2024/11/25 のログ
雪景勇成 > 「――そういう事だ。つーか俺は囮みたいなもんだからな。」

この至近距離で、この態勢で透明化されても意味が無い。
切り上げは爪でいなされたが、背後に回り込んだオルニスの奇襲は対応出来まい。
決定打には至らずとも、足の腱を斬り裂かれれば動きが鈍って仕留めやすくなるし行動も制限出来る。
分かり易く正面から堂々と仕掛ければ、凶暴化しているコイツはこっちに集中しがちだ。
――もう一人の、ましてや透明化してる伏兵にまで気が回るまい。

黒いキマイラは悲鳴のような咆哮を挙げて、即座に蛇の尾を振り回すが…オルニスには当たるまい。
それと、こっちががら空きだ…と、ばかりに大剣で再び豪快に真正面から斬り付ける。敢えて汚染物質に覆われてない部分に斬り付ける…飛び散ると面倒だ。

「――硬いが斬れない程じゃねぇな。」

今しがたのオルニスの不意打ちで足の腱も切れたから、そこまで肉体強度が上昇はしていないのか。
だったら仕留めるのはそう難しくも無い――と、不意にキマイラの周囲の空気が揺らいだ。
…今更この状況で透明化?……違う、そうじゃない。まさか。

「――そういう事かよ…!」

舌打ち。オルニスに警告する暇が無い。ただ、咄嗟にその場に伏せるように身を鎮めた。
瞬間、屈折した光を魔力で増大したレーザーが四方八方に放たれる!!。
透明化どころか、光の屈折率を操って魔力で補強して光線として放つのか。

青年は咄嗟に身を伏せて紙一重で回避。すかさず、大剣で前足に切りつけるが…

「―――!!」

目の前の空気”だけ”が揺らいだ。…ピンポイントで焦点を合わせやがった。
次の瞬間、青年の居る場所ごとレーザーが地面を派手に爆砕する。

オルニス > 振り回される尾をひらりと慣れた動きで、寸前で避ける。
そこにいる筈なのに当たらない。
まるで存在すら消えたかのように思わせることが恐怖を助長させる。
それは獣でも同じことだ。
正体がわからないものほど恐ろしい。

畳みかけるようにイサナが斬りつけたのと同時に空気が揺らぐ。
いや、風景が歪むといった方が正しいか。
科学、というものに疎いオルニスに一瞬判断が遅れ、頬を四方八方に放たれたレーザーが掠めた。
微かに血液が頬を伝う感触に、思わず頬が歪む。
苦痛にではなく、笑顔を浮かべるように。
これだから、異世界というのは面白い。

「なるほど……? アツイ、ひかり、熱?
 ふぅん、なるほどね、うん、だいたい分かった。」

おそらく周囲の光を屈折するなり収束なりしているのだろう。
そういう『魔法』ならこっちにもあった。
さてどう攻め込もうかなと思っているうちに爆散するのは青年の居た場所。
なかなか器用なことをするキメラだ。
あの青年は形は保ってるかな? なんて思いながらも、別段心配する様子も見せていない。
死んだら死んだでその時だ。
そもそも『囮』なのだから、その程度の危険は承知の上だろう。
しかし、だ。
ほぼ予備動作のない攻撃である以上、さっきのように無差別にばらまかれるとこちらもうかつに近づけない。

「まさか死んでないよねぇ、イサナちゃーん?」

もう少し役に立ってから死んでね、と言わんばかりだ。

雪景勇成 > ――彼/彼女の呼びかけに返事は無い。爆砕したのか蒸発したのか。ただ、青年が居た辺りが抉れてちょっとしたクレーターになっている。
直撃したら、生半可な防御手段は易々と貫きそうな威力だ。
黒いキマイラはまず一人仕留めた、と思ったのか唸るように周囲を警戒。
同時に再びキマイラの周囲の空気が揺らぎ始める。大技に見えて、案外連発できるらしい。
今、まさにキマイラが再びレーザーの無差別砲撃を放とうとした、その直後。

この程度で死ぬ訳がねぇだろ。」

不意に青年の声が、遅ればせながらオルニスに答えた。
直後、いきなり地面から巨大な黒い刃が生えてキマイラを串刺しにする。

盛大に苦悶の咆哮を上げるキマイラから少し距離を置いて、何時の間にか忽然と青年がそこに立っている。
…よく見ると、若干だが制服のあちこちが焦げている。どう凌いだかは兎も角、ややギリギリだったらしい。

「――逃がさねぇよ…オルニス、アンタの方がこういうのやりなれてるだろ。トドメ任せた。」

キマイラが強引に脱出しようとするが、巨大な黒刃からまるで枝分かれするように細かい刃が無数に出現。
体内からキマイラの体を縫い留めて抜けないようにする。異能の応用だ。

