2015/07/20 のログ
■椚 > ずりずりと壁を這い、距離をとってフェードアウトしようとしていた後姿。
見つかってはいないだろうかと視線をちらりと横流せば、手招きする鈴成の姿。
私は壁の一部です、いないです、といわんばかりに、手を振り振りと振る。
先日件で、荒木とは顔を合わせにくかったのだ。
■翔 > 「いや、別に傘の水がかからないように離れただけだぜ」
半分ぐらいは正解だしな、ははは、と自然と泳ぐ視界を意識する
「んぁ?
別にいい、返す当てもねーしな」
ひらひらと手を振って見下ろす
私服なのだろう、随分と軽装だ
運動してるわけでもねーのに健康的っていう足だなぁ、とボーっと見てると別の方を見ていた奴が手招きしたのが見え、その先に視線を送ると濡れ子犬が居た
手招きに合わせて、軽く手を上げた
■鈴成静佳 > わかってないわね、一緒に傘入れてやるって言ってんのよ。まったく。
用事の途中なのか帰りなのかは知らないけどさー。
(トントン、とビニール傘の先端で地面を鳴らしつつ)
ま、それやるとしても一番背の高いのは翔くんだからアンタに持ってもらうことになるけどさー。
……あ、ちょっと待っててね、翔くん。
(言うと、静佳は再び傘を差し、壁と一体化する椚さんへと小走りで近づく)
ちょっと、椚さん? そんなところにいると濡れちゃうッスよ? あっちで雨宿りしよ?
(顔を合わせにくい気持ちなど知らず、傘を差し出しながら問いかける)
■翔 > 「はぁ」
思わず生返事が口を吐いて出る
相合傘ねぇ
向こうならやらねーこともなかったが、出会ったばっかの奴とやるもんかね
がし、と頭を掻いたまま椚を迎えに行った鈴成を見送る
一瞬このまま先に行っちまおうかと思ったが、それを拒むように強くなる雨脚に軽くため息が出た
■椚 > ふりふりと振った手がびくりと止まる。
荒木の手が上がれば、愛想のように、それでも震えてぷるぷると。
応えるように手が上がった。
手を上げて。
……――駆け寄ってくる鈴成に、どこか絶望的な視線を送る。
心優しい提案に、瞳を潤ませ、こくりとうなずくしかなく。
壁を名残惜しみながら、差し出された傘の下。
申し訳なさそうに入って、促されるまま。
「……ありがとうございます」
■鈴成静佳 > ……まったく、びしょ濡れじゃないッスか。風邪引くよ?
(椚さんを傘の下へ招き入れると、そのまま背中へと手を回し、翔さんの待つアーチの方へやや無理矢理にでも連れて行こうとする)
どうしたんスか、椚さんは濡れてるほうが好きなんスか?
それとも、翔くんと何かあった……?(訊きつつも、足はとめない)
■椚 > 鈴成に背中に手を回されて、びくっと背筋を正す。
逃げるつもりはなかったが、逃げ道を閉ざされた気がして、落ち着かずにきょときょとと周囲を見回す。
「好き、というわけでは……」
もご、と言いよどみ。
視線を泳がせる。
眼鏡から流れる水滴に、ふるっと顔を振る。
「荒木さんとは……特に、何も。大丈夫です」
ちらりと、荒木のほうを見れば、何もないと首も横に振ってジェスチャー。
何もないけど、走って逃げたい衝動。
しかし、背中はがっちりホールド。
連行される。気分はドナドナ。
■鈴成静佳 > (逃げなければ、雨をしのげるアーチのところまで辿り着く)
……まぁ、好きで雨に濡れる奴はそうそういないッスよねー。服はペッタリしちゃうし。
アタシ椚さんの趣味とかよくわかんないからさ、アハハー。
(自分のバッグを漁るが)……あ、ちょっとした買い物と思ってたからタオル持ってないや。
翔くん、何か拭くものもってないッスか? このまま椚さん濡れたまんまじゃ可哀想ッスよ。
(言いつつ、「特に何も」という返答の様子に首を傾げ、しばし思案する様子の静佳)
(とりあえず2人の反応を見てみようか)
■翔 > 前回のアレがあるから、少し会いづらいかと思ったが、案外俺はそうでもない
ただ、あっちは色々気にするだろうし、また泣かれるのも心に刺さる
鈴成に任せてもいい、か?
