2016/10/04 のログ
ご案内:「学生通り」にクゥティシスさんが現れました。
クゥティシス > 穏やかな秋風の吹く昼下がりである。
空色の尻尾を揺らし、人狼の少女が学生通りを歩く。
今となってはこの大通りも見慣れたものであるし、行きかう人の視線も特に気にならなくなってきていた。
郷愁に胸を締め付けられることはあっても、何だかんだこの社会に適合してきている少女である

「んー…タイ焼き、もいいけど。今日はちょっと違うの食べてみよっかなー」

学校帰りには商店街に立ち寄り、馴染みの出店でタイ焼きを買うのが彼女の日課なのだが、今日は何となく、気分を変えてみたかった。
クラスメイト達が楽し気に話すお洒落なカフェやスイーツのお店のことを、何とはなしに思い出したのだ。
胸の奥底でざわめく郷愁を胡麻化したかったのもあるのかもしれない。
自分はこの島のごく普通の学生なのだと。
そう、自分に言い聞かせる意味でも。
他のクラスメイトが好む店で時間をつぶしてみたかったのだ

「え、っとー……この通りを、右…だっけ?」

記憶を頼りに道を歩けば、店先に黒板など出すタイプのお洒落なカフェが目についた。
黒板には可愛らしい丸文字で今日のお勧めなどが色鮮やかに描かれていて―

「こ、ここだ…よね?」

その圧倒的なお洒落空間に、ごくりと息を飲んだ

ご案内:「学生通り」に三野瀬 美色さんが現れました。
クゥティシス > 自分がいつも立ち寄るような出店とは明らかに違う雰囲気である。
何時もの出店であれば、何の気兼ねも無しに「おばちゃーんいつものー」とでも言えばいいのであるが、
此処はそうはいかない。
オープンテラスで談笑する人々の視線の網を潜り抜け、年季の入ったアンティーク調の扉を開けなければならないのだ。しかも一人で。
扉を開けた先に何が待っているのかなど最早想像もつかない。
一体クラスメイト達は普段どのように此処に入店しているのだろうか?
もう少しリサーチを経てからチャレンジするべきだったのかもしれない。
そんな後悔が押し寄せるも、此処で立ち止まっているのも露骨に怪しい。
彼女がニンゲンの社会で学んだこと、それは何より「人と違うことをしない」のが大事だということ。
この場所で立ち止まり、うろたえているなど、もってのほかで―

「い、行くしかない……。何事も、経験だって。吹雪も、言ってたし」

自分の世話を焼いてくれている教員の言葉を思い出し、一人頷いた。
拳を握りしめ、一歩、一歩と歩を進める。
大丈夫。入店するだけならなんてことはない筈だ―

三野瀬 美色 >  
 人狼の少女が、そのようにカフェの前で息を飲んでいたところ。

「もし、そこのアナタ!」
 
 唐突に、店内……正確にはテラスの方から、声が掛かった。
 なお、周囲には人狼の少女以外に、該当しそうな人物はいない。
 何故かといえば。

「そこの尻尾が素敵なアナタですわ!」

 もう、そのままの身体的特徴を口にして、呼び止めたからである。

「アナタ、このお店に興味があって?」
 
 

クゥティシス > 「―ひゃっ?!」

唐突に声をかけられ、思わず尻尾の毛が思い切り逆立った。
全神経を入店してからのシュミレーションに費やしていた人狼の少女にとって突然の呼びかけにスムーズに応えることなど不可能なのであった。

「えっ、えと、あのっ!そのっ、クゥは!別に怪しいものじゃ、なくて!ただその、お洒落だなって、思って!」

しどろもどろである。
尻尾が素敵、などと普段であれば自分の誇りである尻尾を褒められて上機嫌になるところであるが、
そんな余裕すらない。わたわたと両手を動かして言葉を紡げば、何だか申し訳ない気分になってきてしまう。

「そのっ、こういうところ…初めてで。何していいかわかんなくて、緊張して…べ、別に怪しくないの!ホントだから!」

などと、似たようなことを何度も繰り返す少女である。
傍目に見て可哀想なぐらい混乱してしまっているが―

三野瀬 美色 >  
「御安心なさい!」
 
 その声の主……黒髪のセミロングを切り揃えた、どこか得意気な顔をした少女は、屹然とそう言い放った。
 周囲から少しばかり視線が集まるが、まるで物怖じする様子がない。
 
