2015/09/07 のログ
■リヒット > リヒットは言われました。『きれいにすれば、みんながよろこぶ』と。
これはリヒット自身のミームにも刻まれた概念ですが、改めて貴子さんから言われ、世界を違えても変わらない概念であることを再認識したのです。
……リヒットは、この大浴場を綺麗にしたくなってきました。
先ほど網戸を撫でた部分に、石鹸水が付着し、キラキラと油膜のようにスペクトルの波を湛えています。
それをリヒットが、フッ、と力強く吹くと、大浴場の中に無数の極小シャボン玉が散り、そこかしこに舞っていきました。
「よし……おじゃまします」
リヒットは窓から少しだけ身を離すと、誰に言うでもなく恭しく一礼をし、そして、自らのこめかみに軽くデコピンを打ち付けました。
……すると、リヒットはまるで人型のシャボン玉であったかのように、わずかな石鹸水の雫だけを残して消えてしまいました。
着ていた雨合羽すら、跡形もありません。
■リヒット > ……大浴場の洗い場の陰から、ふわりと音もなくリヒットが現れます。いつのまに侵入したのでしょうか。
湿った匂いの満ちた浴場の中をくるくると回りながら上昇し、あっという間に天井付近まで上り詰めてしまうリヒット。
換気窓から差し込む外光は徐々に力を失ってきており、夜が近づいていることを示唆しています。
もうすぐ、人間たちはお風呂の時間でしょうか。急がなくては。
「……ぷわぷわ~」
天井に頭が付きそうなほどに近づいたところで、両手を広げ、竹とんぼのように回転を始めるリヒット。
すると、レインコートの両の袖から無数のシャボン玉が放たれ、放射状に部屋の四方へと広がっていくではありませんか。
そして、天井や壁のタイルにシャボン玉が触れて割れると、その箇所だけ円形にくっきりと跡がついています。
水垢やカビが、根こそぎ除去されているのです。
リヒットは楽しげに脚をパタつかせながら、そのまま数分、大浴場の中を踊りまわっていました。
■リヒット > ……あっという間に、浴室の壁は新品同様の艶やかさを取り戻してしまいました。
タイルの目張りも真っ白、角にもカビや水垢の欠片さえ見当たりません。文字通り、部屋全体を『洗濯』したようなものです。
充満させんばかりの勢いでシャボン玉を四方八方へ放ったため、入るときに感じてたカビ臭さももはやありません。
……かわりに、むせ返るほどに濃密な石鹸臭が満ちてますが。
「おそうじ、かんりょー……」
くるくると回転の余韻を殺しながら、リヒットは静かにタイル貼りの床へと着地し……。
「うわああっ」
……着地しそこね、脚を滑らせて盛大に転んでしまいました。
シャボン玉をあちこちに放ちまくった結果、石鹸水が床に残ってしまっているようです。
「……すごい、つるつる床……」
これはリヒットにも予想外な事態でした。こんなに固くて水を吸わない床は、故郷にはなかったからです。
たいていの家のお風呂は土間でした。
■リヒット > 「ぷい……」
無理に起き上がろうとすれば再び滑ってしまうでしょう。代わりに、転んだ姿勢のままでふわりと空中に浮かび上がり、打開策を探します。
このまま放置すれば、他の利用者も残らず転んでしまうことでしょう。そんなことになったら、怒られてしまいます。
「………かがみ?」
洗い場の方を見ると、自らの合羽姿を鮮明に映し出す鏡があります。……いや、こんな綺麗な鏡ははじめて見ます。ガラス製の鏡は高級品です。
「……おちんちん?」
その下には金属製の管が、壁からニョッキリと生えています。
常世公園の噴水池にも似たようなのがありました。水の噴出口は、この管と似たような形状でした。きっと、何らかの方法で水が出てくるのでしょう。
……操作するのは怖いですが。金属はあまり好きではありません。
さらにその下に目をやれば、洗面器が無造作に置いてあります。とりあえずそれを使って湯船からお湯を撒けば、石鹸は落とせそうです。
「……うんしょ」
リヒットは非力なので、洗面器そのものを持ち上げるので精一杯ですが。
■リヒット > 洗面器を両手に抱え、ふらふらと力無く飛んでは湯船へと向かい、ほんのちょっぴりだけ湯を掬い、床へと撒くリヒット。
それで石鹸分を排水口へと押しやるべく、半ば這いつくばる体勢になって、ていねいに床を掃除していきます。
……リヒットは、石鹸で対処できない汚れには非力です。とくに石鹸それ自体に対しては。
そうやって何度も湯船と床を往復しながら、リヒットは手に持った洗面器に目をやります。
「……かたい」
この世界に来てから何度も目にした素材ですが、リヒットにとっては馴染みのないモノでもあります。
手触りは固く、ツルツルなものもあればザラザラなものもある。しかし金属ほど冷たくはなく、軽い方。
この洗面器なんかは、向こうに押し付けた指がにわかに透けて見えるほどです。
リヒットはプラスチックも知りません。強いて言うなら、友達のお母さんがおめかしに髪に着けていた『べっこう』が近いでしょうか。
……あれは高級品だと聞きました。この世界では違うのでしょうか。
見た感じ、洗い場の鏡の前に置いてある妙な形状の瓶、アレも同じ素材(プラスチック)でしょうか。
そしてもしかしたら、リヒットがいま身を包んでいる、拾い物の雨合羽も?
