2015/08/20 のログ
ご案内:「浜辺(海開き状態)」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > ──夏。
もう八月も残すところわずかではあるが、午後の日差しはまだまだ夏が終わらない事を感じさせる。
だがしかし日の長さはやや短くなってきている様だ。
以前はもっと真上から照らしていた太陽が、今は少し西への傾きが大きくなってきている気がする。
……やっぱり、もうすぐ夏も終わるのだ。

東雲七生は海水浴場最寄駅から歩きながら、そんなことをふと考えた。

夏が終わるという事は、常世学園に通い出してもうすぐ半年になるという事である。
振り返ってみればあっという間だった様な、そうでもないような……。

ご案内:「浜辺(海開き状態)」に深雪さんが現れました。
東雲七生 > これから先どの様な出来事があり、自分はどのように変わっていくのだろう。

ふと、そんな考えが陽炎のように立ち昇る。
春から今まで、様々な事があって、様々な人に会って、自分はそこそこ変わってきたような、そうでもないような。
少なくとも、ある一つの大きな目標は出来た。それも最近。
今はその目標に向けて進もうとは思うのだが。

──もしかしたら、その目標が揺るがざるを得ない出会いもあるかもしれない。

「……はぁ。」

その起こるかもしれない不確定の未来に対して、小さく、溜息が零れた。

深雪 > そんな少年のすぐ後ろを付いていくように、少女が続いた。
この日差しに似合わぬくらいに真っ白な肌と、美しい銀の髪。
今日はその髪に、藍色のバレッタが付けられている。

「……あら、元気無いわね。」

小さなため息を聞き逃すはずもなく、少女は尋ねる。
少年の内心の悩みなど知る由もなく、首をかしげながら。

東雲七生 > 「はっ……あー、聞こえた?」

背後からの声に我に返って、苦笑いしつつ振り返る。
イタズラが見つかった子供の様に、小さく肩を竦めて。

「いや、さ。
 もうすぐ夏も終わるんだなーって思ったら、ちょっと気持ち下がっちゃってさー。」

そう理由を返して、ふたたび前に向き直る。
別に全てを話す必要はないと思ったし、嘘でも無い。

深雪 > 貴方の言葉を聞き、その表情を見れば…少女は僅かに目を細めた。
それから、くすっと笑って…

「…そう。」

小さく、そうとだけ言って頷いた。
この少年は嘘が吐けない。何か考えていたのだろうと、すぐに分かる。
けれど、話さなかったということは、話したくないことなのか。

「気持ちは分からないでもないわ……貴方は冬より、夏の方が好き?」

この少女としては珍しく、それを察してか、追及することはしなかった。

東雲七生 > 「んー?」

今度は肩越しに、視線だけ振り返って。
少女の問いに、少しだけ考えるように視線を宙に彷徨わせる。
そんな話を振ってくるなんて珍しいな、なんて思いつつ。

「いや、別に……特別この季節が好き、ってのはないかなあ。
 たださ、終わっちゃうのはちょっと寂しいなって。
 別にまた次の季節が来たらそんなのどっか行っちゃうんだけどさ。」

これで質問の答えとして足りてるだろうか。
よもや気を使われたなどと夢にも思わないでそんな事を少し心配したり。

深雪 > いつか、全てには終りがやってくる。
一日も、季節も、一年も、楽しい時間も、幸福も、命も、世界も。
少女はそんな果てしないものに一瞬だけ思いをはせて、そんな自分を笑った。

「仕方ないわよ、いつか終りは来るもの。
 …けど、今から海に行こうって言うのに、溜息なんて吐いてたら勿体ないんじゃなくて?」

潮風が舞う。波音が近付く。
少年は気づかないだろうが、少女がこうして水着を着てここに居るというのは…少女自身、信じられないくらいの変化なのだ。

東雲七生 > 「そっか、それもそうだよな。ごめん。」

確かにこれから楽しもうって時に溜息なんて、と反省する。
もうちょっと気の利いた返し方をすれば良かった、などと思うが
察しの良い少女と嘘の下手な自分では逆効果だろうな、とすぐに思い直した。

