2017/01/17 のログ
■東雲七生 > 「ふぃー、早いとこ帰って深雪に何か作って貰お……ん?」
何やら大柄な男に追い越された。
やたらと上機嫌に見えるが、何か良いことでもあったんだろうか。
この寒空の下、平和な人もいたもんだ、と素直に感心した。
うんうん、平和な事は良いことだよな、と少しだけ寒さも忘れて感じ入る。
が、
「へちくっ」
小さなくしゃみが一つ響いた。
■常夜 來禍 > 歩道はそれほど広いというわけでもない。前を歩く人間を追い抜かすには、その人間と真横に並ぶ瞬間というものが必ずできる。
來禍も例に漏れることなく、その隣に並んだ。刹那。
――『深雪』? 『飯を、作ってもらう』?
空腹になるとほとんどの生物は集中力が上がる。これもまた、來禍は例に漏れなかった。
(……その歳で嫁? い、いや。まだ同棲か? ……それでも早すぎるだろ!)
彼の容貌は中学生、よもや小学生まであろうかと來禍は観ていた。故の飛躍した思考である。
(でも、家族を名前で呼ぶこともないだろ。なに? ご飯作ってくれる嫁がいるのか? ヒモか? 俺もなりたいぞ?)
上機嫌は風に吹きさらされ、すっかり冷めやってしまう。そのころには、來禍は赤髪の彼を追い抜かし背後に位置させていた。
――へちくっ。
立ち止まり、振り返る。
「……かかったんだけど」
小学生とすら思うくらいなのに、大人げない睨みの効かせ方であった。
■東雲七生 > 正月のセールで買ったカット餅が幾らか残ってたから、お汁粉かお雑煮か。
それとも酒粕でも買って甘酒でも作って貰おうかと考えながら洟を啜る。
「んぇ?」
そうしていたら急に声を掛けられて、何事かと視線を上げた。
やたら凄みを聞かせて此方を睨んでくる男を、きょとんとした顔で見上げて。
「んぁ、えーと……ごめん?」
■常夜 來禍 > 何やら事情がつかめていない赤髪の彼の顔を見て、ハッとする。ただの逆恨みで己は何をしているのだろう、と。
齢半ばもいかない(推定)相手に対して、メンチを切る。恥ずかしいことをしてしまった。
そう思うと、半ば八つ当たり気味に次の句を継ぐ。
「別に、いいけど。少しは手で押さえてやるとかできねーのか。教えてもらわなかったか?」
……『深雪』に。皮肉るつもりはなかったが、脳内ではそこに繋がってしまう。発声していないだけ褒めてほしい。
そんな言い訳を考えながら、來禍は彼から目を逸らしながら不満をこぼす。
■東雲七生 > 「え?……ああ、うん。もうちょい気を付ける。
一応押さえたつもりだったんだけどさ。」
へにゃり、と笑みを浮かべてからもう一度頭を下げる。
そもそもこの身長差でどこに掛かったというのだろうという疑問が無い事もなかったが、気にしても仕方がないだろう。
変に口答えして帰宅時間が遅れる方が問題だ。
余計な心配もかけてしまうし。
■常夜 來禍 > ~~~~~ッ。
いたたまれない。俺じゃなく、この子が。
変な奴に難癖付けられて、それでも謝れる大人さ。俺にはなかった。
「ハァ……ならいいよ。すまん、ちょっと腹が減ってイライラしてたんだ」
会釈程度に頭を下げ、ジャケットのポケットからビニールの袋がかかったカイロを差し出す。
「寒いんだよな、俺暑いくらいだから、詫びに持ってってくれ」
■東雲七生 > ふむ、と首を傾げる。
何だか短い間に自分に対する評定がころころ変わっている様な気がするが、気にするだけ野暮なのだろう。
「ああ、うん。
……お腹が空いてるなら、この通りをちょっと行って曲がった先すぐに串焼き屋のお店があるよ。」
ちょくちょく利用する店の案内をしてから、カイロを受け取る。
別にそこまで気を使われる様な事じゃない心算で居たので面喰ったが、厚意を無下にするのも悪い気がして。
「ああ、ありがとう。年明けてからガクッと寒くなったからさー。」
■常夜 來禍 > 不審に思われているに違いないが、知ったことではない。俺がしたいようにして何が悪い。開き直りで、何が悪い。
吹っ切れた面持ちで、迷惑をかけた(と思っている)相手に謝ると、思いもよらぬ罠。
「へえ、串焼き……い、いや、慢性的に金が無いもんでな。まあ、余裕ができたら行ってみる。ありがとな」
既に出費がここ数日嵩んでいるというのに、ここで欲に負けてはまた研究所通いの生活に逆戻り。望むところではない。
「確かに、最近普通に寝てるだけで体が冷えるしな。……ああ、近くで配ってた奴だから気にすんな。まだいくつもある」
ポケットから同様のカイロを数枚出して扇状に広げる。
■東雲七生 > 「うーん、そっか。
日雇いバイトなら今は神社辺りでなら募集掛けてるんじゃないかな。年末年始の片づけで人手が要るだろうし。」
島中あちこち走り回るのと、バイトを幾つか掛け持ちする為かやたらとそういう事情には詳しくなっていた。
幾つかこの青年向きのバイトを教えようかと考えつつ、カイロをポケットに仕舞う。
「へえ、そうなんだ。配ってたんだカイロ……。」
気付かなかった、と広げられたカイロを見つめてから、
改めてありがとう、と笑みを浮かべて礼を言った。
■常夜 來禍 > 「あ、あー……そう、だな。気が向いたら、な」
