2024/09/12 のログ
Dr.イーリス > 「なっ……!? なんという破壊のエネルギー……!?」

暴走魔術ウロボロスに、イーリスは目を見開く。

メカニカル・サイキッカーの大砲と化した右腕に、溜まっていくエネルギー。
こちらも強烈な破壊力を齎すもの。まるで、魔法少女の閃光の如く。そして、破壊の神の如く。
ただ、破壊するためだけの、破壊と、破壊の、破壊。破壊のエネルギー。

しかし、問題点がある。
スターライト・スレイヤーを違法改造した結果、なんか溜める時間が結構伸びた。

「は、破壊力を追求しすぎて、エネルギーの充填が思ったより遅いです……!! わわっ!!」

土壇場で慌てだす。
マリアさんは黒い双球を形成していく。
相手の技の方が、メカニカル・サイキッカーの技より遥かに出が早い。

とても不甲斐ないけど黒い双球は、二人に任せるしかない……。

メカニカル・サイキッカーと共に出動していたキメラ型メカ、キメちゃんも走ってくる。

キメちゃん狼の顔「わおおおぉぉぉぉん!!」
キメちゃん狐の顔「こんこん!!!」

マリア > ウロボロスは止まらない
元から止まる様なものでもない
全ての魔力を込めて全てを破壊しつくす文字通り自爆技
多少遅れても結果は変わらない

「はは、は…死ね、全部まとめて潰れて消えろ!」

何もかも、消えてしまえ
あの時潰されて消えた家族みたいに―――
何もかも蹂躙して消えてしまえ―――
お前等なんて(自分こそ)死んでしまえ―――

アルターエゴ・サイキッカー・エルピス >   
 外装が剥がれ、破壊の魔術を肌で触れて理解する。
 とても哀しい、黒く塗りつぶす魔術。

 自分の力では、あと一押し足りない。
 闇は照らさなきゃいけないものだから、これを照らす力が、必要。

「いーりすっ、照らして!」

 暗い道を照らす光が欲しい。
 無理を承知で、夜を照らす光を願った。
 

> 「――そりゃ悲しいだろ。…俺にゃマリアちゃんの気持ちとかそういうのサッパリ分からんけど。」

魔力切れに右腕の深刻な怪我、あとは竜の魔力の反動で眩暈がする。
正直もう少年に出来る事はこれ以上は無い。すっからからんだ。だけども。

左手でピッとマリアを指さす。黒い双球の脅威なんて気にも留めないみたいに。

「――どっちも死なない幕切れ(カーテンコール)だ馬鹿野郎。」

後は任せた、とばかりに結果を見届けるのみ。

Dr.イーリス > 元々、頑丈なるバリアを突破するために高威力砲を溜めていた。
だけど、全ては無駄に終わりそうだ。
マリアさんがバリアを自ら解除して自爆しようとしている今、マリアさんのスターライト・スレイヤーを違法改造異能化した《星光の破壊神魔砲(スターライト・デストロイヤー)》は完全なる過剰火力。

「お役に立てず、申し訳ございません。あとはお願いします!」

メカニカル・サイキッカーは右腕の大砲を空に向けて、今や必要なくなった過剰エネルギーを放出。
そのあまりの威力に、イーリスの体内コンピューターは熱暴走して煙を発し、そしてばたんと倒れた。

(……私は戦況を見誤り……何の役にも立てませんでした……)

空のメカニカル・サイキッカーも煙ををあげながら、地上に落下する。

アルターエゴ・サイキッカー・エルピス >   
 イーリスの想いを無駄には、しない。
 
 過剰火力。強烈な光と破壊。
 上空に打ち上げられた力で照らされ続ける光はどこか白夜のようだと思いながら、
 もう一つだけ技を放つ。

 彼方の忘れ去られた御伽噺の先の、一つのわざ(魔法)
 
 ああいうもの(黒くゆがむ星)を返すためだけの、まほうのわざ。
 
「ゆがみ、返し……!」

 都合の良すぎるような、黒い星に対抗するまほう。
 それでもこのわざは何処かにあったもので、ひとつのオマージュ。
 忘れられつつあるものを、かなたのわざとして持ち出した。

 照らされた打刀を通じ、黒い双球を掻き消した。
   

マリア > 「消えた……?」

暴虐と破壊を生み出す双球は完全に消え去った
使える魔力どころか、もう一歩でも歩き出す事すらできない

自害でさえ、できもしない現状に笑いがこみ上げる

「ふっ……ふふ…なんて、無様…」

倒れ、目を閉じる
急速に意識が遠のいていく

> 「おっと…。」

正直フラフラだけど、何とかそちらに近寄って。
無力化した元・魔法少女を抱き上げておこう。

「無様なのはお互い様だっつーの。」

こっちは小癪に妨害したり邪魔するのが精一杯だったんだから。
まぁ、取り敢えず生きてるようで何よりです。

(本当にしんどいのはこの後だろうけど…)

そこを考える余裕もあんまり無い。フラッと体が傾いだが何とか持ち直して。

「…二人ともお疲れさん。…取り敢えず事務所に引き上げようぜ。」

エルピス・シズメ >  
「……だいじょうぶ、いーりす。
 つぎ、がんばろうね。失敗は成功の母だから、ね。」

 元の姿に戻り、イーリスを受け留める。
 弱った身体ではかなり重いけれど、彼女を受け止める為ならなんだってする。

 愛おしそうに、意識のないイーリスを撫でる。
 ナナや赫さんには、絶対甘いと言われそう。
 それでもそうしたいのは、僕の我儘。

「そうだね。……ぼくはイーリスを運ぶから。マリア、事務所にお願い。
 もうしわけないけど……防災室に、閉じ込めておいて。」

 言葉と共に、赫の後を追って引き上げる。
 時間は掛かるけど、しっかり運んだ。
 

Dr.イーリス > ゆっくりと目を閉じていく。

(……私は…………お二人に比べて……無力……です……。ごめん……なさい…………)

イーリスは戦況を見誤り、必要のなかった光線を放出するために、安全に空に放ち、さらにその反動で気絶していた。

異能の違法改造の失敗。
自身が無力である事の再認識。
自分では、事務所を守る事ができない無力感……。

それでもマリアさんを無力化できたのは、よかった……。

その後はエルピスさんに運んでいただいて、事務所に帰った事だろう。

> 「へいへい…ま、閉じ込めるのは止む無しかね。」

微苦笑を浮かべて。平然を装っているが今にも実は気絶しそうなくらいで。
けれど、それはなるべく顔や態度には出さず…ちょっと足元は危ういけれど。
マリアを抱き上げたまま、二人と共に事務所に戻ろう。

