2016/11/17 のログ
ご案内:「図書館」にメイジーさんが現れました。
■メイジー > 新聞報道の発明。輸血の発明。蒸気機関の発明。機械式時計の発明。計算機の発明。温度計の発明。
世界最初の鉄橋。世界最初の落下傘。世界最初の汽船。世界最初の自動織機。世界最初の自転車。
全てのものごとには始まりがあり、起源となる始点がある。
人の歴史が発見と発明の連続であるとすれば、この世界にも独自の歴史が伝わっているはず。
この世界にも蒸気都市はあるのだろうか。
二つの世界をつなぐ架け橋のようなものは、存在するのだろうか。
外燃式蒸気機関を見かけない理由。誰も個人用の階差機関を持たない理由。
都市全域を網羅する機関通信網が存在しない理由。
メイドがいない理由。そして何より、この空がこんなにも青い理由も。
全ての答えが一度に得られるとは思えない。
けれど、少しずつでもこの世界のことを知らなければならない。
異世界の歴史に触れる。それは少し恐ろしく、胸躍る体験になるはずだ。
「………大きな……建物ですね…」
ここは、学園都市最大の公共施設のひとつ。大図書館。
硝子をふんだんに使った建築はやや荘重さに欠けるものの、訪れる者に開放的な印象を与える。
何度でも足を運びたくなる様な趣があって、見上げながら目を細めた。
■メイジー > 視界に入っているだけでも、圧倒的な数の書架に出迎えられる。
蒸気都市の貸本屋は減りゆく一方で、数件分の本を合わせて、やっと吊りあうかどうか。
本を読む人が減ったのではなく、お金も時間も無くなってしまっただけ。
ここは学園都市であるがゆえに、その市民たる学生たちは本を読むことを許されている。
「なんと……素晴らしいことでしょう」
あちらにいた時は、ニューオックスフォードストリートのミューディーズ・ライブラリーに通っていた。
会員制になっていて、年会費は1ギニー。1ポンドと1シリング。蔵書はたしか、公称100万冊。
2ギニー払えば一度に三冊まで借りられる。使用人の身分には払いきれないし、三冊同時に読む暇もない。
今も持ち歩っている会員カードは基本会員のもの。それも旦那さまのご厚意で頂いたものだ。
この手の中には、生活委員会の人々が手配して下さった異邦人向けの認証カードがある。
鉄道駅の改札のようなエントランスゲートの端末にかざして、通り抜けていく。
■メイジー > 今日は一日、時間の許すかぎりここで過ごすと決めている。
この世界を歩くための情報を吸収しなければならない。
たとえば、蒸気都市の常識がそのままこの異世界で通用するとは思えない。
こちら側では当たり前になっている考え方の、元になっている概念を理解する必要がある。
人文科学、自然科学、社会科学の変遷を知れば、その助けになってくれるはずだ。
そして、この世界の地誌をなるべく多く、詳しく記憶すべきだ。
常世島のこと、この島が属する日本という国のことも。
「まずは……初等教育用の教科書からはじめましょう」
司書に尋ねて、本を集めて、閲覧室のテーブルをひとつ占有して読書を始める。
ここは、本来の歴史ではあり得ないもうひとつの世界。
禁断の叡智をさぐる悦びに、ページを繰る指先がゾクリと震える。
■メイジー > 山と積まれた本のどこかに、たった一行だけぽつりと答えが書かれているわけではない。
パズルのピースをあわせる様に論理をもって推理する、そのための手がかりが散らばっているだけだ。
世界最高の諮問探偵の様にはいかないけれど、かの名探偵でさえこれほどの興奮は味わえないはず。
「……………………。」
疑問その一。
この世界に蒸気都市はあるのか。
実は、雰囲気のよく似た国をひとつ見つけた。
そこは女王を頂く国の形も、曇りがちで寒冷な気候もよく似ている。
色つきの写真に写りこんだ人々の姿も蒸気都市の住人たちと瓜二つといっていい。
言葉も、文化も、歴史さえよく似通ったもう一つの蒸気都市。
その国はあるいは、違う歴史をたどった母国なのかもしれない。
栄えある長い歴史と伝統の中には、メイジー・フェアバンクスを名乗る者がいたかもしれない。
けれど、その国でさえ……この世界では、階差機関が実用化に至らなかった。
解析機関の普及も、大洋をつらぬき世界を覆った機関通信網も出現もあり得なかった。
政治結社としての《解析協会》の台頭も、急進的な碩学たちによる能力貴族制が国の形を変えることもなかった。
蒸気機関に変わる新たなエネルギーの形態……電気が人の暮らしを照らし続けている。
この空が煤煙に染まらず、底抜けに青くかがやく理由も代替エネルギーの存在によって説明できる。
■メイジー > 「本来の歴史」とは違う歴史の中へと飛ばされてしまったのだとすれば、ここは正真正銘の別世界。
このメイジーが二人といない様に、蒸気都市が二重に存在するなど許されないことだ。
冷たい硝子板に隔絶された、鏡写しのもう一つの世界。
あちら側に帰る手段は極めて乏しい、もしくは存在しない。竹村様はそう考えた。
転移荒野に現れた者たちの記録はさらなる異世界の存在を示唆している。
元の世界への帰還が叶った例が、過去にはあまり多くないことも知ってしまった。
疑問その二。
二つの世界をつなぐ架け橋のようなものは、存在するのだろうか。
