2015/06/23 のログ
■薄野ツヅラ > 「ええ、全く違って吃驚したわぁ──……
と云ってもボクのやってることは趣味の延長だからなんともだけどぉ」
カラン、と音を立てて地面に転がる空き缶をちらり、見遣る。
一瞬入ったようにも見えた其れを残念そうに眺めた。
視線を『先輩』に戻すと、はて、と左手を自身の頬に当てる。
「お嬢さんの?
あァ──……昨日、虞淵と交戦してたわぁ。
なかなかにいいトコまで行ってたけど惜しかったわねェ……
相も変わらずボクの根城は火の手が上がる一方なんだゾ──…☆」
若干辟易としたような表情を浮かべつつ、好調の旨を伝える。
はァ、と深く溜息を吐いた。
■朱堂 緑 > 「相変わらず調査部とは思えねぇ血の気の多さだな」
話を聞いて、若干眉根をしかめつつ、左手を顎に当てる。
公安をやめてから、正直そのあたりの話はとんと聞いていなかった。
だから、別れ際にいった通り、上手くやっているのかと思っていたのだが……別にそういうわけでもないらしい。
いや、『薄野ツヅラ』なんていう上等なコマを一つ手元においているところは、素直に評価に値するが……それにしたって、虞淵にまで手を出すのはやり過ぎだ。
「仕事熱心なんだな。現『室長補佐代理』は」
■薄野ツヅラ > 「お陰様で同じ部署のボクはのんびり散歩に興じれるから助かる所もあるけどぉ」
事実、クロノスと同部署であると云うのは非常に動きやすかった。
主に観衆の視線をクロノスが集めている隙に自分は好き勝手動ける。
そう云った観点から見れば有難い話だが、生憎落第街での放火魔は見過ごすしかない。
複雑ではあるものの、現在の状況に納得はしていた。
「仕事熱心すぎるのも如何かと思うけどぉ──……」
肩を竦めて困ったように笑う。
ぐい、と右腕の杖に体重を預けた。
■朱堂 緑 > 「なら、そう上申しろよ。
もしくは、窘めてやればいい。
今は部下なんだからな」
まぁ多分無理だろうなと思いつつも一応提案だけはしておく。
クロノスの動きは実際確かに『仕事熱心』が過ぎる。
だが、それこそが……恐らく、公安委員会が『室長補佐代理』に求める役割でもある。
それをわかった上で、アイツは『仕事』しているのだろうか。
それとも……他の勢力からの『圧力』か何かか。
憶測はいくらでもできる。
しかし、最早、公安内部にいるわけでもない男には、そのあたりの詳細がわかろうはずもない。
少し考え込むように、男は押し黙る。
■薄野ツヅラ > 「ンッンー……気が向いたら、ってトコねェ。
ボクが云って止まるのならもう既に云ってるわぁ」
諦めたように肩を竦めて笑う。
目の前で幾度とない仕事中の上司を見たが、あれを自分に止めるのは不可能だ。
本能的に理解しているからこそ、困ったように笑うしかできない。
何か理由を持って『仕事』に望んでいる、とぼんやり彼女は予想していた。
理由があるなら彼女は止めることはない。
より『面白く』なると云うのであれば、多少のことは目を瞑る。
嘗ての『室長補佐代理』がそうしたように。
公安の何を理解している訳もなく忠誠を誓っている訳でもない彼女は、
私利私欲のために公安を利用する。
公安が自分を利用するように、ごくごく当たり前のように。
故に、『面白ければ』其れでいい。
「元上司からの方がいいんじゃあないかしらぁ?」
くすり、口元を幾らか長い袖で隠しながら笑う。
押し黙る様を見遣れば、其の黒々とした黒曜石のような双眸をジイと覗き込んだ。
■朱堂 緑 > 伽藍洞を覗き込んでくる、宛ら紅玉にも似た後輩の瞳を覗き返して、男は笑う。
じわりと、汚泥を思わせる汚らしい笑みを……滴らせる。
「もう公安委員でも何でもない『一般人』のいう事を聞くほど、アイツはアホじゃねぇよ。
