2015/06/15 のログ
■橿原眞人 > 「ああ、美味いよ。マジでな。
下手な人間より気が利いてるぜ」
飽きないようにとの心遣いなのだろうか。色々な味がサンドイッチには仕込まれていた。
そうしてコーヒーを飲みながら、シュリクの話に耳を傾ける。
「……やっぱり、にわかには信じられねえな。
5000年ぐらい前からやっと文明が生まれたぐらいだって聞くぜ。
そんな、20世紀のSFみたいな時代があったなんてな」
ワープ装置や空飛ぶ車、物を考えるアンドロイド。
昔の未来世界の予想図のようだ。現代はそれに近づいているとはいえ、6000年前となると到底信じられない。
「現代以前にも「門」が開いていた時代があったなんてな……。
そりゃまあジェネレーションギャップを感じるかもしれねえな。
だがうん、わからないな……それはほんとにこの地球なのか?
魔獣……今でいう怪異か? だけどな、俺はそんな話を聞いたことがないぜ。
いや、隠されてる可能性もそりゃあるだろうが……」
そしてシュリクの顔を見て、少し考える。あることを言うべきかどうか迷ったからだ。
「……それに、その話がこの地球のことだったとしてだ。
そうなると、シュリクを産んだ文明は……滅んだってことになるぜ?」
■シュリク > 「なら、良かったです。また、新メニューを習得したら作って持っていきますので、味見してください」
自らもコーヒーを一口飲みつつ、嬉しそうに目を細めた
ロケーション的にもシチュエーション的にも、人はこの状況を、デートと言うだろうが
それにシュリクが気付くはずは当然無く
「……そこ、なんですよね」
本当にこの地球なのか、と問われ、目線を落とす
「どの書籍にも載っておらず、全く情報のない超高度な文明
いえ、確かに私の文明レベルからすれば隠すことも可能だとは思うのですが……
隠すような理由も、そして、……滅んでしまった理由も、分からないのです
ただ、私が眠っていた場所、クレイドルは確かにこの島の、今で言う未開発地区の遺跡群にありました」
此処最近情報を整理すると、どうしても、今のこの世界が自分の世界ではないように思えてならなかった
しかし、この世界はシュリクのいた時代との共通点も多く、確証には至っていないというのが現状だ
「……しかし、アンドロイド自体は今のこの時代にもいると聞きますが?」
■橿原眞人 > 「あ、ああ……ありがとう。なら、味見させてもらうよ」
眞人は少し恥ずかしそうに顔を背けた。
(そうだよな……これはどう見てもデートだが……向こうにはその様子はなさそうだな)
また作ってきてくれるとシュリクは言う。なるほどなかなか良いシチュエーションだったが、シュリクがそう言ったものについて考える機能……心があるのか眞人にはわからなかった。
ただ、嬉しそうに目を細める様子などを見れば、単にそう言ったことに関して知らないだけにみえた。
シュリクの話は続く。そう、どう考えてもこの地球の話のようには思えない。
それほどまで高度な文明なら、一地方で終わるようには思えない。歴史上から消滅したにしても、痕跡位ありそうなものだ。
だが、眞人は聞いたことがない。異能や魔術が世界の表舞台に現れてから、色んな調査がなされた。未知の古代文明の痕跡についてのニュースも眞人は見たことがある。
だが、シュリクの言っているようなものは聞いたことがない。この世界には謎が多い。当然、隠されている可能性はある。
そうでなければ――
「……別の世界の地球なのか?」
とはいえ、眞人にも確定する手段などない。6000年前を遡る力など眞人にはないのだ。
「この島で目覚めたのか……となるとますますわからねえな。
遺跡群にあったってことは、転移してきたこともありそうだが……俺にもよくわからねえ」
シュリクも、この世界が自分の世界ではないように思えているようだ。
だが、二人にそれを確認する手打ではない。
「ああ、アンドロイドとかはこの時代にもいるな。
もっとも、それが地球オリジナルの技術かどうかは俺も知らない。
異世界の技術も入って来たからな……それによって科学が発展したっていうのもあるらしい。
でもそれも別に昔からあったわけじゃねえと思う。たぶん最近だ」
シュリクのいた文明とは中々繋がりそうにない。
「……なあ、一つ聞いていいか。
俺はこの地球で生まれたからよくわからないけどな、目覚めたら全く知らない時代なわけだ。
自分を作った主も何も、もういない……シュリクは、これからどうするんだ?」
■シュリク > 急に恥ずかしげに俯いた眞人の様子が理解できず、こくん、と首を傾げる
なにか不味いことでも言ってしまったのだろうか?
