2015/07/03 のログ
ご案内:「大時計塔」にエイフワズさんが現れました。
エイフワズ > (風が歌う。
 上昇気流が街を洗い上空へと消えていく。
 枯葉をさらってどこへ行くのか。行き先を知るものは無く。)

「ええい。新聞ひとつままならんか」

(カラスがいた。足は三本。血のように赤い瞳を持っていた。
 彼は風に煽られる新聞と四苦八苦していた。巣に使うのでもねぐらにするのでもない。新聞の内容を読もうとしていたのだ。カラスである。街中で新聞を買って読むことなどできない。しかたがなく一日遅れの新聞を拾って読むことしかできないのだが、人間のように親指と向かい合った位置に動かせる四本の指を持つわけでもない鳥類では紙をめくる労力は苦行に等しかった)

「くっ……。好きにしろ。消えろ消えろ」

(言うなり新聞を空に還す。さらば情報源)

エイフワズ > (翼を伸ばして風を捕まえる。舞い上がる。鳥の肉体はきわめて軽く故に風に乗ることさえできる。足を体毛にしまわない短距離飛行。柵に捕まるとクァァと喉を鳴らして大あくび。
 赤の瞳は塔の上から下の街を映し出している。
 鳥類だけが持ちうる視力が発揮される。あるいは、三本足にだけに許される芸当か。遥か彼方。群れを成して徘徊する人間達。語り合い、戦い、歩き回っている。孤独に歩むものはいない。磁石のように引き寄せあう。S極とM極しかしない。第三の極は存在しないように見えた。
 カラスは翼を振ると、塔のさらに上を行く。
 果てしない空。しかし空は地球という惑星の表面に振りまかれた極薄い膜に過ぎなかった。
 カラスは膜の上を飛び去っていく)

ご案内:「大時計塔」からエイフワズさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に遠条寺菖蒲さんが現れました。
遠条寺菖蒲 > 黄昏色に染まり始める放課後に鐘の音を聞いて、思わずここにやって来た。
立ち入り禁止となっているこの非常にに大きな時計塔。
けれど、警備がいる訳でもない。

鐘の音は響く。

昨日の今日で割りと色々と悩みもあるし言われるまでもなく、想いはあるし、最低限自分で決めたこともある。
けれど、理屈だとか正しい言葉で言われるとそれを覆されるような気がして気がついたらムキになって腹を立てていた自分がいることが少し面白くはあったけど。
時計塔の中には、容易入り込む事ができて、大丈夫なのだろうかと少し心配になる。

「螺旋階段……」

探せば恐らく昇降機などがあるのだろうが、今はその階段に惹かれる。
ただ疲れるだけなのに。
一段一段。
一歩一歩。
確実に。

どれほどの時間をかけたのかそれともそれ程時間をかけていなかったのかは分からないが、
幾つか時計塔の仕掛けのなのか機械も眺めたりしつつもその扉の前に辿り着く。
――恐らくは頂上。

躊躇うことなく手を伸ばして戸を開ければ沈みかけた夕日の輝きが視界を焼き、それなりに強い風が僅かに身を導くように引っ張る。

「……高い、けど凄い」

茜色に染まる空を吸い込むように闇が迫る。
街は様々な輝くを灯し出して闇に備える。
その景色は、綺麗だと思った。

遠条寺菖蒲 > 試験は問題ないけれど、色々と考える時間は欲しい。
何もかもが初めてなことばかりだった一ヶ月が経って、
少し息抜きというか、ガス抜きとでも言えばいいか。
敢えて、立ち入り禁止とされたここに入ってみたいと思った。
ちょっとしたルール違反。

「たまには、ね」

街を一望できるし、もしかしてこの島で一番大きな建築物なのではないだろうか。
だなんて今更のように思う。

「確かどこかの都市とかだと建築物に高さ制限とかあるんだっけ……この街もこの時計塔より大きく建てるな、とかあるのかな」

どうでもいいけど、何かを呟いておきたかった。

遠条寺菖蒲 > 大きく息をひとつ吐き捨てる。

「嫌なことも楽しいこともあったけど、大変なことが一番多かったかな……」

思い出すのは事件からはじまって事件に巻き込まれて事件の結果に不満を抱くなどと
今までの生活では考えられないような話だ。
いや、自分が直接関わっている訳じゃない。
事件に近い外側にいて、二つ目の事件は単に巻き込まれた交通事故だったわけだけれど。
どれもこれもが自分の目も手も届かない場所で起きて、そして終わった。

