2017/04/16 のログ
和元月香 > 「何か作るのが結構好きでして。
まぁ、多分それほど得意って訳じゃないんですけどね!

ヨキ先生、ですね。私は和元月香、一年でっす」

少々軽い調子で、しかし丁寧に頭を下げる。
美術は静かな環境の方が月香的にもいいと分かるし、
この教師も人柄が良さそうで好感が持てた。

「勿論、美術やってみたいなーっていうのはあるんすけどね。
ちょっと言い方は悪いですけど、息抜きというか、癒しが欲しいな~…みたいな。

最近来たばっかりで、好きな事とかする時間殆ど無かったんですよね。

あと、絵が描きたいなって思ってます」

そんな事を言いながらも、
疲れを微塵も感じさせないさっぱりとした笑顔を浮かべた。

宵町彼岸 >   
「……ここかなぁ。」

ゆっくりと歩を進めながら身を縮めるようにして廊下を歩く影が一つ。
それは不安を払しょくするように何度も何度も資料を眺めつつ
一つ一つ確認するように覗き込んだ後、一つの教室の前で立ち止まった。
普段は実験教室や研究室、保健室付近にいる彼女だが
いまは美術関係の教室の前。

手元の資料を眺めたあと教室の案内札を見上げる。
此処であって居る筈……だけれど。

「……ん。」

暫くその場に所在投げに立ち尽くしているも、胸元で小さく拳を握り頷くとドアの前に立って。
普段の様子とは打って変わって……まるで借りてきた猫のような大人しさで
そーっとそーっとドアをスライドさせる。
音を極力させないように、こっそりと。

ヨキ > 「和元君か。ああ、どうぞよろしく。

 何、安心したまえ。美術に得意不得意は関係ないとも。
 作ることや学ぶことが好きで、楽しくやってくれたなら、輝くものは必ずある。
 ヨキはそういうものの見方で、君たち学生の評価をしているよ」

月香の挨拶に会釈を返す。

「はは、癒しか。構わんよ、ヨキとて作業に没頭している時間は疲れを忘れるタイプだ。
 もしも作品展に応募しようものなら、〆切が近づく毎にカリカリする者も少なくないがな」

冗談めかした調子。
絵を描きたいと話す月香へ、ほう、と頷く。

「絵か。なるほど、大歓迎だとも。
 幸いにもこの学園は、画材も参考図書も非常に潤沢なのでな。
 ふふ、新入生はさぞかし慣れぬ環境で忙しかったろう。

 …………うん?」

自らの話し声に音は聞き損ねたが、視界の端で扉が動いたような気がした。
姿こそ見えないが、彼岸が居るはずの出入口へ目を向ける。

和元月香 > (…うん、いい先生だなー)

ヨキの言葉を聞いて、月香は漠然とそう思った。
生徒を大事にし、美術を愛する教師。
ヨキへの印象は、ずばりこれだった。

「作品展かー。人に見られた事は無いから、何か新鮮だなぁ。
…興味沸いたんで、次から参加させてもらっていいですかね?」

わくわくした様子で、無邪気に笑う。
警戒心はまるで無いような、素直な表情。
意外と疑り深い月香だから、完全に心を許した訳では無いが。

「絵は……趣味にも満たない程度に描いてるんですけどね!

………っお?」

照れたようにぽりぽりと後頭部を掻いた直後、
月香はヨキとほぼ同時に後ろのドアに視線を移した。

(…あ、あれ?こ、これは….)

デジャヴを感じる。
何だか、この気配を知っている気がして、
月香は笑顔のまま冷や汗をかきはじめた。

宵町彼岸 >   
「……」

別に誰かに咎められたわけでもないけれど
まるで見つかれば怒られると言わんばかりにこっそりと侵入しようと何故か頑張っていたり
極力音は立てないつもりだったけれど
軽く音でも聞こえてしまったのか二つ此方を向く気配がある。
そっと忍び込みながらそちらに目を向けると
……思いっきりこちらを見ている顔と目が合う。
それはもう全くこっそり侵入できてなかった

