2016/10/22 のログ
ご案内:「休憩室」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 > 「……ふぅ」

勉強をして、1時間半。
集中できる、効率の良い時間。自分の集中の限界――

というわけでもないが。根詰めすぎないようにする目安のようなものだ。

手には温かい煎茶。
休息をしながらも、頭は休まらない。
考えることは――やはり多いから……

だからだろうか。
溜息が一つ。こぼれた

ご案内:「休憩室」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 貴方が溜息を零したのと,休憩室のドアが開くのはほとんど同時。
入ってきたのは白衣の男……研究者然としているが,魔術学の教師である。

貴方は好意的でない噂が多いこの男を知っているかもしれないし,
全く知らないかもしれないが,少なくとも一見して分かることは,えらく顔色が悪いということだ。
……獅南にとっては,それがいつも通りの姿なのだが。

「…おっと,先客がいたか。」

獅南はそう呟いて肩をすくめ,手にしていた煙草をポケットに戻す。
誰もいなければこっそり喫煙するつもりだったのかもしれない…。

伊都波 悠薇 >  
「あ、えっと……」

知ってはいる。単位を取る。それは、学生の仕事だ。
だからいろんな授業は目を通した。
魔術――縁のないものだと思って触れてこなかった分野だ。

今ではもう、きっと身につく可能性はみじんもない。
なにせ、姉はもう可能としているものだ。
なら、つかさどるものが真逆な自分には、手の届かない神秘――

「すみません、先生。邪魔――でしたか?」

苦笑しつつ、ぺこりと頭を下げた

獅南蒼二 > 視線を貴方に向ける…授業で見覚えのある生徒ではない。
膨大な数の生徒を1人1人把握するほど勤勉でない獅南だった。
だが,そんな貴方の言葉には首を軽く横に振って,

「いや,気にするな。
 お前が居なければ禁煙のルールを破るところだった。」

冗談とともに肩をすくめ,自販機でコーヒーを買った。
それから,適当にソファに腰を下ろす。
獅南がタブを開ければ,珈琲の微かな香りが,漂ってくることだろう。

「…私が言えたことではないが,随分と疲れた顔をしているな。
 試験期間でも無いだろうに,何か面倒な課題でも出されたか?」

いわゆる,おまいう。というやつである。
この無精ひげのオッサンこそ,最強に疲れ果てた顔をしているのだから。
いずれにせよ,気紛れか何か感ずるところあってか,獅南は貴方に声をかけた。

伊都波 悠薇 >  
「――喫煙、好きなんですか?」

ソファーの隅っこ。壁際。
そこを位置取る少女は、ゆっくりと壁に頭を預ける。
疲れる。まぁ疲れてはいる――
なにせ、身につかないとわかっているものを実行しているのだ。
それが、”自分”のためとはいえ。

自分は、姉とは違うし、なにより成果の実感はほかの誰よりも感じにくい。
だから――頑張らなきゃと思う反面。実感がない恐怖もまた、ある。
全くないというかつての恐怖よりは、はるかにましだが。

「物覚え、悪いんです。できの悪い、妹、ですから」

コーヒーのにおい。
大人のにおい。
豆の香りが鼻についたのか。それとも、のどが渇いたのか。
煎茶に口をつけて――

「先生こそ、どうしたんですか。こんな休憩室に来るなんて」

職員室で休むこともできるだろうに

獅南蒼二 > 「好きかと言われれば,あまり好きではない。
 のだが,集中し続けるにはこれが必要になってしまってな。」

あまり勧められたものではないよ。なんて苦笑する。
それから珈琲をぐっと飲み干して,小さく息を吐いた。

貴方の素振りからは…肉体的に疲労しているというよりかは,精神的に疲弊しているように見えた。
それもあったが,何より,貴方の言葉に…何か思うところあってか,獅南は肩をすくめて苦笑を浮かべ,

「なるほど,才能の差というものは確かにあるだろうし,私もよく分かる。
 だがそれを,努力と研鑽によって克服しようとしているのだろう?
 決意さえ揺るがなければ,それはやがて達せられる。早いか,遅いか,それだけの違いだ。」

