2017/04/23 のログ
■東雲七生 > 仄かに立ち込め始める雨の降り始め特有の黴の匂い。
まだ小降りだからと七生はそのまま時計塔の屋根に上がった。
「雷には気を付けないとなー」
幸い耳を澄ませても遠雷すら聞こえてこない。
頭上に垂れ込めるのは雨雲だけなのだろう。
「帰る頃にはまたびしょびしょかな、こりゃ。」
頬に雨粒が当たるのも厭わず、七生は空を見上げた。
ご案内:「大時計塔」に竹林はんもさんが現れました。
■竹林はんも >
ハイキングに来ました。
リサーチによると、時計塔にはあんまり人が来ないらしいです。
すんすんと鼻を鳴らせば、雨の匂いがしています。午後から降ると言ってましたからね。
風の魔術を使い、長い階段をエスカレーターのように滑り、塔の屋上に出ました。
「おー……」
いい景色ですね。これで静かなら願ったり叶ったりですよ。
屋根まで登ればもっと高く、もっと気づかれなさそうだと気づいた賢い私は、迷わずに跳びました。
跳躍と言っても、これまた風の魔法で飛んでいるだけですが。タンポポの綿毛のように。
「よーし、とうちゃファぅ!?」
屋根の上。……人、居るじゃないですか! 話が違いますよ!
■東雲七生 > 「ふぁう?」
ぱらぱらと落ちてくる雨を感じていたところに、突然声が聞こえて視線を向ける。
何時の間に来たのだろうか、少女が居た。
どうやら酷く驚いているようだが、何かしてしまっただろうか。
「えっと……やぁ、どうも。
そんなに驚いて……ええと、どうかした?」
雨で濡れた前髪を少し払い、軽く小首を傾げる
■竹林はんも >
奇声をあげるクセはなんとかしたほうがいいかもしれませんね。
見た目以上に幼く見られるかもしれません。
こほんと咳払いをしまして。
「いえ、どうかしたということはないんですけれど……ただ、出鼻を挫かれただけといいますか……」
考えようによっては、先生に見つからなくてラッキーって感じですね。
この間と違って……見る限り、この人は違法を取り締まる立場でもないようですし。
「……あっ、それよりも――」
相手へ近づきながら、私は後ろ手に持っていたものを開きます。
何を隠そう、番傘です。骨組みは竹。そこに上等な和紙を貼ってあります。
「雨宿り、していきますか?」
■東雲七生 > 「出鼻を?」
聞いてもよく分からなかったが、あまり気にしないで欲しそうな雰囲気が伝わってくる。
先客が居る事に驚いたりしたのであれば、謝った方が良いのかとも思ったのだが、
まあ細かい事は都合よく水に流してしまおう。
「え?傘……良いの?
ありがとう、今ちょっと濡れてくの覚悟したとこだったけど、助かるよ。」
幼い見た目と違い随分と渋い趣味をしてるんだなと番傘を見ながら思うが。
人は見掛けによらない、というのは自分自身が身を以て知ってる。七生は密やかに反省した。
そして突然の申し出にも笑顔で頷いて、少女へと歩み寄る。
■竹林はんも >
「目の前で人が濡れていくのを、ぼうっと眺める度量はちょっと無いですから……」
そしてここをすぐに去る理由もありません。
むしろ長居する理由があります。
傘は特注というほど大きくないですが、立派な紳士用サイズ。
私と相手が二人で入るにはちょうどいいです。なんでとは言いませんが。
「ひとまず……お願いしますね」
『番傘に』話しかけて、ぱっと手を離します。
すると傘は、重力に負けることなく、スンとその場に浮遊したまま静止しました。魔法で支えてはいますけどね。
それから、私が昇ってきたあたりに手を向けて、ちょいちょいと手招きします。
風に導かれ、屋根の下に置いていたランチボックスとさるのこしかけがやってきました。キノコじゃなくて椅子ですよ。
その腰掛けを、相手の近くで開き、手で促します。
「私ですね、ハイキングでここまで来たんですが、折角なのでご一緒しませんか?」
にっこり。敵意ないアピールです。
■東雲七生 > 「まあ、それはそっか。普通心配になるよなあ。」
風邪とか引くんじゃないかと。
生憎と健康優良児筆頭なので風邪なんて滅多に引かないが、それは相手が知る由もないところ。
ここは厚意に甘んじておく方が話も拗れないだろうと判断したのだった。
「へぇ……魔法?それとも君の異能?」
ひとりでに浮く傘、そして流れるようにこちらに来たランチボックスと腰掛けを見てわずかに目を瞠る。
七生に魔術の心得があれば魔力の探知などが出来るのだろうが、生憎と門外漢であるからさっぱり見当がつかない。
仮に異能だとしても、十人十色にも限度がある様な概念、いちいち区別が付けられる筈もない。
だから、一括りにして訊ねるようにしているのだ。
「ハイキング……此処に?
