2016/07/31 のログ
獅南蒼二 > どうやらこの男は,貴女を試したようだった。
貴女が型に嵌めるだけでない注意の意図を語れば,小さく肩をすくめてから笑みを浮かべる。

「この学校の人事もたまにはいい仕事をする……立派な司書殿だ。」
 まいったよ,アンタが正しい,言う通りにしよう。」

降参とばかり両手を上げてから,分類通りに書架にすべての本を戻す。
いや,分類番号を確認している様子はない。
だがその動作は自然で…どれがどこにあるのか,覚えているかのようでさえあった。

「いや,呪術は広義には魔術額の1系統に過ぎん。
 授業で扱う気にはなれんが…呪いについて魔術学的に分析してみたくなってな。」

貴女が周囲の様子まで確認してから尋ねてきた徹底ぶりも,好感がもてるものだった。
だからこそ,

「…で,私はアンタのことを何も知らんが,その義手のデザインはもう少しどうにかならんのか?
 呪いの本よりも呪いを纏っていそうなフォルムじゃないか。」

ズバズバ言ってしまう。冗談半分,本気半分。

トゥールビヨン > 「……生憎と、あたしは司書しか務められない人種でしてね。
 新入り相手の『洗礼』には、もうすっかり慣れておりますとも。
 売り言葉に買い言葉で、失礼しました」

両手を合わせて笑い返す。
彼が本を戻す様子は、はじめにその手付きを見たきりで注視することはしなかった。
それこそ“ヘビーユーザー”たる相手を信用してのことだろう。

「へえ……呪いを分析。
 先生の授業はとても理論的だそうですが、そんなものまで解き明かす糸口がおありと?

 いいですね。あたしも書物をピンからキリまで分類して整理して並べるのが仕事とあっては、
 是非とも応援しなくちゃなりません」

義肢についての指摘には、平然と両手を広げる。
骨格の曲線とシリンダの直線が作るフォルムは、まるで天秤のアームのようでもあった。

「デザインですか?さあ……、あたしはもうすっかりこれに慣れちゃったもので。
 でもこれだけ物々しければ、どんな検閲者にだって立ち向かえそうに見えるでしょう」

一転して、こちらは本気で言っていそうな調子だ。

獅南蒼二 > 「私が魔術学者としてしか生きられないのと変わらんな。
 こちらも試すような真似をしてすまなかった…
 …アンタが来てから,雑然としていた禁書庫の様子もだいぶ変わったよ。」

奇妙な信頼を向けられていることになど気づくはずもない。
そして実際に,この男は概ね,この禁書庫の主だった蔵書とその配置を記憶しているのだった。

「非常につまらない言い方をしてしまえば“対象に遅効性もしくは継続性の影響を与える術式”でしかない。
 恨みや怨念などというマイナスの生体エネルギーを活用する点や,指向性の持たせ方は特殊だが。
 糸口はどこにでもあるさ…この世で,もしくは異世界で行われた呪いの記録がこうしていくらでもあるのだから。

 ……なら,そんな司書殿に聞きたいのだが,“術者が死んだ後に効果を発揮するような呪術”の事例集は,どこかに無いか?」

非常にピンポイントな検索条件。
ヘビーユーザーの脳内にもその書籍はインプットされていないようだ。

「ははは,確かにその通りだな,アンタに立ち向かえるような男はそうそう居ないだろうさ。
 ……非常に精工に作られているし,制御も素晴らしい。私も四肢を失ったら真似したいくらいだ。」

