2015/07/11 のログ
ご案内:「学生通り」にヘルベチカさんが現れました。
ヘルベチカ > 雨の音が聞こえる。
雨が降っていたのだ。
書店の中から出てみれば、ぱらぱらと空から落ちるもの。
一瞬足を止める。
書店の中へ、引き返そうかと思ったけれど。
後ろから出てきた客に押される形で、軒先から離れた。
「あぁ、くそっ」
小さく呟いた。同時、冷たい感触。頬に触れて。
急ぎ足。前後に振る手の甲に、ぽつりぽつりと雨が当たる。
あぁ。傘がない。

ヘルベチカ > ぱらぱら。
ぱたぱた。
たたたた。
ざぁ。
見る見るうちに、強くなる雨脚。
少年は、慌てて。視線を左右に飛ばす。
そして、早足から、駈け出した。
進んだ先。シャッターの閉まった店舗の軒先。
「っ、と」
逃げ込んだ途端。
ががぁん、と震わせる音。雷が鳴った。

ヘルベチカ > 雨の音が聞こえる。
掻き消して、吸い込む、水の音がする。
普段なら耳へ届くような音も、今は静かで。
代わりに、埋める、雨音。
「濡れた、なぁ」
顔を顰める少年。制服の上着を脱いだ。
白いワイシャツ。雨に濡れて、下に着た白いシャツが透けている。
上着をばさばさと振っても、水が消え失せるわけでもなく。
顔についた雨水を、ワイシャツの袖で拭った。
けれど、元々濡れていた生地は水を吸わなくて。
顔の上、塗り広げただけ。
腕にぺたりと張り付いた、堅くて白い布地。肌色が透ける。

ヘルベチカ > ネクタイを緩めて、シャツの第一ボタン、第二ボタンを開ける。
襟に手をかけて、空気を送り込む仕草。
「……涼しいけど、暑い」
湿度100%の世界。濡れて肌に張り付くシャツが、鬱陶しい。
猫耳も、毛が水を吸って、心なしかぺたりとして見えて。
また、がぁん、と雷が鳴った。
軒先、この場所から通りを見れば、傘を持っている人は少数。
たしか、朝の天気予報では、曇りと言っていた。

ヘルベチカ > 溜息。ポケットの中、入れていたハンドタオルを取り出して。
湿気ているけれど、袖に比べればマシなそれで顔を拭く。
一息吐いて、視線を通りから逸らした。
逸らした先。ふ、と。何かに気づいたように。
顔を上げれば、目に入った自動販売機。
雨宿りしている軒先の中。一台、置かれていた。

ヘルベチカ > 雨はしばらく止みそうになくて。
雨宿りを続けるのか、それとも走り抜けるかを決めなければならない。
そして少年は。
「ん」
ポケットの中、コインポケットに入った小銭を漁る。
自動販売機へ投入した。
一定額を超えた時点で、一斉にボタンに光が灯る。
並ぶ、一面の蒼。

ヘルベチカ > 「えぇと」
左腕に制服の上着をかけて。
右の手が持ち上げられ、人差し指が宙を惑う。
待つことに決めたから、小銭を投入したけれど。
考えてみれば、何を飲むかなんて、決めてもいなかった。

ヘルベチカ > スポーツドリンクに指先が向かう。
けれど、喉がそう乾いているわけでもない。
炭酸飲料。なんとなく、気分じゃなかった。
お茶。いいかもしれない。
けれど、最後には。
「これ」
ボタンを押した。青色が一斉に失われて。
雨音だけが響く中に、がたん、と重い音が一瞬生まれた。

ヘルベチカ > 取り出し口の、透明なカバーを押して。
差し入れた手。指先。ひやりとした感触。
取り出したのは、小さな缶。
微糖の缶コーヒー。逆様に手の中にあったそれを、正位置にして。
しゃかしゃかと、少し力強く振る。
少量の液体が揺れる音。そして、振るのを止めて。
泡が収まるのをぼんやりと待つ時間。

ヘルベチカ > 曖昧な。何者でもない時間。
ほんの数秒。泡沫の合間。
プルタブを引いて、蓋を開ければ終わり。
ぷしゅ、と空気の抜ける音。
缶の口に、口付けた。冷たいそれを、ずず、と啜る。

