2024/12/16 のログ
ご案内:「とある事務所」に東山 正治さんが現れました。
ご案内:「とある事務所」にネームレスさんが現れました。
東山 正治 >  
その事務所には最低限のものしか置いていない。
来客用のソファに事務用の机に椅子。
最新式の電子ロック型の資料棚。
傍から見ても"殺風景"と思わせる物がある。
が、今日ばかりは何故かきらびやかな雰囲気がある

「…………」

事務用の椅子に深く腰掛ける東山は、疲れ切った顔をしていた。
実際非常に疲れた。精神的に、ドスンと来た。
法廷での仕事を終えたのもそうだが、問題は……────。

「あのさぁ……俺、敬語丁寧語は遵守しろって言わなかった?」

眉間を抑える指の隙間、じろりと睨む先には"紅"。
ただそこにいるだけで妙に空気感が明るくなるカリスマ性。
中性的な美しさは一種の妖艶さを思わせ、あったことも無いのに親しさを覚える。


気味の悪い感覚だ


深い溜め息を吐いて、やや机から身を乗り出す。

「……それで、判決結果はご納得いただけたかな?依頼主殿」

何処となく、いや、嫌味全開な言い回しだった。

ネームレス >  
「……? 敬意は払った」

不思議そうに目を瞬かせる。
常世島(ここ)が長いといって、国籍は違う。訴訟の国出身者はというと。

「傍聴しに来てくれたひとたちの期待には応えたつもりだケド」

何かまずかったかな、と言いたげに首をひねり、視線を斜めに飛ばすのだ。
自分を目当てに見に来るものがいるなら、それに応えようとする。
曲げなかった。曲げられなかったともいえるか。

「ん」

問うその瞳に映るなにがしかの不快感。
――異能。どうやら『そう』らしいと、学園に判定された能力。
少しだけ、なんと応えるかを考える。
問いに対して、どういった感情を持っているかは明確であるが。
それを示すためにはどうすればいいかを熟考した結果。

「――ありがとうございました」

深々と頭を下げる。
謝るべきかは、少し悩んだ。
完全なる白星ではなかったのだから。

東山 正治 >  
隠すこと無く顔を顰めた。嫌悪感だ。
何か言おうとしたが飲み込んだ。多分、違う。
コイツ、本気で払っていたんだろう。答えたんだ。傍聴席(観客)に。
それどころか法廷丸々そう見ていたのかも知れない。
そう考えると合点も行く。苛立ちを抑えるように、指先が机にリズムを刻む。

「……法廷は、輝かしい(エキゾチック)な舞台じゃないんだけど?
 他人の目を気にするほどの余裕なんてなかったんだぜ?自分の立場自覚してんのか?」

人が思う以上にそこは厳正な場所だ。
法界が正しく機能しているのは、正常に秩序が機能していると言うこと。
少しのでも裁判官の心証を下げるのは拙いというのに、やってくれたんだ

「最初に言ったよな?お前は裁かれる立場であって、
 ふざけた顔無しミュージシャンの真似事はやめろって……、……」

文句も言いたくなる。文句しか無い。
ダラダラ垂れる予定だったが、頭を下げられた。
こういうところだ。妙な律義さに、ばつが悪い。
思わず押し黙り、気だるそうに溜息を吐けば頭を掻いた。

「……その態度を法廷で見せてくれりゃ良かったんだよ。
 正直、今の判決に持ってけるかコッチだってハラハラしたんだからよ」

「"保護観察処分"。少なくともお前のやったことは帳消しには出来ねぇ。
 無罪放免は無理だ。俺だってゴメンだ。……いいとこ此処が一番の落とし所だろ」

「それに、礼を言われる筋合いはないね。
 俺は仕事しただけだし。それで、名も無き依頼人さん。今の気分はどうだい?」

ネームレス >  
「ボクの人生は実録(ドキュメンタリー)じゃなくて、娯楽(エンターテインメント)だから」

お行儀の良い人間でもなければ、本気でそう考えている。
自分を如何な『人間』と定義するか、そういう話だ。
裁判も何もかもを、必要な『手続き』だと、そう考えるなら。

「……あの場を上手くやるなら、それこそお手本通りにもできたケド。
 おためごかしの猿芝居で、だまくらかして手にする無罪(りんご)が、
 ボクからしたら、とてつもない負債のように思えてならなかった。
 あれだけ本気の、熱っぽいまなざしで、ボクを推し量ろうとしてたから」

