2015/08/14 のログ
東雲七生 > 「そうなんだよなあ、俺もあんまり研究区でアパート借りてるって知り合い居なくてさあ。
 みんな寮とかだから羨ましいんだよね、ちょっとさ。
 ……うん、まあ。異能の制御を研究してるとこでさ。ちょっと手伝ったりしてる。」

月に何度か、程度だけどね、と首肯する。
その内容までは、流石に言えるような事じゃなかったが。

「そっか、人に相談か……。
 けどまあ、実際そこまで大ごとって訳じゃねえんだよなあ。
 今まで考えない様にしてた事に改めて向き直らなきゃ、ってなっただけでさ。」

今、足りないのは単に自分の勇気だろうと、七生は思う。
それを相談したことで得られるかと考えると、少し考えてしまうし、
それが何だか申し訳ないような気持ちになってしまうのだ。

鈴成静佳 > 手伝いしてるんなら、確かに研究区住まいのほうが都合いいんだろうけど。
でも羨ましいと思うなら、こっちの方に住むのも少しは考えてみたらどう? 賑やかッスよ?
どーせ狭い島なんだしさ、自転車なり原付なり飛ばせばどこにだってすぐ行けるッスよ。

(……おそらく、学費の心配がないのも、その「研究の手伝い」故なのだろうか。金の出処自体に無頓着のようでもあったが)

(なお静佳には瞬間移動の能力があるので、それこそどこにだって最大10分ほどで行ける)
(毎秒10mずつ瞬間移動していればそれは実質時速40kmにちかい速度なわけだ)

……ふむ、改めて向き直る、ねぇ。アタシの悩み事と近いところはあるかも。
(体育座りのまま膝頭で手を組み、親指をじっと見つめる)
ぶっちゃけ言うとね、アタシの考え事ってのは、人付き合いのことで。
異能でめちゃくちゃ悩んだり苦しい思いしてる人とか、何百年も生きてきた異邦人とか。そういう人たちとどう付き合えばいいか。
どうやって切り込んで行けばいいか。ここに来てから何回か失敗もしちゃってさ。ちょっと、分からなくなってきちゃって。
……ま、答えとしては、いきなり仲良くなろうとせずにもう少しじっくり寄っていけばいいかなっていうありきたりな落とし所でね。フフッ。

(東雲さんの方へ向き直る。その表情はどこか浮かない)
(なかなか悩みを打ち明けてくれない東雲さんにやきもきしているようでもあるが、先述のとおり、ずけずけ踏み込みすぎてもいけない領域は誰にもあるもので……)
(静佳の悩みは先のように一応の答えは出ているものの、やはり、積極的に絡めないことには悶々とする性分なのだ)

東雲七生 > 「そうだなあ……
 原付とか、免許取れたらちょっと考えてみようかな。
 とりあえず契約上、最低半年は住んでなきゃいけないから、もうちょっと居るけどさ。」

夜空を眺めながら、思案気に口を尖らせる。
研究の手伝いも、事前に連絡を受けていれば距離も問題にならない筈だ。
引っ越すのも、良いかも知れない。少し本気でそう思えてくる。

「人付き合い?」

意外そうなに鈴成の顔を見る。
少なくとも目の前の少女は、そういう悩みとは無縁の様な性格だと思っていたが。
それでも続く語りを聞いて、なるほど、と納得した。

「異能で悩んだりしてる人とか、長生きしてきた異邦人とか、か……。」

前者の知り合いは居ないが、異邦人の知り合いなら七生にも居る。
そんな彼らとの付き合い方となれば、まあ悩むのも解る。
なるほどね、と大きく肯いてから、一度息を吐いた。

「……俺の悩みも、まあ似たようなもんかな。
 似たような、っていうか、俺にもまだよく分かんないんだけど。
 俺自身、何を悩んでるのか、まだ整理がついてないと言うかさ。」

きっと、踏み込んで失敗してきた鈴成と違って、
踏み込む勇気が足りない故の悩みなんだろうな、と自己分析にもならない考えが頭に浮かぶ。

鈴成静佳 > 契約ねぇ。東雲くんも大変ッスね、アタシとそんな歳変わんないのにさ。
(童顔を覗き込み、穏やかな笑みを浮かべる)
……まぁでも、寮は寮でいろいろ締め付け厳しいから一長一短だけどね。いまは夏休み期間中だから、ある程度遅く帰っても怒られたりはしないけど。
寮じゃない普通の賃貸だって、探せば安い部屋はきっとあると思うッスよ。