「あ、え……」

目があった事に気が付くとわたわたとドアの方に逃げていった。
そのままドアに半分顔を隠し、じ―…っと二人を眺めている。
勿論体は一切隠れてなかった。隠れているのは片目だけ。

「……」

それでもただ無言で二人を眺めていて……
もしかするとしばらく無言のまま見つめあう事になるかもしれない。

ヨキ > 「人の目を意識しないのは、初めは誰しもそうさ。
 君が今の気持ちのまま伸び伸びと描いてくれるなら、それに越したことはないが……
 『いい作品を描こう』『いい点をもらおう』と思うと、せっかくの作品も縮こまってしまうからね。

 次回から?ああ、勿論だとも。
 ヨキは金工の他に、絵も少しばかり教えているからね。
 君の『好き』を伸ばすことが出来るなら、いくらでも協力するよ。

 そのうち、今まで君が描いた絵も見せてもらいたいな……」

そこまで口にしたところで、月香の冷や汗に気付く。

「…………。君の友だちかね?」

月香と、扉の向こうと。
半分だけ隠れている彼岸の顔を見遣って、再び笑った。

「やあ、こんにちは。
 取って食べたりしないから、君も顔を見せてくれ」

月香の元を離れ、何の気なしに扉へ向かう。
隠れている彼岸の胸中などお構いなしに、どうぞ入っていらっしゃい、とばかりに扉を開けてしまう。

和元月香 > 「緊張はしないタチなんですけど、
殆ど誰にも見せたことないっていうか…。

あと私基本自由なんでそのへんは問題ないです!」

輝くような笑顔でそう宣う。
空気は読めるタイプだが、マイペース人の名は伊達では無いのだ。

「…何か照れますねー」

そして見せてほしい、と言われた所で何故か照れた。
…正直、筆の赴くままに描いている節があるからか。

(いやっ、ヨキ先生も今言うたやんけ!!自分らしくあればいいんだ!)

よし、と拳を握ってそれでOKOK問題ナッシングと気分を素早く切り換えた。

…まぁつまり、現実逃避だが。

「と、と、友達では無いですねー。知り合い?顔見知り?」
(いや相手は覚えてない可能性大だろうけどねー!)

忘却体質の彼女のことだ、
かなりの確率で月香の事など忘れているだろう。

…いや、忘れてくれた方がいい。
今思えば、とんでもない黒歴史を見られてしまったものだ。
あれは自分で考えても頭おかしい人の行動である。

「……、久しぶり…。覚えてますかー」

そうして相手が顔を出せば、
少々ぎこちない笑みで小さく手を振るだろうか。

宵町彼岸 >   
「邪魔―……しちゃったーですぅ?」

なんだか会話の邪魔をした気がする。
微妙な雰囲気になっているのは普段それを気にしない彼女でも
なんだかよみ取れてしまう感じがあって……
  
「あ、えと……コンニチワー?」

此処の講師だろうか?残念ながら顔の判別はつかないのだけれど
そんな雰囲気で室内へと招いてくれた。
見るからに不安ですというような表情で
招き入れられるままに教室に再び足を踏み入れる。
そうして振られた手に首を傾げながら手を振り返して……

「知り合い……さん?だよねぇ?
 えと……すーちゃん?」

とりあえず目の前の誰かが誰なのかは判別できないので
該当しそうな名前を適当に言ってみる。
誰だろう。多分あった事がある人のはず……そんな思いを込めながら
じーーーっと顔を眺めてみる。

ヨキ > 「よしよし、資質は十分だな。
 美術をやるなら、マイペースにどっしりと構えている方が都合がいいんだ。
 君は大成するぞ。ヨキは嘘を吐かんからな」

無責任にも見えるほど明朗な顔。
もしもヨキの評を聞く機会があるならば、その明るさがヨキに対する好悪を大きく二分していると知れるだろう。
よく言えば親しげで、悪く言えば馴れ馴れしい。

彼岸へと挨拶する月香の、どこか余所余所しくも見える挨拶に首を傾げる。

「ああ、和元君は新入生だものな。君たち、知り合ったばかりか」

そう納得して、彼岸に目を移す。

「いいや、邪魔などではないよ。
 君はここの学生なのだから、禁じられたり、鍵が掛かっている場所以外はどこへなりとも入れるさ。

 美術を教えているヨキと言うよ。
 君は?このヨキに、何か用事でもあったかね」

にこやかに首を傾ぐ。

和元月香 > 「そんなに誉めると照れますよー!」
(ダメだっ…。駄目なやつだこれっ…。恥ずかしい!)

