2015/06/25 のログ
久喜棗 > 「うむ、今のうちに慣れておかねばな
 自分が美味いと思っていないものを贈るのも…まぁちと気が引けるしのう」

そう言って覚悟を決めたのかゴクゴクと残りのコーヒーを飲み干す
だいぶ時間が経っているので既に冷めてはいるので飲みやすいが、それと苦味は別の話だ
飲んでしばらく固まったように動かなくなり、数秒後ようやくプハァと息を吐いた

「ええい、だから違うと言っておるじゃろうに
 何でも色恋に繋げおって、これだから思春期の子らは困るわ
 む、そうじゃ静佳こそ誰ぞか気になる男でもおらぬのか?
 お主は奥手ではないのだからそろそろ一人や二人ひっ捕まえててもいい頃じゃろうに」

自分から話を逸らそうと静佳へと無茶ぶりする

「ん…まぁそうじゃな、出来なくもないが
 最近は茶道具は閉まったきり埃をかぶっておるのう
 ほれ、わざわざ自分でやらんでもインスタントがあるじゃろ?
 どうにも文明の利器に慣れると不精になってな」

鈴成静佳 > まぁ、アタシもしばらくは紅茶派でティーバッグで淹れてたけど。
紅茶は茶葉から入れてもティーバッグで済ませてもあまり違い感じないけど、コーヒーだとインスタントとドリップは明らかに違うんスよねぇ……。
それに、さすがに抹茶はインスタントともいかないでしょう?
棗ちゃんの「茶のココロ」ってやつ、一度見てみたいなぁ……んふふ。
(可愛らしい童女が茶を点てている姿を想起すると、柔らかい笑みが自然と浮かぶ)

んー、アタシの気になる人かぁ。結構いるけど……。
(中空を見上げ、これまでに学園で会った人で、気になる子の顔を思い出す。……なんと8割は女子だ。これは困った)
(その中には棗さんの顔も入っている。視線を戻してまっすぐ棗さんを見つめると、ニッと微笑み)
……フフッ、結構いる、とだけ言っておくよ。ひっ捕まえた子も何人かいるけど、アタシあんまり束縛する性格じゃないからさー。
ま、ここんとこは価値観の違いってやつだからさー、野暮なツッコミはナシにしてね?
棗ちゃんも長生きなんだから、好きになった男の人や女の人もいっぱいいるんでしょう?

(つい口走ってしまう。しかし、すぐにその時間の重み……以前聞いた「500歳」という年月の重みを想像してしまい、しまったという顔になる)
……あ、今の聞かなかったことに……。

久喜棗 > 「まぁ確かに違いはあるがな
 違いが無かったらこうやって珈琲豆など買わずにインスタントで済ませておるしな
 …じゃがやはりこう、毎日やってると面倒くさくなってきてな
 自分が飲む分にはインスタントでいいではないかという妥協心が芽生えてきてしまうものなのじゃ
 まぁ、飲みたいというならその内立ててやらんでもないが…儂はあまり茶の心なぞ知らぬぞ?
 飲むために立てるだけじゃからな」

静佳の言葉を了解しふむふむと頷く
たしかに彼女は他人を束縛せず色々な人と付き合っていくタイプだろう
それが棗の道徳的価値観に照らして褒められたものではないが
だからといって目の前の少女は他人の心に無頓着というわけでもない
彼女なりに上手くやっているのだろう

「ま、そうじゃな。お主のやり方に口は出さんよ
 他人を傷つけておるなら口の一つも挟むがお主はそうではないじゃろうしな」

好きになった人と言われてピタリと動きが止まる
しばらくむーんと考えて

「……いっぱいはおらぬよ
 確かに長く生きてはおるがな、夫としたいと想った者はそうはおらん
 それに儂は人外じゃ、連れ添うにはちと寿命の問題がな
 まぁでもほれ、そこまで行かぬ程度の好きじゃったら儂は大概の人間が好きじゃぞ?
 お主も好きだし先ほど言った彼のことも好きじゃ
 まっ、程度の問題じゃな」

と言ってクスリと誤魔化すように笑った

鈴成静佳 > そうだよね……寿命が違うといろいろ……辛いことあるもんね……。
(目を伏せ、棗さんの言葉を噛みしめる。16歳の脳でもそれは想像に難くはない。あくまで想像の域を超えないが)
(そして、「夫としたいと想った者がいない」という言葉に、胸を締め付けられる思いを感じる。たとえ別れが恐ろしかったとしても、信頼できる伴侶なしに長い月日を越えられるものだろうか……)
(多忙なれど仲睦まじかった両親の姿を思い出す。しばらくカプチーノに口を付けておらず、クリームの泡はすっかり消えていた)

……ま、まあ、でもそしたらさ、この島には異邦人もいっぱいいるし、寿命の長い人もいるかもしれないよね。
そういう人とだったらきっと、夫婦にもなれるかも知れないよ? 今から頑張ってみる価値もあるよ、棗ちゃん。
アハハハ……(ごまかすように、固い笑みを浮かべる)