オルニス > 「言われなくても。」

そう答えるのが速いか否か。
虚空から唐突に、空中に浮いているオルニスの姿。
紅い翼は腕と一体化し、それこそ大きな大剣のように。
太陽と視界の間に現れたそれを直視することはかなわず、キマイラの眼に最後に移ったのは紅い無慈悲な眼差しだっただろう。

静かにイサナの隣に降り立ったかのように思えた瞬間、ずるり……とキマイラの首が斜めにずれた
少しの時間をかけて、滑り落ちるように首と胴体が離れて行く。
キマイラは絶命の悲鳴すら上げることも許されず、その巨体をずどっと地面に横たわらせることになる。

「ふぃ~……いやぁ、危なかったねぇ。」

汚染物質が混じった血をぱっぱと払い、異能を解いた。
なんともなかったかのように、イサナににへらぁと笑いかける。

雪景勇成 > 「――お見事……アンタとは戦いたくねぇな。」

オルニスの手際と、トドメをさされるキマイラを見つめてぼそりと一言。
太陽を背にして目晦まし代わり、からの一撃必殺の首狩り…暗殺、奇襲に長けた動きだ。

静かにオルニスが隣に降り立つとほぼ同時、キマイラの首が斜めにズレて…落ちた。
断末魔も何も無い、無慈悲な幕切れ。首を失った巨体が地面へと派手に倒れ込んだ。

「…まぁ、幻想種ってのは油断ならねぇからな…汚染もされて何を身に付けてるか分かったもんじゃねぇ。」

肩を小さく竦めて、何事も無かったかのようなマイペースな気の抜けた笑顔を見せる彼/彼女を見遣る。
と、青年が持っていた黒い大剣と…キマイラを貫いた黒い刃もガラスが割れるような音と共に霧散する。

「…まぁ、流石に単独で相手してたら面倒ではあったな…ありがとよ、オルニス。」

ぶっきらぼうな口調はさっきから変わらないが、きちんと礼は述べる。
喋り方や表情でマイナスになりがちだが、別にチンピラじみている訳ではないらしい。

「…つぅか…アンタは何で汚染区域に?賃金とか人命救助とか調査だとか…そういうの目当てにゃ見えねぇが。」

オルニス > 「戦う事なんてないでしょ~。
 別にルールに違反したことも今のところない……筈だし?」

こっちの自警団……風紀委員と事をかめるつもりがないというのは本当のところだ。
下手に目をつけられて自由を脅かされてもかなわないし。
そういう意味では『貸』を作っておいて損はないかもしれないな、と一つ思いながら。

「どういたしまして、イサナちゃん。
 しかしよく生きてたよねさっきので、
 わたしこそ君とは戦いたくないなぁ。」

必殺のつもりで生きていました、なんてアサシン的にはやられてしまうと後は逃げるしかないのだ。
特にこうして手の内を見せてしまった以上この手のタイプはきっちり対応してくるだろうし。
まぁ、当然すべてを見せたわけではないけれど、それはそれとし戦いたいとは思わない。

「ん~?
 ほら、ここなら街中みたいに許可なく異能を使って空を飛ぶな―……とか言われないでしょ?
 協力する代わりに自由にお空を散歩してたってわけ。」

もちろんまったく駄賃に興味がないかと言われればそういうわけでもないが。
時には空が懐かしくなるのは本当のことだ。

雪景勇成 > 「…別にアンタがルールを順守しようが逸脱しようが、そりゃアンタの自己責任でアンタの勝手だ。
…それに、俺は仕事以外で誰かとドンパチするつもりはねぇよ。」

面倒だしな、と今度は大仰に肩を竦めて。公私をきっちり線引きしている…というよりも。
単純に面倒なのだ…ドンパチしないで済むならそれに越した事は無い。
まぁ、落第街とかを歩いていると非番であってもドンパチする羽目になる事も珍しくは無いが。

「――結構紙一重だったけどな…あぁ、”種明かし”は勘弁な。…俺もアンタの透明化とか追及するつもりねぇし。」

お互いの手札には触れないのが一番。勿論知っておいたらいざ敵対した時に有利は取れるだろう。
が、それをしないのは…まぁ、至極単純な理由だ。一つ『借り』が出来た。それだけ。