「ん、あぁ」
ポケットからハンカチを取り出して、椚の頭の上に置く
拭くのは任せたとそのまま身を引いて、店の看板に背中を預けた
■椚 > 実際のところ、服の下まで雨が染みていて気持ち悪い。
ぱふ、と。
胸元に張り付いた布をはがすように引っ張る。
「……今のところ、濡れる趣味……は」
鈴成に苦笑して返して――
「だ、大丈夫です!
ハンカチ――な、ら……」
ふわりと頭上に落ちてくるハンカチに、身をすくませた。
■鈴成静佳 > ちょっとー、拭いてあげるくらいしなさいよー。つーかせめて手に渡しなさいよ!
(無造作に頭に置かれるハンカチに、頬をふくらませながら翔さんを睨みつける。これだから不良は……)
……いやー、これは盛大に濡れたッスね。早く乾かさないとマジで風邪引いちゃうッスよ。
(椚さんの服の様子をまじまじと見つめながら)
せっかく翔くんが好意でハンカチ貸してくれたんだし、使っちゃおう? ね?
特に用事がなければ、みんなで傘に入って女子寮に帰って体を乾かそう、ね?
(なぜかその「みんな」には翔さんも入っている。ちらちらと翔さんの方も見つつ)
■翔 > 「俺よりもお前の方が拭きなれてんだろ」
肩を竦めて軽く笑みを浮かべる
まぁ、そういうことにしておいたほうがいいだろ
触るのは、な
「おぅ、んじゃな」
ひらひらと手を降って見送る構えを取る
視線の意味とかしらねー
ぜってーいかねーという熱い思いを視線に込めて送る
■椚 > 「……す、すみません。ありがとうございます」
頭上のハンカチを取って、ぺこんと荒木へと頭を下げる。
どうしよう、これで二枚目だ、などと思いながら。
「私、走るの遅いから……
それで、そのまま帰ろうか、雨宿りしようか……考えていたら、こんな風に」
前髪から滴った水に、やはり、ぷるっと顔を振って。
鈴成にかからないように、注意して。
「みんな……?」
鈴成の言葉に、どこか引っかかりを感じたのか、呟いて。
鈴成を見、荒木を見つめ。
目を瞬いた。
もしかして、鈴成にバレていたのだろうか。
ダメだ、顔に出てしまう。
後ろをあわてて向く。
■鈴成静佳 > まったく、翔くんは優しくないわねー。そんなんじゃモテないッスよ?
(…とはいえ、異常なまでに臆病な椚さん相手では男子側も対応に困る気持ちはよくわかる)
フフッ、よかったね、椚ちゃん。翔くんは優しいッスね~
(ハンカチを手にとったのを見て、真逆のことを椚さんに言う)
せめて雨宿りするなら喫茶店に行くとか、場所を考えたほうがいいッスよ。迅速な判断が肝心!
……大丈夫、アタシが傘持ってるからさ。いつ止むかわかんないし、これで一緒に帰ろう?
(濡れた髪をやさしく撫でながら)
で、翔くんも一緒に帰ろうよ、途中まででもさ。傘ないんでしょ?
このサイズならぎりぎり3人までは入るっしょ?
