2016/06/25 のログ
ご案内:「常世公園」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > ──夜の帳が下りた常世公園。
キィ、キィ、と金属の軋む独特な甲高い音がする。
それは七生がブランコをこぐ音で、常世公園の遊具には今のところ七生一人しか居なかった。
ブランコは前に進んで、そして後ろに退がる。
「………。」
七生は浮かない顔で、黙々とブランコをこいでいた。
気分は梅雨空の様に曇り、晴れる見込みはどうも薄そうである。
キィ、キィ、と軋む音が僅かにするだけで、辺りは静かなものだった。
■東雲七生 > キィ、──前に進む
キィ、──後に退がる。
一つ進んで、一つ退がって。
まるで自分の様だ、と七生は思う。
どれだけあくせく動き回っていたとしても、決してその場から動いてはいない。
何一つ、進んではいないのだ。
「………。」
この学園に来る前、自分ははたしてブランコをこいだことがあったのだろうか。
そんな事すら、今の七生には思い出せない。
相変わらず、記憶はごっそりと抜け落ちたままで、何か特別な事を思い出したわけでもない。
それでも時間は進んで、二年生になって、先輩という立場になって。
誰かの上に立つことになれば、嫌でも何か変われるだろうと、そう、本気で思って居たのだが。
(………結局、なーんも変わんないままじゃん。)
キィ、と音を立ててブランコは退がる。
■東雲七生 > もし、自分がこのブランコと同じであるとしたら。
ちっとも前に進めないまま、いずれ停まってしまって、忘れられていくのだろうか。
そんな事を考えながら、めいっぱいの勢いをつけてブランコをこぐ。
どれだけ前へ、高くへ進もうとしても、その分だけブランコは後へ、後へと退がっていく
それはどれだけ足掻いても無駄な事と言われている様な気がして、七生は途方もない疲労感に襲われた。
「………。」
それでもブランコをこぎ続ける。
無駄だとしても、意味が無かったとしても。
──きっと、昨年度までの七生なら、そうだっただろう。
「………でも、」
本当にそれで良いのか、と自分に問いかける。
■東雲七生 > たとえ今は進めなくても、我武者羅に何かをしていれば、いつかは先へ進める?
(……そんなことない。)
きっと、前に進もうとした分、後ろにも退がって、とんとんだろう。
でなければここでこうしてもだもだと考え事に興じている筈が無い。
今、七生に必要なのはブランコが最大まで進み、最高まで上がった時に跳ぶ勇気。
更に一歩先に進む覚悟、なのだろう。
(それが簡単に出来たら、)
苦労は無い。
怖いのだ。ブランコから飛んで、そのまま何処かへ飛ばされてしまうかもしれない。
着地しようとしても、跳んだ先に地面が無いかもしれない。
どうしてもそう考えてしまって、今、此処にある物にどうしても縋ってしまう。
(………ホント、カッコ悪……。)
──それでも、進みたいと思う自分が。
■東雲七生 > 格好悪い。本当に格好悪い。
先輩風吹かせて余計な事まで口出しするのも、
やらなきゃいけない事から目を背け続けるのも、
そんな事をブランコに乗ってうじうじ考えてるのも、
何もかも、ぜーんぶ格好悪い。
「………飛んでみよっか。」
今、ここから。
ブランコから飛んでみようか。
「先に何があるか、分かんないけど。」
無事に着地するのか、そのまま何処までも飛んでいくのか。
突然地面に穴が開いて、何処までも落ち続けるのか。
ご案内:「常世公園」にレムニスさんが現れました。
■レムニス > (静かな夜。人気の無い公園にフラりと立ち寄ったのは迷える魂の気配を感じた故か)
(それとも見えざる何かが彼女を引き寄せたのか)
(あるいは単に一夜限りの偶然か)
(ともあれ、錆びた鎖が寂しく鳴き声を上げる公園に、一人の少女が足を踏み入れる)
「…意外です、こんな時間に人と会うなんて」
「え、と。こんばんは…って言うべき、なんです?」
(ブランコに腰掛ける少年の気持ちなど知りよう筈もなく)
(ひどく場違いで能天気な言葉を投げかけた)
■東雲七生 > 「いち、にの──」
前へ、後ろへ。
