2015/08/10 のログ
■深雪 > 実はこれでもだいぶマシになった方だ。
最初は本当に、触ったこともないレベルだったのだから。
「そう? 私は案外楽しいわ。」
なんて言いつつも、貴方が端末をしまえば、自分もそれをポケットへ入れる。
それから寄り掛かっていた木から離れた。
「水着、とっても綺麗なのを選んでもらったわ。
今すぐには見せられないのが、残念だけど。」
くすくすと笑ってから、近くにベンチか何かが無いか、きょろきょろ見回した。
■東雲七生 > 「だったら……んまあ、でも俺は話がしてたいな。
声を聞いてる方が安心するっていうか、さ。」
最初のメールを思い出せば、彼女がそれなりに進歩したのだという事は分かる。
(俺も初めてメールした時は一通一通に時間が掛かって──)
そこで思考が停まる。……最初にメールした相手って、誰だ。
僅かな違和感。しかしそれを気にしている余裕は無い。
「そっか、水着買えてよかったじゃん。
……って、選んでもらった? 自分で選んだんじゃなくて?」
きょとん、と少女の瞳を見て首を傾げる。
■深雪 > 「安心? でも、貴方がそう言うなら………?」
と、そこで貴方の表情が一瞬、困惑の色を映して静止した。
少女も僅かに違和感を覚えたのだろう、言葉は中途半端に途切れる。
だが、貴方がその違和感を無視して会話を進めるなら、少女の記憶にも残りはしないだろう。
相手の質問で、思考はまた水着へと戻る。
「えぇ、前に海に行ったときに会った人が、丁度来てくれたのよ。」
結果として、初めて買ったとは思えないほど、よく似合う水着が手に入った。
選んでもらった事実も含めて、満足しているのだということが表情からも伝わるだろう。
■東雲七生 > 「うん、安心。
メールでのやりとりも嫌いって訳じゃねえけど、近くに居るなら面と向かって話したいじゃん。」
違和感を心の奥に塗り込めるようにして笑みを浮かべる。
そして歩道に備えられたベンチを見つけると、軽く指差して少女を促した。
「へえ、そうなんだ。
……誰だか知らないけど、良かったじゃん。」
──居るんじゃん、友達。
そんなことをぽつりと呟く心境は、安堵とちょっぴりの残念な思い。
何で残念なのか七生自身解らないままに、ベンチへと歩き出す。
■深雪 > 「確かにそうね…メールは遠くでもできるもの。」
貴方の言葉に、少女は納得したようだった。
そして少女は、貴方の言葉、その微妙な思いを、きっと理解しているのだろう。
貴方の表情を見た少女はくすっと、意地悪に笑った。
「あら…居ない方が良かったかしら?」
そんな風に返しながら、促されるままにベンチへと歩んで、腰を下ろす。
意地悪な質問だとは分かっていた。困らせてやりたいわけではない。
貴方はきっと、隠したりせず素直に返してくれるだろうと、そう思った。
■東雲七生 > 「それに、『話した方がずっと早い』って先に言ったの深雪じゃん。」
軽く肩を竦めるように笑うと、少女が先に腰を下ろしたのを確認してから自分もその隣に腰を下ろす。
レディファースト、というわけでもない、何となく僅かな時間でも見下ろす側に立ちたかったのだ。
「いや、そりゃ友達は居る方が良いに決まってるし。
……ただちょっと意外っていうか、……違うな。
……なんか、ちょっと悔しい。」
そんな事言える義理でも立場でもないのは承知の上だ。
どうして悔しいのかもよく分からないまま、不服そうに口を尖らせる。
■深雪 > 「そう言えばそうだったかしら…よく覚えてるわね。」
最初はもう、操作が破滅的であった。
だからこそストレスも溜まったが…使い慣れてくると、楽しくなってくるものである。
いや、まだまだ使い慣れているとは言い難いが…。
心中など知る由も無く、隣に座れば…目線の高さは僅かに少女の勝ち。
少女は貴方の言葉を聞いて、笑みを深めた。
「…友達は貴方だけよ。って言ってほしい?」
意地悪にそうとだけ言って…水着を選んでくれた孝也も同じようなことを言っていた、と思い返す。
まさかその相手が、七生に昼間アドバイスを与えた人物だとは、ここに居る誰も、予想だにしないだろうが。
「ごめんなさい、冗談よ……で、そんな貴方はどうしたいのかしら?」
貴方を試すように、挑発するかのように、貴方の座るすぐ横に手を付いて、少しだけ身体を乗り出した。
■東雲七生 > 「んまあ、あれから色々考えは変わると思うけどさ。」
苦笑しつつ頷いた。
自分自身でもどうでも良い事をよく覚えてる方だと思う。それに、忘れたいような事も。
それでいて覚えなきゃいけない事は忘れたりするのだから、記憶ってのはままならない。
「べっ、別にそういうつもりじゃあ……!」
耳まで赤くなりながら否定する。
独占したい訳じゃない。そこまで成熟した考えを持てるほど中身は大人じゃない。
「……ただ、ちょっぴり残念だなって。何でか、分からないけど。」
手酷い失恋をしてまだ日も浅い。
知らず知らずのうちにそういう事柄全てに蓋をしてしまっているのかもしれないことにも、少年は気付かない。
「どうしたい……?