2人で相合い傘なら誤解されちゃうかも知れないけど、3人ならそうでもない気がするしー?(よくわからない理論)
(……とりあえず、傘を持っていない翔さんと椚さん、両方を助けたくてこう提案しているのだ)
■翔 > 「別にモテたいって思わねーしな
昔の『彼女』だけで十分だ」
記憶も何もないがな
今は、誰も
自分の手を見つめながらそう考える
「俺が持って入ったらお前ら身長ひけーんだから濡れんだろ
別に気にすんな
ある程度収まったら一人で帰れる」
ガキじゃねーんだ、と漏らすように言って軽く手を振った
■椚 > 「は、はい。そうですね。
荒木さんは……優しい、です」
ハンカチを握り締めて、こくりと同意するようにうなずく。
……優しいけれど、どこか怖い。
それが表面上に現れて、ビクビクした態度を取ってしまうのだが。
それを許容する彼女と聞けば、怖い部分も見てしまう自分のこの態度を反省するしかないのだが。
「中々決められない、優柔不断で……
迷っているうちに、後手後手になってしまって。
鈴成さんのように即決できたら良いんですけど」
たはは、と。苦笑して。
髪をなでられて、気恥ずかしげな笑みに変わる。
「あ、大丈夫です。
鈴成さんと荒木さんの二人っきりなら、なんとかバランス取れるでしょうから。
私はすでに濡れてますし…フードもある、し……」
背中に手を回せば、へろっと濡れそぼったパーカーのフード。
頼りない。
■鈴成静佳 > ほほう! 彼女いたんスね!(目を輝かせる) ……とはいえ過去形かぁ。
昔の想い人に操を立てる、そういう姿勢は嫌いじゃないッスよ。
(微笑みながら感想を言う。……とはいえ、翔さんとはそんなに年齢は変わらない)
(そんな若いうちから勿体無いな、という気持ちはあるが、むやみに言っていい言葉ではない)
……いやー、即決ができないって確かに厳しいッスねぇ、椚ちゃん。
(決断力のある静佳には、優柔不断の人の気持ちはよくわからないのだ)
とりあえず、決めちゃう。あとで後悔するかもしれないけど、それでいいやって思って決めちゃうの。
怖いと思うけど、何度かやってみてよ。きっと、決断力がつくと思うッスよ?
(椚さんの背中をさすって水気が落ちるのを促しながら、アドバイス)
(そのまま、長身の翔さんと小柄な椚さんを見比べる)
……あー、確かにこの身長差は厳しいかも? 翔くんちょっと縮んでよ。フフッ。
あるいはおんぶしてもらう? なんちゃってね。
とりあえず、もう十分濡れちゃってるし、ある程度は濡れるの覚悟で一緒に帰らない?
翔くんもそこまで固辞せずにさー。ねぇー?
■翔 > 「そりゃどーも
っま、別にそういうわけじゃねーんだけどな」
眼をそらして、頭をがしっとかく
操とか、そういうんじゃない
ただ自分の異能が怖いだけだ
二人のやりとりを見て、軽く笑みが浮かぶ
案外二人は相性いいかもしれねーな
椚はこうだから、鈴成のような奴がフォローしてやったほうがいいんだろう
「濡れてんのにんなことすっか
俺はべつにいーんだっつの」
やれやれ、と言うように肩を竦めて
「それよりも椚の奴、超引っ込み思案だから友達もいねーし遊ぶことも全然わからねぇらしいんだ
手芸が好きみたいだから、そのへんで上手いこと絡んで友達になってやってくれ」
看板から背中を離して、先ほど考えていたことをそのまま言葉に出して背中を向ける
雨脚はまだ強いが、もう十分濡れてんだ
走って帰って風呂でもはいっかな、と軽く背伸びをする
■椚 > あ、困ってる。
一応、自分も女子。
そういった話は嫌いではないが……
荒木を見上げれば、追求してはいけないような気がして。
渡されたハンカチを手の中で、所在なげにいじる。
「……決めちゃう、ですか」
困ったような眉は八の字。
最近、初めて喫茶店に入って。
それも、知り合いの先輩がいたからであって。
「ぅー……」と、なんとも困ったような唸り声。
せっかくのアドバイスなので、一応、心に留めて置く。
おんぶと聞けば、そんな恐れ多いことをとばかりにぶんぶんと首を振って。
気遣う言葉に、驚いたように目を瞬く。
「あ、あの、荒木さん……!」
何を急に、といわんばかりに、顔を真っ赤にして両手をわたわたと動かす。
そのまま、背中を向けた荒木の服のすそを――
がしっとはつかめずに、ちょいっとつまむようにつかむ。
が。
つかんだ己にびっくりしたように、なぜか固まった。
■鈴成静佳 > そういうわけじゃないなら、どーいうわけなんスかねー? わかんないなー。
(首を傾げながら。問い詰める様子はない)
(椚さんの性格についての言及を、頷きながら聴きつつ)
……ふーん。翔くん、椚さんのこと詳しいッスねー?(ほくそ笑みながら、ずばりと言う)
もちろん、アタシも椚ちゃんとは仲良くしたいけど。翔くんも仲良くしてあげてね?
友達なんでしょ。ね?
ほら、椚ちゃんも勇気を出して、翔くんに近づいてるッスよ。なんなら、アタシの傘を貸してあげよっか? 一緒に帰る?