だからか、実感は少し、ない。

いや、巻き込まれたいとかそういう願望があるわけじゃないけれど。

「悪いことや危ない事をしたい訳じゃないけど」

けど。
けども。

「誰かに何かを制限されるのは息苦しい、かな」

今まではそんなことはなかった。
けれど、環境が変わって知って動けると思ったら動けない。
それが嫌に邪魔に感じる瞬間は確かにあるな、と空を見つつ思う。

ご案内:「大時計塔」に畝傍・クリスタ・ステンデルさんが現れました。
畝傍・クリスタ・ステンデル > 黒髪の少女の視界の外。橙色に身を包んだ少女、畝傍は時計塔の上で休息をとっていた。
事件をきっかけとして色々なヒトと関わり、教室にも出るようになった畝傍だが、
やはりヒトの密度が高い場所に長居しているのは精神的な負荷が大きい。
そんな時、畝傍はたびたびここを訪れるのである。
心地よい風に抱かれ、その手には弾を抜かれた散弾銃を持ったまま、つい眠ってしまっていたが。
「……ん」
ふと目を覚ますと、畝傍の視界の隅には鞘の捜索中にカフェテラスで見かけた、黒いポニーテールの少女の姿が見えた。近づいて声をかけてみようとする。
「……きみ、このまえカフェにいた子?」

遠条寺菖蒲 > かけられた声にビクリ、と身を震わせて応えたように見える。

一瞬の間を置いて、菖蒲は畝傍の方へと顔を向けて続くように体も向けた。
流れる一つの動作のように、風に遊ばれつつも黒く長い尻尾も遅れて追従する。

「…えっと、あ!カフェテラスで近くの席にいた」

派手な子、とは流石に失礼なので続けやしないが印象的だったので横目に見ていただけであったが、覚えてはいる。
風紀委員の無愛想な顔の人を信頼して話している感じのした人だ、と。

「き、奇遇ですね……」

少し困ったように僅かに焦りのような色の見える声で菖蒲はそう言う。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「ボクはウネビ。畝傍・クリスタ・ステンデル。きみは?」
まずこちらから名を名乗り、続いて黒髪の少女に名前を聞く。
畝傍は眼前の少女が関西弁を話す長身の少女と一緒にいたことは記憶しているものの、
風紀委員との会話に集中していたため、少女の名前は聞きとれてはいただろうが、覚えてはいなかったのであった。
「ボクはよくここにくるんだけど……きみも?」
畝傍は名乗った後、眼前の少女に対し問いかけてみる。

遠条寺菖蒲 > 「ステンデルさん、ね。
 私はあやめ。遠条寺菖蒲」

挨拶には、身にしみているかのように礼儀正しく。
内心はやや大丈夫かな、とか別のことを考えている訳だが、
それでも習慣と言うのは強い。
畝傍・クリスタ・ステンデルさん、と心のなかで何度か唱えて記憶する。

「そうなんだ。私は今日がはじめて」

よく来るんだと言う言葉に少し立場的には苦笑いしそうになる。
けれど、今の菖蒲も同じ立ち位置なので相手が気にしないならば気にしないでいいのだろう。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「アヤメ。遠条寺菖蒲……うん、おぼえた」
少女――菖蒲の名前を、しっかりと記憶する。
「そっか、アヤメはここ、はじめてなんだ」
菖蒲に微笑むと、畝傍は自身がここに来ている理由について話した。
「ここはあんまりヒトがこないから、おちつけるんだ。ボク、ヒトがおおいとこ、にがてだから」
だからこそ、人が訪れることの少ないこのような場所は、畝傍にとって一種の聖域といえる。

遠条寺菖蒲 > 「そうね、確かにここはいい場所だと思うわ」

そう言って一度数歩ステップでも踏むかのように歩いて街を一望する。
夕日に彩られた街。強い輝きの影に闇を作り夜に呑み込まれる前の姿。
一瞬、その光景に菖蒲は見惚れる。

