2017/07/01 のログ
デーダイン > 「う、うむ。んふふ、フハハハ!後で気が向けば貴様の机の上に置いておいてやろう。」

あんまりにも、こう、予期出来ない言葉の噛み合いに、普段はしない噴き出す様な笑いを出しながら、
うむうむと仰々しく仮面は頷く。

「ほう…ふむ。なるほどなぁ。」

語られる、才能や力の差に、デーダインは頷くばかり。だが、それは獅南蒼二が言う様に、
お互い分かりきっている事なのだろう。
そして、彼はそれが気に食わない…(何故なら、彼の教師としての振る舞いがそれを語っているのは、
恐らく学園でも知られているだろうから。)…と、デーダインはそこまでは察した。

「ククク…なるほど。貴様の問いに答えよう…絶対悪たる教師として。

この世界にある、ウサギとカメの童話を知っているかね。
あれはウサギが油断をして余裕を見せて寝ているから、カメが追い越してしまったって話だが、
しかしウサギが油断をして寝ていなければ、カメは決して追いつく事は出来なかった筈だ。

……だがこのたとえ話は少し求めている物と違うな?
カメとウサギのかけっこではなく、人間と人間のかけっこだ。
ただし、スタートラインの時点で既に違う、ゴールへの長ささえもな。
これが"才能の差"ではないだろうか。

小細工をし合ったところで、同じ程度の才能ならいざ知らず、
そこに大きな才能の差があるのなら…きっと、才能がある方が優れる。
魔術師の戦いもそうだ。魔力が多い方が強いし、沢山魔法も使える。」

デーダインは手袋で二つのモノの競争をジェスチャーしてみせながら、
片方の手袋を下に、上にと動かしては、とりとめもない言葉を述べた。

「だが、ね。そうした才能の差があるからこそ…競争により世の中が回って、発展しているのだと思う。
いつか、向こう側へと飛び上がる事を夢見るから、努力を重ねるのではないかね。
だから、魔術もここまで発展したのだ。
故、悪いものではないと思う。

もっとも、才能のないものにとっては、たまったものではないだろうがな…」

デーダインの低い方に位置した左側の手袋が、右側の手袋をひゅーんと飛び越えて。
図書館の獅南蒼二の机の上に積み上がる魔導書へ、本棚にずらりと並ぶ魔導書へと仮面が向く。

「……クックック、絶対なる暗黒の化身たる私は、残念ながら此方側、なのでな。…貴様にとっては、悪いモノと考えているのかね?」

右手の手袋を開いて閉じて見せては、自信満々に才能のある方だと言ってのける辺り、傲岸である。

「……聞くに、どうやら貴様よりも才能のある魔術師とでも戦う様だが。」

獅南蒼二 > 「職員室の机なら使わな過ぎて埃を被っているよ。
 できることなら研究室に持ってきてもらいたいものだな?」

どうせだからと冗談じみた要求を述べておいて,こちらも楽しげに笑う。
それから貴女の提示したたとえ話を聞いて…存外に,納得できる話だったからか,小さく頷いた。

「……私は,何の努力も無しに得た力をもって,理不尽に他者を害するような輩が嫌いでね。
 アンタの話に乗せるのなら,生まれ持った能力の差をもって、ウサギがカメを苛めるのは許せんというわけだ。
 尤も,この世には油断をするウサギが多くてな,だいぶ追い越してやったのだが…。」

貴方の言う,競争の原理と発展,努力の関係性は正しくこの獅南にも当てはまるものだった。
もし,獅南が才能ある魔術師として生まれていたら,このような努力を重ねることはしなかったかもしれない。

「…その先もアンタの言う通りでな,油断してくれんウサギは,どうも仕留められん。
 だが,悪いものではないさ,私はそれを妬み,その才能に驕る者を軽蔑して生きてきた。
 しかし,才能をもちながら努力を怠らぬ者も居る。」

そこまで語ってから,先ほどばらばらにした紙片のうち小さなひと欠片を手に取って,

「…戦うかどうかは分からないが,私の相手はそんな魔術師だ。
 アンタのように“絶対悪”の魔術師ならば,私も手段を選ばずに殺しに行くのだがね?」

獅南は苦笑を浮かべる。
才能の差は歴然であり,努力では埋めがたい。そして,獅南は相手の努力に敬意を払っている。
その敬意,もしくは己の努力に対するプライドが,行動を制限しているのだろう。
それはある種の美徳ではあるが……。

デーダイン > 「クックック、それなら、机の上は片づけて置くことを勧める。
折角の書類がコーヒーで汚れてはいかんからな。」

さて、このデーダインが獅南蒼二の研究室へと足を踏み入れた事はなかったかもしれないが、
恐らく、彼の研究室は、きっとこの図書館の今の机の様になっているに違いなかろう、
デーダインはその様に思った。

「そう言えば、この世界、かの国にはこの様な言葉もあったな…天は人の上に人を作らず、だったか。
そして、その上下は勉学…つまるところ、努力によって決まるとな。
だが、しかし考えてみれば、生まれた時から、既に万物ははっきりと上下が決まっている様だ。

否、生まれた時だけではない、事あるごとに、初めからその差というのは決まっている。
この大変容の時代だ…ウサギとカメの差など、可愛いモノかもしれんがね。」

「だが、それでも追い越せる様な油断するウサギは居るし、追い越せない油断しないウサギだっている。
カメがウサギを追い越すには、そのウサギより早く走るしかない。
産まれ持った才能の差を、跳ね返すような、気の遠くなる努力が必要だ―――!

