2015/08/21 のログ
深雪 > 「……でも、無理はしちゃ駄目よ。」
この少年は、少なくとも、冗談としては考えていないようだった。
世界で一番強い男の子、だなんて、思い付きで言ったに過ぎない。
けれど、少年は素直に、その言葉を受け止めてくれる。
この少年ならきっと、あのリボンを外そうとしてくれるだろう。
その先に何があるかなんて気にもせずに…いや、もしかしたら、全てを知った上でなお、外そうとするかも知れない。

「でも、私はこのくらいがいいわ。
 あんまり冷たいと…悪戯するのもちょっと、気が重いじゃない?」

言いつつ、少年に向かって足を蹴り上げた。
美脚である…ではなくて、一緒に蹴り上げられた海水が、七生に降りかかるだろう。

東雲七生 > 「大丈夫大丈夫!
 俺だって、誰かに心配掛けるような事は好きじゃないからさ!」

屈託ない笑みのまま大きく頷く。
まだどこを見据えれば良いのか分からないけれど、自分の進む先は間違いじゃない。
それだけは確信を持てる、と最近強く思える。だって俺は独りじゃないし。
だからきっと、大丈夫。そんな意味も込めた、『大丈夫』という言葉だが、少女はそんな事までは見透かせないだろう。

「──ほぇ?
 この期に及んでまだ悪戯とか何を──うわっ!?」

きょとん、と目を丸くして。
直後、降りかかる海水に驚いて手で顔を庇う。

深雪 > 見下ろすほど小さな少年が、少しだけ大きく見えた。
初めて出会った時に比べて、それは歴然とした差だっただろう。
その理由までは掴めなかったが…
「…期待して良さそうね。」
冗談交じりでもそう言えるくらいに、頼もしく見えたのだ。

「ふふふ、油断してちゃ駄目よ?」
にっこりと、意地悪な笑みを浮かべたまま、見下ろしています。

東雲七生 > 「うー、やったなこの……っ!」

もちろんやられっぱなしで居る筈も無く。
すかさず両手をそのまま水中へ突っ込んで、掬い上げるように深雪へと海水を飛ばした。
せっかくなので思いっ切りはしゃいでやろう、密かにそう心に誓って。

「そらっ、お返しだぜ!」

深雪 > 波打ち際ではしゃぐ学生たち。理解できないと思っていたその楽しさ。
けれど今、この2人は間違いなく、その風景の一部になっていた。

「きゃっ…!」
頭から海水を被って、けれど楽しげに笑う。
「ちょっと飲んじゃったじゃない…もう!」

反撃への反撃、しかし今度は少し力が入りすぎた。
蹴り上げた右足は水しぶきどころか、抵抗が無ければ軽い衝撃波でも起こしそうなレベル。
周囲の海水を見事に蹴り上げて…バケツで水を思い切り被せるレベルの反撃となりました。

東雲七生 > 「へっへーん。
 仕掛けて来たのはそっちなんだから、反撃くらい考慮して──

 ……うそだろ。」

深雪の楽しそうな姿を見て、かつて理解できないと言っていたことが嘘の様に感じられた。
が、すぐにそれを自分で否定する。彼女は今「知った」のだろう。
自分がその事の助けになれた事が、少し嬉しかったが──

それも少女が足を振り上げるまでだった。
迫りくる水の量はどうみても人が蹴り上げたレベルじゃない。

「いやちょっとそれはお前ぇぇぇっ!?」

見事に頭から引っ被った。
せめて手で掛け直せ、とも思ったが。
それだと強調されるから目のやり場に困る。どこがとは言わないが。

深雪 > 海での遊びを、水遊びそのものを楽しんでいる部分もある。
けれどそれだけではない、少女が楽しんでいるのは“友達と遊ぶ”ということ。
貴方が海水を頭からかぶれば、ばしゃばしゃと海水をはねさせながら、近くへ寄り…
…貴方が尻餅でもついていたなら、のぞき込むように、かがんで見た。
結論、強調されている。

「私の勝ちってことで良いかしら?」

本人はその体が武器であることを知っているが、今この瞬間は自覚が無い。それがまた、厄介である。

東雲七生 > 「たぁ~……ああもう、少しは加減ってもんを……」

案の定水を被った際に波に足を取られて尻もちをついていた。
水の滴る前髪を掻き上げながら、やや不満げに顔を上げれば。
その目に入ったのは、見慣れた深雪の顔と、普段は制服に隠れている豊かな──