 ぱっちりと開いた黒瞳で人狼の少女を見据え、中々に立派に育っている胸を揺らしながら。
 
「わたくしもまるで分かりませんわ!」
 
 はっきりと、淀みなく告げる。
 そして、指をパチィイイインッと過剰に綺麗に鳴らして。
 
「ムッシュ! そこの尻尾の愛らしい御嬢さんをこちらへ! 彼女は同じ穴のムジナですわ!」

 これまた、堂々と言い放つ。
 諺の用法はまるで間違っているが、気にした様子もない。

 そして、店員が「……もしかして俺の事?」と言った感じで自らを指差してから……「ど、どうぞ」と遠慮がちに人狼の少女へと声を掛けてきた。

 彼らも人狼の少女と同様に混乱し、困惑していた。
 

クゥティシス >  
「へ……?あっ、と、いや!クゥはその、え、っと」

もしかしたらこの場で混乱していないのは黒髪の少女だけなのかもしれない。
案内してくる店員も、人狼の少女も、周囲の客も、全てが状況を理解しかねており、場の空気は完全に黒髪の少女に主導権を握られている。

「え、えと……どうも。それで、その。…取り敢えず…座れば、いいのかな?」

困惑する店員に案内され黒髪の少女の元へと歩み寄る。
歩み寄ったところで何をすればいいのかお互いに分かっていないのだから、訪れるのは気まずい沈黙である。
取り敢えず。近場のテラス席へと腰を下ろした。

「それで、えと。自己紹介、とかすればいいのかな。クゥは、クゥティシス。貴方、はー…ニンゲンだよね?」

何とも言えない謎の空気の中、取り敢えず自己紹介をしてみる人狼の少女である。
目の前の黒髪の少女が一体何を考えているのかはわからないが、取り敢えず名前ぐらいは聞いておかなければ―

三野瀬 美色 >  
「然様でしてよ。あら、先に自己紹介をしてくれるだなんてアナタ、とても良く出来ていますわね!
わたくしも、失礼をするわけには参りませんわ」

 言うなり、立ち上がってふぁさぁっとセミロングの黒髪を棚引かせ。
 口元に右手の手の甲をあて、左手で右肘に沿えながら。

「わたくしは三野瀬家長女にして次期頭首、常世学園一年生! 三野瀬 美色ですわ!」
 
 黒髪の少女こと、美色は堂々と名乗りをあげた。
 関係のない人達まで、「そういう名前なんだ……」と、覚えたくもないのに覚えたかもしれない。

「アナタ、その素敵なお尻尾があるということは、『異邦人』という方ですわね! 相違ないかしら?」
 
 

クゥティシス >  
「―――」

黒髪の少女―美色の遠慮のない言葉に思わず身をすくませた。
悪気はないと、そう分かっていても、事実を突きつけられたようで思わず息を飲んでしまった。
大丈夫。違うからと。
そう、心の中で繰り返しながら―

「う、うん。クゥはルルフール。こっちで言う人狼?って種族だよ」

努めて平静を装って笑顔で答える。
耳をぴこぴこと動かして見せれば多少は取り繕えるだろうか

「あ、でも今はこの学園の生徒なんだよ。ちゃんとね、ニンゲンの中で生きてくことにしてるの。このお店に来たのもその一環で…。
 クラスメイトの子が話してたの、気になったから。ミイロ、はー…この店はよく来る、わけじゃないんだよね?」

呼び慣れぬ名に一瞬、言葉を詰まらせるも会話を続ける。
別に何かしたわけでもないのだが、今はこうして会話を続けなければ回りの視線が痛くてしょうがない。
目の前の少女は何も気にしていないようだが―

三野瀬 美色 >  
「ええ、わたくし、先日この学園に転入してきたばかりですの。何もかもが初めてですわ。
住んでいた場所も関東の大農園にある御屋敷でしたから、こういうアバンギャルドなお店に来るのも初めてですの。
わたくしの地元のカフェはもっと古めかしくて、おじい様やおばあ様がよく利用していましたわ。昆布茶が美味でしてよ」
 