今はアイツが『室長補佐代理』なんだから、尚更な」
そう、黒瞳を細めて笑う。
黒曜の煌めきのない、墨のような淀みの滲んだ瞳を細めて、嗤う。
クロノスは問題を山ほど抱えてはいるが、仕事が出来ないわけでもなければ立場を弁えていないわけでもない。
結果的に、彼女の綱渡りが成功したからこそ男は『ここ』にいるし、彼女は『あそこ』にいる。
過程はどうあれ、結果は出ている。
そんな女が……結果を手放す『毒』となりかねないことをするとは、思えない。
つまりはまぁ、『そういうこと』なのだ。
「薄野。一つ頼まれてくれねぇか」
唐突に、何の脈絡もなく、男はそう聞いた。
■薄野ツヅラ > 「ンー……何でもは出来ないけど出来ることならぁ?」
こてり、小さく首を傾げた。
残り僅かのエナジードリンクをグイ、と呷る。
空になった缶のプルタブを弄びながら、男の其れをジイと見る。
果たして其の伽藍洞は誰を、何を見ているのかは彼女は知り得ない。
勿論自分の、軍帽をきっちりと被ったさながら死神のような上司の胸の内も知り得ない。
「貸しひとつ、にさせて貰うけどぉ───……?」
ニヤリ、口元を吊り上げた。
■朱堂 緑 > 吊り上る口元に合わせるように、男は嗤う。
かつて、まだ公安委員会に居た頃。
……薄野ツヅラと初めて会った時のそれのような顔で……男は、嗤う。
「何、気が向いた時に俺と『飯を食って』くれればいい。
別に定期的にする必要はない、不定期で良い。
それこそ……『気が向いたら』でな」
意味深に、瞳を細めて、静かに。
「それくらいなら……出来るだろ?
公安委員会直轄第二特別教室 調査部別室所属の諜報員なら、その程度はな」
■薄野ツヅラ > 「あッは────」
特徴的な笑い声を溢して、怪訝そうに。
しかし口元に張り付くのは隠し切れぬ薄ら笑み。
ポシェットからチュッパチャップスを取り出して、乱雑に口に放り込む。
男の言葉の裏に潜む真意を汲めば、笑いを溢さずにはいられなかった。
嘗ての立場と180度逆の現状に、クツクツと声を洩らす。
「構わないわァ、別に友人同士で『飯を食う』なんて普通の事。
だってボクは『貴方の友人』な訳だしぃ────……☆
折角だから経費で落とす、って云うのもやってみたかったしねェ」
意地の悪い笑みを浮かべて、静かに言葉を紡いだ。
■朱堂 緑 > 一度だけ、じわりと口元を歪めて満足気に微笑み、立ち上がる。
それだけ聞ければ、『十分』だからだ。
「『君の友人』であれたことを、心から感謝するよ。薄野ツヅラ」
闇に滲むように、男が立ち上がる。
夕暮れ時の公園に沈み、滲む、何かの影。
「公安委員会の予算はまだまだ潤沢なはずだ。
経費は『旨く』使え……今後の活躍に期待する。
それでは――良い仕事を」
それだけ告げて、男は歩きだし……夕暮れ時の路地の闇へと消えていった。
■薄野ツヅラ > 「───此方こそ、云われなくても」
ふんわりと、其れで居てしっかりと芯のある笑みを浮かべる。
歩き去る男の影をぼんやり見送りながら、目を閉じて小さく伸びをする。
ふう、と溜息交じりに目を開ければ既に男の姿は其処にない。
先刻男が放り投げたのを模すように、屑籠にエナジードリンクの缶を投げ込む。
綺麗な曲線を描くも同様にカランと音を立てて地に落ちる。
小さく舌を打って、拾うことなくゆらり、背を向ける。
───カツリ、杖を鳴らして少女も夕暮れの橙に足を踏み出した。
ご案内:「商店街」から薄野ツヅラさんが去りました。
ご案内:「商店街」から朱堂 緑さんが去りました。
ご案内:「商店街」にザデルハイメスさんが現れました。
■ザデルハイメス > 白昼の商店街。
人がぱらぱらと行き交うそこに、日陰が形をとったかのように漆黒の塊が立っている。
両手は空で、軽く胸元下あたりまで挙げた十の指をバラバラに動かす。