大きくブランコをこいで、宙へと身を投げようとした矢先。
突然声を掛けられて、ハッとなるも既に手は鎖から離れた後。
「うわっ!?た、と………ばっ!!」
悲鳴を上げる間も無く、迫る地面に半ばバランスを崩して転げる様に。
酷く不恰好で、それでも、着地して。
「あー、びっくりした。
まさか誰か来るなんてさぁ。」
軽く胸に手を当てながら、現れた少女へと振り返る。
「うん、えっと。こんばんは、だね。」
■レムニス > 「はい、こんばんは…です」
(少年の様子にくすり、と小さく笑みを零してぺこりと頭を下げる)
「こんな夜中に誰かと会うなんて思いませんでした」
「一人でうろうろしてると、悪いお化けに食べられちゃいますよ?」
(夜中に出歩いているのは自分もなのだが、何故だか彼女は自分のことは気にしていないようで)
(こつ、とヒールを鳴らして少女は一歩を踏み出した)
(見知らぬ少年への警戒心はまるでないようだ)
■東雲七生 > 「お化けに食べられる……かぁ。
それは嫌だなあ、前に一度、お化けに会って怖い思いしてるし。」
苦笑しつつ、少女の角と尻尾を不思議そうに見遣る。
どちらだけなら、そう珍しくもないのだが、両方揃えて備えてる相手は初めて見るような、そうでもないような。
「でも、それはお互い様じゃないかな。」
少女自身が気にしていないようなので、指摘してみつつ。
七生自身も、少女への警戒は表立ってはしていないように見える。
■レムニス > 「ふふん、私はお化けは怖くないんです。だってほら、私もお化けみたいなものですから」
(悪戯っぽく笑ってみせると、す、と少女の気配が希薄になっていく)
(くすくす、という笑い声が夜の澄んだ空気に反響して少年を包んで行き―)
「ね?だから私は大丈夫、です!」
(どうだ、とでも言いたげに)
(拡散していたその存在が再び収束すれば、薄い胸を張って得意げな少女がそこに居た
「と、いうわけで。私は夜も平気なんですよ」
「むしろ夜の方が調子が良いぐらいで。…あ、もしかして貴方も夜の眷属とかそういうのだったり?」
(と、何処か惚けた問いを投げかけた)
■東雲七生 > 「えっ、それってどういう──」
最後まで言い終える前に、少女の身体がどんどん消えていく。
少しだけ驚いたように目を瞠るが、すぐに一つの可能性に思い至った。
つまり、友人と同じ姿を消せる異能なのだ、と。
「お、おう……えっと、まあなんとなーく分かった。」
危ない目に遭っても姿を消せるから大丈夫、という意味に捉えたのだろう。
確かに便利な異能だよな、と勘違いしたまま感心して。
「いや?俺は別に、そういうのじゃないよ。
……夜は普通に眠くなるし、どっちかと言えば朝型かな。」
あはは、と緩やかな笑みを浮かべつつ。
静かに少女の問いに否定する。
■レムニス > 「……あれ?それじゃどうしてこんな時間に」
「ダメですよ、それなら夜はちゃんとおうちで寝なきゃ」
「何だかあなたの魂の色、ちょっと疲れた色をしてますしね」
(じ、と少年の瞳を覗き込んで良く分からないことを口走る)
(うんうん、と自分の発言を確かめるように頷いて)
「夜に出歩いて元気になる、っていうんじゃないんなら…早く寝ないと、余計に疲れちゃいますよ?」
■東雲七生 > 「ううん、それはそうなんだけどさ。」
苦笑を浮かべて、飛んだばかりのブランコに戻って。
ゆっくりと腰を下ろせば、結局戻って来ちゃったな、と独りごちる。
「今日は何だか、帰りたくなくてさ。
一向に眠くなる気もしないし、どうせなら眠くなるまで外に居ようかなって。」
一人で、と言いかけて口をつぐむ。
少なくとも今は一人では無いので、そんな事を言えば気を使わせてしまうかもしれないと思ったから。
「……それより、魂の色って?」
分かるの?と首を傾げて見せる。
■レムニス > 「ふぅむ、噂に聞く「思春期の悩み」という奴でしょうか…青春、青春って感じがします。すごく」
(少年の言葉にうんうんと頷く少女)
(何故だか彼の言動が彼女のツボを押したらしく)
「フフフ、よくぞ聞いてくれました。私、悪魔ですからね」
「人の魂の輝きや色何かには敏感なんですよ」
(少年の問いに答える表情はどこか得意げ)
