2016/06/14 のログ
ご案内:「屋上」に六道 凛さんが現れました。
六道 凛 > キャンパスを置く。
そして絵を描く。ただただ、何も考えず。
何も”のせず”。ただの背景。構図はできてる。
タッチは繊細だし。絵としてはなかなかのものだろう。
だが、ただのガラクタだ――……
ただ書いて、破って。捨てた。

リアリティのない、背景に。
どんな価値があるのだろう。


感覚が、昔に回帰してるように思えた

ご案内:「屋上」に鞍吹 朔さんが現れました。
鞍吹 朔 > 「………。」

時計塔への出入りは禁じられてしまった。だが、考え事をするには高い場所のほうが落ち着く。
そう思って、最近は屋上に立ち入ることが多くなった朔であったが……
今日は、先約が居たようだ。

「………。」

何も言わず、気にしていない様子でその隣に座り、買ってきた食パンを食べ始める。
何も付けず、何も乗せず、それ以前に何もしない生の食パン。
朔は食にひたすら無頓着であった。

六道 凛 >  
――屋上に、入居者を確認。

ネットワークは、今やどこにでも存在する。
機器がなくとも、世界を見渡すことは”電子”があれば可能だし。
そういったものに適応した人間は沢山出てくる。美術屋――六道凛も、そうだった。

食パンを食べている姿は。関心のない、表情。
美味しいとか、そういうことではなく。
ただただ。必要な行為だからしているといわんばかりの姿。

たまには人物画を書こうかと、そちらを見ることなく。
キャンバスに刻んでいく。

多分、破り捨てることになるだろうけれど――

かりかりと、鉛筆の音が響く

鞍吹 朔 > 「………。」

チラリと目線だけを飛ばし、隣の人物の様子を窺う。
何を描いているのだろうか。視線は感じないから、風景画だろうか。
辺りの破り捨てられたキャンパスを見るに、スランプだろうか。

「………。」

だからといって何をするというわけでもない。声をかければ邪魔になるだろうし、面倒だ。
興味が無いわけではないが、別に声をかける程でもない。
さっさと食パンを食べ終わると、鞄から文庫本を取り出して読み始めた。

朔の表情は無に近かった。
何を考えているのかも分からないし、何を感じているのかも分からない。
そんな、泥沼の底のように虚無的な表情だった。

六道 凛 >  
表情はない。
では、なぜないのか。というのを考える必要がある。
無いのは、知らない。もしくは、押し殺している。のどちらか。
いや、それともそういうものを植え付けられたからかもしれない
表現の仕方を知らないのか、それとも”そういうように教育されたのか”、もしくはそういう生き方しかできないのか。
表情を作れない何かがあったか――
どれもないまぜにしても、意味がない。
どれかが、必ず真に迫る背景だと、そう凛――いいや、美術屋は考える。
ペンを走らせる。人を題材にしたものを書くのは久々だった。

――絶望

それを感じる、圧倒的な虚無。おぞましさ。おぞましさ?

いいや、違う、これは。
しぐさ、独特な雰囲気――
そこから、読み取れるものを書いていく

鞍吹 朔 > 「………あの。」

口を開いた。唐突といえば唐突だったかもしれない。
全く表情を変えず、眼鏡の下の右目に眼帯をつけた顔をくるりと向け、声を投げかけた。
普通だった。所作も普通。声も普通。顔もそこそこ。
全てが不自然なほどに普通を突き詰めたように、普通な顔だった。