防災室にマリアを隔離した後は、とうとう限界を迎えて倒れてしまったとか何とか。

ご案内:「落第街 路地裏」からマリアさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「数ある事務所/私室」にエルピス・シズメさんが現れました。
エルピス・シズメ >  」
 数ある事務所本館、私室。マリア騒動のちょっと後。
《虹の奇蹟》の知識を動員して医務室で状態をチェックし、私室に運ぶ。
 過度な演算と疲労・精神負荷と予測する。

 自分でも使えそうな、栄養補給と消耗回復用のアンプルをイーリスに投与しておく。

 ……大きな外傷は、メカニカルサイキッカーなどぐらいか
 イーリス自体はちゃんとキャッチしたから無いと判断する。

 私室に運び、イーリスを寝かす。
 エルピスとイーリスは相部屋だ。

「ゆっくり、休んでね。僕も隣で、ちゃんと寝てるから。
 マリアはちゃんと確保した。失敗も成功の母だから、また、頑張ろ。」

 イーリスと寝かせて休ませて、起こさぬようにゆっくり囁く。

「大好きで、愛しているイーリス。
 失敗は成功の母にして、くじけないでね。」
 

エルピス・シズメ >   
 そう伝えてから、イーリスの枕元に書き置きを残す。

『コンビニに行って、リンゴのパックジュースとプリンを買ってきた。』
『本館の冷蔵にあるから、ゆっくり食べてね。』

 書き置き通りのものを、合間を縫って買ってきた。
 深夜の歓楽街のコンビニで、プリンとりんごのパックジュース。
 スプーンとストロー付き。

 書き置きを終えれば何時ものようにベットに入り。そっと眠る。

「おやすみ。いーりす。だいすきで、あいしてる……。」

ご案内:「数ある事務所/私室」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「落第街 ■区」に出雲寺 洟弦さんが現れました。
出雲寺 洟弦 > ――『夏休みは楽しめたか』


……誰だか、出掛ける前の俺に、そんなことを言った奴が居る。
――クラスメイトの■■だ。

そいつ、ちょっとクラスでは浮いてる奴だったから、
まぁ、なんだかあんまり、周りと上手く馴染めずに居たのか。

突然連絡が来て、変な場所を指定された時から、なんか。
厭な予感がしては、居たんだけれど。






「――――ッお、ぁあらァッッ!!」

――――鋭い打撃音から、エンジンの激しく駆動するような、
けたたましい音を鳴り響かせて、握りしめた『槍』による、
全力の薙ぎ払いが、周囲を囲む不良一団を吹っ飛ばす。

前言撤回、『槍の穂先はつけてない。』
だから、これは、ちょっと五月蠅いエンジンみたいなものがくっついた、ただの鉄棒!!

「ッ勘弁、してくれねえか!!これって人に向けていいもんじゃないんだよ!!」

大声で言っても聞きやしない、次から次へと、古風なパイプを握った奴から、
何故か電気を走らせるスタンバトンとかいうものまで持ち出されて、
揚げ句には異能力かなにか、『水』による無数の矢が隙あらばと飛んでくる。

……『人間』。そう、相手は全員、『人間』だ。

だから、こういう状況になった時点で、俺はとても困る。




「――……おい!!■■!!なんでお前、こんなことして……!!」


――――その大声の掛けた先にいるのは、
そんな奴等の遥か後ろに、ふらふらと立ったまま、
ただ、薄ら笑った顔の、ぱっとしない男子へとだった。

「……聞こえてんだろ!!!」

出雲寺 洟弦 > 上体を逸らしながら鋼の棒で強かに一つ一つを鋭く払う、
掠める水矢の群れを全部避けるっていうのは無理がある。

「ッッ……おい、だから、ッお前……!!」

――振り被られる音、スタンバトンによる理不尽な電流の打撃には、
分厚い靴底の蹴りで弾き返して、地面に棒先突きたてて、
そのまま周りを蹴り飛ばしてから後ろに一回転、転んでる暇もない、
地面に後方へと倒れ込んでバットの殴打を交わし、縮めた脚を勢いよく伸ばして目の前の一人の顎を強打、跳ね起きながら横のナイフ男の服の裾を掴んでから関節をちょっと決めつつ真横の奴に突き飛ばして相打ち、怒涛の水矢此処で第……もう数えるのをやめた、避ける、弾く、少し申し訳ないが両隣から一斉に掛かった奴を足許引っ掛け、同時にひっくり返して盾代わり、当たってもとんでもなく痛そうな弾ける音以外はしなかったがそんなのも最早どうでもいい。


統率は幸い"俺の知ってるレベルよりは低い"、かなりの数を倒してる、
人数は兎に角、これならなんとか――。



「ッッこんな!!こと、して!!意味があるのかよ!!」







…………幽霊みたいに立ってたそいつが、
漸く口を開いて、言った。





『……俺にとっては、お前が、目障りだった』



『なんでも出来て……みんなと仲良くやれて』




『彼女まで、いて、……友達も、多くてさぁ……』

■■ > 「――お前のこと、ずっとずっと羨ましくて妬ましくて仕方がなかったんだ!!」
出雲寺 洟弦 > ――――周囲の気配が変わった、攻撃が止んだからだ。

異能の射撃も止まって、ただ、目に見えて……。


"明らかにさっきまでとは比べ物にならない殺気"が向けられてるのが判った。

「ッ……なんだこれ……!?」



――紅い、煙のような物が、前方から垂れこめてくる。
周囲の不良達が、その煙に巻かれた途端に、発する殺意が膨れ上がる。
四方八方からの、理不尽な殺気。

『お前を殺してやる』という気配が、自分を囲んでいる。
人間が人間を殺す、最も愚かで、最も身近な、人の恐ろしさ。
この煙は恐らく、■■の異能、"俺と同じ系列の異能"だ。


つまり、此処から先は、さっきまでのように凌げる保証はない。




「……、……」

――足が下がる。棒……これを、『槍』に組み替えるべきかと思巡する。
その一瞬の隙で、



自分の身体の幾ヵ所が撃ち抜かれた

■■ > 『お前がいるから、お前のせいで、お前が全部……お前が全部悪いんだ……』


――その指先ひとつで、他の不良達と疎通する。
元々烏合だった"俺たち"は、今やひとつの巨大な獣だ。

掌に握った、ほんの小さなバッジひとつ。
俺たちが俺たちであるための力。

俺たちは俺たちが俺たちによる俺たちのための――。


『……そうだ、俺たちは、俺たちだ!!』

出雲寺 洟弦 > ――叫び声と共に、自分の身体にぶつかった物を目線で追う。

焼き付いた制服、穴が空いたそこに残る傷と、それから垂れた血。
一定以上の痛みという信号が身体に『危険』を知らせると、
自分がどういう状況に置かれたのかを認知させてくる。



