2016/11/22 のログ
有賀 幸作 >  
「は、はぁ……それなら良かった」
 
 苦笑を漏らしながらも、蓬髪の男は脳裏で「あんまりな言種じゃあないか」と眉を顰めた。
 確かに不躾を働いたのは手前かもしれないが、幾ら何でも初対面で言われるような類の御挨拶ではない。
 どこの御大であるかと思わず声に出そうになったが、黒板に書かれたそれを見れば、すっかりと得心が行った。
 
「おお、これはまた……見事な結界呪式でありますなぁ」
 
 なるほど、魔導に手を染めている何某であるというのなら、それも納得というものだ。 
 研究者は何時何処の世界でも偏屈なモノだが、魔術分野に傾倒したそれであるなら折り紙付きである。
 

獅南蒼二 > 白衣の男にとってすれば,軽い冗談に過ぎなかった。
尤も,誰に対してもこんな態度をとっているから,変わり者呼ばわりされるのだし,貴方の持つイメージは概ね間違っていないのだが。

「…だが,これでは一点を突破されれば簡単に破られるだろう。
 古代の城壁と同じだ,攻撃される一点以外は魔力の浪費に等しい。」

どうにかならんものかと思ってな,と,つぶやく。

有賀 幸作 >  
「な、なるほど……」
 
 蓬髪の男は、そう曖昧に頷いた。
 いや、それくらいしか出来なかった。
 この蓬髪の男、一応、魔術式が読めるくらいなので、一応はそちら側に属する学者の端くれであるが、別段優秀と言うわけではない。
 むしろ、どちらかと言えば出来の悪い方である。
 目前のそれが何であるか程度はそりゃあ分かるが、それの問題点や改善案など、思い当ろう筈もない。
 
「それこそ城壁と同じと言うなら増築の一手でありましょうが……それが無理なら、そうですなぁ。
 そも、別のモノで代用すれば良いのでは……別に、この術式に拘る必要はないのでしょう?
 防御術式であるのなら、防御と言う目的が果たせればよいのですから」
 
 故、出る答えは単純である。
 

獅南蒼二 > 白衣の男は,貴方を恐らく知らないのだろう。
いや,知っていたとしても,貴方に合わせるつもりなど無いのかもしれない。
現状を打破する知的な刺激が欲しい。自分に無い発想や,見落としている些細なこと。

「コストを度外視するのなら増築するのも悪くないだろう。
 だが……なるほど,代用か。城壁でなく他の物で外的に対する,と。」

「なら,城壁で守り切れないとして,アンタならどうするね?」

それを,貴方が与えてくれないかと,期待していた。

有賀 幸作 >  
「どうしますかねぇ……」
 
 冷や汗を垂らして明後日の方向に一度視線を向けながら、蓬髪の男は呟きを漏らす。
 そして、その拍子で眼鏡がずり落ちたので、指先で直しながら、苦笑した。

「防御よりも、索敵の方に力を注いでは……?
 全方全周への防御など、そも人の目が二つしかない時点で不可能でありますから……。
 先に何処から脅威が迫るか調べてから、調べた先の防護を固めるべきかと」
 
 そして、また口から出るのは、どちらかと言えば史学にて現る戦史の常識。
 魔術のそれと無縁ではないが、少なくとも真摯な魔術研究者の見識とは若干外れている。 
 

獅南蒼二 > 黒板に描かれた防御術式は常時展開型の一般的なものだ。
それに対して,貴方の答えは…

「……なるほど,盾で守るのではなく,敵の攻撃を見てから守りを固める,ないし撃ち落とす,というわけか。」

…全く別のアプローチであり,一つ発想の転換を与えたのは確かであった。

「その方法を取るのなら索敵の他に,敵のミサイルを打ち落とす銃か,瞬時に展開できる分厚い盾が必要になる。
 確かにコストは掛からんだろうが,どうも,忙しい戦いになりそうだ。」