「……ぷー」
改めて、ここが『別世界』だと気付かされます。
■リヒット > 「はふぅ……」
ようやく、人が通りそうな箇所の床からは石鹸分を落とせた様子。さすがのリヒットも疲れました。
洗面器をカランと鳴らしながら元の場所に置くと、再び中空へと舞い上がり、改めて浴場の中を見回しながら、身体を休めます。
「……おふろ、かぁ」
湯船の方へ目が行きます。誰が湯を張ったのでしょうか、リヒットが侵入した時点からすでにそこでは波々のお湯が湯気を上らせていました。
熱すぎなければ、リヒットはお風呂は好きです。とはいえ冷たい水のほうが好みではありますが。
泳ぐためではなく、身体を休めるための・清潔にするための水浴び。普段とは違う水の使われ方に興味があるのです。
故郷ではよく友達の家におじゃまして、一緒に入らせてもらったものです。リヒットと一緒に入ると、身体がまったく臭くなくなるとか。
友達だけでなくそのお父さん・お母さんにも人気でした。
……とはいえ、ここは他所の家のお風呂。
いや実際には寮ですが、まだリヒットは寮生ではなく、ましてや正規学生にもなっていません。
このお風呂に浸かるのは失礼にあたるでしょう。
「……あっちっち」
なので、指先でその温度に触れておく程度に止めておきます。
■リヒット > とりあえず、ちょっとしたアクシデントもありましたが、リヒットの『おそうじのおしごと』は完了です。
「……せいかついいん、かぁ。わるくなさそう」
貴子さんに勧められた、生活委員とやらへの所属。少なくとも、リヒットの力を活かして『おしごと』をするなら、そこに勤めるのがスジでしょう。
当然、まだ正規学生でないリヒットは委員会所属でもなく、今の『おしごと』は『おしごと』ではないのですが。
『きれいにすれば、よろこばれる』のです。きっと、怒られることはないでしょう。
……リヒットの名誉のために言っておくなら、彼の故郷では男子と女子を分けて住まわせる『寮』の概念はありませんでした。
そして、『男湯』『女湯』という概念も。公衆浴場も含めて、基本的には混浴だったのです。
「帰ろうっと」
『おしごと』が終われば長居は無用。くるりと身を翻して換気窓に近づくと、先に拭った箇所をもう一度指でやさしく撫で、石鹸水を塗ります。
それに息を吹きかけ、夕空に小さなシャボン玉を無数に舞わせると、リヒットは侵入時と同様に自らにデコピンを打ち込み、消えてしまいました。
……そのまま、西風に乗って異邦人街へと帰っていったのです。
女子寮の大浴場はそれからしばらくの間、濃密な石鹸の残り香に包まれていたことでしょう。
ご案内:「大浴場」からリヒットさんが去りました。
ご案内:「部屋」に雪城 氷架さんが現れました。
■雪城 氷架 > 「ただいまー」
部屋のドアが開き、若干複雑そうな表情の氷架が帰宅する
返ってくる言葉はない
まぁ、鍵がかかっていたからみんな出かけているのはわかっていたのだが
靴をぬぎ、綺麗に揃えてリビングへとあがり、ソファのクッションに倒れこむ
別段疲れたというわけでもなかったが
なんか精神的にちょっとつかれた
「くーこも、静佳も、芙蓉もいないか……」
なんとなく、話し相手が欲しかった
とはいえルームメイトはみな外出しているようだ
■雪城 氷架 > ごろん、とそのまま横になる
制服にシワが寄っちゃうな、と思いつつもなんだか起き上がるのがおっくうで
話し相手
ルームメイトにもそれぞれの生活がある
皆かいる時間は年頃の女子4人、それは賑やかなものであるが、
こうやって誰もいない空間となると、広さが逆に寂しい
そういう時は零と電話で話すのが常だったものだが…
さすがに、あれを見たあとでは電話がしにくいというものである
ポケットから取り出したスマホをぽんっとソファの上に放り投げ、寝転がったまま天井を眺めてぼーっとする
ご案内:「部屋」に鈴成静佳さんが現れました。
■鈴成静佳 > ……おりょ? 鍵が開いてる……?