そうとだけ言ってから,缶をテーブルの上に置き,

「私も,こう見えて魔術の才能がからっきしでな。お前の同じで疲れてしまっただけだ。
 ……それに,職員室というのはどうも居心地が悪くてな。」

あまりにも職員室を使わないものだから,獅南の机だけ埃をかぶっているとかなんとか。

伊都波 悠薇 >  
「ルーティン、みたいなものですか」

集中するには必要。
行為の一部。逆に言えばそれは――

「依存症ですか?」

ざくっと、直球だった。
今までなら”なにか”が言っていた言葉だと知るものはここにはいない。

「――”私”には実ることのない結果なんですよ」

だというのに、沈んでいる様子はなかった。

「そういう、体質です。私の結果は、別に出るんです。それを見たくて、頑張ってるのはあるんですけど」

才能がないと聞けば、首をかしげる。

「…………なにに、疲れたんですか?」

少女は否定することはなく、話を聞く。
耳を、静かに傾けた。

「職員室、嫌いなんですね」

先生なのに、なんていいながら。前髪で見えはしないが
ふわり、笑った気がした

獅南蒼二 > 貴方はその外見の印象に似合わず,直球の言葉を向けてくる。
肩をすくめて楽しげに笑ってから,

「人は何かに依存しなくては生きていけない,なんて言う奴も居るが…。
 単に,禁煙するほどの理由も気合も無くてな,だらだらと続けてしまっているよ。」

弁解することもなく,そうとだけ語った。
けれど,他人の迷惑になる場所では吸わないという程度の常識はある。

「……ほぉ,努力と研鑽が実らんとはな。」

その言葉を聞いて,獅南はわずかに目を細めた。
この魔術学者は無意識的にだが,貴方の言葉を,感情的に捉えるのではなく,1つの事象としてその原因を探し始めていた。
それは,紛れもなくこの男の救われ難い性質であったが…

「…体質? だが何らかの形でそれは結果になるのだろう?
 とすれば,呪いか異能か,それとも魔術的な誓約か何かが働いているか…。」

…彼のもつ知識から類例を探すその手法は,時として限りなく正解にちかい推測をさせる。
尤もそれを,貴方が望むとも限らないのだが。

「そうだな……簡単に言えば,才能が違いすぎて絶対に勝てそうもない相手に,負けない方法を研究していてね。
 ゴールも見えんし,方法も手探りなものだからこの通り,疲れ果ててしまった。」

小さくため息を吐いて見せて……冗談じみた語り口だが,すでに文献を漁り初めてから半日ほど経過している。
尤もこの男にとってはそれが普段通りの,姿なのだが。

「嫌いというわけでもないがなぁ…。」

流石に言葉を濁したが,貴方が笑ったのを見れば…小さく肩をすくめた。

「…参った,私はあの場所が嫌いだ。行っても居眠りをすることくらいしかできん。
 それに,私など周りから見れば珍獣くらいの扱いだろうさ。」

伊都波 悠薇 >  
「――ちょっとわかるような気がします」

静かにうなずいて、膝の上に煎茶の入ったコップを手とともに置く。
見つめられる視線。それが、どこかの誰かと、ダブった。

「気になりますか? 研究したいですか? --面白い、モルモットに見えます?」

表情は見えない、そして嫌悪もまたない。
何度も見てきた目だ。何度も何度もさらされためだ。
そして何より――”ジブン”と同じ……

「似たような感じです。経験豊富な先生は、結論にたどり着くのが早いですね」

ほぅっと一息。
最近は外も寒くなってきたからか、少し肌寒い。
暖房がついてるとはいえ、だ。

「――……つかれて、どうしたんです?」

静かに見つめるまなざし。前髪に隠れたそれが、突き刺さるような――

「いいじゃないですか。独り、よりは」

獅南蒼二 > 「だが,煙草は勧めんよ。」

苦笑を浮かべつつ,貴方の言葉を聞いて…
…一瞬だけ意外そうな顔をした後,心底,楽しげに笑った。

「ははははは,なるほど,お前をモルモットにすれば確かに面白い論文が書けるかも知れん。さて,幾らで引き受ける?
 …なんて,冗談だ。私はただ,学ぶ意欲のある学生を応援してやりたいだけだよ。
 特に,才能の差を埋めようとするような学生をな。」
お前の場合は,どうも少し違うのかもしれんが,なんて言って,また笑う。