振り返り、畝傍を見てちょっとした感動に瞳を輝かせて。

「落ちつけるいい場所よね」

笑顔で同意し、
そして少し申し訳無さそうな笑顔に変わって

「ここがステンデルさんの大切な場所だったのなら、突然来てしまってごめんなさいね。
 私も少し羽を休める場所が欲しかったみたいだから」

と続けた。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 菖蒲に並ぶように、畝傍も数歩ゆっくりと歩き、街の方向を眺める。
いつ見てもよい眺めだ、と畝傍は思っていた。
「ううん」
菖蒲の謝罪に対して首を振り、問題ない、といった顔と声で。
「アヤメはわるいヒトじゃなさそうだもん。いいよ。アヤメだって、やすみたいもんね」
そう言って、また微笑む。
「……ボク、このまえはわるいヒトにあっちゃって、たいへんだったけど」
と、やや小さい声で呟きつつ。

遠条寺菖蒲 > そう言う畝傍の言葉を受けて少し笑う。

「そういうステンデルさんは少しおやすみなされていたみたいですね」

少し茶化してから、
悪い人に遭っちゃって、と聞いてそれでカフェで風紀委員に?などと少し思考を膨らませるが。
変に勝手に詮索するのはナンセンスかな、と考えて少し目を閉じてゆっくりとあける。

「悪い人に遭っても、無事で済んだのなら良かったと思います。
 大変だったみたいですけど、大丈夫だったのでしょう?」

少し下から顔を覗き込むようにしてそう尋ねる。
ぱっと見ではボディスーツというのもあり怪我などは菖蒲に見つけることは出来ない。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「うん。いまはだいじょうぶだから、アヤメはあんしんして。こんどあったら、ボクがこらしめてやるから」
菖蒲の問いに対して、腰に手を当て笑顔で胸を張る。その豊満なバストが、ぷるん、と揺れた。
もっとも、先日この大時計塔で畝傍に危害を加えんとした因縁の相手たる男――狭間操一が、
すでに命を落としていることを、畝傍自身はまだ知り得ていなかったのであるが。

遠条寺菖蒲 > 「そう言うのなら安心しますが、無茶と無理はあまり良い結果を生みませんので
 危ないと思ったら逃げるのがいいですよ」

なんだか可愛らしいと感じる子だと思う。
自分よりも少し大きめの背丈だけれど、恐らくは年下かと思われる。
もしかすると同い年くらいかもしれないけれど、などと喋り方などから考える。

「だから、私のいる前でステンデルさんが危ないと思ったら私が手助けをしましょう」

とは言え、菖蒲の戦闘方式は肩にかけている刀袋からも推察可能な通り基本は近接戦が主である。
となれば戦闘に関わったとすれば逆に手助けされる可能性の方が高いだろうと思うのだが、会えて口には出さなかった。
ちょっとした言葉のつもりであったから。けれど実際に目の前でそう言う状況が起きれば恐らく菖蒲は躊躇しないのだろうが。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「うん。そのときは、おねがい。ボクもアヤメがあぶなくなったら、たすけるから」
そう言い、手にした散弾銃を強調するように菖蒲に見せつける。
弾は抜かれ折り畳まれているので、今この場において交戦の意思がないことは推察できるだろう。
畝傍の戦闘スタイルは菖蒲とは正反対で、射撃が得意な代わりに接近戦は不得手だ。
一応ナイフを携帯してはいるが、これは弾切れの際に用いる投擲武器としての用途が主である。
畝傍は、自身よりもやや背丈は小さいものの、恐らくは心身ともに年上であろう菖蒲に頼もしさを感じていた。

遠条寺菖蒲 > 「もしものときは頼りにさせてもらいますね」

少し笑みが溢れる。
この景色とこの場所を好むもの同士としての信頼、とでもいうのか。
不思議なものだな、と。

「ちょっとした約束ということで」

出来ればそんな状況はないほうがいいけど、なんて小さくぼやいた。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「やくそくするよ。もしものときは、ボクがアヤメをまもる」
そう言って、笑みを返す。少女同士が二人きりの場所で交わす約束。
このような光景は、畝傍にとっては二度目である。
最初に交わした約束の内容は、未だ忘れてはいない。
そして、畝傍は今もその『約束』に殉じる覚悟で行動を続けている。
畝傍は菖蒲が恐らくは気付いていないであろうところで、その左手を強く握りしめていた。

