2017/07/26 のログ
イチゴウ > 「ありがとう。」

お礼を告げるとロボットは微量のモーター音と共に
小さなジャンプをすると席へちょこんと
乗っかる形になる。

「それにしてもこの島は良い。
ボクみたいに人間じゃなくとも席につけるように
工夫されている。流石は財団、マニフェストは
実行しているといった所か。」

前両足をテーブルにつかせ身体を支えて
体制を整えるとメニューを見ながら

「む?ボクのシャーシに異常でもあるのか?」

少年の何とも言えぬ視線を感じ取ると
自身も目に当たるカメラレンズで
視線のカウンターを送る。

神代 理央 > 「褒めるべきは島の統治者ではなく、この店の店主じゃないかと思うがね。ありとあらゆる客層に答えようという創意工夫は、評価すべきじゃないか?」

器用な事をするものだ、とメニューを眺める相手を見ながら思う。
そんな視線に気が付いたのか、投げかけられた言葉には小さな苦笑と共に首を振る。

「少なくとも、お前の性能やパーツに不備があるとは思っていないさ。強いて言えば、4脚機械が喫茶店でメニューを眺めている、という光景の方が現実に対して不備があると思うがな」

相手の顔(と表現して良いのだろうか)を眺めながら肩を竦める。
しかし、浮かべていた苦笑を僅かに引き締めると、コツコツと指でテーブルを叩き―

「…此方の問いかけに対する返答やレスポンスを見る限り、非常に高性能なAIを搭載したロボットだろうとは思うが…しがない下級生の私に何か用事かな?島に来たばかりで、特に悪事を働いた記憶も無いんだが」

机を叩く指でリズムを取りながら、淡々とした口調で首を傾げる。

イチゴウ > 「キミの言う事はもっともだ。
だがこの島自体が無ければ店は存在していない
というのもまた事実だと思うぞ。」

そうしながらも
メニューの項目を逐一目で追い確認しつつ
機械音声で言葉を続け

「古風な考え方だ。そういう見方は
大変容で覆ったと思っていたんだが、
相変わらず周りからは奇特な目で見られる。
何故だろうな?」

そう言って頭を傾げながらも
メニューを見て注文する品を決めたようで
どうやら紅茶を注文するようである。

「いや、見ない顔だったんでね。
それに紅い瞳というのも珍しい。」

任務を請け負っていない時に
何かに興味を持つとフラッとそちらに
行ってしまうのがこのロボットである。

神代 理央 > 「ふむ、一理あるな。島そのものの全てを許容する風潮がこの店を生み出したと言うべきか」

男性をイメージしたと思われる合成音声は、さながら思慮深い学者の様な印象を与える。
尤も、相手が持つ知識量等を加味すれば、印象というよりは事実を指すかもしれないが。

「世界が変わりました、と言ってもそれが自分の生活圏内を侵さなければ何も変わっていない事と同義だろう?それに、幻想種は見慣れていても、科学の叡智に触れる機会に慣れている者は中々いないだろうさ」

結局のところ、人は己の目で見て、己の領域に変化を与えるものがなければ世界が不変である事に変わりはないのではないか。と、小さく笑みを零しながら首を傾げる相手に言葉を返す。

「入学したてだからな。見ない顔というのは当然だろう。瞳の色は良く言われるよ。別に色付きのコンタクトを入れている訳でも無いし、そんなに珍しいものでもないと思うんだけどな」

日本人らしからぬ容姿だ、と誂われる事は多々あった。相手は純粋に珍しさから言葉を発した事は理解しているが、僅かに瞳を細めてつまらなさそうに再び肩を竦めた。

「…自己紹介、というのも何だが。私は神代理央。先程言った通り、入学したての1年生だ。宜しくな」

そんな気分を振り払うかの様に、相手のカメラレンズに視線を合わせれば己の名を名乗るだろう。
傍から見れば、喫茶店で機械相手に自己紹介する金髪の少年というシュールさを通り越して戯画的な光景になっている事を自覚しつつ。

イチゴウ > 「なるほど。世界は変わっても
人間は簡単には変わらないという事か。」

まるで声を鳴らすようにそんな事を呟く。
人間のいくつかの機構が彼には
イマイチしっくりこないようである。

「碧眼は何人か見たが紅い瞳はほぼ見ないな。
それにキミを人間と仮定した場合だが
生物学上その瞳の色は極めて珍しい。」

ロボットは珍しさから興味を持ち
話をしている。少年が僅かに取った行動の意味を
恐らくこの機械は理解できないだろう。

「神代理央か、ボクはHMT-15。イチゴウって呼んでくれ。
それとこの島ではHMTはあまりメジャーでは無いらしいな。」

届いた紅茶を前右足のマニピュレーターで
カップを掴み飲みながら自身もまた
自己紹介をする。

神代 理央 > 「或いは、どんなに変化していてもそれを日常と受け入れてしまうか、じゃないかな。尤も、人の感性や変容を語る程老成している訳でもないから、全て只の推論に過ぎないが」

自分の考えだって、誰かが記した本、誰かが語っていた意見を適当に練り混ぜているだけだ。
そんな不確定さが人間らしいのではないかと、しっくりこない様子の相手を見ながら内心で思っていたり。