ヘルベチカ > 白くきらきらと一瞬だけ描かれた線が地面に向けて消えていく。
黒くてらてらと光る地面。水の溜まった場所だけが、波打って白い。
街路を作った人間の意図しない、色彩の染色。
こういう芸術品も、世界の何処かには有るのかもしれない。
一日として、同じものはないのだろう。
皆が歩き、すり減らせば、あの地の黒い輝きは、波打ちに混ざって消えていく。
明日か。明後日か。いつまであるのか。
あの場所は何時から、深く雨底に沈んだのか。
あるいは、他の場所が、黒く光るように、浮かび上がったのか。

ヘルベチカ > けれど、綺麗だとは思えない。
鬱陶しいだけの、通り雨。
口の中に広がる甘苦い、どこかとろりとした舌触り/味。
飲んだ喉奥から吐息に混ざる、舌の上にこびりついた甘さ。
缶を揺らした。
ちゃぷ、と水音。
雨音に混ざる。

ヘルベチカ > 通りを歩く人々に、傘持つ割合が段々と増え始めた。
雨が立ってしばらくすれば、皆傘を買うなり、持って出るなりする。
だから、少年がこの場所で足を止めている間に、人々は道行く。
減ってゆく缶コーヒーだけが、時間の流れを表して。
まだ止みそうにない雨は、時間を持たない。

ヘルベチカ > 上唇を舐める。付いた珈琲の味が薄っすらとする。
舌が甘みに慣れはじめた。
それでも尚甘いのだから、身体にいいものでも無いのだろうけれど。
雨を眺めながら時間を潰すのには、そう悪くもない友人だ。
空が、ぐるぐる、と、喉を鳴らすように唸る。雷の揺蕩い。
この街で落ちるとすれば、どこだろうか。
時計台はきっと、落ちるだろう。そういうふうに、出来ていそうだ。

ヘルベチカ > がぁん。強い音一つ。空と時計塔との間に、光が橋渡った。
世界の色彩がその瞬間だけ反転したように見えた。
空から落ち、地面へと消える白い線は黒へ。
ぬらりと光を照り返す黒い地面は真っ白く。
波打つ水たまりは黒く染まって。
その中に強く、一筋伸びる稲光。

ご案内:「学生通り」に惨月白露さんが現れました。
惨月白露 > 全身をずぶずぶに濡らしながら、
彼の居る軒下に入っていく。

「あーもう、マジなんなんだよ。」

ぶるぶると頭を振ると、耳と髪から水滴が飛び散った。
さらに身を震わせ、尻尾についた水気も落として行く。

「―――ったく、天気予報じゃ雨ともなんとも言ってなかったっての。」

鏡を取り出して服の様子を確認する、
濡れたそれは、随分と透けて、その白い肌を表面に浮かび上がらせていた。

「はぁ、今日は散々だな、マジで。」

ヘルベチカ > そっと目を閉じた。
広がる暗闇。雨音は耳を塞ぎ、一人。
そこに一筋"見える"。稲光の、痕跡。
何か呟こうと、口を開いたところで。
聞こえた声に、はっ、と瞳を開いた。
同時。惨月の身づくろいに伴って飛んできた水が、少年を直撃する。
ちょ、とも。おま、とも。
口にしようと思って、口を開けば、きっと水が入るから口を噤んで。
飛んでくる水が一段落したところで。
完全にこちらのことを視界に入れず、身だしなみを整えている相手へと。
「そんな感じなんだ、白露さん」
言って、コーヒーを啜った。

