2015/06/12 のログ
狛江 蒼狗 > 昼下がりの学生通りは閑散としていた。
カフェテラスや定食屋は飢えた学生たちの荒波を捌き切り、気が緩んでいる。
そこへ険しい表情の青年が一人。
カロリナポプラが一定間隔で植えられた幾何学タイル張りの歩道で、腕を組み佇んでいる
「……………………」

狛江 蒼狗 > 「なるほどな」
「なるほど………………」
狛江蒼狗は瞑目する。
穏やかな晴天である。注ぐ陽は暑くもなく、かといって肌寒さを感じさせない。梅雨入り前にしては空気もからっとしている。
「………………」
蒼狗の眼前に鎮座するのは、横幅1159mm、奥行き750mmの真っ赤な直方体である。
その直方体は背の高い蒼狗よりも大きい。

狛江 蒼狗 > 直方体には広い窓がついていて、内側には円筒がずらっと立ち並んでいる。
円筒の外装はポップな字体のロゴと鮮やかな色使い、また落ち着いた金属調の黒一色、草を模したような色に毛筆を模したレタリングが貼り付いていたり賑やかだ。
「………………」

狛江 蒼狗 > 窓の下には円筒に対応するようにボタンが存在しており、そこには円筒の内容物の温度を示す赤と青のディスプレイ。
「……………………ふぅ」
狛江蒼狗は懊悩する。
自分の選択の行く末を、事細かに思案しているのだ。

狛江 蒼狗 > 言ってしまえば。
狛江蒼狗が対峙しているのはごく一般的な自販機に過ぎない。
そしてそこにある飲み物にも変わったラインナップはない。
長々と悩む必要などない。
時間の無駄しかない。
「……………………困った」
だが、今日の狛江蒼狗には悩まねばならない理由があった。

狛江 蒼狗 > 深呼吸をして、右ポケットの二つ折り財布を取り出す。ボタンを外して、軽く開く。
そこにはあるべきものがない。
「……………………」
スーパー・トコヨ・インテリジェント・カードだ。
これを持っていないという事はすなわち、常世島住民であることを疑われるという事を意味している。

狛江 蒼狗 > ──────STICA。
スーパー・トコヨ・インテリジェント・カード。
常世島の大動脈である鉄道も、学食の食券代わりにも、コンビニも、ガソリンも、当然自動販売機も────。
時には定期になり、時には電子マネーをチャージしたプリペイドになり、時には簡単な身分証明や会員カードにもなる。
──────STICA。
「……………………くっ!」
それを────────落とした。

狛江 蒼狗 > 必死の探索も虚しく見つからなかったあたり、側溝に落ちて下水に流されたのかもしれない。
しかし、STICAは再発行をして貰えば良いまでのこと。簡易認証もついているから拾得者に無闇に使われる心配もない。
ただ、再発行には少々の時間を要する。昼休みでは足らない。

狛江 蒼狗 > 蒼狗は財布の小銭入れを開く。
100円玉が一枚と10円玉が3枚と5円玉が1枚と一円玉が2枚だ。
残金は137円。
昼食のために外に出た筈が、窮地に追い込まれた。
ワックに入って100円バーガーを買うことも、コンビニで菓子パンを買うことも考えた。
電子化が進んでいるとはいえ実物の金銭が遣われなくなったわけではない。
だが蒼狗は、口の乾きやすい人種の人間だった。
コーヒーがなければ──────食えない。
「………………………」
ならば。飲み物だけでもと。
最低限、午後を乗り切る活力を。
しかしどれが正解なのか彼には解らなくなっていた。

狛江 蒼狗 > じりじりと、照りつける日差しは正午から徐々に強まり初夏の訪れを感じさせている。
蒼狗は顎元に垂れた汗を手の甲で拭った。
今一度、円筒達を見渡す。
「……………………」
ボトルは対象外。137円には過ぎた代物だ。
栄養ドリンクが端のほうに鎮座しているが、これも価格が160円とあり手が届かない。
さらにその隣にはなぜかカロリーブロックがあるがこれも200円であり高嶺の花。
選択は缶のうちから、ということになる。

狛江 蒼狗 > ここはコーヒー愛好家(キャリア2年)としてロング缶を選択すれば簡単に問題が解決するように思える。
だがそれは間違いだ。
「…………………………。(ぐー)」
狛江蒼狗は空腹だ。
空きっ腹にコーヒーはキツい。
かといって加糖されたものやミルク入りを買うのも流儀に反する。ブラック派なのだ。
選択の中からコーヒーが軒並み除外されてしまう。
苦しい状況に追い込まれていた。

狛江 蒼狗 > 炭酸飲料。
好きでもないが嫌いでもない。
缶のソーダは初夏の時節に合っている気がする。
真夏には瓶でラムネを飲みたい。
「……………………」
けれどもそれは間違いではないが、正解からは遠ざかっている気がする。
炭酸飲料に含有されている二酸化炭素の泡で腹を満たすのは果たして正しいことなのだろうか?
合成された純水とブドウ糖液と香料と酸味料で構成された物質のみで午後を乗り切ることができるだろうか?
断じて否である。

狛江 蒼狗 > 「……駄目だな」
炭酸飲料も除外された。
ここまでのロジックで自販機の半数以上が除外された事になる。
選択肢が減るのは寂しいが、それは答えに近づいたという事でもある。
空きっ腹を宥めるためにも、一刻も早い選択が求められていた。
「よし」
蒼狗の指はついに、100%ジュース(オレンジ)のボタンへと伸びる。
鍛錬により骨張った指がそっとボタンをへこませる。

狛江 蒼狗 > 「……………………」
しいん…………。
「あっ」
蒼狗はすぐに間違いに気づいた。硬貨を投入していない。
いつもは最初にカードを触れさせてボタンを押す2アクションで済む事なのでうっかり忘れていた。
100円を一枚、10円を3枚投入する。

狛江 蒼狗 > 「……?」
どうしたことか、ボタンは点灯しない。暗い赤褐色のままランプは押し黙っている。
他の缶は点いているのに────。
「!」
値段の欄を見て、蒼狗は苦渋に表情を歪めた。
『140円』

狛江 蒼狗 > 「くそぉっ…………!」
乾いた叫びが虚しく響き渡った。
消費税増税の煽りは遠く常世島に行き届いていたのである。
一律130円の時代は終わったのだ。
ジュースはそれぞれ種類によって10円刻みで値段が分けられている。

狛江 蒼狗 > 「3円……………………っ!」
自販機は5円玉と1円玉に対応していない。3円では足りない。
狛江蒼狗の慟哭をよそに、自販機はボタンを点灯させて彼を待っている。
「……いや」
冷静さを取り戻した蒼狗は再度、自販機と向き合った。
ないものは仕方がないのだ。新たな選択の必要があった。

狛江 蒼狗 > しかし選択肢が搾られた以上、もう悩む余地はない。
蒼狗には、ジュース以外にも目をつけたものがあった。
「……………………」
それは“しるこ”と“コーンクリームスープ”である。
初夏の熱気のため、最初期に選択肢から無意識に除外されていた、自販機陰の定番タッグだ。

狛江 蒼狗 > 多少汗ばむかもしれないが、必要経費だ。
気温の高い時期は内臓を温めたほうがかえって体感温度を下げると聞く。試してみるのも一興である。
さて、選択肢はついに二択だ。
マンネリで常に目に入りながらも、冬季以外は見向きもされず、また冬季であってもコーヒーを優先するためあえて買うことは少ない二つ組。
方やしるこはカロリーの点で優っている気がする。餡の腹持ちは午後の休憩時間までの腹持ちを約束してくれるだろう。餅が入っているほうが好みだが缶飲料に贅沢を言ってはいけない。
方やコーンクリームスープは昼食抜きのアンニュイを少し慰めてくれるように思う。飲み口が広く作られたそれはトウモロコシの顆をたっぷりと含んでいるのだ。

狛江 蒼狗 > 悩んだ末に彼は、“しるこ”を選択した。
できればコーヒーが飲みたい。だが、空きっ腹が邪魔をする。
ならば、黒い液体という所に共通項を持つしるこならば気も紛れるかと、そういう小さな理由だ。
「………………………」
笑いを漏らした。
たかだか飲み物に一人でどれだけ悩んでいるのか。
さっさと、ボタンを押してしまった。
ごろりと下の受け取り口に椀の描かれたあずき色の缶が落ちてくる。

狛江 蒼狗 > ピピピピピ。
なんの音だ。
缶を拾い上げていた彼は、周囲を見渡す。
まさか、悩みすぎて自販機に誤作動を誘発したのか。
それとも、不審者を誰かが通報したために警告音を鳴らしているのか。
音の発信源は料金投入口横の小さな液晶ディスプレイだった。
『あたり』

