2024/07/04 のログ
緋月 > 「いや、そんな! 私なんてまだまだ修行中の未熟者です!
結局、何だかんだでまだ目標にも届いていませんし…。」

ついつい反応が生真面目というか、自分を小さく見てしまう方向に向かう少女。
最も、目の前の教師にしてみれば、これまた可愛がる理由の一つになるのであろうが。
そこまで考えの及ばない所がまだまだ未熟者である。

「あ…やっぱり、珍しい形の能力なのですか。
異能といっても千差万別なので、珍しい訳ではないのだろうかと思っていましたが。」

こちらもちょっと考え込む顔。
特に訳もなく掌を合わせられれば、恥ずかし気にちょっぴり俯く。
また可愛がられる理由が一つ増えた。

「はい、年の頃は――うーん、多分私と同じか、違っていたとして1歳程度だとは思うのですが。」

何だか、考える程に謎が増えていく気がする。
先日はそこまで考えていなかったが、こうして話をしている内にどんどん首を傾げる事が多くなっていく。
流石に、病院服の少女もちょっと難しそうな思案顔だ。

「えっと…これとは違います。
紙で出来た学生証で――えっと、形は――――」

そのまま、思い出せる限りの学生証の形やらデザインやらを述べていく。

――その特徴が出揃えば、その学生証が使われていた時期が判別できるはずである。
そう、凡そ1年前に使われていたタイプの学生証の特徴と、符合する所が非常に多い。

ポーラ・スー >  
「うぅーん――」

 ものすごく真剣に悩んだ顔をしている。
 それこそ、いつものどこか楽し気で無邪気な様子と違って、真面目で、考え込んでいるような様子だ。

 ヒントの一つ目。
 珍しい形式の治療系異能力。
 これ自体は、公安に所属していたら、表向き別の能力として申請されている場合がある。
 そのため、珍しいとは言え、決定的な手掛かりにはならない。

 ヒントの二つ目。
 背格好や、髪の色。
 衣服についてはともかく、直に接触した少女が『目立つ方』だろうと認識している事が重要だった。
 少女の感性が人並み外れてとんでもなくズレているのなら参考にならないが、そんな事もない。
 もちろん、多少なりと同じものを見ても印象が違う事はあるだろうが、誤差だろう。

 ヒントの三つ目。
 やや古い型の学生証を使っている。
 もし何らかの理由があっての選択であるなら、もっと特殊な物であるはずだ。
 毎年更新する物ではないため、おそらく学生証の形式自体は問題じゃない。

 手がかりになるのは――およそ一年前に、学生証に記載できるような公安の部署に所属していた、比較的目立つ少女である、という点だろうか。
 女がこの島に赴任してきたのは二年前。
 時期を考えれば、女が完全にその『蒼春 千癒姫』を知らないのはどうも不自然である。
 いや――やはり、おぼろげだが覚えはある。

「あぁ――やっぱり、わたしの『お月様』は堪らないわ!」

 そう感極まったように言って、少女に抱き着こうとする。
 まるでそれまで真剣に考えこんでいた様子が、嘘のような豹変ぶりであるが、別に唐突ではないのだ。

 そうなぜなら――超、大真面目に、『るなちゃん』ったらなんて愛らしいのかしら! あぁもう、今すぐにでも抱きしめたいわ! ああでも、いきなり抱き着いたら嫌われちゃうかしら? いいえ、そんなことないわ! だって、わたしはこんなにも『るなちゃん』の事を愛しているんだもの! きっとこの思いは伝わっているに違いないでしょう? それなら抱き着いたって受け止めてくれるに違いないわ!

 ――などと、並行思考で考え続けていたからである。
 

緋月 > 「ふむぅ……。」

同じく真剣な顔をして考え込んでいた少女。
先日に遭遇した蒼い少女に対する印象は「変な人ではあったが悪そうな人には到底思えない」だった。

それが、この教師とのやり取りの間に「妙な所がいくつか見つかっている」という事実が付加されている。

何故自分に、しかも今、この「入院しているタイミング」で接近してきたのか。
公安委員と風紀委員は別の間柄とは言え、不仲であるとは思えない。
少し調べるなりすれば、自身が風紀委員の同居人に引き取られて居候している事は分かる筈なのだ。
あの「最初の戦い」で自分を見つけて「ファンになった」のなら、今のタイミングを狙うよりも
同居人の方を訪ねて来る方がずっと確実である筈。

(……疑ってしまってるようで、何だか嫌ですね…。)

こうして話をしている教師ならば、何か新たな切り口を見つけてくれるだろうか。
ちょっと気になって視線を向けたまさにその時である。
突然、豹変したような勢いと声で思い切り抱き着かれた。

「なにゆえーーーーーー!??」

勿論少女には並列思考で考えていた事など知る由もなし。
突然の不意打ちに叫び声をあげる事は出来ても、殺気のさの字もない不意打ちでは対応も出来ない。
結果、愛玩動物のように抱き着かれてしまう有様であった。

