2015/08/12 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に流布堂 乱子さんが現れました。
■流布堂 乱子 > ……意味ありげに店内を見ては、不意に窓の外へ視線を逃す。
この繰り返しで、流布堂乱子は満員の店内において八時間もの間テーブル席を確保し続けていた――
■流布堂 乱子 > 昨夜、常世島学園地区のとある病院前でちょっとした"騒動"に巻き込まれた乱子は、
たまたま出くわした生活委員会保健課の学生である嶋野陽子によって治療のため保健課大聖堂へと送られた
(人に話していい内容としてはこんな形になる)
翌朝目覚めると、偽造学生証では保険が適用されないために即座に脱走を開始し、
二時間にも及ぶ逃走劇の末に職員を全て撒いてこのカフェテラスに立てこもった。
何故、二時間もの逃走が必要になったのか。
それは朝食として準備されていたコーンスープをこぼしてから、
未だに治ることのない指先の火傷だけでも大方説明できる。
赤龍との生命共有による恩恵、筋力、持久力、温度変化耐性、その他諸々。
翼に尻尾に鱗有る手足。
それらが、失われていたからだ。
また意味ありげに店内を見回す。
なんか捜査してるっぽい雰囲気でもないと叩き出されるためである。
風紀委員会への風評被害を全力で作り上げながら、乱子は時間を持て余していた。
■流布堂 乱子 > 女子寮に帰れればこの空腹をなんとか出来そうな手立ても有ったのだけれども。
まず義足を無くして尻尾も翼も使えない時点で、日中の長距離移動は自殺行為で。
日差しにさらされれば汗もかくし、それで足りなければ熱中症で倒れて元の木阿弥。
では公共の移動手段を使えばいいのだけれど、これもまた単純な理由から不可能で。
今現在、財布の中身が心もとないとかではなく、無い。財布がない。
マネークリップに一枚も紙幣が挟まっていない状態は財布とは呼べない。
昨晩使ったのは概ね全て、素材持ち込みの上で制作してもらった品で。
……そしてこれが最後の理由でも有るのだけれども。
昨日、制作費のために借金を行っている。
即金で。
当然ながらそんな無茶を聞くのは、彼女のギルドのツテ以外に無く、
寮まで帰り着けば即座に"金払いのいい仕事"を受注させて頂けることは想像に難くない。
「……なんだか、二級学生らしくなってきた、とか言うんでしょうか。こういうの。」
目の回るような忙しさのために無差別に店員が持ってきてくれたお冷をありがたく飲む。
……冷水が美味しい、と思うのは何時ぶりだったろうか。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 「何この雰囲気……」
補習帰りに立ち寄ったカフェテラス。
今日の補習は頭の使い具合も相当だったので糖分補給の為に立ち寄ったのだが、入店早々どうにも妙な雰囲気を感じた。
店員の接客態度はいつも通り。そこに違和感は無い。
しかし店内全体が妙にざわついているような。そう、あくまで“そんな気がする”程度の違和。
「……んー?」
怪訝そうにしながらも案内された席へと歩を進める。
その途中、紅い制服が目に留まった。
■流布堂 乱子 > 行く宛がない。
身の置き場所がない。
やらなくちゃいけないことは明確にわかっているのに、自分にできないこともわかっている。
「…夏休みとか。どうするんでしょうね。」
自分のことも上の空にして。どこか遠くを眺める目線で店員の目をかいくぐり。
この間、保健室で目を刺された女子学生のことを思い出していた。
彼女はもう、学費のためにまっとうな仕事を探しているはずだ。
例えばここのバイトみたいな。
「……私もその辺りで働いておけばこうはならなかった可能性が……?」
お冷から垂れた水滴で、机の上に何かを描こうとしながら。
有り得もしない、『龍が居ない自分の学生生活』を笑い飛ばした。
珍しく笑いながら。知った顔に気づいた。
半秒とかけずに目をそらして、全く知らないふりをした。
張り込み中の風紀委員。決して顔見知りと出会ったところで話しかけはさせまいという、
硬質な雰囲気がそこに特に無かった。
■東雲七生 > 「んんー……?」
目を逸らされれば怪訝そうに風紀委員風貌の女生徒を見つめる。
と、おもむろに訝しむ店員に振り返ると、
「あ、ここで大丈夫なんで」
