2016/05/13 のログ
ご案内:「屋上」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
事件より数日経って、久々に登校した。
どの講義も、出席日数さえ足りていれば問題ない程度の学力と魔術知識がある分、かなり適当でいいのが幸いした。

「……今日も平和だな」

手すりにもたれかかり、空を見上げている。
少しバランスを崩せば、頭から落下しそうな体勢だが。

「……平和か」

ある意味その平和を乱したのは自分でもあるが。
正義も悪も、平和も混沌も、もはや秋輝にとっては大差ないものですらあった。

ご案内:「屋上」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 > バタン!!

と大きな音
それはどうやら貯水タンクの機械室のドアの音で

しばらくして音のした方から男子生徒が2名、談笑しながら歩いてくる
…が、秋輝の姿を見つけると少し慌てたように、バタバタと屋上から出て行った

少し遅れて
制服の胸元のリボンを直しながら、少女が姿を現す

「……あ」

はた、と目に入った見覚えのある顔に、笑顔を作って

「こんにちわ、秋輝くん。もしかしてサボりー?」

なんてね、と笑って声をかけた

寄月 秋輝 >  
す、と後ろを振り向いた。
少し驚いたように、目を見開いた。
同時に、ほんのわずかに悲しげに目を細め。

その二つの瞬きの直後、いつもの変わらない表情になった。

「こんにちは。
 ご名答と言いますか、ある意味サボりですね」

手すりから体を離し、数歩近付く。

「……まだ……元気そうですね……」

少しの安堵と、少しの悲しさ。
表情には表れないが、語気は以前会ったときより弱く感じるだろう。

伊都波 凛霞 > 「あっはは、単位落とさない程度にしないとダメだよー?」
ぱたぱたと駆け寄り、手すりへと近づく

「ん?まぁ私はいつでも元気だからね!
 秋輝クンはなんか、元気ない感じ…?」

内心、色々と思うところはあれど、今はそう言葉を返して

寄月 秋輝 >  
「……そうじゃないと思います」

あと三歩で触れ合える、という距離で足を止める。
感情を殺した顔は凛霞からどう見えるだろうか。

「あなたが僕にかけるべき言葉は、そうじゃないでしょう。
 この人殺し。もしくは、何故あんなに遅かった。
 何故あなたは、あんな経験の末に……笑っていられるのですか。
 僕を見て、前と同じように接しようと思えるのですか」

己を苛む言葉と、疑問の言葉が続く。
胸を締め付ける感覚を表に出さないように、必死に抑えながら。

伊都波 凛霞 > 詰められた少女はほんの一瞬だけ驚いたような表情を見せて、
でもそれもすぐに微笑みに変わる

「そうかな!」

言いつつ、手すりに背をもたれかかる

「問題にならなくって良かったね」

秋輝の行動に対する少女の答えはそれだけ、
責めることも、何もしない

「んー…それっていけないこと?」

首を傾げる

「落ち込んで悲しんで、しにそーな顔してても自分も周りも辛くなるだけだもの。
 あっ、それともやっぱり恩人だし、ちょっとは接し方変えて欲しかったとか…?」

むぅ、と顎に手を当てて考えこむようにして見せる

寄月 秋輝 >  
「…………あなたは…………」

眉根が寄る。悲しみの形に。
秋輝にはそれが理解出来ない。
いつでも遅く、常に負け、蔑まれた青年には、責められないということの意味がわからなかった。
だから、責められない時の感情の表し方も知らなかった。

手すり側に行った凛霞には背を向けたまま、空を仰ぐ。

「……僕は、あなたと同じようには笑えなかった。
 恥辱にまみれ、尊厳を砕かれ、憎悪を燃やすしかなかった。
 その時に頼れる人が周りに居なければ、その時に壊れていたでしょう」

語り、紡ぎ。
振り向いて、凛霞と目を合わせる。

「苦しいならば、誰でもいい。泣きつく人はいますか?
 喚いて、発散して、胸の奥の傷を受け止めてくれる人はいますか?
 それをしないと……僕のように壊れていきますよ」