……そっか、アタシのことも好きかぁ。ありがと、棗ちゃん。(直視せず、ぬるくなったカプチーノを眺めながら。照れている)
アタシも、棗ちゃんのことが好きだよ。もちろん棗ちゃんだけじゃなく、今まであった人々のほとんどみんな。
全員と結婚したい! とかそういう訳じゃないけど、無為に苦しんだり怪我したりするのを見るのは我慢できない……ってくらいには好き。
昔の人は、仲良くなったり話をするためにお茶を点てたんでしょ? だから、アタシも棗ちゃんともっと仲良くなるために、お茶を一緒に飲んでみたいなって。

……ま、それを言ったらこうやって一緒にコーヒー飲んでるのも一緒かー! アハハー。(ようやく静佳の顔に明るさが戻った)

久喜棗 > 「そう暗い顔をするな、寿命の違いを実感するところまで行くことの無かった話じゃ
 儂がもう少し奥手でなければ、面と向かってちゃんと話をしておったらまた違う結末があったのやも知れぬが…
 いずれにせよただの昔話、今となっては思い出に過ぎぬ」

残りのドーナッツに手を付け、モグモグと頬張る

「別に儂は何が何でも伴侶が欲しいというわけではないのでな
 この歳で婚活するほどガツガツした心も持っておらぬし
 ま、そうじゃな…気が向いたらの」

静佳の熱い言葉に圧倒されて一瞬呆気にとられるもうんうんと頷く

「うむ、出会う者全てと仲良くなれるならそれは理想じゃろうな
 儂もできればそうありたいが…他者のためにありたいと思うことはできるが、実行はそう簡単にはいかぬぞ
 良かれと思ってやったことでも、必ずしも良い結果を産まぬこともある
 ゆえに物事はよく考えてやらねばならぬ。限界があるとしてもな」

と言って立ち上がる、珈琲豆の袋を大事そうに抱え

「儂はそろそろ帰るとしよう、晩飯の支度もせねばならぬしな
 ではまたな静佳よ、身体に気をつけるのじゃぞ」

銀縁眼鏡の少年に代金を支払い
カランカランとドアの鈴を鳴らし去っていった

『ありがとうございましたー、またのお越しを』

ご案内:「商店街」から久喜棗さんが去りました。
鈴成静佳 > フフッ、思い出もいいけどこれからも大事ッスよ。
結婚、気が向くといいね! どういう出会いが待ってるかわからないッスからね~。
(ドーナツを頬張る棗さんを、今までどおりの笑みで見つめる)

うん、アタシは荷物まとめてもらってから帰るから、お先にどーぞ。
またね、棗ちゃん! 面白い話をありがと!
(手を振って見送る)

鈴成静佳 > ……そうだね。出会った人全員と仲良くなれればそれが一番だけど……。
(そうでなかった人もいた。他人を傷つけることしかできない人が、この島には数多く居る)
(そういう人々を改心していけるならいいが、自分にはその力はない……いや、そんなスーパーマンみたいな奴はそんじょそこらに居るはずもない)
(そして、自分はこれまで誰も傷つけなかっただろうか? という自問には、100%YESのハンコなんて絶対に押せない)

(棗さんは、これまでに一体何人の人と付き合い、葛藤し、傷つけ、傷つけられ、別れてきたのだろうか。自分の体験してきた30倍以上の時間の中で)
(考えるとココロが重くなる。重たくなったクリームごとコーヒーを飲み干し、冷たくなった液体が食道を通る感覚でそれを押し流す)

(否……過去がどんなに長くとも、問題は「今」この時なのだ。過去は今の積み重ねであり、教訓だが、「今」ほど重要ではない)
(しかし、棗さんの過去には興味がある……きっとそれは、自分にとっても教訓となるのではなかろうか)

『お客様、コーヒーセット一式、おまとめしましたのでお持ちください。代金は……』
(店員少年の可愛らしい声で、静佳は我に返る。そして、決して安くはない金額を財布から取り出し、二重にして補強した巨大な紙袋を手に下げ、店をあとにした)

……よし、明日はこれでいっぱいコーヒー作ろうっと。寮のみんなに振る舞おう♪

ご案内:「商店街」から鈴成静佳さんが去りました。
ご案内:「商店街」にナナさんが現れました。
ナナ > こつ、こつと杖の音。

人気のない商店街の通りを少女が歩いている。
目を包帯で隠して杖をついた少女。
つばの広い、大きな麦藁帽子を被っている。

当然、お店はもうほとんど開いていない。
昼間の賑やかさとは対照的に、静かな道を歩く。

ナナ > 喧騒の中では、杖は精々足元に危険なものがないかとか、
あるいは目が見えていないことを示すか程度にしか使っていない。
しかし、これだけ静かならば音の反響でおおまかに周りの様子が把握できる。

たぶん。きっとできてる。確証はない。
なんとなく、それっぽいことはできている。と思いたい。

自信があるかと言われれば否だが、商店街の道は
未開拓地区の森林に比べればずいぶん単純だ。
注意さえしていれば躓くこともないし、
木にぶつかることだってない。

町並みの様子を頭にいれながら、ゆっくりと歩みを進める。

ご案内:「商店街」に狭間操一さんが現れました。
狭間操一 > 人気のない商店街、人通りはまばらどころか、全くない
この時間にこの場所を通る奴など
落書き目的の与太者位だ、どの店もシャッターはしまっているし
これといって寄るべき施設はない、だから、人の気配もない