「……っ」

ぽすん、と顔が赤らんで目を逸らす。
これでは立ち上がる事もままならない。

深雪 > 「あら、七生にはちょっと強すぎたかしら?」

くすくす笑いながら貴方を見下ろすが…貴方は目をそらしてしまった。
すぐにはその理由が分からず首をかしげていたが…

「あぁ……そういうこと。」

…気付いてしまった。意地悪な笑みを深めて、右手を自分のバストに沿えた。
わざと、少しだけ強調するように寄せてみる。
普段ならこんなことはしないだろうが、露出の多い服と海のテンションがそうさせてしまったのかもしれない。

東雲七生 > 「………!」

ちら、と逸らされた視線が動いて再び逸らされる。
それを三度繰り返して、耳まで真っ赤になっていた。

強過ぎる、というなら水掛けよりもこっちの方がよっぽど強い。
近頃はなだらかな異性と関わる事が多かっただけに尚更意識が向かう。
が、悟られて不愉快に思われないだろうかという心配との板挟みであった事も事実。
──それなのに、挑発するかのような行動に出られて。

「……ちょ、ど、どういうこと!?」

ぐらっとしたが、僅かばかり残ったプライドで噛み付いた。

深雪 > 不愉快に思うくらいなら水着なんて着たりはしない。
それに…人間の男がどういう反応をするかくらいは、知っている。
もっともこの少年の反応はとても純粋で、可愛らしいものだったが。

「だって…私の胸を見て、目、逸らしたでしょ。」

くすくすと笑いながら、自分で自分の胸を見下ろした。
胸元は強調され、水着はそのラインを際立たせている。

「そういうところも、可愛らしくて好きよ?」

東雲七生 > 「………。」

バレてた……。
真っ赤な顔のまま、小刻みに震えるしかできない。
否定をしてもきっと即座に嘘だと見破られるだろうことは自分でも分かる。
なので黙秘だ。しかしそれは無言の肯定でもある。
だって態度が何よりも雄弁に語っているのだから。

恥ずかしくて顔から火が出そうとはまさにこの事だ。
しかし、言われっ放しで良しとしない程度には七生にも意地がある。

「べ、別に。……毛のモフモフの方も好きだし。」

本当なら「方が」と言うつもりで「方も」と言ってしまう程度の意地だったが。

深雪 > 黙秘権を行使する少年を見下ろして、にっこり笑う。
胸を強調するのをやめて歩み寄り、少年と同じように浅い海に座り込んだ。
このまま苛めすぎてしまっては駄目だ。可愛らしいのでつい、やりすぎてしまう。

「…ありがと。」

意地を張って反撃した七生の言葉を、少女はそんな言葉で返した。
それはフォローでもなんでもなく、心からの言葉だっただろう。

「正直に言うと結構心配だったのよ…貴方が怖がらないかどうか。」

それを、七生は受け入れるどころか…好きだと言ってくれる。
それが七生の命を繋いだともいえるかもしれないが。

東雲七生 > 隣に座る少女に、合わせる顔が無いと顔を背けて居たままだったが。
その耳に予期しない感謝の言葉が届けば、驚いたように振り返る。

確かに本心から告げたのだったが。
まさか礼を言われるなんて。そんなつもりでは……

「いや、そんな礼なんて……」

しかし続く言葉に口を閉じた。
やっぱり、と内心思う。
あの日、狼の姿を晒すときに感じた、どこか怯える様な気配。そしてそれに基づく一つの予想。
そしてそれはたった今核心に変わった。

「やっぱ怖がられてたのか?

 まあ、そりゃあでっかい狼だもんな。普通怖いだろうよ。
 でも、あん時も言ったけど、どんな姿でも深雪は深雪だろ?

 ダチのこと怖がる奴がどこに居るんだっつーの!」

言ってるうちに何だか気恥ずかしくなって。
照れ隠しに、ちょっとだけ格好つけて、歯を見せるように笑みを浮かべた。

深雪 > 「貴方みたいな友達は居なかったの。
 だから…あんな風に、目の前で正体を明かしたのは、初めてよ。」

相手がどう感じるか、そんな不安とともに、初めての事に対する不安もあったのだろう。
まさかそんなに自分自身が動揺してしまうとは、思いもよらなかったが。

「あの姿は怖がられたし…剣を向けられたこともあるわ。
 けど、私は強いの…だから、ね。」

怖がらせたくなかったのか、直接的な表現は避けた。
だが、あの狼に剣を向けた者の末路は容易に想像できるだろう。
けれどまさか、この少女が嬉々として、いたぶるように人間で“遊んで”いたことまでは、想像できないかもしれない。