伊都波 凛霞 > 「秋輝くんは、兄弟とかいる?」

返ってきたのは質問の答えではなく…

「私は苦しくても泣かないよ。お姉ちゃんだから。
 喚いて、散らして、自分の胸の奥底の傷に嘆いて…なんて、みっともない姿は見せらんない。
 先に立って、お姉ちゃんはこんなに強いんだぞ。ってところを見せないと」

すっと胸元に手を当てて、淡々と言葉を紡ぐ
やがてこちらに視線が向けば、まっすぐに目線を返して

「だから私は負けないし壊れないよ。
 この程度の試練、踏み倒せないでどうする、ってね」

寄月 秋輝 >  
兄弟はおろか、家族が居ない。
だがそんなことを答えたりはせず。

「……そうですか……」

自分も同じように強がっていたのだろうな、と感じた。
いや、彼女は違う。きっと本当に乗り越えてしまうのだろう。
少しうつむき、胸元の首飾り、その勾玉の一つをつまむ。
母はこんなとき、なんと言うだろう。
『夏樹』はこんなとき、どう言うだろう。

母の形見を手にしたまま、ぽつりと呟く。

「……今度こそ、あなたを守りたいです。
 あなたが壊れないように。乗り越えられるように。
 僕が敗者であり続けないように」

ちゃら、と優しげな音が勾玉から鳴った。
顔を上げると、またいつもの無表情。

「僕を頼れなどと傲慢なことは言いません。
 ただ、僕に守らせてください。
 これが……最後のチャンスだと思うんです」

自分自身にも投げかける警告を含め、そう呟く。
言葉は淡々と紡がれる。
その心の中は、どうしようもなく荒れ狂っている。

伊都波 凛霞 > 「んー……」

手すりに背を預けたまま、トントンと靴のつま先で屋上のコンクリートを叩く

「わかんないな…。
 あ、キミの言ってることがわかんないってことじゃなくって、ええと」

うんうん、と首を捻って言葉を導き出そうとする

「敗者…っていうのもなんか抽象的っていうかだけど…。
 …えっと、守るって…何から…?あと、最後のチャンスって、何の?」

寄月 秋輝 >  
「僕は負け続けてきました」

一言、呟く。
その言葉は絶望的に重く、端的で、嘘偽りなく絶対的。

「ある時は国の要人の護衛に失敗しました。
 ある時はパートナーを傷つけられてしまいました。
 ある時は恋人の命を守れませんでした。
 ある時は戦いの勝者を作り出すことすら出来ませんでした」

それも、たった二年の間の出来事。
ただの一度も勝利出来なかった、累々たる敗北の記憶。
生まれた時から敗者だった男の記憶の欠片。

「僕は何のために強くなったのか、何のために戦っているのか、もうわかりません。
 ですが……この世界に流され、生きているからには、何か理由があるはずです」

一歩だけ、進む。
ちゃらりと、首飾りが揺れて触れ合う音がした。

「あなたに降りかかる災厄から守りたい」

一言で答え。

「僕の生きている理由探しの、最後のチャンスを」

表情を変える。
悲しげで、必死な。
きっとそれは、何か落としてしまったものを見つけ損ねてしまった『少年』の素顔。
呼吸すら忘れるほどに……否、呼吸すら出来ないほどに詰まった心のまま、呟いた。

伊都波 凛霞 > 少年の言葉、神妙な面持ちで最後まで聞く
数々の敗北のお話
自分と年齢もさして変わらないようなこの少年はなぜそんな道を歩むような運命を背負ったのか
…否、それはきっと皆同じこと
ひとたび生をこの世に受ければ、誰もが何かを背負って生まれる
客観的な大小こそあれど、それらは当人にとっては何よりも変えがたい運命である
その本質は変わらない