いや良いけど、雨の中ハイキングなんて物好きだね。」
もっと晴れた日にやらない?と苦笑しながら椅子に腰掛ける。
折角の厚意、無下にするのは忍びない。
■竹林はんも >
私は、物を取り出した後のランチボックスに座る算段です。
どうでもいいですけど、普通に座りましたね、この人。
虫も殺さないような顔ですけど実は図太いんでしょうか。変に遠慮されるよりいいですけれども。
「ああ、これは風の魔法です、基本的に。ちょっと魔法以外の要素も混じっていますけれど……」
大して面白い話でもないので割愛します。食いつかれたらお話しますけどね。
聞く人にとってはともかく、話すほうとしてはそこそこ面白いので。発表会みたいなものですね。
「天気は、もちろん晴れていたほうが気持ちいいです。
でも、雨の日でもなければこうやって傘も差せませんし……空気も、雨のほうがきれいですからね」
ここまで高所であればそこまで変わらないかもしれませんけれど。
ランチボックスから、サンドイッチとお菓子とワインの瓶を取り出し、敷いたランチョンマットに乗せて、閉じたランチボックスに座りました。
「飲みますか?」
■東雲七生 > あまり体験したことの無い座り心地に若干の不安を覚えつつ。
それでも気を取り直して少女へと目を向ける。
「風の、魔法。
ふぅん、俺は魔法とかさっぱりだけど、こういう事も出来るのか。すっげえな!」
とても便利そうだな、とにこにこと笑いながら付け加える。
きっとそれ以上の説明をされれば理解が追い付かず思考がパンクしてしまうのだが。
「傘、差すの好きなの?
確かに雨じゃないと差せないかもだけど、わざわざハイキングの時に差すことも無いんじゃないかって思うけど……」
よほどお気に入りの傘なのだろうか、と改めて番傘を見上げる。
ずっとずっと昔、日本ではこういう傘が主流だったと聞いた。
もともとは大陸の方から伝わったらしいが、そこまで行くともう1000年規模の昔話で何だか気が遠くなってしまう。
そんな事を考えてる横で着々とランチの準備が整えられ、それに気付いた七生がワインの瓶を一瞥すると同時に声が掛かり、
「……えっと、ぶどうジュースなら貰うけど。」
ぶどうジュースであって欲しい、という期待を少し込めて応える。
■竹林はんも >
「はい、便利ですよ色々と。スマホだかタブレットだか、そんなスペックもよくわからないものなんかに大自然は負けませんよ……」
おっと、後半は私怨が混ざってしまいました。というかほぼ私怨でしたね。
きっと聞き流してくれるでしょう。
「うーん……細かくは地域によって違いますけど、このあたりの気候帯であれば、一年の内に雨が降る日は二割にも満たないんですよ。
つまり、傘を差すことは、日常において希少な体験に属するわけじゃないですか。
そういうマイノリティを、少しでも目立たせて、「特別」っていうのを演出してあげると――『少ないからこそ、印象に残るもの』になるんじゃないかと思うんです。
だから、雨の日にはあえて何かするんですよ。いつもと違うことを」
もちろん、こうやって雨の中でも、不快指数を高めずに色々出来ることが条件だとは思います。
出来るからやっているに過ぎません。
ところで、飲むかと聞いているのに変な質問が返ってきましたね。
「……? いえ、ワインですけど……? え?」
先日買って気に入った赤ワインですけど?