             "殺し合いになる、逃げるか、殺せ"



「……ッ痛……てぇな……!!」


――前方から二人、いや三人、その陰に隠れて二人。

後ろに下がりながら身を捩って薙ぎ払い、重さと硬さだけで大怪我させても可笑しくない。しかし、今はそれを全力で頭狙い。
思いっきり鈍い音が二回、手応えと共にかえってくるが、すぐにその背後の一人が振り抜いた後を狙ってマチェットで切りかかってくる。
刃はそのまま自分に振り下ろされれば間違いなく致命傷になる。

「ッッう、ぁらあッ!!」

振り抜いた後からすかさず両手で握り締めると、その胴目掛けて先端で打撃する、エンジンみたいなもんと言ったが、要するになんか力を発生させるための巨大な鉄の塊だ。作った人間がそうだと言ったから多分そう。
それを遠慮なく叩きつけてやれば、刃物を取り落としながら吹っ飛ぶ。

あと一人――一人?



「――――が、ッッ……?!」

――鈍痛、鈍い音と同時に、あばらから軋む音。
……何人いるか分からなくなった。

さっきまで判断できたものが、出来なくなる。
これもあの煙によるものか、それとも――他に異能力を使ってなかった奴が、陰で妨害してきたか。

「ッッ……!!」


――数を数える、受けながら敵と得物を、自分の周囲一帯を払って、何回当たるかまでを。

とっくに今、視界は頼りにならなくなった以上、
身体と気配、音、匂いで探る他ない。



その情報と――――全身を打つ痛み、異能による射撃の被弾、
本能で交わして尚掠った刃物の傷が、等価交換に刻まれていく。

出雲寺 洟弦 > ――空気が湿気ている。
夕立ちの後の空気が、重い。

じめっとして、鼻先を擽る自分の傷の匂いが、いつまでもまとわりつく。

耳を常に刺激するのは、振りかざされる武器の風切り、
身を躱して、後はけたたましく音を立てながら反撃の薙ぎ払いや突きによって、
本来そんな役割もないのに人間の身体に叩きつけられる得物の不愉快そうな金属音。

――きりがない。何故?少なくとも、得物の数と、身体に刻まれた傷の痛みの種類で、だいたい5、6人くらい。


「――……嗚呼、畜生……」


――射撃音、水、光、熱、なんだその殺意たっぷりな異能力は。

身体を躱す、棒で打ち落とす、打ち落とす間に、掠った刃物で、スタンバトンの電流で、こん棒で、バットで、全身をボカスカ殴られて、


自分が当てる音よりも、周りが自分に当てる音が増えていく。
……自分の息遣いが震え始めている。



(異能力……相手……って、こんな……厄介、な)


――痛みの信号が鈍くなる。身体は動いても、感覚がどんどん薄れる。
反撃して、反撃して、躱して、反撃して、躱して躱して躱して躱して……

(異能力、戦闘訓練、とか、……ちゃんと、しとくんだった……!!)


――当たる。

当たる。  当たる。



当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。当――――――。

ご案内:「落第街 ■区」に九耀 湧梧さんが現れました。
九耀 湧梧 >  
その次の瞬間。

轟、と、音を響かせるかのように、「気」が噴き付ける。
ただの気ではない。
普通の人間なら、あてられただけで「斬られた」と認識しかねない、強烈な「剣気」。

ざり、と、ブーツが地面を蹴る音がする。

「――血腥い雰囲気を感じて来てみれば、こりゃどういう事だ。
全く以て、穏やかじゃないな。」

ざり、と、更に足音が響く。
恐れのない、躊躇いもない足音。
同時に、剣気が濃さを増す。

「事情は分からんが――見捨てるのも、少し寝覚めが悪い。
お節介だろうが、お邪魔させて貰うぜ。」

果たして、その噂はこの落第街の外の何処まで通じているだろうか。
一時期、落第街で猛威を振るったとある噂。

《身の丈に似合わぬ魔剣を持ち歩くな。
見せびらかすな。
誇示するな。

さもなくば、黒い男が、魔剣を奪いに来る。》

今や、被害に遭う者は皆無となったが、その噂は落第街に傷痕の如く留まり続けている。

――黒いコートに赤いマフラーの、魔剣を奪う男。
通称、刀剣狩り(ブレードイーター)
 

出雲寺 洟弦 > 「――――――は」


――痛みという情報より先に、その吹き付けられた気配が訪れた瞬間、
……呼吸が一瞬、『もう止まった』と、詰まる。

さっきまで降り注いでいた痛みの元、武器という物が生ぬるいような、
じめついた空気が一気に温度を下げていったような感覚。


さしもの集団リンチに特化した統率状態にも、綻びがあったのかもしれない。
それまで一人に振り下ろされ続けていた得物を握った不良共が、
一斉に離れて新たな"獲物"……"敵対者"に警戒を向けたものだから。



(……く、首、腕、ついて、る……!!け、ど、今の、一体……!!)



問題は、その中心にいた男子生徒だ。
――制服だった"襤褸布"に、夥しい傷と、そこから垂れた血と、
青痣まで顔に残って、

……当てられた剣気に反応して、身構えていた。
それだけで少なくとも、そこにいる一人も、
まずそこまで素人一般人という物でないのは確かだと。
――腕に握った、槍から『穂先』だけ取り外したような、
先端に金属の機械がくっついた鉄棒を握って立ち上がろうとしている。



「……あんた、一体……ッ」


――…………煙。赤い煙が、立つ。

■■ > 『……何だよ、今、俺は"イヅル"を潰してんだよ……だってのに、"俺ら"の邪魔を……』


――――その煙を吹きつけさせる、ぱっとしない見た目の男子生徒。
恐らくは、その異能によって統率を取っているか、"させている"のか。

ただ、その煙による影響さえ貫いて、剣気という物に当てられた、
不良の誰かがぽつりと口にした。


「……刀剣狩り、だ……!!」

九耀 湧梧 >  
「……集団リンチか何かの類か。
全く、落第街(此処)の不良連中か、それとも性根の曲がった普通の生徒かは知らんが…。」

ふぅー、とため息にしては、随分と深い息を吐き、左の腕を黒いコートの
内側に差し入れる。
ほんの2秒ほども経たず、取り出された左手に握られていたのは、
刃渡り三尺はあろうかという、鞘に収まった日本刀。