―――貴様はそれが分かっているから、そうして命を削る様に努力をしているわけだ。
……ああ、それと貴様の生徒にもそれを求めている様だな?

努力をして得た力で、逆にカメとしてウサギを虐め返している様にも、思えるが、

……私から貴様へ向けて言える、気の利いた事は思い浮かばんね。」

デーダインは頭を捻って、
散らばった紙の迷路の出口でも探す様にむう、と唸った後、そう締め括ってしまった。

「フハハハハッ!言うじゃないか、獅南蒼二。この絶対悪の化身たる私を殺せる物ならやってみるが良い。
昼からなら何時でも演習施設で相手になってやろう!

ほお……容易く殺す、とさえ判断が下せない相手とのシミュレートか、厄介じゃあないか。
しかも相手方が貴様程の男に才能を持ちながら努力を怠らぬ者と評されるのなら、これは益々厄介そうだ。

クククッ…!!しかし、やっと見えたぞ、貴様はそれで行き詰っていたのだな。…ふぅむ。」

獅南蒼二が認める努力を怠らぬ、と言う言葉に、嘘偽りはなかろう。
デーダインもまた、同僚の目線から彼の努力が如何なるかは、知っていたし、それを評してもいる事がやんわり言葉に滲んで出る。

「だが、さっき言った通りだ。私は貴様に出来る気の利いた言葉が思いつかん。
貴様の言う才能も違えば、私は此方側の者なのでな……きっと貴様を満足させられる言葉は私の中にはないだろう。

故に、コーヒーを一本、持って行ってくれてやるくらいは同僚として手助けしてやろう。」

こういう妙な程に、しかし当然の様に節介を焼こうとするのもデーダインの性質である。生徒にも教師にも。

獅南蒼二 > 貴方の言葉は,確かに,獅南を満足させることは無い。
だが獅南自身,己の迷い込んだ袋小路がどのようなものであるかは把握していたし,
答えを出すことが容易ではないと理解していた。

「…ははは,そうだな,きちんと片づけておくことにしよう。」

答えは出ずとも状況を共有できただけで,十分だったのかもしれない。
そして結局のところ,獅南は答えを出すことを,期待してさえいないのかもしれない。

「ははは,絶対悪の化身などと自分の口で言う割には,随分と親身に私の相談に乗ってくれるじゃないか。
 しかし,そうだな…手段を選ばん場合の演習は,それはそれで面白いかもしれん。」

だからこそ,獅南はそれ以上,この話の核心に触れようとはしなかった。
貴方の言うように,万物には上下が決まっており,それは容易に覆せるものではない。
結局,思考を進めれば進めるほどに,それを容認せざるを得ない状況へと追い込まれていく。

…獅南はまだ,心のどこかで,亀でもいつかはウサギを凌駕できると,信じていたかった。
貴方が考えている以上に,獅南はロマンチストであったのかもしれない。

やがて彼は,パチン,と指を鳴らして並べられてた魔導書たちを一気に書架へと戻す。
ゆっくりと立ち上がってから,貴方の,表情の一切読めぬ仮面に視線を向けて…

「…私にとって“そちら側”の意見が聞けたのは非常に有益だった。
 演習が実現するかどうかは別として,私からもそのうち,珈琲の1本くらいは差し入れさせてもらうよ。」

…そういう形で,獅南は貴方に感謝の気持ちを伝え,さっと背を向けて歩き出した。
もう振り返ることもなく,歩みを止めることも無い。

ただ,研究室の机は言われた通りに片づけておくだろうし,そのうち貴方の机上に珈琲が置かれる日が来るかもしれない。

ご案内:「図書館」から獅南蒼二さんが去りました。
デーダイン > 「……おや?ふはは、そうか、では楽しみにしておくが良い。」

素直に頷き、片づけておくと言う言葉に意外そうに、素っ頓狂な声を漏らすデーダイン。

「フハハハハッ、私は絶対悪である前に、この学園の教師だからな。困っている同僚を見れば放って置く等出来るまい。」

デーダインもまた、やんわりと獅南が話を切った事を察する。
話せば話す程、生まれつきの才能という壁が大きなものであるかが分かって行くし、
努力と言う物は万人が使える故に、決して才能の壁を乗り越える手段にはなり得ない事が浮き彫りになる。
それはきっと、此方側でも彼方側でも、どちらから見たって変わらない。

かけ続けるウサギが見ても、カメが見ても…それは全く意味合いが違えど、両者にとって、同じ距離なのだから。

「……ククク、楽しみにしているぞ、獅南蒼二。」

それは、魔術師同士の戦いの顛末について、実現するかも分からぬ演習について、それから、コーヒーの差し入れについて向けて。
背中に一言、声をかけると、デーダインは来週の授業の教材を探しに、向こうの魔導書の本棚へと歩いていく。

近いうち、仮面の不審者が獅南蒼二の研究室へと、やけに暑苦しい挨拶と共に、コーヒーを持って訪れるだろう。

ご案内:「図書館」からデーダインさんが去りました。