2016/12/28 のログ
ご案内:「大時計塔」にグリゴリーさんが現れました。
グリゴリー > 島を一望できる時計塔に,一人の男が立っている。
歓楽街や落第街を見下ろす位置から街並みを見下ろす男の視線は鋭く,
長く長く吐き出される息は夜の空気に冷やされて白く漂う。

「……全てを犠牲にするには,惜しい島だ。」

学園都市であるがゆえに生産拠点を持たず街としては歪な発展を遂げている。
その無秩序な発展の痕跡は,興味深いものだった。

グリゴリー > “彼ら”による炊き出しは今日も行われている。
そしてその一方で,今日もまた,いくつかの事故が発生している。
そのうちの何割かは,あのスープを飲んだ中毒患者で,
さらにそのうちの何割かは,異能や魔術など超人的な力を持っているだろう。

存在しないとされた街の,存在しないとされた住人たち。
近代史に類を見ない,最底辺の存在だ。
人間というよりかは,害虫やネズミに近い。

「哀れなことだ…。」

グリゴリー > 階下から静かに階段を上ってきた大型犬が,男の後ろに歩み寄る。
身体を大きく震わせてから,静かに座り込む。

「……一所に留まり過ぎたか。そろそろ場所を変えるべきだな。
 この島の“ボランティア”も揃った頃だろう,もう彼らは必要ない。」

まるでその犬に話しかけるように,男が口を開く。
犬は男の横へと歩み寄って,そのまま眼下の街並みを見下ろし,それから星空を仰ぐように顔を上げた。

闇夜に響き渡る遠吠えが響く。

ご案内:「大時計塔」に谷蜂檻葉さんが現れました。
谷蜂檻葉 > グリゴリーに、唐突に空から声がかかる。
鋭く、怒ったような声は貴方の年齢を突きつけた。

目を向ければ、背に虫のような薄羽を3対飾り付けたおよそ人外の存在が貴方を見下ろしている。

「―――ちょっと、おじさん!!」


響き渡る長い犬の遠吠え。
それは塔の下にまで届くだろう、塔の先の民家を跨ぎ、遠く遠く響くだろう。


「あのね、此処は一応立ち入り禁止なの。 わかる? 
 ペット持込み禁止……とは言わないけど、建前ぐらいは守ってくれないかしら。

 結構気に入ってるのに、本格的に封鎖されたらどうするつもりよ?」


―――だから、空を舞う妖精の少女は憤慨して彼の犬を指差した。 静かにさせろ、と。

グリゴリー > 貴女が指摘するまでもなく,貴女の気配を感じれば犬は鳴き止んだ。
木霊する遠吠えが消え入り,静寂が再び訪れる。
……否,遠吠えが消え入るのとほぼ同時に,落第街での喧噪が大きくなる。

「……元気なお嬢さん,入り口を見たが,“生徒は”立ち入り禁止とあった。
 私が“生徒”に見えるのなら,お嬢さんの指摘はまったく正しいのだが?」

どうだね?と両腕を広げて見せる。
犬は一瞬,牙を剥いて貴女を見るが,男が手を翳して静止すれば,嘘のように大人しくなった。

谷蜂檻葉 > 手を広げて己を見せる男に妖精は嘆息した。

「先生はそうホイホイ増えやしないけど、生徒は何時だって増えるもの。
 二択で考えるなら、貴方が生徒のほうがしっくりくるわ。 何を学びに来たのかは知らないけどね。

 本土の学校は兎も角、この島には何歳だかよくわからないのばっかりよ。
 貴方の見た目がどうとかなんて、さした問題じゃないでしょう?」

それより、「そのワンちゃん随分懐いているのね。」 なんて

男のまとう剣呑さに気づか無い呆けたセリフを吐いて、ロングスカートを抑えてゆっくりと下降してきた。


「……それで? 先生だからって『生徒立入禁止』に勝手に入って良いなんて意味じゃないわよ?
 煙でもあるまいし、ちゃんと地面に足つけておきなさいよ。人は落ちたら、だいたい真っ逆さまでしょう?」

柵とかもあるけど、どれも古びて危ないの。
馬鹿にしている、というよりは心配に気を振って彼女は男に言葉をかけた。

グリゴリー > 静かに降りてくる貴女を見て,小さくうなづきながら,

「話には聞いていたが,本当に常識の通じない島だ。
 強いて言えば,学びたいのは,君に似ていてもっと問題のある子供に躾をする方法だよ。」

その言葉も,この場ではおそらく,皮肉に聞こえるだろう。
貴女が文字通り地面に足をつければ,

「そうでなければ,こんな犬を繋がずに連れるのは危険極まりない迷惑行為だ。
 ……で,そう言うお嬢さんはここの管理人か何かかな?」

貴女の言葉には必要以上に棘があるが,それに過剰反応するような男でもなかった。
最後まで聞いてから,小さくうなづき,

「私には見ての通り羽は無いからな。
 しかし,お嬢さんの言葉を聞いていると,まるでこの景色は羽のある君の特権であるかのようじゃないか。
 不公平だとは思わないかね?」

