2016/07/30 のログ
ご案内:「禁書庫」にトゥールビヨンさんが現れました。
■トゥールビヨン > 禁書庫の書架の一部に、手が加えられた跡がある。
「……はん」
数十冊の魔術書が意図的に並べ替えられ、書名の頭文字が呪文の一節を記していた。
司書トゥールビヨンが、片眉を上げて鼻を鳴らす。
「どれだけ訳知り顔でこいつを仕出かしたが知らないが――」
嘲って、はじめの一冊に手を伸ばす。
義肢の上腕と前腕を繋ぐ関節の歯車が音もなく回転し、
筋肉の代替としてのシリンダが収縮する。
五指が生身と寸分違わず滑らかに曲がり、人差し指を本の背に掛けた。
「ナンセンスだ」
今にも発動せんと小さく震える魔術書たちを、事もなげに書架から引き抜き、
ラベルに付された記号の通りに並べ直してゆく。
「誤配架滅すべし」
悪戯者の努力を無碍に踏み躙り、魔術書はたちまち元の通りに揃え直された。
ご案内:「禁書庫」に獅南蒼二さんが現れました。
■トゥールビヨン > 原著の言語、魔術体系、効果の区分、エトセトラ。
組織の方法はいくらでも細分化出来るし、この図書館と異なる分類も数多く見てきた。
だが、この常世学園の大図書館群においては、図書委員会が管理する分類法が絶対だ。
見た目にもラベルにも分類の通りに揃えられた書物の一群は、機能的にして美しい。
「全く、魔術書で遊ぶなどとは、余程の子どもか無謀者か」
林立する書架の間を、蹄に似て先細りしたシルエットの両脚が踏み締めてゆく。
■獅南蒼二 > そんな勤勉な貴女の目に,一般的な書庫としてもありえない光景が目に入る。
それこそ,この禁書庫においてその光景は,見る者が見れば卒倒するレベルだろう。
「……………。」
禁書庫の奥,原初的な呪いや体系化された呪術を扱う魔導書…
…そして呪われた書籍等が納められた棚の前に立つ白衣の男。
彼はこの書庫の中においてもやや扱いに危険を伴う呪われた書籍をあろうことか一見無造作に床に積み上げ,
そしてその中の1冊を無防備にもぺらぺらとめくりながら煙草を吹かしている。
よく見れば魔術的な結界や封印は完璧だし,煙草の匂いは全くしないし,
きっといろいろと対策しているのだろう。
けれど,パッと見は,なんていうか,司書さんへの挑戦状って感じにさえ見える状況である。
■トゥールビヨン > 肩口から垂らした髪を揺らし、一度立ち止まる。
黙っていれば形のよい吊り目が、鋭く細められた。
腰に手を当て、しばし相手を無言で睨み付ける。
けれどその体勢から微動だにしないのならば(きっとしないんだろう)、
トゥールビヨンは速足で獅南の下へつかつかと歩み寄った。
「獅南先生」
相手の視界を遮るように、鉄の義肢を突き出す。
指先が、あろうことか煙草を引っ手繰ろうとする。無機の四肢ならではの荒業だ。
灰を下へ落とさんとする配慮も忘れない。
「……先生はここのヘビーユーザーと伺ってますけれど、
一から十まで申し上げなければなりませんの?」
にっこりと笑う。
■獅南蒼二 > 獅南はきっと,いや,間違いなく貴女に気付いていたはずだ。
けれど,そこから動くことも読書を中断することも,
それこそ伸ばされる義手を避けるようなこともしない。
一切の抵抗は無く,煙草は貴女の義手の中へ。
それが義手ではなく生身の手のひらだったとしても,火はおろか,一切の熱を感知することはできないだろう。
無駄な魔力の使い方をしているととらえるか,その緻密な魔術の行使を称賛するかは見る者の自由だ。
「勤勉な司書殿がご着任されたと,噂は聞いているよ。
……なに,私も教師の端くれだ,一を聞けば十理解できる自負はある。