コツ……

少女がアーケードを歩くたびに
同じ歩数で後ろを歩く靴音がする

コツ………

その足音は、つかず、離れず、一定の距離を保っている
早く歩いても遅く歩いても、一定の距離から聞こえてくる

少女以外の足音だ

ナナ > 「…………?」

足音が聞こえる。自分のものではない。
だが、少女はさしてそれを気にも留めなかった。

それは、しばらく人から離れていたことによる
不慣れからきたものなのか、
それとも、最近会った人が誰も悪意を持っていなかった
ことからきた油断だったのか。

計り知ることはできないが、
いずれにせよ彼女はその足音に対しては
一切の警戒をしていなかった。

杖の音が響き、背中でリュックサックが揺れる。
ただただ、歩みを進めるだけ。

狭間操一 > 「………ああ…」

「距離は目測…………」

「…20歩を維持…」

「ダメだな……」

「もう少し………この先は……」

ボソボソと、低い声で通話する声、耳がよければ聞こえるだろう、程度の話し声だ
ゆっくりとした足取りで、背後の人間はどこかと連絡を取っている

<<pi>>

電子音が響いた、通話が切れたのだろう、これはハッキリと聞こえたかもしれない

しばらく様子を見る、この先の通りは、この時間帯において更に
比較的人が通りすがる事の少ない区画だ

距離を詰める、靴音が早くなる、目算で7歩、8歩

「あの…すいません、ちょっとええですか?」

声が響いた、硬い、男の声だ、背後からそれは聞こえる

ナナ > 「……っ、な、なんでしょう、か……?」

視覚に頼らずに周囲の状況を把握するならば、
自然として耳に神経を集中させることになる。
はっきりとは聞こえなかったものの、会話していることもわかった。

怪しい。

直感的にそう感じた。
だが、声をかけられた以上返事はしないといけないだろうと、
世間知らずの少女はその声に振り向いた。

狭間操一 > 「ああ、気にせんでね」
ゆっくりと歩いて近寄る
足音に反応して離れていく事がなければ、目の前まで歩いていくつもりだ

「自分、公安委員会の者ですけどもね」
ゆっくりと所属を明かすような声を出す
少し金沢あたりの訛りの残った発音の男の声。

「女の子が夜にこないな場所におったら危ないよ?って注意さして貰てるやけども…君、一人?
 迷ったんかなぁ……お兄さん案内するよ?学生証、ある?」
ゆっくり、屈みこんで、その顔を覗き込もうとするだろう

ナナ > 「い、いえ。迷ってるわけでは……」

顔を覗き込めば、包帯で目を隠しているのが分かる。
注意深く観察すれば、包帯は目だけでなく
首と手首にも巻かれていることがわかるだろうか。

公安委員会のもの、と聞けば
あからさまに警戒の色を見せて後ずさる。
公安委員と聞けば、あまり良い噂もないし
なにより、過去に良くない思い出がある。

だが、状況的にこちらも怪しく見えるだろう。
警戒を解かずにリュックから学生証を取り出して提示する。
二級学生のものでもなければ偽造学生証でもない。
間違いなく正式なものだ。

狭間操一 > 「君みたいな、女の子が。
 迷ってるわけでもなく。
 こないな場所をひとりで。
 あかんで?落第街よりは平和かも知らんけども、変なの出るからね、特にお嬢ちゃんみたいな
 目の見えない子は、ひったくりとか狙われるようなっとるから」

後ずさるならば、また距離を詰める
下がるならば、それだけ追い下がる
その背中が壁に当たるまで、近寄っていくつもりだ

「公安は苦手かな?おいおいヒドいなあ、公安さんはな、いつも島の平和守てんねん
 もしかして公安の人に見つかったら…
 何やマズい事情でも…あるのかなあ?
 なんてな。」
うそうそ、冗談だよ
くつくつと笑って取り繕った、ただ、その目は笑ってはいなかった

「うん、うん…学生証な
 もう少し近づいてくれんと、確認しようがないわ
 怖いのわかるけど、お兄さんに見せてくれる?
 何も…マズい事はないんよね?お母さん安心させたらなあかんで」