狛江 蒼狗 > 「……なんだ」
息をつき、脱力する。
変に警戒してしまった。
こういうのは『当たらないもの』と決めてかかっているから、すぐには思い至らなかった。
「得、かな」
狛江蒼狗はコーンクリームスープのボタンを押す。

狛江 蒼狗 > がこん。
「あっ……」
トウモロコシのイラストが描かれた黄色い缶が落ちてきて、硬直する。
ボタンは寸前まで、“すべて”が点灯していた。
しることコーンクリームスープの二択ではなかったのだ。
当然、しるこで腹を満たしたのならコーヒーを味わってもなんの不都合もない……。

狛江 蒼狗 > 「ぐ……うおおおおおお──────!!」
白髪の青年は再度慟哭の声を上げた。
しるこを一気し、備え付けのゴミ箱に捨てる。
このゴミ箱に紙くずだの包装ビニールだのを捨てるやつとは友達にはなれない。
のどが熱い。
コーンクリームスープを取り出し口から拾い上げた。
これも熱い。
日差しも熱い。
「…………! …………!」

狛江 蒼狗 > 蒼狗は膝から崩れ落ちる。巨躯は突っ伏して、硬く握られた拳は地面に叩きつけられた。
「こんなことが……」
「こんなことが……」
額から伝った汗が目に入り、滲みた。
流れた涙は身体の反射的な防御反応であると、彼は自らへ弁明する。
おもむろに立ち上がると、コーンクリームスープの蓋を開く。
この気温の中にありながら湯気がふわりと立ちのぼった。

狛江 蒼狗 > 口をつけると熱い。
無駄にしるこを一気飲みしたためか口腔が軽い熱傷を起こして、味がぼんやりとしている。
「あ…………!」
一口飲んだ後で過ちを犯した事に気がついた。
開けなければよかったのだ。
「……う……ぐ…………!」
憤りに震えながら蒼狗はコーンクリームスープの缶を親の敵のように睥睨する。

狛江 蒼狗 > 握力を込めすぎたためか缶は少々凹んだ。
そういえば、コーンクリームスープを飲むとき飲み口のすぐ下をへこませるとコーンの顆がスムーズに口に入っていくらしい。
(だからどうした!!)
蒼狗の心中の叫びが身を震わせる。
もはや、顆とか顆ではないとか、コーンクリームスープの缶の底に残った顆は食べたいというほどでもないけど捨てるときに水洗いしないといけないような気になるのがちょっと嫌だなぁとか、そういう次元の問題ではない。

ご案内:「学生通り」に桐竹 琴乃さんが現れました。
桐竹 琴乃 > カフェテラスでの激闘と言う名前の昼間のバイトが終わり。
そこそこの疲労感と共に学生通りを歩き、何となく、ジュースでも買おうと目を向けた時に。
目に入るのは非常に体躯の良い、同じ学園の先輩だろうか、がもだえている姿であった。
「……ええと?」
状況が掴めないがとりあえず飲み物を買おうと思うので自販機(と狗江)に近づいていく。

狛江 蒼狗 > (冷めるまで待とう)
単純な結論に行き着いた。
確かに一番熱い時が、一番美味いのは事実として認めよう。
だが、温度が飲む事への妨げになっているのならどうして熱さに執る必要がある?
真新しさのない喩えだが、冷製スープがあるのだからコーンクリームスープを冷たいまま飲んで良くない道理などない。
このまましばらく待機を……。
「?」
缶を握り締めて仁王立ちしていた蒼狗は、人の気配に気がつく。
健康的な女生徒が近づいてくる。
そういえばここは公共の往来である。自販機蒼狗を苛めるためだけに存在しているのでない。
スッ、と蒼狗は鮮やかな歩法で道を開けた。自販機の横に立つ。
そして缶を持ったまま飲みもせずただただ立つ。
控えめに言って不審者だ。

桐竹 琴乃 > さっきまでの様子はどこへやら、すっと道を開いてくれた彼の手の内にあるものを眼を見開いて凝視してしまう。
コーンスープ。
まさか。
この夏にも近づこうというこの季節に。
その飲み物を買おうという勇者がいるとは。
ゴクリと喉が鳴る。
そしてその熱さ、味を想像してしまい、じわりと汗がにじむ。
心なしか蝉すら鳴いているような気すらして。
慌てて目を逸らし、自販機に向き直る。
早く、何か冷たい飲み物を飲まなければ。
硬貨を入れメニューを見始めた。

狛江 蒼狗 > 何の気ないし後輩らしい女生徒を横目で観察する。
どうも、“これ”が気になるらしい。
なにしろ湯気が立っているのだし目を引かれても不思議ではない。
先程にも確認した通り、コーンクリームスープは煮え立つような熱さだ。
こんな時節に買う者はおるまいと温度調整を些か乱暴に設定してしまったらしい。

蒼狗の心に悪戯心が芽生えた。
宛先のない憤りを当てる先を見つけたとも言い換えられる。
彼は実直で嘘を嫌う正義感だが、冗談や悪ふざけにも時たま興じることがある。
今がその時だった。
「…………………」
おもむろに口元で缶を傾ける。煮えたぎるスープの入った缶をだ。
見ているだけで暑苦しさに泣き咽びそうな光景!
こちらに気を取られて誤った選択をしてしまえば良い。
死なばもろともという無差別犯だ。
公安委員会の肩書が泣いている。

桐竹 琴乃 > 炭酸飲料にしよう。
そう、しよう。
そう思ってボタンに指を近づけたその刹那。
動く仕草が。
(の、飲んだーーーーー!!)
これ見よがしに。
そう見せつける様に缶を傾け始めた彼に思わず離した意識と目を文字通り『持っていかれた』。
「あ」
(しまっ……)
素っ頓狂な声。
それと共にガコン、と音が鳴り、ズレたボタンの先。
まるですべてがスローモーションのように缶が転がってくる。
転がってくるのは。
黒い、黒いパッケージ。
何処かの誰かが飲みたいと言っていたような気がする。
それは。
ブラックコーヒー。

狛江 蒼狗 > そして馬鹿な事をした男は、半分程飲んだ所で口を離した。
震え、体温の上昇に逆に青褪める程熱さに噎びながら。

琴乃を見て、落ちてきた缶を見て、
「………………すまん」
謝りながら小馬鹿にするような含み笑い。
この程度で心を乱されるとは軟弱。
とでも言いたげである。
スープの残りを飲み干そうとし、途中で噎せて笑って悶えたりもしている。

桐竹 琴乃 > 「ぐぐぐ……」
すまんと、上から掛けられる声に悔しげに呻きつつ、ひょいと出てきてしまったブラックコーヒーを拾う。
あのタイミングはずるい。
手の中に納まるブラックコーヒー。
飲みたかったのは炭酸飲料であって。
笑いながら悶えている彼を尻目に。
「べ、別にコーヒー飲みたかったんです!それに気を取られて、押し間違えた訳じゃないですから!」
とそう言い訳を放つとプルタブに力を入れ、パカと乾いた音が辺りに響く。
一口ちびりと口に運ぶ。
「……苦い」
苦手なのであった。

ご案内:「学生通り」に黒谷 知来さんが現れました。
狛江 蒼狗 > 足絡みをかけた訳でもなく、横からボタンを押した訳でもない。
ただ自販機で買った飲み物を、自販機の横で飲んでいるだけ。
ゆえに狛江蒼狗は悪びれない。柔らかに微笑む。
「………………そうか、なら良かった」
自ら退路を塞ぎに行く姿はなかなか見ものだ。
『その者が苦手な飲食物を摂取させる』ことはどうしてこうも愉快なのだろうか。
我ながら珍しく性格の悪い事をしている、と思いながら苦さに顔を顰めた桐竹を眺め。
「慣れたら美味いぞ」
『慣れておるまい』と言外に揶揄う。

黒谷 知来 > 暑い。
じりじりと日差しを感じながらふらふらと通りを歩く。
そういえば、この辺りには自販機があったはず。
コンビニで買うよりは割高になるか。
それでもこの干からびそうな暑さを和らげるためなら安いと考えるべきか。
暑さでうまく回らない頭を無理に働かせて考える。

桐竹 琴乃 > 「ううう……」
どうしてこうなったのか。
「せ、精神修行をしていなかった私が憎い……」
まさかあんな光景に目を奪われるなんて!
もう一口、ちびりと口に入れる。
苦い苦い苦い。
諦めて口から離す。
彼は隣でただ今の時期にあるまじきものを飲んでいただけ。
それだけなのだ。
罪は無い。
あるとすれば、そんな光景に目を奪われてしまった自分。
がっくりとうなだれる。
完敗である。