(そして東雲さんの悩みについては、軽く頷き)
あー、よくあるッスね。まとまりが全くついてなくて、話そうにも話せないことは。
そういうのって無理にまとめようとすると収集つかなくて、寝れなくなっちゃうこともよくあるんスよねぇ。
……正直、アタシもその段階だったら他人に話せずに悶々とすること多いから、人のことは言えないな。

(どんな悩みだろうか。聞けないのなら、想像してみる。友達付き合いだろうか、恋だろうか、異能についてだろうか)
(……この歳頃の男子にはいろいろありそうで、これはこれでまとまりがつかない)

まぁそんな時も、アタシの場合はとりあえず、人に話せるレベルまで整理できるよう、本気で考え込むね。
できるだけ頭がスッキリするように下準備をして。昼間しっかり運動したり、美味しいもの食べたり、あとは……フフッ、いろいろしたり。
東雲くんも運動好きなんだから、暑さに負けずに目一杯運動するといいッスよ。身体を動かさないと、脳も動かないッスからね。
……かといって熱中症は勘弁して欲しいけどね。フフッ。
アタシ保健委員になったし、皆の健康も心のケアもできるように頑張りたいけど……さすがに、話せない悩みまでは手出しできないからね。
(静佳もひとつ溜息をつき、南の夜空を見上げる。もうすっかり陽は暮れているものの、居住区や歓楽街の明かりで、空は薄ぼんやりと明るい)

東雲七生 > 「いやぁ、普通の賃貸契約だって。」

へらり、と鈴成の笑みに同じように微笑を返して。

「まあ、どこも一長一短だよなあ。
 確かに安い所はあると思うけど、
 それでも倍率高いだろうし、別に金に困ってーってわけでもないから、どうせならそういう人に寮は使って貰いたいじゃん?」

こてり、と小首を傾げる。
そして自分の悩みの話になれば、少しだけ困ったような顔で頷いた。

「まあ、そんなわけで。
 人にあんまり相談できる段階じゃないって言うか、まだまだ考えなきゃいけない段階でさ。
 でも俺、あんまり考えるのとか得意じゃねえから、慣れない事してちょっと頭がオーバーヒートしそうになってるってとこなんじゃねえかな。」

鈴成の言い分は十分に理解できる。
頭を動かすための下準備。確かに自分には必要だろう。
なるほどこの数ヶ月で、様々な悩みと向き合って、
この少女もかなり成長したんだな、と七生は他人事の様に感心する。
三日会わざれば括目してみよ、とは男子に限った話でもないらしい、と。

鈴成静佳 > あ、そっちの契約ッスか。アハハー。
(思えば静佳は賃貸契約とかそういったのが面倒で、半ば思考停止的に女子寮を選んだような気がする。しかも後付でルームシェアに変えたりと……)
たしかに、寮は貧乏学生には頼もしいッスね。当然倍率もあるけど。
……ただ、男子寮はそんないい場所じゃないッスよ? メンテが行き届いてないというか。金があるなら普通に部屋借りるのが正解ッスね。
(人差し指を立てながら、まるで見てきたように説明)

……うん、悩み事についてはね、やっぱり何だかんだで、早い内に人に相談したほうがいろいろためになるッスよ。
まとまらないうちは難しいと思うけど、「まとまりそうだけど後ひと押し」くらいの時から相談してみるとかね。
もしかすると、似たような悩みを持ってたり解決した人に当たるかもしれないしね。そしたら儲けモン。
アタシみたいな友達相手が嫌なら、保健室の先生とかでもね。養護教諭ってのはそういうカウンセリングも仕事のうちッスから。
(蓋盛先生の顔を思い浮かべる。あのような先生に自分もなれたらなりたいものだ)
あるいは、もっと親しい人とかね。親とか、恋人とか。

……そうだ。東雲くん、彼女とかできたッスか?
(にんまりと笑みを浮かべながら、唐突に聞く)
(こちらとて、東雲さんとここまで話すのは数ヶ月ぶりだ。そういった事情に変化があっても然るべき……)

東雲七生 > 「いったい何の契約だと思ってたんだ……?