遠条寺菖蒲 > 「そして、もしもの時に私の手が届けば私がステンデルさんを助けますね」

少し夕日の影に表情を隠して。

二度目の約束は守れるだろうか、と菖蒲は考える。
一つ目の約束は、もう果たされることはない。
既に終わってしまったてしまっている。

「……」

ならば、この約束は守りたいと思った。

畝傍・クリスタ・ステンデル > しばらくして、握りしめた左手を解いた後。
「それじゃ、ボクはそろそろ行くよ」
そう言って、菖蒲に背を向けないまま数歩下がると、
畝傍は脳波操作により、背負ったフライトパックを起動。
板状の羽が左右に突きだし、その先端に位置する卵型の噴射装置に点火され、畝傍の体は徐々に浮き上がっていく。
「じゃあね、アヤメ」
手を振って別れを告げ、橙色の少女は夕焼け空に溶け込むかのように飛び去って行った――

ご案内:「大時計塔」から畝傍・クリスタ・ステンデルさんが去りました。
遠条寺菖蒲 > 「ええ、私はもう少しだけいるわ」

と返して、
階段を降りていくかとおもいきや板状の羽根が出てきて驚いてると畝傍は空へと消えていった。

「……ははは、あれじゃあ下を施錠してもそりゃあ意味ないよね」

異能と魔術、それに科学もある世界だ。
術さえ持っていれば空も飛べる。

「……次会う時も笑い合える場所だといいけれど」

ちょっとした不安、カフェテラスで彼女を見た時の表情を少し思い出して。
何か考えるわけでもなく、少し無駄に夕日が沈むまではここに居ようと思った。

ご案内:「大時計塔」から遠条寺菖蒲さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」にクゥティシスさんが現れました。
クゥティシス > (夜半。人であふれたこの学園都市に於いて―)

(人の営みの最中にありながら此処まで人の世界と隔離された場所も珍しい)
(この塔の屋上に居る時だけは、自分は人の社会の営みの中で生きていることを忘れてしまう)

(遮るものなく吹く風は、何処か故郷と同じく自由な匂いを感じられる)

(空一面に広がる星空は、故郷で草原に寝転んで見たものとよく似ている)

「…やっぱいいな、ここ」

(満足げに一人で頷き、フェンスに身を預けて暫し、夜風を堪能する)

クゥティシス > (学生区はもちろん、その向こうにある落第街や異邦人街までもが見渡せる)
(眼下に見える灯りすべてに人の営みがあるのなら―)

「誰か答えてくれない…かな?」

(すぅ、と大きく息を吸い込んで)
(何処までもどこまでも。この島の全てに―この世界の全てに―)

(次元の壁を越えて故郷にまで届けばいいと願い)

(寂しい狼の遠吠えを響かせた)

クゥティシス > (遠吠えは遠く遠く響く)

(残響し、空気を震わせて―眼下の学生街へ、異邦人街へ、落第街へと響く)

「…やっぱダメかぁ」

(それでも、返ってくる物音は無い)
(当然だ)

「此処はニンゲンの世界、だもんね)

(故郷であったのなら、どこかで遠吠えが響けば即座に誰かが鳴き返し―)
(山も無いのに山彦のように遠吠えの連鎖が響いていたというのに)

(此処では、自分の呼びかけに答えるものはない)

「……寂しいな、やっぱり」

(こんなことで、と人が見れば言うかもしれない)
(けれども、彼女にとってこれは日常的なコミュニケーションの一つであった)
(ごく当たり前に行われていた―それこそ人間たちが行う会話にも等しい物)
(それが通じないとなれば―)

(彼女の感じる孤独を如何許りか理解することが出来るかもしれない)

ご案内:「大時計塔」に渡辺慧さんが現れました。
渡辺慧 > まるで。
「呼んだ?」

とでも、言うかのように響く足音。

カツリ、カツリ。
いつかのようにのんびりとした足音。
特徴的な、わざとらしいほどへたくそな鼻歌を鳴らしながら、それは時計塔を登ってくる。

クゥティシス > (その足音が刻むリズムに、尻尾が跳ねる)
(のんびりとした独特な歩調は、覚えがある)

(そして何よりこの鼻歌)
(ぞくん、と全身に走る痺れは何だろうか。期待?それとも?)