 堂々と言い放って、水を飲む。

「あら、お水までアバンギャルドですわね。よろしくてよ!」

 レモン水である。
 美色はでも飲んだことが無かったらしく、目を丸くしてから嬉しそうに笑みを浮かべた。

「それはそうと、人狼さんというのを見るのは、わたくし初めてですわ! 失礼でなければ、お耳や尻尾を触ってもよろしくて?」

 優雅に微笑みながら、右手をわきわきさせて尋ねる。

クゥティシス >  
「あ、あばー…?」

聞きなれない言葉に首を傾げる。
何を言っているのかは良く分からないが、この少女は自分と同じくこの社会に溶け込もうとしているのだろうということは理解できた。
だからだろうか。続く彼女の言葉にも、さして不快感などなく―

「ふふ、そんなに気になる?あんまり痛くしないならいいよ。毛並みには気を使ってるから、多分気持ちいいから!」

むしろ何だか微笑ましい気分で美色へと顔を寄せ、耳を触りやすいような体制を取る。
このある種独特な空間であるお洒落なカフェに於いて、自分たちの席だけが異質であることは分かる。
分かるけれど、美色のほほ笑みを見れば周囲の視線も左程気にならない。
この場における「異邦人」は一人ではないと。そう思えたからだろうか

三野瀬 美色 >  
「まぁ!! それは素敵ですわね、それでは、さっそく……」
 
 目を輝かせながら両手で、まずは耳にそっと触れ。
 
「ふぁあああ……!」
 
 顔を紅潮させて悦に浸り。

「この滑らかなさわり心地……まるで、絹!
いいえ、ちがいますわ、絹とは違う、生きる活力を感じさせるような野趣溢れる弾力と、ほのかな暖かさが、毛先から伝わってくる……!
加工品では絶対に辿りつけない境地……!」

 なにやら、やおら語り始める。
 しかし、途中ではっ!! っと我に返り。

「い、いけませんわ、危うく天竺に行くところでしたわ!」
 
 垂らした涎を拭きながら、そんな事を口走る。
 悟りが開けそうらしい。

「で、では、今度はお尻尾も失礼させていただいて……」

 ごくりと一度生唾を飲み込んでから、美色は尻尾に手を伸ばし。

「ああぁあああぁ……!」

 目を細め、はるか遠くに視線を向け、背中を逸らせる。
  
「にゃ、にゃんこ、いえ、狼さんなのですから違いますわ……で、でもこのさわり心地はまるで高級にゃんこのそれ……!
ふわふわっとしていて、もふぁあって、それで……す、すごい、すごいですわ……!」

 暫し、語彙を失いながら恍惚とした表情で虚空を見つめていたが、ハっ!! と我に返って手を離し。

「クゥさん!!!」

 また突然、声をかけた。

 

クゥティシス > 「そ、そんなに?…へへ、褒められて悪い気は…んっ、しない、けど」

時折くすぐったそうに言葉に詰まりながらも、その表情には笑みを浮かべている。
耳を、尻尾を撫でまわす美色の手が心地いいのか、機嫌良さげに毛先が揺れるのが分かるだろうか。
周囲の客もそのある種異様な光景にくぎ付けである。
「そんな気持ちいいのか…?」だの「いや流石に…」だの困惑の声が聞こえてくる。
が、当の美色は気にも留めていないようで。

流石に嬉しさと心地よさより羞恥が勝って来た辺りで、再び唐突に声をかけられて―

「―ひゃっ!!」

此方も出会い頭と同じ言葉が口をついて出る。
ぼわ、と音が立たんばかりに尻尾の毛が逆立ったのも先ほどと同じ。

三野瀬 美色 >  
「わたくし、とても良い心地でしたわ!
三野瀬家長女として、ここで礼を欠くことは当家の恥!!
お父様は礼には必ず礼を返せとわたくしにいいましたわ。
そして、それはわたくしも全面的に同意していますの。
ゆえに、返礼として、ここはわたくしがオゴりますわ!」

 また、パチィイインっと指を無駄に綺麗に鳴らして、店員を呼び止める。
 本当はそんなことで止まってくれる店員はあんまりいないのだが、今回はちょっと場合が場合であった。

「ムッシュ! このお店のお勧めのティーセットをわたくしとクゥさんに!
内容は任せますわ! わたくし、わかりませんから!
ただし、リンゴが入っているメニューは抜いてくださいまし!」

 一方的に告げて、人狼の少女こと、クゥに向き直って笑う。
 
「異邦人さんはこの島には詳しいと思ってお声を掛けたのだけれど、クゥさんは私と同じアバンギャルドカフェ初心者。
なら、これが恐らく一番ですわ。おすすめはシェフに任せるのが一番ですの」