「あの、実は美味しくなかった、とかでしたら遠慮なく仰ってくださいね
それはそれで改善点を見つけるまでですので」
同じ星空、同じ時間軸、同じ「異能」という力
共通点を探せば枚挙に暇がない
しかし、探れども探れども当時の痕跡は見当たらない
この世界にある「当時」は、シュリクが目覚めた遺跡ただひとつのみだ
「……確証はありません。ただ、そうである、という場合も考慮すべきかと」
だとするのであれば、自分は<<ゲート>>を通ってきたことになる
それが事故なのか何者かによる恣意的なものなのかまではわからない
「ああ、なるほど……<<ゲート>>の向こうの技術だとすればうなずけます
この地を歩いてみて、アンドロイドが生まれるような技術レベルじゃないので疑問を抱いていました」
或いは、そのアンドロイドの技術こそ、シュリクのいた世界なのかもしれない
そして、眞人は問う
言うなれば、「何がしたいのか」という根源的な質問だ
「……そう、ですね……」
仮にこの世界が自らの世界と違うとして、元の世界に帰りたいかと問われれば
否、であった
「……私、最近気づいたんです。この世界は、私の生まれた文明よりもずっと劣った文明レベルです
でも、文化レベルはずっと、ずっと高い
食事という文化一つとってもそうです。私の文明では栄養効率優先だったので、味など考えられていなかった
口に含んで、水で流し込む。それが食事でした
この文明は、「楽しむ」ということにとても特化していると思います
……そんな、この時代を、私はとても好ましく思っている」
サンドイッチを摘む手が止まる
造り物の瞳が一直線に眞人を見つめた
「……でも、それでも私は、自分の生まれた文明がどうなっているのか知りたいです
本当にこの世界のものなのか、それとも別の世界のものなのか……
また残っているのか、滅んでいるのか……
――お願いが、一つあるのです」
■橿原眞人 > 「おかしいとは思っていたんだ。あんたが魔術を一切知らなさそうなのもな。
それに異能や異界の「門」についてもだ。
こいつらは21世紀初頭の大混乱のなかで頻繁に出てくるようになったって聞いてる。
それまでの歴史の中では隠されてきたんだ。あんたのいうように一般的なものだったとは思えないぜ。
……確証はねえけど、たぶん《転移》してきたんだ。転移荒野はそういう場所だからな」
よくある話ではある。
突如異界の「門」が開いて、異邦人がこの世界に飛ばされてくる――
この世界では、もう普遍的なことだ。珍しい事ではない。
そんな世界の未来のモデルケースとしてこの学園は作られた。
それが、この学園の歴史なのだ。
そんな世界で、異邦人はどうするのか。その問題は多い。
混乱して正気を失う者、元の世界に帰ろうとする者、はたまたこの世界に残るとする者。
様々だ。眞人はそういう異邦人たちをこの学園に入って色々と見てきた。
シュリクもそうなるのだろう。眞人にはわからない。シュリクの話が本当ならば、そのアイデンティティも全て奪われたことになる。
守るべき対象もない。戦う敵も、たぶんいない。
そういう根源的な問いかけをする。場合によっては、ひどい質問かもしれなかった。
そんな世界に放り出された時のことを考えれば、その心細さは計り知れないだろう。
だけど、この少女は――
「……そうか、好ましい、か」
眞人は小さく笑む。眞人にとって、この世界は偽りだらけだ。家族を失った事件も、真実を捻じ曲げられた。
だけどたしかに、それが全てではない。ここにいる者は皆生きている。
この時代は「楽しむ」ことに特化している――確かにそうだろう。それ故に、ここに居残る者たちもでてくるわけだ。
そんな彼女の言葉を、打ち消す気にはなれなかった。