そう呟きながら苦笑を浮かべた後で,初めて貴方の方へと視線を向ける。

「……すまんな,巻き込むつもりは無かった,ここを使うならすぐに片付けよう。」

有賀 幸作 >  
「あ、ああ! いやいや、お気にせず!
 次の講義が無さそうだったので……じ、自習にこの部屋を使おうと思っていただけでして……」
 
 実際は、ただ昼寝するのに都合が良かったというだけである。
 空き教室は邪魔が入り辛く、放課後までの一時の惰眠を貪るには都合が良いのだ。
 なので、半分ほどは誤魔化す様に、蓬髪の男は矢継ぎ早に問いかけた。
 
「先生はしかし、何かこれを使って研究や実験でもお考えなので?
 実際、この術式単品の運用を考えているわけでは、なさそうでありますし」

 単品での練度上昇や出力上昇を目的とするなら、端から別の何かを使うというアイデアは受け入れないであろう。
 そうでないというのなら、何かしら運用に目的でもあるのだろうか
 

獅南蒼二 > 「そうか…目論見を外させてしまったようだな。」

貴方の内心を知ってか知らずか,獅南はそうとだけ言って笑う。
それから,黒板の文字を消しながら……

「当たらずしも遠からず,だ。
 どんな魔術師と喧嘩をしても負けないくらいの盾が欲しいと思ってね。」

軽く言っているが,とどのつまりは実戦用なのだ。
だからこそ,コストの高すぎる方法も,確実性に欠ける方法も,採用に踏み切れない。

「荷電粒子砲を受け止める実験でもしてみるか。」

そんな風に笑って見せるころには,黒板の文字はすべて消えているだろう。

有賀 幸作 >  
「か、かで……?!」
 
 SFでくらいしか聞かないような単語が出てきて、思わずまた素っ頓狂な声をあげる。
 怪獣とでも戦うつもりなのであろうか。
 いや、まぁ、過ぎた力を持った異能者や魔術師は似たようなモノと言えばそうで在るが。
 
「し、しかし、そうなると……相手を強大な何かと想定すればするほど、絶対不尽の防壁というのは……非現実的ですなぁ。
 何せ、相手も同じような事を考えるでしょうから」

 互いに絶対と信じる矛と盾をぶつけるに似る。
 それは浪漫溢れる対決ではあるが、実戦で考えるならタダの博打だ。
 

獅南蒼二 > 貴方の言葉を聞いて,獅南は黒板消しを置いた。

「……良いぞ,その調子だ。」

振り返ってから,手をかざして貴方との間に薄い防御魔法の壁を展開する。
先ほどの黒板に描かれていたような一般的な防御魔法だ。

「この状況を作れば“相手”はもちろんこれを破ることを考えるだろう。
 それだけで,状況の主導権をこちらが握ることになる。これを打ち破れると考えるだろう強大な敵なら尚更だ。」

ぐっと手を握れば,防壁はまるでガラスが割れるように弾け,霧散する。

「……容易く打ち破れそうに見えて,絶対とは言わんが鉄壁に近い防壁なら…一瞬の隙くらいは作れるか…。」
貴方と会話しながら,獅南はその思考,思いつきを統廃合していく。

有賀 幸作 >  
 その指摘に思わず、「ほう」と声をあげる。

「一点に視線を誘導する事が正しく目的とすれば……まぁ、確かに」
 
 相手にわざと侮らせると言うのは、それこそ、古来から戦史に語られる正攻法である。
 能ある鷹は何とやらという諺が正にそれを語っている。
 理屈で言えばそれこそ至極単純かつ明快。それでいて効果的である。
 しかし。
 
「ただ、相手を信頼できないと使えない手ですな」
 
 そう、相手の思考能力が想定した範囲内でなければ通用しない。
 有体で言えば自分より馬鹿な相手にしか通用しない。
 圧倒的自信と傲慢が無ければ、運用は難しい。
 

獅南蒼二 > なるほど,と,貴方の言葉に素直に頷いた。
想定している敵…敵として対峙することになるかわからないが…クローデットなら,
この底の浅い目論見を看破するくらいのことはやってのけるだろう。