谷蜂檻葉 > 「やっぱり島外の人じゃない。

 ……それで? その季節外れの新入生さんは教育学をお好みかしら?
 とりあえず、ワンちゃんが懐いてようが懐いてまいが、人前に出すなら留めるだけの努力はするべきだと思うの。

 ほら、人の振り見て我が振り直せ……って言うでしょ?
 少なくとも、《大復活前》に基準を置いてる本島を考えたらその扱いは教育に悪いわ。」

まったく、と。
肩をすくめる妖精はグリゴリの言葉に笑みを見せた。

「私? 管理人気取りの一生徒よ。

 あっと、名乗らないのは失礼かな。 オリハよ。 谷蜂檻葉[タニハチ オリハ]。
 本業は図書委員で ……ほら、あっちに見えるあの建物で仕事をしてるの。

 此処に居たのは、ここが思い出の場所だったから。
 ―――それがどうにかなりそうな原因があれば一言いいたくなるってものじゃない?」

人情として、ね。
そう言ってとりあえず静かになった犬に満足気に頷いた。

「……? 何、貴方ってば ”平坦”主義者?」

そして、彼の言葉に顔をしかめた。

「不公平も何も、羽がないなら代わりを持ってきなさいよ。
 機械でも、魔法でもなんでも良いけど……人には人にできることがある。妖精には妖精の。
 犬やら猫やら、竜やら悪魔だか鬼だかカミサマだかも、それぞれ何か出来ることがあって出来ないことがあるの。

 それをちょっと利用して自分なりの楽しみをみつける――それを『不公平』っていうなら随分と怠け者ね。あなた。」

フン、と鼻を鳴らしてグリゴリーの言葉をつまらなそうに放り捨てた。

グリゴリー > 「忠告は忠告として受け取っておこう。
 尤も,このような場所で誰かに出会う事のほうが予想外だったのだが。」

微笑み一つ見せないこの男は,そうとだけ告げて手を翳し,犬をその場に伏せさせた。
……でもどうやら,繋いでおくつもりは無いらしい。

「なるほど,お嬢さんも“立ち入り禁止”を破った同志か。
 私はグリゴリー=ヴィクトロヴィチ=ルカシェンコ,見ての通り不審人物だ。」

ふざけた名乗りにも,一切の笑みは無く,どこまで本気なのか判然としない。
しかし貴女が言葉を続ければ,ほぉ,と頷いて…表情を和らげる。

「最初からそれを言うべきだな,他者を説得するに規則や一般論をもってしても効果は薄い。
 お嬢さん自身の思いと言葉であれば,私もそれを踏みにじるのは忍びない。」

相変わらず立っている場所は落下ぎりぎりの場所だが,気にする様子もなく,
まくし立てる貴方の言葉にもさほど興味が無いといった様子で溜息を吐く。

「自分自身が楽しむ分には構わん,それこそ…」
上空を指差して,
「…ここより上から見下ろす景色はお嬢さんの特権だろう。
 だが,特権を持つ者が持たぬ者の行動を制限し始めれば,それは理不尽でしかないよ。
 この通り,何も持たずともここからの景色は楽しめる。
 君の心遣いも分かるが,それさえも奪い去ろうとすれば,特権を持たぬ者の反感を買う。」

谷蜂檻葉 > 「同志? いいえ、いいえ違うわ Mr.グリゴリ。
 アー、イーミャ・ヴィクトロヴィチ……でいいのかしら?

 ロシア語は難しすぎるし、Mr.でいいわよね。 取ろうとしたけどちょっと止めたの。

 んん”っ、それは兎も角。
 私も貴方も禁則破りは一緒かもしれないけど、『破りましたよー』なんて大声で吹聴なんかしないわ。

 いい? ”バレなきゃ犯罪じゃない”のよ。 まぁ、良くないのは一緒だけど。
 歴代数多くの『共犯者さん達』に申し訳なく思う心がちょーっとでもあるならお静かに。 ね?

 ……とりあえず納得してくれたようで何よりだわ♪」

何事も素直が一番よね。
そう言って奇妙な満足感を得て彼女もまた頷いた。

そうして、天を指し憮然と反感を告げる男に彼女は首を傾げた。

「何か、一つ勘違いしているようだけれど。
 私は何も貴方がこうして高いところで、遠方まで見渡せるこの絶景を楽しむ事を否定や制限するつもりはないの。

 ただ、それが誰かの目の前で危険な真似をしている。
 ―――ということを見せつける自慰行為《マスターベーション》だっていうなら話は別よ。

 心配されるような真似をしないでちょうだい、本人がどう思おうが、周りはいい迷惑よ。
 人の心をかき乱すのは、人権の侵害―――お解り?露出狂に人権は大体無いの。

 まぁ、でも……お互いに事故みたいなものか。

 貴方はこの島の常識をあまり知らなかったから他に人がいるとは思わなかった。
 私はそんな貴方を偶然見つけてしまった、と。

 ……うん。次からはもっと、こう。
 周りに人が居ないことを確認してから紐無しバンジーの準備をしてね?