「ああ、そうだよな。知りたいはずだ。
……俺も、世界の真実を知りたいんだ。何もわからないのは、俺も嫌だ」
そう呟いて、遠くを見つめる。だが、シュリクの瞳が眞人を射れば、眞人もシュリクの方を向く。
「――お願い?」
■シュリク > 「全ては推測の域ですが……恐らく、そうなのでしょうね
6000年という時間は、世界を超えたことによる時間軸のずれによるものかもしれません」
実際、そのような話はシュリクのいた世界でもままあることであった
ただし、文明はそれを拒否し、徹底的に否定した
世界のバランスを崩すもの、外なる世界の歪んだ力、自分たちを脅かすものとして
故に、シュリクのような戦闘力の高いアンドロイドが生み出され、重宝された
「此処に残るのも残らないのも、全てを知ってから判断したいです
もしまだ世界が滅んでおらず、私が行くことで救えるのであれば――救いたい
しかし、それには私の全ての能力を開放する必要があるのです」
時計塔の天辺は、風が強い
話している最中も突風が何度か二人の間を過ぎ去って、泣き声を残した
しかし、その一瞬だけ、まるで、待ってくれているかのように風が止んだ
「私を――私を、貴方の物にしていただけませんか?」
真剣な瞳だ
■橿原眞人 > 「そうするといい。決めるのはお前だ。
俺も世界の真実を知りたいと思ってるんだ。だから、わかるよ。
……全ての能力の開放?」
彼女の時代、あるいは世界の事情は眞人はよく知らない。
彼女の言うとおり、この時代とは全く異なるものなのだろう。
シュリクはこの世界を好ましいと言った。
だが、同時に自分のいた世界についても知りたいと言った。
当然の話だ。眞人も、原因もよくわからないままに、家族を奪われた。
そういう世界の理不尽をもっとも憎んでいる。
シュリクと眞人では事情が違う。だが、世界の真実を知りたいということは、共通していた。
風が舞う。
二人の間を風が舞っていた。
だが、一瞬だけそれはやんだ。二人の服や髪が揺れるのを止めた。
そして、彼女は口を開いた。
「――は?」
眞人はそれだけしか声が出なかった。相手の言葉を理解できていない顔だ。
首を傾げて、その言葉をよく頭の中で反芻する。
冗談ではないらしい。シュリクは真剣な顔だ。
「ま、待てよ! い、いきなり俺の物にしてくれって……はあ!?」
明らかに眞人は動揺していた。
そういう意味にしか聞こえなかったからだ。
■シュリク > 突然慌てふためく眞人に、少し俯いて
「そう、ですよね。いきなりそう言われても困りますよね……。
ただ、私の能力――もっと言うと、私の本当の「異能」は、「管理権原者」(マスター)の管理下になければ開放できないのです
これから先、<<ゲート>>の調査をするのであれば、戦闘は避けられないでしょう
そうなったとき、完全に能力を開放しておかないと、勝てる戦闘にも勝てなくなってしまうのです
ついこの間刃を向けておきながら不躾なお願いだとは思っております
ですが、どうか、眞人。私を、貴方のお傍に置いていただけないでしょうか」
三指を付いている
正座をしている
そのまま深々と、頭を地面に付けた
――眞人は、およそ10歳ほどの見た目の少女に土下座させている!!
■橿原眞人 > 「お、おい待て、ちょっと待ってくれ! い、いきなりなにを……」
慌てふためいている眞人にシュリクが説明を始める。
どうにも、シュリクの能力は現段階では完全なものではないらしい。
その能力を開放するにはマスターが必要なのだという。
眞人はうまく飲み込めていないものの、おおよそそのことは理解した。
そして、シュリクはそのマスターを――眞人になってくれと頼んでいる?