「…ま、一つ『貸し』にしといてくれ…実際助かったしな。」

そこは実直なのか律義なのか。オルニスが考えていたであろう事を自然と口にする。
そして、オルニスが汚染区域を飛んでいた理由を聞けばふぅん、と頷いて。

「…ま、アンタ何か自由人そうだしな…組織とか枠組みに縛られたくないタイプみてぇな。」

あくまで青年がそういう印象を抱いただけで、事実かどうかはまた別だが。

オルニス > 「あはは、そう言ってくれると助かるなぁ。
 わたしも風紀の人と知り合えてラッキーだったしね。」

貸しもできて一石二鳥だね、と肩をすくめながら舌をぺろり。
目論見をさっそく読まれてしまっては形無しもいいところ。
まぁ、それはできたらいいな程度にしか考えていなかったし、これといって見抜かれて困ることでもなかったけれど。

「うんうん、いいよ。
 仕事道具は聞かないのが暗黙のルールだったしね、わたしのところだととくにさ。」

それはあくまで向こうでの仕事での話、だけれど。
万が一、ということもあることを否定できないがゆえにここはお言葉に甘えるとしよう。

「あ、やっぱりわかる?
 そうなんだよね~、だから部活とか委員会とか今はなーんも考えてないの。
 自由気ままにふらふらしてたいからね。
 だからって人様に迷惑かけることはしてないつもりだけど。」

そのためにわざわざこんなところまで足を運んでいるわけだし、郷に入っては郷に従えというやつだ。
日本語というのは難しいけれど便利な言葉がずいぶん多い。

「じゃ、お仕事も無事済んだみたいだし、わたしはこれで失礼するよ~。
 あ、後始末は任せても大丈夫?」

わざわざ調査報告とか、面倒だし。

雪景勇成 > 「…俺より普通に話が分かる風紀の連中はゴロゴロ居るからな…ラッキーかどうかは分からん。」

まぁ、今回の報告書にはオルニスの事は意図的に”書かない”ようにしておこう。
共闘した手前、あまり手の内を広げられたくないのはお互い様だしこれもまた暗黙の了解じみたもの。

「…まぁ、俺で出来る事なら協力するって事でいいか?出来れば非番の時のほぅがありがてぇけどな。
…あぁ、”どういう所”だったかも聞かない事にするわ。」

凡そ察しはぼんやり付いたが、そもそも根掘り葉掘り尋ねる趣味も無い。
袖擦り合うも他生の縁…知り合った以上、こちらなりの礼儀は通すとする。

「…まぁ、うっかり風紀に捕まらないようにしろよ。風紀の俺が言う事でもねぇが。
…まぁ、無理に所属する必要もねぇし色々見てみるのも一興…ってやつかね。
…その調子だと、どうせ落第街とか…”あっち側”にも行ったりしてんだろ。」

俺も仕事以外で行ってるけどな…と、言いつつオルニスの基本的な”ノリ”は大まか理解した。

「…ああ、調査報告はアンタの事は省いておくぜ。詳細とか書かれると面倒だろ。」

貸し借り関係なく。青年も細かい報告書は苦手なので、単独で討伐しました、の方が楽でいい。
思い出したようにリュックサックを拾い上げて、ゴソゴソと探れば。

「…取り敢えず、ついでにこれ渡しとく。携帯食料と水だから味気ねぇが小腹空いたときにいいだろ。」

と、水の入ったペットボトルとチョコバー的な携帯食料を一つ、放り投げて渡そうと。
そうすれば、リュックを背負い直してから…気怠そうな足取りで、オルニスに軽く右手をひらりと振って歩き出す。

オルニス > 「おっとっと……」

投げよこされたお水とチョコバーを受け取ればうれしそうに。
さっきまでの冷徹な暗殺者時見た動きが嘘だったかのように目を輝かせた。

「わっ……ありがとうイサナちゃん! ありがたくいただくし、おことばにあまえるよー!
 えへへ、もつべきものは話の分かる友人だよね~」

その場でもしゃもしゃ、とチョコバーをほおばっている、
あの異能は使うと色々なものが不足することになるので食事が必要不可欠なのだ。
元々小食のオルニスとしてはちょっぴり残念な副作用である。

「うんうん、なにかあったら手伝ってくれたらいいよ。
 そのときはイサナを訪ねにいくかもね~」

風紀員庁舎とか行けばいいんだろうか、と後姿を見守って。

「へへへ、向こう側に行ってるのは内緒だよ~?」

図星ににへ、とわらい、悪びれもせず。

「またね~、イサナちゃ~ん!」

手をぶんぶん、大きく振ってからこちらもまた空へと飛び立った。
もう少しだけそらの散歩を楽しんだら、今日は宿……じゃなくて、寮に帰るとしよう。
そろそろルームメイトとか探すのもいいかもな。

ご案内:「Free4 未開拓地区 汚染区画-西側区域-」からオルニスさんが去りました。
ご案内:「Free4 未開拓地区 汚染区画-西側区域-」から雪景勇成さんが去りました。