惨月白露 > 遠目に落ちる雷を確認すると、
軒下にある自販機の前に立ち、その指先を迷わせる。
炭酸飲料の前で止まったが、そのまま下へ、

缶入りのコーンポタージュ、
この季節には珍しく「あたたかい」のランプのついたそれを、
その細い指先は選んだ。

プルタブを起こすと、一口飲む。
その体が、暖かいものを取り込んだ事でプルプルと震える。

そこで、ふと、隣からかけられた聞き覚えのある声に、
「びくり」とその頭上の耳が震えた

「あ、えっと、これは、その。」

表情がくるくると変わる、『誤魔化すか?』
『いや、完全に聞かれただろ』
『畜生、雨が目に染みて視界に入れてなかった。』

等と色々と考えた末に、ヘルベチカに迫ると、
片手で相手の胸倉をつかんで眉間にしわを寄せて相手を睨みつける。

「どこから聞いてやがった、タップダンス野郎。」

ヘルベチカ > 少年の視線は、コーヒーに口をつけたままに、相手の顔を見て。
それから頭の上を見て、ずぶ濡れた身体を見て、視線が素早く顔に戻った。
「何。コーンポタージュ飲んでるところ、見られたくなかった?」
最後にコーンを食べるのに必死になるタイプなんだろうか、なんて益体もないことをぼんやりと考える。
雨音の所為か、思考は純なようでぼんやりと。
スライドショーというよりは、雨の景色があるせいか。
「なんか回転覗き絵みたいだけど、大」
丈夫、と。続ける前に、胸ぐらをひっつかまれて、言葉を止めた。
こちらを睨むその目を、じぃ、と見返して。
胸元、掴む手指を見ようとして、物理的に不可能なことに諦める。
相手の頭の上を見て、そして再びその目を見た。
「残念だけど、時計じかけにオレンジされそうなのは俺の方だから、タップダンスは踊ってない」
傘持ってるけど使わないとかじゃないし、と。
右手の中、小さなスチール缶を揺らせば、ちゃぷちゃぷと水音。
「あと、そんなに掴んで、ネイル大丈夫?」

惨月白露 > 慌てて手を放すと、ネイルを確認して、
ただ、『はぁ』とため息をついた

「なんだ、別にひいたりしないんだな、ネコちゃんはさ。」

『ご心配どーも、どうやら無事のようだよ。』と言いつつ、
くるくると缶を揺らし、口に運ぶ。
ドンと音を立てて自動販売機に寄りかかると、
未だに雨の降る外をぼんやりと眺めた。

しとしと、ぽたぽた、時折光っては大きな音を立てて、
二人を取り囲む水の牢獄はゆるやかにその格子の数を増やしていく。
彼の銀色の髪、そこに混ざる黒のメッシュから、
水がぽたりと、彼の鎖骨に落ちた。

「夕立にしては随分とご機嫌な雨脚だよな。
 雨宿りすんのはいいけど、ちゃんとあがんのかな、コレ。」

ヘルベチカ > 「折れてたらめんどくさいでしょ。ダメだってネイルしてる手は荒っぽいことしたら」
惨月が確認する指先を、少年も覗きこむように眺めて。
なんとはなしに己の爪を眺めて、相手の爪を再度眺めて。
「やっぱり形違うなー……引く?」
再度己の手先に落としていた視線を、相手へ向けて首を傾げた。
えーと、と呟いて、視線が少し揺れてから。
「あぁ。喋り方?いや、別に引くポイントなくない?あるの?あ、よかった爪無事で」
あっはっは、と笑いながら、コーヒーをもう一方の手に持ち変える。
少年を濡らし、少年をより酷く濡らした雨は、止む気配など無く。
道路脇、側溝には、音こそ雨音に混ざって聞こえないものの、
勢い良く水が流れ込んでいるのが見える。騒々しい世界。
軒先の長さ分だけ、そこから隔てられて。
「どうなんだろ。夕立じゃなくて普通の雨だったり、誰かの力だったりしたら、泣くけど」
缶に口づけて傾ける。飲み下して、笑って。
「いつもなんか飲んでるみたいだ」

惨月白露 >  
「男でそういう妙な所に気を回すようなやつは信用できねーな。
 間違いなく女垂らしじゃねーか。」

目を細めて彼の爪の形の指摘に『そうか?』と笑いつつ、手にした缶を傾ける。
コーンを牙でぷちぷちと潰すと、唇についた黄色い滴をぺろり、とその赤い舌で舐めた。

「ふーん、やっぱり変な奴だな、お前。
 大抵のヤツは口調が変わるだけでも結構色々言うんだけどな。」

軒先に取り付けられた雨樋が詰まっているのか、
雨樋から滝のように零れ落ちて行く水のカーテンを横目に見ながら、
張り付く感触が気持ち悪いブラウスの胸元に、その爪を引っかけてくいくいと引っ張る。