見れば、シュリクは三つ指を立てて正座し、深々と頭を下げた。
それどころか、頭を地につけたのである。
土下座であった。
「お、おい、やめろ!! 10歳ぐらいの見た目の奴に俺はなんで土下座させてんだよ!?」
ここが上空でよかった。眞人はそう思った。
人に見られる場所でやられていたら眞人の今後の学生生活に大きな影響が出ていたことだろう。
おそばに置いてほしいなどと言われると、どうにも不穏である。
受けて良いものか……?
「……わ、わかった。わかったよ……!」
眞人はそう言うと、シュリクの肩に手をかける。
眞人は《銀の鍵》としてやらなければいけないことがある。
家族を奪った事件の真相を知るため。この学園都市で消息を絶った“師匠”を探すため。
この少女を受け入れてよいのだろうか。そもそもマスターが何をするのかもよくわからない。
彼女が財団の刺客かもしれない。世界の裏側も存在かもしれない。自分の敵かもしれない。
一気にそんな想像があふれ出ては消えていく。
だけど、眞人はそうは言わなかった。
彼女が、自分の“師匠”にその姿がよく似ていたためかもしれない。正確などは違うけれど。
断りきれなかった――いや。
世界の真実を知りたいという思いに、突き動かされた。
あのような優しげな笑みを浮かべる少女が、自分の敵であるはずがない。
「……わかったよ、シュリク」
ぽつりとそう漏らす。
「俺は、お前に話していないことがたくさんある。
お前に全てを明かしてるわけじゃない。だが、俺はお前の敵じゃない。
きっと、お前も俺の敵じゃない。
世界の真実を知りたいっていう気持ちは同じみたいだ、だから……。
――なるよ、そのマスターってのにな」
少女にここまで頭を下げさせている。それほど真剣な願いなのだ。
眞人はそれを断れるほど、大人にはなりきれていなかった。
■シュリク > 「しかし、東洋では大事なことをお願いするときはこのようにするべきと書物でありましたので……」
かなり古い書物を参考にしたようだ
しかし、返答を聞けば、心底嬉しそうに――安堵も混じった――笑みを見せた
「ありがとうございます。眞人は私の全力を耐えた術者。マスターとして不足はないと、あれからずっと考えていたのです」
単なる要人警護ならば、マスターに力は必要ない
しかし、<<ゲート>>を調査するともなればマスターにもそれなりの実力が要求される
眞人のしたいこと、シュリクのしたいこと、利害も一致する
これ以上ないほど、マスターとして適任であったのだ
肩に置かれた手を払わずに、潤んだ唇がゆっくりと告げる
「――それでは、マスターの登録をお願いします」
ゆっくりと瞼を閉じ、口を噤む
つまり、そういうことなのだろう
■橿原眞人 > 「いつの話だよ! 俺が誤解されるだろうが!」
がくりと肩を落とす。
酷く勘違いされそうな光景であった。
だが、眞人の返答に嬉しそうな顔を見れたのは良かったと、そう思った。
「そ、そうか。俺より強いやつなんかはいくらでもいそうだが……」
あの時の戦いが彼女のお眼鏡に適ったようだ。
マスターとなるにもそれなりの力がいるらしい。確かにそうでなければもう既に彼女にマスターはいただろう。
異世界の「門」を調査するためには、力が必要だ。
そして、この世界の真実に至るためにも力は必要だ。
だからこそ、彼女は眞人を求めたのだろう。
「ああ、登録、登録ね。こういうのはなんだろうな、SFとかだと――」
不意に、彼女が目を閉じで口を噤んだ。
眞人の額に汗が流れる。
「おい、まさか……嘘だろ……」
自分の推測が当たっているのかどうか眞人は悩んだ。
こんな経験などない。いや、これは男女のそれではなくマスターの登録のためのものだ。
そう自分に言い聞かせる。
「……い、いいんだよな? これが登録なんだよな……?」