といったよく分からない光景が自販機の前では繰り広げられていた。

黒谷 知来 > 自分はあまり裕福な方ではないことは分かっている。
かといって、夏に近い暑さを我慢できる忍耐もない。
さて、どうするか。
財布を覗いてみると、お札が数枚。そして100円玉が一つと、50円玉が一つ。
……150円あればジュースは買える。
迷った末に 自販機のある方向へと足を向ける。
自販機のそばにはすでに人影が二つ。
やはり季節に見合わないこの暑さ。
他にもジュースを買っている人がいるのだろう。
それなら私が買っても何も悪くない、と。
勝手に先客を免罪符にして自販機へと近づく。

狛江 蒼狗 > 日差しは加速度的に勢力を増している。
早朝には肌寒さを感じる程なのに、天気は全く気紛れだ。
そして、示し合わせた訳でもないのにこんな場末の自動販売機に人が集まるのは、運命の気紛れだろうか。
「………………!」
知来が自販機に近づいて目にするのは、コーンクリームスープの缶を片手に悶える白髪の青年と、ブラックコーヒーの缶を片手に苦い顔をしている黒髪の少女である。
負けを認めてコーヒーと格闘を始めた琴乃だが、それを引き起こした張本人である蒼狗もまた舌を負傷したままコーンクリームスープと格闘しなければならない状況に変化はない。
ここは静かな戦場である。

黒谷 知来 > なんだこれ。

自販機に近づいて、真っ先に抱いた感想はそれだ。
暑いから飲み物を飲む。それは全く自然なことであり、何もおかしくなどないはず。
なのに。それなのに。
熱湯にも近いコーンクリームスープと格闘する青年の姿。
明らかに渋い顔をしながらブラックコーヒーと格闘する少女の姿。
それは、水分を求めて集まった人の姿とは思えなかった。
安らぎを求めに来た雰囲気ではない。
自販機の前に漂う雰囲気は戦場のそれだ。
じわりと掌に汗が浮かぶ。
そっと小銭を取り出し、自販機に投入する。

狛江 蒼狗 > 【異能】等何も使われていないのに、どうしてこんな結果が導かれたのだろう?
それはこの場に居る誰もが知る由を持たない。
さておきコーンクリームスープの缶は【異能】を用いた最新技術で無駄に断熱構造であるらしく、いつまで経っても冷めやしない。
湯気は際限なく漂っている。
「……………………」
新たな犠牲者(候補)である知来の小柄な姿を確認すると、蒼狗は紳士的に道を開けた。
そして観察する。その指先の向かう先を。
この不幸な連鎖を止めることができるか、それとも巻き込まれてしまうのか。
蒼狗としては、同類がまたひとり増えるのならそれを歓迎するつもりでいる。
涼しげに精悍な顔を微笑ませて、コーンクリームスープ(熱)を一口含んだ。

桐竹 琴乃 > お金を入れる動作を確認する。
コーンスープとブラックコーヒーでは流石にパンチが違う。
が、やらねばならない。
そう、彼女の心は静かに決意する。
からこそ。
「私、ブラックコーヒー苦手なんですよ」
前置きとほぼ同時。
狗江と差し合わせたかのように。
腰に手を当て、ぐっとブラックコーヒーの缶を傾けた。

黒谷 知来 > どうしてこんなことになったのだろう。
わたしはただ飲み物を買いに来ただけだというのに。
この暑さの中、激熱のコーンスープを飲む青年。
苦手と言いながらブラックコーヒーを一気飲みする少女。
そして、何故かこの二人から並々ならぬ威圧感をかんじるような気がする。
手に汗がにじむ。指が震える。
だが、ここで負けるわけには行かない。
惑わされるな。周りのことなど気にするな。
わたしはただ水分の補給をしに来ただけだ。

大きく深呼吸し、赤く点滅するボタンを、アイスココアのボタンを押し…………

あれ、出てこない?

もう一度押す。出てこない。

無駄に連打する。出てこない。

少女はまだ気づいていない。
他のボタンとは違い、アイスココアのボタンは「売切」の赤い文字が点滅しているという、事実に。

狛江 蒼狗 > (………………や、やった!)
琴乃がしでかした“蛮行”に驚嘆する。
「……………………そうか」
そしてその矛盾した勇姿に笑いが込み上げる。
感情表現の乏しい狛江蒼狗だが、今日は不幸に見舞われたためか笑いの沸点が低くなっていた。
半笑いで堪える。

──琴乃の不条理は、知来の不条理へと伝播した。
魔術的な何かが働いたとしか思えないタイミングでの売り切れ。
「くっ、くく…………ふふ……」
もはや全笑いである。
蒼狗は、密かに心中でこの自販機を“泥沼”と命名した。

桐竹 琴乃 > 「ぷ…」
連打するボタンが売り切れ。
笑いを抑える。
ここで笑ってはしつれ
だめ。
たえれn
「あははははは!」
もう口の中はこの蛮行の為、ブラックコーヒーの味一杯で死にそうではあるが。
耐えれなかった。
けらけらと笑う。

黒谷 知来 > 「…………ぁっ」

隣の少女の笑い声でようやく気づく。
売り切れ。

どうして同じ赤ランプなのか。
分かりやすいように別の色でもいいじゃないか。
理不尽な怒りと羞恥が頭の中をぐるぐる廻る。
確認するまでもなく自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。

何故こんな簡単なことに気付けなかったのか。
思わず隣の二人に責任を求めたくなる。
あのタイミングであんな変な飲み方は卑怯ではないかと。

だが、二人に罪はない。
二人は自分が買ったものをただ飲んでいただけである。

妙な敗北感に包まれながら、仕方なく隣のボタンを力任せに叩く。

落ちてきたのはコーラだ。

黒谷 知来 > そして、少女は気づく。

わたし、炭酸苦手だ。

狛江 蒼狗 > 狛江蒼狗は、知来の表情からすべてを察した。
そして慈愛の表情を浮かべる。
「誰も幸せにならなかったな……」
無口に寡黙にコーンクリームスープを飲んでいた彼は、いやに流暢にそれだけ呟くとあ爽やかに残りのスープの飲み干s
(熱っつ……)
未だ熱い。残り20mlほどのスープがなぜこんな熱を持つのだろう。

黒谷 知来 > 「ぐぬぬ…………」

軽く涙目になりながらコーラの缶を握りしめる。
誰の責任でもない。売り切れに気を取られた自分の所為だ。
そんなことは分かっている。分かっているけど納得できない。
恨めしげに二人の手の中の飲料を見つつ、自販機を軽く蹴飛ばす。
当然鉄の塊である自販機はビクともしない。
足を押さえて蹲る知来。
ぷるぷるしてる。めっちゃぷるぷるしてる。

桐竹 琴乃 > 「ひー、ひー」
笑いすぎて過呼吸めいた声を上げた後どうにかして落ち着き。
ちら、と彼女を見ればぷるぷるしているのを確認し。
また一人。
そう軽くほくそ笑んだ後。
「あー笑いすぎたから喉渇いた」
そう言って手に持ったブラックコーヒーをぐいっと。
飲み干せるわけは無かった。
「げほっ」
むせる。
いや、これおかしいでしょ。
こんな苦くする意味なく無い?
おかしくない?上級者向けとかそういうのこれ?

黒谷 知来 > むすっとした表情で二人を見ながら、プルタブに手をかける。
わざとやられたような気がしてならない。
この二人はわたしに何か恨みでもあるのだろうかと。
一応お札は残っているからジュースは買える。
だが、大量のお釣りが出るため、自販機でお札を使うのは嫌だ。
ここは多少我慢してコーラを飲むのが最適解だ。
大丈夫。わたしはもっとひどいものをたくさん飲んできたではないか。
寮の冷蔵庫に詰め込まれた謎飲料を思い出して深呼吸。
非力な指先に力を込め、プルタブを開

*ぱぁん*

熱さの所為か、それとも自販機から落ちてきたときの衝撃の所為か。

膨張した二酸化炭素が 炭酸飲料が 破裂するように缶から噴き出す。

ぽたぽたと髪からコーラの雫を滴らせ、知来は硬直した。

狛江 蒼狗 > (ぷるぷるしている……)
天に唾する者へ当然の結果が返ってきたまでだ。
常世島にある自販機はすべて対異能措置がとられており、ちっとやそっとで壊れる事はないし物理的ないし電子的ハッキングされる事もない。
他人を憐れむよりも先に、自分は残りのコーンクリームスープを飲み干してさっさと帰らねばならない。
公安で“特雑”の任務が自分を待っている。最近厄介な上司ができたから尚更だ。
「あっ……つ…………!!!」
おかしい。
缶の底に残るスープが熱量を増している。
じっくりラベルを見回してみたところ、缶自体に保熱魔術が組み込まれており徐々に加熱される仕組みになっているという説明書きがあった。
残りが少なくなればなるほど沸騰に近づいていく欠陥構造である。
「ぐう…………!」残り10mlはぐつぐつと煮立っている。