この娘は正しく、怪物だったのだから。

東雲七生 > 「そう、だったんだ……。」

それは意外だった。
いや、冷静に考えてみたら納得のいく話でもあるな、と思わなくもないが。
そんな告白に、何度か頷いて。そして続いて語られる事も、神妙な面持ちで最後まで聞く。

剣を向けた者の末路は認めたくはないが想像はついた。
流石に根本の凶悪性までは見抜けなかったが。
それでも、姿かたちが獣だということは。
おそらくは、中身も、と想像は出来た。


「あのさ、深雪。

 深雪が過去、どんな奴で、どんな目に遭って、どんなことをして来たのか、全部聞くつもりは無いよ。
 少なくとも、“俺のダチの深雪”はそういう奴じゃないと思うし。

 けど、もし。もしさ。  ・・・・・・・・・
 あの姿でも、その姿でも何かしたくなった時。

 その時お前は、お前をとめて欲しいか──?」

一つだけ、確認しておきたかった。
あの姿の、爪を、牙を、少女が振るいたくなった時に。
その時、自分はどうしたら良いのか。
自分に──どうして欲しいのか。

深雪 > 少年の言葉に、ドキリとした。
あの瞬間、確かに、七生を玩具として見ていた自分も居たのだ。
そしてそれからも炎はくすぶり続け…やがてそれは、名も知らぬ暴漢へと向けらえた。
七生の問いに、少女は沈黙する…やがて、静かに口を開いた。

「ううん、駄目…駄目よ。
 貴方はきっと私を止められない。貴方も怪我をしてしまうわ。」

それから、この間と同じような、ほんのわずかではあるが、怯えるような目。

「……昔の私はきっと、貴方で遊びたいって思うはず。
 貴方はどんな顔をするんだろう、とか…貴方は、どんな抵抗をするんだろう…とか。
 だから、駄目……絶対に、近づかないで。」

少女は明らかに迷っていた。
止めてほしいという思いもあるが…自分の手で大切な友人を切り裂きたくはない。

東雲七生 > 少女が話している間。
真紅の双眸は確りとその目だけを見つめていた。
きっとこの少女は嘘も隠し事も自分より上だろう。
それでも、その言葉の内にある感情を、時折幽かに浮かび上がるそれを七生は見落とさない。

「……そっか、分かった。」

うん、と一つ頷いて。
迷っている。揺らいでいる。少女から見つけられたのはそれら。
きっと語る事も真実だろう。それも疑う余地は無い。
でも、見つけてしまったから。

「上等だよ。
 どんな顔でも、どんな抵抗だってしてやろうじゃん。
 そんで、絶対にお前の事止めるからさ。

 ……その為に俺は、強くなる。世界で一番、お前より、さ。」

だから、信じてみろよ。
笑顔でそう告げ、少年は小指を立てた手を差し伸べた。
たとえ化け物でも、友人には変わりないから──と。

深雪 > 「なっ……。」
少年は、少女の思い通りには動かなかった。
どうして、こういうときだけ、鋭いのだろう。
どうして、こんなに、大きく見えるのだろう。
少女の瞳は貴方の瞳をまっすぐ見つめ…そして、小指へと向けられた。

「貴方、本当に変わってるわ……どうしようもないくらい。」

少年の小指に、自分の小指を絡める。
そんな僅かな面積なのに、少年の温かさが伝わってくるようだった。

「けれど…ありがとう、そんな風に言ってくれて…。」

東雲七生 > 「にひひ。」

絡められた小指。
一度強く結んだそれを解くと、子供っぽく笑みを浮かべて。

「ちょっと変わってるくらいじゃねーと、この島じゃやってらんねーって!」

そう言って立ち上がる。まだまだ日は高い。

「どーいたしまして!
 ほら、遊ぼうぜ、深雪!今日はめいっぱい楽しむって言ったろ!」

数歩、水飛沫を上げて駆けて。
そして振り返ると、深雪を手招いた。まだまだ遊び足りないだろ、と。

深雪 > 七生が立ち上がっても、少女はまだ茫然としていた。
手招きされて初めて、はっと我に返る。

「………………。」

自分より強くなる。なんて、そんな事無理に決まっている。
そう吐き捨てるべき言葉だ。人間の戯言だ。
けれど、少女の胸には、七生の言葉が確かに刻まれていた。

「えぇ…そうね。七生、かき氷食べましょう。」
ゆっくり立ち上がって、促されるままに歩み寄る。
……夏はまだ、終わらない。

ご案内:「浜辺(海開き状態)」から深雪さんが去りました。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」から東雲七生さんが去りました。