「ならば,相手に積極的な選択を迫るのではなく,消去法で行動を固定させるか……?」

再び手を翳せば,今度は球体の防壁が獅南を包む。

「全方位の防壁を徹底的に補強する……僅かも手加減はできん。
 強大な敵をして,一点突破の一撃こそが血路だと思わせなければ意味がない。」

だがそれは,それこそ“絶対と信じる矛”による一撃を誘発するだろう。
大きな隙を生じるだろうし,主導権を握っているのもこちらだ。
だが問題は……

「さて,ではその一点突破をどう防ぐか……振り出しに戻ったな。」

防壁を霧散させ,小さく肩をすくめて,適当な椅子にどっかりと座った。

有賀 幸作 >  
「まぁ……そうですな……」
 
 そも防御が難しいから如何してくれようという話だった筈である。
 結局、ぐるっと一周して戻ってきただけだ。
 
「ならもう……先制攻撃しか手はないのでは?」 
 
 攻撃は最大の防御也。
 実に安直極まりない単語であるが、残念ながら歴史的事実である。
 決定打の無い本当の籠城戦ならともかく、近代戦のような互いの火力がインフレーションしきった環境では、全弾防御は全く現実的ではない。
 先に砲台を引っ叩くほうが億倍簡単だ。
 

獅南蒼二 > 貴方の言葉に,獅南は小さくうなづいてからため息を吐いた。
結局のところ,魔術学にこれほど精通していながらも結論が出せないということは,コンセプトそのものに無理があるということだ。

「先制攻撃か……」

だが,それを,この白衣の男は明らかに躊躇していた。
その理由はでは,貴方には伝わらないだろうが…少なくともこの男は相手を殲滅したいわけではないらしい。

「……それも考慮に入れて考えてみることにしよう。
 だが,やはり………。」

再び思考の渦に沈みかけたとき,チャイムが鳴った。
時計を見て,獅南はわずかに目を細める。

「……次の授業の準備をしなくてはならんな…。」

ため息とともに立ち上がり,

「巻き込んでしまってすまなかった……私は獅南蒼二だ。
 今度会った時にでも,アンタに浪費させた時間の分くらいは奢らせてもらうよ。」

そうとだけ言って,荷物をまとめ,静かに部屋を出ていくだろう。
頭の中ではいまだに,この教室での問答と,術式の構成を考えながら。

ご案内:「教室」から獅南蒼二さんが去りました。
有賀 幸作 >  
「ああ、いや、御丁寧にどうも……私は有賀幸作と言います。
 私としても有意義な時間でしたのでお気にせず……」
 
 等と言いながら白衣の男こと獅南を見送る。
 そして、完全に姿が見えなくなってから、溜息を吐いて、蓬髪の男こと、幸作は一人呟いた。
 
「研究者というものは、何処に行っても変わらんものだな」
 
 今のあの獅南という男は、既に答えは得ているように見えた。
 それこそ、大前提に無理があるとは分かっているのだろう。
 それでも、敢えてその無理に挑戦したいと思うからこそ、あのように考えるのだ。 
 宛らその姿勢は正に研究者のそれであり、その懊悩は、新説に挑む学者の宿痾そのものである。

「しかし、成ればこそ、明確になるな」
 
 つい、幸作は自嘲の嘆息を漏らす。
 学者は不可能に対して問うものである。
 しかし、自分はどうであるのか?
 自分はその不可能について、如何物がそう述べたか等と問う程の頭が端から在ろうか? 
 
「それこそ、既に答えは得ているように見えるな」
 
 誰にともなく呟いて、幸作はその辺の机に突っ伏した。
 経緯如何あれ、初志貫徹である。
 

ご案内:「教室」から有賀 幸作さんが去りました。