(傘を差し出しつつ。さすがに悪ノリがすぎるか)
ほほう、椚ちゃんは手芸をするんスねー。じゃあ手芸部にも入ってたりする?
アタシはさっぱりだけどさ、手芸部はちゃんと活動してるっていうよ。
ライガさんっていう大男がねー。今度行ってみなよ、椚ちゃん!
(ポンポン、と軽く椚さんの背中を叩き、翔さんに寄るように促す)
■翔 > 二人の視線には、瞳を閉じて答えとした
「そうか?逆に言えばそれしか知らねーよ
友達にしたって俺は椚の連絡先すら知らねーしな」
後ろを見ながら鈴成に答えて、感じていた違和感の正体を確かめると犬のようだと思わず苦笑いが浮かぶ
「なんつーか、前もこんなことあったっけか
礼を言うなら固まらずに言えるようになるといいな」
繋がれた鎖を、そっと指で解いて離す
がんばれよ、と
ぽん、と一つ頭に手を置いて撫でた
■椚 > なぜかふたりの中間にいる立場になり、鈴成と荒木の顔を交互に見る。
展開についていけない困惑顔。
手芸部なんてあるのかということは、インプット。
大男と聞けば、若干ひるむ。
だが。
交互に見て、鈴成の指摘に、払われた指に。
はっと、自分の手の位置を思い出し、万歳のポーズで勢いよく離す。
「ご、ごめんなさい」
頭の上の、軽い衝撃。
揺れた前髪から水滴が落ちて。
同時に鈴成に押された背中。
また、繰り返している。
荒木への苦手意識はそこなのだろうか。
■鈴成静佳 > アハハー、確かに連絡先を聞くのはちょっと早いかもねー。でも友達ならそのくらいでもいいんスよ。
(……といいつつも、裾を掴む手を払う仕草にはムッと表情をしかめつつ)
(頭を撫でる手には表情をほころばせつつ)
(これが翔さんの求める距離感なのか、と、納得がいかない心を無理やり落ち着かせる。こういった物事は人それぞれだ)
まったく。翔くんは親切なのかそうじゃないのかわかんないッスねー。アタシには親切じゃないけどさー。アハハー。
しょーがない、翔くんがそこまで一緒に帰らないっていうなら、雨が止むまでそうしてればいいッスよ。
(頭を撫でられてオドオドしている椚さんの背後で、また傘を差し直し、アーチの外へ歩み出る静佳)
どうする、椚ちゃん。一緒に帰ろっか、それとも、翔くんと一緒にいる?
(振り向いて、笑顔で問いかける。どうか椚さんにも緊張を解いて欲しい)
■翔 > 「別に親切にしてるつもりはねーよ
何時も思ってることをそのまま口に出してるだけだっつの」
にやり、と言える笑みを浮かべた後に
まぁ、と軽く前置きをして
「お前の気遣いは、ありがてーけどな
ありがたくねー気遣いもあるが」
絶対に女子寮に入るもんか、絶対だ!
と眼だけで語りかけ
行って来い、と言うように椚に軽く頷いた
■椚 > アーチの外へ出た鈴成と、アーチの中にいる荒木を、また交互に見て。
迷う視線、行き場のない手。
きゅっと、手の中のハンカチを握り締めて。
荒木のうなずきを見れば、泣き笑いようように瞳を細めた。
「洗って、返しますから。
前回の、ハンカチと一緒に……
ありがとう……ございました」
ぺこんと、お辞儀ひとつ。
頭を上げると、くるりと振り向いて。
ぴょんっと鈴成に駆け寄る。
「鈴成さんと一緒に帰ります」
少しだけ心細かったのか、それとも、先ほどの名残なのか。
鈴成のTシャツの端をちょいっとつかんだ。
■鈴成静佳 > 翔くんも翔くんで素直じゃないッスねー、まったく。
(苦笑いを向けながら、軽く舌を出す。食えない男子である)
(そして、傘に入ってきた椚さんへと傘を寄せ、相合傘に)
いやー、翔くんと一緒に帰る作戦失敗しちゃったッスねー。アタシ嫌われてるようでね、すまないッスねー。
(あまりバツが悪そうには聞こえない口調で。Tシャツを掴まれれば、自然とお尻を寄せながら)
とにかく、風邪を引いたらハンカチも返しにいけなくなっちゃうから、帰ろう?
