2015/07/05 のログ
■畝傍・クリスタ・ステンデル > 保健室から去っていくライガをそっと見送った後、
畝傍は睦美からかけられた温かい言葉に応える。
「うん……ありがと。そうするよ。ボクも……ムツミがこまってたら、たすけにいくから」
そう言うと、睦美の問いに対して首を横に振り、羽織っていた白衣を脱いで差し出そうとする。
「ううん……スーツは替えがあるから、だいじょうぶ」
畝傍は再びヘッドギアを操作。すると先程まで下着姿だった畝傍の体が、再び橙色のボディスーツに包まれた。
■光ヶ丘 睦美 > 「え、畝傍さんが…私を?」
頼られなくても、私は畝傍さんのためになにかしたい。
そんなことを確かめたくて捻れた睦美の言葉。
「で、でも私なんか助けてもしょうがないですよ?
未熟者ですし、いつも人に頼られたがってばっかりですし…欲深ですし。」
まさか自分のことを心配されるなんて、そんなのは予想外で、睦美はあたふたした。
とりあえずもとりあえず、白衣は受け取って、タオルとひとまとめにして、洗いもの籠へ。
「大丈夫なら……大丈夫なんだったら、本当にもし良かったら、いつか私を手伝ってくれたら嬉しいです。」
「……でも、ほんとうに大丈夫ならですからね。もうちょっと休んでいきますか?」
■畝傍・クリスタ・ステンデル > 「そだね。もう少し、やすんでこっかな」
四肢の震えは治まってきているとはいえ、まだ本調子ではない。
畝傍はもう少し、このベッドで休んでいくという選択をとった。
両腕で狙撃銃のレプリカをしっかりと抱えると、やがて瞼を閉じ、小さく寝息を立てて眠りにつくだろう――
ご案内:「保健室」から畝傍・クリスタ・ステンデルさんが去りました。
■光ヶ丘 睦美 > 「ええ、それがいいと思います……それじゃ、おやすみです」
くすりと笑って、畝傍のベッドのカーテンを閉めた。
やがて聞こえる寝息に安心してから、
先ほど持ってきた未使用のタオルで自分のセーラー服の汗をポフポフと叩くようにして吸わせる。
あとはお盆とコップを静かに洗い場へ。
ドアを出るときに『お静かに』の札を外に下げて、
室外から手を伸ばして照明の電源を切った。
「いつか……いつか、ですね。私を助けに来てくれるの、待ってますから」
ご案内:「保健室」から光ヶ丘 睦美さんが去りました。
ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (美術室。夕刻、人気のない部屋の隅に机を広げ、黙々と作業に耽る姿がある。
左手にヤスリ、右手に小さな銀。植物とも骨ともつかない抽象のモチーフとひたすら向き合う。
銀を削る小さな音だけが、止むことなく鳴っている)
(机上には、同じ形に削られた異なる素材が並べられている。
粘土、木、紙、石、真鍮。そのすべてにヤスリの、へらの、鏨の、指の跡を均した名残がある)
■ヨキ > (それらを自宅兼作業場の研究区から持ち込んだのは、夕方の通りのよい風を求めてのことだった。
隙間を開けた窓からは雨上がりの風が吹き込み、カーテンが漂うように波打つ)
「…………、ふう」
(一息ついて腕を伸ばし、指先に摘んだ銀を、さまざまな角度から眺め回す。
授業とはまったく関係のない、いわば私的な作業だ)
■ヨキ > (弧を描くモチーフは、二つ一組で指輪ほどの大きさの輪を描く。
鈍い金色の真鍮と銀とを重ね合わせると、ちょうど指に蔦が絡むような形になる)
(左手に仮組みの指輪を持ったまま、右手の指を握って広げる)
「……――――、」
(手ずから彫ったものと同じ形状の、それでいて留めてもいないのにぴたりとくっついたひとつの指輪が、手のひらの上に現れる)
■ヨキ > (異能から産み出された指輪には、自分が力を込めて切り出し、折り曲げ、時間を掛けて彫り込んだ形跡が丸ごと写し取られている。
迷って削り取った節をふたたび生やすことも、さらに数時間を要する造型を一瞬で終えることも出来る。
頭に思い浮かぶだけの形と質感を、自在に表せる)
「……これは。
“にせもの”だろうか?」
(重く呟く。
先日この部屋の前である生徒が口にした単語)
■ヨキ > 「――くだらん」
(目を伏せて、小さく首を振る。
その声を合図に、異能で形作られた指輪が突如として引き伸ばされる。
二つの金属が混ざり合い、ひとつになる。音もなく、まるで食虫植物のような形に変じる)
(空いた左手が、机上のモチーフを一撫でで掻き集める。
まとめて食虫植物もどきの口へ放り入れると、その口がぎゅるりと螺旋を描いて絞られる)
■ヨキ > (金属はそのまま独りでに捩れ、縮こまる。
中で粘土が、木が、紙が、石が、真鍮が、そして銀が、轢かれ圧し潰される音がくぐもって響く。
ぎぎ、と最後に耳障りな金属音がひときわ大きく響くと、異質の素材を飲み込んだ金属は、金とも銀ともつかない、褪せた輝きの地金に変じた)
■ヨキ > (石ころほどの地金を、左手に握り込む。
四本の短い指が舞いに似て順繰りに広がると、手のひらの上からは跡形もなく消え失せていた)
「それでも、やらねばならんことがある」