狛江 蒼狗 > 「?」
蒼狗の頭上に疑問符が浮かんだ。
破裂音。
銃声よりも軽く、爆発音よりずっと軽い。
そう、喩えるなら。
炭酸飲料の栓を開けた時に起こる音のような。
というか、それそのもの──────。
「ぐっ、ふ…………う!」
蒼狗は咳き込んだ。
知来が泡と褐色の液体に塗れている。
これは我らの関与するところではない。
自販機の管理不行き届きだ。
しかし。
おかしいものはおかしい。
笑ったら悪い。ならば悪くてもいいぐらいおかしい。
「ふっ、ふっ、く、はは……!」
蒼狗は大柄な身体をやや折り曲げて背を震わせている。

ご案内:「学生通り」に沢渡 修治さんが現れました。
ご案内:「学生通り」に湖城惣一さんが現れました。
桐竹 琴乃 > しょうがないのでパッケージをくるくる回す。
ブラックコーヒーだ。
が。
ちらと見える一文。
(危険!超上級者用!上級者用を飲んでからお飲みください)
「はああ?」
声を上げる。
危険て、ただのブラックコーヒーですよねこれ?
などと。
パッケージ凝視していれば、破裂音。
「冷たっ」
声を上げ、横を見れば。
―――。
「ぐ……」
沸点は下がっている。
これ以上は―――。
「あはははははは!ひー!あはh」
耐えれず蹲り、過呼吸と笑いを繰り返す。

沢渡 修治 > 学生達のやり取りを見ていたのだろうか、いつの間にか大柄な男が一人
自販機のそばへとやってきていた。
「買っても、いいか?」
うかがいを立てる必要も無いのだろうが男はそう聞いた。

湖城惣一 > 「………………」
 焼き付けるような日差し。万年貧血に悩む不審者は、今、有り体に言うと全てが足りていなかった。
塩分とか、水分とか。諸々が。
 かろうじて巾着に残った200円。これさえあればひとまず身体に水分を補充することができる。そう、水分だ。

黒谷 知来 > 「…………。」

買ってもいいか という問い。
自分が許可を出すものでもない、が。
なんとなく、頷いた。
何故だろう。どこか心の中に期待する気持ちが湧いてくる。
泡と茶色の液体で濡れた少女が 新たな犠牲者候補をガン見している。
それはもう、めっちゃ見てる。見てる。

狛江 蒼狗 > 自販機(命名:泥沼)の魔力は未だ勢力を増しているようで。
新たな人影が彼方に見えた。
「…………………………当たり前だ」
狛江蒼狗は笑いでぜえぜえと息を切らしながら、上擦った声で修治に答える。
「買えるものなら」
蒼狗は意味ありげに微笑んでみせた。もちろん無意味だ。

湖城惣一 > (途中送信)
「…………水……」
 幽鬼のように自販機へ向かう不審者は、異様な光景を目にしていた。
 腹を抱えて笑う知人と男。コーラに身体を濡らした少女。
 買うことに許可を求める男も一人。異様だ。
 しかし、そんなことを気にする体の余裕はない。霞む視線で、なんとか自販機のあるこの場所まで辿り着いたのであった。

桐竹 琴乃 > 「ぜーぜー……」
蹲り、過呼吸をしながらも道を開ける。
「ど、どうぞどうぞ」
片手でつい、とこちらですと言わんばかりに手を伸ばす。
「きょ、今日は熱いですからね……へへ」
もはや笑いがこらえられないので最後に小物のような笑いが出てしまっている。

狛江 蒼狗 > 蒼狗とは全くもって面識のない黒髪ロングの少女も、いい顔をするようになった。
蒼狗と同じ目だ。
同類を求める目だ。
「……………………」
蒼狗は、『これは普通の自販機ですよ。たまたま人が集まってるだけですよ』というふうを装ってあらぬ方向を向いている。
二人も新たな犠牲者(候補)がやってきたのだから。どうせなら買って貰いたい。
「く、くく…………」
不幸の連鎖は続くのか、否か。
今なら、普通に硬貨を入れて普通に飲み物が出てきただけでも笑ってしまいそうだ。

沢渡 修治 > 「…………?」
学生達のやり取りは見ていたのだが、あまりその意味はわかっていない。
そして、なぜか興味があるような瞳で見られている気がする。
先に買うような素振りを見せている男を先に通しつつ自販機を見る。
(今日も、売り切れていないな)
そう
男はこの自販機の常連であった。

狛江 蒼狗 > 狛江蒼狗は武術の練達者だ。
古武術の系譜である無道双牙流といい、日常動作にもそれを活かしている。
ゆえに修治の仕草を見て理解できた。
(この男、“慣れて”いる……?)
もしかすれば、彼が流れを劇的に変えてくれるかも解らない。
蒼狗は見入った。

桐竹 琴乃 > もはや笑いすぎて身体は動かないが、目だけはぎらりと自販機を見ている。
私達がダメだったのか―――。
どうなのだ。
「ふへへ……」
もう思い出し笑いは苦痛の域に達しようとしているが未だに収まらない。
変な笑い声を蹲りながら上げている状況だ。
それでも、期待は募る―――。

湖城惣一 >  所在なげに、ひとまずたむろすグループに加わるように近寄ると、自販機を見た。まだミネラルウォーターは売り切れてはいない。
 ひとまずほっと息を漏らすと、改めてその場にたむろしている学生たちの異様さに目を向けた。
 何かを期待する視線だ。明らかに。この自販機に何があるのか、そこまでは分からないが、彼らの期待を煽るだけの何かが、ある。
 最後に、自販機の前の男を見た。その慣れた仕草は間違いなくここの常連だろう。
 つまり、ここで何が起きているのかを見極めるには――ちょうどいい。

沢渡 修治 > なんだろうか
何故かはわからないがこの場において
早く自販機を使う事を求められている気がした。
このまま立っていても悪い気がしてくる。

「ふむ……」

男は自販機の前に立ち
手馴れた動作でいつもの飲み物を買う。

【特濃牛乳】

押したボタンはそれであった。

黒谷 知来 > じっと見つめる。
そう、これは自販機だ。
だから、飲み物を買って飲む。
それは自然な行為だ。
何の不思議もない行動だ。
それなのに、なぜこんなにもそれが難しく思えるのか。
ああ、いっそ異能を使ってでも他の人が買うのを邪魔したい衝動に駆られる。
もちろん、そんな子供じみたことをするわけには行かない。
しかし、ただそのままでいることもできなかった。

缶の飲み口を親指で押さえて缶を振る。

指を離すと、ぷしゅー と。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。
小さなコーラの噴水ができた。

……わたしは何をしてるのか。
微妙に自己嫌悪してからコーラを口に含む。

狛江 蒼狗 > ────────異様な光景である。
人が少ない筈の時間帯になんの変哲もない自販機の周囲で5人の人間がそれに視線を釘付けにされている。
男(仮称“ベテラン”)はどういった行動をとるのか。
自販機なんぞ金を入れるかプリペイドカードをタッチしてボタンを押す以外にやることなどない。
────彼はそれを証明するように、いとも簡単に押してみせた。
「………………とく……?」
見慣れぬラベルである。他は良く言えば定番、悪く言えばマンネリの羅列だというのに。
(まさか……買えたのか……?)
口を押さえて驚愕する。
買えるのが普通であることを、蒼狗は失念している。

黒谷 知来 > (……あっ、やっぱ炭酸きつい。)

多少抜けていてもコーラの炭酸はそれなりに強い。
ついでに、異能を使うよりさらに子供っぽい行動を取っていたことに気づき自己嫌悪が倍プッシュ。
自販機の方を見る余裕はなかった。

桐竹 琴乃 > (押した……!)
ギラリ、ともはや目つきは麻雀のサマを許さない玄人の目である。
ごくりと、唾を飲み込む。
男(先生だろう多分)は手慣れたようにボタンを押す。
既に笑いすぎて何かをする余裕はない。
ただ、見守る。
時間がゆっくり流れているようだった。
ちなみにそんな様子だったので、近くに知人、コジョーが来ている事に全く気付いていない。
気配だけで二人きた、そうカウントしてるに過ぎないのだった。