ああ、病院の看護師さんが検診に来た時の視線が怖い。
先日、あの蒼い少女が帰った後の検診では、露骨に「病院内は静かにしろ」という視線を向けられていた。

ごめんなさい看護師さん。

ポーラ・スー >  
「だって、こんなに愛らしい『るなちゃん』が目の前に居るんだもの。
 抱きしめて、なでなでして、思いっきり可愛がりたくなっちゃっても仕方ないでしょう?」

 そう言いながら、うまい事背中に腕を回し、しっかりとホールドしてしまう。
 少女の胸のあたりに、女の頭が乗るような形になるだろう。

「ああ――優しくて、温かい音」

 少女の鼓動が聞こえる。
 それは確かに、この可愛らしくて堪らない少女がこの場所で、この時間を生きている証拠。
 そしてそれが、狂おしいほどに愛しい。

「――その、女の子については、少し調べてあげるわね。
 わたしもちょっと気になっちゃったし、なにも変なところが見つからなかったら、『るなちゃん』も安心してその子と仲良くできるでしょう?」

 そう言いながら、少女の胸に耳を当てて、穏やかな表情で目を閉じる。
 まるで、赤子が母の腕に抱かれているかのように、安らかですらあった。

「ほんとうに――なんて愛おしいのかしら」

 少女の事を特別に思った理由はささやかなものだ。
 ただ、あの日の『月』が綺麗だったから。
 本当にそれだけだったというのに。
 今はこうして惹かれてしまっている。
 その理由は――いや、それもまた、口にするほどでもない、ささやかなものだった。
 

緋月 > 「理由が分かるようでまったく分からないのですがーー!?」

混乱の声。とはいえ半分少女も悟ってしまっている。

(――多分、ですけど、先生も何かしらのきっかけがあって、こんな行動に出てるんでしょうね…。
…交流の距離の近さはともかくとして。)

流石に、そこの所は先日の経験もあってか理解は出来る。
そして何より、素顔を隠していた際に垣間見た、あの狂おしい程に曇りなく純粋な善意と、底なしの愛情。
それが、特に後者が個人に向けられればこうもなろう。
いや、これでもまだ大人しい方であるのかもしれない。

(――ホントに、先生も悪い人ではないんですけどね。
悪い人でないから、余計に戸惑うんですけど。)

抱き着かれながら、ちょっと困った表情に、少しだけ笑顔が混じる。

「…すみません、「色々と」大変な所を。
私も、正直に言うと、安心が欲しいので…とても有難いです。」

先生からの申し出は、有難く受け取る事にした。
彼女の立場ならば、決して難しい調べ物では無いと思う。
他に公安委員に伝手はなかったので、言葉の通り、本当に有難かった。

「………それで、いつまでこうしていればよいのでしょうか?」

ちょっと困った笑顔を浮かべながら、そう質問。
返答がある程度予想できるのが、少しだけ恨めしい。

ポーラ・スー >  
「まあ。
 『るなちゃん』だって、愛しい人が目の前に居たら、抱きしめてあげたくなっちゃうでしょう?」

 思ってもタイムラグなく行動するかどうかは別問題なのであるが。
 この女は、そうしたいと思ったら行動するのであった。
 まことに、残念なことに。

「――いいのよ、だって、わたしの『お月様』の事だもの。
 わたしが出来る事なら、なんだってしてあげたいわ」

 それは、本当に嘘偽りない本心である。
 ただ、その『なんだって』が狂信的なまでに無制限である事が、多くの人にとっては、災いにもなりかねないのだった。
 善意であれ、愛情であれ――それが全て幸いであるとしたら、世界はどれだけ平和である事だろうか。

「あら、わざわざ聞いてくれるの?」

 ふふふ、と。
 小さな笑い声はとても幸せそうに聞こえるだろう。

「大丈夫、もう少しだけ。
 もう少し、『るなちゃん』の音を聞かせて?」

 その声はどこか、子供が甘えるような。
 少しだけ寂しそうで、少しだけ哀しそうな。
 そんな、女にしてはささやかなお願いだった。
 

緋月 > 「愛しい……ですか。」

問い掛けに、ちょっと複雑な表情。
嫌という訳ではないが、理解の及ばないという顔。

「…正直な所、そういう感情が理解できているかというと、少し自信がありません。
こう、迫られると、どきりとするモノはありますが……そういったものの理解とは遠い生活でしたので。」

家庭の事情、というものです、と、少し困ったように言葉を締める。
実際、その手の理解が進んだのは家を出てからだった。
それも頭での理解が主で実体験の非常に乏しいものであったが。

「――助かります。よろしく、お願いします。」

先生の抱える感情の重さに少し心配をしつつも、感謝の言葉。
後は、先生に任せて、問題があったらその時に悩もう。
平たく言えば「問題の先送り」だったが、今はそうして、悩みごとを切り離す事にした。

「――わかりました。
それくらいであれば、ご遠慮なく。」

小さく困ったような笑顔を浮かべ、そのままに任せる。
彼女が満足するか、あるいは面会時間を看護師が告げに来るのが先か。
とりあえずは、その時までお互い静かに、時間を過ごそう。

ご案内:「医療施設群 一般病棟 とある個室」から緋月さんが去りました。
ご案内:「医療施設群 一般病棟 とある個室」からポーラ・スーさんが去りました。