ゆるい金属音。
「ハぁ」
息のように瘴気を吐いて、それで周囲の温度が下がっていくかのようだ。
「なるほど」
ぐるりと見渡す。
あまりにも突然ふらっと姿を現した暗黒の姿は、そのアーケードには不釣り合いで、だからかすぐに反応した者はいない。
■ザデルハイメス > じっと立ち尽くして、指だけが動いている。
そのうち、突っ立ったままの全身鎧へと視線を投げかけるものが通行人の中に現れ始めた。
とはいえ、異邦人街の中には似たような格好をしているものが居ないわけではない。
多少ぎょっとしても、ああ異邦人か。と思う。
あるいはもう少し気にするならばたった今現れたのか?などと考えるものも居るだろうし、
そういう者は多少距離をとって避けるように通りがかっていく。
ご案内:「商店街」にライガ・遠来・ゴルバドコールさんが現れました。
■ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「わかった、もう来ないよこんな店え!」
買い物袋を提げた長身の男。
ピシャンと閉められた扉に向かって中指を立てると、つーんとした顔で金物屋を後にする。
さて帰ろうかと踵をかえしたそこに、真っ黒な騎士を見つけ、首を傾げた。
あんなもの、この通りにあっただろうか。
「……なんだありゃ。どっかの前衛的なオブジェか?
なんにしても、このままだと邪魔そうだなあ」
どこかに連絡して撤去してもらったほうがいいかなと呟きながら、すぐ近くを通り過ぎる。
■ザデルハイメス > その四分三十三秒が長かったのか短かったのか。
「い…………っ」
と声を詰まらせた男子学生を、ザデルハイメスの視線が捉えた。
「ほう」
彼は式状 猛という名前の風紀委員であり、三年生となる男子学生であるということをザデルハイメスは勿論知らなかったが、表情のない兜で見返して頷く。
「……っ 離れろ!!!!!」
硬直する式状が次に声を発したのは、発することができたのは、ライガがザデルハイメスのすぐ傍を通り過ぎようとした時だった。
■ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「……ん?
離れろ?僕に言ってるのかな。
いったい何から離れてりゃ……」
真っ黒な鎧のそばを通り過ぎかけたところで、叫び声に気付いて立ち止まる。
まあ、尋常じゃない血相だし、離れてみようか。足早に歩き始めた。
■ザデルハイメス > ライガが横を通り過ぎる瞬間、カハア、と瘴気が首元から、あるいは肩鎧の隙間から吹き出した。
とはいえ、視線はライガと同じく血相を変えた男子生徒を見ている。
「それでどうしますかね?」
問われた男子生徒は、ひきつっていた顔をようやく決意へと変えた。
彼――式状 猛。21歳の三年生。所属は風紀委員。生まれは兵庫。かつて瀬戸内海で起きたトライポッド出現事件によって共に旅行にきていた兄と友人らを失った彼はそこで異能に目覚めた。常世学園への入学を希望したのは、それが切欠だったのだろう。門によって現れる異界の存在や溢れる異能・魔術によって混乱する世界に、すこしでも自分が役立つことはできないかと。そういう人柄だったから、風紀委員という役職を得たし、これまでもその職務を真面目に果たしてきた。真面目といって硬すぎるところもなく、気配りのできるために年下の女生徒にもよく頼られるほどだ。近隣の学生とも良好な関係を築いており、とくに寮の横に住んでいる同い年の友人とは良く釣りに行く。そうして学園生活を順風に過ごしていても、彼には二年前のことがひっかかっていた。かつて燃えた世界があった。そして今、あの時に煉獄に立っていた鎧を彼は睨み、異能“春の夜の夢(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)”を発動する。効果は『病原菌を作り出す』。己が使用可能な最も強力な殺人ウィルスを、彼は圧倒的集中力で作り上げ、そして付近にいたライガのことを慮ったか、ザデルハイメスへ走った。ウィルスを飛沫感染しないタイプとして組み上げ、ザデルハイメスに近距離で叩きこむ。