だから、彼の言っていることもよく理解る、伝わる
ただひとつの疑問を残して……

「──どうして、私なの?」

寄月 秋輝 >  
「……僕はあの日、確かに負けたと思いました。
 警察機構に居たから、よくわかっています。小さな悪は、結局悪行を為すまでは消せないものと。
 辱められたあなたの目の前で、彼らの命を奪って……いつも通りに、そう思いました」

歩み寄る。
が、正面には立たずに、一歩だけ離れた横へ。
手すりから外を、学生街の街並みを。
その奥の歓楽街……そして落第街を見つめる。

「でも、あなたはまだ戦っている。
 敗北するつもりもないと、言い切っている。
 それならば……僕もここで膝をついてはいけない。また負けてしまう。
 そう思ったんです」

そこに潜むであろう、悪の種たちを見つめる。
同時に、それらを顔色一つ変えず殺してしまえる自分という巨悪を睨みつけて。

「だから、あなたがいいんです。
 負けていない凛霞さんを、今度こそ守り通したいのです」

伊都波 凛霞 > 「戦っていない子なんていないよ」

そう言って、手すりから背を離す

「自分の在り方、進んでいる道を塞ぐ障害、伸び悩む自分という仮想敵…。
 それこそ挙げればキリがないくらい、人間って生きていく上ではぜーんぶ、勝つか負けるかの連続。
 私だって勝ったり負けたり、もちろん負けて学ぶこともあるし、身につくものもあって…、
 それで、次は負けない、って奮起したり、別のことへの糧にしたり…」

手すりから幾分か歩いた先、でくるりと振り返って…

「私は大丈夫。
 秋輝くんの強さは、きっと他に守ってあげるべき人がたくさんいるよ。
 そしてきっと、そういう人達のほうが、守ってもらうことを望んでる」

寄月 秋輝 >  
その答えを、少しだけ期待していた。
拒絶された方がいいのだろうと思っていた。

結局、自分は誰かを不幸にすることしか出来ないのだろうから。

「……そうかもしれませんね」

そう、ここでも敗北だ。
だがそれでいいのだろう。
ここで敗北すれば、彼女をどん底まで叩き落とすことはないだろう。

「……今まで通りの活動だけ続けましょう。
 焦って行動しても仕方がないですね」

なんとなくおかしくて、自嘲気味に微笑みながら。
凛霞に背を向けたまま、その手すりの上に立った。

「確かに、凛霞さんにそんな心配は必要なかったかもしれませんね。
 出すぎた真似をしてしまいました」

伊都波 凛霞 > 「これでも古流武術の継承者(仮)だからね。
 男の子に守ってもらう、ってなんか素敵だけど、
 さすがにお家の名折れにもなっちゃうし」

あはは、と小さく笑って

突然手すりの上に立つ彼には少し驚いたけど、
別に身投げをするとかそういう雰囲気でもなさそうだ

「…誰かを守ることでしか、秋輝くんはダメなの?」

寄月 秋輝 >  
「そうですね……あの見事な体術を忘れていたかもしれません。
 あなたならば、初動さえ遅れなければ大抵のことはなんとかなるでしょう」

これは本心だ。
世辞抜きに、凛霞の体術は同い年近い女性にしては極まっていたと感じたのだから。

「……わかりません。でも、かつての恋人を……
 『夏樹』を守れなかったことは、きっと今もこの心に深い傷を残しているのでしょう」

まるで他人事のように、自分の内心を俯瞰して語る。
本当にわからないのだ。秋輝自身にも。

「……だから、次こそは、と思ってしまうのです。
 誰かに夏樹を重ねて、今度こそは守ってあげたい、と。
 そんなことが出来るほど、器用な人間でもないというのに」

じゃら、と音を鳴らして再び首飾りを手に乗せる。

そういえば、母も『守れなかった』側だったな、と感じて。

伊都波 凛霞 > 「女々しい~…」

秋輝の背中に向けてそんな言葉が届く

「秋輝くん、
 過去の道は1本しかないけど、未来の道は無限に用意されてるものだよ?
 …私がその恋人さんだったら、自分で道を狭めるのはやめてほしいって思うけどな……」