と笑顔で断りを入れて、全くの無断で乱子の向かいに腰を下ろした。
その様子に店員も勝手に何か察してくれたのか、特に言及する事も無くその場を去っていく。
足音が遠く離れたところで、薄っぺらい笑顔から一転、ジト目で少女を見据えた。
「……。」
そして、何も言わない。
■流布堂 乱子 > 逸らしていた目線を…
観念して、引き戻した。
かのように思えて、その視線は真正面を通り過ぎると、去りゆく店員さんへ
「すいません、お冷追加でふた…いえ、ピッチャーをそのままお願いします」
と告げるためにだけ移動した。
……何も言われなければ。
こちらも何も言うべきことはない。
「商店街で、それはもう大きな狼に乗った赤毛の少年が居たらしいですね」
コップの水滴を、火傷の残った指先で弄びながら、特に言うべきでもない噂話だけは有った。
■東雲七生 > 「………。」
無言。
少女の視線の動きを目で追う事もせず、真っ直ぐに温度の無い眼差しを向けている。
別に説明を強要する立場に無いのは重々承知なので、変に詰問しようとする心を懸命に抑え込んでいるのだ。
「それは……それは。
狼なんて街中で見られるもんなんだなー、そっかそっかー」
(──我ながら嘘が下手にも程があるな)
席に着いた時に置かれたお冷のグラスを手に取り、一口。
その間も責める様な、咎める様な眼差しは真っ直ぐ少女へ向けられている。
■流布堂 乱子 > 髪をかきあげた時に見える左耳には、未だ機能している風紀無線の傍受用インカム。
「一応、通報はあったようですけれども。
交通課で対応した風紀委員が話のわかる方で良かったですね。
この場合は狼の方だけでなく、少年の方にも罰則が適用されるはずですから。
……次はなるべく歩道を行くようにお願いしたほうが良いのでしょうね、立場上」
水滴を使って描いたのは、翼のない竜。
水と雲と雨を司るそれは、彼女の友達ともあまり似つかないように思う。
「……交通教習、しましょうか?」
少女はほんの少しだけ微笑みながら、ようやく目の前の少年に視線を合わせた。
■東雲七生 > 「──何で、」
コト、とグラスを置いて口を開く。
文字通り半眼、普段の半分しか開かれていない眼差しを向けたまま、
重なった視線を離さない様に。
真っ直ぐに少女へと目を向けたまま、逸らさない。
「何でお前風紀委員の制服着てるんだよ。
交通教習の前に、そっから教えて貰おうか。」
そんな義理無いだろうけど。
テーブルに隠れた足の事は、まだ気付いて居ない。
■流布堂 乱子 > 「…珍しい顔、してますね。」
いつかの神社でも、そんなことを言ったように思い出しながら。
少女にとっては間違いなくいつもどおりの半眼で視線を絡ませながら。
脈絡のない発言の後、
質問に応えるつもりがあるのか疑わしくなる程度には、感情のない眼差しで見つめてから。
「必要があるから、でしょうね」
とだけ答えた。
口元には相変わらずの、かすかな微笑み。
『それだけじゃ足りない』と言われるのを待っているかのように。
■東雲七生 > 「自分を攫おうとした相手がそれ以降会うたびに怪我してたらこんな顔にもなるぞ。」
そんな経験をしてる人間が果たして何人も居るのか疑わしかったけれど。
ぐい、と眉根が寄せられていよいよ不機嫌そうな顔になる。
言うほど珍しくも無いような気がしたが、別に他愛無い話を続けるつもりは毛頭無かった。
「そういうことじゃなくて。」
心境を隠すことに不慣れな七生の顔は一言発するごとに顰められていく。
それだけじゃない、そうじゃない、そういうことじゃない。
口で語るよりも雄弁な表情と、視線を真っ直ぐ目の前の少女に向ける。
■流布堂 乱子 > 「……そうですね、七生さんにはそちらの方が言い方のほうが『らしい』と思います」
彼女の東雲七生という少年への評価は明確で、疑いを含まないようだった。
だから、彼が何を聞きたいのかは、わかっている。
自分の答えも、知っている。
ただ、行き場のなさだけがこの場にあって、それはお冷のピッチャーの形をしていた。
視線を切って、お冷の水を空になったグラスへと注いだ。
「お冷やは―」
こんなに美味しかったんですね、なんて。
続けるつもりで居たけれど、焦げ茶色の瞳がもう一度視線を合わせると、
出てきたのは別の言葉だった。
「心配してくれてるんですか、心優しい少年は。」