ご案内:「商店街」にウェインライトさんが現れました。
ナナ > 「…………。」

警戒は、解かない。
それでも素直に近寄り、学生証を見せに行く。
少女の性格が、逃げるという選択肢を取らせなかった。

ただ、その手はぎゅっと杖を握っている。
もしも相手が危害を加えてこようとするならば、
殴り倒すことも辞さない。

ウェインライト > 「ふっ……今日もこの僕は美しい……」

陶酔しながら歩む影が一つ。電灯がその姿を照らしだすと、長躯がそこに浮かび上がる。

燃え盛るような金の髪/融かし尽くすような赤い瞳/蕩けさせるような美貌。

カツコツと踵を鳴らし、時に踊るように夜を行く。

すると目に入ったのは――二つの人影。

片方には見覚えがある。そう、確かナナと言ったはずだ。
ウェインライトの持つ"審美眼"は、一度見たことを忘れることはない。

もう片方は――なるほど、と。
赤い瞳が欠けた月のように細められる。
特段感じ入るものはないが、そのまましなやかな足を前に送った。

「やあ、久しぶりだね。確かミス・ナナだったかな」

……元"ロストサイン"マスター。百の異名を持つ災厄。
一度聞いたら忘れることのないような。歌うような声で声をかける。

「そしてそちらは……見たことがないな」

暗視ゴーグルをかけた少年。悪くない外見だ。
しかし、その表情をウェインライトの赤い瞳が見据えていた。

ナナ > 驚いたような声をあげ、振り向く。
かつて聞いた声。その麗しき声を忘れるはずなどなかった。

「ウェインライト様!」

自称公安の男のことなどそっちのけで声を上げる。
ロストサインのマスターが一人、ウェインライト。
誰よりも美しい吸血鬼。

マスターと雑用ではその格は比べるべくもなかったが、
それでも2年ぶりに出会ったロストサインのメンバー。
目こそ隠れているものの、その表情は笑顔だ。

狭間操一 > 「うん、聞き分け良い子はお兄さん嫌いやないで
 それでな、お嬢さんな、少し前に―――」
近寄った瞬間、ハサミに手をかける
一気に引き抜いて……

「なん?お兄さ…姉さ…外人さんも夜歩き?いかんなあ…この辺りはぁ」

唐突にかけられた声に、くるりと顔をそちらへやった
なんだ、この…男?女?どちらでもいい、だが、邪魔だ
一般人…と考えるのは少し楽観が過ぎるな…どうするべきか
引くべきか?

「いや、この子がな、ちょい迷うてたみたいやから
 案内したろう思ってな、あ、僕、公安の……モノやねんけどな……
 外人さん知り合い?アンタも名前、聞かせて貰ってええかな…?」
暗視ゴーグルの奥の、ひとつしかない目が細まる
少し含みを持った間を置いて、自分は公安だ、と名乗る
ゆらり、と身を起こせば、口調は軽く、そう問いかけた

ウェインライト > 「久しぶりだね。元気だったかな? いや、尋ねるまでもないか」

ウェインライトはそっとナナの横に立つ。
目の前の公安と名乗る少年に対する害意も、敵意もない。
笑顔を浮かべる彼女に引き寄せられるように、自然とその横に。

「公安か」

艶然とした笑み。唇を少しだけ舌で濡らして、ただ、立っている。

「ウェインライトの名を知らないとは、ふふ、いや、失敬。
……随分と時間が経ったものだね」

かつて常世学園を混乱に叩き込んだロストサイン。
"ウェインライト"と呼ばれる美貌の君は、その中でも特に猛威を奮った。

「いいとも。答えよう。我こそは最も優美で最も華麗な吸血鬼。
ウェインライトの最強にして最期の一人さ!」

自らを掻き抱くようにしてしなを作る。
かつてはその一挙手一投足だけで多くの人間を魅了したその仕草。
自己陶酔気味のその所作も、端から見ればギャグ同然――。

「そちらの名前は? 公安の君」

ゴーグル越しの片眼を。
赤く輝く瞳が。
見つめている。

ナナ > 「おかげさまで、なんとか暮らしてます。」

笑顔で答える。先ほどの警戒していた様子はもうどこにもない。
信頼できる人がそばにいる安心感からか、
自称公安の男に対する怯えすらも消え去っている。

ちょっと迷って、手に持ったままの学生証をポケットに入れると
リュックを背負いなおした。

男が一瞬見せた奇妙な動作も、
ウェインライトの美しさに驚いたものだと思ったらしい。
まさか鋏を取り出そうとしたとは考えなかった。

狭間操一 > 「ああ、公安や
 公を安定させると書いて、公安やね」
かくり、と首を傾けながら返答

「ああ、知らんわ、誰やねん自分
 スター気取りか?確かにイケメンかも知らんけども…」
あはは、と軽く茶化すような声色
知らないものは知らない
自分はまだ公安などではないのだから

「ウェイン、ライトって名前の変態さんな。
 あ、ちょっとごめんな?電話良い?」

どちらにしろ、想定外であるのは間違いない
ゆっくりポケットから無線端末を手に取ると、耳に当て、短縮を押した

「僕か?僕はそうやな…

 『ヘクトアイズ』や、ウェインライト君?」

雑なコードネームだ、今考えたもの
それでも、何か、よくない状況であるのはわかる、いかにも今までずっとそう名乗ってきました
とでも言うような態度で、押し通ろうとする