「何を描いてるんですか?」

先程から、視線を感じていた。
というより、気配だろうか。何かに観察されているような、そんな気配がした。
相変わらず表情は浮かびも沈みもしない。

眼帯に隠れていない左目は、奇妙なほど黒く濁っている。
光を全て吸収しているのではないかと思うほど、底無しに黒い瞳。

六道 凛 >  
ふつう。そう、普通。
普通を”演じている”。それがよくわかる。
現実迫る演技も、演技のような現実も、一番間近な場所で見てきた。

だから――普通すぎるは、演技。
本当は、普通じゃないことを隠すためか。それとも――
そうありたいと包み込むためか……
どちらにせよ……

「背景」

告げて――

「……何か、”恐い”?」

投げかける言葉は、背景の現実味を出すための”感情―ざいりょう―”を引き出すための

鞍吹 朔 > 「……ええ、質問を質問で返してくる話の通じない人物が怖いですね。」

話を無視されたことに動じる様子もなく、毒を吐きかける。
動じないようにしているのか、動じていないのか……。

「先程からこちらを見られているような気がするんですが、貴方ですか?」

直球に疑問をぶつける。辺りには誰も居ない。
見ているとしたら、隣で筆を握るこの人物以外はありえない。
あるいは、鷹の目を持つ人物が朔には見えないところから一方的に観察しているか、そのどちらか。

「何が怖いか貴方に教えて、何がどうなるんですか。」

六道 凛 >  
「背景って答えたよ」

書いているのは背景だ。間違いじゃない。

「そっちを向いてないのに、どうやって見るのさ。誰かに見られてる、っていう自覚でもあるのかな? 監視されているようなことをしてしまった?」

自分の世界を知る人間はそういない。
直観は正しいが。でも――それを教えて濃くなる”リアル”はまだない。

「現実味――リアリティが増すよ、背景の」

さらさらと、描く。筆が止まる様子はない

鞍吹 朔 > 「………。」

自覚は、ある。
単なる勘なのか、揺さぶりをかけているのか分からないが、監視される覚えはある。
数を覚え切れないほどに覚えがあるのだ、表情は変わらずとも揺さぶられる。

絵師が言うことももっともだ。しかし、完全なNOという理由にはなるまい。
『見ていない』とは一言も言っていないのだ。そういう異能を持っているという可能性は捨てきれない。
何のため?監視?単純に観察?絵を描くためだけに?

「………そうですか。」

その筆の動きを目で追う。

六道 凛 >  
「――……」

そのまま描く。見ていても別に支障はない。
描いているのは、屋上で。空を見上げる翼の折れた、獣人。
モチーフは、”視ていた少女”
しかし、それが自分をもとに描かれている絵だと気づけるだろうか。

出来上がっている姿を見れば。にじみ出る感情が現実味を増していく。
悲壮感、羨望、絶望、期待、諦観、憎悪、愛情、憐憫――

ないまぜになった、らしい感情が。絵から伝わる

鞍吹 朔 > 「………。」

ゾクリと、背筋に怖気が走った。顔にこそ出さないが、背筋に一滴汗が伝う。
この絵は一体何だ。一体、これは。
この絵には、この絵は、これは、私の、私が。私の中の『私』が。押し殺した感情が。
脳から引きずり出されて筆で混ぜられたかのように、感情が色となってキャンパスを這い回る。

「………………。」

ゆっくりと目を離す。目を離さなければいけなかった。いけない気がした。
擦り切れた感情に塩を塗られた気分だった。
人の機微に従った『複雑』なものではない、言わば感情の『原色』が、逆に朔には刺激が強すぎた。