いきなりそんな事言われても、普通に話して、それで──」
ふと、昼間のカフェテラスでのやり取りの中で思った事を思い出す。
自分はこの少女の事をほとんど何も知らない──
「じゃあさ、深雪のこともっと教えてくれよ。
俺さ、知りたいんだ。深雪のこと。」
にぱっ、といつもの笑顔が咲く。
試されてるとも、挑発されてるとも知らず─知らない様にして─無垢な笑顔を向けた
■深雪 > 赤くなった耳を、また冷やしたらどんな反応をするだろう。
意地悪な笑みを浮かべたが実行には移さなかった…この間、これで最後にする、と約束したからだ。
「あら…貴方にも分からないんじゃ、どうしようもないわねぇ。
けれどそんな貴方も、素直で可愛いわ。」
少女の“恋愛”への認識は、人のそれとは大きな隔たりがあった。
常に自分は絶対者であり、常に他者は劣等である。そこに対等な関係である“恋愛”は成立し得ない。
……だからこそ常に俯瞰的に見てしまう。少なくともそれによって、彼女もまた、それを封印しているに等しかった。
少年が笑顔を見せれば、その裏の思いまでは読み取れず。ただ…
「……私のこと?」
…自分の事を聞かれれば、少しだけ、困惑の色を漂わせる。
普段ならきっと、可愛らしい願いだと笑うだろう瞬間だが、少女は笑わなかった。
自分はこの少年に何一つ伝えてはいない。
だからこそ、見せかけにも対等な関係“友達”という関係を作れた。初めて、それを体験した。
けれど…自分の事を知られたら、どうなるのだろう?
■東雲七生 > 少女の思惑も知らずに赤くなった顔を自分で振って冷ます。
すぐに赤みは引くが、どうせまたすぐ赤くなるのだろう。
「かっ、可愛いは余計だっての!
もうちょっとこう、別の、そう!カッコいいとかにしてくれよなぁ。」
やっぱり赤くなった。
そして不満げに告げる。その姿は本人の言う格好良さからはどう見てもほど遠い。
互いに一歩踏み込むことを拒絶していると共通点も知ること無く、少年は再び頭を振って頬の熱を飛ばした。
「……そう、深雪のこと。
ほら、名前とメアドと、あとちょっと話したくらいでの範囲しか解らないしさ。
そもそも俺は深雪が本当に人なのかどうかも知らないわけで。」
だから、と言葉を続けようとして、その表情から困惑を見て取り。
「……深雪?」
困惑が伝染したかのように眉根を寄せ、その名前を呼んだ。
■深雪 > 「あら…“可愛い”じゃ不満なのね?
それじゃ今度、私がそう言いたくなるようなところ、見せてくれるかしら?」
挑発的にそう言いながらも…静かに手を伸ばす。
これだけ主張されたら、ちょっとはからかってあげないと。
そう思ったが、貴方はまた自分で熱を飛ばしてしまった。くすくす笑いながら、頬の直前で手のひらを止めた。
それから…その困惑を隠すことはせず、その場で手のひらは行先を失う。
「そうね…でも、知らない方が良いこともたくさんあるのよ?」
手のひらを静かに引っ込めて…それから、小さく息を吐いた。
悩ましげな表情は、普段の意地悪な笑みとはまた違う一面…貴方はそれをどう感じるだろう。
嘘を吐くつもりは無い。だから、聞かれれば素直に答えてしまうだろう。
「……もし、私が人じゃなかったら、どうするつもり?」
■東雲七生 > 「うぐっ……
よ、よぉし。良いぜ、見せてやるよ。上等!」
ふんっ、と鼻息荒く頷いてはみたものの。
具体的に何を見せれば良いのかさっぱりわからない。
そういえば、この少女には情けない姿しか見せていない様な──
「そう、……かもしれない。
……でも、それはあくまで五分五分の賭けだろ?