それを手にして、ゆらり、と構えを取る。

「……一対一(サシ)で話合いも殴り合いも出来ない"お坊ちゃん"共が、
こんな所に踏み込むものじゃあない。

その怪我人を置いて大人しく尻尾撒いて帰れば、この場は見逃して置く。」

忠告、と言う程優しいモノではない。
初手にして、警告を通り越した「最終勧告」。
同時に、戦闘を本分としない者にさえ分かる程に、男の周囲がゆらりと歪む程の剣気が漂う。

――勧告を聞き入れなければどうなるか。
唯一分かる事は、明確にこの男を「敵に回す」という、シンプルな一点のみ。
 

出雲寺 洟弦 > (……いや  速   ッ)


――コートの中にその左手が入る動作、何かする、何かの予備動作。
少なくとも其処に居る中で一番それを視ていた"棒遣い"。


その目が日本刀を抜き放つ動作を追い切れなかった。
その一振りの構え方も、姿勢のブレも一切無く。

……まして。

当てられた瞬間、全身をぶった切られたと勘違いする程の、
鋭利にして純粋な、その"気配"!!


「ッ……待って、くれ!そいつ、奥の奴、俺の、クラスメイトで……!!」


――――始まってしまったら、この日本刀、
間違いなく■■を"殺す"。それだけは。それだけは……!!


「ッ、お前等、だって、死にたかないだろ!!」

――リンチされていたとか、自分が殺されかけていたとか、
そういうのを、数秒前に置き去りにして、杖つくように棒を地面に突き立て、声を張り上げる。

「……引け!!頼むから!!お前もだ■■!!
絶対、絶対後でお前とは話をつける!!
だから今は頼む!!引いてくれ!!」

■■ > ―――――それが、"逆効果"だったのかもしれない。


『……っうる、せえよ、イヅルぅ……!!』

煙。赤い。それが意味するところは、

『……何が刀剣狩りだ、んな名前で、……また、また、"俺ら"よりも』

『"俺たち"よりもそうやって……!!』


――彼が庇った男子生徒が、その右の掌を向けていた。

嘲笑する、白黒の仮面のマークのバッジ。


『理不尽なんだよ!!どいつもこいつも"俺たち"をゴミ屑みてぇによぉッッ!!』

『だから、今度は、俺たちがお前等みたいな奴等を……!!!』

赤煙の不良団 > ――その怒号を合図に、一斉に新たな敵へと、九耀へと。


その不良達は向かってくる。統率は取れている。
数人が前に、その後ろに隠れてさらにもう数人。


『光を操作する異能』が一人一人の輪郭をブレさせ、

『水を操る異能』と『炎を放つ異能』が人の盾の後ろから射撃して、

『認識を阻害する異能』が、その気配も人数も朧に晦ませて、


『煽動する異能』を持った"たった一人"の生徒の手で、
烏合の衆が、凶悪な軍勢となって"たった一人"に襲い掛かる。




――それが、一番愚かな選択だった事に気づくのは、あと、数刻か後。

九耀 湧梧 >  
「――――――。」

白黒の仮面のマークのバッジを見た瞬間。
更に一段、剣気が増大する。

ゴォォ、と奇妙な音がする。
否――音ではない。息だ。密度も深さも理解し辛い程に強い呼吸の音。

「……お前らも、「反逆」だの何だの、下らない言葉に踊らされたクチか。
全く――――」
 

九耀 湧梧 >  

「阿呆共が。ゴミ屑なのは――お前らの性根の方だ。

そんなに「誰かから恵んで貰った力」が素晴らしいか?
「特別になった自分は素晴らしい」か?

お陰で――「ゴミ屑」の地金が割れて見える!」

 

ご案内:「落第街 ■区」から出雲寺 洟弦さんが去りました。
ご案内:「落第街 ■区」に出雲寺 洟弦さんが現れました。
九耀 湧梧 >  
瞬間。

一太刀で数閃が奔り、怪奇が姿を見せる。
斬られた一閃を起点に、「ずるり」、と、まるでそこに見えない硝子板があったかのように、「界」が斬れて落ちる。

光によってブレた輪郭と認識の阻害を、「界」ごと斬る事で、「明確」にしてみせた。
水と炎の射撃は――「流れ」を断たれて、ただの水滴と火となって地面に落ちる。

総てが明らかになれば、後は――

「飛天・聳孤閃――!」

蒼い風のような気を纏いながら、まるで瞬間移動するような速度で斬り込み、
一人、また一人と、沈んで、地に倒れ伏していく。

――無論、命は奪われていない。
「刀剣狩りが襲った後に、何故か死人は出ていない」。
刀剣狩りのインパクトの影に隠れがちで周知性は低めだが、これも有名な噂。

そうして、数瞬後に残るのは、「煽動」を行っていた一人のみ――。

「――さて。聞き苦しい言い訳があるなら、聞いてやってもいいが?」

ゆらり、と、白刃の切っ先が、突き付けられる。
見下ろすのは、流れて固まった血のように赤黒い瞳。
 

出雲寺 洟弦 > 「止め……ッ!!」


嗚呼、止められなかった。一人首が飛ぶ。
そこまで感じ取ってしまう程、その剣から放たれた物に、身が竦んだ。

己の知っている物じゃない、刀っていう物が、そういう形で、
そういう力で、そういう放たれ方をして物体に干渉する物じゃない。

だから、"死んだ"と感じた。そうなっただろうと。




――――目の前で起こる事が、ひと瞬きの間に終わってしまうまでは。



「………………は……ぁ?」

■■ > 『なん、……は、え、あ、……おい、嘘だろ、だって、ふざけ……!!』



勝てると思っていただろう。
人数と、異能力と、ありとあらゆる要素で、
たった一人、現れただけだ。
すぐにブッ潰せると。そう、思っていただろう。


阻害は意味をなさない。諸共切り捨てられたから。
非物体の攻撃も、理が消えれば傷つける事は出来ない。
後はただただ、"埋まらない格差"を以て、蹂躙されていく他なかった。
――人は所詮、自分よりも生物として上に位置する相手に、
余程の術でもなければ敵いはしない。


"余程の術"だと思っていたそれが、目の前に突きつけられた一本の刀で、
無惨にも、ただの足掻きにすらならず終わったと知る。

『ひ、ひいい、ぃッッ……!!』


――ありえない。ありえない。ありえないありえないありえないありえない!!