(知らぬ人と見ればすぐさま物陰に隠れるのが常となっていたが、今回はその必要は無さそうで)

「―や、久しぶり」

(振り返り、待ちかねた来訪者へとはにかんだ笑顔を向ける)

渡辺慧 > 「ん。……久しぶり」

シシシ。
少年の笑い方。

名前も知らない彼女。
いつか、また会う、それに似た約束をした彼女は。
何かの偶然か、はたまた。


「また会ったな」
少年の意思か。
再会は訪れる。

クゥティシス > (どれだけぶりだろうか。あの時に会った時とは随分と立場が変わってしまった)
(外見からそれを察することは難しいかもしれないけれど)

(それでも、変わっていないものもある)

「ん、また会えた。クゥは会いたかった。だから、良かったなって」

(淡々と交わされる言葉の端々に、弾む心が滲むのを止められない)

「約束、覚えてる?」

(一歩。前へと踏み出した)
(彼我の距離は15メートル)
(この一歩が、二度目の会合で二人が近づいた距離)
(この問いかけは、次の一歩を踏みだすためのもの)

渡辺慧 > 「んー」

右手に持っていた箱。
――中身は、ドーナッツ。
試験終り。自分にとっても、丁度いいその代物。

それを楽しそうに、のんびりと彼女に見えるように掲げた。
覚えてるよ、と言葉にしないまでも。
――食べ物で釣ってるみたいだな、これ。

なんて、思考のせいで、少しだけ苦笑が浮かんでしまったけど。


「うん。だから、聞かせてもらおーかな」

最初の約束は。

「――君のお名前は?」

まずは、ここから。最初の一歩だ。

クゥティシス > (差し出されたドーナツ)
(ぐっと抑えつけていた心の鍵が一つ、外れたのが分かった)
(だってほら、こんなにも尻尾が揺れるんだから)

「そのぐらいでいいよ。その方が分かりやすいからね」

(くすり、と笑う)
(そう。理由なんて、きっかけなんてそれでいいのだ)
(大事なのは―)

「クゥティシス。クゥティシス・トトル・ラクィア」

「―貴方の名前は?」

(大事なのは、此処で交わされる言葉と)
(此処で会えたという事実)
(そして、二人が一歩を踏み出したということ―)

渡辺慧 > 揺れる尻尾。
そこに目線が行った。

うん、だからこんなにも楽しくなる。
表情にだって、多分。
それはいつも以上に出てるだろう。

「喜んでもらえたみたいでうれしーよ」

ワザとらしいほど、恭しく。
冗談交じりに頭を下げ。
それを終えると、にんまりと、悪戯気に笑った。


「慧。渡辺・慧」
彼女に合わせて。
かっこつけたように、そう名乗ったって。
この場では許される気がした。

クゥティシス > 「慧、ケイ、けい」

(告げられた名を呼ぶ。何度も、こうして口にすることで―彼の名前を、自分の中に刻み込む)
(忘れることが無いように。忘れようも無いのだけれど―何だか無性に呼びたかった)
(何度でも、何度でも。やっと会えた人の名を呼んでおきたかったから)

「ね、食べよ?今度はクゥも持ってきたんだ」

(ほら、と片手に持った紙袋を見せて笑う)
(中には鯛焼き。彼から教えられた美味しいもの)
(食べるときにはこの場所で、と。そう決めていたもの)

(そうして、もう一歩を踏み出した)
(だって、一緒に食べたいから)
(一緒に食べるには、もっともっと近づかなくちゃと)
(そう、言い聞かせながら)

渡辺慧 > 「そーですー。慧。慧でございますよー」

何度も呼ばれる名前に軽く。
口元にはいつもの笑みを浮かべて返す。

「クゥ。……でいっか」
彼女が自分自身をそう呼んでいたのは覚えていた。
なら、自分もそれにならう。
呼びやすくて、覚えやすい。

「やるじゃん、クゥ」

一緒に食べる。
うん、それはいい。
なら、近づかなきゃいけないんだろう。

のんびり。
彼女に近づくように、一歩。
合わせた様に一歩。

頭に被っているフードが、此処に吹く風で、ふんわりと揺れた。

クゥティシス > (褒められた)
(人に褒められるなんていつぶりだろう)
(褒められるって、こんなに嬉しかったっけ。それとも―)