(長い尻尾をくるり、と動かして悪魔アピールである)
「あなたの今の魂の色は…そうですね、何処か淀んで見えているんですよ」
「ホントはもっともっと透き通って、キレイだとは思うんですけど…何か、重たい何かを背負って疲れてる。そんな感じがします」
(再び少年の瞳を覗き込む)
(彼女の瞳には恐らく少年の「魂」が見えているのだろう)
■東雲七生 > 「そうなの、かな。
思春期の悩みって、もっとこう……何だろ。」
普段はあんまり悩みという物に頓着しない性根だからか、例えを挙げようとしても何も出てこなかった。
それよりも、今は。
「ふうん……悪魔、ねえ。」
悪魔、前にも一度、そう名乗る少女に会った気がする。
アピールする様に動く尻尾を見れば、なるほど悪魔という感じがしないでもない。
悪魔なら、魂の色も見れるのか、と呑気に感心しつつ。
「……重たい何か、って……何だろう。」
具体的なような、抽象的なような。
そんな例えをされて首を傾げる。それもそうだろう、
七生自身、自分の抱える悩みがどういうものか、全貌を掴みきれていないのだから。
戸惑う様な、不思議そうな顔で、じっと少女の顔を見つめ返す。
■レムニス > 「詳しくは私にも分かりません。それでも…貴方の魂が。心の中の何かが、上手く動けなくて苦しんでいるように感じるんです」
「動きたいけど、動けない…何かもどかしいような、そんな色なんです」
(少女の言葉はひどく抽象的で、相手からすれば余計に混乱してしまうものなのだろう)
(それでも彼女は懸命に自分の見たものを伝えようと、こちらを見つめる彼の瞳を更に凝視する)
(むむむ、と暫くそのまま唸っていたが―)
「うぅーん…なんて言ったら良いんでしょう。でも、あなたの魂の色が淀んでしまっているのは事実なんです」
「何か私に力になれることがあればいいんですけど…」
■東雲七生 > 「ううん、そっか。分かんないか……」
ならしょうがないや、と困った様に笑いながら頭を掻く。
自分でもよく分からない物が、他人に分かる筈もない、と考えてみれば分かる事だ。
「ううん、教えてくれただけでも有り難いよ?
へへ、ありがとうね。動きたいけど、動けない……まあ、確かにそんな気はしてるんだけど。」
キィ、とブランコの鎖を軋ませながら空を見上げる。
魂が淀んでいるなんて、相当なのかな、と笑いつつ。
■レムニス > 「あなたの本当の魂の色は凄くすごく、きれいなんだと思います。
今はちょっと疲れて…足踏みをしてる状態なのかもしれませんね」
(言って、一歩後ろへと下がり)
「しっかり休んで…しっかり考えて。貴方にのしかかる「何か」の正体が掴めたら、きっとあなたの魂は本来の色を取り戻す筈ですよ」
「だって…貴方の魂は前に進みたがっているんですから」
「大丈夫、きっと上手くいくはずですから!」
(ぐ、と拳を握り励ましの言葉をかけるも、やっぱりその言葉はひどく抽象的で)
(この言葉がどれ程少年の心に響くのかは分からないけれど)
(願わくば、彼が一歩を踏み出す切っ掛けとならんことを)
「それじゃ、私はこの辺で」
「あんまり夜更かししちゃダメですよ?」
(そう言い残し、彼女は再び夜の闇へとその存在を溶かしていった)
(公園の夜に再び静寂が戻り―)
(少年が腰掛けたブランコの鎖の音だけが辺りに響いていた)
ご案内:「常世公園」からレムニスさんが去りました。
■東雲七生 > 「そう、なのかな。
自分の魂の色なんて、自分には分かんないし、自信無いけど。」
ふふ、と力なく微笑んで。
懸命にこちらを励ます少女に、どうしてそこまで、と疑問を持つ。
初対面なのに変なの、と。それでも何故か不快には感じなかった。
「ああ、ありがと。
そう言えば、名前──」
はた、と互いに名乗り合ってない事を思い出して。
せめて相手の名前だけでも聞いておこうと思ったのだけど。
その時にはすでに、悪魔は消えてしまった後で。
「……魂は、前に進みたがってる、か。」
ぽつりと、一人呟いて。
突然ブランコの上に立ち上がると、今度は立ち乗りで漕ぎ始めた。
今度はもっと、高く遠くへ飛ぶために。
ご案内:「常世公園」から東雲七生さんが去りました。