誰もふざけてなどいない場所だったのを、肌で感じてしまったがゆえに。
自分なりの礼式で臨んだ。臨んでしまった。
ヒトは常に視られている。誰かを視ているように。殊更、それを自覚する人間は。
しかし眼前の自分を見る眼も、理解はしている。
唯一、法廷のなかで被告(じぶん)が選べる相手。弁護人。

「…………」

気分を問われると、少し俯いた。お腹を抑える。

「いやあ、ちょっと胃が痛いくらい」

胃痛の程度でいえば相手のほうが数段上だろうが、緊張もあった。
苦笑しつつ、その結果には一切の不服もない。

「感情に流されないだろう弁護人(アナタ)に頼みたくて。
 だから――……、うん、ここからだなってくらいかな」

なにせ、終わりではない。
始めるために望んだ清算だ。

「訊きたいコトは、いくつかあるケド。
 ………、……そう、たとえば」

不意に頭を上げて、椅子に座り直すと。

「情状証人の証言があった――てのは、知らされてなかったんだケドな」

判決の後押しになった、と結審ののちなら解釈もできよう。
法廷で切られたカードには、知らないうちに集められていたものもあった。

東山 正治 >  
舌打ち。誰にでも聞こえるような舌打ちだ。

「おい、クソガキ。俺が無罪主張するとでも思ったのか
 誰もお前のために猿芝居しろって言ってんじゃねぇよ。
 少しは俺を楽させろって言ってんの。流れを作るのは俺」

「結果を決めるのは法廷だ。思い上がるなよ?
 傾奇者(ノーフェイス)はもう必要ない。
 被告人(ざいにん)として、"必然"的に粛々とした態度を求めてるって言ってんの」

「至極一般的な常識を言ったつもりだけど、知らないとか言わないよな?」

弁護人とは本来、依頼人に寄り添い"最善"を尽くす存在だ。
後ろめたい罪状があればあるほど、損な役割も多い。
だが、東山弁護人は実に法に忠実であり、気質は検事に近い。
未だ自らの立場が自覚出来ない被告人(スター)を睨むのに、苛立ちを隠すこともしない。

「……俺が保護観察(こうする)こと知ってて選んだってか?
 惜しかったよ、ホント。もう少しどす黒い余罪でもありゃ迷うこともなかったさ」

隠すこと無い嫌悪感がありありと示している。
東山は既に、いや、初めから名無し(コイツ)が嫌いだ。
ヘラヘラと貼り付ける笑みはその証左

「そうだよ、此処からだよ。耳がタコ出来る位言ってやる。
 飽く迄"保護観察処分"だ。ちょっとでも何かすりゃ更生室(ブタバコ)だ。」

背もたれに深く体を預ければ、笑みは消えた。
険しい顔つきのまま、じ、と見据えること数刻。

「……俺は、職務はキッチリこなす方でね。
 教師も、公安も、弁護士としても、依頼された以上"キチン"とやる」

「調べ上げたよ、オタクの事は徹底的にね。
 思ったよりも交流関係が広かったな?おかげで苦労はしなかった。
 オタクの見立て通り、俺は決して"忖度はしない"。黒と思えば、有罪に持ってくつもりだった」

「俺なりに調べた結果、まぁそういうことだよ
 ……ガキ同士の"関係"には口を挟まねぇが、オタクの人物像は概ね皆一致した」

「感謝しときなよ?自分の築いた縁に。
 特に、五百森ちゃんって生徒にはね。今頃、複雑な顔してそうだけどな?」

ネームレス >  
「――――そか」

諸々の警告、訓戒といったものより、なにより。
契約外で明確に『借り』を作ったことに、心理的なゆらぎを見せた。
五百森の名前が出ると殊更に、まいったな、と言いたげに紅い髪に指を通して。

