2015/08/13 のログ
■東雲七生 > 「……何が『らしい』だよ。」
全くいけしゃあしゃあと、と不機嫌なまま呟く。
周囲の目を気にして直情的な物言いをしない自分にも若干の嫌気が差し始めて、一つ、息を吐いた。
グラスへ水が注がれる音を聞きながら、とりあえず回りくどい事は止そう、と心決める。
──何で風紀委員のフリなんかしてんだよ。
そう、言おうとして──
「へ……ぁ?」
突然の問いに面食らって間の抜けた声を上げ、そして、
「そりゃ心配にもなるに決まってんだろ、毎度毎度──!」
問い質そうとした声量のまま、全く別の言葉が思ったままに口から出てきた。
慌てて声量を落して、周囲の注目を浴びない様に気を配って、
「──毎度毎度、お前怪我ばっかだもん。」
■流布堂 乱子 > くすくす、と少女は笑った。
ありきたりに、どこにでも居るような少女は。
年下の少年に心配されていることが、おかしくてたまらないと、
そんな様子で、しばらく笑っていた。
「私も、貴方のことがそれなりに心配ですけれど…
そんなに想ってくれているとは思いませんでした」
そんなに大きな声で、と。小さく囁くように言いながら。
少年と少女の間にある何かを埋めるために、もう少しだけ言葉を発した。
「……でも、体の何かが無いままのほうが。
私にとっては、良いことなんですよ。」
今は体の何処かの代わりに、とりわけ便利な幾つもの能力を失ったけれども、それでも。
「これが、私をつなぎとめるんです。この体の中に、辛うじて。」
スカートの下の、左足の不在と存在の境界線をなぞりながら。
■東雲七生 > 「何笑ってんだよ……。」
七生としては至極当たり前の、何一つ面白くない事を言ったつもりだったのに。
それでも少女は笑っている。不本意だ。不本意すぎる。
だが、その笑顔を見ていると、まあ悪くは無いか、と思えた。
……少女が口を開くまでは。
「……ばっ!そういうつもりで心配してんじゃねえし!
変なこと言い出すんじゃねえよ、誰か聞いてたらどうすんだよ!」
ほんの数分前に声を荒げかけたとは思えない台詞を口にしつつ。
真っ赤になった顔を冷やすために冷水を呷る。
妙にしおらしく見えたと思えば、結局いつも通りじゃねえか。心の内でそんな悪態を吐きながら。
「……何かが、無い方が?
体の中に、つなぎとめる……?」
少年には少女が何を言っているのか解らない。解らないが。
それでも、解らないなりに、解ろうとする思考は働く。
しかし、答えをはじき出すにはまだ、“何か”が足りない。
それがもどかしくて、眉を顰めた。
■流布堂 乱子 > 「いえいえ、笑ったのは…嬉しくてですよ。心配してもらえる我が身のありがたさに、です。」
咎められても笑い。
慌てふためくさまを見ても、笑う。
「誰かって、それはもちろん店内のお客様と店員が……
ああ特定の誰かのことですよね?以前一緒に朝食を頂いた方ですとか」
別に、何が起こったとか。そういうことを知っているわけではないが。
一緒にファミレスで朝食をとっている間になんとなくは、分かってしまっていた。
二人でコーラを取りにドリンクバーへ行った時の話などは、
絶対に七生には聞かせられないと少女は思う。
全くもって悪くない思い出に、頬を緩ませて。
"予想通りに"端末へ飛び込んだルームメイトからの報せも、その微笑みを打ち消すことは出来なかった。
「……そうでしょうね。頼み事の断れない子ですから。
すみません七生さん、寮に来客のようですから、そろそろお暇を頂こうかと思います。
ここは私が持っておきますから、ご心配なさらず。」
「そう。…私がこうして七生さんと話していられるのも、そのお陰ですね」
眉を顰めた少年に、答えを告げることもなく。
それがわかる日が来なければいいとも思いながら。
少女は机に手を着いて片足だけで立ち上がると、
病院から(無断で)借りてきていた折りたたみ杖を伸ばした。
……外はもう日も沈んでいる。日付が変わる前には帰りつけるだろう。
■東雲七生 > 「んにゃっ!?
……と、トトは今関係ないだろトトは!!」
聞かれて困る様な事でもない、筈である。自信は無い。
そういえば保留にしたままだいぶ経つな、等とぼんやり考えていたら少女に席を立つ旨を伝えられて。
そこで初めて、隻脚であったことを知る。
羞恥で赤かった顔が、一度色を失い、そして再び赤へ。
それこそ掴みかからん勢いで腕を伸ばしたが、
「………ッ!
帰るんなら……誰か付けとけよ……!」
震える腕で、乱子の腕を掴むとそのまま自分の肩に腕を回して支えようとする。
本当は外聞も体面も気にせず怒鳴り付けたい。
だが、きっと何か理由があって彼女は足を失い、そして理由があって“此処”に居たのだと思う。
だとしたら、目立つのは得策では無いだろう。
それこそ他の客に「風紀委員が生徒とモメている」などと連絡されれば面倒なはずだ。
「……ほら、とっとと会計済ませるぞ。」
やはりまだ声は震える。やり場のない怒りが自身の内で渦巻くのを感じる。
その分だけ、強く体を寄せて、彼女を支えようとするだろう。
■流布堂 乱子 > そっと。掴まれた腕に、自らの手を添えた。
その、親切な少年の手が離れるように。
「七生さん。」
「そろそろまた聞こうと思っていた頃だったのですけれど…」
こつり、と後ろ手に杖を突いて一歩退いた。
手を伸ばしても届かないように。
……あるいは、異能ならばそれも可能かもしれないけれども。
「七生さん。
私は、貴方にとって何者ですか?」
いつかにもした質問。初めて出会った日も、次に塔で出会った日も。
彼女の少年への印象は、この問いから全てが始まっている。
……たぶん、答えは知っている。
だから、何を聞こうとも。
お辞儀を返してから、一人で帰り道を歩き出すだろう。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から流布堂 乱子さんが去りました。
■東雲七生 > 「……。」
静かに拒絶をされれば、大人しく引き下がる。
距離を詰めようともせず、手を伸ばそうともせず。
それでも確りと少女の目を見たまま。
「それは──」
『私は、貴方にとって何者ですか?』
その問いに返す答えは。
変わらない──変わらない? 本当に?
最初は拉致未遂犯、そしてその後は───
小さく息を吐いて踵を返し、元居た席へと戻る。
向かいに誰も居なくなった席に残されたピッチャーに手を伸ばし。空になったグラスに注いで。
「──イチゴパフェを大サイズ。」
当初の目的である、糖分の補充を始めることにした。
■東雲七生 > 「……。」
自分にとって、ルフスは。
彼女だけじゃない、あらゆる知己は。
(──何者、なんだろう。)
思えば、一度顔を合せてからは当たり前の様に話をしていた所為で意識をしていなかった気がする。
いい機会なので、のんびり考えることにしよう。
パフェを待つ間、外の風景でも眺めながら。
だけど。
パフェを食べ終えて席を立って店を後にしても。
もやもやとした感情が胃の奥の方で渦巻いたままだった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から東雲七生さんが去りました。