「ああ、なるほど」
そして『あらゆる病を弾き返す』呪法ディグリトニリヒの効果により、式状 猛は一瞬でウィルスに食い破られて死んだ。
ぐしゃりと、鎧の目の前で男子生徒が崩れ落ちる。
逃げろ、という言葉がその口から出たかは定かではない。
■ライガ・遠来・ゴルバドコール > 瘴気が鎧の隙間から噴き出すのを視界の端に捉えた。
思わず口元を腕でガードする。
その数刻後、先ほど警告を発した男子生徒が拳を振り上げ走ってきた。
そのまま黒い鎧に叩き込むと、鎧は無傷どころか、なんと叩き込んだ学生のほうが崩れ落ちたではないか。よく見ると、体組織がぐしゃりと崩壊していく。
「な、なんだあ!?」
あまりの出来事に一瞬たじろぎ、声を上げる。
理解が追い付かないが、とりあえず、この黒い鎧が何か危険な存在であるのは間違いない。後ろに数歩下がり、鎧から目をそらさずに後退を始めた。
心の中でまじないを唱え、もしもの時に備える。
(──“西天に昇りし銀の王よ、我窮地に陥らん。ひとたび我を護りたまへ”)
■ザデルハイメス > 「おや残念、ハ、ハ、ハ」
あまりにも強力なウィルスによって崩れていく男子生徒の亡骸を、首だけ下を向けて見下ろす。
相手の服装を良く確認し
「一瞬で死なれては、あまり多くの呪詛がとれないのですが……
なるほど風紀委員だったと。以前に私を見ていたのでしょうかね。
ところで」
そしてそこの醤油とって、とでも言いそうな気軽さでライガの方へ首を回した。
「彼の分まで苦しんで行かれませんか?」
■ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「え、僕ゥ!?」
やっとのことで1m半ほど後じさりしていたが、ぐるり、と黒い鎧の首がこちらを向き、明確にライガに向けて声をかけられると、右手で頭をかくしぐさをしつつ左掌を前に出して、ぶんぶんと左右に振る。
「いや、大丈夫。僕はまだやることがあるんでね、気持ちだけいただいとくよ。
別にマゾヒストでもないし」
(なんか呪詛をとるとか言ってるぞ、やばいやばい)
心の中で慌てる。こういうときって、案外助けは来ないんだよなあ。
死体を目の前にして、群衆がさあっと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。スマホか何かで写真を撮っているのもいるが、多くは自分の命が一番大事である。
■ザデルハイメス > “失落園(フォールアウト)”ザデルハイメス・ヒュルーディナー。
遭遇時に逃亡あるいはそのための攻撃を強く推奨され、生活委員会から保護対象外とされている異界存在も
しかし約二年の消息不明は、この学園のシステム上大きいだろう。
ライガも含めて、早々に逃げ去らない者らを視界におさめて、ハ、ハ、ハと笑う。
「何、そんな遠慮されることはありませんよ。
生きてさえいてくれれば、問題なく可能ですので」
言いながら右手をかざした。
開いた漆黒の篭手。掌の内側にぎょろぎょろと一つ眼が浮かび上がっている。
そのものは、魔法ではない。いわゆる邪眼。
耐性なりがなければ、視線の先に映るものたちに、不運をもたらすだろう。
ご案内:「商店街」にルフス・ドラコさんが現れました。
■ライガ・遠来・ゴルバドコール > 混乱していた頭がはっきりしてくる、ようやく思い出す。
