2024/09/24 のログ
■橘壱 >
「……そういうキミは口が上手いんだな。
あんまりそういう事を言われた事はないよ。
褒められた人間でもない。……きっとキミも、素敵な女性だったんだ」
それがほんの一つの掛け違いで、
誰かの悪意で歪んでしまった。
到底、許されることではない。
せめて、せめて、と、悲痛に表情は歪めず、
ふ、と力が抜けたように彼女に微笑んだ。
「大人だって、頑張ってるさ。
此処は、一応学園だからね……生徒が主体なだけさ。
僕が選んでやってること、なんだ……だから……」
「僕は、大丈夫……」
その生徒も未成年だけってわけじゃないけど、
確かにそういった割合の多いかも知れない。
強がりだ。心のなかでは、どうしようもなく感情が渦巻いている。
自らの無力さが憎い。
どんな事情であれ、二人は救えなかった。
どちらか片方。天秤に乗せられたどちらかを、選べなかった。
少年には重く、そして我儘を貫き通せなかった結果だ。
どちらも救う力があったなら、どちらも助けられる力があるなら、
こんな理不尽に反逆する力があれば、どれだけ良かったか。
そうはならない。そんな事には決してならない。
此処にいるのは、一人の非異能者の少年に過ぎない。
機械の扱いだけが取り柄の、ただの子ども。
何もしてやれる事も出来なかった。手を取ることさえも。
「……僕は、……あ……ま……!!」
引き留めようとしても、時間は止まらない。
改めて伸ばした手は、再度何も掴めやしない。
呆気に取られている隙にもう、何もかもが終わってしまった。
残ったのは、彼女の依代にされた一人の少年。
強く、強く拳を握りしめ、無力さに奥歯を噛み締めた。
■橘壱 >
強引に、袖で顔を拭った。
一つ、二つ。呼吸を整えて気を落ち着かせる。
そう、まだ終わっていない。元凶がいる。
まだ、此の騒動は終りを迎えたわけじゃない。
ふらつく足取りで、鉄へと身を投げだした。
酷く冷たく、柔らかく、自らを受け入れる無機質な鉄質。
モニターに再度、鋭い碧が向かい合う。
『……此方Fluegel。『不死姫』エリザベトの無力化完了。
これから要救助者を一名連れて帰還します。以上』
感情を押し殺したまま、通信回線で報告。
例え少年の心が浮かずとも、機械はそれを反映しない。
決められた動作で少年を抱え上げ、バーニアを焼き、空へと飛び出した。
『(悪意の第三者……怪人とは違う、か……きな臭くなってきたな)』
『(祈りとか……頼るとか……一体、非異能者に、何が出来るんだ?)』
たった今、救えなかったものに祈られた。
酷く心に突き刺さったそれを抱えながら、
モニターを睨み続けた。こんな時でも、
登る朝日は、どうしようもなく眩しかった。
■『不死姫』エリザベト >
残ったのは、依り代となった健康体の一人の被害者のみ。
行方不明での捜索届が出る位には秩序の中に居る、平凡な人間。
……たとえ、二つ全てを選べなかったとしても。
一人の少年の尽力によって、救われるものは確かにあった。
ご案内:「落第街大通り・海岸付近」から『不死姫』エリザベトさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り・海岸付近」から橘壱さんが去りました。