でへへ、としまりない笑みを浮かべながらも
内心月香は誉め慣れてないせいで悶絶していた。

「うん、そう、なんですけど…」

ちらり、とちょっと居心地が悪そうに彼岸に視線を寄越す月香。
別に嫌いな訳では無いが、どうしても気になってしまう。

「ってすーちゃんって誰ぞ!?
私は和元月香さんです!
あんま期待はしてなかったけど!!」

真顔で勢いよくツッコミをいれた。
会うのは三度目、やはり全く覚えられていない。

宵町彼岸 >   
「あ、えと、部活?入れって言われた…?
 そしたらお勧めされた……です?」

何故か疑問形の語尾で自信なさげ。
研究以外で気になっている事と言えば周知されている事は
絵画や芸術好きだということくらい。
研究室の他研究員等に
『部活始めるまで研究室に入れない』と
半ば脅される形で追い出されてしまって……
その際に勧められたのがここだった。

「あぁ……うん、わかったー。
 あの人だぁ。うんうん、思い出したよぉ
 変なとこで会ったけどぉ……そのあとだいじょぶぅ?」

初めてふにゃりと笑顔を浮かべる。
忘れてたわけではなかったりもするけれど
説明が面倒なのであまり説明する事は無かったりもする。

「えと……カナタ。
 ヨキ……先生?美術の……あの壁の絵のヒト?」

いつもの吹き抜け具合はどこへやら
完全に人見知りの強い控えめな学生そのものだった。

ヨキ > 「おいおい、大丈夫かね。
 ヨキの講義を取ろうものなら、毎回こんな調子だぞ。
 これしきのことでふにゃふにゃになられては、取れる単位も取れなくなってしまう。

 安心するがよい。アゲるところはアゲて、オトすところはきちんとオトすのがヨキだ。
 今日は照れると思えば、次の講評会ではヒイヒイ泣かされているやも知れんぞ」

意地悪そうな顔を作ってにやりと笑むが、次に喋り出すと元の顔に戻っている。

「はは、和元君ほど明るい娘を覚えていないとは、こちらの君もなかなかの大人物だな」

彼岸の言葉に頷いて、軽く会釈する。

「そう。本職は金工……金属でものを作る方だがね。
 絵も描くし、木も彫る。粘土も捏ねたりする。やりたいことは何でもやっておきたい性質でね。

 部活……ああ、なるほど。美術部か。
 ヨキは顧問ではないのでな、たまに顔を出す程度なのだが……
 部員はなかなかの粒揃いだぞ。

 和元君は絵を描くことに興味があるそうだが、君もそうなのかね?」

和元月香 > 「…っ、慣れたら大丈夫だと信じたいです…。
すみません、誉められた事あんま無いんでね…。

あとそれ安心できねぇやつです」

慣れるのが早いのが月香の特徴だ。
あと、いくらヨキが怖いと言えど折れない自信は実はある。
満面の笑顔で、いやいやとちょっとおどけたように手を振る余裕はあった。

「…マジで忘れられてたんか。
私は忘れようにも忘れられんかったのに…」

ふっ、と一瞬哀愁漂う遠い目をした月香は
すぐ表情を変えてけろりとした顔で笑い掛けた。

「おかげさまで大丈夫よー。治癒魔術も覚えたしね。
にしてもちょっと意外だね、美術好きなの?」

宵町彼岸 >   
「製図は……書ける?コピーも、得意?
 きれ―なの見るのは好き、
 描くの、とか他は……わかんないで、す」

異なる言葉で投げかけられた二つの問いに疑問符を浮かべ
首を傾げながらぽつりとつぶやくように口にする。
下手をすれば見る専門。
最も彼女のセンスはよくわからないと称されることが多い。
視覚情報以上に……別の物を読み取ってしまうから。