「…流石に種族から疑われるとは思っていなかったな。確かに、異能とやらを有してはいるがれっきとした人間だ。力も弱いし、知識量も大した事はない。二本の足で歩いて、二本の腕を振り回すのがやっとだよ」

人間であることを真面目な口調で仮定されれば、思わず含み笑いを漏らしてしまう。
相手の発言を若干気にしていたのが馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、穏やかな口調で軽口を返すだろう。

「イチゴウ、か。呼びやすくて良い名前だな。
HMT…だったのか。いや、済まない。此方からは武装も良く見えないし、学園のマスコットロボか何かと思っていた。というよりも、この学園は随分と物騒な代物を抱えているんだな。HMTは確かあの企業が独占製造している兵器だったと記憶しているが」

入学前、父と渡り歩いた「商売相手」達から噂で聞いたことはある。しかし、基本的にPMCを利用する様な顧客は正規軍すら装備が整っていないものが殆ど。それ故に、実物を見るのは初めてであり、興味津々といった様子で相手を見つめる。
その間に、自然と紅茶を飲み始めた相手の行動に何か言いたげな表情を浮かべながらもそれを押さえ込むように小さく息を吐き出した。

イチゴウ > 「すまない。いくら測定システムが
備わっているからといって外観から
種族情報を全て得るという訳にはいかなくてな。
実際にDNAを見なければ完全な種族判断は出来ない。」

申し訳ないような口調で言葉を返す。
魔術や異能に限界ががあるのかは定かではないが
少なくとも科学の力には限界がある。
そして名前の事を言われれば

「そうか、それは光栄だ。それにしてもキミはあの企業を
知っているのか。かなり規模の大きい企業とはいえ
一般人には馴染みが無いはずだが。」

いかにも不思議がった様子で合成音声を
並べていくと同時に注文した紅茶を
早々と飲み干してしまう。

「しかし整備士がティータイムは癒しだと
いうから体験してみた訳だが・・・。
確かにMFCの維持に必要な水分は補給できるが
渇きを癒すだけなら普通の水でいい。
そういえばこの紅茶という液体は
糖分が含まれているな。甘い。」

1人考え込んでいるように独り言を呟く。

神代 理央 > 「気にしていないさ。別に悪気があるわけじゃ無いんだろう?それに、人間らしからぬ見栄えをしているとロボットに太鼓判を押されたとは、多少なりとも話題の種になりそうじゃないか」

申し訳なさそうな口調の相手に、緩く手を振る事で気にしていない、と示す。
流石にDNAを見なければ分からないと言われれば、僅かに頬が引きつってしまうが。

「親の仕事柄、多少そういう方面には馴染みがあってな。尤も、そんなに詳しい訳でもないがね」

別に隠し立てる様な事でも無いが、己の――というよりも父親の――職業についてはやや慎重な態度を取る。
一般人相手ならまだしも、HMTである相手に自身の出自を明かすことは余り好ましいものではない。
尤も、別に隠している訳でもなく、入学時のデータにはきちんと登録されているので、隠し立てする意味は余りないのだが。

「味は人それぞれ好みが分かれるが、その整備士は甘党だったのだろう。かくいう俺も、糖分が多い飲食物を好むからな。甘味は人類が生み出した偉大な嗜好品だよ」

答えを返す、という程でも無いが、つい相手の独り言には律儀に言葉を発してしまう。
そんな穏やかな時間も、少年のスマートフォンが震える振動音で終焉を迎える事となる。

「…済まないが、そろそろお暇しなくてはならない。話が出来て楽しかったよ。もし良ければ、また会おう。イチゴウ」

一瞬スマホに視線を落とし、疲れた様な溜息を一つ。
そのままスマホをしまい込めば、自分と相手の分の伝票を手に取り立ち上がる。高度なAIを有したHMTとの対話という得難い経験に満足げな表情を浮かべつつ、相手に小さく一礼して此の場を立ち去るのだろう。
退店時の支払いで、ロボットの分までお会計した金髪の少年という長々しく妙ちくりんな呼ばれ方を店員からされることになるのだが―それは本人の預かりしらぬところであった。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から神代 理央さんが去りました。
イチゴウ > 「親の仕事柄か・・・」

まるで濁したかのような理央の言葉に
対して少し思案を巡らせる。
あの企業に関わるとなると軍関係者か
それこそ民間軍事企業となるが。
もし後者ならば自身がHMT-15である事を
明かしたのは少しまずかったかもしれない。

「味か。
成分分析で味を理解する事は出来るが・・・。」

現段階においてイチゴウにとっては
腹に入って動力源になればいいようで
大した好みというのは持ち得ていない。

「ああ。もう帰るのか、こちらこそまた会おう。
理央。」

相手の名前をしっかりと合成音声にのせてから
立ち去る少年を見送る。そして自分の分の
伝票まで消えている事を確認すると

「・・・前にもあったな。」

ファミレスでも同じような事を経験していた。
あの時と同じように申し訳なさそうな声を出すと
イチゴウもまた金属音をたてながら
カフェテラスを後にする。

ご案内:「カフェテラス「橘」」からイチゴウさんが去りました。