「ま、ネコちゃんと一緒だから退屈はしなそうだけど、
 あんまり長く立ってると疲れるしな。
 それに、このままじゃ間違いなく風邪引く。」

彼が缶に口をつけるのを眺めて、
『ま、確かにそうだな。』と笑う。
ぼんやりと、絵の具を適当にぶちまけて、
ぐちゃぐちゃと混ぜたような真っ黒に濁った空を見上げる。
夕立、にしては少し黒すぎるな、とぼんやりと思った。

「……なぁ、お前ドコに住んでんの?」

ヘルベチカ > 「ひどくない?なんか酷い悪評立ってない?無罪叫んでも許される部分じゃない?」
ぶるぶるぶる、と首を振ってから。
「蔵書整理の時にネイルしてる女子は作業しないから覚えたんだよ」
「なんで?って聞いたら『いくらするか知ってんの?』ってさ」
笑いながら説明するのは、あまりにも切ない理由であった。
多分その尻を拭ったのはこの少年である。
「口調なんて俺だってコロコロ変わるよ」
軒先の向こう側。宙に走る銀線、強い雨を眺めながら。
「それに、前も言ったけど、ソッチのほうが『らしい』気がするし、素なんだろ?」
開いた右の掌、額を拭った。濡れた髪が頭を覆って、首から上だけ蒸し暑い気がする。
だから、と口にしながら相手を見て。
繊手が胸元から風を送っているのが視界の端に入れば、再び視線を街路へと向けた。
「素で話してもらったほうが良いわ……どういうことかよくわからないけど一発芸は特に無いから諦めよ?」
退屈はしない、という言葉から感じるのは、嫌な予感以外の何物でもなくて。
げんなりとした顔をしつつ、缶を揺らす。
「あぁ、確かに風邪引くかも。風強まったら悲惨」
どうしたもんか、と悩んで、左手、掛けたままの上着を見て。
「んん?あぁ、近所の喫茶店だよ。そこの屋根裏だけど。なんで?」

惨月白露 > 「ふーん、お前も苦労してるんだな。
 あと、それが悪評ならお前の耳への評価も十分に悪評だぜ?
 そっちがそんな事情でネイル事情に詳しかったのと一緒で、
 色々事情があんだよ、色々。」

そう言って肩を竦める、
隣のこの少年が、ネイルを理由に仕事を断った女子に
こき使われたであろう事は容易に想像がつく。
そして、飽きれたようにため息をついた。
湿気た空気に、息が混ざり、溶けていく。

「ってか、仕事場にネイルつけてくるやつが悪いんだろ、
 お前も少しは言い返せよな。」

未だにしとしとと水を垂らしてワイシャツに点滴をしてくれている
髪の毛を払う、白手を追うように、水滴が舞った。
そのいくつかは、最後の楽園と化している軒下の乾いた地面に散って、シミを作った。

「まぁ、お察しの通り素だよ。
 ……どう?彼女にする気になった?」

そう悪戯っぽく笑いつつ、空を見上げる。
『よっと』と小さく声を漏らすと、身を起こした。

「いや、俺の家、こっからめっちゃ遠いからさ、
 雨が上がらなそうだったら、いつまで待ってても仕方ないし、
 こっから近いならネコちゃんの家に上がらせて貰おうかなってさ。」

ヘルベチカ > 「別に公安とか風紀みたいに危ないわけじゃないし、いいんだ」
ゆるゆると首を振って、コーヒーに口をつけた表情を見れば、本当に気にはしていない様子。

「ま、事情があるんだろうけど、でもやっぱり愛想の裏側はあったじゃん」
からからと、少年は笑って。
ついに飲み終えて空いたコーヒーの缶を、自販機横。缶用のゴミ箱へと放り込んだ。