同じくらい、知って良かったって思えるかもしれない。それなら、」
俺は知りたい、と真っ直ぐに少女の瞳を見つめる、紅。
悩ませてる、戸惑わせている事は分かっている。
ここで聞き分けよく引き下がればまた笑ってくれるだろうことも。
それでも。
「……人じゃなかったら?
んーと、まあ、そうか~って言う、くらい、かなあ。」
普通の少年なら面食らう問いだったろう。
しかしながら、七生はきょとんとした顔で、答えた。
■深雪 > 少女が思った通り、貴方は引き下がらなかった。
思えば、あの時訓練室で、もう少し“怖がらせて”おくべきだったのかも知れない。
それで貴方が引き下がってくれれば、何も教える必要は無かった。
「そうね…五分五分、貴方の言ってることは正しいわ。」
人じゃないこと、それを何でもないように言ってくれるその表情は、無理をしているようには見えなかった。
それが少しは少女を安心させただろうか。
………けれど、どう伝えるべきか。
「それじゃ…少しだけ、向こうを向いて目を瞑っていてくれない?
私が良いって言うまで、絶対に、何があっても開いちゃ駄目よ。」
■東雲七生 > 少し強引だったかな、と真っ直ぐに目を向ける裏で思う。
相手から動くのを待つのは童貞的思考──今朝聞いた言葉が頭を過る。多分こういう事じゃないんだよな、とも。
しかし、正しい、と言われれば少しだけ恥ずかしいような、嬉しいような何ともくすぐったい気持ちになって頬を染める。
「……向こう?いいけど、黙っていなくなるのはナシな。」
突然の頼みに訝しみながらも、一つ、肯いて少し体を捻って少女に背を向けた。
その上で両手で目元を覆う。気分はちょっとしたかくれんぼの鬼だ。
「これで、良いかー?」
■深雪 > 少女は決して乗り気ではなかっただろう。
受け入れてくれるにせよ、きっと、今の関係は変わってしまうと、そう思っていた。
貴方が素直に従えば、少女は小さく頷いて…もう一度、息を吐く。
「…大丈夫よ、そんなことしないわ。」
そうとだけ呟くように言って、少女は突然、スカートのホックを外す。
丁度、通りには殆ど人影が無かったが…もし誰か居たとしても少女は気にも留めなかっただろう。
すとん、とスカートを脱ぎ捨てて、ブラウスのボタンを外しはじめた。
貴方には衣擦れの音だけが聞こえてきて……勘が良ければ、今振り返ったらどういう状況なのか、分かってしまうかもしれない。
覚悟をもってこっそり振り返るか。従順に従うか。
■東雲七生 > 「なら、良いけど──」
目を閉じたまま考える。
少女が気乗りしていないのは明白だった。
もしかしたら複雑な家庭事情とか抱えてるのかもしれないし、何か後ろめたい過去でも抱えてるのかもしれない。
その心の準備をするためにわざわざ自分の視界から逃れたのだ、とそう考える。
しかし聞こえてくる衣擦れの音。
視界が塞がれている分その音は大きく響く。
「えっ、ちょ、深雪っ!?