耳に当てた無線端末の奥からは、コール音が響いている

ウェインライト > 「かつての仲間に会えるとはね……今日は良い日だ。
この僕の美しき心のダイアリィに刻んでおくとしよう」

髪をかき上げナナに笑顔を向ける。
目を包帯で隠している彼女がそれを見えるかは分からない。
だが、それでも流儀を通すのがウェインライト。

「後でよければどこかで食事でもどうだい。時間を持て余していてね」

声をかけながら、相手の電話を横目で見つめながら。

「スターか。そうかもしれないね」

相手の呆れたような、茶化すような声色には悠然とした態度で返す。

「もう一度聞こうかな。吸血鬼のウェインライト。
この名前に本当に聞き覚えはないんだね。ミスター・ヘクトアイズ」

それは、験すような声だ。耳元をくすぐるように、超然とした態度で。
吐息混じりの声が狭間を撫でる。

「無知とは、罪だね」

暗がりに、大して大きくもないウェインライトの声が響き渡った。

ナナ > 「今日はもうお店が開いていませんからね……
あっ、もちろん日を改めてならこちらからもお願いいたします。
ウェインライト様と一緒にお食事ができるなんて、夢みたいです。」

もちろん、包帯に隠れた瞳はその美しい顔を見ることはできない。
しかし、他の人がいる今、その包帯を外すことはできなかった。

その美貌を拝むことができなかったのはすこし残念ではあるものの、
声を聞くことができたこと、そして会えただけでも嬉しいものだ。
一緒に食事をできるとなれば、それはもう身に余る光栄と言っていい。

ここでようやく、電話をかけ始めた公安の男に意識が向く。
茶化すような発言にちょっぴりむっとしたものの、
むきになって反論するようなこともしない。

最初のような警戒心を抱くこともなく、
その通話が終わるのを待っている。

狭間操一 > 「ああ、そうかそうか……
 吸血鬼の、ウェインライト…な?」
端末から雑多な言葉が流れてくる
最低限の情報、最低限の対処法などだ
一介の一般人には手に余る相手の筈
まともな公安の上層なら、大変だ!とすぐに腰を上げる筈…

ハズなのだけれども、電話の向こうの相手の対応は、どこか等閑だ
どころか、どこか信じていないフシすらある

少なくとも、電話の先の相手は
ハズレを引いた奴を助けに行って、気にしないでくれ、これも正義の為だ
等と言う相手ではない、そして、自分もその事は十分承知している

所詮、人は一人だ、どこの組織の一員であってもなくても
それは変わらない

「わかった、君が誰かは大体わかったよ…」
こく、こく…頷いた
端末の電源をオフにし、後ろへ放り捨てる

「ざっくりしててあんまり確かな情報はなかったけれども
 要約すると…」

掌を、当てる、暗視ゴーグルにだ

「"ただのチンピラ"やって事やんな?」
捲りあげ、現れるのは、オニキスのような漆黒の瞳だ

凶眼。

その右目は、覗けば相手の精神を飲み込むような、ポッカリとした深淵が広がっている
直視した相手に能力の暴走、過去のトラウマの幻視等を引き起こす異世界危険種の呪いがへばりついた眼

この目が効かなかった相手はいない
だけど、効かない相手はいない、なんて奢っているわけではない

それでも、仕掛けるだろう
この右目を『ウェインライト』へと差し向ける

ウェインライト > 「先ほど二十四時間営業とやらの店を見つけたのでね。名前はなんといったかな……」

ファミリーレストランなどついぞ入ったことのないウェインライト。
その場所の良し悪しは判断せず、便利そうだと目に止まったものだ。

かつての仲間と少し話に華を咲かせたかったものだが。
もしも彼女が拒否するならばこれ以上は誘うまい。

相手は何かを探っている。僕の身元か、それとも。

――ウェインライトは俯瞰している。
今この状況を。美しきものを肯定し、その価値を賛美する。
その確かな審美眼が。狭間とかち合う。

「なるほど。今の僕はちんぴら扱いか」

笑む。笑む。笑む。

凶眼と、赤い瞳がぶつかり合う。

かつての戦い。大勢が死に、最期にウェインライトが死んだ時。
体内を蝕む666の呪詛。常に宿主を死へと誘う絶対の檻。
時計が、狂う。

歪む/弾ける/殺す/沈める/穿つ

666通りの異能/666通りの呪詛/666通りの絶対的な死

今のウェインライトに抗う術はない。たやすく身体から命がこぼれていく。

嗚呼。暴走、する――。

「――――」

即座に死亡。0.1秒とかかるまい。
だが、隣の少女を怯えさせぬというただひとつの"美学"。
音もなく、気配もなく。ただ、死んでいる。

ナナ > チンピラ、という発言を聞いて眉をひそめる。
彼の現状を知らないナナにとっては、
いつまでもウェインライトはロストサインのマスターだ。

それはチンピラという言葉で表現されるものではなく、
もっと絶対的な、天上の存在であった。

だが、手を出すことはしない。
マスターの前で下手にみっともない姿を晒したくはなかった。

すでに彼が死んでいることになど気づきもせず、
じっと佇んでいる。

「いろいろ準備もしてきたいですし、ね。
また次の機会にお願いします。」

暢気に、死体に向かって話しかける。

狭間操一 > 「あァ…コイツを獲れば……
 そうか……三星金勲章か…へぇ……」

利害、利得、利権、利益
コイツは利益だ、でかい利益だ、利益、利益……

獲れば成り上がれるでかい利益だ
自分の中に、石のように硬い何かが支配して
他の事を考える事は出来なかった

「昔お爺ちゃんに聞いたんやけどな…――――
 猟師の中で一番デカい収入は猪でなぁ……
 時々現れんねん、熊よりでかい猪が…時価数百万や
 そいつが運よく、たまたま、目の前に出たとするわ
 そらまともにやった人間は適わんわなぁ……絶対戦うなんて選択肢はありえへん
 でも弱ってたら殺す、弱ってなくてもあの手この手で殺す
 チャンスがあれば殺す、どんどん殺す、追い立てて殺す、薬で殺す毒で殺す
 人間は、利益と命を天秤にかけてワリに合わなくても
 時々ムチャをやらかす生き物や、理屈やないな…そこにチャンスがあるんやからな」