「図書委員会なんて、本が好きか、適当に単位欲しいやつのやる委員会らしいし」
このような言い方をするということは、少年は前者に属するのだろう。
けれど、正義感や怒りの色は、声に混じってはいない。
淡々と事実だけを言ってから、笑い。
「それに、手入れ含めてそんなするんなら、無に帰すのもったいないから俺が仕事するわ、ってなるわ。なった」
ふるふる、と少年の猫耳が震える。
空が光って数秒。ごごん、と。雷の鳴る大きな音。

相手が悪戯混じりに問いかけた言葉には、
うん、と一つ頷いて。
「こっちの喋り方なら前よりは余程彼女にしたくなったわ」
余程、前回の惨月の様子が信用ならなかったようで、そんな言葉。

めっちゃ遠い。頭の中に、ぼんやりと島の地図を浮かべる。
「何。どこ住んでんの……異邦人地域とか?
 上がらせてって、お前出会って二回目の男子の家に―――」
相手の手近にある、赤い鞘に目をやって。
「―――まぁ、安全だわな、大体の場合」
乾いた笑い。前回、相手のお気に入りの場所でしばらく会話して居たため、完全に忘れていた。
「別にいいよ。ただ、走っても4,5分は濡れるぞ」

惨月白露 > 「いや、不真面目じゃねーか、
 いやま、学生くらいの年齢じゃ仕方ねぇのかなー。
 いくら自分の目的の為でも、本気じゃなくても、
 任された仕事に責任を持てないやつは嫌いなんだよ。」

少し遅れて、檻を破るように外に向けて放り投げた。
カラーン、カラーン、と音を立てて地面を転がった缶は、
その口から少しだけ残っていた黄色い液体を地面に広げる。

「ま、そりゃな。
 でも、別にそれで何かだまそうとしてたとかじゃねーんだからいいじゃねーか。
 まぁ、ちょっと得はしたけど、処世術だよ、処世術。」

そう言って肩を竦める。
広がった液体は、すぐに雨に流れて消え、
缶には水に流されていた虫がしがみついて、
雨宿りをするようにその口の中へ消えて行った。

「ま、女の子を大事にするのはいいけど、
 そういうやつって大抵『いい人』で終わるぜ?
 ガチで下心が無いってなら、ま、勝手にしろよって感じだけどさ。」

雷が落ちる旅に、彼の耳はピクリと震える。
別におびえてるとかではなく、本能で。

「えーっと、光ってからこんくらいだからー。」

指を折って光ってからの時間を数えて、雷の距離を測った。
どうにも、やっぱり近寄って来ているような気がする。
『やっぱりまだ結構振りそうだな』とため息をつく。

「ま、こんだけ濡れてたら、追加で4,5分濡れても変わらないだろ。
 あと、刀とか持ってなくても、
 ちょっと胸元をパタパタしたくらいですぐに
 目をそらすようなヘタレクンの事なんて誰も警戒しねーよ。」

親指を立てた手で、外の雨を指差し、彼を促す。

「ま、そうと決まればさっさと行こうぜ、
 早いとこ温かいシャワーが浴びたいしな。」

ヘルベチカ > 「学生くらいの年齢って、なんかやっぱり30代後半みたいな感想ですけど大丈夫です???」
笑いながら首を傾げていた、その視線の先を飛んでいった、缶。
目で追えば、道路の真ん中くらいまで転がって、そこで止まった。
あー、あー、あー、と少年は口から声を出して。
走った。
虫が中へ入ったことなど、見えてもいないだろう。
転がっていた缶を拾い上げれば、また軒先まで、急いで戻ってくる。
そして、ゴミ箱の横へと、拾った缶を立てて置いた。
「あー、目に入った」
ぐしぐしと、手の付け根で目元を擦りながら。
「その処世術が怖い。得ってなんだ、得って」
ぱちぱちと、数度瞬きをして。違和感がわずか残るが、問題ない。
惨月の邪推に近いような発言に、少年は素直に首を傾げて。
「いや、女子だからとかじゃなくて、男子と同じ扱いだったんだけど」
別にタイプとかじゃなかったしな……と、当人の女子が聞けば、
嫌な顔をするだろう言葉。
「は?ヘタレじゃないんですけど?紳士って呼んで欲しいんですけど?
 仮にヘタレだとしてもヘタレという名の紳士なんですけど?
 ヘタレ紳士ってなんか足腰がっくがくの老人みたいでやだな……そんじゃいくか」
左腕、かけていた上着を両手で持って、ばさり、と広げた。
制服故の、普通より少し分厚い布地。
不意に投げれば、惨月の頭の上に乗る。
「こっち」
少年は駈け出した。白いワイシャツは、水があたっても、もう吸い込まず。
肩口、跳ねている雨粒が後ろからも見える。
そして少年は、己の住処に向けて駈け出した。