 まあ、良いや。
 そっか、男子寮は管理がイマイチなのか……ふむ。」

七生自身一度女子寮に呼ばれて遊びに行った事があるので、
鈴成も同様に男子寮へ行った事があるのだろうと判断した。
とことん疾しい事とは無縁って顔で繰り返し肯く。

「そっか……そうだよな、うん、そうだな。
 とにかくもうちょい、この、モヤモヤしてんのを整理してから誰かに相談してみるわ。
 今俺に必要なのはそこからだと思うし、サンキュー鈴成!」

まずは自分の悩みを明確にする。相談相手はそれからだ。
幸い目の前の少女を含め、
相談相手になってくれそうな人物には何人か心当たりもある事だし、と静かに暖かく笑みを浮かべる。

「えっ?……あ、彼女?
 い、いやあそれが……えっと、まだというか何と言うか……。」

痛いとこ突かれたな、と笑いながらもその頬を伝う汗を拭う。
失恋もしたし、向き合わなきゃいけないその手の問題も抱えているには抱えている。
しかしそれを口にするには、少し少年には気恥ずかし過ぎた。かと言って笑って誤魔化せるほど狡くもない。

鈴成静佳 > いや、なんか研究の手伝いって言ってたし、それで住み込みとかしてるのかなーって思ったんスよ。
お仕事の契約というか? まぁ違ったようだけどね。
男子寮がよくないのはまぁ女子寮とくらべてってのもあるけどね。でかいお風呂があったり広い食堂もあったりで、決して悪い場所ではないよ?
ただまぁ……女の子を部屋に呼んで遊ぶってのはできないっぽいからそこは注意ッスね。
(その点だけは真顔になって説明しておく。大事なことだ)

……と言いつつまだ彼女なしかー。素材いいのに勿体無いッスねぇ。なんかそういう男子多いなぁ。
(冷や汗を垂らして表情を崩す東雲さんを横目に見て、クスッとおかしげに笑う)
でもなんかその慌てぶり、筋アリって感じがするような。目にかけてる女子くらいは居るんでしょ? 誰かまでは言わなくていいッスけどね。

せっかく出会いに事欠かない島なんだし、だいたい夏休みまでにみんなつがいになってるもんだと思ってたけど、意外とみんな奥手なんスねぇ。
アタシのルームメイトなんて4人中2人はもう彼氏持ちッスよ?
(指折り数えつつ)
……まぁそう言うアタシも、そういうのはいないけどね。これはアタシの方針なもんで。一人に入れ込みたくないっていうか。

東雲七生 > 「あー、なるほど!いや、違う違う。
 でもまあ、研究所の紹介で借りたアパートだけどさ。
 へぇ、細かいとこまで見てんだなあ……そこまで見てく余裕なんか全然なかったのに俺。
 ……まあ、部屋に呼んでも出来る事とかあんまりないだろうしなあ。俺料理出来ないし……。」

以前女子寮に呼ばれた理由が手料理をご馳走になる、ということだったので。
それ以外となると皆目見当がつかない初心な七生である。まずデートという発想が無い。

「あはははは……まあ、何つーかなあ。
 そこそこ女子のダチも増えて来たけど……あくまでダチというか……。」

言えない。知らないうちに好きになってた先輩にフラれてトラウマになってるなんて。
とてもじゃないが、言えない。

「奥手というか、まあ何かと物騒な話も聞くじゃん?
 おちおち恋も出来やしないってとこなんじゃねえの。知らんけど。
 ……いやまあ、鈴成の方針はまあ、うん。大いに結構だと思うけどね。」

そうやって聞かされても、どんな反応をすれば良いのか困ってしまう。
いっそ自分も“そういう風”に割り切ってけば楽になるのだろうか、と考えなくもないけれど。

鈴成静佳 > 逆ッスよ、逆。料理できないなら女子呼んで作ってもらうとかね。
まぁそんな家庭的な女子がこの島にどんだけいるかは疑問なトコもあるけどねー。フフッ。
(女子を呼ぶ、という話でデート云々の思考にすら行き着かない東雲さんには、静佳も内心呆れて鼻息を鳴らす)
(とはいえそこは人それぞれだ、呆れを態度に出しても攻め込んだりはしない)

(物騒、という発言には静佳の笑みも濁る)
……そう、ッスね。物騒。海を怪物が襲ったり、風紀委員の本部が荒らされたり、公園で発砲事件があったり。
実際、そこもアタシの悩みの種の1つッスね。ほら、アタシ全然弱いからさ。正直怖いよ。

(じっ、とまっすぐに東雲さんを見据える)
でもだからって、物騒だからって恋もデートもできないってのは、とても寂しくて、とても怖いことだと思うよ、アタシは。
もし怖い目に遭ったとして、助けを呼べる人、そのときの怖い体験を気軽に話せる人。
そういう相手が居ないなんて、単に「治安が悪い」ってこと以上に怖いと思う。