六道 凛 >  
「……”見たい”と、思っちゃった?」

くすりと、哂った気がした。少年なのか、少女なのか。
横顔と、声からは判別がつかない。ただ制服は男物。

目をそらした。ということは伝わるものがあったということ。
でも、まだ、全然足りない。こんなもんじゃない。
背景には、まだ、なりえない。

「――リアルは、ままならないね」

鞍吹 朔 > 「………いいえ。」

相も変わらず無表情に、本に視線を落とす。
奇妙なほど中性的なその声に、とりあえず程度に耳を傾ける。

ふぅ、と息を吐いて一旦心を鎮める。
沈める、でもいい。停滞と無感情の沼の中に、心を放り込んで沈める。
色も光もない暗黒のズブ泥に塗れて、心の動きを鈍らせる。

「そうですね。」

声は、冷静に。この人間に感情を気取られては、何が起きるか分かったものではない。

六道 凛 >  
あぁ、なんだ……

「きみって、人間らしいね」

実にうらやましそうに、告げた。
あぁそれほど、人間らしければ。あんな演技もできただろう。
そうしたら自分も彼らのところに行けただろう。
そんな風に思いながら――

   書いていた絵を、破って捨てた。

「”全然だめだ”」

そう告げて。キャンバスをたたんでいく。

鞍吹 朔 > 「………。」

ぎろりと、目線を向けた。
その左目には、奇妙な感情が浮かんでいた。喜怒哀楽、全てをごちゃ混ぜにしたような黒色。
その混沌の黒色が、敵意と殺意を乗せて鋭く睨む。

「人間らしい?……観察眼は落第点みたいですね。」

人間扱いされる筋合いはない。私はもっと卑しい存在なのだ。
人間と一緒にしないで欲しい。私は……

「………それはよかった。」

破り捨てられた絵には目もくれず、再び目線を本へと戻した。

六道 凛 >  
「いいや、人間だよ。だって、そんなに感情を表現できる。ねぇ、知ってる?」

――What a piece of work is a man……

告げた言葉は、流れるように。歌うように。

「人間は、傑作なんだよ」

そう、人間は傑作だ。
だが、作品になれてない自分は、駄作だ。
あぁなんて――

「すごくすごく、きみがうらやましいよ」

そのまなざしに。泣きそうな顔で告げて。

「よかったの? ひどい」

鞍吹 朔 > 「…………。人の内情にズケズケ入ってこないで。」

口調が変わる。目から殺意が、黒く濁った殺意が溢れる。

「人は傑作だけど、そうじゃない『もの』も居る。私や貴方みたいに。
 人間にも、獣にもなりきれない半端者よ。」

人間は傑作だ。その傑作を守るためなら、何にでも、どうとでもなろう。
傑作を汚す色を拭き取る布でいい。悪意と殺意をその身で拭って、最期には人間自身に捨てられる。
それでいい。  それで構わないのだ。
作品になる価値すら無い存在は、この世には確かに存在する。

「傑作に泥を塗ったのは、他でもない本人なのよ。
 ……貴方も。」

私を描いたものでさえなければ、いい絵なのに。
そう思いつつ、また一つため息。

六道 凛 >  
「それは、仕方がないよ。だって、君が見たいと思ったから――相互合意、強制発動しちゃったんだもの」

僕のせいだけじゃないよ、と殺意を受けながら告げて。
聞きながら。

「ううん、違うよ。君は傑作だよ」

全力の肯定。なぜ? なぜ、肯定するのか。
それは――

「だって、キミ。半端な立場で全力でもがいてるじゃない」

自分のことは棚に上げて。いいや、”数に数えず”。
もがいている姿こそが、その証明だと賛辞する。

「どうだろう? ボクは間違いなく泥を塗ったよ。それをぬぐう気も”今”はない。でも――君は?」

――君は、本当にぬぐう気がない?

うっすらと、顔に刺青が浮かんでくる。
よく見れば手にも、首にも――
気分の高揚すれば出てきてしまう”傷跡”だ

鞍吹 朔 > 「………。何ですって?」

やはり異能者だったか。強制発動?見たいという感情をトリガーにする何か?
何が発動した?いつ?見たいと思った瞬間?何のために?先ほどの言葉は詠唱?
頭脳を回転させても、迷路の出口に辿り着くことはない。

「……………。
 藻掻くだけなら犬でも出来るわ。」

何を考えている?揺さぶりに来ている?何のため?『美術』のため?


なぜ、こんなに動揺してしまうのか?


「………拭えない。
 今更拭って、何になるのかしら。私の泥は、もうとっくに乾いてこびり付いてるのよ。
 もう遅い。なにもかも。」

本を閉じ、鞄に仕舞う。

六道 凛 >  
「ねぇ――」

ささやく。まるで男娼のように――
くすくす笑って、囁く。ちくたくちくたく――……

「どうして、そこまで認めたくないの? どうして、そんなにも、自分が嫌いなの?」

同意の上で発動してしまったものは、オフにするのは難しい。
だから、自分のことなんて気にしない。見たいと思うなら見せるのが、自分の信条だ。

「遅いと思ってるのは、きみだけだって、知ってる?」

ふわりと笑う。色香が濃くなる。あぁ、この感じは”近い”
かつてにすごく、近い。

「泥が乾いたら、剥がしやすくなるんだよ? そろそろ諦めたふりは、やめたら?」

きみは――

「だって、生きてるでしょ。生きてるんだから、諦めてないよね? キミは――”まだ”頑張れるよ」

だから、傑作になるの、諦めちゃだめだよー―?