『くそ、くそ、くそッ、なんだよそれ!!ふざけんじゃねえッ!!俺たち、……俺、俺は……力が……!!』

出雲寺 洟弦 > 「――…………」


もう終わった。あれだけ居た、異能によって統率されていた武装集団が、
烏合の衆じゃあなかった、それよりはもっと動きが良かったそれらが。

この一瞬で制圧された事に、青年が抱く感想は、今刀を突きつけられた自分のクラスメイトと同じだ。


「……っ、……全員、峰打ち……?いや……だけど、あんな速さと動きで……?」

――目を疑う。ただ、今はそう、そうだ。

「って、……ちょ、ちょっと待った!!そいつ、気絶とか追撃とか、そういうのなしでッ!!」

満身創痍の身体を、……まぁ何とも無理に動かす。
傷も浅くない、ていうか、一歩二歩歩いた辺りで、ぶッ、と、鼻から血が出てよろめいた。

……そもそも、全身傷だらけだけじゃあないし、骨だって軋む音とは別の何かが音を立てている。

「ッ……ぁぐ」

九耀 湧梧 >  
「ふざけるな、だと?」

見下ろす目が、怒りの色を帯びる。

「力がなんだ。力があれば、何をしてもいいとでも思ってんのか?

『自分たちは力がなかったから、可哀想な人間だ。
だから、力を使って誰かから奪ってもこれは正当な権利だ』とか――

本気で考えてるんじゃねえだろうな!
だとしたらお前、ゴミ屑以下の外道だ!」

ぐい、と何事か叫ぶ男の襟首を掴んで持ち上げ、手にした刀でその片頬を「殴りつける」。

――男の手にする刀に、そもそも「刃は付いていない」。
だから、力の加減を行えば死なせる事なく気絶させるなど、苦もない事だった。

……今の一撃は、相当に手心を加えた。
気絶はない代わり、かなり強烈にぶん殴られた感覚と痛みがある程度だ。

「……見てみろ、其処のズタボロの奴を。
あんなザマになっても、お前の事を心配してやがったぞ。

それに比べて、お前はどうだ。
あのザマ見て、少しでも恥ずかしいとか、思わねぇか。」

そのまま、ずるずると引っ張りながら、大怪我といっていい少年の元まで歩いていく。

「無理をするな。
人より先にお前のがくたばっちまうぞ。」

無理に動くなと釘を刺し、引き摺って来た男を放り出すと、傷の様子を確かめにかかる。

「何処が痛むか分かるか?
――いや、痛みを感じてるか?」

痛みを感じないなら…相当な重傷だろう。
応急手当で間に合うかどうか。
 

■■ > 『ひっ……がッぁ……!!』

一撃。たった一撃だ。

異能力、その力で、与えられた過分に振り回された、哀れな男は、
轢き潰された蛙のような声を最後に、一発で動かなくなる。
あれだけの事をしても、あれだけをやっても、
……それが差というものであり、"及ばない"ということ。

――だから、この男子生徒が、何処でそうなって、
そう間違えたかを問いただされるのは、今ではなかった。

出雲寺 洟弦 > 「そこで殴ったら死――――!!!」


――ななかった。なんなら、そもそも、自分が今まで見ていたそれは。
……いや、そもそも、そうなら、それは一体なんなのだと。

引き摺られてくるクラスメイトが痛みに呻いて声にならない声を上げているが、
少なくとも死んではいない。顔に一発入ったくらいで済んでいるのを視て、

"ほっとしていた"。

「……ッああ、いや、このくらいなら全然……大じょう"""ッッッ」

――咳と嘔吐を足したような音を立てて、思いっきり吐いた。血を。
どばっとではない、咳に合わせて割とな量を、思いっきり。

棒をついて堪えてこそいるが、そもそも何で意識があるのかも、
なんで普通に喋ってたのかも、色々を含めたって『異常な程屈強』だ。
その屈強がたった今ヒビを入れてもいるから、余程ぶちのめされたと見える。


「……っ……やば……あーどう、どう言い訳……いや、ぎりバイクで……でもアイツ絶対そういうの鋭いし、そういや異能で記憶――……」




――――怪我が重すぎて思考がそのまま口から出ているのも、
眼の前に人がいて尚口と脳がぐるぐると巡っているのも、
多分重傷といって差し支えない。
頭から出てる、側頭部辺りのスタンバトンによる青痣から。血が。
制服の下だって切り傷だらけで、とっとと病院送りにだってしたほうがいいくらいで。



「……凛霞にどう……隠すかぁ……」


女の名前を出して誤魔化しの策を考じている。

九耀 湧梧 >  
「何処が大丈夫だ、お前死にかけてるじゃねぇか…!」

豪快に血を吐いたのを見て、思わず悪態が口から出てしまう。
急いでコートの裏を探ると、真っ赤な液体の入った瓶と、梵字のような奇妙な文字が延々綴られた
包帯らしきものを取り出す。
先に突き出したのは瓶の方。凡そ300ミリペットボトルと同じくらいだ。

「――信用するかどうかはお前の勝手だ。
血の流し過ぎで死にたくないなら、味を我慢して飲め。」

中に入っているのは、特殊な造血剤。
魔術的なアプローチで一時的に血液生成を強化するものだ。
――味の方はひどく鉄臭いが、もし飲むなら我慢してもらうしかない。

「全く…此処で出て来るのが、女にどうやって誤魔化すかかよ。

まあいい、その意地の張り方は嫌いじゃねぇ。
野郎で悪いが、ちと我慢しろよ。」

制服を急いで脱がせると、思った以上の傷に顔を顰める。
そのまま、今度は包帯の方の準備。

「こいつを巻いておけば、出血の方はすぐ止められる。
傷も塞がり易くなるが……あまり酷いと、痕位は覚悟しろ。」

目でどうする?と問いかける。
了承するなら、応急手当の開始だ。

出雲寺 洟弦 > 「ッ……死にかけてはない、いや、マジでほんとに、ギリ……」

ギリは死にかけといって差し支えない。
本人が青い顔しながら口から垂れた血によって形相が惨澹たる物になってる自覚もない。
突きつけられる瓶と、告げられる言葉に、
悩むのは大体数秒。
……覚悟を決めたように、ずっと握り締めていた鉄の棒を地面に深く突きさして、その手で受け取って飲――。

「ま"ッッ……ず……!!」

……感想が出る辺り、本当に大丈夫かもしれない。
ともあれ、後は応急処置の為にと最早意味のない襤褸布になった制服を引っぺがされて、

――傷がない所を探す方が苦労する。
……その、有様で。

"なんで意識がある"。


――見た目がボロボロで気づかせ辛い。
異能による『銃創』が出来ている。
あの水か炎かによって、穴が空いている。
場合によっては本当に致命傷にすらなりかねないものが、
『意図して外された』ようにずれて、ある。