……アタシのルームメイトの2人もね、いろいろ辛い過去があったり、この島で辛い目にあったりしてる。
でも頼れる友人や彼氏がいるから、前向きになれて、今も島で暮らしていけてる。アタシもその「頼れる友人」の一人で居たいと思ってる。
東雲くんは男子だから、できれば「頼れる友人か彼氏」になって欲しいけど。まぁ、力や技が人それぞれな常世島では、そんなに男女に差はない気もするね。
でもとにかく、ダチだろうと彼女だろうと。居るに越したことはないんだからさ。大事にしたほうがいいッスよ。

(隣に座る男子の肩を、ポン、と優しく叩く)
「危なっかしくて恋もできない」なんて、淋しいこといわないで。守り守られる関係ってのこそ、危なっかしい常世島では大事な絆ッスよ。
フフッ……。(笑う静佳の声は、どこか乾いているようにも聞こえるかもしれない)

東雲七生 > 「うーん……そういうもんか。
 確かにあんまり家庭的って感じの女子ってあんま見ないな。」

ふーん、と感心した様に頷きながら。
何人かの異性の知り合いの顔を思い浮かべてみたものの、確かに家庭的かと言えば、どちらかと言えば否、だ。
そもそも何人かまともな食事の概念が無さそうなのまで居る始末だ。

「うーん……」

少女の話を静かに、最後まで聞いて。
肩を叩かれれば、複雑そうな顔で、それでも微笑んだ。

「確かに、鈴成のいう事も、もっともなんだけどさ──」

恋人や友人、頼れる相手が居るというのは物騒な中でも大事なのだろう。
そこに異論はない。身内にそういう人が居る分、鈴成の言葉はとても力強く感じられた。
でも、それは、

「──いや、そうだな。確かに、大事な絆だよなー。」

──“失わなかった”立場の、“持ってる”人間の言葉だ。
大事な物が大事なまま手元にある、謂わば恵まれてる人間の視点で。
力強い言葉は、同時に酷く残酷な響きを伴っている様に七生には感じた。

「──なあ、鈴成。強いって、弱いって、何なんだろうな。」

よいしょ、と小さな掛け声とともに立ち上がりながら。
ぽつりと、そんな言葉が零れた。

鈴成静佳 > (東雲さんが立ち上がれば、静佳も続いて立ち上がり、お尻の埃を払いつつ……寝転がっていたので実際は全身うっすら埃まみれだが)
……強い、弱い、ッスか。
アタシがさっき自分を「弱い」って言ったのは、治安を悪くするような理不尽な暴力に対して、逃げる以外の手段がないって程度の意味だったけどね。

(ここではじめて、常世島の夜景を見下ろす形となる。歓楽街の彩り、住宅地の街灯や窓の灯りがもたらす安心感)
(守られている、という気持ちになるが、はたしてそれが真実かどうか)

強いってのはきっと、自分の身だけじゃなくて他人までも守れる力を持ってることだと思うッスよ。
物理的に守るだけじゃなくても、心をケアしたり、危険から前もって遠ざけたり。
少なくとも、他人を傷つけるための力ってのは「強さ」なんかじゃないとは思うなぁ。ただの暴力だよ。
そして、弱いことをそんなに気に病む必要はないと思う。「強さ」の意味を履き違えて暴力を振るう人にさえならなければ。

だからアタシも、保健委員として、ルームメイトの一員として、他人を守れる人になりたい。腕っ節はなくてもね。
ルームメイトが安心して帰れる場所を作って、ご飯を用意して……。
保健室の番をして、みんなが安心して運動とか異能の訓練ができるように。
今まで会ってきた人、みんなアタシにとっては大事ッスから。たとえ、アタシに暴力を振るった人でもね……。

(空を見上げ、思い出す。自らのトラウマを無理やり引きずり出して、笑ってた男。その後どこかで死んだという話)
(死ななければ、いずれ仲直りできたのかもしれない。その確率が0ではなかったが、死んでしまえば0なのだ)

東雲七生 > 「……まあ、そうだよなあ。
 力を持たないやつが弱くって、力を持ってる奴が強いんだ。
 誰かを守れるってことは、強いって事なんだよな。」

強い、強さに関してはそこは七生も悩んではいない。
解らないのは、弱さだ。弱いって何なのか。何を以て弱いとするのか。

守るべきものは、何か。

──もう少し、考えよう。

「けど、その理屈なら十分鈴成も強いよな。
 下手すりゃ俺なんかより、よっぽどさ。

 ──誰かの為に悩めるんだから。」

にっ、と笑みを浮かべて告げる。
本当に、目の前に居る少女は強い。しかし強いが脆い。
脆い故に強くなったのか、強くなった故に脆くなったのか、それは分からないけれど。