もちろん、実際にその死んだ恋人とやらの性格も気持ちもわからないのだけど

「惑って、違う道を選べない自分を…
 自分の心の傷、ひいてはその恋人さんを言い訳に使っちゃってるように聞こえる……」

寄月 秋輝 >  
「きっとその通りでしょうね」

冷静に、外部の人間が語ってくれた言葉は正しいのだろう。
自分が正しいと思えない上で、思考を停止してしまっているのかもしれないが。

「けれど、だからといって変えてしまえるほど軽い事態でもなかったからです。
 彼女が最後に向けた、僕への絶望と怒りの表情がまだ……脳裏にこびりついて離れない。
 僕は凛霞さんほど強くはなれなかったんですよ」

じゃら、と再び首飾りから手を離す。
その説教は驚くほど耳に痛いが。

「いつか、夏樹のあの最後の表情を忘れることが出来れば……
 もう一度、あの長い髪に隠れた瞳と、はにかんだ笑顔を思い出すことが出来れば。
 僕も別の生き方を選べるのでしょうね」

今は思い出せない、楽しかった記憶。
それさえ取り戻せれば、と。

伊都波 凛霞 > 「私ほど強くないなんて言っちゃう子が私のコト守る、なんて」

肩を竦める

「恋人さんの最後を忘れることができなくったって、
 恋人さんの懐かしい笑顔を思い出せなくったって、
 今あるもので戦っていくしかないんだよ。秋輝くん」

凛霞の言う言葉は全てが現実
そして未来に前を向くための言葉、それで彼の進む方向が変わらないのであれば、それはきっと、もう

「私は、今を楽しんで生きて欲しいな」

重いものは、手放せばそれだけで身軽になることができるのだから

寄月 秋輝 >  
足元を見ていた。下の景色を見ていた。

その視線を上に向ける。
太陽の光で見えない星々。しかしこの目には映る、無数の星の瞬き。
その光は新しい希望の光か、それとも懐かしいばかりの光か。

「まずは新しい生き方を探すことからですね」

苦笑しながら呟いた。
改心して、過去を捨てたわけではないのだが。
あの星々と同じで、変われたとしてもすぐに変われるほど柔らかい頭をしていないのだが。

「……凛霞さんは、あれから変わりありませんか?
 あぁ、悪いことがあったなら何も言わないでいいです。
 ただ……あの時から変わらず、未来はまだ輝かしいと信じていますか?
 妹さんのため、とかではなくて。あなた自身の本音として」

あくまで参考にしたい、程度の気持ちなのだろう。
少しだけ、胸のつかえが減ったような声音で尋ねた。

伊都波 凛霞 > 「んー……」

空を眺めて、しばしの沈黙

「妹の幸せが私自身の幸せ、以上!」

そう言ってにっこりと笑う
同時に、チャイムが鳴り響く

「あ、行かなきゃね。あんまりサボっちゃダメだよー秋輝くん!」

そう最後に言葉をかけて、少しだけ早足に、屋上から姿を消した

ご案内:「屋上」から伊都波 凛霞さんが去りました。
寄月 秋輝 >  
「……かなわないな」

小さく、聞こえないように呟いた。
静かになった屋上で、空を仰ぎ続ける。

「夏樹、君は……」

尋ねようとしてしまった。
そこにもう彼女はいないのに。
それが習慣のようになってしまっていた事実に、改めて悲しくなる。

「……だからあんなふうに言われるんだろうな」

また負けてしまった。今度は完膚なきまでに。
彼女に。伊都波、凛霞に。

苦笑しながら手すりから身を投げる。
ほんの一メートルほど落下したところで、飛行魔法を展開、大空へと飛翔していく。


その空は少しだけ明るく見えて。
空を飛ぶその体は、少しだけ軽くて。


その胸元の首飾りは、少しだけ嬉しそうに青い光を放った。

ご案内:「屋上」から寄月 秋輝さんが去りました。