(ふたたび雨の降り出した音がする。緩く振り返り、徐に立ち上がる)
「同じだ。異能と生きることも、天候に従うことも。
……生きようは、ある」
(からからと窓を閉める。
しばらく静かな校舎を見下ろし、やがて美術室を去る)
ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。
ご案内:「屋上」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (寝息を立てている。ベンチのひとつに大きな身体を横たえて、片腕を腹の上に乗せ、もう片方はまったく無防備に垂らしている。
ぷしゅう、という微かな呼吸だけが、ゆっくりと大らかに繰り返されていた。
そうして、)
「…………――ひぶッしッ!!」
(くしゃみをした。不恰好で、喉を痛めそうな音だった。
鼻を小さく啜ったきり、目覚める気配はない)
■ヨキ > (ベンチの端から両足を地面へ投げ出し、いびきも掻かない寝顔はひどく穏やかだ。
何事にも阻まれることのない眠り――
と見えていたのが、不意に何の前触れもなく瞼を開く)
「!」
(喉の奥で息を呑んだ音。
胸を大きく膨らませて深呼吸し、肺腑が絞られるほど深く吐き出した。
何らかの夢、であったらしい)
■ヨキ > (獣さながらに引き起こしかけた首を抑える。
焦りなしに泰然と目覚めてみせるのが、この理想郷たる学園の教師の務め、とでも言わんばかりに身を起こす。
片膝をベンチの上に置いた格好で座り直し、もう一度深呼吸)
「………………、おのれ。この期に及んでヨキを惑わすか」
(拳を握り、ベンチの肘掛けへ抑えがちに押し付ける。
金属製の手すりが、がつり、と鳴った。
薄手の布の手袋以外、何も身に着けていない素手のはずが、まるで金属同士を打ち付けたかのような音だった)
■ヨキ > (眉間に苛立ちが滲んでいる。
眼鏡を外すと、指先からフレームのごく小さなネジに触れただけで、もう片側の手のひらから銀色の針がちりりと生えた。
握り込む。針は指に刺さることもなく、頼りなげに撓って潰される)
「……ヨキは教師ぞ。この学園がヨキのすべてであるのだ。
隔てられた世界の向こうが、今さら如何にとてヨキの妨げになるものか」
(実際のところ、彼は教師に着任して久しかった。
重い声で呟き、指先で瞼を擦る)
ご案内:「屋上」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。
■日恵野ビアトリクス > 屋上へ続く扉をキィと音を立てて開け、
スケッチブックを小脇に抱えて現れる。
明確な目的なくうろついて周囲を見渡すと、
以前少し話した美術教師の姿が視界に入った。
(……苦手な人がいるな)
しかし去るというわけにもいかず、なんともいえず居心地悪そうにぼんやりと佇んでいる。
■ヨキ > (扉の軋む音に眼鏡を掛け直し、そちらを見遣る。
夕刻の仄暗さのなかに、見知った顔を見つける)
「…………。ヒエノ君、と言ったか」
(名を呼ぶ。
片膝をベンチの座面に置いたまま、丸めていた上体を背凭れに預ける)
「どうした?ここは君の学園だぞ。
何を居辛そうにしている」
■日恵野ビアトリクス > 「……どうも」
ぎこちなく振り向く。
一度話したきりだが、どうも彼は苦手だ。
向かい合っているだけでどこか気持ちがざわざわとする。
「別に、居づらくなんて。
……具合悪そうにしてませんでした?
保健室にでも行ったほうがいいのでは」
硬い表情でそう言う。
■ヨキ > (居辛そうにしている、と気付いていて尚、目線を逸らすことはしない)
「……ああ、それは。
夢を見ていた。学園に来る前のヨキのことを。
保健室で眠れば、また同じ夢に襲われるだけだ。
それならば――ここで君と話している方が、好い」
(顔を正面に引き戻し、もうひとりが座れるだけのスペースを空ける。
それでいて、手招きも促しもしない)
「絵を描きに来たのかね?」
■日恵野ビアトリクス > 「夢……」
ベンチに近づいて――しかし座らずに、
ヨキの反対側に立ち……ベンチの背もたれを掴んで立つ。
彼の身なりを観察し。
「異邦の方――でしたね。
どんなところだったんですか?」
軽い気持ちで尋ねる。
絵を描きに来たのか、という質問には、数秒置いて、首肯で応えた。
「ページを埋めに来るには、ちょうどいいところなんですよ」
■ヨキ > (地面に目を落とす。
ビアトリクスが立った位置からは、首元に旧い鉄の首輪が覗いているはずだ。
尋ねられると、一瞬の間を置いて)
「君は、青垣山へ行ったことが、それとも見たことがあるかね?
そう高くはないが、緑が深い。
ヨキはあすこによく似た山に居た。
むしろ、その山しか知らなかった。人里は、木々の隙間から覗き見るばかりだった」
(顔を見れば目を離さず、一たび離せば見向きもしないらしい。
相手を振り返りもせず、言葉を続ける)
「描くことはおろか、絵というものを知らなかった。
ヨキは真実、山犬であったよ。
……そのスケッチブックは、ヨキに見せられるものか?」