狛江 蒼狗 > 「…………………………」
狛江蒼狗は軽く二回。大きな掌を合わせて小さなぱちぱちという音を鳴らす。
微笑ましいことをしている知来へ向けて。

湖城惣一 > 「…………」
 なんだ、と拍子抜けしながら男は自分の巾着を提げ持った。
 何の事はない。考えてみれば、周囲の人間が持っているのはコーンポタージュにブラックコーヒー、それにコーラだ。まあ、炭酸飲料が噴き出るのは世の常であるし、なんの不審なところもない。
 少なくとも、この場の手練れとおぼしき教師がなんの躊躇もしていない。
 むしろ、今にも脱水症状で倒れそうな自分のほうが切羽詰まっていた。

沢渡 修治 > 【特濃牛乳】
名前こそ普通のものだが―――
それは普通ではなかった。
買ったものしかわからないだろうが、この牛乳
特濃すぎるのだ。

簡単に言えば飲み物ですらない、中で固まった固形物なのである。
大抵の者はこれを買って蓋を開けた時点で唖然とする。
だが、男は違っていた。

いつもの作業といわんばかりに缶を逆さまにして
「ふんっ!」
指で缶底に穴を開ける。

桐竹 琴乃 > (この子可愛いな……)
多分、自分がした行為が余りに余りだったのだろう。
そしてコーラを飲み、顔をゆがめているのを見て少し愛おしくなった。
どこと無く、目つきが妹を見るような顔になっている。

黒谷 知来 > 飲みかけのコーラを噴き出しそうになって噎せる。
目の前でいきなり缶の底に穴を開ける人など初めて見た。
しかも指で。指で。素手で。

なんだこれ。この人ほんとに人間か。

ちゃんと買えたのに異様な光景が繰り広げられるこの自販機はなんなのか。

自分も人間でない という事実は知来の頭の中からぽっかり抜け落ちているようだ。

狛江 蒼狗 > 「何で!!?」
修治の奇行に狛江蒼狗は素で驚きの声を上げる。
プルタブの存在価値を一手で無に帰した。
ビール缶の底を噛んで開けて一気飲みする特技を持っている学生の話をどこかで聞いたことがあるが、ここで大道芸をする意味は一切ない。
それに、“溜め”もなかった。何の前触れもなくそうした。それこそプルタブを開けるかのように。
「…………………………」
(なんなんだ、この自販機)
何もかもに説明を求めたくなり、自販機にすべての責任をなすりつける。

桐竹 琴乃 > 目の前に広がる非日常。
ちゃんと買えても何か芸(決して芸をやっている訳ではない)をやる事になるのかこの自販機は。
「ワケが……わからない」
この赤い機械は。


本当に私たちの知る自販機なのか?
先ほどと違った意味でごくり、と唾を飲みこもうとして。
喉が渇いて上手く唾が出なかった。
手にあるじゃないか、飲み物が。
飲む。
「―――だーかーら!苦いんだって!」
誰に無く叫んだ。

湖城惣一 > 「…………!」
 息を呑んだ。尋常ではない。あれが正しい飲み方なのか? いや、まさか。
 惣一もまた、戦いに身をおくことが日常である。缶の落下音、そしてあの所業。

 ――まさか、あの牛乳の中身は固形だというのか。

 もしや、ここは売り物全てが、ありきたりに見えてそれぞれ珍妙な特徴を併せ持っているのか……?

 注意深く観察すると、驚きの声を上げたコーンポタージュには『徐々に加熱されていく』旨。ブラックコーヒーは見たことのない銘柄のものであったし、コーラについては門外漢だ。
 ――ここで、見知らぬ飲み物を買うのは危険ではないか。そう、推測立てた。

沢渡 修治 > 何回か同じ行動を取り、缶底に大穴をあける。
プルタブ側からでは決して飲むことが出来ないこれを飲む方法
それがこれだった。
天を向き、口を大きく開け、先ほどの缶をその上へと。
ボタボタボタボタと缶底から固形の牛乳が落ちていく……
「ングッ……ングッ」
飲む、と言うよりは食べる、が近いのではないだろうか。
傍から見れば異様な光景であるだろうが
男にとってはいたって普通の日常だった。

黒谷 知来 > 「………………。」

わたしは、ただ飲み物を飲みに来ただけのはずだ。
コーラまみれの少女は痺れたような頭で考える。
ここは飲み物の自販機ではなかったのか。
目の前の異様な光景に目が回る。
常世学園に在籍して2年目。
この学園の恐ろしさを垣間見た、気がした。

湖城惣一 >  しかし。安堵する。なにせ、自販機の端にはきちんと、己の知るミネラルウォーターがある。
隣の麦茶は危険だ。見たことがない。とんでもない作法を要求される可能性があった。
 ――自販機、敗れたり。
 心中で呟きながらも、本気で脱水症状が限界であった。
「御免。自分も飲み物を買いたい故、退いてもらってもよろしいか」
 特濃牛乳を"食べる"教師に対して、そう告げた

狛江 蒼狗 > “門”が開いたのでは?
ここは、既に次元の向こうの異空間なのでは?
状況を正しく把握することは困難だと考えた蒼狗は、現実逃避を始める。
否、これが現実であって良いものか。否、これが日常であって良いものか。
否、よくわからないミルク粥というかヨーグルトであることを疑われるものを飲み物として摂取する男が一般人であって良いものか。
「……………………」
狛江蒼狗は虚空を見つめる。
日常へ回帰する手段は、あの自販機から何事もなく普通の飲み物を買うしかないように思われた。
最後の男子生徒がきっと、どうにかしてくれるだろう。
ぐらぐらしてるコーンクリームスープから目を背けながら、最後の男が歩み出るのを見て心中で鼓舞を送る。

桐竹 琴乃 > 声にふと、顔を上げる。
そこには見慣れた顔。
コジョーだ。
だが、もはやこのコジョーすら何か幻では?と思っている琴乃は。
ただ彼が買う所を見送る事にする。
それから声を掛けても、遅くはあるまい。
だから。

せめて締めくくり(なのだろうか)を。

沢渡 修治 > 『御免。自分も飲み物を買いたい故、退いてもらってもよろしいか』
声をかけられる。
しまった、牛乳を飲むことに集中してしまっていた……。
自分が買うべきものは買ったのだから場所をあけるのが当然である。
「ああ、すまない」
簡潔にそう答えると横にどく、口の周りを白くしながら。

狛江 蒼狗 > (それは牛乳ではない)
狛江蒼狗は教師風の男の所作から心中を読み取り、そして心中で寸言を入れた。

湖城惣一 >  許可が取れれば、そのまま自販機の前へ。
 己の身に限界が迫る時、湖城惣一は過去の回想をする悪癖があった。
 そう、湖城惣一の過去は戦いとともにあった。
鬼と戦い、魔と戦い、刀と戦い、弓と戦う。
それらは全て己との戦いだ。己の力こそが物を言う。
 今回で例えるならば、観察力。それが明暗を分けたといっていい。

「……ふ」

 珍しく笑みを浮かべると、万感の思いで硬貨を二枚。水はいささか安い120円。100円硬貨二枚では買えはしない。

 そして――押した。

桐竹 琴乃 > (あれ、私とかこの子が飲んでたら偉い事になったかも知れない)
など、思考は完全にあらぬことを考えている。

つまるところ現実逃避である。

黒谷 知来 > (あー、コーラがまともに思えてきた。)

空を眺めながら 苦手な炭酸をちびちびと口に含む。
むしろ、このコーラが噴き出しただけでよかった。
この自販機から出てきたコーラだ。もしかしたら、爆発する可能性もあったのかもしれない。
自分の思考がどこか壊れた方向に向かっていることも気づかず。
少女はコーラをすする。

狛江 蒼狗 > “押す”までは誰もが滞り無く終わらせているのだ。
肝心なのはそれに対する自販機のレスポンス。
4人の犠牲者(うち1人は故意)が辿ってきた道筋から、正解を導き出せたのか。
無数の──より細かく言えば数十の──ボタンたちのうち、ミネラルウォーターは正しい結果を返すのか。
すべては次の瞬間で決まる。

湖城惣一 >  学園都市の自販機は、非常に高度な技術で作られているといっていい。
様々な実験機能を搭載された精密機械。
 故にこれは、科学との戦いとも言えた。

 ――落下音。

 湖城惣一が真剣勝負の心持ちでとりだしたそれは。

『完全栄養調整食品カロリーブロック ベジタブル味』

「…………み、ず」

 膝から崩れ落ちた。ああ、湖城惣一よ。お前は悪くない。
 機械の気まぐれで、ややも信号が錯綜したこと。
 たまたまカロリーブロックがそこにあったこと。
 ――ちょうど、カロリーブロックを買える値段であったこと。

 湖城惣一は、初めて、科学技術に敗北を喫した。

「せめて、飲み物」

 倒れ伏した。

沢渡 修治 > 何故か自販機の周りに漂う緊張感
男にとっては見慣れた自販機なのだが、どうやらここにいる他の者達にとってはそうではないらしい。

(目当てのものがないのかもしれない……)