何してんの、分かんないけど!見えないから分かんないけど!?」
律儀に、誠実に背を向けたまま問う。
天下の往来で何をしてるのか、と。
■深雪 > 夏服の上下を脱ぎ捨てて、靴も放った。けれど下着は…脱ぐのも面倒だ。
少女は明らかに、周囲の視線を気にしようともしていなかった。
それは“人間”を完全に見下していることの証なのだが、貴方には音しか聞こえていないのだから、分かるまい。
「………いいから目を瞑っていなさい。」
貴方のそんな従順な態度は、少女を微笑ませる。
五分五分だと、貴方は言った。けれど、知ってしまったらもう、元には戻れない。
瞳を閉じて何事かを呟けば…彼女の体は禍々しい光に包まれ、瞬時にその形を変えていく。
下着やストッキングの拘束など簡単に引き千切って、貴方の背後で、少女は、牛や、熊でさえ食い殺してしまいそうな、巨大な狼へとその姿を変えてしまった。
面影があるとすれば…銀色の美しい毛並と、巨大な狼と化しても決して千切れることなく、身体に食い込むように残るリボン。
“もう…いいわ。”
その声は肉声ではない、貴方の頭に、直接響く。
振り返ればそこには脱ぎ捨てられた制服と、それから……巨大な、怪物とも言える狼の姿。
■東雲七生 > 「は、はいっ!」
目を閉じる事で鋭さを増すのは聴覚だけではない。
周囲の人々の視線が、肌を通して感じ取れる。
しかし背後の少女からはそれらを気にする様な気配は感じられない。
その時点で薄々気付き始めた。自分が思っている事とは、違う、と。
目元を覆う自分の掌に、汗がにじむのを感じる。
──そして、鼓膜を震わすこと無く響く、声。
「……お、おう。 えっと、一応聞いとくけど。
大丈夫?今めっちゃ恥ずかしいカッコしてない?
大丈夫そうだと思うけど……て言うか多分もっとすごい事になってそうだけど。
いい?振り返るよ。 いくよ。せーのっ。」
万が一の事を考え言い訳を先に並べると同時に自分の心の整理もつける。
一つ、深呼吸の後に掛け声とともに振り返って、
──目の前の姿に、息を呑んで、言葉を失った。
目と口を見開いたまま、狼の顔を見上げ。そして辛うじて視線だけでその姿を見回す。
■深雪 > 貴方の眼前の狼は、口を開けば人間など簡単に噛み砕いてしまうだろう。
丸呑みにはできないにせよ、人間1人くらいで満腹になるような大きさには見えない。
「………………。」
静かに呼吸をしているつもりでも、人間にとっては恐怖するに十分な唸り。
理解できるはずがない。そんなことは分かっていた。
悲鳴を上げて逃げ去るか、腰を抜かして絶句するか…狂乱してしまうか。
“……これで、満足?”
貴方の頭の中に響く声には、寂しさと、僅かな怒気。
こうして形を変えてしまうと、人間として振る舞っている自分とは別の自分が、顔を出す。
とても単純な、世界を終わらせるに足る“破壊”を求める衝動。
それは貴方に恐怖を与えるだろうか。
一方で、首や前足に結ばれたリボンは、まるでこの狼を拘束するかのように、肉に食い込み…熱を持っているのか…体毛を焦がす。
その姿は神々しいとも、禍々しいとも、痛々しいとも…。
■東雲七生 > 「──か……」
僅かに震える口から、喉の奥から、声が漏れる。
しかし舌が渇いていて回らず、そこで初めて自分が口を開けていたことに気付いて口を一度閉じた。
同時に数度瞬きをする。
目の前に居るのは間違いなく狼。それも巨大な銀の狼だ。
ついさっきまで気軽に話していた少女の、その本当の姿。
それを見せつけられ、胸の鼓動が高鳴る。
閉じられた口が再び開き、そこから出たのは、
「……か、かっけえェェェェェェェ!?」
奇しくも、ほんの少し前に少年自身が求めた評価だった。
「え、深雪!? お前深雪だよな!?
何だよそれ狼?狼だよな?うわあすげえ狼じゃん!
あああ、そう来たか!
そっか、今度は狼かー狼来るかー!
うっわすげえ牙!ていうかでっかいな!全体的に!!
しかもすっげえもふもふしてるし、銀色!銀色すげえ!
あー!……髪と同じ。やっぱ深雪なんだな!?
ほら、リボンもあるし……ってこれ何か焦げてね?