耳に届いた波音に、気分を上げ直して。
潮の香りを軽く吸い込むと前方を指差して深雪へ振り返って。

「ほらっ!見えてきた!
 今日はめいっぱい楽しもうぜ、深雪っ!」

なっ!と同意を求めながら、夏の日差しに負けないくらいの笑顔を向ける。

深雪 > もう少しからかってやればよかっただろうか。
いや、今日はどういうわけか、そういう気分ではなかった。
もちろん、この少年が慌てているところを見るのは、楽しいので…

「…私じゃ不足だったかしら?」

そんな風に、軽いジャブは入れておく。
けれど少年の表情は、そんな一撃を跳ね返しても余りあるほどの、笑顔。
釣られるように、少女もまた、柔らかく微笑んだ。けれど、

「えぇ………っと、ちょっと待って。
 今気づいたんだけれど、私、貴方の“名前”を知らないわ。」

返そうとして気づいた。苗字は教えてもらったが、名前は、この期に及んで、まだ聞いてすらいなかったのだ。

東雲七生 > 「いっ!?
 いや、べつに!そういうわけじゃ……むしろ俺なんかで本当に……」

途端に真っ赤になって慌て始めたが、
名前を知らないと言われて我に返る。

「えっ……?」

そうだっけ、と記憶を遡って。
確か初めて少女と出会ったのは一月半前の学生街で、あの時は確か……
……ちょっと嫌な思い出も一緒に開きかけたけどそちらは閉じて。

「そういや、そっか。俺、苗字しか名乗ってないっけ。
 七生だよ、ななみ。

 そっか、今まで「あなた」って呼んでたのは、別にそれが好みだった訳じゃなかったのか……」

うっかりしてた、と片手で頭を抱える。
あの時はそこまで気が回らないほど色々と思い詰めていたという事なのだろう。

深雪 > 「そうねぇ…貴方じゃ、釣り合わないかも知れないわねぇ。」
ちょっと背伸びをして、見下ろしながらくすくすと笑う。
真っ赤になっている様をこうやって見下ろすのは…素直に、楽しい。

「好み…それもあるわね。
 貴方、って呼んでおけば、名前を覚える必要も無いでしょう?」

理由は酷いものだったが、逆に言えば七生の名前は覚えるつもりがあるということでもある。
少年の内心に開きかけた扉については、少女もよく分かっているが…それには、まだ触れるつもりはない。

「七生…ナナミ……うん、いい名前ね。」

柔らかく微笑む。そして、少女は海の方へと歩き出した。
新学期が始まったこともあってか、海は以前より人影もまばらになったように思える。

東雲七生 > 「うっ……ですよねー」

役不足だろう、と薄々感じてはいたけど実際に言われるとそれなりにショックが大きかった。
何にショックを受けたのか分からないし、そもそもそんな筋合も無いのだけれど。
というか時折すれ違う人の視線が痛いのだ。昼過ぎに待ち合わせた深雪の家からずっと。

「まあ、確かに……何か深雪らしい理由だなー、それ。」

思わず苦笑する。あんまりだ、とも思うけれど。
そのあんまりな所が深雪らしいのだ。少なくとも、正体の一片を知ってから改めてそう思う。
……彼女は人間じゃないのだから。それくらいが丁度良いと。

「良い名前かなあ。女っぽくて、からかわれるからさー。」

あんまり好きじゃないんだけど。
そう呟いて七生は、防波堤を跳び越えて浜辺へと降り立った。

深雪 > 勿論それは冗談であったけれど、どうやら真剣に受け止められたらしい。
確かに傍から見れば、下手をしたら姉弟と見られてもおかしくないかもしれない。
防波堤を飛び越えた少年を見て、くすっと笑い…

