2016/02/08 のログ
ご案内:「大時計塔」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 「んー……久々に来たなあ。」

夜風に真紅の髪をなびかせながら、七生は時計塔の最上で夜空を見上げていた。
服装は夜闇に溶けそうな暗い紺色のスウェットの上下に履き古しのスニーカーといったラフな出で立ちである。
夕食後のランニングと言って異邦人街の端の居候先を出てきた足で、真っ直ぐ此処まで来たのだった。

「んー、すっかり寒い。やっぱ冬なんだなー。」

軽く自分の身体を抱える様に身震いした後、はふ、と欠伸を噛み殺した。

東雲七生 > 「寒いだけあって、星は良く見えるんだけど。
 ……せめてもう一枚上に着てくりゃ良かったかなあ、でもあんまり着込み過ぎると走る時邪魔だし……」

小刻みに震えながら夜空を見上げ、嘆息を零す。
その様子はあまりにも小動物めいていたが、本人は頑として認めないだろう。
小さくてもプライドだけは一人前なのだ。むしろ小さいが故に人一倍プライドが高いという節もある。
もっとも、高いだけで割と脆いプライドではあるのだが……。

「風呂入る前に来て正解だったなあ、風呂上りにこの冷え込みはまず間違いなく湯冷めするし。」

へぷち。
おおよそ男子高生がしたと思えない様なくしゃみを、一つ。

東雲七生 > 「帰り道も寒いだろうし、少し遠回りして体暖めてかねえとなあ。
 んー……島の西っ側回って帰ろっかなあ。」

真面目くさった顔で腕組みをし、首を傾げる。
夜の街が少し傾いて見え、それが何だか面白くって反対側にも首を傾げた。
もっと傾ければ逆さまになるだろうかと、ぐぐっと腰から傾けて街並みを眺めたが、危うく転びそうになって慌てて半歩後ずさる。

「あっぶな……」

月明かりの下、足元も不確かな状態でする事じゃなかった、と独り反省する。

東雲七生 > 「……やっぱじーっとしてると寒いな!」

へぷち、と再びくしゃみをして、それを誤魔化す様に声を上げる。
片道分走ってきて暖まっていた体も大分冷えてきており、このままでは風邪をひいてしまうと判断するとおもむろにその場で逆立ちをした。

数ヶ月前に校舎の屋上で恐る恐る試した姿に比べると随分と安定したように見える。
それもその筈、数か月間事ある毎に逆立ちを行ってはそのまま歩くという事を試していたのだ。
それもこれも、腕力を少しでもつける為、である。
たったそれだけの理由で始めた逆立ちも、今では50メートルくらいであれば難なく進めるくらいになっていた。

「ちょっと早いけど、まあ帰ってからの分を前倒しって事で……」

そしてそのまま腕立て伏せを始める。

ご案内:「大時計塔」に紫崎衿沙さんが現れました。
東雲七生 > 腕立て伏せを繰り返しながら考える。
自分の異能のこと、記憶のこと。
何故、自分の記憶は途絶えてしまったのだろうか。
一体いつ、自分の異能は発現したのだろうか。
他人とは違う髪の色に、瞳の色。それらと異能との関係性。

考える事柄は意外と多く、そして七生にとって結論を出すには難しい物が多過ぎた。

「……んむむ。そろそろ腕も……限界。」

逆立ちが出来るようになったからとはいえ、元々さほど筋力のある腕ではない。
むしろ自分の身体が小さく軽いからこそ逆立ちを持続できているともいえる。
そこに腕立て伏せという負担を掛ければ、あっという間に限界は訪れた。
……それでも悠に100回は行えたのだが。

紫崎衿沙 > 冷え切った風に身震いしながら、のんびりと階段を登る金髪娘。
ことあるごとに高いところに来ては、一人ぼんやりとする。
そんな昔からの癖は、常世学園に来てからも続いていた。
比較的気軽に来れる中では最も高さのある時計塔は、すっかりお気に入りの場所であり。

「あぁ…? ンだよ、先客か」

階段を登り切ったところで見えたのは、何やら腕立て伏せをしている少年?がくず折れた場面。
特に残念がるわけでもなく、ぶっきらぼうにそんなことを呟くと、特に視線を送ろうともしないまま、眼下の街の明かりに視線を移し。

「―――汗ぐらい拭けよ、風邪ひくぞ」

少しの間を空けてから、相変わらず視線は向けないまま、そう声をかけた。

東雲七生 > 「ほぉあ!?」

突然かかる声に腕の力が、ふっと抜ける。
その場で崩れて四肢を投げ出す様に仰向けに転がり、あーあ、と溜息を零すと、その体勢のまま声の主へと視線を向けた。

「あ、えっと……うん、そうする。さんきゅー。」

へにゃり、と少しバツの悪そうに緩く笑みを浮かべて。
スウェットの襟元からスポーツタオルを取り出した。

紫崎衿沙 > 彼の姿を横目で一瞬見やり、すぐに夜景に視線を戻すものの。
無言の時間に耐え切れず、ガシガシと乱暴に後頭部を掻いて、

「…なあ、なんでこんなとこで筋トレしてんだよ」

彼の方へと向き直りながら、そう問いかける。
吹いた風に身をすくませ、コートのポケットに手を突っ込みながら少し近付いた。

東雲七生 > 額の汗を拭い、両腕を中心に体が程よく暖まった事を感じて薄く笑みを浮かべる。
まだまだ思い描く理想には遠いが、それに一歩ずつ近づいている実感が自然と七生に笑みを与えているのだ。

「なんでって……えーと、寒かったからかな。」

少しだけはにかむ様に微笑みながら、近づいた少女を見上げる。
見かけない顔だな、と思うと同時に、綺麗な人だな、とも思い。
寝転んだままぼーっと見上げている。

東雲七生 > 「……あれ。」

はた、と我に返れば確かに居た筈の姿が無い。
ゆっくりと上体を起こしながら辺りを見回せど、矢張りその姿はどこにも見つけられず。
七生は少しの間怪訝そうな顔でその場に座り込んだいたが、

「……ああ、あれか。
 もしかしたら近頃噂の、無作為に島に居る人間を自分の寝床に帰してしまうっていう超常現象。」

ぽん、と手を打ち鳴らして一人で納得の末、頷いた。
何だか最近そういう現象が起こるという噂を耳にしたのだ。
それが誰かの異能の力なのか、行使された魔術なのか、はたまた異世界からの影響なのか。
その真相を知る者は居ないという。

東雲七生 > 「……と、俺も巻き込まれる前に帰っとこ。」

気が付けば良い時間である。
あんまり帰りが遅いと居候先の家主に余計な心配をさせかねないし、
その心配の結果とんでもない事になりかねない。

ふわ、と欠伸を一つ零してから七生は勢いよく立ち上がると、足早に時計塔を後にした。

ご案内:「大時計塔」から東雲七生さんが去りました。