眞人は息を飲んだ。
最早やるしかない。何でこんな登録方法なのかなど、そういう疑問はすっ飛んでいた。
そして目を瞑り、シュリクに顔を近づける。
その潤んだ幼い唇にゆっくりと口づけた――
■シュリク > 「確かに、貴方よりも強い人物は他にもいるでしょう
しかし、貴方は善良なる心も持っている
……あの時、私を助けてくれたように」
最初の出会いはスラムだ。不良に絡まれていたところに、眞人が助けに入ってくれた
あの時は、余計なお世話だとすら思ったが、今は違う
眞人の善良性は、信ずるに値する美徳だ
故に、彼女は信じたのだ
眞人なら、きっと、上手に自分を使ってくれると
力に溺れて、自らを悪用したりしないと
唇は、嘘のように柔らかかった
ふわりと漂う香りは、薔薇
吐息
熱
少女
――味は、ちょっぴり、サンドイッチ
「……登録、完了。ありがとうございます、マスター
これで私、シュリクは貴方の人形です
貴方の手足となり、貴方を森羅万象から護ると誓いましょう」
キスに対する感慨は、ない
あくまで登録のための必要な、儀式のようなもの
ただし、誰に対しても許される口づけではなく
眞人にのみ許された、眞人のための唇だった
■橿原眞人 > 柔らかい唇だった。
とても機械のそれとは思えない。
本物の人間。
少女のようだ。
少女の吐息と熱を唇に感じだ。
仄かな、サンドイッチの味を残して。
「……ッ!」
事が終われば、眞人はすぐに口を離した。
髪をかきあげ、顔と頭を押さえる。
その頬は赤い。
「クソッ、なんだってこんな方法なんだよ。ほかになんかこう、あるだろ……!」
悪態をつくようにそう言うのだった。変に赤くなっているのを見られたくはなかった。
シュリクにとってはこれは必要な儀式。特に感慨もなさそうである。
一人自分が変に舞いあがるのは道化のようだ。
「……ああ、これで完了なんだな。ったく、びっくりしたぜ。
貴方のお人形って言われてもな、どうにも実感わかねーよ。
森羅万象から護るって、大げさだな……。
まあ、なんだ……よろしくな、シュリク。」
気恥ずかしげにそう言った。
自分の傍に寄り添う少女は、かつての“師匠”によく似ていた。
■シュリク > 「粘膜による接触が、一番識別に役立つのです
遺伝子情報も今ので把握しました。これからはどこにいても、マスターを見つけ出すことが出来ます」
さらりと、怖いことを言った
「まあ、マスターも年頃の男性。くちづけの一度や二度は経験済みでしょうし、そこまで落ち込まなくとも」
さらりと、ひどいことを言った
「ええ、これにて完了です。……これで、私の、私だけの異能……<<再創造>>(リメイク)が発動できるようになりました
ただし、この異能を使うためにはマスターの許可が要りますので、是非、ケータイのアドレスを交代しましょう……」
日が傾く
黄昏色が空を覆い、丁度夕日を背景にシュリクが微笑んだ
その姿は、どこからどう見ても人そのもので
人形、などと言うのを憚れるかもしれない
■橿原眞人 > 「……どこにいても?」
どこにいても見つけ出すことができるなどと言われれば少し固まる。
常に見られているということになるのだろうか。
「……うるせえよ」
慰めるようにシュリクに言われ、より肩を落とす。
眞人にとっては初めてである。
相手は人ではなかったが。
「……ああ、言ってた力の開放ってやつか。
マスターになったんだからその辺もあとで聞かせてもらわねえとな。
……なんだが順番が逆になったような感じがあるよな」
アドレスの交換だ、などと言われればそんなことを呟いた。
無論、先程の口づけは儀式的なものであるとはわかっているのだが。
黄昏が島を包もうとする。
夕日を背景にシュリクの姿を見る。
幼い少女の姿。とても機械には見えない。
それはまさしく、人間だった。