チキ…と金属が擦れる音が響く
ベルト代わりのシザーケースから、ハサミを抜いた音だ

「お前は……俺の猪か?」
床を蹴って進む
女?そんなものオマケだ

コイツの首を捥いで稼ぐ
俺は殺れる。

死体となったウェインライト、その首を
切り落とす為に、鋏を伸ばした

ウェインライト > ただの意識の間隙。攻撃行動に移るその一瞬。瞬きの間よりも短い時間。

いつの間にか消えていて/最初からそこに何もなかったように。

ウェインライトの死体が消失する。
戸惑うだろうか、平然と受け取るだろうか。
いずれにせよ、狭間が行動を起こすその刹那。

「――穢したな。僕の戦いを」

狭間の背後、およそ5mの距離から声が響く。

「――穢したな。彼らの美しき誇りを」

体内に渦巻く666の呪詛。
ウェインライトはそれを疵だとすら思っていない。
あの戦いは、あの決死の決意は。実に、実に美しかった。
心のなかに刻まれた、ただひとつの"自分に迫る美"

だが。目の前の少年はそれにたやすく踏み込んだ。

常に自由であった。常に優美であった。常に平穏であった。

かつての戦いの時ですら。彼はただの一度も心を乱したことはない。

"元"ロストサインマスター。
最初にして最大の難関。

ただその美だけを残して全てを失った吸血鬼。

それが。その声が。明確に敵意を表している。

「君が、穢した」

声を発するだけで多くを魅了したその声が。
空から落ちてくるように。狭間の背に、のしかかる。

ナナ > 「……ウェインライト様、お手伝いしますか?」

杖をしまい、リュックを開き。
そして、取り出したのは魔道書と。
明らかに容積を無視した大きさの釘バット。

すぐに殴りかかることはしない。
なぜなら、そこにいるのはマスターだから。
彼の命令なしに動くことはしない。

だが、目の前にいるのが彼の敵で
彼が自分の手を必要とするならば。
躊躇うことなく、それらを振るうだろう。

狭間操一 > シキン……――――

銀断のハサミが閃き、空を舞う
その切断力は岩を軽く切り裂く程度の業物

だが、切り裂いたのは男の首でも脳漿でもなかった
空を切っただけだ

「っと……」
勢い余ってトン、トン…と2~3歩よろめく
消えた?テレポートの類か、空間魔術とでも言うのか
似たような手品は何度か見た事がある

逃がしたりは……

「あァ?」

聞こえるのは背中からだ
人の理、超えてはならぬと本能に訴えかけるようなプレッシャーを感じる
相手は、人一人の存在強度を超えていると
頭蓋の奥の本能が囁く

「あぁ、何か気に障ったか?思い出に踏み込んでもうた?
 すまんなぁ…口さがないのは性分やねん
 人を傷つけてしまう事もある、僕の悪い癖や…直そう思とる…
 ところで、そんな『どうでも良い』事よりなぁ…」

どうやったって勝てない人間は居る
怪物に勝つ事など、人間では不可能なのだと。

だが、男の思考はある意味とても享楽的であり、とても平凡だった
”そんなヤツが居てたまるかよ”
現実から目を逸らし続けた男の思考は、その現象を認めなかった

「俺を…見下ろしてんじゃ……ねえッ!」
許せないのは、不条理だ
不条理には不条理をだ、お前はただのチンピラであり、俺と同じ腸の腐った外道なんだよ…

怒りを込めて、振り向きざまにハサミを閃かせた
まるで存在しない実態を捉えたかのように
物理法則を完全に無視し尽くして切断してやる…

それは

破壊できない現象を
現象のままに断裁し、分離すると言う
『呪われた』殺人鬼の鋏の一閃

のしかかる『何か』を、切り付けに行く

ウェインライト > 「いいのさ。ミス・ナナ。彼は、僕の、敵だ。
――君は、ただ僕の美しさを賛美していればいい」

敵などという言葉を使ったのは何年ぶりだろう。
百年? 二百年? いや、それとももっと?