フフッ、近いうちに返しに行けるといいッスね。
翔くんもまたね~!(振り返らずに手だけ上げながら)
■翔 > 「別に気にすんな
好きに使え」
後ろ姿に「じゃあな」とだけ声をかけて背を向けて
雨がやんだら帰ればいいか、と雨雲を見上げて思う
ソラが泣いている、と
あの二人は、どうしたのだろうか
ふと、そんなことが、最後に脳裏をよぎった
ご案内:「商店街」から翔さんが去りました。
■椚 > 「それはないと思いますよ」
きっと。
好きに使えという言葉を背中に受けながら――
「私のことが、きっと……苦手なんだろうと思います」
それは、小さな呟きで。
うつむいて。
顔を上げて。
Tシャツをつかんでいた自分に気づいて、鈴成に微笑んで。
「はい。ありがとうございます、鈴成さん」
そして、こちらは何も言わず。
荒木に手だけ振ってその場を後にした――
ご案内:「商店街」から椚さんが去りました。
ご案内:「商店街」から鈴成静佳さんが去りました。
ご案内:「商店街」に緋群ハバキさんが現れました。
■緋群ハバキ > 学生たちの夕食はいくつかのパターンに別れる。
一つは島内に豊富に存在する飲食店にて外食をするという選択肢。
十分な量と安価を揃えた店が多いのは学生かなりの島人口の割合を占めるこの島ならではであろう。
が、安価と言っても毎日外食というのは学生の財布にはボディブローのように効いてくる。従って、毎度の夕食をこれのみで賄う生徒は少数の裕福な者であろう。
一つは出来合いの弁当や惣菜を購入して食べるという選択肢。
料理が出来上がるまでの時間と手間を短縮した速度重視の機能的な食事形態と見ることも可能なパターンである。やはり島内には弁当を取り扱っている商店は豊富に存在するし、複数存在する購買部でもより学生たちに対して訴求力を持つ弁当について日夜研究に余念がない。
だが、こちらもまたコストパフォーマンスという面で見るならば一長一短であろう。確かに安価な弁当メニューや惣菜の選択肢は数多存在するが、それ故に購入に際しては熾烈な競争が繰り広げられている。速度重視という側面から捉えれば購入に際しての手間は最小限に抑えるのが最良である事に疑いの余地はない。競争を気にせず選ぶのであれば、自然そこに掛かる財布への負担は増大する。
そしてもう一つ。
言うまでもなく、自炊という選択肢が存在する。
農林水産業を営む各部活が充実しているが故に、この島では食材には事欠かない。
毎日新鮮な食材が安価に手に入るという環境は、料理という手間さえ惜しまなければ自炊派にとってはまさにひとつの理想郷と言っても過言ではあるまい。
■緋群ハバキ > そして今、赤マフラーの男子生徒(花柄お買い物バッグを装備)が立つのはそんな食材の宝物庫。
スーパーマーケット『シャンバラ』。
食のデパートを謳うこの店舗に於いて、例え旬を外したとしても揃わぬ食材は殆ど存在しない。
多様な文化、多様な価値観に合わせた品揃えは、世界中から、或いは異世界からも人が集まるこの学園で、自らの糧を作り出す事をよしとする人間にとっての心強い味方であった。
「さてさて。今日の特売は、っとー」
手慣れた様子で店内用カゴをカートに載せ、少年は売り場へと足を踏み入れた。
先ず目に入ったのは色とりどりの収穫物が並ぶ生鮮野菜コーナーである。
■緋群ハバキ > 陳列された種々様々な野菜と、その下に貼られた値札を慎重に見比べながら、ポップボードで飾り付けられた本日の特売コーナーへと真っ直ぐにカートを進める。
迷いなき足取りで向かうのはしかし、彼のみではない。
タイミングを同じくして店内へと足を踏み入れた数人の学生もまた、目指す先は同じ。
通路にカートが並べるのは二台までであり、それ以上の人間が特売品へと殺到すれば混雑は必至。
少年は目だけで周りを伺い、特売コーナーへと接近する人間を確認。
自身よりも早く進むものが二名。自身に丁度追いつくものが二名。
このまま先を争えばカートがかち合い円滑な買い物が妨げられるのは避けられない――
――だが、この店において買い物を行おうという客は、そんな無粋を許さない。
焦らず騒がず、カートを推す速度を緩める。特売品コーナーに入る手前の交差路でカートを脇へ。
そして後ろを振り返れば、カートを手にして同じように速度を緩めた男子生徒が二名。
お先にどうぞ、という思いを込めて会釈をすれば、微笑と共に首が横に振られる。