男は的外れな事を考えていた。

黒谷 知来 > 「…………なんだこれ。」

とうとう、ツッコミを入れた。
むしろ入れざるを得なかった。

なんだこれ。

この一言に全ての感情を込めて。

少女は空を見上げた。

ああ、空が青い。雲が白い。


現実逃避したい。

桐竹 琴乃 > 空を仰ぐ。
出てきたモノはもはや飲み物ですらなかった。
じりじりと照りつける日差し。
―――ああ。
きっとこれは暑さにやられて私が見ている夢幻なんだ。
ふらり、と立ち上がり顔に手を置く。
そうでなければ、理由がつかない。

湖城惣一 >  遠くで、車の走り去る音が聞こえる。
ノスタルジィを感じさせる静寂が自販機周辺を包む。
 せめて、飲み物であったならば。
 ゼリーとかでもよかった。
特濃牛乳ですら『ぼたぼた』と落ち、
口の周りが汚れる以上、水分であったはず。
 だが。残念ながら湖城惣一の手に握られているのはカロリーブロック(200円)――。
 口中の水分を容赦なく奪う、最悪の一手。

狛江 蒼狗 > 「そんな……………よりによって……」
惣一が水を渇望しているのは目に見えていた。
出された結果は、自販機からの嘲り笑いに等しい。
あのタイプの食品は小麦粉と大豆淡白と植物油脂の塊で故にとてもボソボソしている。
食える筈もない。

脱水症状に見舞われている惣一はさておき、自販機へ畏怖の視線を向ける。
横幅1159mm、奥行き750mmの真っ赤な直方体は変わらず温調装置の唸りを上げ続けている。
狛江蒼狗は、たじろいだ。

沢渡 修治 > 「む……」
今、カロリーブロックを買った男が倒れた。
どうやら、水が欲しかったらしいが…間違えたのだろうか?
このまま放っておくのはまずい、
自販機でミネラルウォーターを買うと、倒れている男の横に置く。

このままここに居続ける理由も少ないので立ち去る事にするが……
一つだけ、周りの者達に伝えておこうと思った。

「……、商店街のほうが飲み物の種類は多いぞ?」

最後まで、男は今の状況を理解していなかった。

ご案内:「学生通り」から沢渡 修治さんが去りました。
桐竹 琴乃 > 「……」
財布を開け、中身を確認する。
―――。
小銭はある。
まだ買える。
札は入れたくない。
100%。
飲まれる。
ごくり、ともう唾も呑み込めないが喉をならし。

再度挑戦者として―――自販機に立つ。

黒谷 知来 > 再び自販機の前に立つ少女を見つめる。
一度の敗北を経験し、なお挑むその姿に敬意を表して。

一歩後ろに下がり、じっと待つ。
その瞬間を。息を詰めて見守る。

狛江 蒼狗 > とにかく、蒼狗は徒歩20秒(自販機の裏手)にある公園に赴く。
コピー用紙で簡易紙コップを作り水飲み場から一杯の水を汲んできて、惣一の骸のそばにそっと供えた。
それは水を渇望していた惣一への手向けである。とどめの一撃でもある。あったんじゃん、って。

水あるんだったら冷やして飲めばいいんじゃんとコーンスープの残りは途中で飲み干し、缶は捨てた。
そして。
「………………………」
「悲劇は、終わっt正気か?」
狛江蒼狗の言葉には真に迫るものがある。
なにしろ、既に通った道なのだ。
ろくなことにならないと、知っている筈なのだ。
都合、5人のパターンを見てきた筈なのだ。
…………もはや何も言うまい。彼女の背は、勇ましい。

桐竹 琴乃 > 先生の一言に現実に引き戻される。
商店街。
そうだ、そこに行けばいいじゃないか。
何もこの自販機にこだわる必要は―――。
カラン。
「あ、ちょっと待」
確かに受け取った―――。
そう言ったように一際大きな温調装置の唸り音。
慌てて返却バーを下げる。
当然の如く出てこない。
電子表記は残酷にも100を示していた。

湖城惣一 >  捧げられたミネラルウォーターや水道水。間違いなくこれお供え物である。
 最早どうしようもあるまいが、死を覚悟した湖城惣一はどうにか起き上がり、水を口に含む。

 さて、挑む知人は――。

「勝てよ、桐竹」

 声援を送った。

狛江 蒼狗 > (何でだよ)
返却レバーまで根性が捻くれ曲がっている。
捻ると料金表示がフッと消えて、お釣りの取り出し口には何の音沙汰もない。
それよりはマシと言うよりほかない。
お札を入れればお釣りは返ってこないのだろう。
もしくは、すべて10円玉で返ってきたりするのだろう。
「……あきらめろ」
背に声をかける。
『100円を諦めろ』というニュアンスだ。
それは人間として正しく理性的な思考に裏打ちされた発言である。

桐竹 琴乃 > 呑まれたまま、帰っちまえよ、やべえだろこの自販機
ここまで来たら皿まで喰らえ、だ。買っちまえよ。
意味の分からない脳内会議が始まる。
っていうか天使と悪魔すらいなかった。

諦め、無言でもう100円を取り出す。
カラン、と乾いた音を立て、硬貨が飲みこまれ、ピッと音が鳴り200の標記、そして、点灯するボタン達。

湖城惣一 > 「…………」
 水道水を飲み込む湖城の喉が、ゴクリと動く。
 まるで、息もつかせぬような波乱の連続。
この自販機は、最早鬼か悪魔のような存在にすら見えていた。
心中で、苦難成就の祝詞を唱える湖城惣一。

桐竹 琴乃 > きょろ、きょろと戦友たちを見回す。
天を仰ぐ。
脳内会議に居たのは。
ただの一般人と芸人だった。

意を決し。
全てをフル回転させる。
「!」
目を見開いた。
水でカロリーメイトが出たりするのなら―――。
逆に、熱いものなら、普通に飲み物が出てくるのでは?

迷わない。
押す。

桐竹 琴乃 > 「しるこ」そう、書かれたボタンを。
黒谷 知来 > (唖然)
狛江 蒼狗 > 「あっ」
天邪鬼な自販機の性質を逆手に取った策。
しかしそれは、相手の策に乗るということ。
結果は最悪の様相を呈した。
狛江蒼狗は知っている。
“しるこ”を押したら───────“しるこ”が出てくる。

湖城惣一 > 「…………!」
 しるこ。このうだるような熱気の中、しるこ。
その選択は正しいのか、そもそも桐竹は何を挑んでいるのか。
 状況を知らないはずの湖城惣一は、最早彼らと一体化したかのように固唾をのむ。
 最早蛮勇めいたその行動、湖城惣一の目には勇気ある行動のように思えていた。

桐竹 琴乃 > ゴトン、と出てくる飲み物。
勝利を確信し、手を伸ばす。
「かっ……」
むわっする熱気。
「あ、あっつ!?」

そう。
琴乃は知らなかった。
最初に来てみたのはコーンスープの時まで。
最初にまず狗江が、しるこを飲んでいた事実は。


―――知らなかったのだ―――

桐竹 琴乃 > 遂に琴乃は耐え切れず。

がくりと膝から崩れ落ちた。
「完敗……」

ミーンミーンと、確実に蝉が鳴いている。
もう夏だ。

黒谷 知来 > 熱々のしるこをみて、空を仰ぐ。
わたしたちでは、この自販機には勝てなかったのだ。

完敗だ。

そっと熱いものが浮かぶ目をこする。
そして、労うように琴乃さんの肩をぽんと叩いた。

湖城惣一 > 「………………」
 少女の表情を見て、敗北を悟る。
桐竹はよくやった。
健闘をたたえて、横に座り込む湖城が桐竹の肩にぽんと手を置くか。
 自販機を見上げ、目を細める。
 公安とか風紀的にこの自販機を取り締まるべきなのでは。

狛江 蒼狗 > 「……………………」
(そういえば、俺がコーンクリームスープと格闘してる最中に来たのだったか、彼女は……)
蒼狗は空を見上げた。白い雲が千切れて形を変えている。抜けるような青い色の狭間で。
二度挑み、二度敗れた。
“偶然ではない”ということだ。
冷静に考えると一度目の敗北は自販機云々の問題ではなく蒼狗によって引き起こされているが些細なことだ。
琴乃に歩み寄った蒼狗は、静かに。
「…………無駄にはしない」
と呟き、周囲の戦友に軽く手を振ると、その場をしめやかに去っていく。
公安委員会の窓口に、この自販機の異常を報告するために。
勝負には負けた。だが、このままにはしておかない。
それが手向けだった。