美しくあるために、争いなど要らなかった。
かつての同胞ですら傷ひとつつけられなかったこの身体。

ああ、けれど。どうしよう。

「僕は/君と/敵対する」

宣言だ。彼の背にのしかかるのは、力でもなんでもない。
ただの声。現象すら切り裂くハサミは、声という現象を切り裂くだろう。

「見下す?」

微笑う。艶然とした笑み。欠け月のように細められた赤い瞳が狭間を射抜く。

「僕は君の歪みを"視て"いるし。僕は君の歪みを劣っているとも思わない」

ゆっくりと、ゆっくりと。

踵を鳴らし/世界を鳴らし/喉を鳴らし

「君の美しさはどこにある? さあ、見せてみたまえ」

美の賛美者、ウェインライト。
彼は誰の美しさも認めるだろう。

「さあ、ミス・ナナ。この僕の美しきをとくとご覧」

その細く引き締まった長躯は、いともたやすく切り裂くことができるはずだ。

だが。それでも前に進む。
ゆっくりと、ゆっくりと。

「さあ、おいで。片眼の凶眼」

ナナ > 「……畏まりました。」

そっと、武器をしまう。
そしてただ、耳を傾ける。

かつて誰よりも強く、だれよりも優美であった
その吸血鬼の、戦いに。

ただ、そこにいて、それを見届ける。

吸血鬼と、狂人の戦いに。

ご案内:「商店街」からナナさんが去りました。
狭間操一 > 「違う…」
これは、声か?ハサミの先に感じる不確かな感触に眉を顰める
奴は声すら質量を感じるプレッシャーとなるのか?
出鱈目な奴だ

自分の振り回している『呪い』という力さえも
とてもチープなものに感じてしまう
大人にオモチャの剣で戦いを挑むような馬鹿馬鹿しさだ

だけど、見下すのは俺だ
いつだってそうしてきた、主役は俺だ
俺の世界にいきなり現れてラスボス面をするアイツを
許してはおけない

「知ったことかァァ――――ッ!」
呪いの様に喝采する声へ向けて怒号を放ち
真っ向から駆けていった

ハサミを握った右手の手首に、左手を乗せ
正面から突撃する。

あるいは、美しい物を見ると破壊したくなる
という衝動のひとつだったのかもししれない

確かに美しさ美しさと連呼するヤツの顔は
この世に生を受けて十何年
不本意でとても認めたくないことだが見た事がない程美しかった
お前は美しい

だから

お前を切りたい。
漆黒の目にギラギラとした熱が点る

そして、交差一閃
銀の軌跡が空間を切り裂きながら火花を散らし
その顔を縦に断裁しようと伸びる。

ウェインライト > 「あ、は」

微笑う。

――これは敵だ。
もしかしたら生まれて初めて心に抱いた敵かもしれない。

だが。それでも彼は美しい。

「なるほど」

その懸命な叫び。それを聞いて得心する。
それが君の"美しさ"なのだ。
理解する。ただ平凡であるだけならば、こうはなるまい。

何かを求めて手を伸ばすその様に、ウェインライトは"美"を見出した。

瞬間。

鋏がウェインライトの顔に食い込んでいく。
現象を切断し、痛覚を増幅させるという神経毒。

その二つはまさしくウェインライトを断つだろう。
あらゆる呪詛が身体を苛むように、君の想いもまたウェインライトを焼くだろう。
まるで雷のような激痛がウェインライトの脳髄を焼きながら両断される。

――それもまた、よし。

"狂い時計"が狂ったまま、首から上を消し飛ばす。

分針が時を刻む/秒針が時を戻す/ただただ、狂ったように

暴走する力は、ウェインライトを死の瞬間に別の可能性へと弾き飛ばす。

君の、背後に。

「抱きしめてあげようか。美しい僕の敵」

だから、手を伸ばす。
この美しさは、すぐそばにあるのだと。

狭間操一 > 「が…――あッ…!」

ハサミの呪いを開放しすぎたのだろうか
右手に握る鋏を伝って、己の肌に凡字のような文様が浮かび上がる
それは激痛だ
肌の中に針がある、その針が生きて、体の中を這い回っている
そんな痛みが蠢いてくる

以前にも乗っ取られかけたこの力をここまで引き出せている時点で奇跡だ
奇跡が覚めない内に!

「ちょきん、ちょきん、ちょきん…」
切り裂く感触、人の顔にハサミがめり込む
いける…殺せる。
無敵のスーパーマンなんて存在しない
神様なんて、この世には居ない

「男の胸は……嫌やなァ……――」
呪われた、ジゴクめいた瞳が光る
殺人鬼の意思が入ってくる

大丈夫、殺せる。

俺は殺れる。

確かに命を消し飛ばした感覚だ
盆栽を矯めるように、その命を切り崩した

だけど、背後からまた新しい命だ
天国の門が開いて、よし通れと俺に強制しているようにしか見えない
ふざけやがって

「なら…通行料貰っていくわ……」
ウェインライトの抱擁が
死を超えた存在破壊を予感させる腕が、伸びる
それに触れた瞬間、折よく自分の本来の力が、暴走した

666の呪いを体に持つというのなら
それを引き寄せる力もある
吸い込む力だ、周囲を取り巻く全ての呪いを

……後は…
そう、大人しく抱きしめられるのだろうか、それ以外にはない
その結果死ぬかもしれなくても
選択肢はない、人の身でヤツに与えられる影響は、多分そこまでだろう。

