2024/12/13 のログ
ご案内:「とある事務室」に東山 正治さんが現れました。
東山 正治 >  
その事務所には最低限のものしか置いていない。
来客用のソファに事務用の机に椅子。
最新式の電子ロック型の資料棚。
傍から見ても"殺風景"と思わせる物がある。

「…………」

東山は明かりも付けずに、椅子に凭れかかっていた。
力なく咥えている煙草からはゆるりと紫煙が立ち昇る。

東山 正治 >  
物は必要以上に持っていない。死んだ後が面倒だ。
何時死んでもいいように、何時でも身辺整理は済ませてある。
毎日の終わりには必ずしていることだ。
無駄に残っている金は、遺言書に世話を焼いた生徒の名前を綴ってある。

「…………」

燻らせる白煙は、まるで魂のようだ。
東山は、最早現世に未練などなかった

東山 正治 >  
世の為人の為の律を学び、法の世界に飛び込んだ。
誰よりも依頼者を慈しみ、法律に殉じ世界に、人を慮る。
そういった自負を持っていた。ある種、輝かしき過去だ。
だが、世界の方から変わってしまった。不可思議、不可解。
そんなものが、気づけば"当たり前"となって、隣人のようにそこにいる。

「……やってられねぇ……」

受け入れる努力をしていなかった訳じゃない。
初めは受け入れようとした。だが、その結果何もかもがすり抜けた。
大事な家族も失い、友人たちも変わっていく。
法律はまた変わり続け、そこに信用も信頼も置けなくなった。

「…………ハァ」

結局殉じた世界は、誰も何も守ってはくれなかった。
失意は全て憎しみへと変わってしまった。
灰皿に押し潰した煙草からは強すぎた力で灰が指先に付いてしまった。

東山 正治 >  
職務のない空白の時間は苦痛だ。
只々空虚な時間ばかりに苛まれている。
何時注いだかも覚えていないグラスの(テキーラ)を一気に煽る。

「……ハッ……」

当然こんなまやかし(アルコール)程度で気が紛れるはずもない。
何時ものように(ルーチンワーク)のように引き出しを開けた。
暗闇に鈍く光る冷たい銀を手にした時、騒音が鳴り響く。

「……、……こんな時に……」

それは固定電話だ。大変容前(クラシック)の骨董品。
買い替えるのが面倒だからずっと使われている。
ハッキリ言って出るのは面倒だった。
どうせろくな事じゃない。だが、気分には水を差された。
騒音(呼び出し音)とにらめっこしても、向こうが諦める気がなさそうだ。
何度目かわからない溜息と共に、受話器を取った。

「はい、此方東山法律事務所。(わたくし)東山と申します」

東山 正治 >  
「……弁護依頼。はぁ、成る程。
 依頼人を経由してのお電話。依頼人御本人はどういう……、……?」

「──────一応聞くけど、冗談じゃなくて本気でいってらっしゃる、と」

どんどん表情は険しくなる。
よもや、代理人を通してまで依頼してくる奴がいるとは思わない。
それも、例の逮捕者(クソガキ)から直々と来たものだ。
笑わずには、いられなかった。とびきりの苦い笑み。

「……ええ、はい。私で良ければ。詳しい話はまた後日此方からご連絡致します」

教師とは、東山にとって呪いだった。
未練無き世界への、生きるための枷。
そうでもしなきゃ、人として生きていけない。
この昔とった弁護士バッチ(重し)だってそうだ。
何時だって捨てればいいのに捨てれない。

此れを捨ててしまったらきっと、内にある憎しみ(モノ)に殉じてしまうから。

東山 正治 >  
「……それでは、失礼致します」

電話を切り、深々と背もたれに体を預けた。
また誰も彼もが無理にでも生きる理由をつけようしてきやがる。

「……止まない雨はない、って?」

なら、終わらない悪夢を見ているんだな。
棚の鈍く輝く(拳銃)を尻目に引き出しを閉じ、静かに目を閉じるのだった。

ご案内:「とある事務室」から東山 正治さんが去りました。