惨月白露 > 「さすがにそんなに年は行ってねーよ。というか普通に失礼だろ。
 そもそも、前に16って言ったじゃん。なんだよ30後半って。」

缶を拾ってゴミ箱に立てた彼に、
『とってこいをしたつもりはないんだけどな』と笑う。
立てた缶からうぞうぞと名も知らぬ虫が這い出た。

「男女平等にそれなのか、そりゃさぞモテるんだろうな。主に男に。」

不意に投げられたワイシャツの裾を掴む。
ワイシャツが触れると「つめたっ」と声を漏らした。

「―――はいはい、紳士ね。
 確かに、こういう事を自然とできるあたりは紳士だよな。ネコちゃん。」

じわりと指先に水がにじむが、特に気にすることは無く、
ヘルベチカと一緒に、その純白の布を盾に、
雨の矢が降り注ぐ中へと駈け出した。

ご案内:「学生通り」からヘルベチカさんが去りました。
ご案内:「学生通り」から惨月白露さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に自販機さんが現れました。
自販機 > (学生通りのどこか。穴場的なおいしいケーキ屋さんのすぐ隣の土地に自販機があった。穴場的と言うだけあって大通りから少し離れた民家の一階を改装したお店であり、知る人ぞ知るお店なのだ)

「ブーン」

(なぜかピエロっぽい装飾品に彩られていた。
 劇場型犯罪に感化されたどこかの誰かに悪戯されたのかもしれない。だが自販機である。笑うこともおどけることもないのだ)

ご案内:「学生通り」に嶋野陽子さんが現れました。
嶋野陽子 > 時空の歪みを感じた方向に足を向けると、カフェで時々噂に
なっていた自販機らしきものを見つけた。
前から試してみたかったお札があるのだ・・・

嶋野陽子 > (転移前の財布に残っていた1万円札を入れたら、どうなるだろう)
並行宇宙の1万円も、この機械は認識してくれるのだろうか?
自販機の前で立ち止まると、陽子は自分が元いた世界の一万円札を入れ、ボタンを押す。

嶋野陽子 > (もしこれで、元いた世界の何かが出て来たらば、元の世界に戻る事が原理的に可能と証明されるわ)
期待半分、畏怖半分で、自販機から出てくる物を待つ陽子。

自販機 > (千客万来。
 お金を入れてくれるなら大歓迎やで といわんばかりボタンを点滅させる。
 とはいえ自販機は自販機でも常世学園中に出没して怪しいものを販売している曰くつきのブツ。生活委員どころか風紀に目をつけられているのである。)

「ブーン」

(早くしろよと言わんばかりに鳴る。
 一万円――ただしこの世に存在しないであろうものを入れるや否や、エラー音らしき電子音を鳴らした)

「ブッブー」

(にゅっと一万円がつき返された。
 が、再び中に入っていく。沈黙の後に一本のペットボトル飲料が出てくる。
 『宇宙』。
 星空のような光を詰め込んだ500ml入りの飲料。
 製造『NASA』。
 きっとそれは本人の願うものではないのだ)

嶋野陽子 > 500ml入りのペットボトルを手にした私は、それをさっと鞄に入れると、わき目も振らず寮に帰る。

これを調べるのは、敬一と一緒になってからでないと・・・
あとは、どこか良い隠し場所を考えなくては・・・

自販機 > 「ブーン」

(一万円分の飲料を持って帰っていく様を見送る。
 追いかける足が無い(高速移動はノーカウント)ので、仕方ないね)