……え、大丈夫か?痛くねえ?」
そして続けざまにやや興奮した様に早口で告げられる様々な言葉。
それらは畏怖こそ辛うじて感じられこそすれ、恐怖までには届かないもの。
果てに、最後に向けられた言葉と眼差しは、素直に少女を案ずるものだった。
言葉と共に変わっていく表情が、それらが全て虚勢でない事を貴女は多分、知っている事だろう。
■深雪 > 事実を言うのなら、本当の姿というにはまだ程遠い。
本来なら神をも食い殺す巨大な狼。今はまだ、人を喰い殺す狼にしか過ぎない。
だがそれでも、まともな人間は近寄ろうとはしないだろう。
事実、先ほどまで少女に向けられていた視線の殆どは、すでに逃げ出していた。
「…………?」
だが、貴方の反応は、少女の想像を裏切った。
まるで遊園地で着ぐるみを見た子供のように、湧き出る感情を素直にすべて伝えてくれる。
恐怖するのなら、拒絶するのなら、食い殺してやろうと思っていた。
この上なく寂しいが、きっとそれは、最高に楽しいだろうと思っていた。
“五月蝿いわね…もう少し落ち着きなさい。
それと、リボンには触らない方が良いわ…火傷じゃ済まないわよ。”
頭の中に響く言葉とともに、人だった頃よりも鋭さを増した黄金色の瞳が、貴方の一挙一動を睨みつける。
だが、その瞳も、貴方にとってはきっと、見覚えのある瞳であるはずだ。
“……怖がらないのね、貴方は。”
■東雲七生 > 「うおっ、マジで?
ていうかお前、そんなの着けてて大丈夫なのかよ。」
触らない方が良い、と言われれば素直に従う。
そして一度大きく息を吐いて、改めて目の前の巨体を見上げた。
普段からかわれた時とは異なって頬が紅潮している。
様々な感情がない交ぜになっているのだろう、眩しいくらいの視線が狼の耳や牙や、そして瞳へと向けられて。
その中に確かに知っている色を見つけると、ぱぁっと満面の笑みを浮かべた。
「驚いたけど、そりゃあ怖くねえよ。深雪だもん!」
そしてあまりにも当然の様に、言ってのけた。
■深雪 > 大丈夫なのか、と聞かれれば、何とも答えなかった。
どう見ても大丈夫そうには見えないが…
“覚えてるかしら…貴方と最初に話した時に言ったでしょう?
貴方が世界で一番強い男の子になったらお願いする…って。”
…この狼は痛がる素振りも見せない。
“今これを外したらきっと、私は貴方を食い殺すか、踏み潰してしまうわ。”
そして包み隠さずに、そうとだけ告げた。
この姿を、受け入れたのだろうか。
力も持っていない人間が、恐怖を感じないのだろうか。
そんな疑問に答える少年の言葉と表情は、あまりにも単純で、純朴。
それを聞けば…巨大な狼はその巨体を起こして、貴方を見下ろす。
“貴方、相変わらず小さいわね。”
■東雲七生 > 「あ、あー……。」
その言葉に思い出したように頷く。
最初に会った時。確かにそう言われた。世界で一番強い男の子。
具体的にどんなものか、皆目見当もつかなかったけれど。
「そっか……そういうことか! うん、分かったよ。
・・・・・・・・・
そうならないように、もうちょっとだけ待っててくれな!」
こちらを脅すような、その言葉にきっと嘘は無い。
本当にそう思っているか、本当にそうなるだけの力があるのだろう。
だったら、それを覆せるだけ強くなる。そう受け取る。
──正直、恐怖を感じないと言えば嘘になる。本能的に恐怖は感じている。
しかし、それを鼻で笑い飛ばせるだけの強かさも持ち合わせていた。それを支えるのは、単純な友人への信頼。
だから身を起こした狼が、こちらを見下ろして放つ言葉にも。
「んなっ!?
お、お前なぁ!さらにデカくなっておいて言うに事欠いてそれか!?
ちょっと元に戻れよ!!少なくともその姿で言われたら認めるしかねーだろ!!」
普段と同じ様に、ムキになって反論した。
■深雪 > 貴方がまるで人間の時と同じように扱ったから、少女は狼の姿をしていながらに、人間である時の自分を保っていた。
もし貴方がこの姿を見て恐怖を露わにしたり、距離を置こうとすれば、きっと貴方は“玩具”として襲われていただろう。
それを意図したわけではないだろうが、貴方の行動は、正しかった。
“もうちょとだけ? それならこのくらいは持ち上げられるようになってるわよね?”
そうとだけ言えば、持ち上げたその巨体を貴方の上へと移動させる。
そして、勢いは付けずに優しく、けれど重量をかけて顎を貴方に乗せてみた。
……バーベルとか問題にならないくらい重い。きっとつぶれるだろう。
ちゃんと、怪我はしないように前足で踏ん張っているから、安心して潰されると良い。
“あら…戻って良いのかしら? 多分このまま戻ったら、貴方、きっとさっきより驚くわよ?”