そんな言葉を告げて、娼婦は誘うように後ろを向いた。
見える背中。いつでも襲える、殺すことも、もちろん犯すことも。

「Come, woo me, woo me, for now I am in a holiday humour, and like enough to consent. 」


ね、口説いて、口説いて。いまはお祭り気分なの、だから、なんでも許しちゃいそう……なんて、歌いながら。

さらす……

鞍吹 朔 > 「……ええ、嫌い。この世で一番嫌い。私は私が何よりも嫌い。
 いっそあの時に死ねばいいと思った。私が死ねば良かった。
 もうとっくに終わってるのよ。」

ぎり、と歯を鳴らした。初めて、感情が表へ滲んだ。
拳を握りしめる。普通に手入れされた爪が、異常な力で手に食い込み、皮膚を裂いた。

「………………。」

殺してやりたい。
目の前の背中を縦一文字に切り裂いて、頚椎を引き摺り出して。
目の前の人間の肉と血に塗れながら、自らの心をもう一度殺したい。
心の底から死にたいと感じた。心の底から殺したいと感じたのと同じ程度には。

「私は」

ぽつりと、紡ぐように声を絞り出す。



「私は 私という 人間は もう」

ぽたりと、白い屋上に赤色が落ちる。
握りしめた拳から、赤が感情のように滲み出す。

「私は」

それ以上は、出てこなかった。

六道 凛 >  
――胸が、とくんとなった。

あの時、死ねばいいのに? あぁ、それは自分も思った。
しねばよかった、死んだら一緒のところに行けた、死んだら――

「でも、死ぬのは、怖かったよね?」

ぽつり、出た言葉は。美術屋ではなくて――

「生きてるよ。君は生きてる」

殺すのならば――

「死ねなかったと悔やむ獣のほうが、死んだって考えるのも、いいんじゃない? 生きていてよかったと思う人間が、生きていたって考えるのも、いいんじゃない?」

自嘲気味に。あぁ、そういうことか。
見たいと思ったのは彼女だけじゃない。
そう、自分もまた――相互のうちに換算される。

「……抱きたくなったらいつでもどうぞ? さっきもうたったけど、そういう気分だから」

くすりと、振り返ることなく。屋上を後にしようと

鞍吹 朔 > 「…………。怖いわ。とても。
 でも、何もしないで命を無駄にするのはもっと怖い。私は、殺される価値のある命でありたい。」

無為に死んでは、自らを産み落とし命を落とした母に。自らを殺そうとし、殺された父に。
二人の命に、申し訳が立たない。

「……生きていてよかったと感じる人間は死んだ。死ねなかったと悔やむ獣は生まれなかった。
 それだけよ。……それだけ。」

そうだ。自分は間に挟まって止まっているだけだ。
それだけだ。価値も意味もない。意味を持ってはいけない。
ただひたすらに悪を殺すだけの嵐。刃。銃であればいい。

「……遠慮するわ、そういう趣味はないの。いい思い出もないし。」

丁重に断った。そして去りゆく背中から目を離し、別の本を取り出して読み始める。
手の血が本のカバーにべったりと付いて、嫌な顔をした。
日が傾き、赤い夕陽が目に染みる頃まで、その読書は続いたのだった。

六道 凛 >  
「そう――……」

そうやって言い聞かせて。彼女は生きていくのだろうか。
あぁ、その苦悩はきっと素晴らしい。
そのリアリティが、世界は舞台、皆役者だと実感させてくれるから。

「ありがとう」

もしかしたら、また会うかもねー―?

なんて告げて。
ばたんっと、扉はしまった。

ご案内:「屋上」から六道 凛さんが去りました。
ご案内:「屋上」から鞍吹 朔さんが去りました。