「……ボクは未来を見通せるワケじゃないよ、先生(センセ)
 アナタが法理の視点から彫り込んだボクという人間に対して、
 その流れに沿って、陪審員や裁判官の生徒()たちが下す結果が、
 どうあろうと受け止めようとは思ってたよ。
 ――魔女を吊るす機会だと思ったから、引き受けてくれたの?」

無罪にしてくれ、とは一言も言わなかった。
依頼元が如何な大企業(ビッグネーム)とはいっても、それに臆する相手でもない。
ノーフェイスとして、自分がどうにもできない相手を、あえて選んだともいえるが。
断る権利は、当然あったはず。彼からすれば、惜しいと告げたこの結審は不服なのだろうかと。

「"子ども"として扱われるのがすこし不思議な感覚ではある、かな」

机の上の資料をつまんで、あらためてみつめた。
公安委員会擁する裁判所から公示された、保護観察処分にまつわる要項。
本来であれば、すぐにでも自由になって渡米するつもりだったが。
いましばし、もうすこしは――この島に残る必要がある。

「申請すれば期限と監視(くびわ)つきを前提に渡航もできる。
 あっちで仕事もできるんだから、ボクとしては言うコトないケド」

顔の前に置いた紙を横にずらして、あらためて正対する。

「これ要するに生徒になれってコト?来期から?」

東山 正治 >  
「……少しは思う所アリって顔だな。
 女に借りを作るのはシャクだってか?
 そういうのがなけりゃ、俺も容赦しなかったんだがね」

からかうようにくつくつと喉を鳴らして笑う。
東山自身は認めたくないが、"人"である以上人権は保証される。
倫理的にも法的にもだ。そこには今までの"人生;ヒストリー"が反映される。
それを形成するのは人となり。少なくともその娯楽人生(エンタメムーブ)は、悪い結果を倦まなかった。

「まさか。俺はお前のことも嫌いだからな
 一度やってみたかった。嫌いな奴を吊し上げたら"スッ"とするのかね。
 ……まぁ、結果は見ての通りだよ。いっそのこと、殺しでもしてりゃ楽だったんだがな」

滲み出る悪意を、"敢えて"隠しはしない。
この教師の悪評は耳を澄まさずとも聞こえてくる。
徹底的に今の世を認めない神秘嫌い(レイシスト)
目の前のあやふやな(ネームレス)異能者とて例外ではない。
人の皮の、一枚向けばどす黒い悪意が溢れるような男であった。

「ガキだろ?世間知らずの落第街のお騒がせもの(お山の大将)
 ガラクタの山で王様気取りの自由人、遊び人。
 オタクほど賢いなら、自分からもっと早く委員会の世話になるって選択もあったと思うがね?」

飾り気のない口の悪さ。
言動はともかく、偶像(ノーフェイス)でもなければ、被告人(ネームレス)でもない。
ただ目の前にいる一人の人物と向き合おうとしているのだ。
同時に、見定める意味もある。書類の数々には、
幾つかはネームレスの署名が必要なものがあった。
その大よそには、"東山の署名"が先んじて書いてある。

「……渡航すんのは、もうちょい先かな。
 今はとりあえず大人しくしてな。早々に何か起きちゃ、かばえもしねぇ」

続く言葉に、訝しげな表情を浮かべる。

「そうだけど?まぁ、更生活動だよ。
 こっからは実録(ドキュメンタリー)ってこと。
 娯楽(お望みのもの)になりたけりゃの話だがな」

「……で、オタク。名前は?」

事情は当然、ある程度把握している。
だが、敢えて東山は名を問うた。

ネームレス >  
「それがボクなりの社会との関わり方なんだ。
 無償の奉仕はするもされるも望まないし、貸借は契約のもとになされるべきだ。
 ボクが他人(ヒト)に利益をもたらすことがあったのだとすれば
 それはボクがその他人(ヒト)から、なんらかの刺激や着想をもらってるってコトなんだケド」

ペンのノックで下唇をつつきながら、書面を確かめる。
入念に確認しているのは、そこに記載されている契約要項の確認を入念にするため。

「命を……奪う理由がなかったんだ。必要に迫られることも。欲しいと思ったコトもない。
 そうやって出来ることが、当たり前のように振る舞うことが、
 あの限定的な環境において、なんでかな、強さの証明になっていたみたいだね。
 新聞紙(ニュースペーパー)でできた王冠は、学生街(おもて)に出てくるときにゴミ捨て場に投げておいたよ。確か水曜日だった」