──少なくとも、七生の目にはそう映った。

「よっしゃ、それじゃあ帰るかな。
 サンキューな、鈴成。色々話して貰っちゃってさ。」

大きく伸びをしてから、振り返る。
背丈はそれほどお互い変わらない筈なのに、少しだけ大きく見えた。

鈴成静佳 > 保健委員だもの、少なくともメンタル面は強くなくっちゃね!
(どん、と自らの薄い胸を叩く)
アタシが他人のために悩むのは、なんかもうそういう性分というか、趣味でやってることに近いけどね。

(ただ……そのせいで、傷つけた人もいる)
(気軽に相手の心に肉薄しようとしたせいで、逃げられたり、「怖い人」と呼ばれたり)
(きっとこれもひとつの暴力の形ではある。どんな力も、容易に凶器へと変貌しうることは否めない。要は調節の問題……)

こっちこそ、自分の話ばかりでごめんね。東雲くんがなかなか悩みを打ち明けてくれないからさー。フフッ。
(……この少年に対して自分は暴力を振るってはいないか。今の静佳には分からない。少なくともそれを恐れながら接するというのは性に合わない)
……だから、もし悩み事が、人に話せるくらいにまとまったら。ぜひアタシにも相談してね。
アタシ以外でもいいけど、相談は大事ッスよ。そして、その悩みを解決できたら、絶対東雲くんは強くなってるハズだから。
一皮剥けた東雲くんを見れる日を楽しみにしてるッスよ。
(ニッ、と無邪気な笑みが、歓楽街からの照り返しで薄く彩られる)

……うん、帰ろう。途中まで一緒にいこう?
(静佳も伸びをし、階段へと歩いて行く。隣にいるのは背の低い少年だが、きっと数カ月後には自分を追い越しているのだろう。成長期だし)

ご案内:「大時計塔」から鈴成静佳さんが去りました。
東雲七生 > (──その強さは見倣わなくっちゃな。)

暗い時計塔の上でなのに笑顔が眩しくて目を細める。
きっとこの笑顔の裏にも、もっと複雑で難解なモノが潜んでたりするんだろうな、と漠然と思う。
それでもきっと人前では彼女はこうして笑っているのだろう。

そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた気がした。

「ああ、うん。途中まで。」

そこから先は別々の道を。
異なる目的地へと歩いて行く──

ご案内:「大時計塔」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に倉光はたたさんが現れました。
倉光はたた > カツ、カツ、カツ、カツカツカツカツ。
裸足に直履きしたローファーを鳴らして、大時計塔の階段を上がっていく。
覚束ない足取り、不必要に前屈み気味の姿勢。
白い髪。黄金の瞳。『瞬間排撃』と筆文字で書かれたTシャツ。

どれぐらいの時間をかけて昇っただろうか。
外への扉を、両腕で力いっぱい押して、開く。
風が吹き抜ける。曇り空。雲の合間から見える、淡青の空。
最上部。人の足でたどり着ける空に近い場所の、そのひとつ。
しかし、空までの距離は果てしなく遠く、手を伸ばしても届きはしない。
それをはたたは、ただ惚けるように見上げていた。

倉光はたた > ふらふらと、何かに誘われるようにして縁から身を乗り出す。
常世島が一望できるここは、高い。
仮に落ちればはたたの肉体は取り返しのつかないほどに損壊するだろう。
そして今度こそ再び歩き出すことはあるまい。
強い風に煽られて、切りそろえられた白い髪がなびく。

天を仰ぐ。

はたたは言葉で思考することに慣れていない。
ただ。
何かに追い立てられている。
そんな漠然とした焦燥がある。
あるいは、逃れなくてはならない。
どこへ?
こんな頼りない身体では、きっとどこにも逃れられない。
そんな確信がある。

「う、う――――」

ふいに、頭を抱え、うずくまる。

「ううう――」

唸り声。

倉光はたた > 倉光はたた。
目が醒めて『以後』、そう呼ばれた。
だからきっとそれが自分の名前なのだろう、とはたたは思っている。

しかし本当にそれは、

「ううう、ううう――!」

唸り声は続き、全身に汗がにじむ。
痛みを堪えるようなものへと声色が変わる。

うずくまる、はたたの着るTシャツ、その背中、肩部分が……
ひとりでに、奇妙に隆起し始めた。

ご案内:「大時計塔」にギルゲイオスさんが現れました。
倉光はたた > やがて――Tシャツの布地を突き破って、骨のような何かが出てくる。
両方の肩から、それぞれひとつずつ。

