2017/03/30 のログ
ご案内:「教室」に宵町彼方さんが現れました。
宵町彼方 > 暖かい陽気の日中とは転じて日の沈んだ窓を俄雨が何度も叩いていた。
正規学生であれば春休みも終わりに近づき、そろそろ陰鬱な気分になるような時期。
それを映すような陰鬱な天気の中、あまり使われていない予備音楽室に鋼琴の音が疎らに響く。
ピアノ前の椅子に腰かけるその小さな影は鍵盤に臥すようにしながら人差し指で
鍵盤をゆっくりゆっくりと一つ、気ままにはじいていた。

「う……んぁー……」

それに飽きたのか身を起こすとゆっくりと伸びをする。
窓際に張り付いた桜の花びらは俄雨に濡れ、ぴったりと張り付いたまま
静かに静かに色を変えていく。

「桜咲く……かぁ。
 出会いの季節かな?別れの季節かな?
 まいっか、ボクにとっては大した違いはないし」

早咲きの桜はもう散ってしまい地面で茶色い染みになってしまっている。

宵町彼方 > 「さぁくらぁ……ひらーひらー……舞い降りて落ちてー……」

か細い小さな声が教室内に僅かに響く。
記録上の年齢に似つかわしくない、甘く少し高い声は
少し口ずさんだだけですぐにやんでしまう。
ゆっくりと窓に近づき窓の外を流れる雫を追うように
その白く細い指が窓をなぞっていく。

「……わからないなぁ。
 なんだろうねぇ……このよくわかんない感じ」

この島では中々一斉に参加するイベントというものは開催しにくい。
秋から新学期が始まる地域の生徒や一年や一歳の長さがかなり違う異邦人も多くみられる。
そもそも学期概念がない生徒も多い。
一応こちらの世界の一年を基準に生活を送っているとはいえ、目まぐるしくも
はたまた信じられないほどゆっくりと進んでいく季節に戸惑う者も少なくない。

「……まぁそもそもそんなところが変わらなくても
 地球人だってそうだよねぇ」

宵町彼方 > 変人と称される彼女とてこの国の"シキ"は好きだった。
色が溢れて、空気に何か感情が宿るようなこの国の四季は
初めて見た時から今に至ってもなお美しいという言葉以外では言い表せない。
美しい絵画のような世界は本当にそこに在るのだと昔ひたすら眺め続けていた。
あの時と同じ思いは未だ胸の中にある。

「きれーだなぁ……」

濡れ照り返す木々、地面に出来る水たまり、窓を、地面をたたく音
……雨の日は特にその思いが強い。
こんな日はまるで小さなスノードームに閉じ込められたかのような不思議な心地になる。
それは不快ではなく……まるで海に沈んでいくようなおだやかで静かな感情。

「……」

世間では嫌がられるが禊雨というものがある。
神社仏閣を巡る際に降る雨の事をさすことが多いが……
それは身を清め、神域へ招く雨という。
この神魔すら入り混じる島で振る雨は禊となるのだろうか。
汚れきったものもその雨にうたれれば招くだけの身に戻るのだろうか。

「……へんなのぉ」

そんな事を考えてしまうほど、春の雨というものは情緒に満ちていると思う。
ただ静かに、時折強くなる雨音に耳を傾けながら鋼琴のそばに戻り、柔らかく腕を広げる。
音楽室に満ちるように流れ出した曲は『雨だれの前奏曲』
少し長めの原曲よりもさらにゆっくりと、まるで雨中の波紋のような刹那的ではかなげな笑みを浮かべながら静かに指を滑らせていく。

宵町彼方 > 「……ふぅ」

最後の一音をそっと弾き切り、小さな吐息を零す。
かなりズルはしているものの、楽器を演奏する事はそれなりに反復している。
昔と違い一度も指が絡まる事なく演奏できるようになった。
余分なものを使わなくとも、今なら大抵の曲は演奏できる。
とは言えごちゃっとしたものより、一音一音染み入るような曲の方が演奏していて気持ちがいい。

「次は何の曲にしようかなぁ……」

ここ数日研究で根を詰めっぱなしだった。表裏どちらでも。
ついつい没頭しすぎたせいでについ寝食を忘れていた。
お陰で研究室には少し休憩しろと追い出され、
とは言えあちらの研究室に籠るほどの時間はない。
結局のところ指示された通りに別の何かをして少し時間を潰す以外になく……