嶋野陽子 > (単に見つからないというだけなら、体内が一番確実だけど、下手をすると一番危険かも知れない)
隠し場所については、明日考えよう。
こうして、寮に帰ったのだった・・・

ご案内:「学生通り」から嶋野陽子さんが去りました。
自販機 > (今までで最速だったのではないか)

「ブーン」

(なにいってんだこいつ)

(自販機は次のお客さんが来ないかを待っている。ひたすら待っているのだ。金をいれてくれるならば人類だろうが猿だろうがかまわないのだ。
 できれば二万円くらい入れてくれるといいなとネタを引っ張りつつ、ピエロの衣装の一部が風にあおられてどこかに吹っ飛んでいく)

ご案内:「学生通り」にクゥティシスさんが現れました。
クゥティシス > (それは見知らぬ物体との会合であった)
(実際に自販機を知らぬわけではない)

(が、こんな自販機は見たことが無かった)

「…なに、これ?」
「飲み物、選べないじゃん」

(自分が知る自販機との違いに首を傾げる)

「……不良品、かな」

(訝しげに自販機とにらめっこである。横に回ったり、後ろを覗き込んでみたり)
(どこかほかにおかしな部分はないかと調べているようだ)

自販機 > (選べないしお金の額もおかしい。入れたら入れたら一部の人間を除いて阿鼻叫喚に叩き込む混沌である。
 ちみっこが現れても動じない。
 あやしいところと言えば「全部」と見も蓋もないことを言えるだろうが、しいて言えば唯一開けられそうなハッチが目に留まるかもしれない。
 自販機は低音を鳴らしつつ静止している。
 ピエロの衣装がいっそう怪しさを演出する)

クゥティシス > 「怪しい…」

(という感想しか出てこない)
(その周囲から浮きまくったピエロの衣装はそもそも何なのか)
(衣装こそ派手だが本来気を使うべき飲み物のサンプル部には何もないのだ)
(何を意図して作られたものなのかさっぱり分からない)

「……これも、ニンゲンの社会では当たり前だったり…??」

(実は自分が知らないだけで、この自販機は学生たちの間では常識なのかもしれない)
(だったら、知らないままではちょっと恥ずかしい気はした)

「ここ、飲み物出てくるとこ…なのかな」

(目に留まったハッチに触れようと手を伸ばす)
(が、腰が引けている)
(触れてみたいが怖いので距離は詰めたくない)
(触れられる限界まで距離を離し、プルプルと震えながらハッチに向けて手を伸ばすが―)

自販機 > (じょうしき なんだよ !)

「ブーン」

(怪しさ大爆発の自販機でも野生の世界を生きてきた少女には何がどう怪しいのかが判断できないであろう。
 流石にピエロの装飾品はおかしいだろうが。
 ほかの自販機とじっくり見比べてみれば異常がわかるかもしれない。
 とはいえハッチに手を伸ばして調べようとする姿勢は素晴らしいであろう。腰が引けてしまっており、縄張りに侵入してきた怪しい物体に警戒して近寄れなくて飼い主に困り顔を向ける子犬のようだ。
 ハッチへ指が接近していく。距離、あと30cm。
 10cm。
 そして―――。)

(かぱっとハッチが開いて中から手が出てきた。
 人差し指を振り『チッチッチッ」。
 すぐに引っ込んでハッチが閉まった)

クゥティシス > 「~~~~~ッッッ!?!?」
「な、なななな何今の!?」
「何かっ、何か出たよ!?」

(目の前で起こったことに全身を総毛立たせて飛びのいた)
(完全に予想外の出来事であった)

「中っ、中に人居たよ!?」
「おか、おかしいよね絶対!?」

(自販機から返答はない)
(当然だ。だって自販機だもの)

(思い切り逆立った毛で2倍の大きさになった尻尾の毛が落ち着くころ―)

「も、もっかい…もっかい出てきたら…ホントに中に何か居るってことだよね…??」

(そろり、そろりと一歩ずつ距離を詰める)
(腕を伸ばし、すぐにでも距離を取れるように先ほどより更に腰が引けている。傍から見ると完全に不審者であった)
(不審な自販機と不審な狼娘。二度目の会合―セカンドインパクトは果たして起こるのか)