「……師匠」
その姿を見て、眞人は小さくそう呟いたのだった。
共に世界の真実を知ろうと誓った者。今は行方の知れないマスター。
シュリクは、よく似ていた。
日が傾く。
もういい時間だ。黄昏が世界を包む頃、二人は静かに階段を下りて行ったのだった――
ご案内:「大時計塔」からシュリクさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から橿原眞人さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に夜香さんが現れました。
■夜香 > 街を見渡す時計塔。
そこに名の通り夜のように佇む。
視線の先には、明々と灯る祭りの灯り。
「…よく見えるな。」
視覚強化の必要性も無さそうだ。
ぼんやりとそれを眺めながら、スマートフォンをチェックする。
■夜香 > コツ、コツ、とヒールを慣らしながらフリック。
…今日は特に仕事はないようだ。
ならばいい。
この眠らない街には様々な事が起こる。
だが、今日の所は出番はないらしい。
一人、物思いに耽る。
■夜香 > スーツの中に手を入れ、無造作に煙草の箱を取り出す。
とんとんと叩いて、一本をくわえて取り出す。
キンッ、という鋭い音を立てて火を点けたジッポーを近づけ…。
折りよく吹いた風に一度火を消された。
「…チッ。」
少し大きな舌打ちが響き、同じ動作で火を灯す。
ふぅ、と形の良い唇から吐き出された煙が、夜気に紛れた。
■夜香 > すーっとする独特の感覚。
簡単に質のいい煙草が手に入るのは嬉しい事だな、といつも思う。
『こちら』に来てしばらくは買う事もできずだいぶいらついたが。
「……いや、あの時禁煙しておくべきだったかな?」
面白そうに口元を歪めて独り言を呟いた。
財布を圧迫しているわけではないし、ヘビーという程も吸わないが。
■夜香 > 街並みをただ眺めながら煙草をまた一口。
ふぅ、と煙を吐き出すと、スーツの中から黒い塊を取り出した。
どう見ても拳銃である。
セイフティをかけたまま、手馴れた様子でくるくると片手で弄ぶ。
もちろん街並みを見つめたままだ。
「…魔女が今では仕事人、か…。」
呟いた言葉がすうっと消えていく。
ご案内:「大時計塔」にマイケル・クーガーさんが現れました。
■マイケル・クーガー > 女が一人、静かに黄昏るだけの時計塔。
そこに
かつ、かつ、かつ、と階段を上る音が響く。
「おや、先客がいると思ったら……」
上ってきたのは、栗毛にカジュアルな格好の若者.
彼は物怖じせず、彼女に話しかける。
「ホットなオネーサンが一人、こんな所で何してんの?」
■夜香 > 気配を感じてゆっくりと拳銃をスーツの内にしまいこむ。
壁にもたれ、だいぶ小さくなった煙草を吸った。
ふぅ、と煙を吐き出す。
金色の瞳が上がってきた男を見た。
「一人の夜を楽しんでいるわ。」
それだけ言って、口元に笑みを浮かべた。
■マイケル・クーガー > 「奇遇だね、オレもさ。」
と、男は慣れ慣れしく美女に近づいていくと、彼女のすぐ隣に腰掛け
縁から足を放り出して、その琥珀のような美しい眼を見上げた。
「……尤も、それならミーがここに来ちゃったのはBad…お邪魔だったかナ?」
■夜香 > 「それは奇遇ね。」
なぁにナンパ?と続ける。
表情は面白そうに、うっすらとした笑みを浮かべているだけだ。
見上げられると、視線が交錯する。目を逸らしたりする様子はない。
「時計塔は私のものではないわ。好きにすればいい。」
ふぅ、と最後の紫煙を吐き出し、吸殻を携帯灰皿へとしまいこんだ。
そして、街並みをまた見下ろす。
■マイケル・クーガー > 男は知ってか知らずか……否、口振からして知らないのだろうが
彼は彼女の眼を見る事を恐れない。彼女と視線を交すことを恐れない。