「好きかは、わかんない、ですけど
 興味あんまり……無いから」

誤解されかねない表現をたどたどしく呟いて……

「顔、区別できない、から、ごめんね?」

悪気はないと申し訳なさそうに告げながら少しだけ下を向く。

ヨキ > 「そうかそうか。ふふ、それなら君の人生、後にも先にもないほど褒めて育ててやろう」

月香の異能を知らずしての言葉は、暢気にも響く。
“忘れようにも忘れられんかった”の台詞に、皮肉にも興味を引かれた顔をした。

「へえ?そんなに衝撃的な出会いだったのかい、和元君と――カナタ君は?」

彼岸がぽつぽつと話す言葉にも、慣れた調子で答えを返す。

「ああ、製図とコピーか。
 こう……目で見たものを、そのまま紙に写すとか、そういう類のものかな。

 あるいは『描くための勉強』よりも、『観るための勉強』も楽しいやも知れんぞ。
 例えば……君の言う『きれーなの』、つまり『美しさとは何か』というようなことをね」

顔を区別出来ないという話に、しばし考え込む。

「……ふむ?なるほど、それなら」

言って、教壇に置いていた書類のファイルをぺらぺらと捲る。
取り出したのは、常世学園のパンフレットだ。
中の一ページをさっさと切り抜くと、ボールペンで何事か書き付け、彼岸へ差し出す。

「構わん。たとえ覚えられずとも、残るものはあろう」

それは教師を紹介したページのうち、ヨキの名前や担当科目、簡単な経歴を記した部分の小さな切り抜きだった。
自らの顔写真を大きくマルで囲い――さらには現在の日付と時刻まで記されている。「2XXX.4.16 18:20PM」。

「ついでに、電話番号とメールアドレスも付けた方が良かったかな」

にこやかな笑み。

和元月香 > 「それはしにますまじで」

真顔でそう言う。
赤くもなっていない顔で言うと説得力が無いだろうが、
実際月香は内心死ぬほど照れていた。

「出逢いも衝撃でしたけど…二回目…。
ふふっ、何でもないです…うぅ…」
(あの時思い出すと本当に死にたくなる…。
くっそ私馬鹿くっそ!!)

不意に笑みを漏らし、無言で顔を両手で覆った。
路地裏で自傷行為()など黒歴史確定である。

そして、カナタの態度に月香は違和感を感じた。
しおらしいというか、おとなしいというか。
意外と大人には人見知り発動するタイプの人間なのだろうか。

(…ちょっと意外)

ヨキと会話するカナタをじっと眺めていたが、
まさか謝られるとは思わず慌てて声を掛けた。

「いや、気にしないでね!?私は大丈夫だしね!?
 
…よし、私もやりますそれ!」

そしてヨキの真似をして、スクバからノートを引っ張り出し
ページの端を引きちぎると、簡単な似顔絵と連絡先と名前と日付を書いた。

そして少しぞんざいに渡す。

「ん。できれば覚えてほしいしね!」

関わりたくは無いが、
何故か放っておけない気がしたのだ。

宵町彼岸 >   
「そなの……?
 そんなに衝撃的……だったかなぁ?」

小首を傾げながらぽつりとつぶやく。
何だか本人曰くてれたりしてるらしい。人の表情はあまり区別がつかないし……
何処まで本気だろう?全部本気だろうか?
その時の自分は何をしたんだっけ?思い出せないし大したことではないはず。

「ボク、見るための勉強……観察と、分析は得意、です
 実験とか……そいうこと、しかうまく出来ない、ですけど
 でも、絵とか、そいうのは駄目かも、です」

服を着るのも忘れるほどだったりするのだから
普段の生活が若干破たん気味で、それが芸術を騙るというのは人によっては
たわごとのような何かに聞こえるかもしれない。
普段人の考えなど気にしないはずなのにそう思うと何故か小声になっていく。
いや……誰か、などという曖昧なものではなくて、それはきっと……
"特定の誰か"にそう拒絶されたくないという思いがあるから。
……その誰かが誰なのかまではまだ彼女自身認識できていない。