ヒント:脱ぎ捨てられた制服&引き千切れた下着
■東雲七生 > 自分の行動が正しかったどうかなど少年の与り知らぬところであった。
過去の七生であれば恐怖し、逃げ出そうとしたかもしれない。
しかしその選択肢が消えるほどには、この島で経験したことが“多過ぎた”のだ。
だが、そんな自覚さえもなく、売り言葉に買い言葉で少年は乗せられた顎を支えようとして、
「よっしゃ、少しは評価変えたら……ぷぎゅる。」
いともあっさりと圧し敗ける。
仰向けに転がった視界に移るのは、脱がれた制服と、地面に落ちている千切れた──
言葉の意味を理解した少年は、たちまち顔を赤らめて繰り返し肯いた。
「お、おっけーおっけー、理解した。戻んなくて良い。
ていうかお前これからどうすんだよ、服はあるけど、服しかねーぞ!?」
■深雪 > 経験したことが多すぎた…つまりそれは、並の人間であれば、貴方と同じ行動はとれないということ。
少女にとって、貴方の反応と行動は、初めて出会う感覚だったのだろう。
なお、貴方を潰している毛皮はきっと、恐ろしくサラサラでモフモフだ。
“あら、私ってそんなに重いかしら?”
なんて言いつつ、貴方が逃げ出せないように体重をかける。
“私はこのまま帰るわ。
服は持って帰れないから、預かっておいてくれない?”
顎の下から貴方を解放しつつ、貴方に制服を託す。
きっと貴方が了承しなくても、気にせず置いていくつもりだ。
■東雲七生 > 「むーっ! 絶対分かってて言ってるよなー!お前なー!!」
不満げに顎の下で喚いていたが、その毛並みの手触りに少し夢心地になる。
良質の毛布にも似た手触りに、一日の疲れを思い出して──
……そこで、解放されてしまった。
「……了解。」
多分今日一番の不満そうな顔だろう。
誰が見ても不貞腐れたような表情で呟いてから、ふと自分が何を了解したのかを考え直す。
「って、預かっとけ、って!
いつ返せばいいんだよ!?ていうかお前、家どこ!」
ついでに破損して再起不能な下着の如何は──尋ねる勇気が足りなかった。
■深雪 > よく考えなかったが、確かにその通りだ。
連絡を取り合おうにも、スマホは制服のポケットに入っている。
“あぁ、それじゃ…面倒だし、付いてきてくれるかしら?
私が住んでるのは、異邦人街の外れ、落第街の近くよ。”
酷い場所に住んでいるものだが、逆に言えばそこは誰にも干渉されない場所なのかもしれない。
下着に関しては少女も言及しないので、もう忘れることにしよう。
ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 「………それが一番だよな。」
ちらっと、僅かに、少年の心に細やかな欲望の火種が生まれる。
きっと巨狼と人間とでは歩幅も違えば移動速度も違うだろう。
「じゃあ、服持ってくからさ、」
言いながら急いで少女の制服を掻き集めで腕に抱く。
ふわりと普段の彼女の香りがした気もするが、今はそれは些末事だ。
「乗せて。」
期待を込めた眼差しで、貴女を見上げた。
■深雪 > 貴方の願いと、そのまっすぐな眼差し。
この巨大な狼は明らかに、苦笑していただろう。
“貴方、この姿になってから遠慮が無くなったわね?
調子に乗ると踏み潰すわよ。”
そうは言っても、今は制服を持ってもらう交換条件がある。
仕方ない、とばかり“伏せ”の状態になって…貴方が登りやすく高さを下げた。
貴方を背に乗せれば、この狼は歩き出すだろう…最初はゆっくりと、貴方が慣れてくれば、少しずつ、速く。
■東雲七生 > 「だって普段より話しやすいし……。」
ぽつりと呟く。
どういった基準なのかは解らないが、少年にとって人間の女性よりも巨大な狼の方が話しやすいらしい。
しかし踏み潰されてはかなわない、と少しだけ身を竦める。
……が。
要求を聞き入れ、身を伏せてくれた貴女を見て。
再度満面の笑みを浮かべてその背に飛び乗った。
「へへ……サンキュー、深雪っ」
制服を抱えたまま、狼の背に揺られて進んでいく。
最初のうちは慣れないその状況におっかなびっくりで居たものの、慣れた後は、毛並みを堪能したりして。
──目的地に着く頃には、気持ち良さそうに寝息を立てていることだろう。
ご案内:「学生通り」から深雪さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。