だから,できれば手短にお願いしたいところだな?」
小さく肩をすくめてから,手にしていた本を閉じて…瞬時に防護術式で封印した。
それを,重ねてある本の上に乗せ,貴女のほうへと視線を向けた。
■トゥールビヨン > 煙草の火を、指先で揉み消す。
その熱の有無を感じていたかどうか、表情に変化はない。
本の山に新たな一冊が積まれる様子を一瞥して、相手の目を見遣る。
「手短に。良いでしょう。
館内は禁煙です。貴重な資料を通路に積み上げるなど言語道断です。
それから一度に手に取られる分量は、他の閲覧者のことをご一考くださるように」
早口で淀みなく言い切って、以上です、と肩を竦める。
「……あたしだってね、獅南先生。口煩いと思われるのは御免ですよ。
だけど図書館は『平等』が旗印ですんでね。
そもそも、何だって教師相手に注意しなくちゃならないんです」
堅苦しい注意に続く口調は、些かフランクに緩んだ。
そちらの方が、司書本人の言葉遣いに近いものなのだろう。
「勤勉でいらっしゃるのは、大変に結構ですけれどもね」
■獅南蒼二 > 実に明確で分かりやすい。と肩をすくめてから,
「第一に,今アンタがもみ消した煙草は魔力の炎で制御してある。
本に押し付けても焦げ目すらつかないし,煙草の匂いも無いだろう?
第二に,積み上げたすべてに防護魔法をかけてある。貴重な資料に傷一つ付けはしない。
第三に,他に閲覧者が居るのなら配慮しよう…だが,ここにいるのは私とアンタだけだ。そもそも禁書庫に閲覧者が溢れるようでは,世界が滅んでしまうだろう?」
口調を真似たわけではないが,普段よりも幾分か堅苦しい言い方を選んだ。
そこまで言い切ってから,積み重ねた本の最上段のものを,書架に戻しつつ…
「口煩いだなどとは思わんよ……勤勉なのは大変に結構なことだ。
それに,アンタの義手の魔術制御からも,アンタが優れた魔術師なのだとすぐにわかる。
だが,生じる困難を解決する力や状況を捨ててまで,全てを型に嵌めることが『平等』というのは暴論ではないかな。」
「私の信じる魔術学というのは,不可能を可能にする学問なのだからな。」
そこまで言ってから,積み上げた本を見て…
「……もっともこれはやり過ぎたな。周りが見えなくなるのは私の悪い癖だ。」
…肩をすくめ,苦笑した。本を1冊ずつ書架に戻していこう。
■トゥールビヨン > 呆れたように、後頭部の髪を柔く掻く。
「……あたしはあなたの魔術の腕を信用しますがね、それとこれとは話は別ですよ。
どんなに有能な魔術師だって、不慮の事故は起こり得るもんです。
それに、喫煙しながら本を読んだり、床に本を積み上げる姿を、
第三者に見せる訳にはならないんです。
『有能でない』利用者に、いつ真似されるともしれないですからね。
だからあたしたちは、頭でっかちと言われようが平等で居なくちゃならない。
たとえ相手が常連でも格上でも、ルールは守ってもらわにゃなりません。
配慮も敬意もない猿真似は、あなただって本意ではないでしょう」
ぱたりと両腕を下ろす。
見ればその四肢は、肩口や足の付け根とは一切接続されていない。
まるで義肢や胴体が、宙に浮かんでいるかのようにも見える。
「それに、すべての書物には、すべての読者が在るもんなんです。
いつ読者が現われるか、あたしたちにだって予測が付かないんですよ」
笑いながら、獅南が本を書架に戻す様子を見守る。
「それにしたって、呪術ですか。…………。
休講の間に、鞍替えでもされました?」
尋ねる前に周囲に人気がないことを確認したのは、無論『読書の秘密』を守るためだ。