貴方がこうしている理由も,その発言の背景も何も知らない。
だが,だからこそ,獅南は純粋に,目の前にあるものだけを判断材料として貴方を見ていた。

「…そしてお前は,その“体質”を受け入れようと努力しつつも,やはり一方で足掻き続けている,といったところか?」

そうとだけ問いかけてから,
貴方の,伸びた前髪から微かに覗く瞳を…まっすぐに見つめ返す。

「…疲れて,こっそり煙草を吸いにきたら,お前が居た,というわけだ。
 少し休んだら,また,勝ち目のない馬鹿な研究に戻るとするよ。」

…努力は必ず報われる。大半の教師はその言葉を口にするだろう。
だが,この男は口にするだけでなく,その身をもって証明しようとしているようにも見える。


「ほぉ………独りでいるのは嫌いか?」

伊都波 悠薇 >  
「――……」

そんな風に言われると試したくなるものもいる。
が――少女はどっちだろうか……。

「――姉の勝利が代金なら、引き受けても構いませんよ」

冗談半分、本気半分で返しつつ。
少し足を折り、ソファーの上に体育すわり。
行儀が悪いのはわかっているが、これが落ち着く。

「先生の鏡、みたいなことを言うんですね。……受け入れる努力?」

答えは、NO。
もうすでに受け入れている。
あがく?
答えはNO。
あがくことなんてしない、あがくのは自分ではない。

「――私は見てるだけです。そうして、聞くだけです」

――本当に、幸せですか……?

そう尋ねた時、少しなにか。色が変わった気がした。
何かの、色が。空気が――なに、かが。

「そうですか」

頑張ってとか、そういった言葉を少女はかけなかった。

「いえ、独りでいるほうが強いので。私」

獅南蒼二 > 「………。」

貴方の表情の変化から多くを読み取れるほどに心理学に精通してはいない。
だが,その表情と,続けられた言葉は,獅南には十分に興味深いものだった。

「姉の勝利……か。
 お前をモルモットにするかどうかはさておき,詳しく聞かせてもらえるか?」

そう問いかけながら,貴方の表情を,疲れ果てていながらも澄んだ瞳がまっすぐに見る。

「…私が先生の鑑だなどと言ったのはお前が初めてだ。私はただ,諦めと性格が悪いだけだと思うがね。
 尤も,どうやらお前も模範的な学生ではなさそうだ……お前が望んでそうなったのでは,ないだろうが。」

貴方をまっすぐに見つめる瞳は,全てを見透かそうとする鋭利な光と,
けれどその全てをありのままに理解しようとする寛容な光の両方を湛える。

「…独りでいるほうが強い,か。
 私の煙草と同じで,それが“好き”ではないのだな。」


貴方の選んだ言葉に,ため息交じりの苦笑が漏れた。

伊都波 悠薇 >  
「姉の勝利が、姉が勝つ姿を見るのが、好きなので」

詳しくといったのに、その答えは単純明快だった。
そこに嘘はなく――ただまっすぐにそこを見ていた。

「あきらめるものはたくさんいます。学生だからこそ、あきらめる人が、たくさん。それをみて、聞きもせず、見もせず。その先をあきらめる先生も、いっぱいいます」

あきらめることは簡単だ。
そう、簡単だ。

「けど、あきらめることをしないから。そういう先生は、鏡、って言っても差し支え、なさそうですよ?」

前髪を整えつつ――

「頑張ってはいますけど、今のままだと落第とか、留年も見えますね……」

たははと苦笑しつつも――その瞳を”嫌がらない”
いや――それすら知らないようにも見える

「――好き嫌いではないです。必要な、ことなので。ある意味じゃ、私も今の状況に、依存してますから」

それはいろんな人に教えてもらったことだ

獅南蒼二 > 家族への偏愛か,それとも姉に自分の姿を投射しているのか。
いずれにせよ,貴方の言葉に嘘があるようには聞こえなかった。

「なるほど……弟を超えるために努力した私とは,まるで逆だな。」

そうとだけ言ってから,小さく息を吐いて…

「残念だが,代金は支払えん。お前はそれなりに興味深いが,お前の姉に興味は無い。
 お前がその手に勝利をつかみたいというのならまだしも,お前の姉の手伝いではな。」

…貴方の異能を知っていれば,彼の反応は変わったのだろうか。
いや,それこそ,断るどころか貴方を“勝利”させようとするに違いない。
今,獅南が貴方のもつ異能の効果を知らなかったのは,幸か不幸か……。