桐竹 琴乃 > 両肩に手を置かれた琴乃。
そして掛けられる声。
「ふふ」
悔し笑い。
そして立ち上がる。
「お願いします。この自販機、故障ですと」
至極、当然の事であった。

黒谷 知来 > 「……帰ろう。」

飲み終えたコーラの缶をゴミ箱に捨て、帰路につく。

ただでさえ小さな背中は、いつも以上に小さく見えた。

大丈夫。寮に帰れば自室の冷蔵庫に……

そういえば、今、ハバネロミルクとか入ってたなぁ、と。

嘆息して、足取り重く帰る。

ご案内:「学生通り」から狛江 蒼狗さんが去りました。
湖城惣一 > 「ああ、それではな」
 何やら、一言も話していないというのに。
この場にいる全員に強い友情を懐いた気がした。
 もしや、この自販機は縁を結ぶ付喪神なのかもしれない。
湖城は明らかに錯乱した思考で考えていた。
 しかし。許してはおけぬ。皆々、明らかに被害を被った顔だ。
 彼もまた、委員会にこれを通報すべく意志を固めた。
「……俺も、往くか」

桐竹 琴乃 > 「そんじゃ、コジョーまたね」
ふら、と熱いしること、未だに半分近く残るブラックコーヒーを両手に。
琴乃はゆっくりと、帰路に付く。

今日の残りの授業サボろう、そう決意して。

ご案内:「学生通り」から桐竹 琴乃さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から湖城惣一さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から黒谷 知来さんが去りました。
ご案内:「学生通り」にサヤさんが現れました。
サヤ > サヤ、いやかつてサヤと名乗っていた少女は、行くあてもなくふらふらとさまよっていた。
もはや一日のうちに自分の意識がある時間のほうが少なく、その間も半分眠ったような状態なのだ。
「喉……乾いたな……」もうずっと飲まず食わずな気がする、でも気がするだけでどれくらい時間が経ったのかわからない。今日は何日だろう…今日ってなんだっけ……。
覚束ない足取りで自販機へ向かう、確かこれには飲み物が入っているはずだ。

サヤ > 「ええ……っと……。」でもどうやって取り出すのか、忘れてしまった。誰かが教えてくれた気がするのに。
とりあえず押したり引いたり、揺らしてみる。出てこない。軽く叩いてみる。出てこない。
段々イライラしてきた、私は喉が乾いてるのに、この機械は何もしてくれない。
私は悩んでるのに、誰も何もしてくれない。私は辛いのに、誰も助けてくれない。

サヤ > 心のうちに怒りが湧いてくる。怒り、激しい怒り、自分の無力さへの怒り、周囲の無理解への怒り、この世界への怒り、生きとし生けるものすべてへの怒り。
「ああああぁぁぁぁ!!!!」八つ当たりめいた衝動のままに、右手の刀で自販機を横薙ぎに斬りつける。
振りぬいた姿勢のまま、2秒経過。自販機に斜めに分割線が入り、上部が自重でずれて、地面に落ちる。
自販機ごと切られた缶やペットボトルから、色とりどりの液体がこぼれ、地面を染める。

サヤ > 「そっか……。」これで飲み物が取れる、多分これでいいんだ。
切れていないものの中から、ペットボトルのお茶を探し出して拾う。
そして振り向き、何事かと様子を伺っている人々を焦点の定まらない瞳で見やり。「なんでしょう…?」と問いかける。
関わりあいになるのはまずいと判断したか、皆目をそらして、足早に立ち去っていった。

ご案内:「学生通り」に白崎玲刃さんが現れました。
白崎玲刃 > ………なんだこれは?
【講義が終わり学生通りと通り開拓街にある隠れ家へと帰ろうとしていた玲刃は、
目の前の壮絶な光景を目にし、驚き唖然とする。
いくら普通に疎い方の自分とはいえ、自動販売機を切るという発想は思い浮かばない。】

って、あの時の…たしか、サヤだったか?
【切断された自動販売機の前でペットボトルのお茶を飲んでいる少女は、
以前、第一教室棟のロビーで出会った少女だと気がつき、
あの時、この少女は確か、サヤと言っていたと思いだす。】

サヤ > 「……まっずい……」今まで何回か飲んだことがあるが、今回は飲むに耐えない味に感じる。ほとんど飲まないうちに、ペットボトルから手を離した。地面に落ち、お茶がばらまかれる。

声をかけられている、ような気がする。声の主を見て、周囲を見て、どうやら話しかけられているのは自分らしい。私はサヤなんて名前だったかな?そもそも名前なんか、あったかな?
「さや……私ですか?」首をかしげて、聞き返す。

白崎玲刃 > ………更に捨てるのかよ。
【自動販売機を壊すほどに欲しかったのではないのか?と心の中で突っ込みを入れる玲刃。】

ああ、お前だが?……どうした?
【首を傾げるサヤの様子がどうもおかしい事に気が付き、
玲刃は訝しむ。勿論、玲刃はサヤの現状も詳しい事を知らない為、
サヤの身に何が起こっているのか見当もつかない。】

サヤ > 「私はきっとサヤじゃない、ですよ。」首を振って、否定する。「前はそうだったかもしれないけど、今は違います。」色々なくしちゃったんです、と虚ろな顔で笑う。

「みんな私をいじめるので、怒ってしまいました。私は悪くないんですが、誰も聞いてくれないので……斬りました。」見れば、着ている巫女装束には返り血らしき血痕がつき、刀も血に濡れて妖しく輝いている。最近、人を斬ったようだ。

白崎玲刃 > …斬ったか。ああ、なるほどな。風紀委員を斬りつけた少女というのはお前か。
【斬ったという言葉に、落第街で得た情報の中の一つを思い出して納得した様に呟く
そして、玲刃は気付く、目の前の少女が以前遭った時と違い、様子がおかしいという事を。】

ふむ……誰も聞いてくれないから斬った、な。
確かに、自分の意見を通したいなら力に訴えるというのは有効な手段と言えるだろうな。
【サヤの話を聞き、納得した様に頷きながらも、玲刃のその表情に納得した様子は無い。】

しかし、だ。力に訴え意見を通せば、無駄に敵を生むだろうさ。
【玲刃は、なんでも屋として何人も殺してきた自分だってきっと多くの敵作ってるだろうさと心の中で思い苦笑いを浮かべながらも、目の前の少女に言葉をかける。
しながら、ここはまず、目の前の少女を、気絶させるなりなんなりして、大人しくさせる必要があるだろうと考え、異能と魔術の両方で身体強化を発動し、重ね掛けして身構える。】

サヤ > 「……あなたも、私をいじめに来たんですか……。」相手が構えれば、悲しみと諦観を混ぜたため息をつく。

「ええと…私の流派……忘れちゃった……。」刀を振るって血を落とし、左掌に力場を展開、気だるげに構える。距離は、2、3mほどか。

「まぁ、行きますね。」いうが早いか、力場で地面を叩き、その反動で一気に白兵戦の間合いに突っ込もうとする!入り込むことに成功すれば、足元を刀で薙ぎ、左手の反発力場付きの掌底が襲いかかるだろう。

白崎玲刃 > 別にいじめに来たわけでは無いんだがな…
【サヤの言葉に苦笑いで呟く。】

ふむ、サヤの流派か…たしか、人と剣が一体になる事だったか?
だとしたら…一体になりすぎたって事か…?
しかしな…手ごと刀を切り落とすってわけにもいかないしな…
【以前会った時にサヤが語っていた言葉を思い出しながら、呟いて一つの可能性に考えが至る。
だが、対処法として手を切り落とすのでは駄目だ、サヤは自分とは違って再生能力を持たない。
そう考えて、苦笑いと共に、思いついた対処を頭を振って否定した。】

ああ…来い…!
【玲刃は、身体強化による動体視力でサヤの動きを読みとりかわそうととするも、サヤが速い!】

………っ!
【玲刃は足元を数センチ切り裂かれるも、
サヤの掌底に対し、自身も身体強化の重ね掛けによる力を得たを右手を握り上からカウンターとしてぶつけた。】

サヤ > 力場と白崎の右手が反発し、サヤの体が大きく弾かれる。空中でひらりと体勢を整え、軽やかに着地する。
「そっか、体重……少し不利ですね…。」

素手で反撃してきたということは、相手も白兵型だろうか「だったら……ええと…」頭がふわふわしてうまく考えられない。
一瞬、棒立ちになって隙を晒してしまう。

白崎玲刃 > …ぐっ……!
【玲刃も、カウンターの反動で、小さく弾かれる、
しかし、右腕の骨に少しのびびが入っただろう。】

……隙が出来たか、ならば!
【棒立ちになっているサヤに向けて、
身体強化で得た脚力で走り突撃してゆく、その姿は傍から見れば隙のあるように見えるだろう。】

サヤ > 「あ……」いけない、ぼーっとしていた。相手が走ってくる。私を痛い目にあわせようとしているんだ、怖い。
「来ないで…!!」散乱するジュースを白崎に向けて蹴る、同時に力場を使って加速させれば、それは一瞬で時速数十kmまでに加速して襲いかかる。
しかし攻撃に力場を使っている最中は防御に回せない、大きなチャンスとなりえるだろう。