「ボクはへーきなのになぁ」

こっそりとあまり使われない音楽室に入り込み、気の向くままに演奏をしてみて。
頭の中で楽譜を検索しながら小さくぼやく。
どうせ休憩が明けたらまたしばらく籠る事になる。
自分の事だ。監督がいない環境ともなれば軽く一週間は籠りっぱなしだと思う。
始業式とかそういった物には興味がないし……そもそも春に入学式というのは
彼女の中ではこの国の不思議行事の一つだ。

「なんで秋じゃないんだろ?
 お国柄ってあるけどいまだにわかんないや」

別名興味がないともいう。

ご案内:「教室」にイチゴウさんが現れました。
イチゴウ > 「暇だなあ。」

ディストーションがかかった機械独特の声を
発しながら妙な四足ロボットは廊下を歩いていく。
イチゴウにしては珍しく今日は学校の見回りという
非常に平和的な任務が任された。
特別攻撃課の彼がやる事なのかは疑問符がつくが
上からの命令なので断るわけにもいかないし
そもそも断る理由もない。

「春休みのせいか生徒が少ない印象を受けるな。
これじゃ散歩で終わりそうだ。その方がいいけど。」

生徒達が少ないせいか
しとしとと窓に叩きつけられる雨音がよく聞こえる。
そんな中イチゴウはのんびりとした様子で
何もないこの時間を満喫していた。
しかし

「ん?何だこの音楽?あっちの方からか。
確かあの部屋に人がいる事はめったにないはずだが。」

音楽予備室から聞こえてくる音色をキャッチし
予備室のドアへと歩みを進めると
重そうなサーチライトを背負いながら
音を立てて予備室のドアを開ける。

宵町彼方 > 「……あやぁ?」

そういえば明かりをつけていなかった。
昏い場所は落ち着くけれど……騒がれることも多い。
何故か何をしているのか尋ねられることも多いし。
皆暗いと落ち着かないらしい。不思議だ。
そう思いながらも重い防音扉のきしむ音にかくんと人形のような動きで首を傾げながら顔を向ける。
体に合っていない服を纏った白い人影が変な動きをするという人によってはもうそれだけでホラーな光景だが……

「んやぁ?警備のロボット君?見回りかなぁ?」

扉を開けて出てきた歩行機械の分類を瞬時に引き出しつつ
曖昧な笑みを浮かべてのんびりと声を発する。
一応生徒で、別に今はワルイコトをしているわけでもないのだから見とがめられることもないだろうと思いつつ。

「……んー……君何処かで見たことある気がする?気のせい?」

ついでに何故か相手に自分を見たことある?と質問を投げてみたり。

イチゴウ > 「ん?」

防音扉を開けた先に待ち受けていたのは
妙な動きをする白い人影だった。
部屋が暗いのもあって不気味さを醸し出しているが
この白い人影自体には前に会った事がある
いつだったか女子寮まで背中に乗せて帰った
頭のネジがぶっ飛んでる女子生徒だ。

「おいおい、見た事あるも何もボクは
前にキミを女子寮まで乗せていったあのロボットだよ。
・・・そうだった。キミは天才的なレベルで忘れっぽいから
思い出せないのも無理ないか。」

イチゴウはため息をつきながら
のんびりとした様子の白い人影ーー”彼方”に
対して声をかける。
それに加えて

「それと部屋の明かりくらいつけたらどうだ?
一般生徒が見たら怪異と間違えられても文句言えないぞコレ。
こっちの方が落ち着くとかならこのままでいいけど。」

正直この場はかなり不気味な状況だと思う。
彼女は暗い方が落ち着くのかそれともいつもの
ごとくただ付け忘れているだけなのか。

宵町彼方 > 「ああ、警備の」

そういえば見覚えがあるはずだ。
あの日幾つか愉快な状態になっていたのだから。

「女子寮のお風呂の写真はまだですかー。」

確か希少な完全自立型軌道兵器。
名前は…そう。

「いちごーくんだっけ?
 灯つけるのってつい忘れちゃうんだよねぇ」

ケラケラと笑いつつあの日のようにサイズに合わない袖口をふってみせる。
たしか風紀の矛の役だったはずだ。
それがわざわざこんなところに来るというのは……

(もしかして対象は”私”かなぁ?どうでもいいけどぉ)

そうとは思えないほどのんびりした所作をしながら笑みのなか、目を細めてそちらを観察して。
そういえば何だか愉快な実験をしていたとも聞いた。
面白い兵装でも見せてくれるだろうか。