もう一度感謝の会釈と共に、ハバキはカートを進めた。
「あ、ナスが安い」
ひと袋が缶ジュース一本よりも安い値がついた袋詰のナスを手に取りつつ、思う。
熾烈な弁当競争や冗長なグルメ行列を避けて夕飯を楽しみたいのに、その前の買い物で神経を苛立たせるのは不合理だ、と。
この『シャンバラ』に於いてはそれが共通の認識であり、己の手で料理を拵える者たちのみが共有する、安息の為の解法であった。
即ち譲り合い、決して我先と思わぬ事。
ラブ&ピース。
料理に臨むもの皆が互いへのリスペクトを持つ。まさに理想郷であった。
「おー。トマトも安い。
旬だねぇ」
■緋群ハバキ > 数多の食材を冷蔵する陳列棚からの冷気に少し首を竦め、マフラーを押し上げながら歩みを進める。
続いて向かうはメインディッシュとなる魚と肉……の、前に存在する冷蔵ショーケース。
白くて四角いプラ包装、そして薄いきつね色をしたものの並ぶコーナー――そう、豆腐コーナーである。
絹ごし、木綿、焼き豆腐。大きさも様々なそれらの中に見つけた一つの異彩。
「塩とうふ……?」
粗めの布に包まれ、真空パックされた豆腐。
初めて見るパッケージであった。
一体如何なる料理に使うというのか?
パッケージ裏に幾つか書かれた例となるレシピにうなずきを一つ。
興味をそそられた食材をカゴへ入れ、次なる売り場へと移動する。
ご案内:「商店街」に嶋野陽子さんが現れました。
■嶋野陽子 > 香辛料の棚を見ている陽子。
(月桂樹の葉と、ターメリック、唐辛子数種類と、
コリアンダーシードに、カルダモン・・・後は・・・)
どうやら、カレーのスパイスを探しているらしい。
一通りスパイスを選んだ陽子も、次なる売り場へと
・・・・・
■緋群ハバキ > 続いて訪れたのは鮮魚コーナー。
常世島はその立地ゆえに水産資源が豊富である。
「……イカ、ふむ……イカか……」
本日の目玉商品である新鮮なスルメイカを手に取り、ビニール袋に入れる。
新鮮なシーフードと野菜。
タイムリーに安くてに入った食材の組み合わせで献立を考えるこの時もまた、自炊勢にとっては楽しい時間である。
「シーフードカレーというのは……いや、でもアレだな、ナスとトマトを活かしたいしな……」
他に目玉商品へと目移りをさせつつ、腕を組んで首をひねり……
■嶋野陽子 > 海産物のコーナーに来ると、
新鮮なイカを前に考え込んでいる男の子を発見。
『シーフードカレーというのは・・・・』とか、
『ナスとトマトを生かしたい・・・』などとつぶ
やいている。どうやらカレーの具で悩んでいる
ようだ。
「ナスとトマトとイカならば、マリナーラソース
が出来ますね」と思わず口に出してしまう。
■緋群ハバキ > 「……ぉお?」
右を見て、左を見て。
辺りに人が居ないので、自分を指して。
俺?と疑問符のついた顔で首を傾げ、目の前の女子生徒を見上げた。
高い身長の上の顔は、思った以上に可愛らしい顔で。
「マリナーラソース……な、なんか横文字! 難しそうな名前だ……」
思ったままの感想を述べて、手にしたイカと女生徒の顔を見比べる。
「ええと、はじめまして?」
■嶋野陽子 > 『ええと、はじめまして?』
自分の考えが言葉になってしまい、しかも相手に聞
こえてしまった。
顔をトマトのように赤くした陽子は、
「す、済みません。思わず口に出てしまいました。
はい、はじめましてだと思います。保健課一年生
の、嶋野陽子と言います。
あと、マリナーラソースは、パスタのシーフード
ソースの事です」。
謝罪から始めて、自己紹介をメインに、先程の
言葉の解説をデザートとしたスリーコース
メニューを差し出す陽子。
■緋群ハバキ > 赤くなって謝罪の言葉を述べる女子生徒にいやいや、と恐縮。
思った以上の可憐な所作は、高い身長にもマッチしているように見えて微笑ましいな、という感想を抱いた。
「あ、これはご丁寧に……
緋群ハバキ一年、16歳彼女無し。えーと……一応公安委員会で事務方やってます」
所属先まで明かされたので、同じく自分も名乗る。
実働要員であれば秘匿する必要もあるだろうが、雑用メインの事務としてはこんなものであった。
「おー、パスタかぁ。確かに今日の安売りはパスタ向けかもねぇ」
丁寧にお出しされる三メニュー。丁寧で物腰柔らかな態度は見る人に好感を抱かせるものであった。
勿論少年も例外ではない。保健課という所属にも、内心うなずける。
「嶋野さんは今晩の献立は?