…………"受ける直前にズラした"のは、恐らく青年の側だ。
撃たれても死なない位置に、避けるのを諦めて、受け止める形に。

傷だらけでありながら――全部、『受けて尚動けるように庇われた』形で。

治療をしようとするそちらに無言の承諾(親指)を立てるこいつが、

……どう考えたって、死線を知らぬはずのない身躱しをしていたのが判る。

九耀 湧梧 >  
「……お前、随分と「躱す」のが上手いみたいだな。
此処まで上手く「急所をずらして」喰らってるのは、十分な腕前だ。」

言いながら、もう少しだけコートを探る。
回復の呪い(まじない)の包帯だけでは足りないかも知れない。
対重傷用の魔術薬も併せて使わないと危険だろう。

「――傷に来るぞ。悪いがこれ噛んでおけ。」

脱がせた服の、まだ血であまり汚れていない所を丸めて、簡易の猿轡代わりにしておく。
痛みの余り舌を噛まない為の対処だ。

そのまま、手早く塗り薬を特に酷い傷に絞って塗り付ける。
当然傷に痛みはあるだろうが、それを堪えて貰わないと命の方が危ない。

「よし、巻くぞ――もうちょっと、我慢しろ…!」

対処を終えれば、次は包帯。
傷口全体を覆い隠すように、しっかりと力を入れて巻いていく。
少し締め付けられる感触と、傷に触る痛みはあるが、同時に其処から血が失われ、
冷えていくような感覚は堰き止められる筈だ。

恐らく、黒いコートの男自身も似たような怪我に何度か遭ったのだろう。
そう思う程度には、痛みがあるが手際のよい処置だった。
 

出雲寺 洟弦 > 「え。……あぁ、その、それは――――むぐぉっ」

……言い淀んだ。
どう言って『誤魔化そうか』という迷いなのか、
何かこう上手く言い訳しようかという仕草だったのか。

噛まされた簡易の猿轡が示す意味のところ、
数秒後。

「――ゥ"ウ"ッッッッ……!!!」

ギ  シ ィ  ッッッッ

……多分躰の発した音、なのだろうが、それと同時に。
猿轡が、『ブツツツッ』と、音を立てて噛み締められた。
凄まじい咬合力。しかしそれでもまだ治療は終わったわけじゃない。

「フッッッ……ぅ"、う"……ッッッ!!!」

出血を止める為の処置だ。仕方ない。
……噛み締められた猿轡の寿命は、包帯を巻き終わる頃にはもうギリギリだった。

痛みを堪えるのが逆にそれだけで済んだという所もあるが、
終わった後には、脂汗を掻きながらぜぇぜぇと息を切らして、
処置された後の具合を確かめるように掌で擦っていた。


「……っー……ぶ」

――自分の血と汗が噛み締めて絞られ出てきたらしい。
外しながら苦い顔で唾を地面に吐いて、落ち着きを取り戻す。


「あの……すんません、助かりました……」

――――相手、多分自分よりはずっと年上だと思う。
いや、まずそうだろう。
へこ、と小さく下げた頭から、ハの字の眉で様子をうかがうような顔。

九耀 湧梧 >  
「――いや、成り行きで首を突っ込んだお節介のした事だ。
あまり気にするな。」

処置を終えた黒いコートの男も、汗を拭って大きく一息。
何とかマシにはなったらしい少年の様子に、少しだけ気を緩める。

「とは言っても、応急処置の段階は出てない。
もっとしっかりした病院で、ちゃんと手当と輸血は受けた方がいい。
連絡すれば、風紀委員辺りが助けに来てくれるだろ。」

そして、今度は視線を倒れている連中へと向ける。

「……こいつらの事も含めて、あまり誤魔化そうだのは考えない方が良い。

こいつらのように、妙な事を謳いながら異能で暴れ回る連中が、落第街周辺(ここら)じゃかなり多くなってる。
それこそ、もっとヤバイ手合いもいる位だ。

風紀委員の方々も、それについては把握してくれてるだろうさ。」

軽く息を吐いて、此処に助けを呼ぶ事、隠し事はしない方がいいと勧める。
 

出雲寺 洟弦 > 「あ、あぁ、それは……まぁ……、……保険証持ってたっけな……、……荷物、は――」


荷物らしき荷物なんてもんは――あった。
あった、が、顔を向けた先、路地の隅っこに開いて置かれたギターケースがすっころがっている。
……中にギターなんて入ってないし、刺さったままの鉄の棒がある辺り、
中に『何』が入っていたのかは言うまでもないところ。


「――……っす、か」


――全力で誤魔化したかったのかもしれないが、
この友人の変貌ぶりにしろ、あの本物の『殺気』にしろ。
何か、とてつもない事が起きているのは、言われて説明されて、
予感していたことを補強される形になった。


……風紀委員に説明する、となれば。

「……、…………」


――――いや、でも。まぁ、まさか。


な。


「……解り、ました。
…………ああ、えっと、すんません俺……えっと」

「……今年入学した、出雲寺 洟弦って言います。
改めて……その、ホントに助かりました」

九耀 湧梧 >  
「……。」

黒いコートの男の視線も、ギターケースと鉄の棒のようなものを軽く行き来。
小さくため息。

「――知人に襲われて、相手を傷つけたくなかった、って所か。

気持ちは分かる。
だが、死んじまったら話合いも出来ないぜ。
…まあ、逃げるにしろ、あの畳みかけ方と連携を、予想もしていない状態で
破って逃げろってのが無理筋だとは、俺も思う。」

軽く肩を竦める仕草。
まるで和の鎧を思わせる形状の、右手を固める装甲が、かしゃりと音を立てた。

「ご丁寧にどうも、だ。

九耀湧梧。ま、このナリとこんな所を歩いてたから分かると思うが…所謂不法入島者って奴さ。
――今回の件を深く聞かれたら、『刀剣狩り』の名前を出せ。
もうとっくに廃業した業務の二つ名だが、風紀委員辺りには届いているだろ。」

そう、声をかける。
いざとなれば、この騒動を収めるのに自分に責任をおっ被せても問題ない、と言外に語りつつ。

出雲寺 洟弦 > 「…………死ぬつもりは毛頭なかったっすよ、ただ……やっぱ、その」

――人を傷つける方法は、選べなかった。
あの得物の大きさも作りも、人間に振るえば、大怪我は免れない。

穂先の存在しない状態で鉄棒として思いっきりぶん殴ったにしても、
異能による強化を与えられた人数を相手には不足だったのか。

「……」



「……いや、その、……不法入島……刀剣狩り……???」

物騒な名前がずらずらり。
……そういう言い方をする、という事はつまり、少なくとも意味合いとしては決して良くないほう、というのは察しがついた。
ついたうえで、つまりはそうしてもいいという選択肢の提案だ。