ウェインライト > 「潔いな、君は」

そこまでして何を求めているのか。

明確な殺意を涼しげに受け止め相手を抱く。

狭間の身体に押し付けられるのは、柔らかい感触。

「だが、失礼だ。僕は男でもあるが女でもある。
性差など超越した身でね」

男女の括りで縛れるものではない。

融かすような赤い瞳が、そう訴えかけている。

「君は、どうしてほしい」

くすぐるように。ささやくように。

この"狂い時計"による死は、決して実用的な技ではない。
しかし、今この瞬間。狂い狂える秒針が、確実に実用の域に押し上げている。

ただ抱きつき死んだだけで。その肌に触れている場所は消し飛ぶかもしれない。

どこを消してほしい、と。ウェインライトは問うた。

それとも、或いは――。

ただ狭間を抱きすくめるようにして狭間の眼を見据えた。
暴走した"狂い時計"は、狂える呪詛からすらかろうじて身を守る。

「正面から君の眼を受け止めればいいのかな。片目の凶眼」

眼前の彼は敵だ。

だが――。

ウェインライトは、自ら認めた"美"に殉じる生き方しか出来ない。

狭間操一 > 「バタバタみっともなく命乞いするんは好きやないねん
 負けたらちゃんと死ぬのが悪の華やで、自分」
切り殺し切れない
この存在はやっぱり常識を超えている
こういうものを倒せるのは
やはりそれこそ、希望に満ちた、諦めないヒーローであるとか
そういうものが、諦めずに何らかの活路を見出して
様々な犠牲の末にようやく勝つ、そういう類の生き物だ

俺は、どうだ?
力を既に多く失っているとはいえ、本気を出しても表情ひとつ
変えさせることが出来ない

呪いを力に変える事は出来る、だけど自分の力はあくまで負の力だ
だから目的に繋げられない
だから肝心な時にいつも勝てない。
悪とは、そういうものなのか

「俺では、ダメやな…わかるわ
 力もない、勇気もない…」
ドクン…と体内の呪いが蠢き、肌を這う凡字に呑まれていく

「でも勝ちたいんや、勝たせてほしいわ……」
呪い、呪詛、怨嗟
色んなものが体内を巡り、自分の中の激情を全部殺して
フラットになった感情に、ヤツの声が響き、それに淡々と答える
そんな感覚

「二度と俺に逆らえんような圧倒的な勝利を…
 それが、それが適わないのなら……」
体が分子に変わっていく感覚がした
痛みはなかった

負けたか…
呪いすら分解するような、ワケのわからない力に浸食され、己が空気になっていく

「ああ……そうだ、受けろ、僕という呪いを…
 勝てないのなら…

 逆襲を――――」

カチャン………

と地面に金属音が響いた
呪われた銀の鍬き鋏が、地面に落ちた音だ

持ち主は居ない
解けて消えたのか、分子の波に消えたのか

少なくとも、この世界にはもう存在していなかった

ウェインライト > 「――――」

力もない、勇気もない、ただ勝ちたいと希う少年。
目の前の少年は、ただひたすらに一途であった。

――ならば、それに応えよう。
身体の力を振り絞り、ただ、己の身体に眠る魔術を励起させる。

ただそれだけの刺激でも、ウェインライトの身体は軋みだす。

「君は僕の敵だ」

かつての戦い。あの戦いで認めた彼らのように。

「君は僕だけの敵だ」

それ以外を許さぬように。

「君は美しい」

その美を讃えるように。

「僕は、君の価値を認めよう」

永久を歩く吸血鬼として。
あらゆる死を凌駕してきた最期のウェインライトとして。

「だから。……君のことは一生、忘れないよ」

殺人鬼の意志が流れこむ。殺人鬼の記憶が流れ込む。

「"狭間操一"。
君は確かに、この最も優美で最も華麗なウェインライトの胸に爪を立てた一人だった」

笑んだ。それが最期の餞であるように、唇を寄せ。
触れたか、触れなかったか。それは狭間操一という少年にしか分からない。

「アデュー。僕は君を胸に刻んでいこう」

乾いた金属音。
呪詛の鋏が落ちた音。
狭間操一という少年が確かにそこに居たという確証。

だからこそ、とウェインライトはそれを拾い上げるだろう。
"狂い時計"の暴走しているうちに。

その鋏の呪詛を、受け入れる。

ご案内:「商店街」から狭間操一さんが去りました。
ウェインライト > ――667個目の呪詛。それを確かに受け入れた。

程なくして暴走は収まり、狂い時計は正常に狂い始めるだろう。

その身の内に、呪われた鋏を刻み込んだまま。

狭間操一という男の呪詛を掛けあわせた、呪詛の塊。
それをひとつに併呑するように。

身体を震わせ、何度も死に至りながら。

ただ、彼の在り方を認めるように。受け入れるように。

――ウェインライトはまた、大きく力をそがれるだろう。

「僕は今日も、美しいな――」

ウェインライトの美しさを讃える少女に声をかけ、
暗闇を歩き去っていく。

最も優美で最も華麗なウェインライト。

美の追求者にして、美を賛美するもの。

ただ、美しきを良しとする孤高の吸血鬼――。

ご案内:「商店街」からウェインライトさんが去りました。