「ハァーッ、ハァーッ……」
肩口から、どろりと赤く粘った液体がシャツに染み出し、肌に貼り付かせる。
屈んだはたたの相貌が、激しい疲労の色ににじむ。

みし、みし、と音を立てながら、骨に似た白い突起が伸びていき――
一メートル程度になったところで、それが止まる。
さらにそのそれぞれの長く伸びた突起から、新たに小さな突起が、
たたまれていたのが広がるようにして、四つ現れる。
櫛状に広がった合計八つの小さい突起。

それは不格好な天使の翼のようにも見えなくはなかった。

ギルゲイオス > くあぁ……ふぅ…ん~む、やっぱり授業の後は疲れるのであるな。
(あくび一つ盛大に漏らしながら、くたくたな様子の魔王様――は空の上。
時計塔頂上部程度の高さで、飛行魔術、身に纏って寮へと帰る途中の事)

おや…?
(人影か、と、うずくまる姿。
横眼に捉えると、小さく喉元で唸り)

余り、具合が良さそうには見えんのであるな。
何でこんな場所に、は置いといて。
病院にでも、連れて行った方がよさげ――
(空を滑るように、誰か、の方向へと近づいて、ゆくの、だが)

……む
(異変、背中から現れる、何か。
翼のようなモノ、という表現が一番近いか。
ややと思考を交えた後、少しとばかり距離をとった、見下ろす位置にて)

大丈夫であるか?
随分と、苦しそうに見えたが。
(様子見、も交えて。
一つ、声を掛ける)

倉光はたた > 「スゥ、スゥ……」
四つん這いになって手をつき、床に爪を立て、呼吸を整える。
それに合わせて、『翼』もゆらゆらと揺れる。

声の方向に、屈んだ姿勢で身体を回転させ、視線を向ける。
「――!」
はたたの目が見開かれる。
空を飛ぶ、これほど大きな生き物を見たのはおそらくはじめてだった。

「ウゥゥゥゥゥ……」
唸り声を上げながら、空を飛ぶ男に相対し、凝視する。
はっきりとした警戒。
言葉には応える様子がない。応える術を持たないのかもしれない。
天を向いた翼が黄金色に発光し、バチバチと帯電する。

ギルゲイオス > 変身?あるいは変態、とでもいうべきか……
手慣れて『そう成った』様には見えぬが
(片目を閉じると思案気に、顎を指で軽くと撫でる。
出血、らしき物はソレなりに見えるが。
今すぐ命に係わる、という様子でもなさそうか)

ん、あぁ。
いやな、たまたま空を散歩しておったら、うずくまってる姿が見えたのでな。
少々と心配して、様子を見に――
(何時も通りに口元へと緩い笑みを浮かべたまま、事の理由を説明し始めた辺り、だった)

ちょ、ちょっと、ストップストップである。
別に取って食ったり、妙な事をしよう気は一切ないのであるよ。
(両手を頭よりも上にしたポーズをとり。
最初は驚きに口調が早くとなったものの、次第と落ち着いた声音へと戻し。
落ち着かせるように、言葉を続ける。
もっとも、コッチの言葉が理解できているのか、どうか。
雷撃と思わしき輝きを、細めた双眸で見やりながら。
万が一に備えて、魔術詠唱の準備だけは整える)

倉光はたた > 「………………」

ギルゲイオスに相対したまま――まばたきを一つ。
すると、バン! という音と共に
翼状突起に蓄えられていた雷撃が一筋の光となって……
彼とはまったく反対の方向に放出され、消散した。
へたり、と翼が萎えたように力を失って柔らかく折れ曲がり、背に貼り付く。
背中を汚していた出血はいつのまにか乾いていた。

「ゥ……」
警戒は収まったらしい。
二足歩行の獣を思わせる前屈みの体勢から、直立姿勢へと。
前後にゆらゆらと揺れて、バランスを取る。
人間的な情緒からは少し外れた、しかし生気の篭もる瞳がギルゲイオスを見据える。
次に向けられたのは不審の感情。お前は何者なのか、という。

ギルゲイオス > うおっふっ
(発射された雷撃に、思わずと妙な声を上げれば、肩がビクンと揺れた。
正直な所、まともにぶつかってこられると、無傷で無力化する事に自信が無い。
射撃の方向、少なくとも此方に向かって撃たれなかった事は、色々な意味で御の字だ)