答えを出すには材料が足りない。今の時点でその有る無しを考えるのは無益なことだ。
ただし、「あれ」の苦し紛れの小細工がこの身をこの世界へと導いた。
転移現象を引き起こす手段があったということだ。
その認識に誤りが無ければ、逆方向の転移を実現する方法も存在するのかもしれない。
「……もう少し調べてみないと…今はまだ、何とも……」
ご案内:「図書館」にローリーさんが現れました。
■メイジー > 上質の紙と読みやすい活字に助けられ、時間を忘れて読書を続けた。
昼食を頂いていないことを思い出しながら、赤く染まって暮れゆく世界をぼんやりと眺める。
最後に、疑問その三。
なぜメイドがいないのか。
この世界では、メイドのような使用人は遠い過去に属する職業になっている。
中流家庭は雑役女中を置かず、ごく限られた富裕層の間でもメイドを召しかかえる習慣はない。
骨董品どころか、絶滅している。少なくとも、この身の知るようなメイドは消えてしまった。
「コスプレ」……仮想趣味の題材として、扇情的に焼きなおされたメイド服が流通する程度だ。
メイドカフェという、仮装した女給を置く喫茶室も存在するらしい。
「………なんということでしょう」
「身共と致しましては…これが一番のショック……でございました…」
ヘイズ協会の執事たちにも凶報がある。
本物の執事もまた、今日のこの世界ではまぼろしと化している。
専門の教育機関は存続しているものの、蒸気都市の水準を満たす者は世界に数百人といるかどうか。
■ローリー > 貴方テーブル1つを占領してあれこれ思索に耽っているころ。
そのすぐ横の書架を,えらく険しい表情で眺める老人が居た。
歴史や社会に関する書架だが,別段,珍しい本があるわけでもない。
「………………。」
この老人の険しい表情の理由は,蔵書ではなく別のところにあった。
老人が見つめる本のタイトルは「近現代史」というありきたりなものだったが…
「嬢ちゃん,だいぶ忙しそうなところすまないんだが…。」
…問題は,それが立った大人の目線よりもやや高い場所にあることと,
この男が,車椅子に座っていることだ。
「あの本を取ってもらっても構わんかな?」
コスプレにしてはずいぶんと本格的で,違和感のないメイド。
そんな印象の貴方に,車椅子の老人はそう声をかけた。
■メイジー > 書見に一区切りがついたところで、声がかかった。
そばに車椅子の紳士がいた。介添人も置かず、一人で利用している様だ。
別の時代にいるような印象を受けるこの世界でも、車椅子の構造はあまり変わらない。
書架の方から降りてきてくれる様にも出来ていないらしい。
このあたりは生徒の姿もまばらで、年配の利用者を助けようという者もいない。
ずっと姿勢を崩さずにいたせいで、身体が強ばっていた。
「…なんと………お恥ずかしながら気が付かず、失礼致しました」
「少々お待ち下さいませ」
席を立ち、背筋を伸ばして浅く上体を傾ける。客人に向ける一礼のそれ。
視線の先にあった本の背に指をかけ、抜き取って表紙を向ける。
「こちらの書籍で、間違いはございませんか?」
「差し出がましいことと存じますが、他にお手伝いできることがございましたら……」
■ローリー > テンプレ通りというべきか,正しくメイドの立ち振る舞いを見せる貴女。
その丁寧で低姿勢な言葉に,老人の表情も幾分か和らいだ。
「…おいおい,嬢ちゃんの邪魔をして頼みごとをしたのは俺の方だ。」
もっとも,場違いなのは自覚しているし,気を遣うなという方が無理だろう。
今更にそんなことを気にするような軟弱な精神は持ち合わせていない。
少なくとも,丁重に扱われて悪い気はしなかった。
「あぁ,それだ,助かったよ。…フロアのバリアフリーは良いんだがなぁ。」
苦笑を浮かべつつも,本を受け取って,机の方へ向かう。
……もう随分と長いこと車椅子生活を送っているのか,その操作は慣れたものだった。
「……ん,いやいやこれで十分だ,嬢ちゃんも調べ物だろう?
暇だというのなら話し相手にでもなってもらうところだが,嬢ちゃんの時間を奪うわけにもいかん。」
■メイジー > 一目でそれとわかる者もいるものの、こちら側では、ほとんどの人間の身分がわからない。
学園都市だからこその特殊事情とも考えられる。学生と教師、学校の職員、個人事業主や生活インフラの管理者。
蒸気都市では当たり前に存在していた、上下の階層というものを感じない。
常世島の社会は開かれていて、女子も男子と変わらぬ教育機会が与えられている様だ。
そして、この紳士。話す言葉の端々にコクニーめいた気安さを感じてしまう。
遠い異国の地で同郷人に出会ったような、不思議な親しみを覚える。
「お気になさいませぬ様。収穫はございました。本日はこれで十分かと存じます」
「失礼を承知で申しますならば、御身は……身共の故郷……アルビオンの人々に、どこか似ていらっしゃいましたので」
「……もしや、かの国のご出身では?」
思い当たるのは、蒸気都市によく似たとある国のこと。
ヤードの警視を連れてきて、服装だけこちら側風に替えればこんな風になりそうな気がする。
介助を申し出る必要はないと見て取り、自分の片づけをして本をまとめつつ。