白崎玲刃 > ……右腕はくれてやる!
【サヤへ向かって走りながら、体を左に傾け回避動作を行う、
しかし、時速数十kmの速さの物をかわしきる事は出来ない、
飛来する巻が、何本か玲刃の右腕や右肩に当たり、右腕の骨や右半身の骨が何本か砕け、内臓も損傷する。】

……っ!……ごほっ!
【しかし、玲刃は、左足を強く踏み込んでいた為、そこを軸に、右半身に受けた衝撃を使い、
サヤの後ろへと周り込みながら、そのまま延髄へと手刀を叩きこみ気絶させようとする。】

サヤ > 「…ひっ」缶が当たってるのに、普通なら倒れるはずなのに、どうして向かってくるんだろう、そんなに私が嫌いなんだろうか。そんなに私を殺したいんだろうか。

「……!」近づいてきた相手に、刀で左下からの逆袈裟!しかし回りこむ動きに対応できず、力場も攻撃に使った直後だ。そのまま手刀をまともに食らう。玲刃の手に、金属のように冷たい体温が伝わる。
「がっ!」延髄への衝撃に肺はら息が漏れる。常人なら確実に意識を失う一撃だが。サヤは倒れることなく、前のめりになった姿勢から、後ろ蹴りを玲刃の胴めがけて放つ!あまり体重が乗っていないが、当たれば距離を離すぐらいの効果はあるだろう。

白崎玲刃 > …そうじゃない、と言いたいが。
まあ、そう思われるのも仕方ないか。
【どれだけダメージを与えても向かって来る敵というのか怖いだろうな、と
相手から見る自分の様相を想像して戦闘中だというのに苦笑いしながら呟く。】

……がっ!
【サヤの逆袈裟によって、右腕が切断される玲刃、
そして、後ろ蹴りをくらい、距離を離されそうになるも】

………!
【咄嗟に左手でサヤの服の後ろ襟を掴み、そのまま、左手に力を込めて引き、
その勢いでサヤの蹴りで浮いていた体をサヤにぶつけ、後ろからのタックルを仕掛ける。】

サヤ > 「あああぁぁ!!!」全力で投げた缶をぶつけた、腕を斬った、蹴りを食らわせた、痛いはずなのに、死ぬほど痛いはずなのに!わからない、どうしてまだ戦う?アドレナリンで加速した思考で疑問を繰り返す。

襟をつかまれ、背後からのタックル、このまま倒れたらまずい、必死で左手に力場を展開、地面を打って反動で相手ごと飛び上がる。
多分この程度で相手は手を離さないだろう、なら、私の後ろに居るなら、私にくっついて来てるなら!
一瞬のためらいもなく、刀を逆手に持ち替え、自分ごと相手を串刺しにしようと、自らの腹に刀を振り下ろす!

白崎玲刃 > ………!?
【サヤが自分の腹を刺そうとしているのに気付き、
玲刃はサヤが飛び上がった衝撃に耐えながら咄嗟に後ろ襟を離して左手でサヤの肩を掴み、
サヤの体を支点に動き、サヤの体に刺さろうとする刀をサヤに刺さる前に自分の腹で受けて止めようとする。】

サヤ > 怖くはない、きっと痛くもない、私は人をやめたから、鞘を捨てたから。
肩を掴まれた、まだ後ろに居る、早く刺さないと!
肉を刺す感覚が手に伝わる、痛くない、でも……何かおかしい、手元を見れば、突き刺さっているのは相手の腹で……

「え、な……なんで?」驚きと、疑問。どうして、私を助けた…?なぜ?
落ちながら、なんで、どうしてと繰り返す。
力場を広く張って、着地の衝撃を殺す。どうすればいいんだろう、トドメを刺せばいいの?でもこの人は私を助けた、助けなくちゃ?でも……。
思考がループして、何をすればいいのかわからなくなる。

白崎玲刃 > ……っっ!……がっ……ぁ……!
【腹に刀が刺さった痛みに耐えながらも着地の衝撃にも耐えようとする、
刺さった刀が、着地の衝撃で腹の傷を広げた
玲刃の腹からは多量の血が流れ出す。】

…でも、このまま…!
【激痛を耐えながらも、玲刃は、力を振り絞り、左手でサヤの刀を掴み、
そのまま、自分の体に刺さったまま、自分の体重と身体強化によるの力を使い、左腕で奪い取ろうとする。】

サヤ > 「あ、ああ……わ、私が……こんなこと……」自らの腹を躊躇なく貫こうとした覚悟とは一転、まるで子供のように慌てふためくばかり。
そして刀を奪われそうになれば「あ、あぁ、やだ……やめて!私を、奪わないで……!私が…いなくなっちゃう……やだ…!!」
渾身の力で刀に縋り付き、力場も展開して引っ張る。

常識を遥かに超えた引っ張り合いに、刀はねじれ曲がり、ついにその剛性と展性の限界を迎え……
バツン、と致命的な音を立て、半ばから折れてしまう。
「あう!」尻もちをついて、手の中の折れた刀を見る。「あ……ああ……私、私が……!」がたがたと震える、私が壊れてしまった。

「あ……うあ……嫌ぁぁああああ!!」目の前の現実に耐え切れず、拒絶と絶望の叫びをあげながら、逃げ出そうとする。

白崎玲刃 > ……っ!だが!
【サヤの引っ張る力に対し、玲刃も残ってる力を振り絞り対抗する。そして、】

っ………!?
【刀が半ばから折れて玲刃の、腹から抜ける。血がごぼっと腹から零れる。
玲刃は、それを気にした風も無く、折れた刀の片方を掴むと。】

…とりあえ、ず…これは…没収だ…。
【負傷に息を絶え絶えに苦々しい表情でそう言うと
収納の魔術を発動し手に掴んだ折れた刀の片方を、
収納用の小規模の異界に収納しようとする。】

…待て……っ…!
【そして、逃げ出そうとするサヤを追い掛けようとするも、
切断された右腕と、刺された腹の痛みで、玲刃は追い掛ける事が出来ない。】

サヤ > 折れた先のほうは意に介さない、もはやそれどころではないのだ。
ただこの場から、現実から逃げ出したくて、遮二無二に走り続け、玲刃の視界から消えた。

刀の破片を魔術的に調べれば、付喪神のように、魂が宿りかけている存在だということがわかることだろう。

ご案内:「学生通り」からサヤさんが去りました。
白崎玲刃 > ……ぐ……ぅ……!
【折れた刀の片方を収納し終えると、
ついに、玲刃は、痛みに耐えかねその場へとへたれこんだ。】

…ははは…音音に…無茶、するな…って言われてたのにな…また無茶しちゃったよ…。
【苦笑いを浮かべながら痛みを堪えて呟くと。
そのまま、這いずる様に切断された右腕の元へと行き、
左手で拾い上げ、右肩へと抑え込む。】

まあ、現物が…無いより…は再生の速度も…幾分か早いだろうさ…………―――――――――
【腹から伝わる激痛に耐えながら苦しそうな表情で呟いた後、
激痛に耐えかね、そのまま玲刃は路地に倒れ込み、気絶した。
倒れ伏した玲刃に周囲には、凄惨な戦闘の後が血の跡として、痛々しく残っていた。】

ご案内:「学生通り」から白崎玲刃さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に烏丸 九郎さんが現れました。
烏丸 九郎 > (時刻は放課後のころ、夕刻近く。少年は紙袋を抱えながら学生通りをゆく。
紙袋の中身はといえば…商店街で買ったビーフコロッケ。しかも2つ。
今日のおやつだ。
早速一つ取り出して、さくさくとかじる。
やはり美味い。牛肉の旨味と、ホクホクのポテト、玉ねぎの甘味も忘れてはいけない。ソースがなくても十分に美味い。)

烏丸 九郎 > (だが、脂っこいものだけではどうも…今日は何かとてもお腹が空いているのだ。
せっかくここまで足を伸ばしたのだから、食べ歩きして帰ろう。
それを夕食としよう。
もくもくとビーフコロッケを咀嚼しながら、とりあえず自販機の傍へと移動する。
ものを食ってれば喉が渇く。当然のことだ。)