「ははは,執念深いことをそこまで評価してもらえるとは光栄だ。
 だが,さて……お前は,どちら側なんだろうな?」

表出する言葉や表情からは,今の立ち位置を受け入れ,諦めているように見える。
少なくとも諦めようと努めているようには見える。
だがその一方で,こうして努力をし続けているのだから,それは諦めの悪い内心の表出とも理解できる。

「ははは,それは一大事だな。
 そこらの不勉強な学生よりか,よほど努力し研鑽を重ねているように見えるがね。」

貴方は決して視線を逸らすことなく,こちらを見つめ返す。
だが,獅南はその瞳の奥にあるものを読み取れるほどの優れた感性を持っていない。
漠然とした,違和感にも似た“歪み”だけを感じ取るにとどまった。

「依存か…本当に,厄介なものだ。
 さて,私は煙草が“害”だと認識したうえで依存しているのだが,お前はどうなんだろうな?」

伊都波 悠薇 >  
「――弟さんがいるんですね」

逆だと、彼は言う。本当にそうだろうかと、考える。

「どうして超えたいんです? 同じ家族。祝福して一緒に、高めあっていけばいいじゃないですか」

自分には無理な道。
だが目の前の男性は可能に見える。
そして学生ゆえか、短慮に思考しそう告げて――

「――みんな、そういいますね? そんなに、姉、魅力ないですか。伊都波凛霞。先生からしたら自慢の生徒だと思いますけど」

知らない。お互いに。
ゆえに、かみ合わない。思惑が思考が。
今であったのは幸運か、それとも――

「どっちでもないです」

そこは、はっきりとそう口にした。
青いバラが、咲く――……

「私は見る側ですから」

その言葉の意味は――……?

「結果が出なければ不真面目と一緒です。求められるのは――成果、ですから。どこでも」

煎茶のコップの縁をなでながら

「どう、見えますか?」

その歪みがわずかに見えても、少女は変わらなかった

獅南蒼二 > 貴方の言葉を利いて,獅南は笑った。
それが本心であれ,建前であれ,少なくとも自分は一度も,そんな風に考えたことが無かったから。

「皆がお前のように寛大になれるわけではないよ。
 才能に溢れた弟に,私は嫉妬していたし,常に先を行く弟を憎んでさえいたからな。
 ……結局,私に追い越されるまえに死んでしまったが。」

理由は異なれど,この男にも,それは永久に不可能なことであった。
けれどそれを苦にしている様子もなく,男は苦笑交じりに笑っている。

「…さて,どうだろうな?会ってみなくては分からんよ。
 だが,お前がそこまで言うのだから,立派な学生なのだろうがね。」

知らないものは,深く言及することもできない。
名前を聞いても,残念ながら今のところ,心当たりはなかった。

「表現が抽象的過ぎて分からんが…
 …つまりお前は,常に“姉”の影だということかな?
 その“姉”が幸福であれば,お前もまた幸福だとか,そういうことか?」

魔術学ではなく,それは心理学の分野だったかもしれない。
その推論が正確だったかどうか,獅南には自信も無いが,興味もさほどなかった。

「どう見えるか?難しい質問だが……
 …まぁ,私に見えるのは,私には想像もつかんような決意を抱いた,妙に暗い顔の生徒。
 といったところだな。決意の前にはそれが“害”だろうと何だろうと構わんのだろうさ。」

伊都波 悠薇 >  
「寛大? 私が……?」

その言葉にきょとんっとした後に。
静かに笑みを浮かべた。寛大……?
果たして本当にそうだろうか。
勝利しない姉を認めることをしない、自分は――本当に?

「――そうなんですね。では、先生」

さらりと髪が流れた。のぞく、泣き黒子

「……ちゃんと、胸を張って越えられました?」

弟は止まった。なにが原因であれ、止まったのだ。
では――彼は?