今日はイカとナスとトマトが安いよー」
■嶋野陽子 > 自分の不躾な発言に、
丁寧に名乗りを返してくれた公安委員の緋群君。同じ
一年生でも、男の子で16歳で自炊には感心する。
彼女無しの一言に、
「あら、私みたいなのも対象として見て頂けるのです
か?」と冗談めかして返す。
身長だけでなく、横幅も厚みもある、私の筋肉質な
身体を見ても、そう思える人はほとんどいない。
私の献立を聞かれたら、籠の中のスパイスを見せて、
「今夜はインドカレーな気分なんだけど、具をどうし
ようか考え中なのです。」と答える。
■緋群ハバキ > 陽子の冗談に改めてその身体つきを観察する。極めて、不躾にならない程度に、を気をつけて。
高い身長故に見上げる形になったが故、見落としがちであったが――
その体躯は身長180cmを超すハバキをしても「偉丈夫」と表現するに相応しい。
「女の人を筋肉とかで判断するのもこう、失礼かと思うんですけどもね!!?
真ッ正直な物言いをすると俺はもう少し柔らかそうな女子がストレートでして。
ですが好みから外れた所にも思わぬ出会いがあったりもするので……っ!」
女性に対して正直に言うのはどうなのか、と思われないでもない発言をかまして頭をカクカクと縦に振る。
嘘や隠し事が苦手であろうというのがすぐに分かる、そんな態度。
「インドカレー……って言うとなんか豆を入れるとかそんなイメージかなぁ……
あとは鶏肉とか。肉のコーナーまだ回ってないけど」
精肉売り場へとゆっくりカートを進めつつ、思いつく具材を口にして。
さて肉の安売りはなんだったか、とチラシの内容を脳裏に浮かべた。
■嶋野陽子 > 自分の冗談に対するあまりにも
正直な回答に、思わずクスリと笑った陽子は、
「そのお年で好みと出会いをきちんと分けて考えら
れているのは立派ですわ」と緋群を褒める。
「もっとも、言わぬが花の場合も少なくありません
ですけれど」と、女性の本音をチラリ。
「豆ですと、ひよこ豆やレンズ豆ですが、ここのお店に
あるでしょうか?先程特売と言われていたナスはかな
り多くのインドカレーで使われていますね。お肉に
しようか、ベジタリアンカレーにしようかも悩みどこ
ろですね」と、カレーの蘊蓄を披露する陽子。
■緋群ハバキ > 「いやーお恥ずか……お恥ずかしい」
照れた様子で冗談めかして言おうとした直後、本音と思しき言葉に真顔に。
ともあれ、年上の女子の意見は貴重である。
神妙な態度でゆっくりと歩み。
「缶詰とかはあるんじゃないかな? この島、中で採れないものは海運輸送メインだからねぇ。
っていうかこのスーパーの売りがなんでも揃うだし。
ベジタリアンカレーかぁ。
俺なんかはタンパク質入ってないカレーはカレーじゃねえー!って思っちゃうけど」
やがて歩んだ先には精肉コーナー。
各種様々な肉が並ぶ脇に、世界の宗教的にも配慮されたパックが存在する辺りは流石に人種や種族の坩堝である常世島らしい。
育ち盛りの男子らしい発言をしつつ、特売の鶏もも肉をカゴへと放り込む。
■嶋野陽子 > 精肉コーナーのハラルゾーンで
立ち止まると、珍しく骨付きの子羊肉がある。
これは丸ごと煮込んで、後で切り分けると美味しく
仕上がる。値段を見て少し考え込むが、その肉を
籠に入れる。
「私も、この筋肉を支えるには、タンパク質が無いと
駄目ですね。もっとも、インドのベジタリアンでは
チーズや豆でタンパク質を補給してますけどね」と緋
群のコメントに同意する陽子。