「……ん」

パンフレットを破られたページを受け取ると目を通し……
頷くと二つ折りにして丁寧にしまう。
名前や切っ掛けがあれば逆に事細かい事まで思い出す事が出来る。
場合によっては本人が忘れてしまっているようなそんな些細な事も。
何度忘れてしまっても意外と人望があるのは彼女が故意に忘れているわけではないと
周りに伝わっているからかもしれない。

「ん。覚えた、よぉ
 だから、どこかで会ったら……名前、教えてくれると嬉しい、な
 ちゃんと思い出す、から」

そう告げるとカクリと人形のような動きで礼をする。
半分は目の前の少女に、半分は初めましての講師に向けて。
以前彼が書いた絵を見たことがあったみたいで……
その時、どうやら静かに泣いていたらしい。
だから……ここに行けと、資料を渡され研究室を追い出された。
新しい年度になって、その世界へ踏み出せと。
周りの誰も彼女の世界を知る者はいないけれど……
それでも其処か欠落しているような印象は伝わってしまっているのだろう。

ヨキ > ほほう、と、悪戯っぽい半眼で月香を見る。
ならば殺してやろう、とでも言わんばかりの眼差しだ。

「その様子からすると……カナタ君ではなく、君の方が『やらかした側』かな。
 どうやらカナタ君は覚えていないようだし、命拾いしたのではないかね?」

部外者の無責任さで笑い掛ける。

「お。それでは、和元君もヨキと連絡先を交換しておくか。
 これから授業を共にする仲となるのだし?

 和元君の方こそ、そう簡単には忘れられんような学園生活にしてやろう」

言うが早いか、まっさらなメモの一枚に連絡先を書き付けてゆく。
二つ折りにして月香に気障っぽく差し出す仕草が、だいぶチャラい。どう見ても慣れている。

彼岸へ振り返り、何でもないことのように言葉を続ける。

「何も、ものを描いたり作ったりすることだけが美術の勉強ではないからね。
 作品を観察することも、分析することも、みんなその中に含まれるのさ。
 飾ったり、並べたり、直したり、これは良いと思える作品を広く世に知らしめることもね。

 世の中で見聞きした物事に、芸術に繋がらぬことはないよ。
 芸術で食べてゆくのは至難の業だが、これまでやってきたことを芸術に役立てるのは非常に簡単だ」

肩を竦める。

「何しろ、『この常世学園』で長いこと教えてきたのでね。
 どんな学生だって、ヨキの可愛い教え子さ」

大らかに笑うと、時計を見遣って一息。

「――さて、ヨキはそろそろ職員室へ戻らねばな。
 和元君は、次の講義からよろしく。

 カナタ君の方にも、何度だって挨拶してやるさ。
 向こうの廊下に、去年の学生らの作品が並べてあるから見てゆくといい。

 何かやりたいことが見つかったら、いつでも連絡してくれたまえ」

ひらりと手を振り、教室を後にする。

ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。
和元月香 > 「私にとってはね~…あばばばば」

混乱したのか、意味不明の言語を口走り始めた。
完全に意識が宇宙の彼方に行ったような目をしている。

「……ハイ、命拾いしました」

そして今回ばかりは覚えてくれてなくて良かった、と
少しほっとしたように胸を撫で下ろす。

そして、ヨキからの連絡先が書かれたは
「ふっはどうも」と何やら微妙な顔をして受け取った。

(手慣れてる。チャラい。
どうも苦手なタイプだけど、先生なら大丈夫かね)

「…しゃーない。
何度でも言ってあげるよ、カナタ。
お互い色々あるし、しゃーないよね」

そしてカナタに、少し大人びたニヒル笑みを向けた。
…真逆なのに、ある意味では似ていると感じる彼女。
これから否応無く関わる機会はあるはずだ。

(しゃーない、しゃーない)
あっさりと、そう二言で済ませた。

「じゃ、これからよろしくお願いします」

そして教室を出ていくヨキには、軽く会釈をするだろう。

宵町彼岸 >   

「……やらかした?」

何か困るようなことがあっただろうか?
ちょっと趣味が特殊というか自分で怪我をするような特殊性癖以外は
何か知られて困るようなこと……ああ、例の体質の事は隠してるんだっけ。
体質というより経歴だけれど。けれど……