「――自慢の姉です。今度会ってみてください」

立ち上がり、ぽんぽんっとスカートを払う。

「影、で済めばいいですけどね。答えはYesとしておきます」

ニアピン賞。今となっては――

「決意なんてとんでもない。私にあるのは役割。そう――」

くすっと笑ったそれはだれか。

「天秤と、不可能を担当するだけですので」

伸びをして――ゆっくりと、伸びをして……

「勉強に戻りますね。お付き合いありがとうございました先生」

少女は静かに休憩室を後に……

ご案内:「休憩室」から伊都波 悠薇さんが去りました。
獅南蒼二 > 「まだ越えていない。
 だからこそ,私はまだ馬鹿な研究をしているんだからな。」

遅かれ早かれ。そう語ったのはこの教師自身だ。
その言葉通りに,獅南は少しずつだが,前に進んでいる。
……実際には現時点で,もはや弟の技量や知識など遥かに凌駕した地平に立っているのだが。

「そうだな,機会があれば,そうしよう。」

立ち上がる貴方を見て,小さく頷いた。
貴方の名前も聞くことなく,同様にして名乗ることもせずに,
獅南は貴方が紡ぐ言葉を最後まで聞き,そして何も言わずにその背を見送った。

静寂が訪れた休憩室。獅南はやっと,煙草を取り出して火をつける。
その煙草は煙も匂いも無い……魔術に長けた者が見れば,なんと無駄に洗練された無駄のない無駄な魔術かと笑うことだろう。

「……さっぱり分からん。
 精々,その“姉”とやらが傲慢であることを祈ろうか。」

姉の勝利だけを願い,それを見るに徹する妹。
それは姉にとって心強い存在なのか,それとも便利な駒なのか。
せめてそのどちらかであってくれれば良いが,一般的ではないだろう。

“姉がそれを望んでいなければ,まさに悲劇だな。”

なんて内心で苦笑して,獅南は静かに,煙の出ない煙草を愉しむのだった。

ご案内:「休憩室」から獅南蒼二さんが去りました。
ご案内:「図書館」にセシルさんが現れました。
セシル > 「………はぁ」

休日の午後。閲覧スペースで、「地声で」、やや重い溜息をつくセシル。
先日借りていた新書を、図書館の辞典類の助けをたまに借りに来ながら読み進めていて…今、丁度二冊めを読みきったところだったのだ。
その表情は、暗い。

(…公的支援の手が彼らにとって居心地が悪いということが、こうまで闇を深くしてしまうのか…)

そんなことを考えながら、セシルはもう1つ溜息を吐いた。

セシル > (…まあ、少なくとも「個人」としてなら「彼女」は近づくことを少し許してくれたようだし、少しずつ…出来ることをするしかないな)

そんなことを考えながら、立ち上がる。
もちろん、向かう先は返却カウンターだ。

「ありがとうございました」

「地声で」そう告げながら本(と、補助資料に使っていた辞典)を返すと、カウンターの図書委員がちょっとぎょっとした後、それでも手続きをしてくれた。
どうやらセシルのことを知っていたらしい。普段とはまるで違う声を出したのを聞いて、驚いたようだった。

「驚かせてすみませんでした」

優しげな、女性とは思えるもののやや低めの声でそう笑いかけると、相手の図書委員は少しまごつきながらも、気にしないようにと言ってくれた。
安堵に、セシルの表情が緩む。

セシル > 本を返却して…新しく借りる本などを探してもいいのかもしれないが、今はそれよりもやりたいことがあった。
携帯端末の購入だ。「彼女」と連絡を取るためには、恐らくその方が都合が良いのだろうから。購入したら、連絡先の登録と、折り返し連絡の約束もしているし。

(この島だ、私のような者にも使いやすいものもそれなりにあるだろう。
………多分、きっと)

実際のところ、タッチパネル式の端末は食堂とか訓練施設でなら多少使っているので、セシルは全くの機械音痴というほどではなくなっていた。
…それでも、恐らく機能がいっぱいついたら間違いなく持て余すが。

セシル > そんなわけで、セシルは図書館の書架やカウンターに背を向け、いつも通りの大きな歩幅で図書館を後にしていくのだった。

…目指すは商店街。携帯端末の店である。

ご案内:「図書館」からセシルさんが去りました。