とりあえず、貴方は一歩下がるべきよ。いつ突風が通るかもしれないんだから。」

まくし立てるだけまくし立てて、
とりあえずの結論を勝手に得てしまった妖精は、近くにあった古びたベンチに腰を掛けた。

グリゴリー > 「何とでも,好きに呼んでくれて構わんよ。
 しかし,管理人気取りと自称しながらその言い草とは,大した面の皮だな。
 何にせよ,この場は先人のお嬢さんに従おう…尤も,とうに騒音の元凶は黙り込んでいるがね。」

男が視線を向けた先には,
伏せをしたまま,どこか不機嫌そうに貴女を見ているデカ犬が居る。

「どうやら不幸な誤解とすれ違いがあったようだ,お嬢さん。
 私はただ,あの無秩序な街を一望したかったに過ぎん,スリルを楽しんだりそれをひけらかすほど若くはない。」

「私がここに立っていることで,お嬢さんの心をかき乱してしまうというのなら,一歩下がろう。
 同じことを繰り返すようだが,最初からその自分の思いを伝えてしまった方が良い,余計な誤解を生まずに済むだろうからな。」

一歩どころか数歩下がって,ふと,遠くに見える落第街の喧噪を見下ろす。
そこで初めて,男の口元に笑みが浮かんだ。
しかしすぐにそれを隠して,貴女の方へと向き直り,

「君は概ね正しい事を言っているが,もう少し言葉を選ぶべきだな。」

谷蜂檻葉 > 「じゃ、グリゴリさんで。」

彼女も列記としたジャパニーズである。
もう、本土の記憶は一部を除いて持っては居ないが。

「気取ってるだけですもの。
 管理する人間性を求めるなら図書委員《ロマンチスト》よりも公安委員《リアリスト》に言うべきではなくって?」

別に、図書委員がみんながみんな本好きかつロマンチストではないが。
比較的そういう人間が多いのは間違いない。

「……それは言わなくても良かったわ。
 あまり趣味が良いとはいえないもの。本当に、誰かを躾けるには向いてなさそうね、”オジサン”って。」

 人の呼称は心の距離だ、とは誰が言ったものか。
 とりあえず、檻葉とグリゴリの精神的距離は今明確に離れたらしい。

「あー、ご忠告どうも。
 性分って厄介なものね、羽がついて軽くなってから酷くなった気がするわ。」

何か、幾つかの思い出を想起して苦虫を噛み潰した表情で肩を竦めた。


「まぁ、下がってくれて めでたしめでたし。
 ……ってところで、キリよく私は帰るわね。別に元々長居するつもりもなかったし。

 ”お好きに”景色を楽しんでいってちょうだい。
 下ばかり見るよりは、もっと遠くを見ることをお薦めするけど。」

グリゴリー > 忠告にはどうやら思い当たる過去があるらしい。
貴女の表情を見れば,やはりな,と小さく頷くがそれ以上言及はしない。

「言ってやりたいのは山々だが私の目の前にはお嬢さんしか居ない。
 それに,向いていないからこそ学びに来たと言えば,説得力もあるだろう?」

さらりと精神的距離が離れ,オジサン呼ばわりされてしまった。
しかしグリゴリーは挫けない。というか,気にしない。

「羽があるとは言え気を付けて帰ることだ。
 階段で転べば羽をはばたかせる前に膝を擦りむくだろう。」

犬に手招きをして近くに呼び寄せ,その背を軽く撫でる。
ぽふぽふ,と優し気に頭を撫でてやって,

「……また誰かに咎められたら,管理人気取りの許可が出ていると言っておこう。」

男はしばらくそこにとどまっているだろう。
しかし景色を見ることはせず,表情を変えぬまま犬と戯れて…。

谷蜂檻葉 > 「……今朝はドアに小指をぶつけかけたわ。」

溜息一つ、彼女はトンと地を蹴って宙を舞う。
音もなく飛行して、やがて空の点の一つになり、女子寮の方角へ消えていった。

ご案内:「大時計塔」から谷蜂檻葉さんが去りました。
グリゴリー > 少女と男がここで会話している丁度そのころ,
落第街で炊き出しが行われていたエリア付近で事件が発生した。

表向きは,薬物中毒の暴徒による襲撃として処理されるだろう。
踏み込んだ捜査は行われないかもしれない。
被害者の中に正式な学生や教諭の身分証を持つ者も居ないからだ。

……グリゴリーは用済みになった“彼ら”を処分したに過ぎない。
何の罪もなく,そしてグリゴリーの指示によって行動していた部下たちを。

全ては,世界をあるべき姿へと戻すために。

ご案内:「大時計塔」からグリゴリーさんが去りました。