「あ、えと」

続く講師の動きに何故かずきりとした何かを感じる。
それはあまり感じた事のない良くわからない感覚。
何に対してなのか、なぜなのか、今の彼女にはわからない。

「……はぃ」

そうして投げかけられた言葉にふにゃりと困ったような笑みを浮かべた。
本人は忘れてしまっているが、普段無頓着なはずの服装も今はとても綺麗に整えられ
さながら芸術品そのもののように飾り付けられている。
それは……彼女の周りの人々がそうするようにと働きかけたから。
何故そんな事をさせられるのか……あまり理解は出来ていない。
けれど、それは本人が思っている以上に特別な何か。

「また、来ます、ね。
 さよーなら、ですよぅ」

短く告げると再びぎこちない礼を一つ。
そうしてくるりとかかとを返すとその場から歩き去って……

和元月香 > 「…いや、大丈夫。心配すんな!」

心配するしかない言動をしながら、そう胸を張る。
取り繕うのは得意ではない。

(…はぁ、本当に難儀なもんだ)

再びカナタへ視線を戻し、軽く溜め息をつく。
自分を棚上げするようだが、もう少し楽に生きられないのだろうか?

「(…調べてみるか)
じゃあ私も行くわ、ばいばいカナタ」

人なつっこい笑みの下でそう淡々と考えてから、
カナタとは違うドアから教室を出ていく。

ご案内:「教室」から和元月香さんが去りました。
ご案内:「教室」から宵町彼岸さんが去りました。
ご案内:「屋上」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > 日曜日――時刻は夜。何とはなしに学園に気紛れで足を運び、やって来たのは屋上。
平日の昼休みなどは、ここで食事を取る学生の姿などもあり、煩わしくてあまり足を運んで居なかったが…。

(…ま、休日の夜ともなれば、そりゃ俺みてーな物好きしか足を運ぶこたぁねーわな…)

屋上へと出てくれば、周囲をザッとサングラス越しに見渡して人気が無いのを確認。
心の中で独りごちつつ、黒いアメスピの箱を取り出して中身を一本口に咥える。
そのまま、魔術―ではなく、ジッポライターを取り出して火を点ける。
ライターで最近は煙草を吸うのが何となく良い、という事に気付いた。
手早くやるなら今までと同じく魔術で点火すればいいだろう。…が、こっちの方が喫煙という感じがする。

ちょっとした公園のような造りとなっている屋上。特にその造りに興味を示すことは無く。
屋上からの景色でも眺めてやろうとフェンスの方まで気だるそうな足取りで歩いて行こう。

黒龍 > 「……やっぱ大時計塔に比べたら迫力とか見通しは落ちるわな」

基本的に学生街よりも落第街や異邦人街辺りが性に合うタイプだ。
学生街方面で数少ないお気に入りの場所の一つが大時計塔。基本生徒立ち入り禁止とかそれはそれ。
そこからの眺めに慣れ切ってしまっていえる上に、飛ぼうと思えば気軽に飛んでもっと高所からの景色も見れる。

どのみち、何かに感動する、といった感情や感覚は遠い昔に置き去りにしてしまった気がする。

「……感情が死んでるって訳でもねーんだがな…」

長生きの弊害というものかもしれない。溜息混じりに煙草の紫煙をゆっくりと吐き出して。
最近は地味に考える事も多く、基本シンプルを好む男には面倒ばかりだ。

(……慢性的な退屈よりは厄介事に関わる方が退屈はしねーんだろうけど)

咥え煙草をしたまま、ヒョイッと跳躍してフェンスの上に着地。絶妙なバランス感覚でフェンスの上に仁王立ち。
そのまま、ボケーッと景色を眺めながら物思いに少々耽る。