思わず返答に困って、口角の片端だけが上がる。
アルバイトをすること自体は何度も考えた。だが、やはり接客業では客に、そうでなくとも同僚に対して、迷惑をかけることになる。この”餓狼の呪い”が、いつ見知らぬ相手を襲うかわからない。そう考えると、どうしても人に交じって働こうという気にはなれない。
だが、ずっとそうしているというつもりはない。だからこそ、この呪いを制御する方法を学ぶためこの学園に通っているのだ。
「……ああ、駅の方でな。俺は昼から授業だったからたまたま貰えたんだ」
少し考えるところがあったせいで、少々彼への応答が遅れる。
■東雲七生 > 「ふむ……まあ、それならいいけど。」
何かしらの事情があるのだろう、そう思って追加で紹介する事は止した。
アルバイトの紹介なんかは学校に掲示されたりもするし、
仲介所も点在しているから本当に仕事に困った時はそこまで苦労しない筈だ。
……その期に及んでまで選り好みしなければ、の話だが。
「駅の方かあ。電車使わないから気付かなかったや。」
なるほどなあ、と感心してから、へちく、と小さなくしゃみが再び。
今度はちゃんと両手で押さえられたので先程よりも小さく聞こえるだろう。
■常夜 來禍 > 「悪いな、気を使わせて。自分の事だから、自分でなんとかしないと、な」
そう言って情けなさそうに笑う顔はどことなく、陰りが見える。
少し憂鬱になったので、別のことへ思考を向けようと、ふと今までの会話を思い出す。。
「あー……すまん、失礼なこと聞くかもしれんが、お前っていくつだ?」
アルバイトについて詳しい中学生や小学生がいるはずはない。ということは、こう見えて同年代かそれ以上か。
失礼だとは銘打ちつつも、気になったので尋ねてみる。
「お、ナイス。最近はウイルスなんかもあるし、これからも気を付けた方がいいぞ」
と、口をしっかりと抑えたことを評価してから、何かに気づいたように眉を上げる。
「そんなことより急いで帰るか。またここから、気温も下がるだろうしな」
■東雲七生 > 「まあ、そうだろうけど。
……うん、大変なんだね。頑張ってね。」
すん、と鼻を鳴らしてから笑みを浮かべる。
何だか他人事じゃない気もしたが、それは過去の自分であって今の自分が同情するのは少し傲慢かもしれない。
等と考えて居たら。
「え?……えーと、今年で17、かな。18かも?どっちだっけな。」
いまいち実感が沸いてないからか、自分の年齢を度忘れしてしまう。
指折り数えてから、多分18、と告げてた。
「うん、気を付けるよ。この時期に風邪ひくと長引きそうだしさ。
……そーだね、早く帰った方が良いかもだ。
改めてごめんね、とカイロありがとうね。ええと……あ、俺は東雲七生!」
■常夜 來禍 > 「……いや、本当に、すまん。まさか年上なんて……」
思いもよらなかった。嫌な予感はしていたが、だがどう見ても、自分より年上には見えない。
今までの無礼を、とまで年功序列を推すタチではないが、それでも申し訳なさは残る。
「ああ、そうしとこうぜ。東雲七生、な。俺は常夜來禍。ライカでいい。そっちは……ナナミでいいか?」
■東雲七生 > 「……いいや、気にしないで。慣れてるから。」
年相応に見られない事は入学してから二年間殆ど変化しなかった事だし、
特に彼の様なアウトローなタイプには殊更見下されるものだった。
だから気にしてないと言えば嘘にはなるが、目くじら立てる程の事でもない。
「ライカ、ライカね。……うん、ナナミでいいよ。」
こくん、と頷いてから、にぱっと笑みを浮かべて。
それじゃあ帰ろうか、と彼を促して歩を進めたのだった。
■常夜 來禍 > 「慣れてる、なあ……そっちこそ気にすんなよ。そういうセリフを言われちゃ、気にせざるを得ないだろ?」
なんてな、と冗談めかして言葉を濁し、七生の右肩をぽんぽんと叩く。
身長差もあってか、叩いた時に右手になんだかしっくりときた。
「おう、よろしくなナナミ。また見かけたら声、かけるな。ま、今度はお互いにらみっこなしでな」
とさらっと”お互い”という言葉で責任転嫁。元来の調子の良さが伺える。
そうして家路についてしばらく、とある途中の脇道を指さして。
「あ、んじゃ俺こっちだから。じゃ、またどっかでな、ナナミ」
そう言って來禍は後ろ向きに手を振って、その道の奥へと抜けていった。
――その脇道の行く先は未開拓地域にある”転移荒野”への道であり、人の居住区ではないのだが。
ご案内:「学生通り」から常夜 來禍さんが去りました。
■東雲七生 > 「お互いって、ライカが一方的に睨んでただけな気がするけど……」
苦笑しながらも家路を歩いていたが。
道が分かれる事を告げられれば、そっか、と軽く頷いて。
「それじゃあ、またなライカ!」
軽く手を振って見送って、自分も異邦人街へと向けて歩く。
その道すがら、ふと來禍が向かった方角を思い返して。
「あっちって……確か転移荒野。」
そんなところに住んでるのだろうか、と思いつつ。
まあ人にはいろんな事情があるだろう、と深く考えるのは止める七生だった。
ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。