(ドアノブを下げながら、戸の向こうで呟く声。次いで、玄関をくぐって入ってくる人影は、短い髪に水滴を纏わせている)
お、氷架ちゃん! おかえりー! アタシ先にお風呂入ってきちゃったよ~♪
ねぇねぇ聞いてよ、大浴場がいつの間にか綺麗になってたんスよ!? 天井の隅っこまで!
大掃除とか改装が入るなんて聞いてなかったのにさー、いつの間にやったんだろうねー?
氷架ちゃんも早く入って見てきなよ!
(入ってくるも早々に、まくし立てる静佳。これもまたいつもどおりの光景か)
(……ちなみに、夏休み以降、静佳は夜もバイトに出ることが多いようである。平日も数日おきに夜間外出を取り、休日は昼間もどこかへ出向いているようだ)
(ルームメイトのための料理は欠かさず行っているようだが、作り置きして出て行くことが多い)
■雪城 氷架 > 「あ、静佳……」
お風呂に入ってたのか、と納得する
のろりとした動きでソファに上体を起こし
「そ、そうなんだ。夏休みの間にやったのかな…?あとで行ってみるよ」
いつもどおりの受け答えがなんだかできない
心のなかのもやもやが晴れないせいだろう、自分でそれはわかる
■鈴成静佳 > ……?
(普段からクールビューティー然として感情の読みづらいルームメイトではあると思っていたが、今日は特段に気分がすぐれない様子だ)
(首を傾げつつ、ちょっぴり湿った部屋着の上にエプロンを羽織り、夕食の準備としゃれこもうとしつつも)
……氷架ちゃん、なんか元気ないッスね。
アレっすか? アレの日ッスか? 言ってくれればお薬はいくらでも分けたげるよ?
アタシのは弱すぎて氷架ちゃんには効かないかもしれないけどね~。フフッ♪
(笑顔を浮かべつつも、エプロンは羽織ったままで氷架さんの傍に立ちすくみ、暖まった四肢をストレッチするように身体を揺すっている)
……それとも、学校でなにかあったッスか?
■雪城 氷架 > 「ち、ちがう…別に、何かあったって程でもないけど……」
ソファに座り込んだまま顔を伏せる
そう、何かがあったというほどではない
そんな大げさな話ではないのだ
とはいえ、今の自分がおかしいのはわかるし
静佳が自分のことを心配してくれているのも伝わってくる
何より、誰かと話をしたかったというのは間違いないわけで
「なぁ静佳………や、やっぱり男っておっぱいでっかい女のほうが好きなのかな……!?」
何か助けを求めるような真剣な顔から飛び出したのはそんな言葉だった
■鈴成静佳 > ……なぁんだ、やっぱり何かあったんじゃん!
(思えば、氷架さんがソファの上で悶々としている様子にはデジャヴュを感じた。そう、零くん……今の彼氏に告白するかどうか思い悩んでいた時も)
(そして今の質問。恋わずらいであることは十二分に察せられる)
……う、うん。おっぱい、ね。
(とはいえ。難しい質問だ。思わず俯く。静佳は氷架さん以上に「ない」ゾ!)
(……否、そうではなく、氷架さんがこの質問をするに至った理由を知らなくては、あるいは考えなくては)
……胸なんてさ、そんなの部品の1つッスよ。人間の女の子を作るうえでの、一要素。
(とりあえず無難に切り出したつもりで言ってみる)
おっぱいを好きになる男子もいるとは思うよ。でも、それ以上に、人間には好きになれる場所が幾つもあると思う。
身体の他の部位でもいいし、心とか、知識とか、そういうのだってある。
だからそう気にすることはないッスよ、氷架ちゃんも、アタシも。アハハー。
(エプロン越しに自分の平らな胸板を揉みしだきながら、間抜けな笑い声を上げる静佳。実際、静佳はそう思うようにしてコンプレックスをごまかしてきたつもりだ)
んー、何スかね。そんなにおっぱい大きい人でも見かけた? その子がモテにモテてたとか?
(胸を揉んだ手つきからスルリと腕を組み、当てずっぽうで聞いてみる)
■雪城 氷架 > 「ご、ごめん、自分でも変なこと聞いたって思ってるんだけど…」
何を口走っているのか自分、と言った具合に慌てる
しかしそんな問いかけにしっかりと、真正面から答えてくれた友達に、こちらもちゃんと向き直る
「いやぁ…見かけたっていうか…」
そんなボインが零と腕を組んで歩いているのを見たというか、とまでは流石に口にできず
「まぁ…そんなところ」
結局、お茶を濁すしかなかった
「あーあ、私がこれで巨乳だったらまさに完璧な美少女なのになー、もったいないなー」
そう言って再びソファにどふっともたれ掛かった