「…でも、私は楽しいわ。」

小さく呟いた。独り言として呟かなければ、気恥ずかしかったのかもしれない。
正直…海水浴なんて、何が楽しいのかもわからない。
けれど七生に誘われて来たこの海水浴は、楽しいのだ。
もしかしたら、怪物である自分を受け入れてくれた相手に、心を許し始めていたのかもしれない。

「確かに女の子っぽい響きかもね…
 もし…貴方がゴリラみたいな男だったら笑ってあげるところだったわ。」

言いつつ、こちらも軽い身のこなしで防波堤を飛び越えた。

東雲七生 > 「ははっ、確かゴリラみたいな見た目じゃないのは救いだったなあ。
 けどまだナナオ、とかなら良かったのにさぁ。
 ……大して変わんないか。」

そう考えると男らしい名前って何だろう。
ちょっと悩みそうになったところで、先の自分と同様に防波堤を跳び越えてきた深雪に驚く。

「ちょ、ちょっと。流石に深雪がやるのは危ない……
 いや、俺より危なくないかもしれないけど。

 いやいや、でもやっぱ今は見た目女の子なんだし。
 変に着地失敗して足首挫いたら大変だぞ?」

無茶しちゃダメだろ、と至極真面目な顔で注意する。
だったら受け止めれば良いだろうに。

深雪 > 特に問題なく着地したのだが、少年はそんな少女を真面目に注意した。
少年を噛み砕けるような狼にも変身できる少女に…
「…………。」
…一瞬、ポカンとしてしまった。
けれどその後、笑いがこみ上げてくる。
「あははは、そうね、確かに七生の言う通りだわ。
 けど、ふふふ…私を心配してくれるの?
 ……貴方ってホントに、変わってるわよね。」
本来の姿であれば、こんな防波堤、跳ぶまでもなく跨げるのだ。
それなのに、少年は本気になって叱ってくれる。

「ナナ……ナナ…。
 もう“ナナ”って響きがそれだけで可愛いから仕方ないんじゃないかしら。」

東雲七生 > 「そ、それに水着でそんなことするんじゃありませんっ!」

万が一のことがあったらどうするんだっ、と慌てて付け足す様に告げる。
七生自身、ただの人間の立場で深雪に注意することが烏滸がましいくらいは分かってる。
分かっているのだけど、

「だってさあ……痛いんだぜ、足首挫くと。
 ……痛いのは嫌だろ?」

以前、狼となった彼女の姿を見たとき。
彼女の特徴の一つとも言えるリボンが、その身を焼いていたことを知ってしまって。
少しだけ悲しそうな顔で、深雪の顔を見上げる。
……出来るなら、それ以上の辛さなど味わって欲しくは無いから。

「うー……だよなぁ。
 諦めるしかないか……ナナミナーナーミ……」

深雪 > 「七生も水着じゃない。」
そういう事じゃないのは、分かっている。けれど少女はくすくすと笑った。
人間の取るに足らない戯言だと、聞き流すこともできただろう。
けれど、貴方の表情を見て、その言葉を聞いて…

「…そう、そうね。」
少女は静かに瞳を閉じた。少年の気持ちが、その感情が伝わってくる。
瞳を閉じたままに、少女は少年へ手を伸ばしてしゃがみ…少年の額に、自分の額を押し当てた。
少年が逃げられないように、伸ばした腕で少年の頭を、しっかりつかまえて。
「でも、私…強いのよ? だから、心配しないで。」
ゆっくり瞳を開けば、柔らかく、微笑む。
こんな慣れ親しんだ痛みより、少年が悲しい顔をしている方が、よほど苦しかった。

東雲七生 > 「そりゃ、そうだけど、お前とは惨事加減が違うの!」

というか惨事になるのは近くに居る七生だろう。
それはともかく。
突然額と額を合わせられて、「ふひゃぁ!?」と変な声が上がった。
少女が瞳を開ければ、見慣れた深紅が真っ直ぐに向けられている。