ゴミ山の王座。そう嘯くものいて、確かに武力と名声、富の証明ではあった。
確かに現在への足がかりでありながらも、それを放り捨てることには躊躇はない。

「あの環境でどれだけやれるかの実験をしてた。自分を試したんだ。
 いつしか……落第街(あそこ)にも慣れて、まるで庭のように自由に歩けるようになってた。
 だから、出てきた。あそこにいても、もうボクに成長はない
 次に進むためだ。太陽の下でどれだけ咲けるか、より高い試練(カベ)に挑むために」

落第街で育ち、咲いた花であるからこそ、話題性も込みで見出された価値である。
そこで生きたことを恥じてはいないまでも、理想に及ばない自らを誇ることもない。

「先生が進んでそうしてないのは、嫌いなヤツをどうこうしたって、
 "スッ"となんてしないコトがわかりきってるからじゃないの?
 法律家として実直にあろうとしてるから、その機に巡り合わない、なんてだけじゃないでしょ。
 いまの自分の姿は、理想とは程遠かったりするの?」

そうして自己を解剖し、そのために生きている人間はといえば、
人間の行動の根源、"なぜ"に興味を示す側だ。
不意に彼に水を向け、自分を嫌う理由より、"スッ"とさせたい部分のほうに興味を示す。
ひとかどの法律家。折り紙つきの実力を持ちながら、煮立つような不平不満が見え隠れするような。

「ボクは」

書面を机に乗せて、署名欄にペンを走らせる。

「自由なんて求めてないんだ。それがいいものとも思えない。
 どうにも、ボクの生き様に自由を幻視するヒトが、何人かいたケド……
 抑圧や拘束のなかで、どうやって自己を表現するかを考えるほうが捗るんだよ。
 ――ステレオタイプのガリ勉(デクスター)にでも、なって欲しかったかい?」

相手がなにを考えているか、どういう人間なのか。
こちらは測りかねているので、仮定する。
署名欄には滑らかな筆記体――今どき珍しいアナログ筆記を、ずっと練習していたような筆致で。
『Nameless』と。住民票の名前は、空欄のままだった。

東山 正治 >  
東山は決して目の前の人物を侮ってはいない。
やはり、というべきか、賢い子だ。独特でもある。
ある種の真理ではあるが、やはり考え方はまだ"子ども"だとも感じる。
神妙な顔つきのまま、じ、とその瞳を覗き込むように見やる。

「……ある意味では間違いじゃない。
 仕組み(システム)としては、ね。それだけじゃないってだけの話。
 五百森ちゃんが"わざわざ"証言したことがどういう意味かは、わかったりしない?」

無論嘘の証言ではないのはそうだが、相手は違反者。
ある意味庇いたてる理由はない。だが、彼女は赤裸々に説いた。
そこには正直な証言以外にももっと複雑な理由がある。
仕組み(システム)を複雑にし、同時に円滑たらしめる"何か"を敢えて問う。

「生粋の挑戦者(チャレンジャー)、ね。
 ま、オタクの生き方は否定しないよ。
 随分と"野性的(ワイルド)"だったんだな、とは思うけどね」

宛ら獣だ。賢い一匹の獣。
挑戦(エモノ)を食い散らかし、負ければそれまで。
弱肉強食の概念。凡そ社会性から外れた考え方。
頬杖を付くその様は、呆れているようにも見える。

「……俺のことはいいんだよ
 そんなことより、さっき自分で言ったじゃないの。
 幻視とはいうがな、そう見せたのも自分の振る舞いだぜ?」

生殺与奪を手に自由奔放を着飾る謎多きカリスマ。
人を引き付けるには、偶像(ノーフェイス)を生むには充分な結果だ。
ただ自身の振る舞いが形成されただけの結果に過ぎない。

「ストップ」

名を書き終えたとほぼ同時に、声がかかる。
気だるそうな人差し指が指すのは、着飾った『Nameless(名無し)

「……名前が違うんじゃない
 俺は、名前も無い奴も、ましてや顔のない奴を弁護した覚えはないぜ」