まぁ、ちょっと待つのである。
我だけこう高い位置では、失礼であるからな。
(一息と付けば、相手にむかって軽くと手を振り。
飛行状態から徐々に高度を落とすと、床へとあしを着ける。
その間にも、視線は相手から離さず、ずっと見ていた)

あーうん、言葉、は通じるのであるかな?
(ひとまずは近づき過ぎない程度。
お互い、逃げようと思えばすぐに逃げられるし。
攻撃しようと思えば、少しとばかり時間が必要な位置。
様子を伺いながら、悩み考えるように視線を泳がせ)

我は、この学園の一年でな。
魔王、ギルゲイオス・ホッドケーテ、である。
親愛と畏怖を込めて、ギルと呼ぶが良い。
(何時も通りな自己紹介、軽くと胸に掌を当てて済ませ。
そちらは?とばかりに視線を投げる)

倉光はたた > 浮遊状態から接地する男の動きに沿って、首を動かす。
ゆらゆらと身体を前後に揺らし、足の位置を微妙に変えながら、
ギルゲイオスを注意深く観察した。
まっすぐに立つだけのことが、彼女にとってひどく難儀な行為であるように見える。

「ギ、ル、ゲ、イオス。ギル」

彼の発したその単語を、彼の口の動きを真似て繰り返す。
それが名前であることに思い至ったらしい。

「く、ら、み、つ、……は、た……た」
もごもごと口を動かして、音の連なりを言葉にする。
名を告げるその様子はどこか自信なさ気に見えた。

頭をがくがくと振る。自分の持つ自分についての情報をどうにか絞りだそうとしていた。

「がくえん……びょういん……さんねん……ゆきえ」

意味のばらばらな単語が吐き出された。

ギルゲイオス > あぁ、立っているのが難儀であれば、座った方が良いぞ。
といっても、座るといざって時に動きにくいかもしれんがの。
(ジェスチャーで示すように、右手を上下に動かして、から。
僅かばかりと間があって、自分自身が床へと腰を降ろす。
襲いかかるにも、すぐには動けない格好だ。
相手の警戒を薄めるのには、まぁ、そう悪くなないとは思うのだが)

そうそう、ギルゲイオス、ギルであるな。
ふむ、全く通じぬ、という訳ではないか。
(座ったままに、様子を眺める。
まぁ、どちらかと言えば、此方の言葉を真似した、という雰囲気が強いが)

くらみつ、はたた、であるか。
ふむ、名前であるかな。
(この国の名前、については詳しくはないが。
流れとしては、恐らくはそう言う事なのだろう。
暫く、相手の言葉を聞いていた)

学園、病院、三年……ゆきえ…ゆきえ……?
(何か、身の覚えるのあるような。
視線を空へと向けると、小さく考え込んで)
あー……平岡ユキヱ、であるかな?
風紀委員の、こんな髪型をした。
(自分の髪、それを両側からつかみ、ツーサイドアップ気味にしてみる。
我ながら全く可愛くないが)

倉光はたた > 右手の動きを視線で追う。
そのまま、促されるままにぺたりと尻餅をついた。
あいかわらずゆらゆらと首を揺らしているが、先ほどよりは激しくはない。

「!!」
ツーサイドアップっぽいそれを指さしてがくがくと首を上下に振った。
ユキヱ、それは『目覚めて以後』初めてコミュニケーションが成立した相手だった。

「ゆきえ、の、へや」
そのまま弾かれるようにゴロゴロと転がってその場で小さく往復し始めた。

ギルゲイオス > ふむ、そうそう。
楽にするのが良い。
(ヒラヒラと手を軽くと振れば、口元に緩くと笑みを描く)

おぅや?
当たりであったかな。
(如何にも肯定っぽいしぐさに、片目が大きくと開く)

ユキヱの部屋、という事はあ奴に保護されておったの、かな――って、めっちゃ転がってる!?
案外結構元気であるな!
っと、そのTシャツ……なるほど、恐らくそれもユキヱに貰ったモノであるかな。
(転がる間、背中に見えた『瞬間排撃』の文字、一部破れて文字も消えていそうだが。
思うに、我が教えた店で買ったものだろう。
他に、あんなTシャツ買うヤツが居るとは思えないし)

なるほど、ならばあ奴に連絡を取れば保護を……
(言いかけて、気づく)
……連絡先、知らんのであるっ!
(連絡の取りようが無かった)