「…………、俺は、誰かに助けられたけど、助けてくれた相手のことは知らなかった……って事に」

――その提案を、青年は真っ直ぐ見て断ったようだが。

「……」

――無言の間の暫くから、ぽつりと。

「……あの剣術、……異能、っすか、それとも……」



――――棒捌きで持たせたのだ。
単なる筋肉自慢じゃあない。

槍になるはずの物体を持ち歩いていた。
決して素人でもない。


その"側"としての興味を、それとなく打ち明けてみる。

九耀 湧梧 >  
「――ま、そこはそれ。お前さんの事情もあろうさ。
「女の事」も含めて、俺からは深く詮索はせんよ。」

少年が言い淀めば、男は軽く流す雰囲気。
――優しすぎる、という感想は、胸の内にしまって置いた。

「ああ、この通り島にはいるが、「学園」には所属していない。
だから、扱いとしては立派な不法入島者だ。
――ま、こればかりは、俺にも事情があってな…学園に属すると、色々と少し、個人的に不都合がある。」

個人的、と言う以上は、それこそ個人の範囲の理由なのだろう。
それで学園に所属する選択肢を避けているというのは、何と言うかリスクとリターンが
釣り合っていない、という所が大きいだろうが。

「――興味あるのか?」

先程の剣術について訊ねられれば、特に隠すでもなくそう一言。

「端的に言うと"異能じゃあない"。

どっかの物好きな奴が、「斬れないモノを斬る」事だけを考えて、刀を振り続けて――
その結果、色々と斬れない筈のモノを斬る事が出来るようになった。
そんな、バカげた「技術」の塊だ。

最も、扱うには…少し、人から外れた「才能」が要る。
幸いにも俺はそっちに恵まれてた方だった。
それがないと――そうさな、一つ何か斬れるようになるまで、
10年単位の修行の覚悟は必要だろう。」

語られたのは、ただの「異能」であった方が余程まっとうに思える程の、常識を外れた理屈。
――斬れぬモノを斬ろうとした、狂人達の狂気の努力の集合体、それがあの怪奇の正体だった。

出雲寺 洟弦 > 「……あ、あぁ~~……」

軽く流してくれる"という気遣い"に、
遠慮なく甘えることにはしたが、……言われて過った顔があったらしい。
どう言い訳しようかを再び悩む思考が蘇りをしたようだった。


姿勢を少し楽な恰好に、突き刺した槍……の穂先抜きを、
抜いてからてきぱきと分解していく。
話を聞きながらギターケースを拾いにいって、
戻ってくるまでで大体全部を聞いたうえで――――反応に悩む顔だった。

「……なんか訳アリってのは理解ったっすけど、俺じゃあちょっと……なんか、咀嚼するのも難しい事情な気はしたんで……やっぱ知らなかったって事に……」

知らなかったじゃない、分からなかった、だ。
頭は足りてるか?足りてないかもしれない。
全部まとめてギターケースに放り込んで閉じると。



「……一応、実家で、武術を"少し"だけやってるんで、気には」

――と、は、いえ。


「……」

その理屈を多分相当要約して話された……の、だと思う。
噛み砕かれて説明を受けたにしても。


「はあ……」


目が点になるばかりだった。
――ただ、そうすると一つ過るのは。

「……無念無想……の、真逆なんすかね。
……何も考えず、心を無にして振るんじゃなくって、
むしろ、"よっしゃ斬ってやるからな"っていう頭で、
……振り続けて、実現する、みたいな」

九耀 湧梧 >  
「……ま、其処まで言うなら、お前さんの厚意に甘える事にするさ。
ただ、ボロが出そうになったら無理するなよ。」

何となく、嘘をつくのが苦手そうな雰囲気がする。
心遣いは有難いが、それで問題が起こったら大変なので、無理に誤魔化す事は
あまり考えないように、と逃げ道を作っておく事にした。

「そうだな――所謂、まっとうな武術から見たら、相当に外れている所が多いだろう。
それを自虐したのかは知らんが、創始者様方は「剣術」とは名乗らなかった。
名乗ったのは、「魔剣」。常道から外れた「魔剣術」なのさ。

まっとうな武術の使い手から見たら、異能じみた技に見えるだろう。
それでも、これはれっきとした「技術」の積み重ねさ。
そもそも、俺は異能と言えるような力なんて持ってないしな。」

あっさりと、自身が非異能者である事を明かす。

出雲寺 洟弦 > 「はは……あぁ、あー……うす」


ボロ、出そうな気配まで悟られているのでは、
そんな情けない返事を出す他もなかったようだ。

逃げ道を添えられた以上は、もう殆どそれもやむなしなのかもしれない。

そのケースの上に腰掛け直し、巻かれた包帯を軽く抑えたり擦ったりした後、携帯を取り出し――アンテナがちょっと少ない事に眉間に皺を寄せたりしながら、話にはしっかり耳を立て、目を向け。

矢張り、聞いていた以上――非異能者と言われれば、


「――…………判明してない、とか、
……或いは、その、本当に超限定的だったりする、とかでもなく?」

念を押すように。

「……俺もその、去年の誕生日まで、自分が非異能者だと思ってたし、
家族もまわりも俺がそうだって知らないでいて……んで、
発現したらしたで、本当に超限定的な異能だった、って話なんすけど」

九耀 湧梧 >  
「ああ…そういうのが後から分かったりする事もあるのか。
でなきゃ、あの学園に、そういうのを測定するようなシステムがあるとかかね。」

少年の言葉に、軽く顎髭をさすりながら半ば独り言ちるようにそう返事を返す。
また少し考えてから、口を開く。

「そう、突き詰められると、ないとは言い切れない。
だが、少なくとも今の所、俺はそんな力を自覚してないし、そういった力が見える兆候もない。
そういう意味では、非異能者と言い切っていいだろ。

ま、俺としては異能が使えるだの使えないだの……「それがどうした」…って話なんだが。
異能が使えりゃ偉いのか? 違うだろ。
結局それは、何某かの「才能」に近いモノじゃあないのか?
人の努力は、やろうと思えばそれを「埋める」技術に至れると、俺は思ってるぜ。」