トゥールビヨン > 「図書館は箱モノですが、生モノでもありますんでね。
 手を入れなきゃ枯れちまうのは同じです。

 それに、あたしたち図書館員はチームプレイですから。
 司書も図書委員も、十分な数が居なくっちゃ」

呪術に関する説明に聞き入って、腕を組む。
腕一本で動く分には無音だが、やはり重ね合わせればごつりと重い音がした。

「ははあ、術者が死んだ後に……。そりゃピンポイントですねえ。
 だけど呪術としちゃ、案外珍しくはない話かもしれません。

 お札に、触媒、魔法円。
 術者から発動元をスイッチさせるのは、理屈では不可能じゃあない。
 効果を持続させるには、よほど強いパワーソースが必要になるでしょうが」

つらつらと話しながら、備え付けの梯子で高い書架の上部まで登ってゆく。
呪術に関する書物の中でも、その歴史的な内容を扱った本をいくつか手に取る。

「直截的な理論ではなく、事例をお調べですか?
 お探しの内容と、どれだけ符合するかは判りませんが……」

分厚い本を小脇に抱えて、梯子からとんかとんかと降りてくる。

「『死』を起点とする呪術について、包括的に実例をまとめた本がいくつかありますよ。

 あとは魔術学そのものではなく、民俗学、宗教、あるいはルポルタージュ……
 他の分野の棚もご覧いただくと、参考になる本が見つかる可能性もあります」

抱えた本を両手に持ち直し、丁重に差し出す。

「……それに、本を扱うのって力仕事なんですよ、こんな風に。
 鉄の両手足なら、どれだけ酷使したってへいちゃらです」

くすくすと小首を傾げる。

「あたしは生身の手足が生えていたことがないので、
 先生には末永く五体満足でいらしていただきたいところですね」

獅南蒼二 > 「あぁ…人手が必要なら言うといい。
 うちの魔術学生にはこの部屋にはいれるならどんな仕事でもするような馬鹿も居るからな。」

確かに,魔術を志すものにとってここは,1つの目標となる部屋だろう。
獅南にとってはホームグラウンドになりつつあるのだが。

「解呪されないことが前提になってしまうが,
 対象の生体エネルギーをパワーソースとすればえげつない呪術の出来上がりだ。」

楽しげに笑いつつも,迷いなく書籍を集める貴女を静かに見守る。
その言葉を聞きながら,なるほど民俗学や宗教とは盲点だった。などと頷きながら。

「……確かにこの芸当は,アンタの義手にしかできないな。
 怖がって男が寄り付かないだろうという点を除けば,実に洗練された義肢なのだな。」

そんな冗談を言いつつ,差し出された本を受け取った。
一冊一冊,その表紙を確認し,なるほど,と納得したように頷く。

「ありがとう…お陰でさらに研究を進めることができそうだ。
 ……アンタの過去を抉るような言葉になってしまうかもしれんが,魔術でその腕や足を“生やそう”と思ったことは無いのか?」

トゥールビヨン > 「有難いことです。
 図書館員が『ゆっくり本が読める穏やかな仕事』だというイメージは、
 積極的に打ち壊しに行かなくちゃなりませんので。
 学生さんには、どしどしお越しになっていただきたいもんですねえ」

冗句交じりに笑う。

「生体エネルギーを供給源に、ですか……成程。
 それなら相手が朽ち果てかねない限りは、文字どおりの永久機関という訳だ。

 解呪を困難にする、という芸当ならば、呪う行為そのものとは違った手管が要求されるでしょうし……。
 いやだ、獅南先生ったら、随分と辛辣なことをお調べでいらっしゃいますね」

どう致しまして、と応えながら、本の中身を見分する相手の顔をそれとなく見遣る。
表情のわずかな変化が、提供した回答の精度を示していた。

「ふふ。あたしは自分のこんな妙ちきりんな見た目だって、ものともしない殿方が好みでしてね」

銀色の唇を、にいと吊り上げる。

「そりゃあ、生やしてみようとは何遍も試みました。
 だけど産まれつき『生えている感覚』を知らないせいか、ろくすっぽ定着しないんですよ。

 あれこれ試しているうちに、機能だけを見るなら、この義肢がいちばん具合が良いと気付いちまった次第です」

獅南蒼二 > 「アンタがそのナリで宣伝すれば容易いだろうな。
 どこからどう見ても,穏やかな仕事には見えん。」

冗句には冗句で返す。尤も真理でもあるだろうけれど。

「安心してくれ給え,私の喫煙を邪魔する司書殿を呪い殺そうというわけではない。
 呪術師を相手にするときのためにも,呪術の全てを知っておきたいと思ってね。」

動機は非常に漠然としていて…ここまでして調べ上げるほどの切実な動機ではなかった。
弱点という最短の解を調べるのではなく,理論からすべてを明らかにする。それこそが,この獅南という男なのだろう。

「ははは,なるほど,そりゃ随分と大胆な好みだ。」

大げさに笑って見せ,それから“義肢”の理由には静かに頷いた。

「なるほど,不可能を可能にはしたが……それが最善ではなかった,ということか。
 非常に有意義な事例として記憶させてもらおう。
 ……ついでにその義肢の素敵なデザインのお陰で,アンタのことは二度と忘れられそうにないな。」

などと言いつつ,両手が本でふさがったまま,魔術でペンを浮かせて借用書を書く。借用書はふわふわと貴女の手元へ飛んでいくだろう。

「明日中には返却しに来る……またその時に。」

そうとだけ貴女に声をかけて,獅南は研究室へと向かっていった。
……どう見ても1日で読み切れる量ではないのだが,返しに来るというのだから,返しに来るのだろう。

トゥールビヨン > 「だからといって、志望者が減ってしまっても困りものですが。
 宣伝に本腰を入れるときには、若い女の子たちを矢面に立たせましょう」

どれだけの声量であれば相手に届くかを熟知した者の、落ち着いた声。

「魔術師と、呪術師の対決ですか。実現したら、さぞ見物でしょうねえ。

 それに、ご安心くださいな、あたしだって煙草くらい嗜みます。
 厳しいのは、この館内だけの話ですとも」

獅南の言葉に、ゆったりと目を細める。

「この姿かたちで心が引っ込み思案だったなら、むしろ驚いてくだすったかしら?

 どうぞあたしのことを、お気に召してやってくださいな。
 それにこの図書館は、あたしが居なくともどんな質問にだってお応え出来る、精鋭揃いですから」

書類を受け取って、たしかに頂戴いたしました、と丁重に手中へ収める。

「はい。またお待ちしておりますわ、獅南先生。
 お渡しした本に不足があれば、また何なりと」

去ってゆく獅南を見送る。
その後には再び梯子を昇って、隙間が空いた分の書架を黙々と整理するのだった。

ご案内:「禁書庫」からトゥールビヨンさんが去りました。
ご案内:「禁書庫」から獅南蒼二さんが去りました。