残るは乳製品と飲料のみか?乳製品売り場ではチーズを
何種類か買う陽子。
■緋群ハバキ > 子羊肉とは中々マニアックな、なんて感想を抱く。そしてその値段にも。
日本の食文化に慣れたハバキには、一体如何なる料理になるのか予想もつかないものであるが。
「ガッツリ系とか得意なタイプかー。
ま、俺はインドの人ではないので肉もチーズも食べます。めっちゃ食べます。
今日はそのマリナーラソースのパスタを試してみるつもりですが!」
イタリアンであればチーズも必要であろう、という発想からこちらもまた、普及品の溶けるチーズを手に取る。
ともあれレシピに悩んだ時に他者からの意見というのは存外に有り難いものであった。
「なんかこう言う風に、飯の支度の買い物を人とするってのも楽しいものですなー。
一人で悶々と献立考えるより楽だし。」
■嶋野陽子 > 緋群君がマリナーラソースを試すと
聞いて、「玉ねぎ、ニンニク、あとイカ以外にもう1
品の海鮮があると完璧ですよ」とレシピを教える陽子。
ガッツリ系が得意とのコメントには、
「この間大きな戦闘に巻き込まれてエネルギーを使い
果たした時は、ステーキセットを20人前頂きました」
とガッツリぶりを解説する。
買い物を人と一緒に行うのが楽しいというコメント
には、「この先には一緒に作る楽しみや、一緒に食べる
楽しみも待ってますよ」と伝える。
そろそろレジに並ぶ頃合いだ。いつもならば最短の
列を探すのに躍起になる所だが、今日は二人なので待
つのが苦にならない。
■緋群ハバキ > 有り難いアドバイス。へへぇ、と冗談っぽく拝んで、心のメモに記しておく。
後でしっかりとレシピは調べるとして、その為の切欠を与えてくれたのは陽子であった。
「そりゃまぁ……ガッツリですね。
一杯食べる女の人いいと思います。」
予想を遥かに超える量。だがまぁ、ここは常世学園。
訳アリの人も人以外も沢山居るのだし、突っ込んだ事情も聞きはすまい。
ぐっと親指を立て、列に並ぶ。
玉ねぎやにんにくは買い置きがあったはずなので、海鮮はこの後もう一店はしごして探そう。
「出来れば彼女と一緒に作って食べたりしたいもんですけどね。
まぁ、なかなか。」
頭を掻いて笑う。
ともあれ、たまさか訪れたこの短くも楽しい一時もレジを超えれば終わるのであろう。
「今日はなんか、ありがとうございました。
助かりましたよ実際」
人懐こそうな笑みを浮かべ、陽子の顔を見上げた。
■嶋野陽子 > 『一杯食べる女の人いいと思います。』
の言葉に本心からの気持ちを感じた陽子は、続く
『出来れば彼女と一緒に作って食べたりしたい』
の言葉に、
「私で良ければ、今度時間のある時に、買い出しから
後片付けまでご一緒しても良いですわよ。」
と返す。
■緋群ハバキ > 「えっまじで。
……それはもう、是非!」
カクカクと頭を縦に振って、その申し出を歓迎しつつ。
買い物かごをレジへと押しやり、持参したお買い物バッグ(花柄)を店員へ預ける。
手際よく詰められる食材と値段も目に入らず、あこがれのシチュエーションに浮かれた様子。
「んじゃま、その時はよろしくお願いしまっす!
大抵このアドレスなら連絡つくと思うんで!」
支払いを済ませ、メールアドレスを書いたメモを手渡す。
一つ、楽しみが増えたと思いながら重くなった買い物バッグ(花柄)を腕に、スーパーの出口へと歩いて行く。
それじゃまた! と手を上げて、赤いマフラーをなびかせた少年は店を去るのであった。