「―へへ。もっと褒めていいよ」

(一歩。踏み出して尻尾が機嫌よさげに揺れる)
(風に吹かれて、パーカーの隙間から覗いた彼の髪色に、頬が綻ぶ)

「ケイの髪、そんな色だったんだね。暗いかったし…フード被ってたし。前はよくわかんなかったんだ」

(また、一歩)

「前も着てたけど。それ…お気に入り?」

(もう一歩、踏み出したくて問う)
(縮まる距離が嬉しくて、頬が緩むのを止められない)
(誰かのことを知る。それだけの筈なのに、不思議なものだ)

渡辺慧 > 「褒められるところがあったらな」

気まぐれ。
気まぐれなら、気分で褒める。
褒めるところがなくても、軽口で何か言える。
でも、なんとなく今は、これで済ましたい気分だった。
はて。それはなぜか。

――さぁ?

「クゥのは、暗くてもよくわかるね」
「うん、綺麗な色」

夜に映える色。……でも、どっちかっていうと。
明るい太陽の下で、見たい気もした。


「いいだろ。似合ってる、って言ってもいいぞ?」

近づく距離。
ただの物理的に近しいこの距離は、特に。
何を意味してるわけではない筈だ。
だから、別に気にすることはない。
だから、もう一歩。

クゥティシス > (綺麗な色だと言ってくれた)
(彼にそのつもりがなくったって、今のは褒められたととってもいいのではないだろうかと)
(そう考える前に、尻尾と耳が揺れる)

「それなら―また、今度ね?」
「うん、また今度」

(何時になるかは分からないけれど、こうして気軽に交わす口約束が心地いい)
(さして拘束力の無い、のんびりとした、緩やかな約束)

「うん、似合ってる。ケイ、って感じするもん」
「クゥね、この世界に来てその服着てる人、ケイが初めてだったから」
「だから、ケイはその服、って感じなの」

(街行く人のパーカー姿につい振り返ったのは一度や二度ではない)
(でも、それは言わない。何だか悔しいから)

(気づけば互いに詰められる距離はもうなくて)
(屋上の中心で二人向かい合い―)

「……ん、これ」

(詰められる距離が無ければ、踏み出す一歩も無い)
(先ほどまであんなに距離が縮まるのが楽しかったのに、なんだか急に寂しくなってしまって)
(しおれる尻尾をごまかすように、手にした鯛焼きの袋を差し出した)

渡辺慧 > 「おう。――また、此処で」

あやふやな約束。
だから、楽しい。
――自分だって、何度かここに会えるかな、なんて。

足を運んでたことは。
かっこつけるさ。男の子ですもの。

「じゃあこれ、脱いだら分かんなくなるのか」
今度は脱いで着てみようかな、そう楽しげに漏らす意味はない。
ないけれど、軽く口を叩く意味は、今、この場なら。

とても近い距離。
これ、と言って差し出した、彼女の顔が。
なんだか寂しそうになったのがおもしろくて。

その袋に手を伸ばす――

――ようにして、その頬へ手を伸ばして、頬を少しだけ引っ張った。

「なんで寂しそうな顔してんのさ」
また、自分の顔が楽しげな顔に。
歪んでいるのが、何となく――理解できた。

クゥティシス > 「ん、むぁ」

(頬に触れる手の感触に思わず間の抜けた声が漏れた)
(引っ張る前に、彼の手が髪の毛先に触れた時に漏れたことに気づかれてはいないだろうか)
(そんなズレたことを心配しつつ)

「―なんでもないよっ!鯛焼き冷めちゃったのがショックなだけだもん」

(先ほどまでと同じく、夜空に笑顔の花を咲かせた)
(その理由は口にはしないけれど―知られたら、なんだかよく分からないけど恥ずかしい気もするし)

「ほら、食べよ?」
「クゥもそれ食べたいし!」

(咲かせた花は、今度はしおれることはない)
(明るい表情のままその場に腰を下ろし、隣を軽く叩いて促した)