倉光はたた > ギルゲイオスが愕然としているのをよそに、
はたたのローリング速度はどんどん激しくなり――
勢いをつけたまま、だん! と床を足で蹴る。

「よっ」

のんきな顔をギルゲイオスに向けながら、
宙返りして時計塔の屋上、その縁を越え――
ヒュルルーという効果音とともに地表へと落ちて行くだろう。

ギルゲイオス > ――え゛?
(思案に耽る間と、少々視線を外してしまったのが、不味かったのかもしれない。
気が付いた頃には、縁のギリギリ)

って、墜ちたぁぁぁああああ!?
(時計塔の天辺に、魔王様の叫び声が木霊する。
ぁぁああ、の叫びが消える直前、立ち上がると床を一気に蹴り出して。
思いっきり勢いをつけると、後を追うように飛び降りる)

呑気な顔晒してる場合ではないのである!!
レイヴンッ!!
(一瞬と周囲に黒い粒子を纏うと、落下速度が更に上昇。
戦闘用の、飛行呪文。
相手が自由落下のままであれば、少なくとも、地面に衝突するまでには間に合う速さ)

ったく、もうっ
(黒鳥の如くに空を疾走すれば、激突するよりその前に、かっさらって拾い上げにゆく)

倉光はたた > ばたばたと髪を逆立てながら落ちて行く。
力の抜けた表情のまま。
これが本来の、馴染んだ在り方だとでも言わんばかりに。
空を駆ける魔王の青年が、視界の中肉薄してきても、それは変わらない。
彼の動揺した内心など、はたたには知らぬことだった。

地表まであとわずか。
ギルゲイオスがはたたを掴む、そのほぼ同時のタイミングで、
萎えていた翼状突起が、ば、と広がった。
ちり、という音を立てて淡く光る。

「…………」

拾い上げられるなら、しばらくの間はギルゲイオスに身を委ねる。
視線が合う。目を細める。笑ったようにも見えた。
自分が墜落して死ぬことなどないと、知っていたかのように。

ギルゲイオス > (伸ばした右手で服を掴み、引っ張り上げ。
左腕を相手の背面へと回し、ややと抱えるようにして姿勢を安定。
――の後に、上昇方向へと軌跡を取る、心算であった、が)

なるほど……いや、ま、翼っぽいのがあるし、飛べても不思議はないのであるがな。
(拾い上げた両腕に掛かる重さが、相手の身に比べると随分と軽い。
勿論、鳥やらの合理的な翼、とは随分様相が違うが。
『翼』と定義されるような物体を持つのならば、それを媒介にした飛行の魔術なり、何らかの能力なり。
そういうモノを持っているのも、道理といえる。
安心したんだか気が抜けたんだが、ため息と共に肩を落とし)

まったく、心臓に悪いにも程がある、のである。
(笑みの様な表情に、呆れたとばかりにもう一度大きなため息が)
ひとまず、一旦降りるのである。
(相手から両手を離すと、地面を指さし。
近くに見える地表へと、高度を落としていく)

倉光はたた > 両手を離されれば、ふわ、とゆるやかに、舞うように地面へと着地する。
ギルゲイオスの感じた通り、広げた翼状突起からいかなる磁場を発生させたのか、
彼女の身体は羽根のように軽くなっていた。

ギルゲイオスが呆れたような素振りを見せていると、
ぼんやりとした表情のはたたが、ふいに口を開く。

「おりこーさんです!」

誰の何に対して向けられた言葉かも判然としないまま、
ギルゲイオスの傍を通り過ぎるようにして猫のように駆け抜けていく。
穴が空いて血まみれで、しかもサイズの合わない『瞬間排撃』Tシャツの背を見せて。
月面を走るように、軽やかに。すぐにその姿は見えなくなるだろう。

盆の時期、再び歩き出した元死体が、
冗談みたいな気軽さで、学園地区を駆けていった。

ご案内:「大時計塔」から倉光はたたさんが去りました。
ギルゲイオス > (地面に両足をつけると、もう一度と一息ついて。
頭を左右に揺らせば、首の骨が小さくと音を立てた)

あ、ん?
(謎の一言に、疑問符を浮かべる間も無く)
何がお利口なのかって、いや、え、ちょまっ!!!
(疑問に対する返事をもらうより早く、速攻でその姿がとーくまで駆け抜けていってしまう)

……何だったのであるか、いったい。
(うでを組み考えるも、結論は一向に出そうもない)
ぬぅむ、ユキヱの知り合い、なのは間違いなさそうで、あるが。
こんど会ったら、聞いてみるか。
(謎は謎に残したまま、解決法はなく。
なんとも釈然としないまま、緩い足取りで夜の街を進んでいく)

ご案内:「大時計塔」からギルゲイオスさんが去りました。