確か巷で話題のロストサイン、その所属していたメンバーだったか。
「生きてようと死んでようと、嫌なものは嫌なんだって。
人生楽しみたいじゃあないか……って、邪眼んん!?」
しかし、詠唱のため左掌をかざすまでもなく。
“銀の王”の護りを得た解除魔術、その隠蔽された効果がひとつ、“効果減衰”が発揮される。
ライガの正面に六角形の呪紋の障壁が展開され、その向こうで、突如ベルトが切れてずり落ちるスラックスを必死に直そうとするライガが見えるだろう。
誰得というわけではないが、今日は赤のボクサーであった。
■ルフス・ドラコ > ぽちぽちと左手で端末をいじり、カメラを撮影していた生徒たちのうち一人が、黒鎧の掌にある有機的な眼に気づいた(もちろんいつ何処から目が出たっておかしくないような有機性を鎧自体から感じていたが)
「……邪眼ですか、アレ」
ああいう目をした龍と、かつてやりあったことが有る。
確かあの時は、山肌を腐り落とされて退路と人員を半分くらい損じた気がする。
意識的に龍の因果を呼び出し、自分の目を保護したところで、端末にヒビが入った。
ひび割れは徐々に端末自体を覆い尽くすように広がり、やがて粉になると風に吹かれて散じていく。
最後の最期、断末魔のように端末が検索完了を告げていた。
「……ザデルハイメス、討伐もしくは逃走が推奨され……」
「賞金は出ない、と」
少し。平坦な表情が眉根を上げた。
ちなみに赤のボクサーのせいではない。
■ザデルハイメス > 「ほう」
ライガの前に展開した障壁を見て興味深そうに声をあげる。
「邪眼を軽減ですか。どういう加護かは気になるのですが」
言いつつもスラックスをあわてて直しながら後退るライガの方へ大股に歩き始めた。
両手はもう下げて、無防備に正面へ行く。
金属音が響き、瘴気が散った。
「時間はまだあるようですし、しばらくお付き合いくださいよ、ハ、ハハ、ハ」
どんどんと歩み寄ろうとする。
■ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「障壁が反応してる、この術式は……なるほど、アンラックってわけかよ。
畜生、ベルトにも耐性護符しこんどくんだったぜ……」
障壁を透過して減衰された邪眼を分析しながらも、ナックルダスターの具合を確かめる。
内ポケットから取り出したピンで、やっとのことで応急処置を施し、
あらためて障壁越しに黒い鎧──ザデルハイメスと相対する。
「おうい、何してくれんのよ。
僕は生憎、露出趣味はないんだぜ?
あと帰り道なんだ、こっちは時間を有効に使いたいんだよ」
右人差し指をびしっと立てて、近づいてくるザデルハイメスを指させば、障壁に広がる呪紋の記号が膨れ上がり、幾つもの棘のような突起が出現する。さながら透明な棘付き盾、といったところか。
ルフスなど他の連中はこの際気にしない。気にしたくもない。
(あっちの属性が分からないんだよな、闇っぽいのは感じるけど、もし魔術師だったら一極特化の属性はそうそういないしなあ。
念のため、道は確保しておこうか。──魔拳【風衝】)
左手を自分の背面にかざし、見えない空気の壁を作る。
ほぼ同時に足元にも空気の塊をつくり、いつでも動かせるように姿勢をやや低く構えた。
■ルフス・ドラコ > まともに"撮影"してしまった端末が壊れる現象が他の学生たちにも伝播していく。
十二分に減衰された邪眼であっても、自ら受け入れようとすればその効果は残る。
そして、実際に被害にあってこそ、ようやくながらも
「何かあっても自分の力なら」という根拠の無い自信が弱まったものから商店街を駆け去っていく。
ザデルハイメスが近づくと、その異様に圧されて更にその数を減らす。
ライガが拳を構えるに至って、最も鈍いものが逃げ出していった。