それは子供が夜空の星を眺める様に、興味に溢れた視線であった。
そんな視線が、自身から離れ、眼下の街並みに注がれる。
息を呑むような、美しい女の横顔に
「……ヒュゥ。」
実際、息を呑んだ。
「何ならホントにナンパしたい位、イカしてるよ、レディ。」
■夜香 > 好奇心溢れるその視線を横顔で涼しげに受け流す。
女の瞳は、街並みに溢れる人と灯りにだけ向けられているようだ。
それが言葉を聞き、すうっと流し目の視線を男に向ける。
口元に笑みを浮かべて。
「それはどうも。…でも名も名乗らない紳士に付き合う事はないわ?」
暗に自分から名乗れ、と言っている様子。
かなり上から目線に感じる、かもしれない。
■マイケル・クーガー > 「Oh、こいつぁ失礼。」
その言葉に、パタパタと振り動かしていた脚を止めると、手のバネで飛び上がる。
高所で風の吹く中でも、惑わず違わずギリギリの縁にしっかりと着地すると
「ミーの名はマイケル。マイケル・クーガー、サっ。」
腰に手を当て、軽くキメて見せる。
「……ほら、こっちが名乗ったんだからさ
オネーさんもお名前聞かせてくれないとRude、無礼じゃない?」
言葉の端に、嫌味なまでに流暢な発音の英単語を交えつつ
不遜な態度でそう返す。
■夜香 > 「そう。」
名を受けて、一言だけ返した。
高い運動能力を愉快そうに見ている…が驚いた様子は無い。
「ヨスガ。苗字はないわ。」
風に吹かれ、顔に少しかかった髪を手で払う。
……特徴的な瞳がまた顕わになる。
「…こちらの字で、夜に香ると書くの。わかる?」
と、笑みを浮かべたままで問いかける。
■マイケル・クーガー > 「へぇ、ヨスガ。いい名前だね。」
訳知り顔で笑む。
と、鼻を鳴らして小刻みに息を吸い込むと
「フフ、"Names and natures do often agree."
名は体をあらわす、とは言ったものだね。
今宵の風は、何時もと違った匂いの風だよ。」
実際は彼女が先まで燻らせていた、メンソールの香りであるのだが。
■夜香 > 「ありがとう。」
賛辞には素直に礼を言った。
だが、嬉しいというよりは社交辞令といった風情だ。
当然、匂いの元くらいはわかる。
はぁ、と小さく肩をすくめた。ちょっと呆れているのかもしれない。
「煙草を吸う女の匂いでしょう?
…初対面の女性の前で匂いを言うのはあまり感心はしないけれど。」
咎めているようで、しかし謎めいた微笑を浮かべた。
■マイケル・クーガー > 「そう邪険にしないでくれよハニー
ミーは嫌いじゃないぜぇ?、煙草の匂いのする美女は。」
道化じみた態度は崩さず、おどけてそう言って見せる。
が、終始明るい彼の声のトーンが急に静かなものになり、こう続ける。
「少なくとも、同じ煙は煙でも硝煙の臭いよりは、ね。」
胸をこん、と叩く。
■夜香 > 「あら、そう。」
キツく言ったつもりだったが、なかなかに面の皮が厚そうだ。
なかなか肝が据わっている、と心持ち愉快そうである。
「……最近はそれほど撃っていないわよ。」
火薬とオイルの匂いくらいはするかもしれないが、と考える。
叩かれた事を気にせず、手の当たった状態で一歩近づいた。
「珍しくもないでしょう。持っている人は。」
■マイケル・クーガー > 一瞬、触れたまま押し付けるように寄ってくるその大胆さに目を見張りつつ、続ける。
「……That's right、確かにその通りだ。
こんな物騒な物も、こうして度胸の据わったお姉さんも
……そして『アッチ』から来てるような奴も。
この学園じゃぁ、そう珍しいもんじゃない。」
と、ここまで言うとぱっと手を離し
「まぁ流石にオネーさん程の美人さんは、そうそうみられるもんじゃないけどね、HAHAHA。」
と、また道化じみた話し口に戻る。