2016/05/10 のログ
ご案内:「屋上」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 > 憂鬱な登校時間。
昨日は大失態というか、なんというか。
すごく、へこんだ。家でも家族と目を合わせられないくらい。
稽古も、休んだ。それくらいにへこんだのだ。
ものすごく、ものすごく。

でも学校を休むわけには行かなくて。いつもよりちょっと遅い時間に登校。
遅刻ギリギリだ。そういえば姉、には会わなかったけれどきっと先に行ったのだろう。
なにやら、ピリピリしたものを家で感じたが喧嘩でもしたのだろうか。父と母、それか姉か。それにしても珍しいなと思いつつ。

そして登校して――

「遅れ、ちゃう……いそげ……っ」

下駄箱を開けた時、それは”出てきた”

はらりと一枚の封筒。白い、封筒。

「……はい?」

手にとって、確認。なんだろうと思う。
小学生くらいによく合った不幸の手紙かな~なんて思って。
裏返してみる。そこには――

ハ ー ト の シ ー ル 

「は?」

固まること数秒。

「はいーーーーーーー!?」

『ひゃっはあああああ、ついにきたぜ、はるがきた!!』

伊都波悠薇、人生初のラブレターを貰って。
今に至るのである。

伊都波 悠薇 > お昼休み。お弁当を片手に。

そわそわ……
待ち人を待つ。

そわそわそわ……

「そわそわそわそわ……」

落ち着かない、妙に落ち着かない。
相手曰く、一目惚れ。ということらしい。

どこにどう、一目惚れしたのかと思ったらちゃんと事細かく書いてくれていた。
とても律儀な人らしい。

曰く、素顔を髪で隠す様子がいじらしく。
トモダチを作るのに一生懸命な姿を応援したく。
目でおっているうちにこれが恋なのだと思ったそうな。

いつから見られていたんだろうと思うとすごく恥ずかしい。
すごく、すごく。恥ずかしい。

いたずらかと、無視してもいいところだが悠薇には無理な相談だった。

なにせ、礼には礼をがモットーである。
礼を欠けるのはよろしくない。

にしても――

「おちつかない……」

お昼休み。待ち合わせの15分前。
早く来過ぎてしまったパターンであった

伊都波 悠薇 > そして――

時間になった。待ち人は、来ず。


「……ふぅ」

安堵半分、残念な気持ち半分。
期待しなかったわけではない。でもまぁこんなものかとも思う。

普通だ。いつもどおり。
でもこんな気持にしてくれたのだから、感謝だ。
何もなければずっと落ち込んでいた。だからこれは嬉しい出来事だった。
たとえ、いたずらだったとしても――
ふぅっと一息。風が、撫でる。

「戻ろう」

そう振り返った時。

『おおおおお、お待たせしました!! ま、まどもあぜる!! ぜひともわたしとおちゅきあいねがいちゃく!!?』

燕尾服で薔薇の花束を持った少年が、転びそうになりながら
大きな音を立てて、入ってきた

伊都波 悠薇 >  
―――風が音を鳴らして、過ぎていく。

ひゅおおおおっと音がしそうなくらいだ。

『しししし、しまったあああああ。す、すべった。すべ……あべべ。えっと、や、やり直していいですか?』

少年は、あまりに慌てた様子でそんな風に言うもんだから。

「え、あ……はい。どうぞ」

素で、そんなふうに言ってしまった。

『じゃ、じゃあ。改めまして』

少年は、すぅはぁっと深呼吸した後。

『えっと、お話するのは初めてなんですが。お手紙に書いた通り、あなたに恋しました。付き合ってもらえませんか』

短い、髪。ツンツンだ。ちょっとこだわりがあるのかワックスで整えている、ように見えた。
燕尾服は、小さな身体には似合っている、と思った。
かっこいい、ではなくかわいいって感じで。
やっぱ緊張しているのか表情は硬い。
頬もちょっと、赤い。
そんな風にちゃんと相手を、”見れた”のは初めてだったかもしれない。

――あれ、私、落ち着いてる?

そんな風に、場違いな感想が溢れるくらいには。
普通ならありえない。でも、今日はきっと”特別”なんだろう。
自分に、ではないけれど。
だから、息を深くすって。前髪を、事前に用意してたピン留めで止めて。
まっすぐ見て、言った。

伊都波 悠薇 >  
 
 
―――


風が撫でる。

キーンコーンカーンコーン。

鐘が、鳴る。
その場に残った少年は、そっと空を見上げた。

『参ったな』

あんな清々しい表情、初めて見た。
綺麗な顔だった、やさしい雰囲気だった。
予想以上に、声も可愛くて。みんなもっと、彼女の魅力に気付けばいいのにとすら思った。

『あんな風に言われたらさ、諦められないって』

結果は、惜敗。

――まずは、連絡先を交換して。お友達、からどうですか?

相手のことをよく知らないのに、すぐには決められない。
少年のことを深く識ってから、改めて答えを出したい。
だから、一週間。
一月、恋人(仮)みたいなかんじで、とりあえずトモダチみたいに遊んで、お話して。それからで、どうですか? と。

予想外だった。
そんな風にいわれると、思ってなかったのだ。
少女が”そんなこと”を考えられるとは少年は微塵も思ってなかった。
だって、そんなふうに柔軟なことを言えるなら、どうして。

――あんなに、テンパっちゃうんだろう

そこが可愛いところではあるのだけれど。
だが、チャンスがゼロではないというのは少年にとって希望だ。
彼女が打算でそんなことを言うようには思えないし。
たとえそうだったとしても、それでも藁を掴む、それぐらいの気持ちだ。
わずかでも可能性があるなら、頑張ってみたい

『いよっしゃああああああ、がんばる――』

キーンコーンカーンコーン

『や、やべ……あぶ。じゅ。じゅぎょ、おくれ、おくれるううううううっ』

慌ただしく、決意の言葉は鐘に掻き消えて。

少年の春は、まだ、終わらない

ご案内:「屋上」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「屋上」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
大雨の降る夕刻、屋上にその影。
厚い雲に覆われ、ほぼ真っ暗な空を静かに見つめる。
目に雨が入っても閉じることはない。
顔にものが飛んできても目を閉じないよう、反射を制御するための訓練も終えてある。

なんとなく、人を殺したあとは学園での授業を受ける気になれなくて、しばらくは引きこもるのだが。
今日に限っては何故か、この屋上がよかった。
全身ずぶぬれになりながら、何時間になるか、ただじっとしている。

「……まだ、君のところには行けないな」

虚空に語り掛ける。
それは誰を相手に語り掛けているのか。

寄月 秋輝 >  
結局何人の首を刎ねたか忘れてしまった。
それほどに『死』に対して鈍感になっている自分が恐ろしい。

相手が人型をしているバケモノだったからこそ、人を殺すことに抵抗を失くしてきた。
それは間違いなく自分の人間性をも削いできたのだろう。
間違いなく自分は裁かれる側の悪人であると自覚できるほどに。

「……うん……今更だよな」

ぽつり、ぽつりと呟く。

「……わかってるよ……」

答える。応える。
誰も居ない空間で、一人会話を成立させている。
それは異様な光景で、彼が狂っているという現実そのものなのだろう。

寄月 秋輝 >  
駆け抜けてきた。その結果がこれだ。
いつまでも負け犬のまま、誰かを救おうにも遅すぎる。
誰かの未来を断ち、自分の未来を穢し、結果何も変わらない。

くす、と笑った。

「大丈夫だよ……まだ、ね」

まだまだ、重ねた罪は少ない。



彼女が居るところまで堕ちていくには、あまりに足りなすぎる。