■東雲七生 > 「あはは……そうなんだ……。」
よく分からないけど、そういうものなんだろう。
そんな気持ちで相槌を打ち、そして少しだけ座り直す。不慣れな所為か据わりが悪いのだ。
「そんなに少ないかなあ……まあ、その年によって違う気もするし、通り雨も多いからかもしんないけど……。
でも、別にこういう傘なら日傘にしても平気そうな感じだけどなあ。
まあ、そういう考えがあってなら別に人がとやかく言う事でも無いよね。」
いう事は解らなくもない。むしろ解る気がする。
ただ、毎日が何かしらの出会いや発見に満ちている様に感じている七生にとって、彼女の言う「特別」というのは実感が沸かない物だった。
──その言葉を借りるなら、毎日が「特別」である様に生きているのだろう。
「ワイン?……だよねえ。うん。
ごめん、俺アルコール苦手でさ。」
案の定ワインだったので、小さく肩を竦めてから首を振る。
飲んだことが無いわけではない。ただ、飲んだ時の事を殆ど覚えていないのだ。
■竹林はんも >
時折見せる仕草が少し気になりましたが、仕方ないですね。
私が私のために作った椅子ですから――強度はともかく、単純にそこまでのサイズではありません。
座面が狭い、脚が弱い、重心が掛けづらい、色々と座りづらい理由はあるでしょう。
安心してください、ランチボックスもそんなに変わりませんよ。
強いて言えば、もっと小さくてもっと軽いから、簡単に座れているだけで。
「確かに日傘でも平気ですよ、使う側は。
でもこの傘には、雨傘としての矜持があり、雨傘として使われることを望んでいるんです
……日傘にするには大きいんですよね」
全部本音です。日傘は日傘で持っていますしね。
それも結局、あんまり使いませんけど。
「アルコールが苦手……」
噂には聞いていましたが実在するんですね。
自然が産んだ神への供物。神と対話するための奇跡の雫。
驚きです。
■竹林はんも > しばらく歓談の後に。
ワイン一本くらいではシラフですね。敷地内で酔っている場合ではないのですが。
「さて……ワインも飲みきりましたし、お先に失礼しますね。
折角なので傘はお使いください。返却は女子寮の事務員にあずけてもらえればいいので!」
雨を避けるためだけでいえば、私に傘は要らないのですよ。
これは雨具ではなく楽器。傘はそれくらいの認識です。
屋根を飛び降りふわりと着地。では――、
……アルコールの瓶はどう処理したらいいんでしょうかね……ばれたら怒られますね……
ご案内:「大時計塔」から竹林はんもさんが去りました。
■東雲七生 > 「ふぅむ、なるほどねえ。
そういう事なら、まあ、解らなくもないけど。」
ようやく据わりの良いところを見つけたのか、ふぅ、と体の力を抜く。
別に立ってても良かったなあ、と反省しつつランチボックスに腰掛ける少女の手前、
おくびにも出さずにそっと口を噤んだ。
「うん、苦手だと思う。
山葡萄のジュースとか好きだけどね、酸っぱいの。」
どう苦手なのかは覚えていないので自分でも判らない。
もしかしたら記憶にないだけで酒豪なのかもしれない。でも覚えていない、という一点で弱いと判断するのが普通だろう。
そうして何かと不可思議なハイキングの時を過ごし。
「あ、えっと……ありがとう。
女子寮に返しに行けばいいのか……女子寮?」
聞き返す前に相手は既に飛び降りていて。
一体どの女子寮に返せばいいんだろう、と途方に暮れる七生だけが残ったのだった。
■東雲七生 > ぱらぱらと雨粒が傘を叩く音が響く。
そういえば少女の名前を聞くのさえ忘れていたことを思い出す頃には、いよいよ雨は本降りの気配をうかがわせていた。
「……やたら特徴的だったから、まあちょっと探せば見つかりそうだけど。」
ひとまず帰りがけに女子寮に住む知り合いに訊いてみよう。
そう決めると、雨傘を手に街を見下ろした。
雨が烟る街は、休日という事も相俟って道行く人が少ない。
ぱらぱらと頭上から聞こえる雨音に耳を傾けながら、七生はぼんやりと下界の様子を眺めていた。
■東雲七生 > 「そろそろ、帰るか。」
傘も届けなければならない。
充分に雨の街を見下ろし、満足した七生は静かに会談へと向かった。
のんびり、普段よりゆっくりとした足取りで階段を下り、帰路につく。
いつもなら駆けるのにどうしても邪魔になってしまう傘は差さないのだが、今日くらいは良いか。
そんな風に思いながら、雨の中の時計塔を後にしたのだった。
ご案内:「大時計塔」から東雲七生さんが去りました。