「……あ、ぉ、うん。」

この距離じゃ変に頷く事さえままならない。
喉を鳴らす様に返事をして、呆然と立ち尽くす。
傍から見ればどう映るかさえ、考える余裕も無い。

勢いで了解してしまったものの、それでも事ある毎に心配してしまうのだろうが。

深雪 > 少し強引だったかも知れない。
けれど、こうでもしなければこの少年は首を縦に振らないだろう。
そして、“痛み”など意にも介さないというもの、事実であった。

「ふふふ、従順な子は好きよ。」

普段通りに笑って、少年を解放する。
……周囲からの視線はだいぶ集めただろう。それを気にするような少女ではないが。
すっと身体を離せば、海に向かって歩き出し…

「行きましょ……七生は泳げるの?」

東雲七生 > 「………。」

流石に刺激が強過ぎたのだろう。
深雪が離れた後も真っ赤な顔で呆然と見送るだけだった。

……だがそれもすぐに我に返って。

「おっ、泳げるけど!
 そういや深雪こそ泳げんの?
 ……えっと、その……水着で。」

きっと泳いだ事があってもそれは人の姿では無さそうだ。
何となくそう思って訊ねてみる。と、同時に日差し避けとして羽織っていった薄手のパーカーを脱いだ。

深雪 > すこしやりすぎてしまったか。
少々内心で反省しつつも、貴方の素直な反応に、少女はくすっと笑う。

「えぇ…溺れることは無いと思うわ。
 もし危なくなったら、七生が助けてくれると思うし…。」

横目であなたの方を見ながら、くすくすと笑う。
こちらも肩から掛けていた薄手のストールを、そのまま地面に落とす。
走ったりはせずに、けれど、少女はたしかに、楽しそうな表情で。
貴方の方を振り返りながら、波打ち際へと、入っていく。

東雲七生 > 「人ひとり抱えて泳ぐ自信無いけどな!」

しかもそれが異性であれば尚更である。
だが陸上では情けないほど非力な七生でも、
水中でならあるいは、という事もあるかもしれないし、ないかもしれない。

「まあ、多分助けるけど。」

口ではどうこう言っても、きっと体は勝手に動く。
自身のその性根についてはある意味諦めてもいたし、信頼もしていた。
それ以前にまあ、深雪が溺れる姿が想像できなかったが。
傍で見ても楽しげにしている少女を見て、満足げに目を細めて。
その楽しみを少しでも長持ちさせるべく、少年もまた波打ち際へ向かう。

深雪 > 「世界で一番強い男の子になる予定の七生なら大丈夫よ。」

冗談半分、けれど、どこか、冗談ばかりでないような…
…それは少女も自覚していなかったが、僅かながら、願望が混じった。
もちろんそれは、自分以外の誰にも分かりはしないだろうが。

ビーチサンダルも脱ぎすてて、少女は臆することなく海へと入っていく。
波が打ち寄せて、足首くらいまでを海水で満たした。
「ふふふ…当たり前だけど…冷たいのね。
 あ…なんか、足の下の砂が不思議な感じ…。」
波が引いていくとともに、砂が流されて、初めて味わう不思議な感触。
とにかくこの少女にとってはすべてが初めての経験であった。
素直な感動を表現するような少女ではないが、確かに、楽しんでいるようだった。

東雲七生 > 「お、おう……!」

それを言われると弱いな、と内心苦笑する。
あまりにも大きな目標で、強いと言っても漠然としすぎてよく分からなかった。
しかし、今なら少し目指す「強さ」の方向性も見えてきた気がしている。

「これでもまだだいぶ温い方だぜ?
 海開きしたての朝一とか、そりゃあもう冷てえんだから。」

にっ、と笑みを浮かべて。
同様に裸足で海へ入っていけば、あっという間に膝下まで浸かり。
毎年の様に来て慣れているはずの海水浴も、共に来る相手が違えば何だか新鮮だな、と思う。