの触れ合いとは違うキスを重ねて。
それが終わる頃には…なんだか安心したみたいに震えは止まって。

「………」

もう止まれない。
ここまでしたんだから。

そのまま、彼にその身体を全て預ける。
若いのだし、きっと我慢もしていだ、だろうから。
きっと点いた火は、すぐには消えない。
そして…火を点けたのは、自分。

「(……汗かいたからほんとはシャワー浴びたい、けど…)」

勢いでやっちゃった。
こういう時に全然冷静でいれないのは、恥ずかしい限り。
でも………。

「(意外と、こういうものなのかな)」

妙に落ち着いているし…トクントクンと跳ねる…互いの心音すらも心地いい。

「……いいよ…洟弦───」

名前を呼んで……意思を伝える。

───幼馴染のままだった距離感にはきっと亀裂が入る。でもそれは必要な儀式。……零距離から、更に踏み込むための。

そんな夏の、暑さがうだるような昼下がり───夕日が差し込み、そして月が顔を出す。
重なり合った二人の時間は、本人達が自覚するよりも早く……ただただ過ぎていった。

ご案内:「学生街のワンルームアパート・■■号室『出雲寺』」から出雲寺 洟弦さんが去りました。
ご案内:「学生街のワンルームアパート・■■号室『出雲寺』」から伊都波 凛霞さんが去りました。