鞘に収めた刀の鍔を軽く親指で押し上げ、少しだけ刀身を垣間見せる。
銀色に輝く刀身は少しだけその姿を見せ、指を下げればまた鞘の中にその姿を隠した。

「――と言った所で、所詮これは俺の持論に過ぎない。
持ってる奴も、持ってない奴も、そう思わない事が多い方が当たり前なんだろうさ。
特にこの島じゃ、な。」

大変なもんだな、と、遠くを見るように、そう一言こぼす。
どこか、此処ではない、昔を見るような雰囲気だった。

「――と、そう言えば、傷の具合はどうだ?
速い所、風紀委員辺りが来てくれれば良いんだがね。」

思い出したように、そう嘯く。
勿論、風紀委員が来るような予兆があったら、速やかに去らねばならない訳だが。
 

出雲寺 洟弦 > 「……いや、台所の片づけ中に……その、家族が俺の異能で視界に変な文字が見えるように、とかそんなので判明して……」

そんな発見のされ方があったらしい。あるのか。
話す本人が言いながら実に微妙な顔をした。
ケースの上に腰掛けている姿勢を思わず少し直すくらいだ。

スマートフォンのアンテナが不安定に立ったり消えたりする動作が段々と落ち着いてくる頃合いを目線を少し落として確認すると、
もう一度そちらの顔を見て、その話の概要をまとめて――頭の中に……整頓して……。


「…………俺は異能があってもなくても、俺は俺だったと思います。
――ただ、異能が『あった』から、此処に来ることが出来た……とも、言えるっちゃ言えるんすけど」

……言い方に上擦りがあった。
マイナスのイメージの言い方ではない。
来る事が出来た、という言い方は、異能の有無よりも、
この島に来たことによって何かが達成できた、というような。


……閑話休題。

「あ、ああ……傷のほうはもうだいぶ、まぁ、ちゃんと治す必要はあるけど、そんなには気にはならなくなってきたし……連絡、は」

もう一度確認。


「アンテナ……は、立ってるな。今からしますんで、……ああ、いや勿論、すぐ呼ぶこたないですから、そっちが此処から居なくなった後で連絡するし……」

九耀 湧梧 >  
「そりゃまた…。」

随分と妙な判明の仕方だ、とは思う。
最も、劇的な判明の仕方の方が稀で、実際は少年の語るような出来事の方が
大多数を占めるのかも知れないが。

「そうか――なら、お前さんはその「芯」を大事にな。
……酷い話だが、突然変な力を手に入れて、こいつらみたいになる事は、
割とある事だと、俺は思ってる。

だから、かね。今のその言葉を聞けて、実はちょっと安心もしてる。
まだまだ、人間、見放すには早いものだ、ってな。」

軽く、口の端が持ち上がる。
小さいが、確かな笑顔だった。

「――さて、連絡するんなら俺はそろそろお暇――の前に、
一仕事位はして置くか。
連絡、始めててもいいぜ。終わらせる頃には、こっちも済ませとくからな。」

言いながら立ち上がると、気絶している不良連中の上着を剥ぎ取り、
それを縄代わりにして身動きできないように縛り上げ始める。
ご丁寧に、人数纏めてごっちゃにする事で、炎の異能で燃やして解こうとしたら
巻き込まれて火傷は免れないように、だ。
しかもやけに手慣れている。

出雲寺 洟弦 > 話してるとこっぱずかしくなる。
よもや家族にそんな変なもんが見えてお前異能者だったのかみたいなので一夜大騒動になったなどと。

話せば話す程どんどん面白くなってしまう自分の異能判明話、
その話題は早めに畳んでおくことにする。

「……まぁ、異能ってもんが、この島ではカーストにまでなる、っていうのは……知らない訳じゃあ、なかったんすけどね」

――自分の友達のほうが、異能のカーストで言うなら、
自分より上だったのに。

そうではない部分で人と異なった。
或いは、下であるはずの自分が、それではない部分で人と並んだ事を恨んでの事だったのかは、
……後にならねば、その全容は見えてこないのかもしれない。



「俺には全然分かんないんすよ、……分かんないから勉強もするし、
此処はそもそも、異能について学ぶための場所でも、あるわけだし」

――これから理解をしていく心意気もあるならば、
まずは。……必要かどうかは兎に角、異能者を相手に戦う訓練、とかも。
怪我が治ったら必要にはなりそうか。


さて、そういう事ならば、と少し連絡先を探す間に視界の端で、
その手際のよさを視ている。
じっと見ている。

暇なカレー屋の店主のように、じっと見ている。

「…………」



思い出したように連絡先を開くと、そぞろに連絡をとり――。

九耀 湧梧 >  
「これでよし――と。
もう暫く大人しくしてな。」

縛り上げられた、気絶しているであろう連中に一言声を掛けると、
連絡を取っている少年に視線を向ける。

「さて、それじゃ俺はこれでお暇させて貰うが――
ああ、お前さん、学園の学生なら、もしかして「あいつ」に遇うかも知れないな。」

思い出したように、顎をさする。

「俺から見ればまだまだ発展途上の腕前だが、俺とルーツが同じ「魔剣術」を
扱う新入生が居る筈だ。
いつも書生服を着てる、年の頃はお前さんと同じくらいの女だ。

もし見かけても、あまりそいつに剣術の事は突っ込んでやらんでくれ。
俺には関係ないが、「魔剣術」は「自分だけの魔剣」を習得できない限り、
流派名を名乗るべからず…って、妙な縛りがあるもんでな。」

つまり、深く問い詰めるとその女生徒が困ってしまう、というちょっとした配慮だった。
そして、「関係ない」という事は…つまり、この男は「魔剣」を習得しているという事になる。

「洟弦、だったな。軽い怪我じゃないんだから、しっかり養生しろよ。
じゃ、俺はこれで失礼――――。」

その言葉と共に、奇妙な気の流れ。
どちらかというと、魔術の起動に近い。

直後、黒いコートの男はコートと赤いマフラーを靡かせながら地を蹴って飛翔し――
まるで武侠映画か何かのように、建造物を次々と蹴りながら、
この場を風のように去っていく。
 

出雲寺 洟弦 > 「……え?ああ、えっと、……」

――通話はまだ、繋がるまでにしばらくかかる。
それまでのコール音の間、告げられる言葉と、その注意喚起に耳を傾ける。



――魔剣術を、この人以外にも使える人がいる時点で、そもそも驚嘆に値することなんだが。
どうにもまた訳アリのような言い方と、注意事項を確りと聞き留め、
…………「ん???」っと引っ掛かったタイミングで、



『はい、こちら――』

「あっ」




通話がつながった時に目線を向けるも、もうそこには居なかった。
すっと見上げた先を跳ぶように消えていく姿を見届けながら、
…………呆けた数秒から怪訝そうな声の電話口に、慌てて謝罪と、
通報の内容を伝えているのだった。

ご案内:「落第街 ■区」から九耀 湧梧さんが去りました。
ご案内:「落第街 ■区」から出雲寺 洟弦さんが去りました。