渡辺慧 > 「……シッ」

笑み。
「風邪引くなよ」

ただそれだけ。


今ので、笑顔を浮かべてくれるなら。
まぁ、それだけでいいかな、なんて。

ん。
と、それだけ言うと。


隣に胡坐をかいて座った。

自らの手にぶら下げていた、ドーナッツの箱を開け。
どうぞ、と言いたげに横顔だけ見せながら笑って。
お返しとばかりに、こちらも鯛焼きを、袋から取り出した。


「んー……」

「……だいじょぶ。冷めてねーよ」
彼女が寂しそうな顔を浮かべた意図はわからなかったけど。
違う理由なことは、何となくわかったけど。

その鯛焼きは、おいしそうだった。

クゥティシス > 「そう?だったらよかった」
「いただきます」

(ドーナツを手に取り、一口)
(二口。前回と同じく、食事中は静かなものだ)
(ゆっくり、ゆっくりと噛み締め、味わう)

(一人で食べるのとは違うドーナツの味を)
(時計塔の屋上で流れるゆったりとした時間を、噛み締める)

「…美味しいね、これ」

(視線はまっすぐ夜景を見つめて呟く)
(隣に座っていれば、視線を交わさずともその存在を感じ取れるから)
(隣に誰かが居てくれるというだけでいい)
(ただそれだけで、ドーナツは何倍も甘く、美味しく感じられるから)

渡辺慧 > 「鯛焼きもね」

いただきます。
同じようにそう零すと、かぶりついた。

――また、いなかったら、いなかったで。
自分だけで食べようと思ってたドーナッツ。
それが今、約束を果たすと同時に、彼女がそれを食べている。

また。普段と一段と違って。

「うん」

ひどく。楽しそうに、それは美味しそうに。
口の中を転がる甘味は、格別だった。


――近いなぁ。

クゥティシス > (緩やかな夜風に吹かれながら、互いに言葉も少なく時間は過ぎる)
(空に瞬く星々だけが知っている)
(彼らが不思議な時間を過ごしていたことを)

(彼女の尻尾がずっと、機嫌よさげに揺れていたことを)


「―ごちそうさま、っと」

(時は有限。月が少し傾いた時分になって、二人の会合は終わりを告げる)
(お菓子が無くなれば、此処に居る「分かりやすい理由」は無くなってしまうのだから)
(他にも理由はきっとあるのだろうけど、今はそれでいいのだ)
(お菓子が食べたくて、此処に来る)
(それだけでいい)

「―そろそろ、行くね」
「今日はありがと、ケイ。約束覚えててくれて嬉しかった!」

(立ち上がり、ぐーっと伸びをしてからぺこりと頭を下げる)

渡辺慧 > 「ごちそうさま」

時は有限。
終ったお菓子は、この一夜の出会いの終わりともいえる。
他の理由は、この少年にもよくわからないけども。

だから。

「あー……っと、クゥ」
立ち去ろうとする、彼女に向け、横顔だけ向けて何か言おうと名前を読んだ。

だけど。
その何かは、言葉になるものではなさそうだ。

「……いいや。また、ここで」

いつも通りの、猫のような笑い方。
見送るかのように、視線は前を向き。
片手だけ。その手だけを振って。

クゥティシス > 「ん、何?」

(少年の言葉に立ち止るも、続く少年の言葉にふっと笑みをこぼし)

「そだね。…また、此処でね」

(次もまた、この場所で)
(緩やかな約束を再び交わして、今宵の茶会は終わり行く)

(先ほどとは逆。入り口に向け一歩を踏み出そうとして―立ち止る)
(視線を向けずに振られる手を見て小さく笑い)


(音も立てず、挙げられたその手に顔を近づけて―)



「ん、これで大丈夫!」
「さっき、違う格好で…って言ったでしょ?」
「それでもいいよ。クゥ、ケイの匂い覚えたから」
「恰好が違っても、髪の色が違っても、顔を隠してても…ケイだってわかるからね!」

(くすくすと楽し気に笑いながら入り口の戸へと駆けだした)

「ルルフールはね、友達の匂いは絶対忘れないんだから!」
「どんなに離れてても、すぐに見つけられるんだからね!」
「ばいばい、ケイ!またね!」


(開け放たれたままの戸をくぐり、弾むような足音だけを残して少女は去っていった)