ぽつんと一人、ルフスがガードレールを気のない様子で触れながら、逃げ去る背中を見守っていた。
■ザデルハイメス > 「それは……どれぐらいの護りなのでしょうかね」
どんどんと歩み寄る途中でそう声をかけると、ついで声色が変わった。
それは会話ではない。呪文だ。
「死に黙する黒渦を呑め//世界を捻れ//DrrrrAyyyyyslh」
そうしてライガを右の人差し指でさした。
発動するのはザデルハイメスの元いた世界の暗黒魔法ディスドレイド。
呪詛エネルギーによって任意遠隔地点に半径1メートルほどの強烈な内側への力を生み出し、握りつぶすように砕く空間圧縮を起こす魔法だ。
それがライガのいる場所を目掛けて起動される。
「繰り返す//泡の群れ」
ついで、とばかりにライガ以外の周囲にいる相手に向かっても同じものを発動させる。もちろん、ルフスも入っている。
ご案内:「商店街」にシルヴェネさんが現れました。
■シルヴェネ > ライガやルフスがザデルハイメスと戦闘している中…。
それを面白そうに見る。魔剣を持った黒衣の少女がいた。
逃げまどう人達をみやりながら…逃げずにそこにいた。
「くすくすくす…」
不敵に黒衣の少女は笑う。
そして巻き込まれるとなると、黒霧となって消え…
別の地点に現れて見学している。
■ライガ・遠来・ゴルバドコール > 両足がふ、と宙に微かに浮き上がり、次の瞬間、物凄い力で地面の一点に引き寄せられる!
ぐん、と前につんのめり、あわてて右手をついて体を支えるが、まるで地面に吸い込まれるような力に、次第に引きずられていく。
「おわぁあーーーっ!!
な、なんだこりゃ……引力かなんかか!?」
右腕で何とか踏ん張ろうと力を込め、詠唱しながら左手の拳を地面にたたきつける!
「ぐっ、このまま……潰され、てたまる、かよっ!
──“東天に見(まみ)えし金の王よ、我に力を与えたまへ”!
魔拳んんん、【雨穿拳】!!」
それは落ちる水が石に穴をあけるように、ライガの周囲の地面を80cm四方、抉り取って大穴を開けた。そのまま穴に吸い込まれていく……
■ルフス・ドラコ > 背中を見守っていたのは、間に合わないと思っていたからだ。
何しろ自分自身が逃げきれる自信がない。飛行でも早さと運動性で劣るし、転移の魔術でも敵いはしない。総量と熟練度が違う。
ただ走るだけで間に合うわけがない。
だから、突き飛ばした。駆けていく生徒の背中を。
「疾ッ!」
詠唱を聞いて呪文がわかるほどの学があるわけではない。
が、視界の端で"指をさす"のは見えた、おそらくデータで見た小半径の遠隔呪詛。
"片手"を伸ばした先で掴むと、振りかぶる時間ももったいないと爪弾きにした。飛距離は5m。謝罪は後にする。
同じ動作を、せいぜい10回。自分が巻き込まれる以外の被害はなさそうだった。
(……あの拳士の方は…)
まあ、爪弾きにしたら怒るだろう。
そう思いながら、最後に自らの拳で呪詛に対抗する。
「四方を制するならば、われ世界を制すなり、でしょうか。」
前後に同時に打ち出す拳が、ガードレールを砕いて飛び散らせる。
次いで左右に放つ拳が、たまたまあった近くのシャッターを"通して"屋内に轟音を響かせた。
■ザデルハイメス > ライガを狙ったものは比較的正確だったが、それ以外のものはとりあえずその辺にという塩梅で、狙いはまちまち。
全く最初から外れていたものもあれば、ルフスの手で外されたものもある。
躱せなかった生徒が腕や脚を一部巻き込まれて折り砕かれ、苦痛の悲鳴を上げた。
死んだ相手はいない。
殺害を強く求めて放たれたものではない。
ただ、とりあえず放ってみたというだけの攻撃。
「おや?」
空間圧縮と関係のない轟音が響いて、そちら、ルフスの方を今更一瞥する。